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ー騒動の裏舞台ー


――これはハンマー達が古塔へ向う少し前の話


―バルス達のギルド―

「――という訳なの! すぐに加勢をお願い」

ギルドへ帰ったバルスとシャワは、休む間もなく受付嬢であるシェリーから古龍化したモンスターの討伐依頼を受けていた。

「やっと帰って来て、いきなりクエストはきついね……。それにあの二人との約束もあるしなぁ……」

「疲れてるのはあの大砂漠にランスなんか探しに行ってたからでしょ! 自分の責任じゃない!」

バルスは火山から帰還した後、一人で砂漠に行って今帰ってきたばかりなのであった。

「いや……でもやっぱりあれは自分だけの責任じゃ……」

「なによ! そもそもディアブロスにかち上げられる方が悪いでしょ!?」

「二人とも! 言い合いをしている場合じゃないわよ!」

再び口論に火がつきそうになるところに、シェリーが割って入った。

「今回のクエストは、ギルドから強制参加が義務付けられてるから。拒否権なんか無いわよ?」

「そんな!? まだ身体中砂まみれなのに!」

体を動かす度に砂をこぼしながらバルスが抗議の台詞と砂を吐く。

「とりあえずその砂、早く落としてきなさいよ……それでクエストの詳細は?」

とりあえず水だ! とバルスが駆け出していくのを尻目に、シャワが尋ねた。

「樹海に、滅多に姿を見せないエスピナスが出現しているという情報が入ってるわ。樹海の集落の被害は深刻みたい。至急討伐に向かって欲しいわ」

(樹海か……約束の場所から近いわね)

ならアクア達の加勢に向かえる可能性が出てくる。

「……分かったわ。すぐに支度するから」

そう言ってシャワはバルスを呼びにいった。

「バルス! いつまで洗ってるのよ……って何これ!? どれだけ砂詰まってたのよ!! まったくもう――――!」


       

―樹海―

「はぁ……」

木々が鬱蒼と覆い茂る中、二人の足取りは若干の疲れを帯びていた。

「ちょっとぉ……エスピナスなんて何処にもいないじゃない……」

シャワがいつもより覇気の無い声でボヤく。

「目撃例が少ないからね……どこを巣にしているかも不明だ。これじゃ居場所も掴めないよね……」

二人は、ほぼ丸一日樹海を歩き回っていた。

二人は無言で樹海を進んでいたのだが、日も落ちてきた頃ずっと黙っていたシャワがついに口を開いた。

「あーーもう! 少し休憩にしましょう」

「確かに。もう夜だしね……このままじゃ効率も落ちる」

バルスも賛成し、二人はしばしの休憩の準備に取り掛かった。

「ところでバルス。大分歩いたけれど、今どの辺りなのかしら?」

ふと、気になったので聞いてみた。
バルスのことだからすぐに答えが返ってくるだろうと思っていたのだが、彼の返事に耳を疑った。

「え……? シャワちゃんが把握してるんじゃなかったの?」

「はぁ!? なんで私が把握しなきゃならないのよ! あんたが黙って着いてくるからてっきり知ってると……」

「僕だって! シャワちゃんがどんどん先に行くからてっきり分かってるものだと……」

「ってことは……」

「うん……」

気まずい沈黙が流れる。

――二人は完全に迷ってしまっていた

「……とりあえず完全に暗くなる前に、何か手掛かりになるものを発見できればいいんだけど……」

バルスは持ってきていた松明に火をつけながら言った。

「そんなこと言ったってそう簡単に手掛かりなんて………あ」

「ん? 何かあった?」

「大きな足跡があるわ。……見たことない足跡ね。ってことは多分エスピナスじゃない?」

「わお」

シャワは簡単に手掛かりを発見してみせた。

この辺の運の良さも彼女の強さの秘訣であるのかもしれない。


「よし! その足跡を追っていくしかないね」

「そうね、すぐ行きましょう。まだ新しいし、きっと近くにいるわ」


――元気にそう言った二人はこの後、夜通し歩き続けることになる



      

明け方を過ぎた頃、二人は未だ足跡を追い続けていた。
しかも深い霧が出始め、視界がかなり悪い。

「………うぅ、大分遠くまで歩いてきちゃった……わね」

「……………そのようだね。霧でよく……見えないけど」

二人の体力は限界に達していた。

「取り敢えず一度休憩を入れましょう……色々と限界よ……」

体中泥だらけのシャワが深いため息をつく。

「そうだね。うわ……頭に苔生えてるよ……」

「ひっ!? は……早くほろいなさいよ!」

苔のおかげでバルスのスカルフェイスは更に不気味なことになっていた。

しばらく死んだように休憩していた二人だったが、鼓膜が震える程の咆哮によってその安息は破られた。。

「ギャオォォォォォ!!」

「なんだ!? こんな咆哮聞いたことないぞ!」

「しかも近いわ!」

その瞬間強い風が吹き、霧が一気に晴れた。

「…………っ!」
「…………っ!」

目の前には何と、約束の地である古塔がそびえ立っていたのだ。

「これも巡り合わせかな?」

「そんなこと言ってる場合じゃないわよ! きっと中に二人がいるわ、急ぎましょう!」

二人は古塔の入り口に駆け付け時、目に飛び込んできたのは探し求めていた飛竜エスピナスと重傷のハンマー、そしてそれを庇おうとしているアクアの姿だった。

「不味いっ!」

バルスは咄嗟に閃光玉を投げつける

「こっちに引き付けるわよ!」

シャワもライトボウガンを構え、エスピナスめがけて撃ち放った。

「グオォォォ!?」

目を眩ましながらも、こっちに向かってくるエスピナスを確認すると、バルスは念のため持ってきておいた小太刀を救急道具に括りつけ、アクアに渡そうと振りかぶった。

「アクアちゃ……もがっ!?」

シャワはバルスの口を塞ぐと小声で呟いた。

「馬鹿! 下手に声を掛けて向こうから返事かあったらあいつを引き付けた意味がないじゃない! ジェスチャーで伝えるのよ」

(了解!)

