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「――私、すぐにドンドルマに帰らなきゃならないの」




早朝、皆が朝食を取りにギルドに集まった時のこと。

大きな円卓を囲むように座り、それぞれが注文したメニューに舌鼓みを打っている最中だったが、シャワの唐突な一言に皆はギョッとして顔を上げた。

「……あとバルスも一緒に。しばらくは狩りも出来そうにないわね」

「そんなっ!?」

突然の告白に私―アクア―は、噛み切ろうと格闘していた『頑固パンとレッドチーズ、砲丸レタスの激辛サンドイッチ』を思わず取り落とすところだった。

「霊山での件についてまだ落ち着いて話も出来てないのに……もう少しだけ何とかなりませんか?」

アマツマガツチの一件の後、ハンマーの捜索やダイガスの来訪、ギルドへの報告など慌ただしい日々が続き、今朝やっとまともな朝食を取れたところなのだ。
彼女もそれは分かっているようで、おもむろに立ち上がると私たちに深々と頭を下げた。

「ごめんなさい。それは分かってるのだけれど……一刻も早く戻って指揮を取らないと駄目なの。…………守る人間がいないとあの家はまた……」

最後の方は小声でよく聞き取れなかったが、テーブルを向いた彼女の顔には焦りの色が浮かんでいた。

昨日、父親に向かってあれだけの啖呵を切ったばかりなのだ……今、この少女が背負っている責任には計り知れないものがあるのだろう。

「そういった事情なら仕方ないですね……。二年後への対策の、方向性だけでも話し合っておきたかったんですが……」

「ん! ……っあー、それなんだけど、ちょっといいかな?」

「何ですか? ハンマーさん」

先程までワイルドベーコンをその名の通りにがっついていたはずの彼女が、タイミングを見つけたと言わんばかりに真面目な顔をして立ち上がった。
――が、塩ミルクを急いで流し込んだのが原因だろう、口元には真っ白なひげが見事に生え揃っている。


「確かに二年後に何が起こるかは分からないけどさ、まだ時間は十分にあるんだ。だから今ここでどうこう考えるよりも、いっそもう今まで通りに行動したほうがいいんじゃないかな?」


「そ、それは話し合いなんかしないでもう解散しよう……ということですか?」

あまりに突拍子もない発言に思わず愕然としてしまったが、ハンマーは「そう!」と更に続けた。

「そんで二年後にまた『ここ』に戻ってくるのさ」

「ユクモに……?」

「私らがここで悩んで分かるような問題ならさ、それこそ悩む必要なんか無いと思うんだよね。二年間も気なんか張ってられないし、皆が各自で行動してれば気付くことも出てくるはずだしってことでこれが一番いいと思うんだけどどうかな? フレア達だって、何時までもここにはいられないでしょう?」

「……」

彼女の言葉にはしっかりとした説得力があった。その言葉に勇気付けられ、肩が軽くなった気もした。
まだ遠い未来に悩んで、足踏みしてしまうのは確かにもったいない。


しかし言葉では表せない、何か妙な違和感を覚えたのも確かだった。

しかし他の人たちは微塵もそんなことは思わなかったようで、賛成の声が次々と上がり始めた。


「そうなると俺らの情報収集はギルドの仕事をしつつになるか。だけど俺も忙しい身だからなぁ……なんか分かったら教えてくれると助かるわ」

頭を掻きながら、少し眠たげな声でそう言ったのはフレアさんだ。
先程までお皿に乗っていた七味ソーセージは綺麗に無くなっていたが、嫌いなのか付け合わせのミックスビーンズだけは隅によせられている。

「またフレアはそうやって楽しようとするんだから。休暇目的だった私たちが言っても信用ないっしょ!」

真面目な話をしているフレアさんに嬉々として茶々を入れるのはチョモさん。
真っ赤なシモフリトマトを指先で回して器用に弄んでいるのが何故かよく似合う。

「うっせ! チョモよりは仕事してるわ!」

「豆を残してるお子様には言われたくありませーん」

「このやろ……っ!」

「あのっ……二人とも……」

これではまた話が脱線してしまう……。

そんなことを危惧していたら、ハンマーさんが「まぁまぁ」と仲裁に入ってくれた。

「夫婦喧嘩は後にしてもらいたいもんだ。ねぇ、アクア?」

「な、なんで私に振るんですか!?」

そんなやり取りで場はすぐに収まってしまうのだ。
本人には言わないが(ていうか絶対言いたくない)、やっぱりこの人はリーダーに向いてると思う。

「……でもフレアの言う通り、確かに情報交換くらいはしておきたいね。何か分かったらギルドを通して連絡すること! これ絶対ね!」

「シャワちゃんも二年後には来てくれるかな?」

その問い掛けに少女は力強く頷いて見せる。

「ええ、必ず間に合わせるわ。ね、バルス?」

「………」

「……ちょっと? ねぇ聞いてる?」


返事がない。ただの屍のようだ。

「……バルスー?」

シャワは彼の顔の前で手を振ってみたり、肩を揺さぶったりしていたが、しばらくして困惑顔でこちらを向いた。

「………何故か座ったまま気絶してるわ」

道理で大人しいはずである。

「何でそんなことに……?」

「ったく、どうしたってんだ…っておい、これもしかして……!」

フレアは固まっている彼の手元の料理を見て表情を青くさせた。

「このオッタマケーキ……材料、間違ってるぞ……」

確かにバルスが手をつけたであろうオッタマケーキには、普通とは『ちょっと』違う着色がなされていた。
明らかに人が食べてはいけない色をしている。

「昔でチョモに喰わされたことあるやつだ……何というか……意識の遠退く味がするんだよ」

見るのも嫌なのかテーブルから顔を背けた彼の横で、チョモさんは「懐かしいなぁ……」と何故か誇らしげに腕組みをして頷いていた。

「店ではまず出さねぇ……作ったのは誰だ?」

「……私」

恐る恐るといった様子で手を上げたのは金髪ロングの少女。

シャワちゃんだった。

「シャワちゃん! 私だって最近はちゃんと出来るようになったんだから! 練習すれば大丈夫だよ!」

「私……チョモさんより下手なの?」

若干泣き顔になって動揺するシャワ。
いやそれは流石に失礼じゃ……。

「いや、チョモ……お前今も大差ねぇから」

「嘘ぉ!?」

「嘘な訳あるか! この前だってなぁ――――!」

なかったようである。



――その後も朝の食事会は盛大盛り上がりを見せ、笑い声はがギルドを抜けて村中に響き渡った。


皆が別れを惜しみながら、それぞれの道を踏み出したのはそれから少し後の事。

そして驚いたことに、この食事会から二年の間、皆が一同に揃うことは一度もなかったのだ。

当時はそれを寂しく思ったりもしたけれど、
皆、何となく二年後の再開を大事にしたかったのだろうと、今になっては思う。

解散した後、私とハンマーさんは一緒に各地を回りながら情報を集め、積極的にクエストをこなす日々を過ごした。
その中でも私は戦法や技術を身に付けることに専念し、ハンマーさんは情報収集や他のハンターさんへの根回しをしてくれた。

