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【クエストが終了しました】

「あぁ疲れた……」

「お疲れ様ー」

太陽が散々と照りつける真夏の孤島。
男女のハンターは木が重なり合う天然のトンネルの中、静かに倒れるリオレウスを眺めていた。

「それにしても……」

「うん……」

目標は無事達成したようだが、それに似合わず何故か顔は不満そうである。


すると、

「二人ともお疲れさまー!」

背中に花を背負った娘が、何処からかこちらに走ってきたのだ。

緑色のフードを深く被っており、顔はよく見えない。

彼女に気付いた男のハンターは、怒りをあらわにして怒鳴る。

「おい! お前今まで何処にいたん……ぐぁっ!?」

フードの娘の口元はニヤリと笑っていた。
途端、男が宙を舞う。

「ちょっと!? あなた何して……きゃあ!?」

続いて、女のハンターも同じように飛んだ。

「へへっ」

何とその娘は、二人をハンマーでかち上げたのだ。

「いただきぃ!」

その隙に二人が討伐したリオレウスから剥ぎ取りを始める。

「やったっ! 紅玉ゲットぉ!」

「いてて……おい! 一人じゃ不安だからって言って着いてきたくせに何て事しやがる!」

「うぅ……そうよ! 全然手伝いもしないでこんなことっ……!」

それを聞いた娘はフードを取り払い、舌を突き出した。

ふわり と肩に触る位の長さで揃えられた白い髪が風に流れる。

日光に照らされて銀色に煌めく髪に、二人は一瞬怒りを忘れて見惚れてしまう。

「あははっ! 騙される方が悪いんだよ! 私の為にどうもありがとねー!」

「っ……てめぇ!!」
「待ちなさい!」


じゃあね! そう言って笑いながら逃げ出す彼女の名前はチョモ(chomo)。
両親から貰った、古い伝説にある気高き山からつけられた名前だが、これはその名を地に落とすかのような振る舞いをしている彼女が更正し、後に「天山の女神」とまで呼ばれる伝説のハンターになるまでの、そんな話である。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


小さな村の酒場に一際響く声が一つ。

「いっただっきまーす!」


豪華絢爛。


嬉々としてフォークとナイフを構えるチョモの前には、女帝エビのソテーやキングターキーの丸焼き、ピンクキャビアなど、貴族でも宴でしか食べない程の高級料理が並べられている。

「いやぁ、こう毎度楽に稼げるなんて……みんなチョロいよね~」

彼女が料理に舌鼓を打っていると、バンッ! と大きな音を立てて酒場の扉が開かれた。

「おい! チョモ! お前またやらかしやがったな!」

「……フレア」

チョモは即座に顔をしかめる。

入ってきたのは、燃えるような赤い長髪に、紅く整ったベストを着た青年――名はフレア(Flare)。
現役のギルドナイトであった。

「ギルドへのハンターからの苦情……これで何十件目だと思ってやがる!」

酒場に響く声に客の注目は二人に集まる。

「そんな苦情だなんて……だいたい悪い事なんかしてないし! アタシが『ちょっと』道に迷ってる内に『たまたま』討伐が終わっちゃってただけだよ!」

「ほう……何時間もベースキャンプで寝てんのが迷うって言うのか?」

「う、何で知って……違うっ! その時は体調が急に悪くなったの!」

「毎回毎回か? そ・れ・がそうだって言ってんだよ!」

そんなやり取りを続けていると、フレアは「ハァ」と深いため息をつく。

「お前なぁ……こんなことばっかしてると、いつか絶対後悔するぞ?」

その言葉に彼女はキッ! とフレアを睨む。

「ふん! あんな狩りの腕に自惚れて周りも見れない奴らをカモにして何が悪いってのさ?」

「開き直りやがった……手癖ばっかり悪くしてねぇで、狩りの腕を少しでも上げたほうが絶対お前の為に……」

「うっさいなぁ! アンタは父親のコネだか何だか知らないけど、一人で勝手にギルドナイトなんかになって偉そうにさ!」

チョモはフレアの言葉を遮ると、おもむろに立ち上がった。

「なっ! 親父は関係ねぇだろ! 俺はちゃんと勉強して……っておい! 待てっ!」

「フレア……アンタやっぱり昔と変わったよ」

そう言い残したチョモは、すでに酒場を扉を抜けた後であった。

「あいつ……それはこっちの台詞だろうが……」

会話が終わり一瞬の静けさが訪れるが、二人のやり取りを見物していた客も次第にフレアから視線を外し、酒場はすぐに賑わいを取り戻した。


「フレア君も大変だねぇ。幼馴染みがあんなに元気だと」

扉を睨んでいるフレアの肩を酒場の料理長がポンと叩く。

「おばちゃん……別に俺はただ任務として……」

料理長はそう言うフレアに対して、ニコリと笑いかけると、

「フレア君、チョモちゃんの代わりにここのお勘定、貰ってもいいかな?」

「は?」

バッと机を見ると、そこにはキチンと領収書が置かれていた。

「あの野郎………っ!」

酒場に二度目の怒声が響き渡ったのは言うまでもない。


        ◇


「皿洗いって本当にやらされるんだな……」

げっそりとしたフレアは、沈みかけの太陽を見て更に愕然とする。

「チョモのやつ……今度会ったらタダじゃ済まさねぇ……!」

そう毒づきながらフレアは夕暮れの村道を歩く。


「………」

『一人で勝手にギルドナイトなんかになってさ!』

『フレア……アンタやっぱり昔と変わったよ』


頭の中にチョモの声が響く。

「でもあいつがああなっちまったのは……やっぱり俺のせい……だよな」

そう呟くと、途端に過去の記憶がフラッシュバックする。

村の中でも裕福な家の子供だったフレア。

彼は幼少期の頃から活気溢れる少年で、毎日のように探検と称して様々な所に出掛けていた。

そんなフレアはある日、村外れにある小さな森へと迷い込んだ。

「忘れるはずねぇ……そん時だ……あいつと初めて会ったのは」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「すげぇ! お城みてーだ!」