バルスが小太刀を投げ渡すのを見てから、シャワはアクアにジェスチャーを試みる。

(ここは任せて、先に行きなさい!)

アクアはそれを理解したのか、ハンマーを担ぐとお辞儀をして奥へと駆けていった。

「さて、それじゃあエスピナスさん? 散々歩かされたツケ、たっぷり払ってもらうわよ!」

「さっさと倒してアクアちゃん達の加勢をしないといけないしね」

二人は武器を構えて攻撃に移ろうとした。

「グオォォォ!!!」

しかし、目の眩んだエスピナスは入り口に向かって暴れながら突進してきたのだ。

「やばっ! 避けるわよ!」

「はいさ!」

二人は横に飛んで避けようとした。

――が

二人の装備にエスピナスの翼の棘が上手い具合に引っ掛かった。

「え!?」

「うわっ!?」

エスピナスはそのまま入り口を抜け、樹海へと走っていった。

完全に引っ掛かって身動きが取れないまま、シャワはバルスに話しかけた。

「……ねぇ、何か似たようなことなかった?」

「同感だよ……はぁ、今度はどこまで行くんだろ……アクアちゃんごめん!」

ため息混じりの二人と一匹は樹海の奥に消えていった。



――およそ半日は経っただろうか。

「………」
「………」

溜まっていた疲れもあり、二人は物言わぬ洗濯物となっていた。

すると、樹海を爆走していたエスピナスに変化が訪れる。

「……あれ? ねぇバルス」

「……何だい?」

「エスピナスの体……何だか少し、光ってない?」

「え? ………ホントだ」

――時刻はアクアがクシャルダオラを倒した数時間後。

突如、エスピナスの体から大量の光の粒が現れ、それらはふわふわと空に向かって上がり始める。

「……一体何なの!?」

空に消えていく光を見上げながら呟いたシャワの耳に、バルスの慌てた声が聞こえてきた。

「シャワちゃん! 大変だ!」

「どうしたの?」

「エスピナスが……!」

「エスピナスが何? って ………嘘!?」

シャワが見たものは淡い光を帯びながら徐々に縮んでいくエスピナスの姿。

もちろん二人が引っ掛かっている棘も縮み始めている。

(こんなスピードのまま落ちたりしたら……)

シャワの背筋に冷たいものが走る。

「バルス! どこかの枝に捕まってエスピナスから離れるわよ! 今なら外れるはず!」

「……と言ってもそんなに都合良く枝なんて……」

「! あったわ!」

「!? あったの!?」

思わずオウム返しで驚いてしまう。

「あそこ! 丁度いい高さに枝が伸びてるわ! あそこまで誘導するわ!」

と言ってシャワは素早くライトボウガンを構えると、一発の弾をエスピナスの頭部に向かって撃ち放った。

「そんな無茶な……っ!?」

「グォォオ!!」

突然の痛みに驚いたエスピナスはよろめき、目的の枝の方向に進行方向を変えた。

「やったぁ! さぁ、飛び移るわよ!」

(運が良いとかのレベルじゃないような……)