でもそんな話はここでは割愛して、そろそろ次の話に移りたいと思います。



長いと思っていた二年も毎日を必死に過ごしていると案外短くて、
気付けばユクモに集まる日は間近に近づいていました―――。






私はこの出来事を決して忘れることはないでしょう。

深く、深く胸に刻み込むべき、この導かれし物語を――――

「んん~、朝風呂って最高!」

「……ここ一週間ずっとそれ言ってませんか?」

早朝、ユクモ村の大浴場には2つの声が響いていた。

「朝の日光を浴びて煌めく湯煙、瞬く水面、輝く私。この良さは最近の若者には分からないか……」

「やれやれ」とわざとらしく溜め息をついたのは、薄桃色の髪を肩下まで垂らした女性。
通称はハンマーさん。
本名はマリディア。

しかし彼女は本名で呼ばれるのを酷く嫌がる。

「失礼な! ここは私の故郷ですよ? 温泉の良さは誰よりも分かってるつもりです。煌めく湯煙、瞬く水面、もっと輝く私! 素晴らしいじゃないですか!」

飛沫を飛ばしながら立ち上がり、憤然と言い放ったのは他でもない、私ことアクアです。

ユクモを離れてから二年が経った……と言っても容姿が劇的に変わったなんてことは無く、二人とも髪が少し伸びたくらい。
やれ『何年後……』などと書くと急成長を遂げた主人公達が颯爽と現れたりします。
しかしそんな話は物語の中だけ、現実はこんな程度です。

「さてと、何時もならもう上がってるとこだけど……今日はもう少しのんびりしようか。温泉にゆっくり浸かってられるのも、これが最後かもしれないしね」

「……そうですね」

そう、今日は皆と交わした約束の日。
待ちきれなくて一週間前からユクモに来ていた私たちは、もはや恒例となっていた最後の温泉を満喫している最中なのでした。

「アクア、緊張してるでしょ?」

「……ちょっぴり、です」

「いいよ、私だって不安だ……でもやるべきことは全部やってきた。そこだけは自信に思おう」

鹿威しが小気味良い音を立てる中、ハンマーさんは今までのことを思い返すように目を瞑った。


「……ですね」

そうは言ったものの、日増しに強くへばりついたこの感情は、最後の時まで拭えはしないだろう。

『彼女』が世界を破滅に導くと言ったのは今日この日。
もう何時何が起きるか解らない……そんな瞬間を過ごしてるかと思うと胸は締め付けられるように苦しくなり、温泉で暖まってるはずの体には震えが走る。

……でも心には諦めの言葉なんかは微塵も入り込んでいない。
何が起きても動じない覚悟は、この二年間でしっかりと培ってきたから。

だからここで言えるのは一つだけ。

「絶対に負けるわけにいかないですもんね!」

「……その意気よ、頑張りなさい」

「きゃ――――!?」

私の背後、無人な場所からの声に二年間の努力は早速無に還された。

「お、アンさんじゃん。もう来てたんだ」

湯煙の中から現れたのは、ライトグリーンの長髪と鼻から下を覆ったタオル (後から聞いたら温泉仕様とのこと) が特徴的な女性だった。

「……思いの外、早めに来れてね」

「なるー。あ、この前はありがとね! 大丈夫だったでしょ?」

「……ええ。問題無いわ」

「ん、じゃあ手筈通りに?」

「……えぇ、もう外に」

「ちょ、ちょっと! 置いてきぼりにしないでくださいよ」

「あぁ、ごめんごめん。ほら、この前紹介するって言ってた『その道のプロ』だよ」

「あぁ! 『あの』!?」

この一週間で何度も耳にしていた言葉だ。

「じゃ、じゃあ『伝説のハンター』なんですね?」

「……そんな大袈裟なものじゃないわ。私はアン、話は聞いてるわ……よろしくねアクア」

「はい、こちらこそ……」

そう言ってからハッとする。

「このタイミングでここに来たってことはもしかして……」

「そ、アンさんも今回の件に協力してくれるんだ」

「……利害の一致ってやつね」

水面に自分の髪を浮かべて遊びながら彼女は答える。

「あ、あのアンさん!」

「……何かしら?」

ハンマーさんから聞いた彼女の逸話をどうしても聞いておきたかったのだ。

「ボウガンをその場で組み替えて狩りが出来るってのは本当なんですか?」

「……えぇ、そうよ」

「わ、凄い! じゃ、じゃあ狩りでは新鮮な弾を使うために毎回ジャギィとかを解体(バラ)してカラ骨を補充してるってのも本当なんですね?」

「…………え?」

「アクア! ……ちょっと!」

何故かハンマーさんが焦った声で何かを言っていたが、ちょっと興奮して耳に入んないです。

「あと、イビルジョーがアンさんを見ただけで服従のポーズを取ったり、竜の卵の納品クエストの時にはリオレイアが自ら卵を差し出したとか!」

「……………」

「わーわーわー!! アクア――!!」

「そのマスクの下には伝説級のモンスターが封印されてて、それを外すと世界が滅びるんですよね……凄すぎます」



「……マリディア?」

「ちょっ! 何でその名前……」

ハンマーさんはそれ以上言葉を発することは出来なかった。

「……私の情報網を甘く見ないことね。……それよりも、あの子にあることないこと吹き込んだのは……貴女よね?」

「い……いやぁ、ソノデスネ……じょ、冗談っていうか……」

私は目を疑った。
青ざめているハンマーさんの顔から数センチ横、背もたれにしていた岩には先程まで無かった大きな窪み(くぼみ)が出来上がっていたのだ。


(あながち、さっきのも嘘じゃないのかもしれない……)