少年時代のフレアが森の中で発見したのは、小さく切られた岩で組み立てられた古い建物だった。

これは凄いものを発見したぞ! と中へ入る場所を探したフレアだったが、

「ちぇっ……柵があって入れないや」

建物の周りには庭が広がっており、鍵のかかった入り口から庭を囲むように高い木の柵が立てられていたのだ。

「うーん……どっかに……」

何とか入ろうと、穴でも無いかと柵の周りをぐるぐると回っていると、

「あ!」

柵が痛み、何とか抜けれそうな穴が出来ているのを見つけたのだ。

「よし潜入ー!」

そこへ入ろうと身を屈めた時、

「………誰?」

急に上から声が聞こえた。

「え?」

ふと顔を上げると、柵の向こう側には一人の少女がいた。

フレアは一瞬にして目を奪われてしまった。

風になびく、腰まで伸びた純白の髪。

純銀に輝くそれは、自分のまだ短い人生の中で最も美しい光景だった。

「……あなたは何処から来たの?」

「えっ……あ、俺は村から来たんだけど」

フレアは我に返ると、少女と互いの事について話し合った。


           ◇


「ふーん、外ってそんなところなんだ」

柵越しに話す彼女はチョモといい、この『こじいん』という建物で『しすたー』なる人と暮らしているのだそうだ。

「あ、他にも友達はいたんだよ?」

皆、外へ出ていっちゃったけどね…… と彼女は顔を寂しげにうつ向かせた。


「じゃあさ! 一緒に遊びに行こうよ!」

フレアの口は考える間も無くそう言っていた。

「え? でもシスターが外へ出ちゃダメだって……鍵もかかってるし」

「ほら、ここから出れるんだ。村を見に行こうよ! すぐに戻れば平気だよ!」

その提案にチョモは少し考えるように、また少しうつ向いたが、

「……うん! わたしも村を見てみたい! 案内お願いね? フレア」

「うん! 任せて!」

そして二人は森を抜け、村へとやって来た。

「凄い! 家が沢山あるよフレア!」

酒場や雑貨屋……村の建物は少なかったが、チョモを喜ばせるには十分だった。

二人はその後、森の中を散策して夢中で遊びまわった。

そして、充分に遊んだ二人は再び柵の前まで帰ってきていた。

「今日はすっごく楽しかった! ありがとうフレア!」

にぱっ と笑う彼女の笑顔はとても嬉しそうで、

「だったら明日も明後日も一緒に遊びに行こうよ!」

そう言わずにはいられなかった。

「ホント!?」

チョモの顔がさらに輝く。

「もちろん!」

それからフレアは毎日のようにチョモを連れ出しては村へ行き、森で遊んで過ごした。

酒場の料理長などと顔馴染みになったチョモは、次第に村人にフレアの幼馴染みだと認識されるようになった。
しかし孤児院から勝手にチョモを連れ出して手前、フレアは父親に怒られるかもしれない。だから村人には秘密にしてくれるように頼んでいた。