そう思いながらも、バルスはシャワに続いて枝を掴むと、遂にエスピナスから離れることに成功した。

「ふぅ……やっとおさらばできたわね」

枝にぶら下がりながら一息つくシャワ。

「………シャワちゃん」

そんなシャワにバルスは静かに声をかけた。

「何よ?」

「僕達……思いの外良くないモノに掴まってるみたいだよ」

「え? …………きゃっ!?」

横を見ると赤い光が二つ。

「フギャォォォ!!」

「きゃあ!」
「うわぁ!」

休息を邪魔され怒り狂ったナルガクルガは、尻尾に掴まっていた二人を振り払うと飛びかかりのモーションを始める。

「いったぁ……って逃げるわよバルス!」

「もちろん!」

二人はすぐさまナルガクルガに背を向けるとダッシュする。

「いやぁ……それにしても少しホッとしたね」

走りながらバルスはそんなことを言う。

「あんたこの状況で何でそんなこと言えんのよ!」

後ろのナルガクルガを気にしながらシャワが叫ぶ。

「だってさ、あんなにラッキーが続くと怖くならない?」

「あぁ……まぁ確かに私の運の良さは因果応報っていうか、必ずと言っていいほど返ってくるわ……」

「あははは!」

それを聞いたバルスが不意に笑いだす。

「ちょっと! 何が可笑しいのよ!」

――ま、人生ってそんなもんなのかもね とバルスはクククと笑いながら言っていた。







バルスがシャワの前から姿を消したのは、三日後に樹海を抜けたその後のことである。
ー黒の過去ー


西の地平線下へと太陽が帰路につき、茜色に染まり始めた樹海の端。
そこに凸凹な二つの影がふらふらと揺れ動いている。

「やっと抜けれた……」

全身泥だらけで髪もボサボサ。
シャワのげんなりとした一言はため息と共に吐き出された。

樹海をさまよい歩くうちにギルドの管轄外の地域に迷い込んでいた彼女達は、三日かけて樹海の脱出に成功したところだった。

「まさかこんなことになるなんてね……」

「ホントだよ……。まさかキノコまで生えてくるとは……」

バルスがくぐもった声で相槌を打つ。

「アンタの頭の話はしてないわよ!!」

木にいた鳥が飛び去った。
どうやらまだ怒鳴る元気はあるようである。

「……にしてもここは何処なのかしら?」

何とか抜け出たものの、現在地が全く分からないのでは帰りようがない。
するとバルスが何かを発見した様子で指を指した。


「シャワちゃん、向こうに集落があるみたいだ、煙が上がってる。あそこで聞いてみよう」

「え? どこ?」

「ほら、あそこ」

「あ」

バルスが発見した煙は肉眼ではうっすらと見える程度で、視力が武器のあるガンナーのシャワでも言われるまで気が付かなかった。

「………あんな所良く見つけたわね。中にレンズでも仕込んでるの?」

「失礼な、全力で裸眼だよ。昔から視力はいいんだ」

「……あんたが言うと、ど――も変態チックに聞こえるのよね」

「逆セクハラもいいとこだよ!?」

そんなことを言いながらも二人は暗くなる前に着くために早足で煙の元へと向かっていく。

彼らが辿り着いたのは予想通り、小さな集落であった。

「まずはひと安心だわ……」

「また野宿は嫌だもんね」

まばらに建てられた住居からは、火を起こしているのだろうか煙がちらほらと上がっている。

申し訳程度に作られた門をくぐると、やっと樹海を抜けたのだという実感が沸いてきた。

「とにかく……水浴びくらいはしたいわね」

シャワは体についた汚れを手で払いながら言った。

「確かに……これ以上放置したらどうなるか分からないからね……」

バルスも真剣な声色で頭部をさする。

………だから、とシャワは迅竜でも射殺せそうな眼光で黒い変質者を睨む。


「どうしてレディーのたしなみとアンタの頭が一緒に並ばなきゃならないのよ!!」

ビリビリと大きな怒声が響くも、バルスはそれを予期したのかすでに耳を塞いでいた。

すると、

「あんた達、もしかしてハンターさんかい?」

シャワの声を聞きつけたのか、集落の住人であろう一人の老人が声をかけてきたのだ。

「あ、はい。ちょっと迷ってしまっ……「水を浴びれる場所はありませんか!?」

事情を説明しようとするシャワを遮り、バルスは勢いよく老人に話しかけた。

「アンタねぇ……女の私が我慢してるってのに……!」

シャワがワナワナと震えながら言うも、

「はい! あっちに井戸が? ありがとうございます!」

「ってちょっと!? 待ちなさいよ!」

バルスは一目散に井戸へ駆け出していった。


(アイツ……あとで頭叩き割ってやる……!)


「あの、ちょっとよろしいか?」

怒り心頭――といった様子でバルスの背中を睨み付ける彼女に老人は勇敢にも話しかけた。

「……何かしら?」

驚くほど冷たい声が出た。

『見知らぬ怪しい男に親切にするこいつもこいつだ』とでも言いたそうに、シャワは刺すような目付きをそのままに老人を見る。

「実は最近森が騒がしくての……危なっかしくて仕事に行けんのだよ。ハンターさんなら何か知らんかと思ってな」

そんな視線には全く気付かない老人の言った言葉に、ピクリとシャワの頬が引き釣った。

「……………」

その理由は簡単。
シャワとバルスが樹海を走り回ったから。
縄張りを荒らされたモンスターが芋づる式に荒れまわったのだ。


「し……知らないわね。私たちも最近来たばかりだから……」

まさか自分達が元凶だとは口が裂けても言えない。
バレれば借りれる井戸も借りられなくなる。

「で……でも私達が歩いた感じだと、モンスターも大分落ち着いてきてるみたいよ?」

そもそも三日もかかったのはモンスターの警戒が解けるまで身を潜めていたからなのである。

だからその点は保証できた。

「そうかそうか! ハンターさんが言うなら安心できるわい! どうもありがとうよ!」

老人は余程嬉しかったのだろう、村人に『おーい! もう大丈夫だとよ!』と大声で村人に伝えた。

「と……当然のことをしたまでよ」

終始苦笑いのシャワであったが、そこであることに気付く。

(あれ? そういえば私……知らない人と普通に話せてる……!)

なぜかしら? と首を傾げる。

なんと一癖も二癖もあるバルスと行動するうちに、彼女の人見知りは次第に消えていたのだった。

(あいつのお陰……なのかしら? なら少しは感謝しないと……)

「いやぁ~さっぱりした! 」

そこに当の本人がピカピカのスカルフェイスを拭きながら小躍りでやって来たのだ。

「あ、シャワちゃん次いい……オフゥッ!?」

躊躇なく拳を振り抜いていた。
「バルスだったもの」は地面と平行にトリプルアクセルを決め、黒いスカルフェイスを再び泥をまみれにして動かなくなった。


「ふぅ……やだ、ちょっと汗かいちゃった。どうしようかしら……ねぇ? おじいさん?」

「………」

その後シャワは老人の好意でお風呂を用意して頂いた。



少しばかりの礼として一泊の宿と夕食をご馳走したい、という老人――もとい村長の提案を二人は快く受けた。

樹海を抜けたとはいえギルドへはまだかなり遠い。
ネコタクを手配してくれるギルドの出張所がある村も歩けば半日はかかるというので、出発は明日の朝として二人は村人たちと小規模ながらも素敵な宴を楽しんだ。