「……次はこの『水鉄砲』、当てるわよ?」


「すみませんでしたぁ!!」


「……以後慎むように」


そして私は水中土下座というものを初めて見たのでした。




      



「アクアー。私もう嘘も冗談も言わない真っ当な人間になるよぉ……」

「はい。無理でしょうがそれがいいと思います」

などと軽口を交わしながら私たちは温泉を上がり集会所に向かっていた。

先に上がった(途中でいつの間にか消えていたので多分そうだ)アンさんの話だと、他にも助っ人をギルドに呼んでいるそうなのだ。

「一体どんな人なんですかね?」

「アクアもすぐに分かると思うよ」

「え? それってどういう……」

「あ、船酔いのアクア姉ちゃんじゃん! ハンマーの姉ちゃんも!」

私が言い終わる前に一際明るい声が響く。
声の主は癖っ毛の銀髪に尖った耳をした見覚えのある少年だった。

「ヨルヴァ君!? 何でここに?」

「アンさんに呼ばれたんだよ。ほら、皆も一緒だぜ?」

「アクアさん、ハンマーさん! 先日は……」

「おぅ、二人とも! あの時は世話になったな!」

モモさんの挨拶を食い気味に、吠えるような声を出したのはハルクさん。

「ハルク殿! 台無しではないか!」

「そうだよ! おっちゃん声でかいんだから」

「おぉ! すまんすまん!」

「……皆さん相変わらずのようで何よりです」

でもこの三人がいるだけで雰囲気がグッと暖かくなるのだから不思議だ。

「それじゃ皆さんがアンさんの言っていた助っ人なんですね?」

「うん、話はアンさんから聞いてるよ。任せて、どんな奴が出たってオイラ達がいれば百人力さ!」

「皆さんには返しきれないほどの恩義があるからな。精一杯助太刀させてもらいます」

「なに、久々に腕が鳴るってもんよ! なぁヨルヴァよ?」

「そうそう! オイラ達の新コンビネーションを見せてやるぜ! ね、モモ姉?」

「うん、任せてくれ!」


何があったかは分からないが、三人の絆が一週間前よりも深まっているように見えた。
きっとこれがアンさんの手腕の成せる技なのだろう。

「で、アクアの姉ちゃん! これから一体何が起こるんだ?」

「えぇっと……それがね、まだ分からないの」

やる気に満ちた少年には悪いが、今はまだそうとしか答えられなかった。
外の景色は至って平穏そのもの……もっとも、まだメンバーが集まっていない内に何か起きても困るのだけれど。




「……誰か来たわね」

それからしばらく、待機という名目で雑談を繰り広げていた六人だったが、不意にアンさんがドアの方に目を向けたのをきっかけに静まり返った。

確かに遠くから尋常ではない足音が聞こえていた。
まるで遠方から休まずに竜車を飛ばして来て、こちらへ急いで駆けてくるような足音。
それは迷うこと無くギルドの入り口まで辿り着き、ドアを勢い良く開け放った。


「おい! 全員揃ってるか!? 緊急事態だ!」

「フレアさん! チョモさん!」

肩で息をしながら飛び込んできたのは、赤髪と白髪の長髪を揺らした男女。
ギルドナイトの二人だった。

「のんびりしてる場合じゃねぇ! やられた!『こっち』じゃなかったんだ!」

「数時間前に私たちが待機してた港町に連絡が入ったの……正体不明の巨龍が二体、シュレイド城とラティオ火山の奥地に突然現れたって」

「それがもしかしてあの時の……!?」

「間違いねぇ。今、俺たちの騎士団がシュレイド城の方へ回ってるが圧倒的にG級ハンターが足りないんだ」

「なら早く加勢にいかないと!」

「でもシュレイド城や火山って向こうの大陸だろ? 今から行って間に合うのか……?」

「心配無いよ、二人とも。もう手は打ってある」

ハンマーさんが私たちをなだめるようにニヤリと笑った。
……まるでこのことを予知していたかのように。

「……一ついいかしら?」

「どうしたんですか? アンさん」

今まで黙って話を聞いていた彼女の口から出た言葉は、更に事態を重くさせるものだった。

「……その報告が真実なら、出現する龍は二体じゃないわ。三体よ」

「そんなバカなっ! その辺のモンスターじゃ比べ物にならない大きさだぞ? もう一匹いたら気付かないわけがない!」

「……場所が『古塔』で、まだ『出現』してないなら?」

「なっ……!?」

フレアを見据えた、アンさんの目が怪しく光る。

「……『ミラボレアス』。霊山の頂で赤衣の女がそう言ったのよね?」

「あぁ……確かにそうだ」

「……ミラボレアスという名はそのまま運命の戦いを意味するの。この名が初出するのは、古シュレイド王国の創設者が裏切りのうちに命を落としたとき、いずこかより現れた赤衣の詩人の詠じたという唄の中においてよ」

そしてアンさんは淡々と古い言葉を紡ぎだした。

『数多の飛竜を駆逐せし時、伝説はよみがえらん。 数多の肉を裂き、骨を砕き、地を啜った時、彼の者はあらわれん。土を焼く者、、鉄を溶かす者、水を煮立たす者、風を起こす者、木を薙ぐ者、炎を生み出す者……その者の名は「ミラボレアス」。その者の名は、宿命の戦い。その者の名は、避けられぬ死。喉あらば叫べ……耳あらば聞け…………心あらば祈れ。ミラボレアス……天と地とを覆い尽くす彼の者の名を。天と地とを覆い尽くす、彼の者の名を。彼の者の名を』

