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悪役ヒーローっぽい感じで描いていただきました。
見事なコーディングで本人もまんざらではないようです(笑)

バルス「この漆黒の騎士がお前たちの悪を逃さない!!」

シャワ「一度鏡を見てみなさいよ。あんたが悪役じゃない!」
   ー龍に愛された娘ー                          【ブロクトップへ】


「それ」は生まれた時から孤独だった



白い龍は我が子を見るように言った



一人は寂しいか



「それ」は頷くと、ゆっくりと龍の眼を見て……



――龍は静かに嗤った





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



フラヒヤ山脈近くにある雪山の懐に抱かれた村――ポッケ村は、穏やかで美しい村の雰囲気と雪山の気候の過酷さを兼ね揃えており、温泉まで存在する。
そんな村に魅了されてやって来るハンターの数は少なくない。

「やっと着いた……ここがポッケ村かぁ」

ほぅと白い息を吐き、短めの青いポニーテールを左右に揺らす彼女――アクア(Aqua)もまた、その噂を聞き付けてやって来たハンターの一人だった。

容姿は女性と呼ぶには少し幼さが残っており、ユクモノ一式と、ユクモノ太刀という装備からユクモ村の出身だということは容易に分かる。

「わぁ……息が白い」

村に着くまでは登山に夢中で気が付かなかったが、麓よりも気温が大分下がっていた。
そして昨晩から大量の雪が降ったのだろう、村に続く道は足跡以外にそれを示すものが無い程の積り具合だ。
足元を踏みしめるだけでギリリ、と雪が固められる独特の音が静かに響く。

「……まずは村長に挨拶しないと、か」

ちょっと緊張した様子でアクアは村人の案内を受け、大きなマカライトの岩へと向って行った。



「こんにちは!」     

「…………」

岩の前で焚き火にあたっていた小柄な老人に挨拶をするも、なぜか反応が無い。


「……こんにちは!!!」

声、三割増し。

「んん? おぉ、すまぬすまぬ、最近耳が遠くてのぉ」


そういうと老人――村長はゆっくりとこちらに顔を向けた。
傍から見ればただの老人だが、しわだらけの顔の奥には聡明な瞳が凛と光っている。

「……で誰じゃったかの? 雑貨屋の娘じゃったか?」

光って……あれ?

「あ、新しくハンターとして村に来ましたアクアといいます!」

「おぉおぉ、そうじゃったそうじゃった。ギルドからの手紙を受け取っておったわ。確かユクモの子だったの? 向こうの温泉はまぁずいぶんと体にいいと聞くに……」

「確かにユクモの温泉は観光客にも大変人気ですね」

「そうじゃろうなぁ。わしも暇があれば行きたいものじゃが……そう言えば、何故わざわざこんな辺鄙な村に来たのじゃ? ユクモの温泉に不満があった訳ではあるまい?」

「え、ええと……こちらの環境に憧れて? 何というか……ピンときたんです! この村に行きたいと!」

「ふぅむ……」

今度こそ強い光の籠った瞳がアクアを見据える。

「…………」

睨まれている訳でもないのに何故かドキドキしてしまう。

「ま、直観は大事じゃしの。これからは自分の故郷だと思って暮らしなさいな」

村長はニコリと温かな微笑みを浮かべると、村に関する事をしばらく(本当にしばらく)話してくれた。



  
   ◆




村長との長い話を済ませた後、アクアは村の中を一人歩いていた。
ユクモとは違い、昼間でもずいぶんと冷え込む。

「村長さんがいい人でよかった……話は長かったけど……ってあぁ、しまった!」

アクアはその場で頭を抱えた。
『後は村の専属ハンターが案内してくれる』という話だったのだが、肝心の場所を聞いてなかったのだ。

「うぅ…今更聞きに行くのも恥ずかしいし……どうしよう」


――そうボヤいた時である



「やっほー! そこのキミ! もしかして新しく来たって噂のハンターさんかい?」


「……え?」


気のせいだろうか、頭上から声が聞こえた気がした。


「もしかしてこの家の上から……っ!?」


慌てて見上げてみると、確かに誰かが屋根の上にいる。
それだけでも驚くのに、あろうことか「とぅっ!」などという掛け声と共に飛び降りて来たのだからパニック寸前……危なく背中の太刀に手を掛けるとこであった。

「よいしょ…っと!」

動揺して固まっているアクアの前に降ってきたのは、若い一人の女性だった。

ズシン、という見かけに合わない、重量感のある着地音を立てて。

「ん? 合ってるよね?」

アクアよりも少し年上に見える彼女は雪下ろし用に使っていたのであろうスコップを地面に差すと、違った? と小首を傾げてこちらを見る。
桃色の、少しウェーブのかかったショートボブ(ユクモ村ではブナハスレイヤーと呼ばれていた)が似合うすっきりとした顔立ちで、こちらの気分も明るくなるような満面の笑顔を浮かべていた。

「は、はい! そうです!」

そんな笑顔に押され、アクアは少し仰け反りながらそう答えた。

「ふんふん、そっかなるほどぉ!」

彼女はアクアの服装をまじまじ見て「おーこれ可愛いねぇ」などと言い、またも笑顔をこちらに向けた。
眩しい位の、本当に素敵な笑顔だ。

「……貴方がこの村のハンターさんですね?」

彼女は「ご名答!」と親指と人差し指で丸を作ってみせた。


何故分かったかと言うと、理由はとても簡単。
着地音の原因が彼女の背負う巨大なハンマーであり、それがハンター以外の人間が持ち運べるものでは到底無かっただけだ。
私だって扱えるかと言われると自信が無い。

……そもそも屋根から平気で飛び降りてる時点でそうなのだけれど。

「あ、自己紹介が遅れたね。私がこの村でハンターやってるハンマー(hammer)だよ。以後よろしく!」

ニッと笑って手を差し出してきたので私もそれに応じた。

「ユクモから来たアクアです。よろしくお願いします!」

「いい名前だね。よろしく、アクア!」

「はい! ハンマーさ………失礼かもですが、本名ですか?」

巨大な鈍器を背負って、名前もハンマーなら誰だって気になる。

「そ! ごめんね紛らわしくて。でも私の大事な名前なの」

「すみません……とても似合ってるのでつい」

失言だったと非礼を詫びたが、当の本人は気にしていないようで笑いながら両手で大げさに手を振ってみせた。

「いいよー、慣れてるし。じゃあアクアの住むとこを案内するからさ、その後で簡単なクエストに行かない?」




「く、クエスト……ですか?」




クエスト。
ハンターがギルドを通して受ける依頼の通称。
これから行動を共にする、初対面のハンターなら誰でもまずは簡単なものに誘って相性を確かめる。
そんなことはハンターを名乗る者として常識のようなもの。

――なのだが

そんな何気ない一言に一瞬、アクアの顔色は暗く曇った。

「ん? どしたの?」

「い……いえ! あはは、ちょっと緊張しちゃって……」

アクアは張り付かせたような笑顔を浮かべていた。

心なしか顔色も悪い。本当に気分が悪いようにも見えた。

「別にそんな固くならなくても大丈夫だよ! ……といいたいとこだけど、着いたばかりで疲れてるもんね。ごめんごめん、また今度にしようか」

「すみません……ありがとうございます」

「じゃ、行こうかっ!」

彼女が異常なほどに安堵の表情を浮かべていたことを、ハンマーはひとまずは心の中に収めた。





――数分後、二人はとある家の前にたどり着いた。


「到着ー! ここがアクアの住む家だよ!」

「わぁぁ、立派な家! ユクモとは大分違った作りですね」

ハンマーの案内した家は、かなり大きな作りをしていた。

「吹雪にも耐える特注構造だよ!」

彼女はまさに『ドヤ顔』という自慢気な顔を浮かべると、せかせかと中へアクアを手招く。

促させるままに家の中に入ると、ハッとアクアが驚いた。

「お帰りなさいまし、ご主人。もう料理が出来てるニャ!」

「わぁぁぁぁ! 可愛い!」

それもそのはず、板前のような格好をしたアイルーが何匹も待ち構えていたのだ。

部屋の奥からは食欲を誘ういい匂いが漂っている。



「こんな可愛いアイルーがいる家に住めるなんて! 憧れの独り暮らしも出来るし凄い嬉し………ん? お帰りなさい?」


何かが引っ掛かかった。


「ただいま! サルサぁ…もうお腹ペコペコだよ」


「ご主人はまず手を洗うニャ。なんか色々ばっちぃニャ」

「酷くない!?」

「え? ハンマーさん今ただいまって? しかも……ご主人?」

「ん?」

ハンマーはキョトンとした顔をしながら続けた。

「村長から聞いてなかった? アクア、私の家に一緒に住むんだよ?」

「えぇ!? あれ? ハンマーさんの家はさっきのじゃ!?」

「あれは雪下ろしの手伝いしてただけだよ。今朝からやけに降ってねぇ……。さぁ! 共に愛の巣を築こうじゃないか!」

「ちょ!? 何言ってるんですか!?」

頬を紅潮させて慌てるアクアにハンマーは目に涙を浮かべて笑う。

「あはは! 冗談だよ!」

「もう! び、ビックリしましたよ! 」


しかしそのお陰で緊張はすっかり無くなっていた。

「ハンマーさん、これからお世話になりますね」

「ん、よろしくね!」


握手を交わす二人。
ハンマーとアクア、二人の初めての出会いはこうして幕を閉じた。



     ◆



「うわぁ! 綺麗な浜辺!」

翌日、アクアとハンマーはクエストのために密林に来ていた。
孤島の海も美しかったが、自然と一体になった浜辺の壮大さにアクアは見とれていた。

「あ! あっちに貝殻が落ちてます!」

昨日の体調の悪さもどうやら治ったようで、アクアは元気に走り回っている。

「あ、待って! そっちは……」

ハンマーが呼び止める間もなく、アクアはもう次のエリアへと移動してしまっていた。

「きゃ――――!?」

すると突然、アクアの悲鳴が響いた。

「あー、やっぱり……」

密林の砂浜にはヤオザミという凶暴な甲殻種が潜んでいるのだ。
言うの忘れてた! とハンマーもすぐに隣のエリアへ助けに走る。


―――すると

「あ! ハンマーさん! このカニミソ美味しいですねぇ!」

「え……」

ハンマーは目を疑った。
彼女が見たのは倒れた3匹のヤオザミの真ん中に座り、無傷でザザミソを頬張っているアクアの姿であった。

「……さすが上位ハンターだけあるね。心配する必要なかったか」

「ここでは『元』ですけどね」

でも……とハンマーは思った。

(ヤオザミは確かに雑魚だけど……経験を積んだハンターだって地面から襲ってくる奴等の攻撃を避けるのは難しい。それに小型モンスターの中じゃ体力があるほうだし……あの太刀はユクモの初期装備って言ってたよね……それで私が来る僅かの時間に3匹も?)

「ハンマーさん、ハンマーさん」

「え、え? 何?」

いつの間にかアクアが目の前でニコニコしていた。

「ハンマーさんも食べませんか? 密林には美味しいものが一杯ありそうですね!」

「いや……ザザミソは精算アイテムだから、ここじゃ食べちゃ駄目なんだよ?」

「え!? そうだったんですか!? ……ごめんなさい、でもこんな美味しいの食べちゃ駄目だなんて………」

ガックシとうな垂れる彼女を見て、ハンマーは苦笑しながらアクアの肩を叩いた。

「んじゃ、クエスト終わったらすぐに酒場に行こうか。酒場にはザザミソの他にも沢山美味しいものがあるし」

「ホントですか! なら早くクエスト終わらせなきゃ……っ! ハンマーさん!」

不意に遥か上空から聞こえてきた羽音にアクアが反応する。

「……丁度来たね。この地方のハンターの登竜門。『イャンクック』先生の登場だよ」

赤い体に黄色のくちばし。そして特徴である巨大な耳。

「クエェェ!」

【怪鳥】――イャンクックが土煙を上げながら二人の前に降り立ったのだ。

「コココココ」

イャンクックはまだこちらに気付いていないようで、明後日の方向を見ながら喉を鳴らしている。

「か、可愛い!!」

イャンクックを見たアクアの第一声はそれだった。

「クルペッコも可愛かったですけど、この子はそれ以上ですね! 辛そうな赤色に大きな黄色いクチバシ……そして大きな耳!」

アクアはウサギを初めて見た女の子のように感想をまくし立てた。

「……アクア? 気持ちは分かるけど、それが今回の討伐対象だからね?」

はしゃぐアクアを見て、ハンターとしての緊張感が全く感じられず、ハンマーはアクアをたしなめた。




「そう、でしたね………すみません」

アクアはハッとした表情をし、俯いた。
そして昨日のように顔色が悪くなっている。

「アクア……大丈夫」

「やるしか……ないですよね。でも『ここ』でなら……」

俯いたアクアはブツブツと何かを呟いている。

「クエェェェ!」

イャンクックがこちらに気付いて威嚇を始めた。
迫ってくるのは時間の問題。

「アクア! 気分が悪いなら下がってて!」

ハンマーは咄嗟に武器を構えるが、アクアは一向にその場を離れようとしない。

「アクア!!」

「お願い……『来ないで』……」

「クエェェ!」

突進を仕掛けるイャンクック。
ハンマーはすかさずアクアを庇おうと前に出る。

「お願い……」

するとアクアはようやく、俯きながらそう祈るように呟いて――顔を上げた。



「…………」


アクアはゆっくりとした動作で、まるで何か怯えるような顔つきで太刀に手をかける。



「………え!?」


その太刀を抜いた瞬間に、彼女の全身の雰囲気が変った。



【――クエストが完了しました――】


「あ……え……?」


そして、それに気付いた瞬間には討伐は終了していたのだ。


「………………」


ハンマーは言葉を出せずにいた。


まるで雪が降る様に無音。


欠けた月にも似た斬撃の嵐の中で、赤く咲き乱れた冷たい殺気。


彼女はその中で舞うイャンクックをただ見ているだけしか出来なかったのだ。





「……ハンマーさん?」

アクアの声にハッと我に返ると、アクアが何事もなかったかの様に笑顔を浮かべていた。

「お疲れさまでした! 早く美味しいもの食べに行きましょう!」

「……そうだね、酒場に行ったら色々話すことがありそうだ」

「………? それにしても可愛かったですねぇイャンクック! 討伐されちゃったのは残念ですけど……」

戦闘中に性格が変わるハンターは少なくない。理由は多々あれども、過酷な狩猟環境に順応するために無意識に自らを鼓舞している、というのが大半である。

だがさっきのアクアは違った。まるで『モンスターの存在』そのものを憎んでいるかの様な、異常なまでの殺気を帯びながらも、寒気がするほどの無感情。その矛盾した二つを有していたのだ。

(本人に自覚があるのか気になるけど……この様子だと恐らく無いな。自分では普通に戦ってただけって感じてるんじゃないかな………)

ハンマーはいつになく真剣な思考を隠しながら、アクアと共に酒場へと帰っていった。

     


     ◆



――アクア達は村に帰ると酒場に直行した。

「お待たせしました!」

受付嬢が大量の料理を持ってやって来る。

「わぁ! アプトノスのステーキに、女帝エビの蒸し焼き! それにサシミウオのお刺身まで!」

アクアは歓喜の悲鳴を上げ

「歓迎のお祝いだよ! ジャンジャン食べちゃって!」

ハンマーの財布は悲鳴を上げていた。

「ありがとうございます! じゃあ……すみませ―ん! この砲丸レタス炒め……トウガラシ多めで、とヘブンブレッドとレッドチーズのサンド2つ、あと達人ビールを辛口でお願いします! あ、それとここの覧にある揚げ物全部2循してください!」

「私は……あーうん、おすすめをジャンジャン持ってきて!」

(これはもう開き直ったもん勝ちだわ)

二人は夢中になって料理を平らげていった。

「いやぁ……久しぶりにこんなに食べたよ」

食事もほぼ終わり、二人は酒場の喧騒から少し離れた席で休んでいた。

「すみません……あまりに美味しかったもので、つい夢中に……」

アクアが申し訳なさそうに頭を下げる。

「いいっていいって! この酒場の料理は逸品だからね。気に入ってもらえて嬉しいよ」

「ユクモでは味わえないものばかりで、感動しました」

「……私はアクアの食べっぷりに感動したよ。さてと……」

ハンマーはデザートの氷結イチゴを手に取りながら、アクアに本題を切り出した。

「ねぇアクア、あんたの村……ユクモ村からこっちに来た本当の理由を聞いてもいい?」

「えっ……!?」

アクアは一瞬困惑した顔を浮かべたが、すぐに何かに気がついたようだ。。

「………やっぱりあの時……こっちに来ても駄目だったんですね」

アクアは目を伏せて黙っていた。

「やっぱり……ってのは?」

つい先程の事が嫌でも思い浮かんでくる。

「……密林の狩りの時、私は『変わって』しまったんですね?」

「うん……あれには驚いたよ。……でもその記憶が、無いんだね?」

「はい……。変わるとその前後の記憶が曖昧になるので……私もあるハンターに言われて初めて気付いたんです……『お前には【化物】が憑いてる』と」

彼女の目はとても悲しそうな光を湛えていた。

「化物……か。確かに鬼神みたいな気迫だったよ」

ハンマーは冷や汗を浮かべながら苦笑いする。

それを聞いたアクアは、決心したように話し始めた。

「……実を言いますと、私がハンターになったのはつい先月のことなんです」




「嘘ぉ!? 先月!? それであの腕前はありえないでしょ!?」

彼女の告白にハンマーは目を剥いて驚き、思わず食べかけの氷結イチゴを落とした。

「ええ、そうなんです。ハンターになって武器を持つためには、ギルドの規定年齢を越えなくてはなりませんからね。でも私は本当に先月にようやく誕生日を迎え、ギルドに登録してハンターになったばかりなんですよ」

「じゃあ20歳になってすぐハンターになったんだ……もしかしてそんなに急いだ理由と何か関係があるの?」

この質問に、目を伏せぎがちだった彼女はさらに顔を沈めて答えた。

「……私は幼い頃に両親をモンスターに殺されているんです」

ハンマーは再び目を見開いた。
ーポッケへの軌跡ー


「……だからそのモンスターを討つ為に。モンスターを狩るためには、ギルドの協力を得るのが一番ですからね……」

そう言ったアクアの眼は酷く冷たかった。

「そっか……ごめん。辛いこと思い出させたね。でもさ、敵を討つ為だけの人生なんて」

「私の生きる目的はそれだけなんです!!」

ハンマーの言葉を遮ってアクアが初めて声を荒げた。

「アクア……」

「……すみません。でもあいつは私の全てを奪っていきました。絶対に許す訳にはいかないんです……」

「アクアが狩りの時、『変わってしまう』のはその強い気持ちが原因なのかな?」

「……分かりません。そんなことが起こるようになったのはハンターになってからなので……」

「ハンターになってから……か。アクアがここに来ることにのもそれが原因?」

「……はい。あまり面白い話ではないかもしれませんが……」

アクアは小さな声で語り始めた。



     





アクアはハンターになった後、装備も揃えずにすぐに村のクエストを受注していた。

(すぐに功績を上げて、あのモンスターの情報を掴まなくちゃ……!!)