同年代の子供が村にいなかったのでフレアは毎日がとても楽しくなり、このままずっとチョモと一緒に遊んでいたい――そんなことを考えていた。


あの日までは……




「フレアー! 待ってよー!」

「早く来いよチョモ!」

二人が出会って数ヶ月が過ぎたある日、二人はいつもの様に森で遊んでいた。

「待ってったらー!」

「あはは! ……っと……いてっ!」

後ろを向いて走っていたフレアは木の根に躓いて転んでしまった。

「大丈夫!? フレア!」

「うん。ちょっと擦りむいちゃったけど、ほら、全然平気!」

そう言って擦りむいた膝をチョモに見せる。

膝は少し血がにじんでる程度で、怪我としてはほとんど心配ないものだった。

だが、

「………チョモ?」

それを見たチョモは突然ガクガクと体を震わせ、

「ち……血……!! いや……いやぁぁぁぁぁ!!」

チョモは急に錯乱し、頭を押さえて倒れたのだ。

「チョモ!? どうしたんだよチョモ!」

「うぁぁぁ……ぁぁぁ!」

チョモの様子は尋常ではなかった。

「……!? い、医者につれてかなきゃ!」

フレアはすぐにチョモを背負うと、村の医者の所まで走った。

 
          ◇


「フレア! 何故『孤児院』にいたチョモを連れ出したりしたんだ!」

その日の夜、フレアは父親から激しい叱りを受けていた。

「ご……ごめんなさい!」


フレアの父親は厳格な人で、やんちゃなフレアが唯一恐れる存在だった。
その父が今までで見たこともないほど激怒している。


「でも……チョモはとても寂しそうで……だから……!」

「言い訳など聞きたくない! どんな理由があろうともお前のしたことはただの偽善でしかないんだ! それが彼女を危険に晒したんだぞ!」

「………!」

ビクリ とフレアの肩が震える。

「だが……この家の長男なら知らなくてはいけなかったことか……」

フレアの父親は少し考えるように黙り込むと、「いいかフレア……」と話始めた。



「あの子……チョモは私が拾ってきたのだ。戦場でな」

「戦……場……?」

普段では聞くことのない単語にフレアは戸惑う。

「この国と隣国が長年対立関係にあるのは知っているだろう?」

「それは……知ってるけど」

「うむ。それによって、大規模……とまではいかないが、それでも一つの村や町を巻き込むレベルの争いは絶えることがない」

モンスターによる被害も増えてきているしな…… と父は顔をしかめる。

「私はそんな争いを疎んでいる。出来ることならやめさせたい……そう躍起になったこともあった。だが、たかが地方の領主では出来ることは少なかったのだ」

「父さん……」

父親は悔しそうに歯を食いしばった後、懺悔をするように続けた。

「だから私は孤児院を建て、戦場で取り残された子供を拾っては孤児院へと預けてきたのだ」

「父さんがあれを……?」

フレアの父親は紛争が起きる度にその地へと赴いて子供を孤児院へと送ると、体と心の傷が癒えた頃に里親を探すという活動をフレアが生まれる前から続けていた。

チョモも四年ほど前に孤児院へと送られた一人だった。

「だがチョモだけは心の傷がいつまで経っても癒えることが無かった」

「なんで……チョモだけが?」

その問いに父親は少し躊躇った後、重い口を開いた。

「恐らくチョモは目の前で親を無くしたのだろう」


「!」

幼いながらもそれがどんなことかはフレアにも容易に検討がついた。
父親の言葉は大きな衝撃をフレアに与えていた。


「血を見ると錯乱してしまうのはその為だろう……」

「チョモは今どうして……!?」

聞かずにはいられなかった。

「大丈夫だ。少し時間が経てば落ち着くだろう」

「よかった……」

安心したフレアだったが、父親の次の一言で再び驚愕することとなる。

「フレア、もうすぐお前は10になるだろう」

「え、そうだけど……」

「いい時期だったのかもしれないな。領主の息子…いや、私の息子として命令する。知識をつけ、鍛練を積むために街へ出なさい。そこでお前の未来を決めてこい」

「街へ……? でも……」

「確かに急な話だ。お前が納得するまで話をしよう」


父親の話はチョモの、そしてフレアの為にも重要な話であった。
今のチョモにこれ以上刺激を与えれば心身共に危険にさらすことになる。
これ以上チョモのような子供を増やして欲しくない、そのためにはお前の力が必要なのだ――父親の言葉はフレアの心に正義の心を芽生えさせるに十分であった。


――次の日の朝、フレアは村を静かに後にする。


しかし顔はすでに希望で満ちており、その胸には秘めた熱意があった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



当時の私は大人しい子供だったらしい。

貧しくも、明るい父親と優しい母親と一緒に暮らしていた。

だけど、あの時……

私の目の前は一瞬にして真っ赤になった。

その後の事はよく覚えていない。

気付いたら知らない天井を見ていた。

するとシスターという女性が、涙の止まらない私をいつまでも抱き締めてくれたのを覚えている。

「ねぇシスター。どうして他の子は居なくなっちゃうの?」

ある時私はシスターにそう聞いたことがある。

すると、

「あの子達は新しい希望の光を見つけたのよ。大丈夫……あなたも直に見つかるわ」

と言っていつものように抱き締めてくれた。

「……? シスターはいなくならない?」

「えぇ。私はいなくなんてならないわ、あなたが自分を取り戻すまでは」

シスターの説明はよく分からなかったけれど、シスターがいてくれるならそれで良かった。

しばらく経つと、私以外の子供はついに一人も居なくなった。

シスターによると、

「それは良いことなのよ」

と言っていたが、何が良いのか全く分からなかった。

一人で一日の大半を過ごすことに慣れた頃、私は柵の外の世界に思いを馳せることが多くなっていた。
ぼんやりと覚えている外の記憶……でもよく思い出そうとすると頭が痛くなるからやめた。

そんなある日だ、私は一人の少年と出会ったのは。

フレアといったその男の子は、私の憧れていた外の子供だった。

「外に出てみようよ!」

彼は私の憧れを一瞬で現実にしてくれた。

彼と遊ぶことは今までのどんなことより楽しく、新鮮なものだった。

シスターにバレないかと不安だったが、何とか誤魔化せていた。


「俺さ、ギルドナイトになるのが夢なんだ」

森にある小さな湖、そのほとりである日、寝そべりながら彼は夢を語った。

「『ぎるどないと』って?」

初めて聞く言葉に私は首を傾げる。

「悪い奴やモンスターを倒して平和を守るカッコイイ人達なんだ! 俺の憧れの存在だぜ!」

そう言ったフレアの目はキラキラと輝いていた。

「そんなカッコイイなら、私もなりたいなぁ」

思わずそんなことを呟く。

「チョモならなれるよ! 一緒に村の平和を守ろうぜ!」

「うん!」

私とフレアは指切りを交わした。

「ずっと一緒な!」

「ずっと一緒!」

約束を交わすというのがこんなにもドキドキするものだったなんて、私は嬉しくてたまらなかった。

でもその後、一緒に森を走り回って遊んでいたフレアが転んだ。

大丈夫? そう言って駆けつけた後の記憶が、私にはない。




――そして目が覚めたら



フレアは村からいなくなっていた。




騙された。


裏切られた。


約束を破られるのがこんなに辛いものだなんて、私は胸が今にも張り裂けそうだった。

その頃からだろうか、私の心がネジ曲がってしまったのは。



それから数年経った頃、孤児院を出た『アタシ』はハンターになっていた。


――理由?