「その言葉……あの時の……」

アンさんの言葉は、あの時赤衣の女でありハンマーの姉である『マリアン』が唄ったものと同じものであった。

「……私は昔からミラボレアスについて調べて回っていたの。古い文献によればミラボレアスは全部で三体。『黒龍』『紅龍』『白龍』が存在しているわ」

「白龍……」

『白龍』。
その言葉が何故か心に突き刺さった。

「白龍は……塔にいるんですね?」

アンさんは私の言葉に驚いたように目を見張ったが、やがて納得するように頷いた。

「…………そうよ」

「なら私は塔に行きたいです! 行かなきゃならない気がするんです!」

「アクア、焦る気持ちは分かるけど少し落ち着いて。今から三ヵ所に全員を割り振るから……」

「ハンマーの姉ちゃん、そんなの後にして早く港に向かおうぜ? 船しか行く方法ねーんだからさぁ」

「ふふん、ヨルヴァ。手は打ってあるって言ったでしょ? もうじき着く頃なんだけどな」

「着くって何が……?」

ヨルヴァが小難しそうに首を捻っていると、外から村中に響くような大音声が響いたのだ。

『皆いるー? 遅れたわね!』

「な、なんだ!?」

驚いて皆が外に出ると、村の上空には巨大な船が浮かんでいた。

『ドンドルマ発、ユクモ行き! 気球船「シエラ号」、只今到着よ!』

鳴き袋を加工して作られた「拡声器」で上空から声を響かせる金髪の少女。
イーゼンブルグ家当主、シャルワナ=イーゼンブルグ……シャワの堂々たる登場であった。
気球船が村に着陸してから数分。

異変はすぐに分かった。



「んしょ……っと」

まず、気球船から飛び降りたのはシャワちゃんでした。
前と同じ黒色ブナハのスカートを軽く押さえ、梯子も使わずに猫のようにしなやかな着地をしてみせた彼女。

史上最年少のG級ハンターで、イーゼンブルグ家の当主。

そんな物凄い肩書きを背負いながらも、私よりも年下でしっかりしている女の子。

私の目の前に降り立ったのはそんな頼もしい友人だった。

「久しぶり、アクアさん!」

二年ぶりに聞いた声は、変わりなく透き通った色をしていた。
落ち着いた物腰で隣にいたハンマーさんとも会釈を交わし、申し訳なさそうな顔を浮かべる。


「遅れてごめんなさいね。少しアクシデントがあって、しかもドンドルマはもう巨龍、巨龍の大騒ぎ……抜け出すのに苦労したわ」

「向こうは……そうでしょうね」

突如として現れたであろう2体の巨龍。
それが向こうの人々にどのような混乱を招いてるか、考えただけでも恐ろしい想像が出来てしまう。


「それにしても……まさか気球船で来るなんてビックリしましたよ」

「あら、聞いてなかったの?」

「え?」

「ハンマーさんったら相変わらずね……」

「あはは! 誉めないでよもう」

何故か照れ笑いするハンマーさんに対し、呆れながら苦笑いするシャワちゃん。

この二年で一番、いい意味で変わったのは彼女かもしれない。

「酷いですよハンマーさん。分かってたなら教えてくださいよ」

「えー、だって驚かせたいじゃん? ねぇ?」

「……私をグルにしないで欲しいわ」

「アンさん並みに冷たいよ!?」


もはや『どっちが年上か?』なんて問われても、身長以外に言い張れる部分が無いかもしれない。

……いや、身長もかなり迫られている。

だとするとスタイルとかの勝負に――って私は何を張り合ってるんだろう……。


「あっれぇ!? もしかしてシャワの姉ちゃん!? どうして気球船なんかから!?」

私がそんなことを考えていると、それをまるごと吹き飛ばすような声が後ろから響いてきたのだ。


「ヨルヴァ!? 凄い久し振りじゃない! ……背は伸びてないようね」

「せ、背はどうだっていいだろ!? でもかなり逞しくなっただろ?」

「うーん……まぁそうねぇ。とりあえず元気にはしてたみたいね」

「もちろん! お陰で元気も元気さ! ようやく仲間も出来てさぁ――」


驚いたことに二人は知り合いのようだ……一体いつ知り合ったんだろう。


「――ってそういえばバルスの兄ちゃんは? また殴られて寝込んでるとか?」

「今回は違うわよ!」

……ホントにどんな知り合い方したんだろう。

「……んん、まぁそうだったら良かったんだけど……」

困惑したように顔を曇らせ、気球船を見上げるシャワ。

「『あれ』、どうしたらいいか……」


――ここで冒頭の話に戻ります。

「……え?」

「何だ……あれ?」


気球船を囲んでいた村人の中でもざわめきが大きくなる。
気球船の梯子を伝って降りてきたのは、謎の生物だった。

鮮やかな青と黒のストライプ模様をした身体、そして赤いトサカを頭部に生やした、人のようなモノ。
手足は人のそれで尻尾もないが、後ろ姿だけでも限りなく不気味なフォルムをしていることが分かる。

「シャ、シャワ? こいつ一体……」

「…………」

ハンマーさんでさえ目を白黒させている中、その生物は地面へと降り立った。

「………」

ぼんやりと正面を向いて佇むソレに、私は二つの意味で見覚えがあった。

頭部のトサカの下には竜特有の眼に黄色いクチバシ。そのクチバシは大きく開かれており、鋭く並んだ牙の奥には黒い髑髏の妖艶な眼孔がちらついていたのだ。


そんな時だ。
『彼』の口からボソボソと小さな言葉が漏れたのは。


「……ランポスダヨー」



「………へ?」



【ランポス】
種族:鳥竜種 竜盤目 鳥脚亜目 走竜下目 ランポス科
温暖な地域を中心に幅広い範囲に生息する小型の鳥竜種。
環境への適応力が高く、様々な地域で活動する事が出来る。
………以下略。