焦っていたアクアは初心者ハンターの基礎クエストである特産キノコの納品などを無視し、無謀にもアオアシラの討伐クエストに向かっていた。

「ここが渓流の狩り場……。こんな奥には来ること無かったから緊張するな……」

アクアはひとまず地図を見ながら狩り場の地形を確認していた。

「ん? あれは……ハチミツ! 調合用に採取しておこっと」

アクアはハチミツをポーチにせっせと詰めていく。
初めての場所、初めてのクエスト。
そこで見つけた貴重なハチミツは彼女を夢中にさせるのに十分だった。



だから気付かなかった。



迫りよる足跡と獣特有の臭いに。


パキリ! 枝の折れる音にアクアが咄嗟に振り返ったのと、アオアシラが地響きのような音を立てて吠えたのは同時だった。

「グオォォォ!」

「――――!?」

間近でアオアシラの咆哮を聞いて、アクアは身構える暇もなく固まってしまった。
その咆哮は飛竜の放つバインドボイスには遠く及ばないものだったが、初心者のアクアを硬直させるには十分なものであった。

ハンターにとって、一瞬の隙は命取りになる。

ハンターについてのそんな勉強は十分にしていたアクアだったが、想像と実戦では伝わる衝撃はケタが違った。

「グオォォ!!」

アオアシラの重く堅い棍棒のような腕が振るわれ、アクアの腹部に痛恨の一撃が叩き込まれる。

「うっ……げほっ!!!」

五メートルは吹き飛ばされただろうか。
アクアは気を失いそうな痛みを何とか堪えていた。
この場面で意識を失うことは命を失うことと同意義だ。

「ど、どこに……」


まずは見失ったアオアシラの位置を掴まなくては、とアクアはかすむ視界で必死に辺りを探した。

しかし一向に見当たらない。

「よかった……逃げたのかな」

ホッと胸を撫で下ろそうとしたその時、ズシリ…と真横で足音が聞こえた。

背筋が冷水を浴びたように冷たくなる。

「っ……!」

急いでその場から跳んで避けるのと、元の場所に太い腕が振り下ろされたのはほぼ同時だった。

「こっそり忍び寄るなんて……何て嫌なクマ!」

そう悪態をつきながら状態を整える。
痛みは動けるまでには回復していた。

「ここからは反撃ですよ!」

太刀を構えながらそう言うと、不意にアオアシラと目が合った。

「……っ!?」

その瞬間、異変が起こった。
自分の体が芯から氷のように冷たくなって、意識が沈んでいくような感覚が襲い掛かったのだ。

「何なの……これ……」

次第に視界が暗くなるのを感じ……やがてアクアは意識を手放した。



     



「ん……え……?」


アクアの意識が戻った時、初めに視界が捉えたのは目の前で倒れていたアオアシラだった。
あちこちを切り裂かれており、激しい攻撃を受けたのだろうとアクアは、ぼんやりとした頭で考える。

「一体誰が……」

そして、次第にハッキリとしていく意識の中で驚愕の事実に気付く。

「嘘……嘘……!? 何で……こんな……!!」

恐怖で体の震えが止まらなくなる。


「私が……やったの!?」



自分の手には血まみれの太刀が握られていたのだ。






その後どうやって村に帰ったのか覚えていない。
気が付くと自分の部屋のベッドに眠っていた。

赤黒い染みがベッタリと付いた装備のままで。

(夢じゃ……ないんだ)

着替えて外に出てみると、期待の新人ハンターだという自分の噂が村中に広まっていた。


その後も意識の途切れてる内に討伐が完了しているという異常な出来事は続いたが、いち早くハンターランクを上げたかったアクアは一人でクエストを受託し続け、駆け上がるように上位へと進んでいった。

クエストの中、気が付いたら血だらけになってることにも、もはや動じない。
彼女の頭はとっくに麻痺してしまっていた。



     



この話をハンマーは黙って聞いていた。

ここまで一気に話したアクアは水をコクリと一口含んで、続きを話り始める。

「上位になって少しした時、初めて他人と一緒に狩りに行ったんです―――」


アクアは狩りをしている時の記憶が無いのが怖く、他のハンターを避けていた。
しかしある日、アクアの名声を聞き付けた猟団が協力を依頼してきたのだ。

「ギルドからも指令が出ていて、引き受けざるを得ませんでした……」

仕方なく協力したアクアだったが、狩猟が終わってアクアが見たものは無惨に事切れたモンスターと傷だらけで呻く猟団のハンター達の姿だったのだ。

「私はハンターを……人を殺しかけたんです!」

幸いにも全員が軽傷で済んだこともあり、その猟団長は『二度と関わらないでくれ』という条件で事を穏便に納めてくれた。

「その時に言われたんです……『お前には化物が住んでる』って」

「酷い……。でも、今も意識が飛んじゃうんだよね?」

もしそうなら、先程もアクアに斬りかかられる可能性もあったのだろうか?

「はい……でも私もその後、必死に衝動を抑える訓練をしたんです! 今は突然襲われたり、武器を持ってモンスターが近づかなければ正気を保てます。……人も、襲いません」

「………一人でよく頑張ったね」

「そんなこと……ないです」

話終えたアクアは唐突に席を立ち、ハンマーに頭を下げた。

「……話を聞いてくれてありがとごさいました……私、村を出ます。 私と居ても危ないだけですから……」

「ちょっと待ってよ!」

そのまま走り去ろうとするアクアの腕をハンマーが掴んだ。

「離してください! これ以上迷惑はかけれません!」

「何言ってんのさ! アクアはこれから私の家で生活するんでしょ?」

アクアはキッとハンマーを睨むと、声を荒げた。

「どうしてあなたは私を避けないんですか!? 普通ならこんな不気味な人間、すぐに突き放しますよ!?」

それに対してハンマーはケロッとした顔で答えた。

「残念だけど、私はそんじょそこらのハンターとは育ちが違うからね。敵討ちや、アクアの不思議にも興味津々なの。 あとさ、私達もう友達じゃん? 困ってる友達は見捨てられないよ」

ハンマーが真っ直ぐな目で笑いかける。

そんな視線に耐えきれず、アクアはフイッと目を逸らしながら、

「……本当に……本当にいいんですか?」

消えるような声で、そう聞いた。

「二度は言わないよ? もちろんだって!」

アクアが再びハンマーを見ると、その目は変わらず、優しくアクアの目を見つめていた。

「………っ」

アクアの眼から不意に涙が溢れる。

噂は否が応でも広がり、村では恐れられて誰もが彼女から目を逸らした。
守ってくれる両親もすでにいない。
目的のモンスターも見つけられず、何も信じられなくなったアクアは、逃げるようにポッケ村へと移ってきたのだった。

そんな自分に再び居場所が出来た。

今までの悲しみは、彼女の眩しい笑顔に全て消し飛ばされた。

「改めてよろしくね? アクア」

ハンマーはそう言ってアクアの頭を撫でた。

「ハンマーさん……」

(『悲しい』以外でも泣けるんだ……)


アクアは、生まれて始めての嬉し泣きをした。


ハンマーはアクアが泣き止むまで頭を撫で続けた。


   
    



酒場での出来事の後、二人は家に帰ってきていた。

「またここに帰ってこれるなんて……」

アクアがまだ少し赤い目を綻ばせていると、ハンマーは呆れたように肩をすくめる。

「んな大袈裟な……てかもうアクアの家でもあるんだからさ。好きに使ってよ?」

「えっ、いきなりそんなこと言われても……こ、困りますよ」

「ま、そのうち慣れるさ。 さ、酔い冷ましにお茶でも飲もうよ。まだ聞きたいこと沢山あるしね」

「私も手伝います!」

ハンマーはアイルー達にお茶を淹れるように頼み、アクアはキッチンに椅子を二人分用意した。

「これからは二人で住むんだから、色々と準備しないとね。まぁ大体の物は揃ってるんだけど」

アイルーが淹れてくれた雪山草のお茶を啜りながらハンマーが呟く。

酒場でかなりの時間を過ごした為、薄暗い部屋の窓からはすでに明るい月の光が差し込んでいる。

「そういえばこの家、ハンマーさん一人しか住んでない割りには随分と大きいですよね」

ふと思いついたようにアクアが尋ねた。
他の家が一階しかないのに対し、彼女の家は二階建てで大きさも二倍はある造りだったので、疑問に思っていたのだ。

「あぁ、ここは昔とある猟団の宿舎だったんだよ。大分古くなってたのを私が安く引き取って、改築したんだ」

「この大きな建物をですか!? すごい、ハンマーさん大工も出来るんですね!」

「トンカチがあれば何でも作れるよ。匠と呼んでもいいよ! むしろ呼んで」

「いえ……それはちょっと」

「………」


ハンマーの自慢話が終わったところで、会話は酒場での話題に戻った。

「そういえばさ、アクアの話で気になるとこがあるんだよね」

「どの辺でしょうか?」

「アクアの探してたモンスターってユクモ地方じゃ見つからなかったんだよね?」

「はい……私も手を尽くして探したんですが見つからず終いで。もともと幼い頃の記憶なので外見も曖昧ですし……」

「幼い頃……か。思い出させて悪いんだけど、その時の話を聞いてもいい? 何か分かることがあるかもしれないから」

「構いませんよ」

アクアは湯気の立つ湯呑を両手で押さえながら、話し始めた。



「あれは嵐の酷い夜でした………」






◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆





――いいかいアクア、絶対に外へ出て来てはいけないよ。
――すぐに戻るから心配しないで待ってなさいね。

「うん! きをつけてね!」

十数年前、アクアはいつものように両親を見送った。
アクアの両親はハンターで、狩りの依頼を受けながら生活をしていたので、朝でも夜でも依頼が入れば二人はすぐに出掛けていた。
なのでアクアはいつもの事だと二人を見送ったのだ。


一人、夜の家の中には激しい雷が鳴り響く。

「すごい嵐……おとうさんたち、だいじょうぶかなぁ……」

留守番には慣れていたアクアだったがやはりまだ幼く、嵐の激しい物音に怯え、寝付くことも出来ずに不安になりながら両親の帰りを待っていた。

彼女の一家はユクモ村から少し離れたところに住んでおり、辺りには誰もいない。

しかし嵐は収まるどころか更に勢いを増していった。


数時間が過ぎただろうか。
いつまで待っても両親は帰って来ない。

待っている時間が永遠にも感じられた。

「家がこわれそう………」

叩きつけるような雨と狂ったような暴風がアクアの家を襲う。

「おかあさん……おとうさん……こわいよ……」

その瞬間、猛烈な雷音が鳴り響いた。

「ひぃ……っ!?」

そして雷音の中、耳をつんざくような咆哮と人の悲鳴が聞こえたような気がしたのだ。









本当に不安で不安で仕方なかった。





その音がそれに歯車をかけた。




だから






「おかあさん!? おとうさん!?」








少女は咄嗟に家のドアを開けてしまった。










月明かりもない真っ暗な闇。激しい風と雨を浴びながらもアクアは両親を探した。


するとカッ! と光がまたたき、辺りが一瞬照らされたのだ。


「あ……………」



その瞬間アクアが見たものは、翼を持った巨大な生物と、血まみれで倒れる母を守るように戦う、ボロボロになった父の姿だった。


「おとうさ……!?」

駆け寄ろうとした時、巨大な生物と眼が合った気がした。



――そこでアクアの記憶はプツリと途切れた。




◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆



「眼を覚ましたら、村長に保護されていました」

慌てて村長にモンスターと両親の話をすると、モンスターは去った後で両親はもう手遅れだったと、村長は悲しい顔で伝え、アクアを強く抱き締めた。

その後アクアは村長の家に住み、手伝いをしながら暮らし始めた。

しかし、幼かったアクアの心に出来た傷は癒えず、何も出来なかった自分を強く責め、ハンターになってあのモンスターを倒すと誓うことで、密かに鍛錬を積むことで心の傷を必死に押さえていたのだった。

「……以上が私が体験した出来事です」


「ありがとう……ごめんね。辛いこと思い出させて」

「いいんです。もう気持ちにけじめは付けましたから」


「でも収穫はあったかも。私、そいつに心当たりがあるかもしれない」

ハンマーがニッと笑う。

「本当ですか!?」

アクアの顔に驚きが浮かぶ。

「激しい嵐を呼び、翼をもった巨大なモンスター……『風翔龍 クシャルダオラ』」

「クシャルダオラ……?」

初めて聞く名前だった。

「そう。『古龍』って呼ばれてる生物」

「古龍………」

古龍とは、生物学的な分類が出来ない生物の総称で、特殊な力を持つ謎の多い生き物である。ただそこに『いる』だけで天災となり、ギルドでは今でも研究が続けられている対象である。

「こっちの地方には様々な古龍種が目撃されているんだ。その内の一匹、クシャルダオラは嵐を引き連れてくる力がある」

「嵐を引き連れて……あの時も嵐だった……もっと教えてください!」

「体は鋼の甲殻と大きな翼を持ち、風の鎧を纏っていることから、『鋼龍』や『風翔龍』とも呼ばれているよ」

「………私の記憶にあるモンスターと共通点があります! 確かに風を纏ってた気がします……でもやはり、見ててみないとなんとも言えないですね……」

「見て……あ! そういえば絵があったかも!」

ハンマーは思い出したように顔を上げた。
ー異変の兆しー


「ホントですか!? 是非見せてください!」

「よっしゃ、ちょっと待ってて!」

勢いよく席を立つとハンマーは二階へと駆け上がって行った。その後しばらく激しい物音が二階から響き、(何故か)埃まみれになったハンマーが一枚の額縁を持ってきてくれた。

「ごほっ…お待たせ。これが『クシャルダオラ』だ」

「これ……っ! ハンマーさん、間違い無いです! こいつがお父さん達を…………!」

絵を見るなり、アクアは目を見張って声を上げた。

「……やっぱりか。でもね、クシャルダオラを含めた古龍の目撃例ってのはかなり稀なんだよ。敵(かたき)を打つにしても、しばらくは情報待ちになると思う」

「そんな……。せっかく正体が分かったのに……」

アクアの目に焦燥が色濃く浮かぶ。

「でもね、せっかく情報が入ってもHRが高くないと古龍のクエストは受けれないんだ。だから暫くはHR上げを兼ねてこっちの環境に体を慣らしていこうよ」

どんなに実力があろうと今のアクアのHRは1。
これではまともなクエストに行けない……HR上げは重要な問題だった。

「確かに……そうですよね」

ハンマーの説得にアクアは次第に落ち着きを取り戻していくのが分かった。
いい子だな……とハンマーは心で呟き、今後の話を切り出した。

「焦るのは一番よくない結果を招くからね……あと、アクアにはアクアの中にある『力』の制御がもっと必要だと思うから、それもやっていこう」

「確かに……やっぱりハンマーさんに危険がある以上は1人で……」

「まーたそうやって。私はこれでもG級ハンターなんだから! ドンと恋っ!って感じ!」

「なんか変換……違ってません?」

それからアクアは毎日ハンマーとHR上げと『力』のコントロールを兼ねてクエストをこなし続けた。

もちろん、初めは上手くいかなかった――



□砂漠

「アクア! アクア!!」


「………っ!!!」

ハンマーの呼び掛けも効果無く、アクアはダイミョウザザミに特攻を仕掛ける。

(確かに凄い強さだけど、こんなに無鉄砲に突っ込むだけじゃいずれ危険になる……体の負担も大きいし、早く何とかしないと……)

「あ、そだ」

そして閃いた。


「アクア! ごめん!」



ハンマーは自分の愛鎚を天高く振り上げていた。



ガッツン!