報酬がいいから。

それを期に髪はバッサリと肩まで切った。

邪魔だったから。

昔から『アイツ』と森で罠などを作って遊んできたせいか手先は器用だったから、ギルドの規定年齢なんて簡単に偽造できた。


私が選んだ武器はハンマー。

苦手な血があまり出ないからだろうか……自然にこの武器に手が伸びていた。

初めのうちはアタシも一生懸命戦っていた。

けれどアタシはすぐに気付くことになる。


自分には狩りのセンスが無かったと。

大量の血を見ればまだかすかに震えてしまうし、殴り付ける感触も慣れなかった。

そんな当時のアタシの面倒を見てくれたのは、夫婦で狩りをやっているというハンターの二人組だった。

彼らはとても優しく、

「君はそこで見てればいいから」

と笑って、二人で狩ったモンスターの報酬を無償で分け与えてくれた。

彼らも初めのうち位は…… と考えていたのだろうが、

私はそれにヤミツキになってしまっていた。

何も働かないで報酬だけを貰う。

こんな楽なことがあるだろうか?

その夫婦も暫くはそれを許してくれていた。

だがある日、急に別れを告げられた。

その時私が思ったのは、悲しみでも怒りでもなく、
「あぁ、次の相手を見つけないと」という無機質な考えだった。

それからは一緒に狩りをしてくれるハンターを転々とし、様々な理由をつけて彼らから報酬を奪っていった。

しかしそんな横着が永遠に許されることはなかった。ある日、噂を聞き付けたギルドナイトが私に警告を伝えにやって来たのだ。


それがフレアとの再開だった。



「お前……チョモ……か!?」

「………あんた、フレア?」

彼を見た瞬間、懐かしさが一気に込み上げる。

実に五年ぶりの再開だったから。

「お前……今までどこに居たんだ! 俺は必死に……」

「うるさい!」

でも私の口から出たのは拒絶の言葉だった。
懐かしさと一緒にそれ以上の憎しみが浮かび上がってきたのだ。

「私を置いて村を出て……もうお前の事なんか知らないんだよ!!」

それでも……。

「チョモ……俺は……」

嗚呼…… とアタシはそれでも自覚した。

アタシは……私はこんなにも寂しかったのだと。
一番強い思いは悔しいことに喜びだったのだから。

その後もアタシは活動をやめることなく、その度にフレアはアタシの元へとやって来た。

初めは激しく拒絶していたが、フレアのあまりのしつこさにアタシも拒絶することを諦め、昔とはだいぶ違うが、普通に会話を交わすようになっていた。


そして今に至る。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



ずいぶん長く回想をしていた様な気がする。

夕方の草むらに寝そべっていたチョモは足音を聞いて起き上がった。

「あ、フレア……」

やけに哀愁を漂わせながら歩くフレアを発見したのだ。

フレアからは死角になっていてこちらの姿は見えない。

(あ……そういえば領収書置いて出ていっちゃったからなぁ……もしかして皿洗いでも?)

彼女の小さな良心がチクリと疼く。

(でもアイツが怒鳴り込んでくるから悪いんだ!)

そうやって一人で弁護していると、

「あいつがああなっちまったのは……やっぱり俺のせいだよな」

彼らしくない、えらく沈んだ声が聞こえてきた。

(……フレア)

彼が自分が倒れたのがきっかけで村を出たことは、後で村人から聞いて知っていた。

(違う……確かにきっかけはそうだったかも知れないけど、その後は私の……)

「おい! ついに見つけたぞ!」

「………っ!?」

突如、チョモは後ろから何者かに後頭部を殴られ、彼女は静かに意識を落とした。


             ◇

ピチャン、と水滴の落ちる音でチョモは目を覚ました。


「…………ここは?」

辺りは暗く、様子は分からない。

「……うっ!」

頭に激痛が走る。
だいぶ強く殴られたようだ。

少し目が慣れてきた。
どうやら倉庫のようだが、周りはやはり暗くてよく見えない。

「………っ! 体が動かない!?」

ここでチョモは腕と足を強く縛られていることに気付いた。

「おっ、目が覚めたみてぇだな」

「誰!?」

不意に後ろから声をかけられ、チョモはそちらに顔を向ける。

「は? まさか俺を忘れたわけじゃないよな?」

「……お前っ!」

そこに立っていた男は以前チョモが手柄を横取りしたハンターの一人だった。

「まだまだいるぜ?」

ぞろぞろと後ろの暗がりから現れたのも今までチョモが騙してきたハンター達だった。

「私たちはねぇ……分かると思うけどさ、アンタの被害にあった連中の集まりよ」

またもや見覚えのある一人の女がそう言って睨み付けた。

「散々ギルドに文句を言っても全く被害が減らねぇからよ、調べたら一人のギルドナイトがてめーのことを庇ってるやがった! ギルドナイトが庇ってんならラチがあかねえ……だからこうして集まって直接お前に報復してやろうって決めたんだ」

(まさか……フレアが?)