「……ねぇバルス」

「はい、何でしょうか」

宴が終わり、村人も寝静まった夜、シャワとバルスは焚き火に当たりながら虫の声を耳を澄ましていた。

湿布を顔(スカルフェイス)に貼ったバルスはビクリとして彼女の呼び掛けに答える。敬語で。

「もう怒ってないわよ……あのね? 言いたくないならいいんだけど……いつかは聞かなきゃならないって思ってたのよ……」

「………」

ハキハキ(バルスへのみ)としたシャワには珍しく、歯切れが悪い。

内容は何となく分かる。

「あなたのスカルフェイス……それ普通じゃないわよね?」

殴れば腫れ上がり、ヒビは決して入らない。
決して取ることはない……取れない。

「……本当に申し訳ないんだけどね、僕にも分からないんだ」

「それって……どういうこと?」

「僕は五年前……記憶を全て無くしたみたいなんだ」

静かに語るバルス。仮面のせいでその表情は読み取れない。

「五年前……戦争が終結した年ね」

忘れるはずの無い、あの長く続いた忌々しい戦いの歴史の終わりの年。
まだ幼かった彼女にも人々の歓喜に満たされた叫びは記憶に刻まれている。

「僕はその年最後の紛争に参加していたらしい」

「その時に何かあった……っていうわけ?」

「それは分からない……気が付いたら敵国の収容所にいたんだ」


全てが真っ暗だった―――


        


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





ーー不審な男がいる

そんな報告を受けたフレアは国の収容所まで足を運んでいた。

そんな男一人なら現場の兵士でも事足りるだろうと言ったのだが、どうも様子がおかしいらしい。

「ったく、こっちだって仕事が山積みだってのに」

国の依頼を断れないのがギルドナイトの辛いところである。

お待ちしていました、と門前の兵士から会釈を受けた後、フレアは兵士の話を聞いた。

「……死神だぁ?」

きな臭い言葉が兵士の口から出た。

「私も見たときは驚きましたが……頭が不気味な骸骨なんです」

「……実際に見てみないと分からんな。でもまずは長官のとこだ」

こんな下っ端の話を全て真に受けていては任務など勤まらない。

下積み時代に世話になった恩人が、今はここで長官をやっているらしい。

「たまにはコネでも使わせてもらうか」

挨拶がてら、詳しい話を聞きにフレアは収容所へと入っていった。


        


ポタリ、水滴が落ちる音と共にカビ臭いが鼻を刺激する。

「ここに『そいつ』がいるのか」

堅牢な牢屋の前でフレアは立ち止まる。
日の光が入らないせいで中は暗く、よく見えない。

これじゃ昼か夜かも分からないじゃないか、と訊いたところ、兵士はそれが目的で作られたのです、と答え淡白な目をして続けた。

時間も天気も分からないここにいるだけで、狂ってしまう者は数多くいるのです。見ていて気分のいいものではありませんが、その分私たちの仕事も減りますので……。

何とも胸くその悪い話だ。

「……にしても」

と愚痴が出そうになるのを舌打ちして押し止める。

少し老けた長官からはそれほど詳しい話は聞けなかった。

どうやらその男は、戦場の中心から少し離れた場所で倒れていたところを連れて来られたらしい。

聞けたのはそれだけである。

(ってことは上層部も何も知らねーってことじゃねぇか……やる気あんのかね?)

そんなことを思いながらも、フレアは牢屋の中へ視線を戻す。

本当にこの奥に人がいるのかと思うほどの闇であった。

「おい、明かりくれ」

まずは本人を見なければ話にならない。
兵士から松明を受けとると、フレアは牢内が見えるように明かりをかざした。

「なっ………!」

フレアは思わず松明を落としそうになった。
そこに現れたのは鎖で両腕を吊られた首なしの男。

ではなく、

完全に闇と同化するような漆黒の髑髏を頭につけた男であった。

寝ているのかピクリとも動かない。

「……驚かせやがって。で、何でこの男は牢屋に入れられながら拘束されてるんだ?」

「目を覚ました男が暴れましたので、最後は5人掛かりで取り押さえました」

「5人掛かりねぇ……まぁ兵士が暴れればそんなもんだろ? 少し大袈裟なんじゃねえか?」

「途中で負傷した者を合わせると30人を越します」

「…………」

十分な理由だった。

「ま、今は安全なんだろ? 失礼するぜ」

「待ってください! そんな軽率に……」

兵士が止めるも遅く、フレアは牢屋の中へ踏み込んでいた。

「よう、起きてんだろ? ちょっと質問に答えてくんねーか?」

「………」

チャリ、鎖が音を立てると同時に髑髏が顔を上げた。

「何者だ? あんた」

どちらの国にも登録されていない兵士。
燃やされでもしたのか、半分炭化した皮の鎧を身に付け、頭は黒い髑髏。
常人ではあり得ないほどの戦闘力。

全力で引っ張っても髑髏は外れなかったらしい。

我々は生ける死神を捕らえてしまったのだ、と長官は言った。
そして今さら解放するのも報復が恐ろしく、このまま留めてもどんな不幸があるか分からないと泣きつかれたのだ。