鈍い音と共にハンマーの一撃(弱)がアクアの頭部に炸裂した。



「いったぁぁぁぁぁぁ!?」



頭に巨大なたんこぶを作ったアクアが目に涙を浮かべながらギッ!とハンマーを睨む。

「何するんですか!? 一歩間違えたら死んで………あ、私また……」

「眼が覚めた? ショックにはショックってね! 意識飛んだら私がハンマーで起こしてあ・げ・る」

「うぅ……ショックの意味が違うような気が……でもお願いします!」

「よし、任された。じゃあもっかい頑張ろう!」

「はい!」







「………」


「おーいアクア?」


「………」


「………」


ガツン。


「~~~~っ!? 星がっ! 星がぁ!」



「体で覚えるんだ!!」


「やっぱり急になんて無理ですって!!」





……そして1ヶ月後




ー酒場ー


「あの時は地獄でしたね…………」

アクアがげんなりとした表情でぼやいた。

「よく頭の形が変わりませんでしたよ……」

「ま、まぁそのお陰で今があるんだから!」

ハンマーは飲み物を差し出しながら明るくごまかす。

現在のアクアのHRは6。G級の一歩手前まで上がっていた。

「永久に記憶を失いそうになったりもしましたけどね……」

「あぁ……あの時はちょっとヤバかったね」

しかし特訓の成果はそれに見合う以上にあり、アクアは狩りの最中に意識を失わず、さらに高い身体能力を維持出来るまでに成長していた。

意識が保てるようになったお陰でハンマーとの連携も取れるようになり、連鎖的にクエスト達成のスピードも上がって、僅か1ヶ月という早さで上位の最高ランクにまで登り詰めたのである。

ハンマーの力を借りながらだが、今度はちゃんと『自分』の意思と力で。
アクアはそれがどうしようもなく嬉しかった。

「後はシェンガレオンを倒せば、晴れてG級の仲間入りですね!」

シェンガレオン……超特大の甲殻種で砦などを襲う危険生物。
倒せば莫大な功績を上げることができ、それがG級へと昇格するための条件の一つである。

「そうだね! サクッとやっちゃおうか!」

「簡単に言わないで下さいよ。第一いつ来るかも……」

「ごめんなさい、ちょっといいかしら~」

二人の会話を遮る形でギルドマネージャーが話しかけてきた。
どうやら急用のようである。

「ギルドマネージャーじゃん。どうしたの?」

「実はね~、各地で通常種よりかなり凶暴性の高いモンスター達が出始めたの~。被害は甚大。ギルドのハンターが各地に駆けつけてるわ。あなた達にも協力して欲しいのよ~」

「ええっ!」

「……一体どういうこと?」

急な知らせに二人にも緊張が走る。
しかし当のギルドマネージャーも困ったような顔で頬杖をついた。

「それがまだよく分かってないのよ~。ただ重傷を負ったり帰って来ないハンターが多いから十分に気を付けてね~」

「わかった! すぐに準備するよ。行こうアクア!」

「はい!」

「あ、後ね~興味深い話を聞いたの」

立ち上がった二人にギルドマネージャーが再び声をかけた。

「何ですか?」

「凶暴化したモンスターの種類は飛竜種や甲殻種、牙獣種と様々だけど~、それらのモンスターの目撃地にわずかだけど古龍の反応もあるらしいの」

『!?』



話はそれで終わったが、二人の中では『古龍』という言葉がぐるぐると渦巻いていた。




ー雪山ー

「やっぱり凍土とは大分気候が違いますね」

「ま、山の天気は変わりやすいっていうからね」

二人はギルドマネージャーから受けたクエストで雪山に来ていた。

「しかし……相手は『フルフル』ですか」

フルフルとは雪山など寒い環境に住む飛竜で、洞窟を好んで棲んでいる。
光の無い場所で生活している為、嗅覚が発達しており、代わりに眼が退化して無くなっている。
それに加え、伸縮性のある首や、ほぼ口だけの頭という不気味な風貌をしているために、気味悪がるハンターは多い。

アクアもそれに漏れず、凄く嫌そうな顔を浮かべてため息をつく。

「ま、確かに不気味だよね。でもそっちにも似たような奴がいるんでないの?」

「こっちにも『ギギネブラ』がいますが……まだ眼みたいなのがありますからね。フルフルに比べたら可愛い気があるってもんです」

「でも頭が二個あるように見えるし、上からでかい口で吸い付いてくるんだったよね? 私はそっちのが嫌だけどなぁ……」

そんな二匹が一部の女性に高い人気を博しているという事を知り、二人が衝撃を受けるのはまだ先のことである。

「まぁ、我が儘も言ってられませんからね。嫌な敵はすぐに倒しちゃうに限ります」

「だね。寒いし、早く帰って暖かいものでも食べよっか」

そう話しながら進んでいくと、フルフルが棲んでいるであろう洞窟へと辿り着いた。

「……ギルマネの話からすると、普通の奴より相当手強いと考えた方がよさそうだね」

「そうですね……。引き締めていきましょう」

無駄話はピタリと止み、二人の眼はすでに狩人の眼になっている。

「………確実に何かいるね」

「その様ですね……」

二人は警戒しながら、松明がなければ先の見えない洞窟の奥を散策したが、生き物一匹見当たらない。
洞窟は確かに異常を物語っていた。

「でもフルフルの気配もありませんね……」

「仕方ない、場所を変えて……しっ!」

ハンマーが何かを察知する。

「………来ますね」

「うん……」

暗い洞窟の壁を伝って歩く音、近付いて来る息づかいが聞こえてくる。しかし薄暗い洞窟ではその姿を見つけることが出来ない。

段々と近付いてくる音に二人が集中して構えていると、不意に音がピタリと止んだ。


「………」

「………」

辺りには不自然な程の静寂が漂っている。





パラッ……

と氷柱の欠片がハンマーの頭に当たった。

「!」

ハンマーがハッと真上を見上げて松明をかざす。

「アクア、上だ! ……えっ!?」

「そんな―――っ!!?」


頭上に張り付く不気味な影が松明の明かりに照らされる。
そこには今まで見たこと無いような巨大なフルフルがいた。
まだ見たことは無かったが、いわゆる金冠サイズで間違い無かっただろう。

「「ギャオオオオォォォ!!!!」」


「――――っ!」
「――――っ!」

高級耳栓を軽く貫通するほどの咆哮を上げた『そいつ』は地響きを起こしながら地面へと降り立った。

「流石に規格外過ぎるでしょこれ……!」

「嘘……こんなの見たこと無い……」

バチバチっ! という音と共に口に電気を溜め込んだ『そいつ』は咆哮で固まっている二人に向かって、8方向にも分かれる強烈な雷撃を吐き出した。

「やばい! 避けて!」

「……くっ!」

二人は電撃避けながら、もう一度『そいつ』を確認した。

「グルルルル……」
「グルルルル……」


「……こいつはアクアの好きそうなフルフルだねぇ」

「……そのようで」

見間違いではない。

そのフルフルには確かに首が『二つ』付いていたのだった。





     





「「ギャオオオオォォ!!」」

「ぐっ……!」
「うぁ……!」

二匹が同時に仕掛けるバインドボイスは凶悪な威力を誇り、食らった二人は完全に硬直させられていた。

そんな二人に向かい、フルフルは再び口に白い光を溜め始め、そして放つ。

強烈な咆哮を喰らった二人は、向かってくる電撃を前に動けないでいた。

(まずい! 早く避けないと!)

ハンマーは必死に体を動かそうとしたが、体は動こうとしない。

これまでか…… そう思った時、上から降ってきた氷塊が上手い具合に体に当たり、そのショックで体の自由が戻った。

「アクアァ!」

「ハンマーさん!!?」

ハンマーはまだ動けないアクアを大鎚でかちあげると、自分も電撃の回避を試みた。

しかし、

「うっ……くそ!」

僅かに遅く、電撃がハンマーの足をかすめる。
ダメージは軽かったが高密度の電撃に足が麻痺を起こして地面に倒れ込んでしまった。

フルフルが体を低くさせ、飛びかかりのモーションを取る。

「………っ!」

ハンマーはまだ痺れる足を引きずって回避を試みるが明らかに間に合わない。

あの巨体でのボディプレス……喰らったらひとたまりもないだろう。



死の気配が近くまで忍び寄ったその時。




「だぁぁぁぁ!」

アクアが無我夢中でフルフルに斬撃を加えた。

「「ギャオォ!!」」

急所を捉えた攻撃にフルフルの注意がこちらに向く。
その隙に、何とか痺れの取れたハンマーは体制を立て直した。

「ありがとうアクア! 咆哮とブレスのコンボは思った以上に厄介だ……奴の正面には立たないように立ち回ろう!」


「了解です!」

しかし、こんなモンスターとの戦闘経験がない二人は苦戦を強いられた。

フルフルの頭を叩く方法は熟知していたハンマーだったが、頭が2つとなると大分勝手が違うようで、頭に上手く攻撃出来ずにいた。

「アクア! フルフルは足が脆い! 二人で集中攻撃して転倒を狙うよ!」

「はい!」

二人は転倒を狙って足元を攻撃し始めたが、フルフルもそれを察知して攻撃を激化させる。

片方が叫んで動きを止め、もう片方が攻撃をする。

そんな極悪コンボを二人は紙一重でかわしていく。

すると遂にフルフルの足が限界を迎え、体を地面に打ち付けた。

「今だ!」
「今です!」

掛け声と共にハンマーはフルフルのくねらせる頭二つを、驚異的な破壊力を持つハンマーで殴り付け、アクアは戦闘中に練った気を爆発的な攻撃力に変え、斬撃の嵐をフルフルに見舞った。
太刀使いだけが使える大技『気刃切り』である。
アクアの剣技はユクモ流なので最後に巨大な円を描く『気刃大回転切り』を加えて放った。

「私らのターンはまだ終わらないよ!」

そしてフルフルが起き上がろうとした瞬間にハンマーが上手くスタン(気絶)を取り、スタンが解けたら即座にアクアが落とし穴を展開させて落とす。

見物人がいたら見惚れてしまいそうな程の流れるような連携が決まっていた。

が、フルフルも異常な程のタフさを発揮していた。
通常の個体ならとっくに倒れているダメージを負いながらも力強い抵抗を続けていた。

「どんだけタフなんだよ!」

「ハンマーさん! もうひと頑張りです!」

アクアがすかさず声をかける。
二人が狩りを共にして一月以上。お互いが集中を切らさないよう働きかける、理想の連携が生まれていた。

「オッケー! でもこっちも限界が近い。気合いで持ちこたえるよ!」

「はい! 全力で畳み掛けましょう!」

ハンマーとアクアはそれを合図に全力の猛攻を繰り広げた。

そして、



「「ギャォォォ…………」」

洞窟に響く断末魔と共に、ズシン! と音を立てて巨体が氷の床に沈む。


「……ふぅ」

「何とかやりましたね……」

二人は同時にペタリと座り込んで、掴み取った勝利を喜んだ。

「さ! 剥ぎ取りを始めましょう!」

「そうだね!」


狩人の一番の楽しみ、剥ぎ取りタイム。

もしかしたら新素材が手に入るかもしれません! とアクア達は張り切って剥ぎ取りを始めた。


「ハンマーさん! これは一体……?」

しかし……期待は予想外の出来事に塗りつぶされた。



「嘘……。これは……ありえないでしょ」



アルビノエキスを取ろうとしたアクアが、驚愕の表情でハンマーに見せたもの。

それは熟練ハンターでも手に入るか分からない貴重なものだった。
並みのハンターなら教科書でしか見ることが出来ずに生涯を終えてもおかしくない代物。

本来なら飛び上がって喜んでもおかしくはないのだが……。


「……これは早くギルドに報告しないとね」






『飛竜』フルフルから取れたもの。
それは『古龍』の血であった。
-鋼龍の影-



人間や竜の血とも違う不思議な色をした液体
――『古龍の血』

二人はそれを持って雪山を後にした。


ーギルドー

二首のフルフルから取れた『古龍の血』をギルドへ持ち帰った二人は、ギルドマネージャーに呼び出されていた。

「こんちわ―」
「失礼します」

「いらっしゃい~。こっちに座って~」

ギルドマネージャーは部屋にやって来た二人をのんびりとした口調で迎えた。
しかし顔は至って真面目なので、素でこんな口調なのだろう。

「それで……話って何でしょうか?」

「あのフルフルのことで何か分かったの?」

そんなに急かさないで~、と言いながら彼女は二人にお茶を出し、お茶を一啜りしてから本題に入った。

「実はあなた達が戦ったフルフルのように突然変異したモンスターの目撃情報が各地から来ているのよ~。討伐したハンター達によると、その全てのモンスター達から『古龍の血』らしきものが取れたそうよ~」

「!?」

危なく吹き出すところだ。
お茶なんか飲んでられないほどの緊急情報だった。

「じゃあこの前言ってた『狂暴化したモンスター』ってのは全部あんな奴等だってことか……」

あの強さはG級にも引けを取らなかった。
多くのハンターが返り討ちにあったのも納得できる。

「では『古龍の反応』っていうのは変化したモンスターの血から出ていたってことなんですかね?」

「多分そうだと思うわ。だから古龍観測所ではそれらのモンスターのことを『古龍化』したと呼んでいるの。古龍の血が取れるんですもの~。確かにもう古龍よね~」

「んん……クシャルダオラ探してる時になんて紛らわしい……」

「確かに……」

あ、それなんだけど~ とギルドマネージャーが付け足すように口を開いた。

「古龍といえば、最近クシャルダオラの目撃が増えてきていの~」

「クシャルダオラの!?」
「クシャルダオラのですか!?」

二人はその言葉に激しく反応した。

「でもその場所がねぇ~……通常の個体よりも広い範囲で目撃されてるのよ~」

「広い範囲で?」

ハンマーが眉をひそめる。

「普通のクシャルダオラなら雪山とか砂漠で、珍しくても密林でしょう~? なのに今回は沼地や樹海、森丘でも目撃されちゃってるのよね~」

「それは確かに広すぎるな……」

ハンマーは何か考えるように首を捻る。

「クシャルダオラが今どの辺にいるかは分かってるの?」

「まだ分からないわ~。今回は異例の行動範囲の広さでしょ?流石の観測所でも追いきれてないの~」

「……あのさ、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」

ハンマーが思い立ったように話しかけた。

「何かしら~?」

「『古龍化』したモンスターの出現地域を確認できるだけ全部教えて欲しいんだ」

「ん~あなたの頼みだしね。企業秘密だけどいいわ~」

ハンマーはギルドマネージャーから出現情報を細かく教えてもらうと、しばらく考察し、やっぱり…… と呟いた。

「古龍化したモンスターの目撃場所は、雪山や砂漠を始めとして徐々に沼地や森丘にも広がってる。これはクシャルダオラの目撃情報と一致してるんだ」

だから とハンマーが続ける。

「理由は分からないけど、クシャルダオラの出現はモンスターの古龍化に関係してると見て、間違いないんじゃないかな」

「クシャルダオラが古龍化の原因……!?」

アクアは驚きを顔に浮かべながら、ハンマーの話に聞き入る。

「そしてこの考えが当たってるなら、次にクシャルダオラが向かう場所には見当がつく」

「本当ですか!?」
「え~本当~?」

アクア達が驚いた声を上げる。
ギルドでも把握出来ていないことだけに期待が高まる。

「うん。この二つとクシャの移動法則を関連付けたら簡単なことさ。古龍化したモンスターもクシャルダオラも、まだ火山では目撃されていないんだよ。だからクシャルダオラは近い内に火山に『何か』をしに行く可能性は十分にあると思う」

「なるほど~観測所にも話を伝えて来るわね~」

そう言って、ギルドマネージャーは(やや)駆け足で出ていった。

「……ハンマーさん!」

アクアが強い声でハンマーの名を呼ぶ。

「分かってるよ、アクア。じゃあ準備しようか! 火山での対決に向けて!」

「はい!」

二人はそう言うと勢い良く立ち上がった。


          


夜、火山へと向かう準備を終えた二人は明日に備えて早めの就寝をしていた。

「ふぁぁ………ん?」

深夜、ハンマーがふと眼を覚ますと、隣のベッドにアクアが居ないことに気が付いた。

(こんな時間にどこへ……?)