「バルス!!? バルスだよな? 一体どうしちまったんだよお前!!?」

そんな騒ぎに気付き、村人を押し退けて来たフレアさんが悲鳴に近い声を上げて駆け寄った。


「……ランポスダヨー?」


ひたすらにそんな台詞を力無く吐き続けるバルスさん。
……前言撤回します。


「……二年もあれば人はあんなに変われるんですね」

「いえ……たった一晩でこうなったわ」


「……おいシャワ。そりゃ一体どういう事だ?」

頭を抱えながら尋ねるフレアさん。
もう完全にお手上げの様子である。

「……巨龍の話題が出る少し前の事よ。その時、私の家が主催のパーティーみたいなものが開かれたの。それでバルスが流れで急に場を沸かせることになったんだけど……」

「……まさか一発芸を外して大ブーイングを喰らったショックでこうなったと?」

「……話が早くて助かるわ。ここまで引っ張ってくれば自然っ治ると思ったんだけど、そう上手くはいかないみたいね」

「……この事態になんっつー下らない……っ!」

「……全くね」

「そうでしょ……ってし、師匠っ!?」

「アンさんっ!?」

シャワちゃんがギョッとした表情でのけぞる。
やっぱりアンさんのこの登場の仕方は心臓によくないです。

「な、ななななななんでここに?」

「……あら? 聞いていなかったの? ハンマー、貴女はやっぱり相変わらずね」

「んふふ、だから誉めないでってば」

「……ハンマーさん、少なくとも私の印象値はだだ下がりですからね?」

「いやいや、そんな」

「いやいや、まじで」

「師匠………私がどれだけ探したか……」

「……シャワ、話は後にしましょう。……まずはこの男」

「……ボクランポスダヨー」

「……悪いけれど、時間が余り無いのよ」


「アンさん!? そんなに助走をつけて何を………っ!?」





吹き飛ぶバルスさんを見て、アンさんがシャワちゃんの師匠だという事を確信した私でした。




        



ひとまず、バルスさんは何とか一命を取りとめ……いえ正気に戻りました。

「ごめん……シャワ。よく覚えてないんだけど、迷惑かけたみたいだね」

「いいのよ、バルス。困ったときは助け合おうって決めたじゃない」

「シャワ……恩に着るよ」

師弟間で『彼は殴っても大丈夫』という暗黙の了解が出来たのだと、裏でシャワちゃんが嬉しそうに語っていたことを……私は生涯黙っておこうと思います。


「やぁ皆、改めて久し振り。見ない顔もいるけど、変わりなく元気そうだね」

顔は大惨事になっていますが、それでも挨拶は欠かさない自称紳士。
恐らく今日がスカルフェイスが一番役に立った日でしょう。


「ん、じゃあこれでやっと全員集合だね」

「あ……」

ハンマーさんの言葉にハッとして周りを見渡す。


黒い髑髏がもはやトレードマークのバルスさん。

優秀なガンナーでしっかり者のシャワちゃん。

伝説のガンナーの異名を持っている、少しミステリアスなアンさん。

元気一杯のヨルヴァ君に豪快なハルクさん、そして二人の制御役を頑張るモモさん。

勇猛果敢、熱血のフレアさんに、医療ハンターのチョモさん。



そして、いつも通り隣にいてくれるハンマーさん。

ちょっと悪ふざけが過ぎたり、信じられないようななことを平気でやったりする彼女が。

どんな時も支えてくれて、ずっと守ってくれたこの人がいてくれる。




見渡す限りに、こんなにも沢山の頼れる仲間達がいるのだ。

それは奇跡といっても決して過言じゃないと思う。


それぞれが関わり係わりあい、助け助けられてきた数々の見えない軌跡が、私の考えの及びもしない物語があったはず。


そして、バラバラに見えたそれらが今――ここに集結したこと。

それを皆が物語っている。

皆が証明している。




「アクア、でもまだ終わってないよ」

「ええ、そうですよね」


その軌跡をここで終わらせてはいけない。

終わらせる訳には、いけない。

物語の終結は、ここから更に『向こう側』。

最後の試練はもう目前までやって来ているのだから。



「絶対に……絶対に生きて! また、この村に集まりましょう!」

『おぉ!!』




幾重にも重なった仲間達の声は、湯元から溢れる波紋のようにゆっくりと、しかし揺るぎない速度で村中へと広がっていった。

「すっげぇぇぇ! 気球船ってこんなに高く上がるんだな!」

ユクモの村人全員からの送迎を受けて、気球船『シエラ号』が空高く飛び立ったのはつい数分前のことです。


「ヨルヴァ、あまり下を覗き込んだらダメだぞ。も、もし落ちたりしたらどうするのだ!」

「そうだぞ小僧。うぅむ……しかし、この歳でこんなものに乗ることになるとはな……いや、べ、別に怖くなどないがな!」

甲板ではヨルヴァ君達が三人で騒いでいる。何を話しているのかは分からないけど、遠くから眺める分には結構楽しそう。

「でも本当に凄いなぁ……」

荷物を部屋に置きながら、思わず呟いた。
凄いと言ったのはもちろん気球船の広さのこと。
どれ程かというと、ウラガンキンが大体5匹分。

……いや、全員が武器やアイテムを積み込んでも十分にくつろげるスペースがある、と言った方が分かりやすいでしょうか?
こんな代物、貴族でも手に入れるのは容易ではないはずだけど……。

「ふぅ……これで全部かな?」

それはともかく、持ち込んだ荷物は戦いに備えた物のため、量は相当。
そのため私も含めて、他の皆もまだ荷物を整理している途中なのです。
ちなみにヨルヴァ君達はまだ荷物すら置けていません。
さっきは楽しそうなんて言いましたけど、恐らくは搭乗した直後から甲板に張り付きっぱなしのヨルヴァ君をモモさんが引き戻そうとしているだけなのでしょう。
……ハルクさんが目をギュッと閉じ、心無しか内股気味になっているのは少し気になりますが。

「アクアー! もう荷物は置き終わった?」

後ろからの声に振り向くと、大荷物の間からハンマーさんがピョコリと頭を出していた。
大きな眼をキラキラとさせて、いつもよりテンション高めだ。

「はい丁度。ハンマーさんも終わったみたいですね」

「もちろん! さ、私たちも甲板に出ようよ。今ならなんとシャワのガイド付き!」

荷物の裏からこちらに回り込みながらそんなことを言うハンマーさん。
肝心のシャワちゃんがいないだろうと思いきや、彼女はしっかりとハンマーさんの横に捕まっていた。
……どうやら荷物の裏からでは身長差で見えていなかっただけのようだ。

「また勝手に……ていうか、どうせまだ海しか見えないわよ」

そんな私の視線に気付いたのか、ハンマーさんの言動にほとほと呆れたのか、シャワちゃんは少しムスッとした表情を浮かべている。

「それに、悪いけど私はちょっと用があるの」

ムスッとした様子とは裏腹に、「用がある」と言った彼女の言葉には若干の申し訳なさが混じっている。
どうやら本当に用事があるようだ。

「用って?」

すかさず問いただすハンマーさんに、同意するように私もと「うんうん」と頷く。

「別に隠すようなことじゃないんだけどね。実は皆に言わなくちゃいけないことがあって……その準備をしないといけないの」

「そうなんですか。私でよければお手伝いしますよ?」

「気持ちは嬉しいんだけど、こればかりは私じゃないと……」

その時、大部屋の奥にある扉(『関係者以外立ち入り禁止』と書かれている)が唐突に開いた。

扉の中から現れたのは、金髪ショートの小柄な女の子。
彼女は部屋に入った瞬間、ハッと驚いたように目を見開き、甲高い悲鳴を響かせたのだ。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!? ひ、人が一杯いますぅ!」