(ちっ……結局のとこ自業自得じゃねぇか。流石のギルドナイトさんでもこんなのは専門外ですよ、と言えないところが御役所仕事の泣けるところだわな)

「……俺は」

くぐもった声が牢屋に広がる。

「……僕は」

「……私は」

「……何?」

死神は淡々と喋った。

「記憶が無いのか?」

そう訊くも、男はブツブツと呟くだけだった。

「………よし分かった」

何が分かったのだろうか……、と首を傾げた兵士はこの後信じられない光景を目にすることになった。

「じっとしてろよ?」

「フレア様!? 一体何を!?」

フレアは男を吊るしている鎖と拘束具を外し始めていた。

「こんな所にいたら聞ける話も聞けねぇよ。だから外に連れていく」

「そんなこと許される訳が無いでしょう!? 今すぐ戻してください!」

止めたくてもこの男はギルドナイト。返り討ちに合うのがおちなので、兵士は顔色を赤へ青へと変えながら必死にフレアを説得しようと試みた。

「大丈夫大丈夫、長官もこのほうが喜ぶと思うぜ? なんせ不安の種が無くなるんだからよ」

――捕虜の無断解放。それの幇助(ほうじょ)。事情を知らないものからすればただそれだけの重罪だ。

フレアは軽くそう言って男を背負うと、固まっている兵士の肩を叩き『長官に説明よろしく』と、恐らく兵士にとって最悪であろう伝言を残して足早に外へと向かっていった。
  ー去り人ー

「どうだ? 結構良い眺めだろ?」

「…………」

じんわりと暖かな日の光が二人を優しく包む。

収容所を出たフレアが向かった先は竜車(アプトノスの引車)に乗って小一時間の場所にある小高い丘の上だった。

足首を隠す程度に生えた草のクッションに座り込むと、まばらに伸びた木々の向こうに広がる緑の海を見ることが出来た。
その広大な森の奥には小さな湖があり、まだ高い太陽の光を力強く反射させている。

「ここは俺の故郷の近くなんだ。この景色を守るために、俺は戦うことを決めた」

「…………」

「もう一つあるが、ここでは言えん」

「…………」

「…………」

(今のは要らなかったな……)