心配になり彼女を探すと、彼女は2階のベランダにいた。

「アクア、どうしたの? 風邪引くよ?」

「わ!? ハンマーさん……」

ビクリと振り返ったアクアが暗く思い詰めた顔をしていることに気付き、ハンマーの頭は一瞬で目を覚ました。

「一体どうしたの? こんな時間に……」

「ちょっと考えてしまうことがあって……」

アクアの声はとてもか細く、今にも消えてしまうのではないかと思うくらいに掠れていた。



「……ハンマーさん、ギルドでクシャルダオラがモンスターを凶暴化……古龍化させてるって言いましたよね?」

「……まだ推測だけどね」

「私も……そうなんでしょうか?」

「!」

そう言った彼女の肩は暗い中でもはっきりと分かるほど震えていた。



その可能性は確かに、ある。





「もしあの時のクシャルダオラが今回の奴なら……私の中にも古龍の血が入ってしまってるんでしょうか!? そうだったら私は………!」

「アクア!」

「!?」

ハンマーがアクアの肩を抑えるように抱き締めて力強く叫んだ。

「心配しない! アクアには体に異変は無いんだから! ……もし仮にそうだったとしても、影響は薄いんだ。それにアクアはもう自分の力を抑えられるじゃん!」

「でも元凶のクシャルダオラに会ったらまた………」

「私はアクアのことを信じてる。それに本当にクシャルダオラが原因だったら、そいつをぶっ倒せばアクアも元に戻るかもしれない! 一石二鳥じゃんか!」

もう一人じゃないんだから、一人で考え込まないでよ……、とハンマーはアクアを優しく撫でた。

「ハンマーさん……ごめんなさい。私また下向きに考えて……痛っ!?」

俯こうとしたところを思いっきり叩かれた。

「さあさあ! 明日はもう出発なんだから弱気になってる暇は無いよ? もし影響を受けたとしても、また今みたいに叩いてあげるからね~」

ニッと(物騒なことを言って)笑いかけるハンマーにアクアもつられて笑ってしまった。

「ふふ……ちゃんと手加減してくださいね?」

やわらかい月の光が応援するかのように、二人を優しく照らしていた。



     


早朝、日がまだ昇りきらない内に二人は家を出ていた。
火山へのは道は遠く、ネコタクを使ってもかなりの時間が掛かってしまう。

ハンマーがネコタクの予約をギルドに申し込んだのだが、『古龍化』モンスターの討伐に多くのハンター達がネコタクを使っていたので、こんな早朝のネコタクしか残っていなかったのだ。

しかし他にも理由があった為、それはむしろ好都合といえた。

「いやぁ~……早朝はやっぱ……眠いねぇ……」

ハンマーが眼をショボショボさせて言う。

「昨日の元気はどこ行ったんですか……。全く! 『今更眠気なんかに負けられるか―!』ってトランプなんか始めるからですよ! ……ふぁ……私も少し眠いです……」

「あはは、アクアったらだらしないねぇ! それでも女の子?」

「どの口が言ってるんですか!?」


「おやおや、こんな朝早くから元気にどこへ行くんだい?」

「!?」

二人が村の出口に差し掛かった時、不意に横から声をかけられた。

慌ててその方向に視線を飛ばすと、なんと村長がいつもの場所で焚き火に当たっていたのだ。

「あちゃ……村長……また今日もお早いんだから」

「お……お早うございます……村長」

村長はにっこりと笑い掛けながら(ただし目は笑ってない)、「待っていたよ」とやわらかな声で言った。

「火山へ風翔龍を討伐しにいくそうだねぇ」

「やっぱり知ってたか……」

「村長さん、耳が早いですよ……」

「わたしゃ、これでも村長だからね」

しわだらけの顔を更にくしゃくしゃにして村長は得意げに笑った。

今までは様子の違うクシャルダオラだから、多数のハンターで迎え撃とう、という提案があったのだが、もし相手がそれに気付き、逃げられてしまうと今度こそ場所の特定が困難になってしまうとハンマーが提案し、わずか二人という少数精鋭で討伐に向かうことをギルドに納得させていたのだ。

――アクアもケリは自分でつけたいでしょ? ……それにもし暴走しても私だけなら平気だしさ!

と本当の理由を教えてくれたハンマーに感謝したのは、昨日の夜のことである。

――だから二人は村の人達に心配を掛けないように、ギルドだけに話を通して討伐に向かうつもりでいたのだ。

「私が代表して見送らせてもらうよ。なぁに、あんた達はこの村の自慢のハンターだからね、安心して見送れるよ」

「村長さん……」

「へへっ、こりゃあ頑張らないとね!」

そして村長は「そうそう」 とアクアの方を向き、そばに置いてあった小包を差し出した。

「村長さん、これは?」

アクアが不思議そうに受け取った小包を見つめる。

「これはユクモの村長からあんたに渡してくれ と届いた物だよ」

「ユクモの村長から!?」

思わず小包を落としそうになる。

「とりあえず開けて御覧よ」

「は……はい」

村長に促され、小包を開けるアクア。

「これは………!」

小包に入っていたのは綺麗に磨かれた一振りの小太刀だった。

「お……お父さんの武器!? 無くなったと思ってたのに……どうしてこれが?」

アクアは形見の小太刀を見つめた。
今ならこの武器の価値が分かる。
片手剣の中でも最高クラスの武器――小太刀【砂凪】。


「ユクモの村長がボロボロになったそれを発見して、加工屋に頼んで鍛え直してもらったんだとさ。でもその武器は特殊だからね。直すのに今まで掛かってしまったと言っていたよ」

「村長が……そんなことを……」

小太刀【砂凪】には『龍属性』という特殊な属性が宿っている。

『龍属性』は『火』、『水』、『雷』、『氷』の4属性や、毒や麻痺などの状態異常の属性と違い、加工屋の手では容易に付加出来ない未知の属性である。

古龍や一部の飛竜が苦手とする成分を含んでいるらしく、主に地中から発掘された太古の武器に宿っていることが多い。ギルドでは古龍と共に大きな研究対象になっている。

「……私が村を出るとき、唯一止めてくれたのが村長でした。でもあの時の私は村長のことも信じられなくなってて……あんなに冷たく振り切って来たっていうのに……」

アクアの頬を何粒もの滴が流れる。
母親のように思っていた。でも見放されたと勝手に思っていた。
もう二度と会えないと思っていた。

でも……

「一段落着いたら、手紙でも送ろっか」

「……そうですね」

――必ず

そう誓い、アクアは父親の形見を腰に差すと、愛用の太刀を背負う。

「じゃあ行ってくるよ」

「必ず戻ってきますから」

「あぁ、待ってるよ」

二人は頭を下げ、再び足を踏み出そうとした。



――すると


「おーーい! 二人とも!」

「絶対に無事で帰ってくるんだよ!」

「あ! いつもは何かと仲の悪い加工屋のおじさんと雑貨屋のおばさん!」

「お姉さんでしょ!」
「お兄さんだろ!」

もう結婚してしまえ と思う。

それを合図のようにゾロゾロと村人が集まり、口々に激励の言葉を投げ掛けた。

「ハンマーさん! 飲み代のツケ残ってますからね!」

「アクアちゃん! 頼んだぞ!」

「ハンマーさん! 今度はドリンク間違えるなよな!」

「アクアちゃん! 手を振ってくれ! ありがとう!」

「おやおや……結局出てきてしまったのかい。全く……こういう旅立ちは静かに行うもんじゃというのに……」

ブツブツと言いながらも村長の顔は笑っている。

「皆さん……ありがとうございます!」

「パパッと片してくるからね!」

(ここにも、こんなに私の味方がいる……)

胸がギュッと熱くなる。


(にしてもアクアとの差は一体……?)


一方ハンマーは拳をギリリと握っていた。



村人全員の見送りを背に、二人は改めて火山への一歩を踏み出す。


「やばい! ネコタクの時間ギリギリだ!」

「えぇ!? とにかく走りましょうハンマーさん!」

「ちょっ!? 待ってよアクアぁ!」

「全く慌ただしい娘達じゃのぅ……」

走り出した二人を見てそう呟きながらも、焚き火に当たり直した村長の顔はニッコリとほころんでいた。


      
ー黒と金の狩人ー


ー砂漠ー

アクアとハンマーが火山へ向かう少し前のこと。

太陽が執拗に照りつける砂漠に、二つの影が並んで歩いていた。


「はぁ……。やっぱり砂漠は暑すぎるね……つらい……」

そうバテ気味に呟いたのは『全身黒ずくめ』の見るからに怪しい男。

「そんな暑苦しい『モノ』かぶってたら暑いに決まってるでしょう!?」

横にいた金髪の少女が、そんな男に鋭く突っ込んだ。

「いや……これはもう体の一部みたいな物だから……」

「うっわ……ホントみたいね」

彼の頭には真っ黒な『スカルフェイス』が装備されていた。
そんな不気味なモノから直に汗が流れているのだから訳が分からない。


男を見ながら全力で引いているザザミS装備の彼女は『シャワ(shawa)』、頭以外も全身黒づくめな男は『バルス(varus)』。2人ともハンターである。

二人は砂漠にとあるモンスターの討伐に来ていた――――




「全く……いくら報酬の為だからってこんな怪しい男と組まなきゃならないなんて……」

「まぁまぁ、そう刺々しないで」

「だったらいい加減それを外しなさいよ! 一回も素顔を見せないし……本当に不気味よそれ」

「だからそれは出来ないんだってば……」

こんな言い合いを続けている二人の出会いはつい先程、ドンドルマから少し離れた町の集会ギルドでの事だった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「えぇー! このクエストは二人以上でないと参加不可!?」

いつもよりも騒がしいギルドの中、シャワは受付嬢に猛然と詰め寄っていた。

「ごめんなさい。今回出現しているモンスターは今までに無いほど危険な可能性があるから、ギルドからの指令で二人以上でないと受注出来なくなってるのよ」

「そんなぁ……こんな報酬のいいクエスト逃したくないのにー……」

シャワがギリギリと悔しがっていると、受付嬢がある提案をしてきた。

「そういえば、さっきも同じようなハンターさんがいたわよ? その人と組んでみたらどうかしら?」

「え……」

シャワは一瞬ポカンとし、

「えぇぇ!? 他のハンターと組めって言うの!?」

露骨に嫌そうな顔をした。

「大丈夫、自信を持ちなさいよ。異例の若さと早さで上位になったのはあなただけなのよ? それに、今後の参考に一度くらいはソロ以外の狩りも経験してみないと」

シャワはまだ16になったばかり。
しかし、とある一件で年齢以上のハンターのセンスをギルドに認めさせ、上位ハンターにまで登り詰めた実力者である。

しかもシャワはソロ限定でクエストをこなしており、その評価も加えられて常人離れしたスピードでHRを6まで上げたのだ。

しかしなぜソロ限定だったのか?

「いや………ん~……でもなぁ………」

表情を曇らせてうつむく彼女。

一見強気な性格のシャワだが、実はかなりの人見知りなのだった。

受付嬢は昔からそれを知っていたので、こう続けた。


「私の勘が間違っていなかったら、あのハンターさんとならシャワさんはきっと上手くやっていけると思うわよ?」

「その根拠はどこから来るのよ……?」

「そうねぇ……私の彼氏いない歴が最短でも0年とか?」

「………シェリー」

シャワは遮るように受付嬢の名を呼んだ。

「ちょっとぉ、勤務中に名前はやめてってば」

受付嬢は匿名性やミステリアスさも売りにしているのは知っている。ちょっとした嫌がらせだ。

「で、その『ハンター』ってのはどこにいるのよ?」

これ以上彼女の自慢話を聞くのも癪だし、どうせ何を言っても会わせられるのだろうとシャワは半ばやけになってハンターの場所を訪ねた。

「あら、もう後ろにいるわよ? さっき手招きしときましたからねぇ」

シェリーはシャワの後ろに向ってにっこりと営業スマイルを浮かべていた。

「えぇ!?」

そんな! とシャワは後ろを振り向く。


「  」

驚き過ぎて声を忘れてしまった。



真っっっ黒!

そんな怪しすぎる男が立っていたのだ。

「どうも、初めまして。バルスっていいます。君が噂のシャワちゃんだね? いやぁ、僕も一人で困ってたんだよ! 良かったら一緒にブハァッ!?」

思わず殴り飛ばしてしまった。

「何この怪っしい奴!! 不審者よ! 不審者! ギルドナイトさ―――ん!」

「ちょっと、違うってば。見かけはちょっとあれだけど、ちゃんとしたハンターさんよ?」

くすくすと笑いながらシェリーが「大丈夫ですかー?」と転がっている男に駆け寄る。
あれが彼氏いない歴0年の秘訣なのかしら……?

「痛たたた……怪しまれるのは慣れてるけど、いきなり殴られたのはこれで二度目だよ……というか君も結構酷いこと言ってるからね……?」

バルスと名乗った男は(何故か)腫れ上がっているスカルフェイスを撫でながら立ち上がった。

「あ……ごめんなさい。で、でもあんたが怪しすぎるのが悪いわよ! なんで全身真っ黒なのよ!」

「いやぁ…なんでって言われてもポリシーと言うか……」

と頭を掻くバルス。

「照れるな! そんなポリシー捨ててしまいなさいよ!」

「はいはーい、二人共。混んできてるから話はクエスト中にしてくださいね。あ、準備はしといたから」

「え!? ちょっと何!? 引っ張らないでよ!」

「痛い痛い痛い! 腕はその方向には捻れないから!」

と、シェリーに無理矢理砂漠に送り込まれてしまったのだ。

    

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「全くシェリーの奴……帰ったら覚えときなさいよ。……それにしても、一体ターゲットは何処にいるのかしら? これだけ歩き回っても見当たらないなんて」

「う―ん……岩場の方にもいることがあるよね。そっちも探してみようか?」

「そうだったわね。……ええっと、岩場はどっちだったかしら?」

「太陽があそこだから……こっちだね」

バルスは太陽の位置と周りの風景を照らし合わせ、すぐに一点を指差した。

「あなた結構手慣れてるわね……どの位ハンターやってるの?」

ふと気になって訪ねてみる。

「ん―、ハンターになったのは10年位前かな?」

「おっさん!?」

少し距離を取る。

アブナイ……若そうな声に騙されるところだった。
スカルフェイスのせいで声がくぐもってるから今一声で年齢を判断出来ないのだ。

「失礼な! これでもまだ若いんだよ!?」

「だからどこが『これでも』で『まだ』なのか分からないのよ!」

時々口論を交えながら、二人は岩場を目指しながら話続けた。

「僕は旅をしながら狩りをしてるからね。あの街に来たのはつい先月なんだ」

「旅? 珍しいわね。普通なら拠点は1つに絞るのに」

「……ちょっと目的があってね」

「ふ―ん。そう言えばここらじゃ見ない装備をしてるわね」

バルスはこの大陸のものではない、ブナハ(黒く着色済み)と呼ばれる装備などを組み合わせて身につけていた。

「普通はその大陸のギルドに登録してるから管理外の場所に移動する時は装備は持ち出せないんだけどね。その辺は旅のハンターの特権かな。他にも例外はあるけどね」

「ふ―ん、そういうのも悪くないわね」

そういえば、 とシャワは思う。

(不思議ね……初めて会った人とこんなに普通に話せるなんて………)

いつもならもっとギクシャクとしてしまうのに、彼には昔からの知り合いのように気兼ねなく話せてしまう。

「ねぇバルス、もしかしてどこかで会ったことあったかしら?」

「んん? こんな可愛らしいお嬢さんに会ったら忘れないはずだけどな?」

「……セクハラで訴えるわよ?」

「ごめんなさい」

(逆に怪しすぎるから一周回っちゃったのかしら……?)