そしてその女の子は直ぐ様シャワちゃんの方へ駆け寄り、抱きついた。

「お姉さまぁぁぁ!!」

「フィリア!? まだ向こうにいなさいと言ってたじゃない!」

「お姉……さま?」

フィリアと呼ばれた少女は、近くで見るとシャワちゃんにとてもよく似ていた。
シャワちゃんの長髪をショートに揃え、いつもの強気なつり目を優しそうな垂れ目にし、身長を少し低くすればそれだけで目の前の少女になるのだ。

「だ、だっていつまでも一人で……不安になってしまったんですもの……」

そんな彼女は大きな瞳を今にも泣きそうに潤ませて、抱きついたまま離れようとしない。

んー、しかしあれだ。
おどおどとした表情で弱気な瞳を浮かべるシャワちゃんそっくりな彼女を見ると……。

「『どうにも少し楽しい想像をしちゃうなー』……なんて考えてそうな顔してるけど大丈夫かしら? アクアさん」

「と、とんでもない! や、やだなぁシャワちゃんったらもう!」

とんでもない所か的中である。

「アクアはすぐ顔に出るからねぇ……でもその気持ちは凄く分かるっ!」

「ハンマーさんはちょっと黙っててくださいよ! 話がややこしくなるじゃないですか!」

「ふふ……今日はやけに誉められる――」

「誉めてませんっ!」

「――なになに? 何の騒ぎって……あらら、どうしたのこの子?」

騒ぎを聞き付けてチョモさんがフレアさんとバルスさんを連れて(引っ張って)やって来た。

「バルス……お前ついに顔だけじゃなく誘拐までやっちまったのか……」

「いやいや、僕さっきまで君たちと話してたじゃないか。もし疑うとしたら明らかにシャワで……ごめんなさい冗談ですそんな目で見ないで!!」

「もう……しょうがないわね」

「これ以上騒ぎにも出来ないし」、そうため息がちに言うとシャワちゃんは、後ろに隠れていた少女をくるりと手前に押し出した。

「お、お姉さま!?」

「少し早いけれど紹介するわね。この子はフィリア。私の妹で、ついこの前まで修道院にいてやっと実家に帰ってきたばかりなの」

「み、皆さん初めまして。フィ、フィリアです……。 こ、今回はその、どうしても気球船に乗ってみたくて……す、すみません!」

彼女はペコリと頭を下げると、またすぐにシャワちゃんの後ろに隠れてしまった。

「この子は結構人見知りなとこがあって……。それに、ずっと修道院にいたから男の人とかほとんど見たこと無くてね、ちょっと緊張してるのよ。だからあまり刺激しないであげて。特に男性陣!」

「シスターさんって訳か……ちょっと感慨深いな。しかし……はぁ……初めて会った男がフレアとバルスって………。フィリアちゃん……もっとましな男は沢山いるからさ、誤解しないであげてね?」

「は、はいっ……」

「チョモ、お前な……」

「フレア……実は彼女、初めて僕に会った瞬間気絶したんだよね」

「お前……くっ……心中察するぜ……」

なにやらフレアさんとバルスさんが肩を組んでいるが、そんなことを気にしている場合ではなかった。
もし、私が昔聞いたシャワちゃんの話が本当だったなら……。

「妹さん――フィリアちゃん――が修道院から出たっていうことは、シャワちゃん……」

「ええ」

シャワちゃんは私に小さく頷いて見せると、それ以上は何も語らなかった。
きっとフィリアちゃんには何も伝えていないのだろう。

「おめでとうございます」

「ふふっ。ありがと!」

その満足そうな笑顔が、彼女の今までの頑張りを体現しているように思えた。

「さてと、紹介も終えたしフィリアはまた部屋で休んでいてもいいわよ?」

「はい、お姉さま。あ、あの……皆さん、お騒がせしました……」

「またねー、フィリアちゃん。後で話を聞きに行ってもいいかな?」

「は、はい。私なんかの話で良ければ是非……」

「ちょっとハンマーさん。あんまり意地悪したらダメよ?」

「分かってるよー。しっかしシャワも立派なお姉さんになったねぇ」

「何でニヤニヤしてるのよ!」



そんな楽しい会話をしていたのも、気球船が航路の半分を飛ぶまでだった。


「大変だ! 姉ちゃん達! 早く甲板に出てくれ!」

「どうしたの!?」

ヨルヴァ君の尋常じゃない様子に急いで甲板に出た私たちの前には、想像を絶する光景が広がっていた。


「ハンマーさん……あれって……」

「……うん。大陸のあちこちに火と煙……」

大陸のあちこちから上がる黒い煙。それが最初に私たちを出迎えた光景だった。

「……あれはモンスターによるものだけではないと思うよ。僕たちが気球船で飛び立つ前にも、巨龍騒ぎに乗じた騒動が結構起こってたんだ」

後から来たバルスさんが冷静に、拳を強く握りながら言った。

「ということは、人が……?」

「ええ……苦々しい話だけれど。ドンドルマはギルドが混乱を抑え込んでるからまだ何とかなっているけど、それもいつまで持つか分からないわ……」

シャワちゃんも、顔を強張らせている。

「そんな……」

「こりゃ早く原因を何とかしないとね……」

ハンマーさんもいつになく真剣な表情で。

皆が皆、焦る心を必死で抑えていた。

「……まずは一度ドンドルマへ。話はそれからよ」

「師匠!? ……分かりました。バルス! 操縦室に戻るわよ! いつまでもチョモさん達に任せるわけにはいかないわ」

「了解!」

そう言って走り出す二人の傍らで、ヨルヴァ君はギリリと歯を噛み締めていた。

「アクアの姉ちゃん……オイラ、ちょっと不安だぜ。こんなことになった原因の巨龍を許せねぇ! って気持ちと、そんな巨龍をオイラ達だけで何とか出来るのか? っていう気持ちがグルグルして……狩りの時のワクワク感が全然沸いてこねぇんだ」