「…………」


不意に、そんな息苦しい沈黙を破るような心地よい風がサァッと流れた。

あちらこちらに咲いた、色とりどりの花がそれに誘われて軽やかに踊る。




「………意識が戻った時、白い光が自分を包んでいた気がする」

くぐもった、それでもはっきりと聞こえる声が髑髏の仮面からこぼれた。

「!」

それは確かに、ここに来るまで終始黙っていた男の声。
落ち着きを取り戻したのか、幾分か感情のある声だった。

「何も覚えてない……気がついたら兵士に囲まれていて……訳も分からず戦った」

「…………」

フレアは何も言わず男の話を聞く。

「また暗闇に閉じ込められた時は、このまま死んでもいいと思っていたけれど……」

ここはずいぶんと良い風が吹くね、そう言った髑髏の顔は微かに緩んでいる気がした。

漆黒の地下室で発狂寸前まで追い詰められていた男は、輝く太陽と穏やかな風の下。
死に物狂いで。
己の理性を自らの力で。
闇から掬い上げた。

フレアは奇跡的にも手遅れになる、そのギリギリの分岐点で彼を救い出すことに成功したのだ。

「なぁ!」

フレアは決心したように立ち上がり、男の方を向く。

「お前これからどうする? もし当てがないんだったらよ……ギルドナイトにならないか?」

「ギルドナイト……?」

訝しげに男は首を捻る。

「そうか、記憶が無……」

「ギルドに所属する組織の一つ、だよね?」

少し驚いた。

「お前……忘れたのはお前に関する事だけでそういう知識は残ってるのか?」

「……いや、それは分からない。けど突然、フッと頭に浮かんだんだ」

困惑した様子で男は額を片手で押さえる。

「……もし知識があるなら俺が教える手間は省けるな。よし! なら後は俺が何とかする」

「…………勝手に話が進んでないかい?」

「大丈夫だ、問題ない」

「そんな馬鹿な……」

「記憶、取り戻したいだろ?」

思いもしなかった一言にポカンとして、空っぽの死神はフレアを見上げた。

「いや、それはそうだけど……それとギルドナイトになることに何の関係が?」

「異論は認めないぜ。ギルドナイトになりゃ行動にかなりの自由が利く。お前の記憶を戻すきっかけを探し回るのも楽に出来るはずだ。手続きは俺がやってやる」

「………どうしてそこまでする?」

髑髏の眼にはっきりと警戒色が浮かぶ。いきなり現れて牢屋から解放し、こんな話を持ちかけるのだ。
手をあげて飛びつくほうがおかしい。

「あー……そう取られたら、まぁそうなっちまうんだが……」 

フレアは頭をガシガシと掻いた。
言葉に詰まると頭を掻くのが彼の癖のようだ。

「確かに頼みたいことはある」

「僕に拒否権はないよ。内容は?」

先程より低いトーンで男が返す。


「……俺に協力してくれないか?」

「協力? 身分もない囚人にずいぶんと畏まった言い方だね」

驚きと皮肉を合わせたように言う。

「お前はもう自由だ。解放したのは俺の独断。だから今お前がどこかに走り去ろうと俺は止めないし止められない」

「…………」

再び頭をガシガシする。

「なんつーかよ、お前とはうまくやっていけるような気がする……そんな直感がしたんだ」

「……直感だけで囚われの犯罪者を連れ出したっていうのかい?」

男はあきれたように言う。

「ああ。俺は直感を信じてきたからこそ今、ここに立ってる」

その燃えるような紅眼は真っ直ぐに男を見据えていた。

「その眼をみれば信じざるを得ない、のかもね。また牢屋に戻されるのも御免だし……ここは協力するというしかないか」

それを聞いたフレアは よっしゃ! と拳を握ってガッツポーズをとる。

「決まりだ! よろしくな『バルス』!」

「バル………ス?」

聞き慣れない単語が自分に向けられ、本日何度目かの困惑した表情――といっても髑髏なのだが――をする男。

「ずっと考えてたんだよ。お前思い出すまで名前無いだろ? でも呼び名は必ず要るようになる。だからお前にコードネームをつける」

「コードネーム……何それ格好良いね」

髑髏に空いた二つの虚が ――気のせいだろうか、輝いて見えた。

「異国の言葉で意味は『終わらせる』。世界中廻ってでも過去の記憶にケリをつけろ……そんな意味でつけた」

「それでバルス……バルス……うん、悪くないね。よろしく、……えっと」

「あぁ、名前まだ言ってなかったな、フレアだ。これからよろしく頼む、バルス」

「フレア……ぴったりの名だね。こちらこそ、よろしくフレア」

バルスは心なしか笑っているように見えた。

「それで何を協力すればいいんだい?」

その質問にフレアはシンプルに、それでいてあまりに大それた答えを告げた。



「国をさ、救いたいわけよ」






三ヶ月後、二国間の戦争を両軍の制圧という力技で終結に導くことになるギルドナイトの戦闘集団『赤鷲』。歴史に名を刻んだこの騎士団を指揮したのは、深紅の騎士団長と漆黒のギルドナイトだったと伝えられている。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――





――パキリ、焚き火の中で小枝が跳ねた。


「………」

シャワはバルスが話終わるまで一度も口を挟まなかった。
いや、挟めなかったのだ。

「ごめん。長々と話しといてなんだけど、結局僕がこうなった理由は分からず終いなんだよね」

「そんなこといいわよ……バルス、あんたギルドナイトだったの?」

「ま、肩書きだけみたいなものだけどね」

「それに五年前のあれに関わってたなんて……」

信じられない、と言いかけたシャワだったがバルスの言葉に嘘は感じられなかった。

「英雄の一人がまさかこんな近くにいたなんてね……」

よしてよ、とバルスは少し困ったように言い、それに……と低い声で続けた。

「当時は英雄扱いも受けたけど、今じゃ『あいつらは勝てた戦いをむざむざ凍結させた逆賊だ』なんて両国から恨みを買うことがもっぱらさ」

「なっ………!」

シャワはその言葉に全身の毛が逆立つのを感じた。

「そんな……! あの戦いは結局意地の張り合い……どちらからも止めれずにいただけで、あのまま続けていればどちらも損するだけってことは明白だったじゃない!」

感謝されこそすれ、彼らを責めるなんてあり得ないはずなのだ。

「彼ら、僕達のことを感謝するってことは、向こうの国に『このまま戦っていたら負けていました』って言うことと同じだってことに気付いたんだろうね」

「それが一体なんだって言うの……!!」

シャワの色が白くなる程拳を握り締める。

だから『国』や『貴族』なんて嫌いなんだ!
体面だけを取り繕って、本当に守らなければいけない人達のことなど考えもしない……!