可能性は十分に高い。
しかし話していると、外見はともかく中身は案外まともだというのも分かってきた。

「まぁ食えない性格してるとは思うけどね」

ボソリと呟く。

「ん? 何か言った?」

「別に?」

そうこうしてる間に、岩場に到着した2人。

到着した岩場は周りを巨岩に囲まれた比較的涼しい地帯である。
砂漠の生物の避暑地としても機能しており、今日も涼みに来たアプケロスが並ぶように草を食んでいる。

「うーん、いないかな? ま、取りあえず一旦涼んで……」

しかしバルスが岩場に一歩足を踏み入れた瞬間、場の気配は一変した。





――――砂漠の生物は過酷な環境にいる分、テリトリーを犯す者に激しい対応を見せる。





「! 近くにいるわ!!」

シャワが咄嗟に警告する。
その後すぐに辺りが大きく揺れ始めた。

「凄い地響きだ……相当でかいな」

バルスは背負っていたランスを構え、シャワもすぐにライトボウガンへ弾を装填し始める。

すると、大きくなってきた地響きが目前でピタリと止まったのだ。

「…………?」

「足元っ!」

「……っ!?」

シャワが叫ぶと同時にバルスも跳んだ。

さっきまで自分達が居た地面が消し飛ぶ。
代わりに巨大な塔が現れたのが、砂煙の中でも確認できた。





――――そしてその範囲はその生物のレベルと確実に比例している。





「……確かにこの巨大さは一人じゃ辛そうね」

「……しかも何か多くないかい?」

「あなたにも見える? なら気のせい……じゃないようね」

二人は冷や汗を掻きながら見上げた。

「ギャオォォォォォン!!!」

砂煙の中から現れたのは、砂漠の守護神とも呼ばれる偉大な存在。

ただし通常のハンターが出会うような固体とは訳が違った。

3本角、そして灰色の巨大なディアブロスの咆哮が砂漠に響き渡った。

砂を震わせる程のバインドボイスをバルスの盾が一身に引き受ける。

「戦闘開始よ!」

「OK!」

炎天下の砂漠の中、大きな影と小さな影二つが激しく動き回る。

「デカかろうが角が多かろうがね、弱点は変わらないわよ!」

シャワが撃ち込んだ氷結弾がディアブロスの尻尾を正確に貫通する。

「おぉー、噂に違わない腕前だね」

バルスは氷属性を纏う槍を振い、ディアブロスの足を軽やかなステップで攻めながら声を漏らす。

この地方にはいない、ベリオロスという飛竜の素材で出来た槍である。

「喋る暇があったら攻撃しなさいよ!」

シャワは弾をリロードしながら怒鳴る。

「う―ん、甲殻が大分固いな……これは長期戦になりそうだ」

「ちょっと! 聞いてるの!?」

「大丈夫、その可愛い声はちゃんと聞こえてるよ!」

「――っ!? 調子狂うわね……!」

そかしいくら攻撃してもディアブロスは一向に弱る気配がなく、二人は徐々に消耗し始めていた。

「……くっ! また潜ったわ!」

「音爆弾を投げるよ!」

バルスは迫ってくる砂煙に向かって音爆弾を投げる。

苦手な高音を聞いたディアブロスはたまらず飛び出してくる……はずだったが。

「!?」

「バルス!!」

何故か音爆弾の効果は全く見られず、バルスはディアブロスの突き上げを食らい、空高く舞い上がった。

「ぐ………っ!」

盾によって辛うじて角の直撃は免れたバルスだったが、盾は弾き飛ばされ、衝撃によるダメージも大きく体の自由はほとんど効かない。

そして落下地点には……


「……串刺しがお好きなのかな?」

ディアブロスが角を構えて待ち受けていたのだ。

まさに絶命絶命である。

「……間に合って!」

シャワは急いで生命の粉塵を振りまく。

「これは……」

粉塵を纏った優しい風がバルスを包み込み、動けるくらいに回復したバルスだが、まだ空の上である。

「くっ……不味いな……」

落下しながら考えるバルス。

シャワはディアブロスの気を引こうと必死で弾を撃ち込んでいるが、角竜の狙いは一向にぶれない。

「こんなところで…………っ!」

バルスが諦めかけたその時、下から声が聞こえてきた。

――……を……っ……て!!

「ん……?」

風の音でよく聞こえない。
バルスは音を遮る風の中、必死に耳に意識を集中させた。
出会って間もないが、バルスは不思議と彼女を信頼していた。

「槍をこっちに投げて!」

「!」

ハッと手を見るとそこにはしっかりと槍が握られていた。

「あんなに激しく飛ばされたのに武器を手放さないなんてな………」

バルスは全ての力を使い、下に向かって槍を投げた。

「何を考えてるかは分からないけど……シャワちゃんを……信じるよ…」

バルスの意識はここで途絶えた。


降ってきた槍はディアブロスの近くにうまく突き刺さる。
岩場付近なのでやや固めの土なのが幸いしたようだ。

「おりゃ――!」

シャワは刺さった槍目掛けて走り、跳んだ。

シャワは槍を踏み台にしてディアブロスに飛び乗ったのである。

そして暴れる角竜の背を走りながら、シャワは落ちてくるバルスを何とか角の手前で受け止めることに成功してみせたのだ。


     


「………早く起きなさいよ!」

スカルフェイスを叩かれる衝撃でバルスはハッと意識を取り戻した。
どうやら五体満足で助けられたらしい。

「シャワちゃん……ありがとう。……ところでここはど…ゴボッ!?」

回復薬を無理矢理飲まされながらバルスは尋ねた。

それに対してシャワはやや言いにくそうに、

「ディアブロスの……上、かな」

と言って目を逸らした。

「あー道理で揺れると……ってえぇ!? ……うわっ!」

「きゃあ!」

ディアブロスは違和感を感じたのか、暴れながら走り出した。

「ちょっと! ねえ、どうしよう!?」

「僕に言われても!」

「もともとあんたを助ける為にこうなったのよ!? 音爆弾使ったからって油断するからよ!」

「怒ってもいないディアブロスに音爆弾が効かないなんて分かるはずないじゃないか!」

二人は必死にしがみつきながら言い合いを続ける。

そんな二人を乗せたディアブロスは砂漠の彼方へと走り出していった。

                         



                               次話へ
rakutarou_tow333.jpg6

絵師のエド・叛徒様に描いていただきました!
イメージに合った中世コスチュームで着飾らせてもらってます( ゚Д゚ )八(゚Д゚ )ノイエーイ!!!

本当にありがとうございました(`・ω・)

ハンマー「イー・アル・カンフー!」

アクア「……それちょっと違いませんか?」
-金獅子、降臨-



ネコタクに乗り、船での航海を終えたアクアとハンマーは予定より早く火山のベースキャンプへと辿り着いていた。

「ふぅ、ようやく着いたね」

「やっと体を動かせる」と背伸びをしながら言ったハンマーは手慣れた様子で荷物をほどき、拠点であるベースキャンプの設立に手をつけ始める。

――その傍ら

「うぅ……気持ちわるい……」

アクアは呻きながら船の桟橋でうずくまっていた。

「大丈夫? はい、薬草」

ありがとうございます……、とアクアはよろよろと薬草を受け取り、口に放り込む。
爽やかな香りとほのかな苦味が広がり、土気色だった顔に少し明るみが戻る。

「力のコントロールは出来るようになったけど、遂に乗り物酔いは治らなかったねぇ」

ハンマーは気遣うような顔でアクアを話しかけるが、口元はしっかりとニヤけている。

「うぅ……私だって結構馴れたつもりでしたよ……。でもですね……でもですよ? 船上であんなに揺さぶられたら誰だって酔いますって………!」

ジト目でハンマーを睨むアクア。

「えぇー? 私は平気だったよ?」

ハンマーの口はまだニヤけたままだ。

「ハンマーさんはどうかしてるんですよ!」

アクアはガバッと飛び起きて抗議する。

「お、元気になった」

「はぁ……怒ったら大分楽になりましたよ。 さぁ、途中だったクシャルダオラ対策をまとめてしまいましょう。本当は船で終わらせるはずだったのに……」

「あはは、ごめんごめん。でも早く着いたでしょ? クシャルダオラもまだみたいだしね」

ハンマーが古龍観測所の気球を確認しながら言う。
今回はギルドの全面協力を得て、気球からの偵察を常時行っているのだ。

「じゃあまずは早めに火山の奥地まで足を進めて……」

二人は現地の細かな情報も合わせて作戦を練っていった。

     
  

「狙うは『頭』……ですか?」

アクアは確認するように呟く。

「狙うのは正確に言えば『角』だね。古龍の不思議な力はさ、角を破壊すると効力をほとんど失うんだ。何でかは分からないけどね~。クシャルダオラの纏う暴風はかなり厄介だから、まずは角の破壊を優先させる。それに頭は弱点だから一石二鳥って訳だね」

「なるほど……」

アクアは神妙に頷いた。

ハンマーの説明はとても分かりやすいもので、まだ標的を見ていないアクアでも敵の情報をすんなり知ることが出来た。G級ハンターというのは、やはり色々と格が違う(ただし性格は抜かす)。

「じゃあ早速火山内部の洞窟に行って、クシャルダオラを待ち伏せようか。ギルドの予測じゃまだ時間は余裕があるからね」

「分かりました!」

最終確認が終わり、二人は火山へと足を進めていった。


―火山内部―

ハンター達が『火山』と呼んでいるこのラティオ活火山では、留まることなく溶岩が流れ続けており、かなりの熱気や有毒なガスまで発生させている場所もある。
そんな生物を拒むかの様な過酷な環境だが、だからこそこの環境に適応した生物は強力な個体が多い。

「暑くなってきたね……アクア、そろそろクーラー飲もうか?」

そう言いながら汗を拭うと、ハンマーはクーラードリンクを一気に飲み干した。

「くぅ~! この体の芯から冷やされる感じ! やっぱ火山で飲むクーラーは違うね!」

「もう……ハンマーさんったら飲み過ぎです。決戦が控えてるんですよ?」

後ろを歩くアクアの呆れた声が聞こえてくる。

「へへ、予備はあるから大丈夫! それにね、私のは特製ハチミツ&ミント味だから絶品なんだよ」

ハンマーは「いいでしょ!」と自慢するように振り返った。

――が

「……え?」

彼女が見たものはシャリシャリと爽快な音を立てながら、真っ赤なイチゴを摘まんでいるアクアの姿だった。

「ななななな!? ちょっとそれ氷結晶イチゴじゃん! どうしたの!?」

狩りの時でも見せないような驚愕の表情を浮かべるハンマーに、アクアはさらりと答えた。

「ああ、さっき灼熱イチゴを採取して調合したんですよ。ん~、冷たーい」

「…………ねぇ、 一個頂けないかな?」

「ん~、せっかくアイテム減らしてまで氷結晶を持ってきましたからねぇ。自慢のクーラーを飲めば……わっ!? ちょっと引っ張らないでくださいよ!」

「いいじゃん1つくらい―! 減るもんじゃないし!」

「確実に減りますから! これには今回のモチベーションが懸かってるんです!」

「決戦前にイチゴ一個でモチベーションが下がってたまるか!」

「ハンマーさんはイチゴの素晴らしさを分かってませんね!」

盛大にわめきながらイチゴを取り合う二人。
もはやG級どころか上位の威厳すら感じられない有り様であった。


――そんな時

「!?」
「!?」


洞窟の奥から地響きの様なものが聞こえたのだ。

「ハンマーさん! ……今のは一体?」

「……分からない。だけど少し慎重に………わっ!?」

様子を見てみよう とハンマーが言いかけた時である。
周りの地面から幾つもの青い鋏が突き出して来たのだ。

「なっ!? 何なんですか!?」

無数の鋏を避けながらアクアが叫ぶ。

「火山で地面から出る鋏といえば……」

「「ギチギチ……」」

百は軽く越えるだろう大量のガミザミが二人を取り囲んでいた。

ショウグンギザミの幼体であるガミザミだが、成体に負けないくらい凶暴であり、毒まで有している危険なモンスターである。

「こりゃあザザミソで一杯……なんて言ってらんないね」

「ホントにそんなこと言ってる場合じゃ無いですよ! ……どうします? このままじゃ囲まれますよ!?」

ガミザミ達に距離を詰められながらも二人は素早く相談を交わす。

「……よし、このまま奥まで突っ切ろう!」

「さっきの物音の方にですか!?」

「帰り道は奴等の数が特に多い……、進むのは一番手薄なこの道しかない」

ハンマーは冷静に状況を分析していた。

「分かりました……なら蹴散らして進みましょう!」

アクアが覚悟を決めて武器を構えようとすると、

「いや、もっといい方法がある」

「え?」

そう言うとハンマーは、武器を構えもせずにガミザミの群れに突っ込んでいった。

「ハンマーさん!?」

アクアは咄嗟に呼び止めるが、ハンマーはこっちを見てニヤリとした後、ガミザミ達に向かって跳び上がった。

「イヤッフゥ!」

「うわぁ……」

ハンマーはなんと、ガミザミを踏み台にして奥の通路へと渡り切ったのだ。

「アクア―! 早く!」

向こうからはハンマーの呼ぶ声が聞こえる。

「うぅ…………仕方ないっ!」

アクアはごめんなさい! と謝りながらガミザミを上を踏んで渡った。
踏み付ける度に聞こえる鳴き声が夢に出そうで怖い。

「うまいうまい」

何とか渡りきると、ハンマーが腕組みをして頷いていた。

「ハンマーさんの発想には毎回驚かされてばかりですよ……」

「誉めない誉めない! 避けれる戦いはなるべく避けないとね。さぁ、奴等が追って来るから奥に急ごう」

「はい……」

二人は走り、不気味な雰囲気を醸し出す洞窟の奥へと向かっていった。



―火山最深部―

「これは………」

「……どうやら待ち伏せされてたのは私たちだったみたいだね」


洞窟の奥には、大量のガブラスが飛び交っていた。


「グルルルルゥ……」


そして、物音の正体であろう、巨大な獅子が鎮座していたのだ。

金獅子――ラージャン。
牙獣種でありながら、一時期は古龍として扱われていた程の力を持つモンスター。
並みのハンターなら姿を見ただけで逃げ出すほどの超危険生物。

そんなモンスターが二人を待ち構えていたのである。

しかも、恐らくは古龍化というおまけ付きで。

通常のラージャンより倍は長く凶悪にねじれた角。それは先端が二股に分かれており、ガウシカの角にも似ていた。
そして異常なまでに発達した筋肉、高質化した皮膚は従来の弱点である防御の低さを見事に克服している。

「あ………」

そんな金獅子にアクアが圧倒されていると、ハンマーの声が響いた。

「アクア! ラージャンの後ろ!」

ハンマーが指差す方向を見ると、目を疑った。

「!!!」

ラージャンの後ろには、巨大な翼をはためかせ、今にも飛び立とうとしているクシャルダオラの姿があったのだ。


「うわっ!?」


一瞬、目が眩むような光が辺りを包んだ。

ズキリ、と一瞬アクアの頭に痛みが走る。

鋼色ではなく光輝く純白。
全てを洗い流すような白色の甲殻を、かの古龍は纏っていたのだ。

「待て! ……うわっ!?」

ハンマーがクシャルダオラを追おうとした時、ラージャンがハンマーに向かって光の束を撃ち放った。

「くそっ!」

辛うじて避けたハンマーだったが、すでにクシャルダオラは飛び立った後であった。

「ハンマーさん! 大丈夫ですか!?」

アクアが駆け寄るとハンマーは大丈夫だと言って立ち上がる。

「……こりゃいよいよ不味いね……アクア、体に違和感は無い?」

「……ええ、今のとこ平気みたいです」

しかし上空のガブラスの群れ、前方のラージャン、後ろから大量のガミザミが迫るこの状況。

ハンマーも流石に余裕の表情は出来ず、冷や汗を流す。

「さて……どうしたものかね……」

「まだ何か……策はあるはずです! 私は諦めません!」

しかし二人は徐々に追い詰められていった。

ここまでか……? そう思った時、遠くから近づいてくる地響きに気が付いた。

「何か来る!?」

モンスター達も地響きの方向に顔を向ける。

そして、地響きはますます大きくなり、

そして……


「ギャオォォォォォォォォ!!」

「きゃあぁぁ!?」

アクアが驚きの声をあげた。

洞窟の壁が豪快に破壊されると共にディアブロスが突っ込んできたのである。

「何で火山にディアブロスが!?」

「し、しかも角が三本ありますよ!?」

二人が困惑してる間にも、土煙と共にディアブロスはガブラスやガミザミを次々と蹴散らしていった。

………そして、そのまま走り去っていった。



「………え?」

何だったんですか……? と声を漏らすアクア。

「…………さぁ?」

ハンマーも訳が分からないという顔をしている。

しかし、今の騒動でガブラスとガミザミの群れ逃げ出してほぼ壊滅。

残るはラージャンだけとなり、そのラージャンも舞い上がった土煙で身動きが取れないでいた。

「何か運が向いてきたかな?」

「……ん? ハンマーさん!」

するとアクアが突然土煙の中を指差した。

「え? ………人……影?」

土煙の中に見えたのは二つの人影。

「いやぁ……やっと降りれたね」

そう言って出て来たのは、全身黒ずくめの怪しい男。

「って言うか振り落とされたのよ……最悪! ていうか……ここって火山じゃない!? どうやって帰るのよ!?」

二人目は、ツインテールに纏めた金髪を振りながら怒る女の子。

現れたのは、二人のハンター。
バルスとシャワの両名だった。

「何ですか!? あの黒いのは!?」

アクアが何度目か分からない驚きを声に出す。」
彼はやはり、誰が見てもそう思えるような男だった。

「分かんない………だけど1つだけ分かることがある」

ハンマーがいつになく真剣な声で言った。

「な……なんですか?」

アクアも真剣な顔つきになって聞く。



「あのザザミっ子は絶対いい子」


「あぁ……同感です」


あくまで真剣な顔である。

「ん? そこにいる二人はハンターさん?」

「良かった! これで帰れる!」

二人がこちらに気付き、駆け寄って来た。

「あの、すみませんが……」

「ちょっ……! 待って静かに!」

ハンマーがこちらに近づくラージャンを指差した。

「……!!?」

「な――!? むぐ……!」

バルスは咄嗟に叫ぼうとしたシャワの口を塞ぐと、岩影に隠れようと提案し、四人はゆっくりとその場を離れることに成功した。

「ラージャンが火山にいるなんて情報……ギルドには無かったはずだけど?」

岩場について第一声、バルスがそう尋ねた。
ラージャンなどの危険生物はギルドが厳重に注視しているため、火山などに現れた場合、直ちに警報がギルドに伝わるのだが今回は全くの無情報である。
しかし、そもそも生態も解っていないモンスターの居場所を把握することが困難である為、情報を鵜呑みにすること自体が間違いなのであるともいえる。

「私たちも今、鉢合わせばかりだからね……」

「取り敢えずどうするのか決めましょう。気付かれるのはきっと時間の問題ですよ……」

土煙は徐々に薄くなっており、ラージャンもしきりに辺りを見渡している。

「でもこの状況でラージャンから逃げるなんて無謀よ! このまま隠れてやり過ごした方が……」

「確かにそうですね……」

「みんな落ち着いて! ここは冷静になって行動しないと……」

バルスガそう言った刹那、ガラガラと彼が背をつけた岩が大きな音を立てて崩れて落ちた。

「ブォオオオオ!!!」

瞬間、獲物を見つけたラージャンが体の底から震えるような咆哮を上げる。

「バルス!? あんた何てことしてくれたのよ!?」

「冷静になろうとした結果がこれだよ!」

「黄色いの黒いのも! 言い合いしてる暇は無いよ!」

「黄色いのじゃなくてシャワよ!」

「あ、同じくバルスね」

「こんなときに自己紹介してる場合ですか!」

「アクアも突っ込んでる暇無いって!!」

そうしている間にもラージャンはこちらに近づいていた。

グルル、という唸り声が恐怖心を耳から体の芯まで直に送り込む。

「……これはもう戦うしかないでしょ」

ハンマーが決心したように言う。

「戦うって……ハンマーさんラージャンと戦ったことあるんですか!?」


「無い!」

自信満々に言い放つ。

「敵の情報がほとんどないんですよ!? 危険です!」

「そんなの戦いながら覚えればいいんだっ!」

「ちょっと!? あなた正気!?」

「ここで引いたら絶対に誰かが犠牲になる!」

ハンマーは大鎚を担いでラージャンに向かって行った。

するとそれを追うように黒い影が続く。

「僕もそういうの、嫌いじゃないよ」

バルスがハンマーと並んで走り出していた。

「そう! じゃあよろしくお願…………って黒いの、あんた武器は?」



「…………あ゙」





(砂漠に忘れてきたぁぁぁぁぁぁぁ!!)