チョモの頭に彼の姿が浮かぶ。

「でもお前の周りにはいつもその邪魔なギルドナイトが引っ付いてやがって……今日は運が良かったぜ」

『いつか必ず後悔するぞ!?』

(フレアはアタシがヤバイことを知ってたからいつも近くに………?)

「よくもこんな人数を手玉に取りやがったな……生きて帰れると思うなよ? っておい! 聞いてんのか!」

倉庫中に怒声が響き渡る。

「……っ!」

怒鳴った男が近くに落ちていた角材を拾うと、それを持ってチョモに近付く。

「全く反省してないようだからな、この際しっかり反省させてやるよ! 死ぬまでな……」

(コイツら……本気でアタシを殺す気だ……)

「す、好きにすればいいだろっ!」

そうは言ったが体が恐怖に震えるのを止められない。

「その威勢がいつまで持つかな? 順番にコイツでぶん殴っていこうぜ、まずは俺からだ」

(これが報いなの……?)

「覚悟しろよ」

冷たい低い声でそう言うと、男は角材を振りかざす。

「ひっ……!」

それを見たチョモは咄嗟に目を瞑る。



(ごめん……フレア)




その瞬間、鈍い音が倉庫に響いた。






「ぐあぁぁ!?」

チョモは驚いて目を開いた。
初めに目に映ったのは角材を落として吹き飛ぶ男の姿。


――そして

「ちょっとは反省したか?」


「え……?」


そして次に映ったのは紅。


「てめえ! 何で邪魔しやがる!」

取り巻きの男が怒鳴る。




「てめぇら……チョモに手ぇ出してんじゃねーよ!!!」

フレアは叫び、長く赤い髪が宙に舞う。

その瞬間、フレアはハンター達を一蹴していた。

その髪は倉庫の合間から入り込んだ月の光に照らされ、まるでルビーのように輝いていた。

「あ…………」

一瞬で目を奪われる。

「チョモがこんなことをしちまったのは俺の責任だ! だからな、コイツに危害を加えてみろ! 全員ぶっ飛ばすぞ!」

「ふ……フレア!」

フレアは鬼神のような形相でチョモの前に立ちはだかっていた。

「ちっ……! あのギルドナイトかよ……だがよ! お前のやってることは正しいのか!? ギルドナイトだったらまずソイツをとっ捕まえろよ!」

ギルドナイトは並みのハンターでは太刀打ち出来ない強者の称号。

すでに大半のハンターは逃げ出しており、追い詰められた男はフレアにそんなことを口走っていた。

「俺がギルドナイトになった理由は2つ。1つはあらゆる戦争を終わらせること」

そしてもう1つは……とチョモを指差した。

「コイツを守ってやることだ! 分かったらとっとと失せやがれ!」

「……くそっ、いかれた野郎め! 覚えてやがれ!」

フレアの一括に男は完璧な捨て台詞を吐いて、慌てて逃げ出していった。

「ふぅ」

場が収まると、フレアは軽く息を吐く。

「フレア……?」

初めて本気で怒ったフレアを見て、チョモが恐る恐るといった様子で声をかける。

「俺はさ、あの日からお前を守るって誓ってたんだ」

フレアはチョモに背中を向けたまま話り始めた。


「だから親父から街へ行けと言われた時、チャンスだと思った。あの時の俺はまだ何も持っていなかったからな」

「フレア……私は……」

「だけどな! 今は違う。5年間ギルドナイトになるために必死でやった!」

フレアはそう言ってチョモの方に振り返った。
額から赤い筋が何本か流れた。
角材が当たっていたのだろう。

「お前を置いてきちまったことを悪いと思ってたから、今まで様子を見ちまったがな! こんなことになるならもう遠慮はしねぇ! 引っ張ってでもお前を更正させてやる! 二度と目を離さねぇから覚悟しとけよ!」

ビシッ! とチョモに指をさすフレア。

急な展開にポカンとしていたチョモだったが、

「へへっ……よろしくね! フレア」

昔のような眩しい笑顔をフレアに向けた。

「あ……ああ! 任せろ!」

昔同じような会話をしたような気がした。
「と、ともかく! これに懲りたらあんま無茶なことすんなってことだ!」

勢いで言ってしまったことを後悔しているのか、フレアは照れ臭そうに横を向いてしまう。


「…………ありがとね」

「ん? 何か言ったか?」

「別に」

不思議だ。
フレアの横顔を眺めていると、心にふんわりと暖かいものが流れ始る。
忘れかけるほどに久しぶりの感覚だった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