「シャワちゃん……これは僕等の問題だ。優しい君が怒るような事じゃない」

「ふざけないで! そんな理不尽な連中……! これに怒らないで何をしろって言うのよ!」

虫の声も搔き消え、あたりに静寂が響く。
更に続けようとしたシャワだったが、次の瞬間彼女は黙り込むこととなる。

「シャワちゃん」




静かで、とても低い声。
初めて聞く、バルスの怒りの声だった。

「僕達はこうなることを予期していて戦争を止めたんだ。その覚悟をただ単に『理不尽だ』の一言で蔑ろにしないで欲しい」

「ごめんなさい……そういうつもりじゃ」

ハッとしたように謝るシャワの頭にバルスはポンと手を置いた。

「僕のために怒ってくれてありがとう。大丈夫、いずれケリを着けるさ」

「バルス……」

シャワはバルスをジッと見つめ……そして







――それセクハラだから、と頭上の手を払い除けた。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





早朝、朝靄のかかる集落を二人は後にした。

「だいぶ疲れが取れたわね。誰かさんのせいで少し寝不足だけど」

「切っ掛けは君じゃなかったっけ……?」

「こういうときは女性に花を持たせるのが紳士でしょう?」

「いつも変態変態いう癖に……」

「ギルドナイトなんでしょう? なら正真正銘の変態紳士……もとい変態騎士じゃない」

「流石にあんまりだよ!!?」

朝から相変わらずの喧騒である。

「でもま、村に着けば後はネコタクで帰るだけね」

「シャワちゃん、あのさ」

「ん?」

やっと帰れる! とややご機嫌のシャワにバルスはあるお願いを申し出た。

「……なるほどね。確かにどこで狙われるか分かったものじゃないものね」

「余計な争い事は御免だからね」

バルスの申し出は、自分がギルドナイトであることをこの先他言しないこと。

「任せといて。私、口は固いわよ」

「拳も固いけどね……」

ボソリ呟いた一言は幸運なことに彼女の耳には届かなかった。

その後、特に問題なく村へ辿り着いた二人は事情を話し無事に街へと帰ることが出来た。

「ずいぶんと長いクエストだったわね……」

ギルドに着いて開口一番、シャワは深々とため息をついた。

「ため息をつくと幸せが逃げるよ?」

「なら私の周りは幸せが一杯よ……受け取りなさい」

「いや……遠慮しとくよ」

当然といえば当然だが、クエストの目的を達成できなかった上、一時的な消息不明。
報酬を貰えないどころか捜索にかかったお金を払わせられる羽目になった。

「散々だ………今日はもう休んでゆっくりしたいね。今後どうするかは明日にでも決めようか」

「そうね……取り敢えず休みたいわ。それじゃ、また昼にここで落ち合いましょ」

「了解。……今回はありがとう、だいぶ助けられた」

「なによ改まって……こっちこそお礼を言わせてもらうわ」

シャワは突然のお礼に驚いたが、フッと眉を緩め『ありがと』と笑いかけた。

それじゃ明日。そう言って二人は別れ、それぞれの帰路につく。
月の無い、静かな夜。シャワは部屋のベッドに潜り込むと、帰って来れた安心感からか、すぐに眠りの世界へと落ちていった。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





「いけない!『あれ』 防具に差しっぱなしだった!」

早朝、早起きな街の賑わいでボンヤリと眼を覚ましたシャワだったが、視界の端に映った剥ぎ取りナイフを見つけ、ガバリと跳ね起きる。

ギルドから借り受ける支給品の中でも特に貴重な剥ぎ取りナイフ。
特殊な鉱石を使用しているため非常に良い切れ味を誇るが、その分値段も目の眩むほどである。

「急いで返しにいかないと……! 弁償なんて言われたら終わりだわ」

シェリーなら言いかねない。
非常に精密な作りをしている為、剥ぎ取りナイフは戦闘で使うことは許されない。ハンターになる際真っ先に教わることの一つである。

「ナイフというか、包丁みたいな扱いなのよね」

剥ぎ取りナイフを手に取りまじまじと刃先を見つめる。
研ぎ澄まされた刀身に波打つ波紋。銀色に輝くそれはシャワの金色の瞳を鮮明に映し込んでいた。

「……ってこんなことしてる場合じゃないわ!」

我に帰ったシャワは慌てて宿舎を飛び出すと、ギルドへ向かって走り出した。



「ちぃっ! ……あぁ良かったわー! 丁度連絡を入れようと思ってたのよ」

「今軽く舌打ちしたわよね?」

肩で息をしながらシャワは剥ぎ取りナイフを手渡す。
起き立てでダッシュはやはりきつい。

「気を付けなきゃだめよ? そして無くすならしっかり無くして頂戴」

「もう断固として忘れないわよ!」

「ならいいんだけど、とりあえず朝早くからお疲れさま。昨日の今日だし、後はまたゆっくり休んでなさいな」

無事にナイフを届け終えたシャワはあることを思い立った。

(バルス……どうせ寝てるわよね。何か朝食になるものでも持っていってあげようかしら)

そう思ってシェリーにバルスの宿舎の場所を訪ねたのだ。
ギルドがハンターに提供している宿舎は数多く、低ランクから高ランクまで合わせると場所を聞かなければ個人を見つけるのは困難である。


場所を教えてもらったら行って驚かせてやろう、そんな軽い気持ちで訪ねたのだが、受付嬢の答えは思いもよらないものだった。


「え? バルスさんなら昨日のうちに朝までの支払いを終えてたから、もう街を出たと思うけど?」

「街を……出た!?」

昨日の今日でもうクエストに出たのだろうか?
そうであって欲しかった。
しかしその期待も次の言葉によってバラバラに粉砕された。

「それにバルスさんはこの前、このギルドとの契約も切ってたからもう帰らないと思うわよ?」

聞いてなかったの? とシェリーは不思議そうな顔を浮かべてる。




ずしり、と。
石でも飲み込んだような感覚が胸に広がった。
―道標―


「そんな……どうして?」

激しい衝撃を受けながらも、頭の中で必死でその理由を考える。


ギルドの契約を切った!? どうして何も言わずに……?
約束だって………まだ……


「あ………!」

そこで気付いた。


そして走り出していた。


(私はバカだ………バルスはあの夜からそう決めていたんだ)

なぜあんなに素直に自分の素性を話したのか。
私が怒ると知っていただろうに、なぜあんな話をしたのか。
別れの時、普段言いもしないお礼なんかを言ったのか。



何でいきなり消えたのか。

全部が全部私から離れるためだったんだ。

「あいつといることが危険だってこと……そんなことは分かってたわよ!」

どこまでが彼の考えか分からない……けれどまだ追い付けるはず! まだ間に合うはず!