「あー………先、行くよ?」


立ち尽くすバルスを尻目に走り出すハンマー。

「バルスさん! これを!」

狼狽えてるバルスの元に走って来たアクアが一本の小太刀を手渡した。

「これは……!」

「父の形見です! 大事に使ってくださいね!」

「ありがとう、いい刀だ。 ……じゃあ行こう!」

「はい! ハンマーさんを援護しましょう!」

二人はハンマーに続いて走り出す。それを見て残された一人はため息をついた。

「あーもう……! どうしてこうハンターって皆無茶が好きなのかしら……まぁ私も人の事言えた立場じゃないけどさ」

そう言うとシャワはライトボウガンを構え、ラージャンに向かって氷結弾を撃ち放った。

「ブォォォォ!!」

唸りを上げて降り下ろされるラージャンの豪腕。

岩をも容易に砕くその一撃を喰らえばハンターといえどもひとたまりもないだろう。

ハンマーはそれを見切り、紙一重の間を置いて避ける。
吹き過ぎていく拳から生みだされる烈風を肌に感じながらながらも、ハンマーの目には闘志がみなぎっていた。

「だぁぁぁ!」

狙いは済ましたハンマーの一撃がラージャンの脳天に直撃、その直後にシャワの放った氷の礫が降り注ぐ。

「はぁぁ!」
「せい!」

怯んだその隙にバルスとアクアはラージャンの両側に回り込み、二振りの刀がラージャンの屈強な体を鋭く切り裂いていた。

「ブォォォ……!」

完璧なコンビネーションが決まり、金獅子はうなり声を上げながら後退した……、



――アクアの目にはそのように見えたのだ
ー鋼龍ー

「よし! 押してます!」

アクアが目に期待を浮かべる。

「いや! あれは後退したんじゃない!」

「え……?」

ハンマーが叫んだ瞬間、目の前が金色の光に包まれた……

「一体何なの!!??」

「――黒獅子の怒りが頂点に至る時、獅子は黄金の光に包まれ、金色(こんじき)の獅子へと姿を変える――か。……文献の通りだね」


「バルス……それどういうことよ?」

「ピンチ……ってことかな」

「なんて輝き………」

ハンター達はその姿に圧倒され、目を見張る。

ラージャンの毛は黒色から輝くような金色に変化し、黄金の見に見える程の強烈なオーラがにじみ出ていた。

これこそがラージャンが金獅子と呼ばれる理由。

古龍も恐れるといわれる牙獣の王の真の姿であった。


あまりの迫力と美しさに三人は動けない。

「皆しっかりしろ! ここからが本番だぞ!」

「「「!!」」」

ハンマーの一括。それに皆が気を持ち直し武器を構え直す。

「はい! ハンマーさん! 行きましょう!」

「シャワちゃん、怯んだら負けだよ!」

「解ってるわよっ! あんたこそもうバカしないでよ?」


「ブォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

――四人は、咆哮を合図に輝く金獅子に向い、走り出す



――古龍観測隊はこの戦いを記録していた。

これは正確に記録に残された初のラージャンの討伐であり、後に『金獅炎山の狩猟』と呼ばれ、ハンター達の間で語り継がれることとなる。



「……終わったね」

倒れたラージャンを見て、ハンマーは肩で息をしながら皆に笑いかけた。

「死ぬかと思いました……」

「同じく……」

「もうくたくた………」

全員ボロボロである。

「それじゃ帰ろっか。ラージャンの報告とクシャルダオラの情報もしなきゃならないしね」

「そうですね……早く帰って休みたいです」

「何言ってるの! 帰ったら夜通しで勝利を祝うの!」

「えぇ―――!? 何でそんなに元気なんですか!?」

「……若いから?」

「私の方が若いですよ!! ですよね!?」

一方、それだけ騒げるアクアも充分元気だろうと、残された二人は呆れていた。

「僕達はどうしようか?」

「あー……取り敢えずギルドに戻ってディアブロスの討伐失敗の報告……よね。まぁラージャン討伐を伝えればギルドも何も言わないでしょ」

「確かに」

予定が決まればすぐに行動に移すのがハンター。
四人は連絡先を教え合うと、途中で別れて帰路についたのであった。





「しっかし……疲れたねぇ……」

先程とはうって変わり、ハンマーは大分疲れた声で言った。

「ラージャン丸々一匹村まで運ぼうなんてするからですよ! 途中でギルドにお願いして正解でしたよ……」

「だってせっかくの貴重な素材だしさ、沢山欲しいじゃん?」

残念そうにハンマーがぼやく。

「それじゃ密猟と変わりませんからっ! それにギルドから素材はたんまり貰えるって話ですよ?」

「ホント!? ならいいや! じゃあ早く帰って祝勝会だ!」

「休みたいですってば………!」


二人はそんな会話をしながら村へと足を進める。




「…………」

その二人が帰っていく様子を見ていた人影がいた。

「あのラージャンが倒されるとは思いませんでしたが、計画には支障ありませんね。さぁ後は………ふふ、面白くなってきました」

リノプロヘルムをつけた赤衣の女はそう言いながら洞窟の奥に消えていった。



―ギルド―

酒場ではいつもよりも騒がしくなっていた。

ラージャン討伐の話が広まり、多くのハンター達がポッケに集ってお祭り騒ぎが始まったのだ。
その喧騒中、一際大きな声が酒場に響いた。

「乾杯ーー!!」

杯から飛沫が盛大に飛び散る。

「もう……何回目の乾杯ですか」

「えぇーもうギブアップ?」

すでに何十杯もの空杯が転がっていたが、ハンマーはまだまだ余裕そうである。

「うぅ……お祝いなんですから、私を気にしないで好きなだけ飲んでください」

アクアはぐったりとしながら、まだまだ飲み足りなそうにしているハンマーにそう言うと、机に突っ伏した。

「そう? じゃあ、お代わりお願いしま―す!」

アクアはハンマーの元気な声を聞きながら、ぼんやりとした頭で村に帰ってきてからのことを思い返した。


――数時間前

二人は帰ってすぐに火山でのことをギルドに向かい、ラージャンの出現とクシャルダオラがモンスターの変貌の元凶でほぼ間違いないことを報告した。

「そうだったの、よく無事に帰ってこれたわね~。私、これでも心配してたのよ~」

口調はのんびりしていたが、彼女の顔を見ると、本当に心配していたようである。

まぁ通常運転ですね……、と思いながらアクアは話の核心について触れた。

「それでクシャルダオラがどこに行ったのかは分かったんですか?」

するとギルドマネージャーはニコリと笑って答えた。

「ふふ~ギルドもちゃんと働いてるのよ~。今さっき、古龍観測所から報告が入ったの~。どうやら目標は今、古塔に住み着いているみたいね」

「古塔……ですか?」

「古塔か……あそこに行くの大変なんだよね。ネコタクの手配に時間掛かるし、樹海を突っ切るから最低でも3日はかかる」

「そんな辺鄙(へんぴ)なところにあるんですか……」

「準備もあるし今日明日は動けそうにないな」

ハンマーはポリポリと頭をかく。

「とりあえずシャワちゃん達に連絡をしときましょうよ」

火山で出会った怪しい(約1名)二人組にクシャルダオラの話をしたところ、協力したいから討伐に出るときには連絡をして欲しいと言ってくれたのだ。

――ああやって、他にやらせといて自分は高みの見物する奴って嫌いなのよ。

盛大に顔をしかめてシャワが言っていたのを思い出す。

――古龍の血を分けて配下に置くなんてとても興味深いじやないか。是非とも対峙してみたいね!

バルスは逆に顔を輝かせて(輝やいても黒だったが)協力を申し出ていたが……。

ん?

「あぁーーーー!」

「どうしたのアクア?」

「バルスさんに小太刀貸しっぱなしだったぁ!!」

しまった……大事な物なのに、しれっと腰に差されて持っていかれた……!

「じゃあ尚更連絡しないとね。ネコタクの手配と一緒にしておくよ。その間にアクアはあれの準備をよろしく!」

「ん? あれって言うと?」

「宴会に決まってるじゃない! 他のハンターも誘って盛大にやろう! 報酬はたっぷり入ったしね!」

「えぇ!? ……やっぱりやるんですか? しかも規模が広がってるじゃないですか!」

「勝利のお祝いと、クシャルダオラ討伐の前祝いだよ!」

「そんな暇は……私の小太刀とクシャルダオラが!」

アクアが慌てて抗議する。

「慌てない慌てない。ネコタクの手配だってまだ数日かかるし、黒いの達とも連絡取らなきゃならないから、どのみちまだ時間はあるんだ。だから出発前にパーっとやっとこうよ! ね?」

「う―ん……ならそうしましょうか」

ニコッと笑うハンマーにそこまで言われたら、休みたいとは言えないアクアであった。

            
         ◇

「アクア―! 起きろ―! 帰るよ?」

「んん……? あ、私寝ちゃって……」

ハンマーに揺すり起こされると、宴会はとっくに終わっていて、辺りはすっかり暗くなっていた。

「出発の支度は明日から始めるから、今日はもう寝よう」

「そうですね………うわっととと!?」

「おっと! 大丈夫?」

足元がふらつく……まだ酔いが抜けてないようだ。
ハンマーに支えられながら少し歩いていると、彼女の姿がふいに見えなくなった。

「ハンマーさん? うわっ!?」

ハンマーはひょいっとアクアを背負ったのだ。

「だ……大丈夫ですよっ! 歩けますって!」

アクアが足をバタバタさせる。

「無理しないの。しっかり掴まってなよ?」

「……はい」




「………アクア?」

「……………」

少しすると、アクアは背負われながら眠りについてしまった。

その夜、アクアは久しぶりに笑っている母の夢を見た。

―次の日の朝―

「ほら起きろーー!」

ぷすっ、軽めの音が部屋に響く。

「っ!!? いったぁーーー!!!」

飛び起きたアクアの横でハンマーは眩しい笑顔を向けていた。

「おはよう! どう? 私の特別モーニングコー……ぶっ!?」

ハンマーの顔でペイントボールが盛大にはじける。

「サボテンハンマーで刺さないでって何度言ったら分かるんですか!? しかもそれ、一応毒ありますからね!?」

「ごめんごめん! 謝るからこやし玉構えるのはやめて!」

朝から騒がしい家である。

「……それで連絡は来たんですか?」

アクアが雪山草で淹れたお茶を啜りながらハンマーに訪ねた。

「うん、さっき届いた。さすがポストアイルーは優秀だね」

ポストアイルーというのは各地に手紙を配達してくれるアイルーのことである。
ユクモでクエスト中のアイテム配達をしているニャン次郎も、本来はポストアイルーが本職である。

「それで出発はいつですか?」

「出発は明日。運良くネコタクも確保出来たし、黒いの達とは古塔で合流することになったよ」

「分かりました! そうと決まればすぐに明日の準備しましょう!」

「そうだね!」

二人は黙々と荷物の準備をし、武器の手入れを始めた。

アクアは自分の太刀をチェックしていた。

【霊刀ユクモ・真打】

ユクモから持ってきた太刀を何度も強化し、これ以上ない程研ぎ澄まされた相棒がユクモでそう呼ばれているのをアクアは知らない。
いつも身に付けている【ユクモシリーズ】も先日討伐したラージャンの毛皮を加えてもらい、前よりも遥かに頑丈な作りとなっていた。

「よし、完璧ですね」

そう言って太刀を鞘に納めると、隣にいるハンマーが目に止まった。

「ん? 何?」

ハンマーの手元では、出会った時からずっと持ち歩いていた彼女の愛鎚『石拳【愚】』が磨かれていた。

「改めて見ると、そのハンマーすごい見かけしてますよね」

「いいでしょ? このいかにも『殴ってます』って感じのフォルム。一目見掛けてからずっとこれ使ってるんだよねー!」

ハンマーは愛しそうに愛鎚を磨く。

「よくそんな重いのを軽々と扱えますね……」

一度ハンマーに貸して貰ったことがあったが、持ち上げるのがやっとだった。 大剣だって問題なく扱えるアクアでも、である。

「ま、これは特別製だからね。愛があれば重さなんて関係ないよ!」

いや、それは多分関係ありますよ…… と思ったが、ちょっと納得させられそうになる程のドヤ顔であった。

「さて、準備は完了したから、少し出掛けるよ」

「え? どこに行くんですか?」

「情報収集。実は私もクシャルダオラとは戦ったって言えるほどの経験が無いんだよね。ほとんどの知識はある人からの受け売りなんだ」

「そうだったんですか!?」

「うん。やっぱりもう少し情報が欲しいと思ってさ。クシャルダオラと何度も戦ったことがある人に会いに行こうかなって」

「この村にそんなハンターがいたんですか」

てっきり村のハンターはハンマーさんだけだと思ってました。アクアがそう言おうとした矢先、心を読まれたのかハンマーが先に口を開いた。

「いや、もうすっかり引退してるんだ。そっか、アクアはまだ会ってなかったね」


「一体誰なんですか?」

アクアが興味津々に聞くと、ハンマーがニヤリと笑って答えた。


「教官だよ」


―訓練所―

アクアはハンマーに連れられ、訓練所の前までやって来た。

「ここが訓練所ですかぁ……初めて来ましたけど結構大きいんですね」

訓練所を眺めながらアクアは言う。

すると上から野太い声が響いてきた。

「ヌハハハハ!」

屋根の上に黒い影が一つ。

「あれは一体!? 鳥!? モンスター!?」

「いやっ! 教官だっ!」

「トゥッ!」

屋根の上にいた教官は高らかに飛ぶと、体を丸め高速で回転しながら降りてきた。

「ヌォォォォ!!」

「あ」

「ほぁぁぁぁ!?」

リアルに何かが折れるような音と共に教官は地面へと着地し、足を押さえて転がり回った。

「うーん………うーん…… 」

「………」

「………」

冷ややかな視線が二つ。


「……はっ!」

「わ、私が訓練所の教官だっ!! クシャルダオラの倒し方だと!? そんなもん気合いだぁぁぁぁぁ!!」

教官は強引に起き上がると、片足をぐにゃぐにゃとさせながらアクアに向かってケンケンしながら全力で向かって来た。

「きゃぁぁぁぁ!?」

―自宅―

「――という夢を見たんですよ」

出発の日の朝、アクアはコーヒーを啜っているハンマーに今日見た夢の内容を話すと、彼女は盛大にコーヒーを吹き出した。


「えぇ!? 教官がクシャルダオラを!? この村の教官はね、モスに轢かれてとっくに他界してるよ?」

「そうなんですか!? しかもモスに……」

それはあまりに浮かばれない……

アクアは顔についたコーヒーを拭きながら、天井を仰いで合掌する。

「ていうかどこからが夢?」

「武器を研いだ後からですね。……半分正夢って訳です」

「縁起がいいのか悪いのか分からない夢だね……さて、そろそろ出発しないとネコタクの時間に間に合わないよ」

「そうですね……ん?」

外からこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。

「ハンマーさん! 大変です!」

バン! と扉を壊す勢いで受付嬢は飛び込んで来た。

「どうしたの?」

ハンマーの問いに受付嬢は肩で息をしながら答える。

「各地の『古龍化』したモンスターがさらに凶暴化し、数も爆発的に増えてるんです……このままだと古塔に行くことも困難になります! 急いで出発してください!」

「何だって!?」

「シャワさんやバルスさんは!?」

それだけの騒ぎになっているとすれば、二人と合流するのは難しくなるかもしれない。

「お二人は増えたモンスターの討伐に駆り出されたようです。……合流するのはかなり厳しいと思われます」

「そっか……アクア! 待ってる時間は無い、二人で行くよ!」

「はいっ!」

二人は村人が慌てている中をくぐり抜け、大急ぎでギルドが用意してくれた臨時ネコタクへと乗り込んだ。


―古塔―

樹海の奥地にそびえ立つ、誰が建てたのかも分からないその巨大な建造物は重苦しい空気を漂わせながら、二人を待ち構えているようだった。

「これが古塔ですか………なんて大きい……」

「……それに凄い威圧感が上から来てるね」

「キシャーー!」

空には大量のガブラスが舞っていた。

「クシャルダオラの気配を感じ取ったのか……戦ってたらキリがない! 一気に走って中に入るよ!」

二人はガブラスの群れをいなしながら塔の内部へと入り込んだ。

その瞬間、

ブォン! という空気を割るような音と共に、何かがアクアに向かって叩きつけられた。

「!?」

「アクア危ない! ……ぐあっ!?」

ハンマーはアクアを突き飛ばし、その一撃を喰らって塔の奥へと吹き飛んだ。

「ハンマーさん!!」

アクアが急いで駆け寄ると、彼女は頭部から血を流し、意識を失っているのかピクリとも動かない。

「何で私を庇って………しっかりしてください!!」

「ギャォォオオ!!」

その後ろに、先程の攻撃を繰り出したであろうモンスター『蕀竜』エスピナスが迫って来ていた。

その体は黒く、体に生える棘は通常種よりも鋭利で血のように赤かい。

「…………っ!!」

武器を構えるアクアに横から声が聞こえた。

「……アクア、先に……行って」

なんとハンマーがよろめきながら立ち上がったのだ。

「そんな……っ! そんなの出来るわけ無いじゃないですか!!」

その時、辺りを白い閃光が包んだ。

「グォォ……!」

エスピナスが目を眩ましている。

(これは閃光玉!? 一体どこから……?)