―孤島―

「うぅ……」

「チョモ……流石になまりすぎだろ……」

あれから三日後、二人は孤島に狩りの練習に来ていた。

「仕方ないでしょ! 真面目に戦うなんてホントに久々なんだから!」

チョモは肩で息をしながら言う。

「でも下位のクルペッコだぜ……? 肩書きは上位ハンターなのになぁ……」

「私もここまでとは思わなかったっての……」

あの一件以来、なぜかチョモは一人称を『私』に戻した。

髪も以前より少し伸び、少し大人っぽいイメージになっている。

「よし、分かった。お前は後ろに下がっとけ」

フレアは大剣を握ると、地面に降り立ったクルペッコに向き合う。

「ちょっと! それじゃ……」

前と変わらないじゃん! そう言おうとしたチョモだったが、フレアはクルリと彼女の方を見ると、

「ちげーよ。チョモ、お前俺のサポートに回ってくれないか?」

「さぽーと?」

「あぁ、粉塵とか罠とか一応持ってきてただろ? お前はそっちを全力でやってみてくれ」

「! 分かった!」

狩りはただ攻めるだけではない。
一人一人役割を分担することで狩りを何倍も有利に進めることが出来る。
そんな基本をチョモは今思い出した。

「手が空いたらそのハンマーで遊撃しながら麻痺を狙ってくれ! 大丈夫。お前なら、出来るさ」

「……任せて!」

心のどこかで焦っていた自分がいたのかもしれない。
フレアの言葉はチョモのそんな焦りを見越したように、力強く胸に響いた。


チョモの眼は、初めて、ハンターの眼になっていた。



――そこからのチョモの活躍は、彼女の実力を知ってるものが見れば目を疑う程のものであった。

幼い頃に培ったテクニックで的確に罠を仕掛け、フレアが傷ついた時には抜群のタイミングで回復させた。

ずっと相手の様子見を続けてきた彼女の目は、とても優秀な観察眼へと育っていたのだ。

(すげぇ……! 狩りがこんなに楽になるかよ普通……)