気持ちは痛い程分かる。

「ヨルヴァ君……私も同じだよ」

「アクアの姉ちゃんも?」

「うん。でも、ここで持たなきゃならないのはそのどっちの気持ちでもないの」

「どっちの気持ちでもない……? じゃあ一体なんなんだ?」


それは私が今までかかってやっと見つけた答え。
もっとも、まだ答えを出した『つもり』であって確証はないのだけど。



「それは繋がりの持つ力を信じること。私たちが持たなきゃならないのは人間としての、ハンターとしての絆の強さを信じて戦うこと。そしてそれを築き上げたことを誇りに思う気持ち……それを忘れないことだと思うの」

「うーん……? なんか難しいなぁ」

「……私もまだ、まとめれてないみたい。でも、私がハンマーさんと出会ったように、ヨルヴァ君がモモさんとハルクさんと築いた絆は素晴らしいものでしょ?」

「それはオイラもそう思うけどさ……」

今一、ピンときてない様子のヨルヴァ君。

「なら、それを無駄なことなんかには出来ないよね?」

「当ったり前だい!! モモ姉は……あとハルクのおっちゃんも、オイラの大事な仲間だからな! 無駄なことなんか一つもありゃしないぜ!」

「おい小僧今何で……むぐっ!?」

(ハルク! 今は黙ってないと駄目だ!)

「……きっとその気持ちが一番の力をくれるはずだよ」

「そっか……何となくアクアの姉ちゃんの言いたいことが分かった気がしたぜ。ありがとな! もう大丈夫。そうと決まれば、おっちゃん! 空飛んで足がなまったらいけないから、アップしとこうぜアップ!」

「こ、ここでやるのか!? 小僧よせっ、やるなら中で……揺らすんじゃないっ!」

「二人とも! こ、ここで暴れるのは本当にやめてくれっ!」







遠ざかる三人の声を聞きながら、まだ遠い大陸を見つめていると、いつの間にかハンマーさんが横に並んでいた。

「――アクアさ、半分位自分に言い聞かせてたでしょ?」

「……えへへ、バレました?」

「何年一緒にいると思ってんの?」

「何十年も一緒みたいに言わないでくださいよ。まだ三年です」

「三年か……」

「ええ、今までで一番長い三年でしたけどね」

「まだ始まったばかりじゃん。これからでしょ、アクア」

「……そうですね。 生き残るためにも私たちの絆の力、ぶつけてやりましょうか!」




「……なかなかに臭い台詞ね」

「アンさん!? いつの間に後ろに……さっき中に入ってませんでした?」

「……瞬間移動はプロハンターの嗜みよ」

「……それは……嘘ですよね?」

「……ええ」

「……」

「……」

突っ込みづらい!
咄嗟にハンマーさんに助け船を求めて横を向いたが、すでに居なくなっていた。
まさかあの人も嗜んでいたのか……。



私とアンさんの二人しかいなくなった甲板。
そこに特に意味を感じなかった私だったが、そこでアンさんがポツリと発した言葉に私は耳を疑うことになる。








「……貴女の両親から遺言を預かっているわ」

「……え?」

甲板に流れた風が、私たちの間を強く吹き抜けていった。
『……貴女の両親から遺言を預かっているわ』


「…………え?」

ドクン、と心臓が跳ね上がる。
突然の話に頭がついていかない。

「……正確には手紙だけれどね。受け取るか受け取らないかは貴女の自由よ」


「み、見せて下さいっ!!」


考える前にそう答えていた。
何故アンさんが?
とか
何故今になって?
などという質問は端っから頭に浮かばなかった。

私は『両親の手紙』という言葉に、自分でも驚くほどに反応していたのだ。

そんな私を見て、アンさんはゆっくりとした動作で頷いた。

「……そうよね。なら、まずは貴女に今まで黙っていた理由から話さなければならないわ」

「理由……」

静かに話すアンさんの言葉に、私は徐々に落ち着きを取り戻すことが出来た。

アンさんは私の気持ちを汲んで、分かりやすく順序立てて話してくれているのだ。

「……私は貴女の両親とは昔からの付き合いでね。自分達に何かあった時のために、貴女宛の手紙とそれを渡す為の条件を聞いていたの」

「条件……ですか?」

「……ええ。まず一つは20歳の誕生日を迎えること」

それならもう満たしている。なら後の二つに理由があるはずだ。

「……二つ目に仇討ち以外の理由でハンターをやっていること。三つ目に私が認める程の人間になっていること……この三つよ」

「ちょ……ちょっと待って下さい!」

私には、どうしても聞き逃せないものがあった。

「……何かしら?」

「私がアンさんみたいな方に認められてるって言うのも夢みたいな話ですが、その前に私がハンターになった理由は……仇討ちなんです。両親の手紙を受け取る条件は……満たしてないんです……」

『……なら、駄目ね』

そんなアンさんの言葉を覚悟して、私はギュッと目を閉じて俯いた。
流石のアンさんでも知らなかったのだろう。
まさか本当にそんな理由でハンターになってしまってたなんて……。


「……勿論知っているわ」

「……え?」

私はまたも耳を疑った。

「な、ならどうし――」

「……貴女は今そんな理由でここにいるのかしら?」

静かな声が私の言葉を遮る。

「い、いえ……今は違います。でも初めの理由は――」


「……初めの理由なんか関係無いの、問題は『今』、『どうあるか』でしょう? そんなこと、何時までも背負うようなものじゃないわ」

再び私の言葉を遮った静かな声。
その声には不思議な説得力があり、私の反論は喉から先へ向かう前に泡のように消えてしまった。

「……受け取ってくれるわね?」

「…………はい」

上手く言いくるめられてしまった。
私が諦めたように頷くと、アンさんはその言葉を待っていたかのように眼で微笑み、少し待つように言い残して部屋の中へと入っていった。

とたん、風の音以外何も聞こえなくなる。

「………お父さんとお母さんからの……」

嬉しいような、悲しいような。
昔ちゃんと克服したはずなのにそんな気持ちが溢れてくる。
今でも時々、両親の死を受け入れようとしない自分が出てくるのだ。家に……今はもう誰も住んでいない家に、当たり前のように待っていてくれているのではないかと、そんな想像をしてしまう私が。