すると塔の入り口からエスピナスに弾丸が降り注ぐ。

エスピナスは後頭部に弾丸の雨を受け、攻撃された方向へと顔を向ける。

「あ……!」

その入り口には見知った二人が立っていた。

「シャワさん! バルスさん!」

シャワはジェスチャーで静かにするように、そして先に行けと言っているようだった。

そして、今度はしっかりランスを装備しているバルスから何かを投げられた。

投げられたのは応急措置用の薬箱、そしてその中には

「あ! 小太刀!」

アクアは小太刀と道具を受けとると二人に感謝を込めた礼をし、意識を朦朧とさせているハンマーを担いで塔の上へと登っていった。


ハンマーが握ったままだった石槌も、この時は不思議と重さを感じなかったという。

―頂上入り口―

「これでよし……と。ハンマーさん、ゆっくり休んでくださいね」

「………ごめん」

応急措置はしたものも、ハンマーの受けたダメージは深く、動けるだけの回復はしばらくは見込めなかった。

「すみません……私のせいで」

「気にしないで……。アクア、私はアクアの力を信じてる。一人で……やれる?」

「もちろんです! ぶっ倒してやりますよ!」


いつもでは考えられないほど弱々しく問いかけたハンマーは、それを聞くと安心したように意識を手放した。

階段を上がればクシャルダオラが待ち構えているだろう。
アクアはハンマーを隅に寝かせると彼女の顔をじっと見つめ、それから勢いよく階段を駆け上がった。



ある決意を固めて。

――頂上

古塔の頂上、そこにはこの騒動の原因が静かに佇んでいた。

その他には何も無い。

龍と人、双方だけが頂上に立っている。
静かな静寂だけが一人と一匹を包んでいた。

「…………………」

静かに狩人を見つめる白い鋼龍に向けてアクアは刀を構える。

「……容赦はしません。全力で倒します!」

アクアは太刀を引き抜き勢いよく足を踏み出すと、太刀を振りかぶって全力の一撃を叩き込んだ。

「はぁ!! ……っ!?」

瞬間、ガチン! という金属音と共に、ユクモノ太刀が大きく弾かれた。

「嘘……!?」



その隙を逃すこと無く、クシャルダオラの鞭のようにしなる尻尾がアクアの腹部に叩き込まれる。

「早っ――くぅっ!」

咄嗟に後ろに下がり衝撃を吸収したが、それでもかなりのダメージを受けた。

クシャルダオラは何故か追ってはこず、様子を窺うように初めの位置を動かない。

アクアは素早く回復薬を口に含むと、再度鋼龍へと突っ込んだ。

「やぁぁぁぁ!」

待ち構えるクシャルダオラが振りかぶった腕を掻い潜り、腕と腹を連続で切りかかる。
が、やはり金属音が響くだけで鋼のような甲殻には傷一つ付けることが出来ない。

「ぐ……!」

攻撃の手が緩んだ隙に頭突きを喰らってしまった。
しかし今度は予測できていた為にダメージは浅い。

(何て固さ……しかもこの強さ……このままじゃ勝てない!)

しかし、頭突きを喰らう瞬間アクアはあることに気が付いていた。


アクアは太刀を地面と平行に構える。
奴の首には一か所だけ甲殻が剥がれている部分があったのだ。

(あそこなら太刀が通るはず……! きっとお父さんが付けた傷だ!)

「はぁぁぁ!!」

気合いと共に重心を落として走り出す。
余裕を見せている今がチャンスなのだ。
アクアは渾身の突きをクシャルダオラに向けて繰り出した。

――が。


バキン、と一回り大きな金属音を響かせて、アクアの相棒は真っ二つに折れてしまったのだ。


「そんな……!? ――うぁっ!!?」


再び振われた重い前足がアクアを襲った。
大きく吹き飛ばされ、背中から勢いよく地面に落とされた。

「うぐ……あ……っ!」


防具を強化していなかったら今の一撃で意識を失っていたに違いない。
次、もう一撃でも受ければ確実に死んでしまう。



(やっぱり……もう『あれ』しかない!)


そうと決めたアクアの行動は早かった。


腰の小太刀を抜き、構えると息をゆっくりと吐き出して意識を集中させる。

(ハンマーさん……折角特訓してもらったのに、すみません)

アクアは体に眠っている力――コントロールで抑えていた『それ』を逆に全開したのだ。



「!? ……うぁぁ!!」

途端、意識が飛びそうになる。

すると、

『気合いだぁぁぁ!!!』

心の中で何故かあの教官の声が響いた。

「教官!?」

その熱い言葉を受けたアクアは暴れまわる力を120%まで引き出し、無理矢理に押さえ付け、そしてその全てを小太刀に込めた。


――この一撃で必ず勝負を付ける!


地面にヒビが入るほどの力でアクアは強く足を蹴り出した。
体中で風を切る。
クシャルダオラの素早い動きも今なら捉えられた。


「だぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ギャォォォオオ!!!!」






アクアとクシャルダオラのが体が、疾風の如く交錯した。








―数時間後―


「はぁ、はぁ……」

ハンマーは壁に手を付けながら、ふらつく体に鞭を打って頂上へと登っていた。

(大分意識を失ってたみたい……アクア……無事でいて!)

頂上に着くと、遠くでアクアが地面に倒れているのをすぐに発見した。

「アクア!!!」

アクアの元へと急ぐハンマーだったが、突然彼女の目に驚くべきものが映った。


「………………」


「!? クシャルダオラっ!!?」


鋼龍はその美しい甲殻に光を反射させ、こちらを睨む。

「………っ!」

武器を構えたハンマーだったか、クシャルダオラは一向に動こうとしない。

「……?」

「あ!」

よく見ると、喉元にアクアの小太刀が突き刺さっていたのだ。

「死んでる……のか」

その一撃で絶命したのだろう。
他には一切傷が見当たらず、まるで生きているかのように立ちながら、クシャルダオラは事切れていた。

「……そうだっ! アクア!」

ハンマーは倒れてるアクアを揺する。

「アクア! アクア! しっかり!」

「ん……は、ハンマーさん?」

アクアがゆっくりと目を醒ました。

「アクア! よかったぁ……」

それを見てハンマーはホッと胸を撫で下ろす。

「ハンマーさん……私やりましたよ……ね?」

えへへ、と憑き物が落ちたように笑うアクア。

「うん……本当にお疲れさん!」

「わっ!? ハンマーさん!?」

ハンマーは思わずギュッとアクアを抱き寄せた。


(それにしても……どうしてアクアは古龍化の影響が少なかったんだろう?)

明らかに他とは様子が違うのだ。何か理由があるはず……。

「……あ!」

「? どうしました? 何か付いてます?」

「アクア、そのピアスちょっと見せて?」

アクアの耳には綺麗な蒼色をしたピアスが付けられていた。

「これは小さい頃にお母さんがプレゼントしてくれた物なんです」

なるほど、と彼女は思った。

「いいピアスだね! 大事にしなよ?」

「もちろんです!」

アクアはニッコリと笑ってみせる。
アクアの着けていたピアスは「三眼のピアス」と呼ばれる貴重な装備品。弱めだが龍耐性を持つ特別な装備だった。

(母の力は偉大……か。ちょっと羨ましいかも)

二人は肩を支え合い、たわいもない話をしながら帰路につこうとした。


――その時である。


巨大な落雷音が二人の後ろ――丁度クシャルダオラのいた場所に響いたのだ。


「!?」


二人が振り返った時にはクシャルダオラの姿は跡形もなく無くなっていた。
一振りの小太刀だけを残して。

「一体……!?」

「さぁ……? でも、もう大丈夫ってことじゃないかな」







帰った後で、アクアは不思議な夢を見た。

それは白い巨大な龍がクシャルダオラを乗せて飛び去っていく……それはそんな光景だった。


        


     ◇


『――という訳で、私がクシャルダオラを倒した後、『古龍化』していたモンスターは元に戻り、凶暴性も失われていったみたいです。

ギルドの見解だと、モンスター達は古龍の血の力に耐えられず、それが理由で突然変異するに至ったらしいですが、なぜ古龍の血がモンスターに入り、また消えてしまったのかは分からずじまいで、クシャルダオラの目的は何だったのか、ギルドは同時に目撃された赤い衣の人物の正体と一緒に、今も調査が続いています。

あの後、私の古龍の力は無くなってしまったようで、力自体は弱くなってしまいましたが、ハンマーさんに鍛えられていたお陰でそれほど不便ではありません。

シャワちゃんもバルスさんも無事で頻繁に連絡をとっています。

ハンマーさんは………』

「アクア! ユクモには嵐を呼ぶ古龍の伝説があるんだってさ! 里帰りと温泉ついでに行ってみない?」

「ユクモに……そうですね。久々に帰るとしますか! 温泉も入りたいですし」

「じゃあ決まりだね! バルスとシャワにも声をかけよう!」


『いつも通り元気です。今の私なら、もう逃げ出すようなことはしません。帰るきっかけを作ってくれた素敵な相方も出来ましたしね。 では、近い内に謝りに帰ります。 ――親愛なるユクモの村長へ。 ――アクアより』


ふぅ、とアクアは羽ペンを置き、伸びをしてから元気一杯に立ち上がった。


「さぁ! 早速、支度を始めますか!」



――二人の物語はまだ始まったばかり。








『ユクモへ!!』




END?


                            【次章へ】
ー騒動の裏舞台ー


――これはハンマー達が古塔へ向う少し前の話


―バルス達のギルド―

「――という訳なの! すぐに加勢をお願い」

ギルドへ帰ったバルスとシャワは、休む間もなく受付嬢であるシェリーから古龍化したモンスターの討伐依頼を受けていた。

「やっと帰って来て、いきなりクエストはきついね……。それにあの二人との約束もあるしなぁ……」

「疲れてるのはあの大砂漠にランスなんか探しに行ってたからでしょ! 自分の責任じゃない!」

バルスは火山から帰還した後、一人で砂漠に行って今帰ってきたばかりなのであった。

「いや……でもやっぱりあれは自分だけの責任じゃ……」

「なによ! そもそもディアブロスにかち上げられる方が悪いでしょ!?」

「二人とも! 言い合いをしている場合じゃないわよ!」

再び口論に火がつきそうになるところに、シェリーが割って入った。

「今回のクエストは、ギルドから強制参加が義務付けられてるから。拒否権なんか無いわよ?」

「そんな!? まだ身体中砂まみれなのに!」

体を動かす度に砂をこぼしながらバルスが抗議の台詞と砂を吐く。

「とりあえずその砂、早く落としてきなさいよ……それでクエストの詳細は?」

とりあえず水だ! とバルスが駆け出していくのを尻目に、シャワが尋ねた。

「樹海に、滅多に姿を見せないエスピナスが出現しているという情報が入ってるわ。樹海の集落の被害は深刻みたい。至急討伐に向かって欲しいわ」

(樹海か……約束の場所から近いわね)

ならアクア達の加勢に向かえる可能性が出てくる。

「……分かったわ。すぐに支度するから」

そう言ってシャワはバルスを呼びにいった。

「バルス! いつまで洗ってるのよ……って何これ!? どれだけ砂詰まってたのよ!! まったくもう――――!」


       

―樹海―

「はぁ……」

木々が鬱蒼と覆い茂る中、二人の足取りは若干の疲れを帯びていた。

「ちょっとぉ……エスピナスなんて何処にもいないじゃない……」

シャワがいつもより覇気の無い声でボヤく。

「目撃例が少ないからね……どこを巣にしているかも不明だ。これじゃ居場所も掴めないよね……」

二人は、ほぼ丸一日樹海を歩き回っていた。

二人は無言で樹海を進んでいたのだが、日も落ちてきた頃ずっと黙っていたシャワがついに口を開いた。

「あーーもう! 少し休憩にしましょう」

「確かに。もう夜だしね……このままじゃ効率も落ちる」

バルスも賛成し、二人はしばしの休憩の準備に取り掛かった。

「ところでバルス。大分歩いたけれど、今どの辺りなのかしら?」

ふと、気になったので聞いてみた。
バルスのことだからすぐに答えが返ってくるだろうと思っていたのだが、彼の返事に耳を疑った。

「え……? シャワちゃんが把握してるんじゃなかったの?」

「はぁ!? なんで私が把握しなきゃならないのよ! あんたが黙って着いてくるからてっきり知ってると……」

「僕だって! シャワちゃんがどんどん先に行くからてっきり分かってるものだと……」

「ってことは……」

「うん……」

気まずい沈黙が流れる。

――二人は完全に迷ってしまっていた

「……とりあえず完全に暗くなる前に、何か手掛かりになるものを発見できればいいんだけど……」

バルスは持ってきていた松明に火をつけながら言った。

「そんなこと言ったってそう簡単に手掛かりなんて………あ」

「ん? 何かあった?」

「大きな足跡があるわ。……見たことない足跡ね。ってことは多分エスピナスじゃない?」

「わお」

シャワは簡単に手掛かりを発見してみせた。

この辺の運の良さも彼女の強さの秘訣であるのかもしれない。


「よし! その足跡を追っていくしかないね」

「そうね、すぐ行きましょう。まだ新しいし、きっと近くにいるわ」


――元気にそう言った二人はこの後、夜通し歩き続けることになる



      

明け方を過ぎた頃、二人は未だ足跡を追い続けていた。
しかも深い霧が出始め、視界がかなり悪い。

「………うぅ、大分遠くまで歩いてきちゃった……わね」

「……………そのようだね。霧でよく……見えないけど」

二人の体力は限界に達していた。

「取り敢えず一度休憩を入れましょう……色々と限界よ……」

体中泥だらけのシャワが深いため息をつく。

「そうだね。うわ……頭に苔生えてるよ……」

「ひっ!? は……早くほろいなさいよ!」

苔のおかげでバルスのスカルフェイスは更に不気味なことになっていた。

しばらく死んだように休憩していた二人だったが、鼓膜が震える程の咆哮によってその安息は破られた。。

「ギャオォォォォォ!!」

「なんだ!? こんな咆哮聞いたことないぞ!」

「しかも近いわ!」

その瞬間強い風が吹き、霧が一気に晴れた。

「…………っ!」
「…………っ!」

目の前には何と、約束の地である古塔がそびえ立っていたのだ。

「これも巡り合わせかな?」

「そんなこと言ってる場合じゃないわよ! きっと中に二人がいるわ、急ぎましょう!」

二人は古塔の入り口に駆け付け時、目に飛び込んできたのは探し求めていた飛竜エスピナスと重傷のハンマー、そしてそれを庇おうとしているアクアの姿だった。

「不味いっ!」

バルスは咄嗟に閃光玉を投げつける

「こっちに引き付けるわよ!」

シャワもライトボウガンを構え、エスピナスめがけて撃ち放った。

「グオォォォ!?」

目を眩ましながらも、こっちに向かってくるエスピナスを確認すると、バルスは念のため持ってきておいた小太刀を救急道具に括りつけ、アクアに渡そうと振りかぶった。

「アクアちゃ……もがっ!?」

シャワはバルスの口を塞ぐと小声で呟いた。

「馬鹿! 下手に声を掛けて向こうから返事かあったらあいつを引き付けた意味がないじゃない! ジェスチャーで伝えるのよ」

(了解!)