ふとした思い付きから彼女の隠された才能を発見してしまったフレアは若干の焦りを感じたものの、それを知ってか知らずかチョモは着々と腕を磨いていった。


「こりゃどえらいのを起こしちまったかもなぁ……」


~組めば怪我をしないで狩猟から帰ってこれる、女神のようなハンターがいる~


そんな噂が広まるのは時間の問題だった。


――数ヶ月後


二人は村を離れ、街のギルドに拠点を移していた。

「フレアー! また狩りに誘われたから一緒に来てよ!」

「またかよ!? この人気者が……俺はまだギルドナイトの仕事が残ってるんだぞ。たまには一人で行って来たらどうだ? 『天 山 の 女 神』 様 !」

大層な二つ名を貰ったもんだ とフレアはニヤリとしながらそんな彼女の顔を見た。

「ちょっ……! そんな名前で呼ばないでよ! それに目を離さないって約束したじゃん!」

チョモはぷぅと膨れてフレアに詰め寄る。

「あぁ、そうだったな」

んな彼女の様子に、そフレアはやれやれと腰を上げる。

今、フレアとチョモは一緒にギルドナイトの仕事をしながら狩りの依頼をこなしている。

「じゃ、行こっか!」

にぱっと微笑むチョモ。

装備している天城シリーズという防具も相まって、本当に女神のようだ。
でもそんなことは思っても絶対に言いたくはない。

そんな彼女がハンター達の絶大な人気を獲得し、ギルドも説得して『ギルドナイト補佐』という美味しいポスト(低労働高報酬)を無償でもらってフレアを大変悔しがらせたのは少し前のことである。



~~~~~~~~~~~~


「……チョモ。少し大事な話がある」

狩りの帰り、前を歩くチョモにフレアは真面目な声で呟く。

「ん?」

チョモはきょとん とした顔でこちらを向いた。

「また紛争が始まった。しかも今度は大きい」

「…………」

それを聞いた彼女の表情も引き締まる。

「紛争を止めに行くっていうの?」

「……そのつもりだ。上には話を通してある」

フレアの表情は揺るぎのないものだった。

「なら私も行く」

「駄目だ。お前にはお前の仕事が……」

「私がギルドナイトの補佐になった理由を教えよっか?」

「………」

「アンタをサポートするためだっての!」

フレアの肩を叩き、ニッ! と笑う彼女の顔もまた揺るぎないものであった。

「はぁ……言っても、止まらねぇよな」

頭を掻いて、フレアは本日何回目かのため息をついた。

「……よろしく頼むぜ? 相棒」

「うん! 任せて!」

数日後、彼らは共に紛争地帯へと向かった。












各地でモンスターの古龍化騒動が起き始めたのはこれから五年後……。
ユクモから一人の少女が旅立つ所から始まる。






END
M237――このたった四文字の羅列が、彼女を彼女たらしめる唯一の言葉だった。


砂漠と樹海の間にある険しい岩場の、一歩踏み間違えればそのまま奈落へと消えてしまうであろう切り立った崖。
今、彼女は一人そこに佇んでいる。

あぁ、また戻って来ちゃった……、その一言は崖下の暗がりから吹き抜ける風の音にかき消された。
しかしその風も、彼女の頭に未だ響く声までは消してくれない。

強風の吹き荒れるこの場所は昔から危険地帯とされ、近付く者は皆無。
だが、だからこそ『施設』はここに存在していた。

国によってひた隠しにされるこの施設は、戦場で駒にされる兵士の育成を主としている。
『義勇軍』……そんな風に言えば聞こえは悪くないのかもしれない。
戦場に唐突に現れて犠牲も構わずに勝利への道を切り開く彼らは、戦場では英雄扱いを受ける。
しかし幼い頃から休む暇なく一般教養や世界情勢、戦闘に戦略……ただ勝つ為だけの情報のみを教わってきた彼等にとって、周りからの風評など本当に意味の無いものであった。

そんな生活の中、彼女が特に嫌ったのは毎朝に行われる意味の無い整列だった。

いや、意味はあるのだろう。
それでも、と彼女は思う。これに意味を見出だすのは馬鹿げている、と。

戦争があれば『国の為』と戦地に駆り出され、終われば再び息苦しいこの場所へと戻される。

すると大抵、番号順に並んだ彼女の前後には見知った友人は消え、番号の繰り上げられた知らない人間になっているのだ。


今回もまた、いなくなった。

戦場で響き渡る悲痛な叫びは暫く頭から離れることはない。施設での洗脳まがいの教育を受けながら10年……彼女は楽になろうと、しようと促す心に逆らい、永遠とも思える時間を戦ってきた。

――私達はただ在るべき所に戻るだけなんだよ。
前回まで彼女の前にいた女性はそう語っていた。

戦場で拾われた私達は、やはり戦場に還るのが自然なんだ――そう言った友人が最後、どのように還っていったのかは知らない。

そうなのかもしれない、それでも私が私でなくなるのは……きっと凄く恐ろしいことだと思うから。だから彼女は今まで生き残り続けた。

人一倍頑丈だと思っていた心が、静かに壊れ続けていたことには気付かずに。



「やぁ、また会ったね」

崩れ去る寸前の心を救い上げたのは、ある日を境に彼女の前に居座り続けた一人の男だった。

「……あんたはまだ死なないんだね」

「いきなり失礼だな、君は」

始めての会話はこんなものだった。

「私の前後は特によく死ぬ」

彼女は淡々とした口調で目の前の男を見る。

「でも僕は随分と長く君の前にいるよね」

男はそれに飄々と返す。

「……だから久々に興味が沸いたんだ」

「それはありがたいことで」

――実は僕の前後もよく死んでたんだ、後で男は相変わらずの軽い口ぶりでそんなことを言っていた。



          ◇



日差しが執拗に身を焦がす炎天下、砂漠の近くにあるこの場所にとって夏場は地獄である。

「あんたのお陰かな? ここに帰ってきても声にうなされなくなった」

「……それはこちらこそ、と言わなきゃならないね」

涼しい日陰を陣取って座っていた彼女の謝礼に、男は多少驚きながらも礼を返す。

それよりもそこを譲って欲しいんだけど……、と汗を拭きながら懇願するが、いやだ、と一蹴されて男はがっくりと肩を落とした。


戦場での毎回の活躍により優遇された二人は、訓練さえこなせば比較的自由な時間が与えられている。

だから初めて会話したあの日から、互いに興味を持った二人は時間を見つけてはなんということのない会話を交わしてきた。

戦友……外の平凡な世界でなら親友と呼ばれてもおかしくない仲になるのに時間はそれほど掛からなかっただろう。

「なぁ、124」

いちにいよん、そんな間抜けた呼び方で彼女は話しかける。

「何だい?」

「名前……ってあるでしょ? 欲しいと思わない?」

「これのことじゃなくて?」

男は胸に付けられた『M124』のプレートを指差す。

「いや……何というかもっと意味のある言葉……かな?」

二人が初めて言葉を交わしてから数ヶ月、彼女の顔には生気が戻っていた。

「……でもこんなところじゃ必要ないんじゃないかな?」

首を傾げる男もそれは同じだった。
会話をする、心を通わせる……それだけのことが出来ないだけで心は簡単に壊れてしまう。
それに気付いてから、二人は話す時間を特に大事にしていた。

「でもさ、皆同じような呼び名じゃん? 個性は必要だと思うんだ」

「ははっ、個性か……教官が聞いたら鞭が飛ぶだろうね」

『傭兵たるもの個人より集団を重んじるべき』とは彼等を『熱心』に教育している教官の口癖である。

「茶化さないで。でもさ、昔は私たちにだってあったはずだよね?」

「……全然覚えてないけどね」

戦場で拾われた彼等に施設が施すのは、彼等に番号を付け、記憶と一緒に名前を忘れさせること。
個々の感情を消すには、それが一番効果的だった。