「はぁ……はぁ……」

シャワは街の入り口までひたすらに走り続けた。

しかし辿り着いた城門に。
そこから伸びる道にあの見慣れた黒い背中は見えない。

「……流石にこんな別れは……あんまりじゃない」

ぺたりと地面に座り込む。


彼のことだ。
きっと他のハンターと狩りをした時は事情なんて話はしなかっただろう。
したところで信じてもらえる確率なんか知れている。
そして素顔を決して見せない髑髏のハンターは訝しがられ、疎まれ、怖がられてきたのだ。

『僕が怖くないのかい? みんな不気味がって近寄らないっていうのに』

『変態を怖がるほど繊細じゃないわ』

『…………なんか嬉しいな』

『その言動がもはや変態じゃない!!』

『それは違うよ!?』

砂漠でそんな会話をしたこともあった。

「バカ……これじゃまた一人じゃない……」

もう手の届かない所にいるだろう彼にそう呟く。

もう少し上手くできれば、理解者だって出来るはずなのに。
でもこんな風にしか出来ない。
どこまでも不器用なんだ……と彼女は思った。





「やぁすいません! 急にお腹が痛くなったもんで……」

「いいよいいよ。それじゃお気をつけて」

「守衛さん、じゃあ行ってきます」

「はいよ」


「…………ん?」

聞き慣れたくぐもり声が後ろから聞こえたような気がした。

「………え!? シャワちゃん?」

「……………バルス?」

街門の守衛小屋から出てきたバルスは黒いギルドスーツを身に纏っていた。

「何でここに……」

「ふざけんじゃないわよ!!!」

まずは怒りが噴き出した。

「シャワちゃ……」

「あんた私をそんなにやわだと思ってるの? あんたの背負ってるものなんて関係ないわ! そんなことで何も言わずに去ろうなんて偽善もいいとこよ!!」

何故か知らないが、次はボロボロと涙が零れ落ちた。

「……私も一緒に旅に出る!」

「えぇ!?」

突然泣き出したシャワにそんなことを言われ、目に見えてバルスが慌てているのが分かる。

「待って! それって………」

「分かってるわ」

「そういうことじゃ……」

「私は前から旅に出ようと思ってて、目的もある!」

「だから………」

「だからお願い! 連れてきなさい!」

「ちょっ待って! 最後まで喋らせて!」

バルスが両手を突き出してシャワを制した。

「…………」

「……何か勘違いしてないかい?」

「……え?」

赤い目を擦りながらシャワは頭にクエスチョンマークを浮かべる。



「確かに僕は近々この街を離れるつもりだけど、今はギルドナイトとしての仕事に行くだけで昼には帰る予定なんだよ?」








「は……?」

カァと頬が熱くなるのがわかった。

「そっそれじゃ、ギルドの契約を切ったってのはどういうことよ?」

「え? 確かに街を出るときに備えて今度、契約を切るって話はしたけど……」

顔がますます赤くなる。

「シェリーのやつ……!」

思わずまた名前を名前を呟く。
つまりは、計られたのだ。

うつむいて押し黙るシャワをバルスがおずおずと覗き込む。

「シャワちゃん……何かごめん……。とりあえず僕は仕事にいかないと……話は昼に……」

「うっさい早く行け!!」

「ごふっ!?」

ブンと振るわれた腕がバルスの顎を捉える。

もう怒ってるのか恥ずかしいのかも分からない。
シャワは倒れ込むバルスをそのままに、足音を荒げながら宿舎に帰っていった。



――――――――――――

「支度は出来たかい?」

「ええ」

二日後の街門に、荷物を背負った二人が今度はしっかりと並んでいた。

「気を付けてね、シャワ」

見送りに来たシェリーがニコリと笑う。
そんな彼女が顔を真っ赤にしたシャワに胸ぐらを捕まれて揺さぶられたのは昨日の話だ(ちなみに彼女はその時もニコニコとしていた)。

「私が気を付けなきゃならないのは貴方だってよく分かったわ……」

むっすりとするシャワにシェリーはくすりとして訂正した。

「そうね、言い直すわ。上手くやりなさいね、シャワ」

「何をっ!?」

またもや赤面したシャワが投げたペイントボールをシェリーはひょい、と可愛らしく小首を傾げて避けた。

余談であるが、後に巷で広がることになる『受付嬢、最強のハンター説』はこれを間近で見たハンター達が発端である。

「……? じゃあそろそろ行こうか」

「うぅ……」

何が起こってるのか分からない様子のバルスが、今だに唸っているシャワを促す。

「ええ、早く行くわよっ!」

もう泣かせちゃダメですよー、などと言っている受付嬢から退散するため、シャワはバルスの背中をどつく。

「はぁ……当分ここには戻りたくないわね」

「え? いい街だったじゃないか?」

「…………」

やっとのことで街門を出ると、いくつもの道がのびているのが目に入った。

「ねぇ、どの道を行くの?」

気持ちを切り替えたのか、シャワは期待を込めて軽やかに言った。

「僕らの目的は地道に探すしかないからね……いつも通り自由に」

「気ままに?」

「うん。あ、でもあの二人から手紙が来ていたか」

バルスが思い出したように手を叩く。


「そうだったわね。それじゃ最終目的地はそこにして……とりあえずはゆっくり行きましょうか?」

「悪くないね」

「それじゃあ」

「うん」

一人で旅立つのは不安だった。
だから私は待っていたのかもしれない。
心の開けるパートナーが現れるのを。
始まりはただ踏ん切りのつかない自分への甘えだったのだが。
それでも素晴らしい巡り合わせは起きた。
なら、少しは感謝しないといけないのかしらね。



「「ユクモへ!」」



ここまで私を導いてくれた沢山の小さな道標(みちしるべ)。



――それは、これから先も続いている気がする。


                          【次章へ】
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楽太郎

Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
楽しんで読んでもらえたら幸いですね
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