そうだ。
私は思う。
いつか割り切ろうとそう考えていたけど、ずるずると引きずっている私への絶好の機会じゃないか。

そう考えて潤みかけた瞳を擦っていると、後ろから唐突に「待たせたわね」と声をかけられた。

「……いえ、そんなことな――」

流石にもう慣れましたよ、と内心ドキドキの自分を隠すように振り向いた私だったが、そんな付け焼き刃は速攻で叩き折られた。

「な、何ですか! その大きな袋は!?」

アンさんの脇に置かれていたのは、彼女の腰程までに膨れ上がった大袋だった。地味に防水仕様のやつ。

「……貴女の両親は大層な心配性でね。『もし娘がハンターにならなかったら』とか『もし何処の馬の骨とも分からない奴と交際していたら』とか……数百通りのパターンの手紙を用意していたのよ」

ため息混じりにアンさんが言った。

「へ……?」

思わず変な声が漏れる。

アンさんのため息は後でシャワちゃんに話したところ『五年に一度つくかつかないかの激レア』だったらしいけれど、今はそれよりも私の両親へのイメージが大分崩れたのが問題だと思う。

あれ……?
もっと真面目な人たちだった気が……。


「……真面目だから故の親バカなのよ」

「な、なるほど」

もはや心の声を読まれてることに違和感を覚えなくなってしまった。

「……とりあえず、アクア。これが今の貴女に一番ふさわしい手紙よ」

そう言ってアンさんが手渡したのは、少し(センスが)古びた便箋に入れらたずっしりとした手紙だった。

「……何でこんなにずっしりとしてるんでしょうか?」

「……私が知りたい所ね」

彼女は何年もの間『これら』を持ち続けていたのだ。
その期間を私が伸ばしてしまっていたことに対し、大きな罪悪感がのし掛かって来る。
絶対に早く渡してしまいたかっただろうに……律儀に待っていてくれたアンさんを正直、申し訳無さすぎて直視できない。

「……私が好きで承諾したことだから気に病むことはないわ。それより、早く読んでしまいなさいな……風に飛ばされてしまう前に」

「は、はい」

急かされて、私は慌てて便箋を開ける。
やはり中には何束にもなった手紙が入っていた。

「では読みますね……」

恐る恐る一枚目の手紙を開く。
両親が最後に残したメッセージ……私はゆっくりと読み上げていった。

「『やっほー☆ アクアちゃん! 二十歳の誕生日はもう終わっちゃったかな? ごめんね……遅れたけど誕生日おめでとう~! パチパチ!』…………すみませんちょっといいですか」

反射で手紙を閉じてしまった。
……これ読み上げれない!

「……………ごめんなさい後は一人で読んでくれるかしら」

アンさんがお腹を抱えて悶絶している。
これもシャワちゃんにも教えたかったけれど、この事は誰にも言えそうにない。
ていうか言いたくない……。

その後も延々とやけに華やかな文章が書かれていたが、最後の一枚だけは文体が違うのに気がついた。

「これは……お父さんの字かな……『アクア、俺の言いたかったことは全部彼女が書いてくれてるから、俺は必要なことだけを書こうと思う』……間違いないですね」

「……続きを」

アンさんも既に顔を上げて私が読み上げるのを待っている。

「はい……『ドンドルマのイーゼンブルグ家を訪ねろ。俺たちが残したものがお前の力になることを願う』……イーゼンブルグって!」

「……図らずも行き先は同じということね」

「シャワちゃんの実家に何が……?」

そんな思惑が止まないまま、気球船は目的地であるドンドルマに近付いていった……。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「アンさんは入らないんですか?」

「……ええ。私は何かと嫌われているから」

「すみません師匠……すぐに戻りますから」

私達はドンドルマの外れに気球船を止めた後、徐々に混乱が増し始めている街中をフィリアちゃんを庇いながら進み、イーゼンブルグの屋敷の近くまで辿り着いていた。

「それにしても驚きよね。まさかアクアさんの御両親が私の家に……お父様に何かを預けてたなんて。世間ってやっぱり狭いのかしら?」

歩みを進めながらシャワちゃんがそんなことを呟く。

「うーん……そんな言葉で片付けちゃいけないような……。それにしてもちょっと緊張するなぁ……シャワちゃんのお父さん怖いから」

「いや……ここだけの話なんだけど、この前お父様……今度は私に『パパ』って呼べだなんて言ったのよ?」

「それは……ちょっとキツいな……」

「でしょう!? 今更何をって感じよね。……まぁ今まで敢えて厳しくしてた反動が来たんでしょう」

久し振りに出会った直後は少し固くなってしまっていたが、会話に花を咲かせている内に私達はかなり打ち解けていた。

「でも……お父さんがいるっていうのはやっぱり楽しそうだね」

「あ……ごめんなさい! ついアクアさんの前でこんなこと……」

「あっ、そんな意味で言ったんじゃないです! ただ単純に会うのが楽しみになってきてね?」

「んん……そんな期待されてもイメージ通りだと思うけれど……」

「お姉さま! パパは優しいですよ?」

「あなたいつの間にパパだなんて……! ダメよ。お父様と呼んでやりなさい」

「はい、お姉さま。お父様は優しいです」

「よろしい」

「……お父さんよりお姉さんの方が優先なんですね」

「まぁ普段はそんなものよ。立場的にも今は私の方が偉いしね」

そう言って子供っぽい意地悪な笑みを浮かべるシャワちゃん。

そんなことをしている間に、私達はすでに屋敷の門を叩いていた。

門の前には怖そうな兵士が二人立っていたが、シャワちゃんの顔を見るなり敬礼して道を開けた。

「わぁ~やっぱり偉いんだ」

「余り自慢してもしょうがないものだけどね」

流石に会話も抑え、屋敷の中を道なりに進んでいく。

地味過ぎず、豪華過ぎずの装飾に関心しつつ階段を上っていくと、シャワちゃんの足が一つの扉の前で止まった。
どうやらここがダイガスさんの部屋らしい。

「じゃ、入るわよ」

シャワちゃんはそう言うと扉を二度ノックし、重装のドアノブをゆっくりと回した。


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Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
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