「ならやっぱりもう一回欲しいよ」

「付けたとしても、ここで使ってもらえる訳じゃないし……最悪、処罰が下るかもしれない」

突発的なことを彼女が言うのはいつもの事だったので、男はたしなめるように言った。

「ねぇ、試しに二人で名前を付け合ってみようよ! 私達だけで使う内緒の名前! それにもしさ、世界に出たときに名前がなかったら大変だよ?」

もし世界に出たら。
これは最近の彼女の口癖だった。
血生臭いこの世界を一歩越えた所にある広大な世界。しかし逃げることの許されない彼女らにとっては途方もない一歩。

それは彼女も分かっているはず。
それでも彼女は諦めない。

「さぁさぁ!」

わくわく、といった言葉が溢れるように彼女は彼を捲し立てる。

「君も大概話を聞かないね……でもまぁ、ちょっと面白そうかな」

ここまで彼女が促すことは珍い。男はやれやれ、と押し負けた。

「でしょ! じゃ、お互いにお互いのを考えようよ。あ、ちゃんと意味も考えてね!」

「はいはい……」

二人はしばし考え、悩んだ。

「決まった?」

「まだ。そっちは?」

「もうちょい」

「「うーん……」」

いつの間にか男も名前を考えることに夢中になっていた。


「決まった! そっちは決まった?」

「今しがたね」

「じゃあこの紙に書いて発表しよう!」

「無駄に用意がいいね……」

「書けた? じゃあせーので発表しよう!」

「分かった分かった」


「「せーの……」」


二人は同時に紙を見せ合った。



          ◇



彼等のイニシャルはそれぞれの役割で決められている。

A~なら単純な戦闘部隊。
I~なら情報戦略部隊。



M~なら対モンスター部隊。


戦場には血の臭いを嗅ぎ付けたモンスターが頻繁に現れる。
そのモンスターを討伐、撃退するのがMのイニシャルを持つ者の任務である。

ギルドのハンターと同じような働きをするが、こちらは登録されない非合法なハンター。ギルドではやらせないようなことも平気でやらされていた。

特に優秀な人材がこれに当てられるが、一番に危険も多い。

それでも人を殺すのより何倍もいい、とはあの男が言った言葉である。



その男が

「おい! 目を醒ませ! 『―――』!」

戦火の真っ只中、飄々としてる普段の様子からは想像出来ない程の声を張り上げていた。

激しく燃え上がる家々。
倒れた人の上を逃げ惑う人々。
それに襲いかかる小型の鳥竜種。

そして、

二人の目の前、死屍累々の光景の上に事切れていたのは巨大な一匹の轟竜であった。

「ごめん……『―――』。今度は……私が還る……番みたい」


男の腕の中で、かすれた小さな声で彼の名前を呼んだのは、あの日『名』を与え合った相棒。

彼女の背中には巨大な爪痕が残っており、何が起きたかを明白に物語っていた。止まらない血は、まるで二人を呪うかのように辺りを紅く染め上げる。

いつかはこんな日が来ると分かっていたつもりだった。
だけどその時は自分が死ぬと思っていた。

「君はもっと広い世界を見たかったんだろ! ……その為に戦ってきたんだろ!?」

段々と息が弱まっていく彼女に男は必死で話しかける。

「私は……あんたに凄く感謝してる。私が……最後まで私でいられたんだから」

弱々しくも彼女はそういって笑いかける。
いつも爛漫とした彼女からはかけ離れた姿だった。

かけ離れ過ぎていた。

過酷な環境に敷かれながらも懸命に生きようとした。潰されそうな心を奮い立たせて『自分』を貫き通してきた。

そんな彼女の最後がこんな呆気ないものなのか!?

動かない彼女を抱いたまま、気が付けば男は空に向けて叫んでいた。

「こんなのあんまりだろう!? 神様って奴がいるなら出てこい!!! どんな代償でも払うから! 払ってやるから! 『―――』に! 『―――』に世界を……広い世界を見せてやってくれよ!!」




――叫びは空に大きく木霊する。

















――白い稲妻が一つ、落ちた気がした







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




…………?

………ここは?

薬のツンとした臭いが鼻孔を刺激する。

辺りを確認するために身を起こそうとするが、

「痛っ!?」

突然走った背中の痛みに思わず声が出た。

「気がついた!? 良かった……」

声を聞き付けてやって来たのか、女性の声が私の元へ届いた。

「ここは……うっ……!?」

目覚めたばかりだからか目の前がボヤけてうまく見えない。

「今は起きない方がいい。アンタ、私が見つけなきゃ今頃……」

真剣な声。

私は相当危なかったらしい。

戻ってきた視力が捉えたのは、彼女の白い髪がふわりと揺れるところだった。

「……ありがとう」

痛みを堪えて何とかその一言を絞り出す。

「いいって。私がしたのは応急措置だけ。礼を言うならアンタを見つけた私の相棒と医者に言いな」

相棒に手出したらダメだぞ……って怪我人に何言ってるんだか、とからからと笑う彼女。

私が目を覚ましたのが随分と嬉しいらしい。

「あ、自己紹介しとかなくちゃね、私はチョモ。色々やってるけど、今は医者の卵みたいな感じ。アンタは?」

「私は…………っ!?」

え?


あれ?


あれ……?


記憶は……ある。

施設で傭兵やってて……戦場で……怪我……したん、だよね?

名前は……そっか初めから……ない………いや!

あった

あったはず………なのに……


何故か、思い出せない。


「大丈夫? やっぱりまだ休んでたほうが……」

焦りが顔に出ていたのだろう、チョモが心配そうにこちらを見る。

「私の……」

「ん?」

「私の荷物に何か……」

何かあるはず……

「えっと、アンタの荷物は……この小さな袋だけみたい」

私は彼女から引ったくるように袋を受けとった。
間違いない、私が身に付けていた小物入れだ。

急いで中を確認すると、施設の登録標が入っていた。

急いで名前を確認するも、そこには「M237」と書かれているだけ。

(違う……これじゃない!)

袋をひっくり返すように探していると、ひらり、小さく折り畳まれた紙切れが落ちた。

何だかとても懐かしい気がする。

素早く、しかし丁重に紙を開いていく。

書かれていたのは

【Hammer】

の一文字。

すとん、とその言葉は彼女――ハンマーの胸に収まった。

(あぁ……そうだ。これが私の名前……)

「思いだした。私の名前は……ハンマー」

「ハンマー……? えらく突飛な名前だね……由来は?」

思い出せない誰かがつけてくれた名前。

『君の好きな武器とかけてみたんだ』

誰とも分からない声がした気がした。

でも由来を聞いて、無理やりすぎだろう、と大笑いしたことだけは覚えている。


「『傭兵なんて肩書き、叩き潰せ』」

本当に……思い出せないのに、涙が止まらないくらい……可笑しい。



怪我も完治し、チョモに礼を言って別れた後、ハンマーはギルドへと向かった。


理由は二つ。

一つは慣れた仕事だから。

二つ目は、治療を受けているとき彼女に言われたのだ。

――世界を知りたいならハンターになればいいよ、と。


                          【次章へ】
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楽太郎

Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
楽しんで読んでもらえたら幸いですね
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