バルスが小太刀を投げ渡すのを見てから、シャワはアクアにジェスチャーを試みる。

(ここは任せて、先に行きなさい!)

アクアはそれを理解したのか、ハンマーを担ぐとお辞儀をして奥へと駆けていった。

「さて、それじゃあエスピナスさん? 散々歩かされたツケ、たっぷり払ってもらうわよ!」

「さっさと倒してアクアちゃん達の加勢をしないといけないしね」

二人は武器を構えて攻撃に移ろうとした。

「グオォォォ!!!」

しかし、目の眩んだエスピナスは入り口に向かって暴れながら突進してきたのだ。

「やばっ! 避けるわよ!」

「はいさ!」

二人は横に飛んで避けようとした。

――が

二人の装備にエスピナスの翼の棘が上手い具合に引っ掛かった。

「え!?」

「うわっ!?」

エスピナスはそのまま入り口を抜け、樹海へと走っていった。

完全に引っ掛かって身動きが取れないまま、シャワはバルスに話しかけた。

「……ねぇ、何か似たようなことなかった?」

「同感だよ……はぁ、今度はどこまで行くんだろ……アクアちゃんごめん!」

ため息混じりの二人と一匹は樹海の奥に消えていった。



――およそ半日は経っただろうか。

「………」
「………」

溜まっていた疲れもあり、二人は物言わぬ洗濯物となっていた。

すると、樹海を爆走していたエスピナスに変化が訪れる。

「……あれ? ねぇバルス」

「……何だい?」

「エスピナスの体……何だか少し、光ってない?」

「え? ………ホントだ」

――時刻はアクアがクシャルダオラを倒した数時間後。

突如、エスピナスの体から大量の光の粒が現れ、それらはふわふわと空に向かって上がり始める。

「……一体何なの!?」

空に消えていく光を見上げながら呟いたシャワの耳に、バルスの慌てた声が聞こえてきた。

「シャワちゃん! 大変だ!」

「どうしたの?」

「エスピナスが……!」

「エスピナスが何? って ………嘘!?」

シャワが見たものは淡い光を帯びながら徐々に縮んでいくエスピナスの姿。

もちろん二人が引っ掛かっている棘も縮み始めている。

(こんなスピードのまま落ちたりしたら……)

シャワの背筋に冷たいものが走る。

「バルス! どこかの枝に捕まってエスピナスから離れるわよ! 今なら外れるはず!」

「……と言ってもそんなに都合良く枝なんて……」

「! あったわ!」

「!? あったの!?」

思わずオウム返しで驚いてしまう。

「あそこ! 丁度いい高さに枝が伸びてるわ! あそこまで誘導するわ!」

と言ってシャワは素早くライトボウガンを構えると、一発の弾をエスピナスの頭部に向かって撃ち放った。

「そんな無茶な……っ!?」

「グォォオ!!」

突然の痛みに驚いたエスピナスはよろめき、目的の枝の方向に進行方向を変えた。

「やったぁ! さぁ、飛び移るわよ!」

(運が良いとかのレベルじゃないような……)

そう思いながらも、バルスはシャワに続いて枝を掴むと、遂にエスピナスから離れることに成功した。

「ふぅ……やっとおさらばできたわね」

枝にぶら下がりながら一息つくシャワ。

「………シャワちゃん」

そんなシャワにバルスは静かに声をかけた。

「何よ?」

「僕達……思いの外良くないモノに掴まってるみたいだよ」

「え? …………きゃっ!?」

横を見ると赤い光が二つ。

「フギャォォォ!!」

「きゃあ!」
「うわぁ!」

休息を邪魔され怒り狂ったナルガクルガは、尻尾に掴まっていた二人を振り払うと飛びかかりのモーションを始める。

「いったぁ……って逃げるわよバルス!」

「もちろん!」

二人はすぐさまナルガクルガに背を向けるとダッシュする。

「いやぁ……それにしても少しホッとしたね」

走りながらバルスはそんなことを言う。

「あんたこの状況で何でそんなこと言えんのよ!」

後ろのナルガクルガを気にしながらシャワが叫ぶ。

「だってさ、あんなにラッキーが続くと怖くならない?」

「あぁ……まぁ確かに私の運の良さは因果応報っていうか、必ずと言っていいほど返ってくるわ……」

「あははは!」

それを聞いたバルスが不意に笑いだす。

「ちょっと! 何が可笑しいのよ!」

――ま、人生ってそんなもんなのかもね とバルスはクククと笑いながら言っていた。







バルスがシャワの前から姿を消したのは、三日後に樹海を抜けたその後のことである。
ー黒の過去ー


西の地平線下へと太陽が帰路につき、茜色に染まり始めた樹海の端。
そこに凸凹な二つの影がふらふらと揺れ動いている。

「やっと抜けれた……」

全身泥だらけで髪もボサボサ。
シャワのげんなりとした一言はため息と共に吐き出された。

樹海をさまよい歩くうちにギルドの管轄外の地域に迷い込んでいた彼女達は、三日かけて樹海の脱出に成功したところだった。

「まさかこんなことになるなんてね……」

「ホントだよ……。まさかキノコまで生えてくるとは……」

バルスがくぐもった声で相槌を打つ。

「アンタの頭の話はしてないわよ!!」

木にいた鳥が飛び去った。
どうやらまだ怒鳴る元気はあるようである。

「……にしてもここは何処なのかしら?」

何とか抜け出たものの、現在地が全く分からないのでは帰りようがない。
するとバルスが何かを発見した様子で指を指した。


「シャワちゃん、向こうに集落があるみたいだ、煙が上がってる。あそこで聞いてみよう」

「え? どこ?」

「ほら、あそこ」

「あ」

バルスが発見した煙は肉眼ではうっすらと見える程度で、視力が武器のあるガンナーのシャワでも言われるまで気が付かなかった。

「………あんな所良く見つけたわね。中にレンズでも仕込んでるの?」

「失礼な、全力で裸眼だよ。昔から視力はいいんだ」

「……あんたが言うと、ど――も変態チックに聞こえるのよね」

「逆セクハラもいいとこだよ!?」

そんなことを言いながらも二人は暗くなる前に着くために早足で煙の元へと向かっていく。

彼らが辿り着いたのは予想通り、小さな集落であった。

「まずはひと安心だわ……」

「また野宿は嫌だもんね」

まばらに建てられた住居からは、火を起こしているのだろうか煙がちらほらと上がっている。

申し訳程度に作られた門をくぐると、やっと樹海を抜けたのだという実感が沸いてきた。

「とにかく……水浴びくらいはしたいわね」

シャワは体についた汚れを手で払いながら言った。

「確かに……これ以上放置したらどうなるか分からないからね……」

バルスも真剣な声色で頭部をさする。

………だから、とシャワは迅竜でも射殺せそうな眼光で黒い変質者を睨む。


「どうしてレディーのたしなみとアンタの頭が一緒に並ばなきゃならないのよ!!」

ビリビリと大きな怒声が響くも、バルスはそれを予期したのかすでに耳を塞いでいた。

すると、

「あんた達、もしかしてハンターさんかい?」

シャワの声を聞きつけたのか、集落の住人であろう一人の老人が声をかけてきたのだ。

「あ、はい。ちょっと迷ってしまっ……「水を浴びれる場所はありませんか!?」

事情を説明しようとするシャワを遮り、バルスは勢いよく老人に話しかけた。

「アンタねぇ……女の私が我慢してるってのに……!」

シャワがワナワナと震えながら言うも、

「はい! あっちに井戸が? ありがとうございます!」

「ってちょっと!? 待ちなさいよ!」

バルスは一目散に井戸へ駆け出していった。


(アイツ……あとで頭叩き割ってやる……!)


「あの、ちょっとよろしいか?」

怒り心頭――といった様子でバルスの背中を睨み付ける彼女に老人は勇敢にも話しかけた。

「……何かしら?」

驚くほど冷たい声が出た。

『見知らぬ怪しい男に親切にするこいつもこいつだ』とでも言いたそうに、シャワは刺すような目付きをそのままに老人を見る。

「実は最近森が騒がしくての……危なっかしくて仕事に行けんのだよ。ハンターさんなら何か知らんかと思ってな」

そんな視線には全く気付かない老人の言った言葉に、ピクリとシャワの頬が引き釣った。

「……………」

その理由は簡単。
シャワとバルスが樹海を走り回ったから。
縄張りを荒らされたモンスターが芋づる式に荒れまわったのだ。


「し……知らないわね。私たちも最近来たばかりだから……」

まさか自分達が元凶だとは口が裂けても言えない。
バレれば借りれる井戸も借りられなくなる。

「で……でも私達が歩いた感じだと、モンスターも大分落ち着いてきてるみたいよ?」

そもそも三日もかかったのはモンスターの警戒が解けるまで身を潜めていたからなのである。

だからその点は保証できた。

「そうかそうか! ハンターさんが言うなら安心できるわい! どうもありがとうよ!」

老人は余程嬉しかったのだろう、村人に『おーい! もう大丈夫だとよ!』と大声で村人に伝えた。

「と……当然のことをしたまでよ」

終始苦笑いのシャワであったが、そこであることに気付く。

(あれ? そういえば私……知らない人と普通に話せてる……!)

なぜかしら? と首を傾げる。

なんと一癖も二癖もあるバルスと行動するうちに、彼女の人見知りは次第に消えていたのだった。

(あいつのお陰……なのかしら? なら少しは感謝しないと……)

「いやぁ~さっぱりした! 」

そこに当の本人がピカピカのスカルフェイスを拭きながら小躍りでやって来たのだ。

「あ、シャワちゃん次いい……オフゥッ!?」

躊躇なく拳を振り抜いていた。
「バルスだったもの」は地面と平行にトリプルアクセルを決め、黒いスカルフェイスを再び泥をまみれにして動かなくなった。


「ふぅ……やだ、ちょっと汗かいちゃった。どうしようかしら……ねぇ? おじいさん?」

「………」

その後シャワは老人の好意でお風呂を用意して頂いた。



少しばかりの礼として一泊の宿と夕食をご馳走したい、という老人――もとい村長の提案を二人は快く受けた。

樹海を抜けたとはいえギルドへはまだかなり遠い。
ネコタクを手配してくれるギルドの出張所がある村も歩けば半日はかかるというので、出発は明日の朝として二人は村人たちと小規模ながらも素敵な宴を楽しんだ。

「……ねぇバルス」

「はい、何でしょうか」

宴が終わり、村人も寝静まった夜、シャワとバルスは焚き火に当たりながら虫の声を耳を澄ましていた。

湿布を顔(スカルフェイス)に貼ったバルスはビクリとして彼女の呼び掛けに答える。敬語で。

「もう怒ってないわよ……あのね? 言いたくないならいいんだけど……いつかは聞かなきゃならないって思ってたのよ……」

「………」

ハキハキ(バルスへのみ)としたシャワには珍しく、歯切れが悪い。

内容は何となく分かる。

「あなたのスカルフェイス……それ普通じゃないわよね?」

殴れば腫れ上がり、ヒビは決して入らない。
決して取ることはない……取れない。

「……本当に申し訳ないんだけどね、僕にも分からないんだ」

「それって……どういうこと?」

「僕は五年前……記憶を全て無くしたみたいなんだ」

静かに語るバルス。仮面のせいでその表情は読み取れない。

「五年前……戦争が終結した年ね」

忘れるはずの無い、あの長く続いた忌々しい戦いの歴史の終わりの年。
まだ幼かった彼女にも人々の歓喜に満たされた叫びは記憶に刻まれている。

「僕はその年最後の紛争に参加していたらしい」

「その時に何かあった……っていうわけ?」

「それは分からない……気が付いたら敵国の収容所にいたんだ」


全てが真っ暗だった―――


        


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





ーー不審な男がいる

そんな報告を受けたフレアは国の収容所まで足を運んでいた。

そんな男一人なら現場の兵士でも事足りるだろうと言ったのだが、どうも様子がおかしいらしい。

「ったく、こっちだって仕事が山積みだってのに」

国の依頼を断れないのがギルドナイトの辛いところである。

お待ちしていました、と門前の兵士から会釈を受けた後、フレアは兵士の話を聞いた。

「……死神だぁ?」

きな臭い言葉が兵士の口から出た。

「私も見たときは驚きましたが……頭が不気味な骸骨なんです」

「……実際に見てみないと分からんな。でもまずは長官のとこだ」

こんな下っ端の話を全て真に受けていては任務など勤まらない。

下積み時代に世話になった恩人が、今はここで長官をやっているらしい。

「たまにはコネでも使わせてもらうか」

挨拶がてら、詳しい話を聞きにフレアは収容所へと入っていった。


        


ポタリ、水滴が落ちる音と共にカビ臭いが鼻を刺激する。

「ここに『そいつ』がいるのか」

堅牢な牢屋の前でフレアは立ち止まる。
日の光が入らないせいで中は暗く、よく見えない。

これじゃ昼か夜かも分からないじゃないか、と訊いたところ、兵士はそれが目的で作られたのです、と答え淡白な目をして続けた。

時間も天気も分からないここにいるだけで、狂ってしまう者は数多くいるのです。見ていて気分のいいものではありませんが、その分私たちの仕事も減りますので……。

何とも胸くその悪い話だ。

「……にしても」

と愚痴が出そうになるのを舌打ちして押し止める。

少し老けた長官からはそれほど詳しい話は聞けなかった。

どうやらその男は、戦場の中心から少し離れた場所で倒れていたところを連れて来られたらしい。

聞けたのはそれだけである。

(ってことは上層部も何も知らねーってことじゃねぇか……やる気あんのかね?)

そんなことを思いながらも、フレアは牢屋の中へ視線を戻す。

本当にこの奥に人がいるのかと思うほどの闇であった。

「おい、明かりくれ」

まずは本人を見なければ話にならない。
兵士から松明を受けとると、フレアは牢内が見えるように明かりをかざした。

「なっ………!」

フレアは思わず松明を落としそうになった。
そこに現れたのは鎖で両腕を吊られた首なしの男。

ではなく、

完全に闇と同化するような漆黒の髑髏を頭につけた男であった。

寝ているのかピクリとも動かない。

「……驚かせやがって。で、何でこの男は牢屋に入れられながら拘束されてるんだ?」

「目を覚ました男が暴れましたので、最後は5人掛かりで取り押さえました」

「5人掛かりねぇ……まぁ兵士が暴れればそんなもんだろ? 少し大袈裟なんじゃねえか?」

「途中で負傷した者を合わせると30人を越します」

「…………」

十分な理由だった。

「ま、今は安全なんだろ? 失礼するぜ」

「待ってください! そんな軽率に……」

兵士が止めるも遅く、フレアは牢屋の中へ踏み込んでいた。

「よう、起きてんだろ? ちょっと質問に答えてくんねーか?」

「………」

チャリ、鎖が音を立てると同時に髑髏が顔を上げた。

「何者だ? あんた」

どちらの国にも登録されていない兵士。
燃やされでもしたのか、半分炭化した皮の鎧を身に付け、頭は黒い髑髏。
常人ではあり得ないほどの戦闘力。

全力で引っ張っても髑髏は外れなかったらしい。

我々は生ける死神を捕らえてしまったのだ、と長官は言った。
そして今さら解放するのも報復が恐ろしく、このまま留めてもどんな不幸があるか分からないと泣きつかれたのだ。

(ちっ……結局のとこ自業自得じゃねぇか。流石のギルドナイトさんでもこんなのは専門外ですよ、と言えないところが御役所仕事の泣けるところだわな)

「……俺は」

くぐもった声が牢屋に広がる。

「……僕は」

「……私は」

「……何?」

死神は淡々と喋った。

「記憶が無いのか?」

そう訊くも、男はブツブツと呟くだけだった。

「………よし分かった」

何が分かったのだろうか……、と首を傾げた兵士はこの後信じられない光景を目にすることになった。

「じっとしてろよ?」

「フレア様!? 一体何を!?」

フレアは男を吊るしている鎖と拘束具を外し始めていた。

「こんな所にいたら聞ける話も聞けねぇよ。だから外に連れていく」

「そんなこと許される訳が無いでしょう!? 今すぐ戻してください!」

止めたくてもこの男はギルドナイト。返り討ちに合うのがおちなので、兵士は顔色を赤へ青へと変えながら必死にフレアを説得しようと試みた。

「大丈夫大丈夫、長官もこのほうが喜ぶと思うぜ? なんせ不安の種が無くなるんだからよ」

――捕虜の無断解放。それの幇助(ほうじょ)。事情を知らないものからすればただそれだけの重罪だ。

フレアは軽くそう言って男を背負うと、固まっている兵士の肩を叩き『長官に説明よろしく』と、恐らく兵士にとって最悪であろう伝言を残して足早に外へと向かっていった。
  ー去り人ー

「どうだ? 結構良い眺めだろ?」

「…………」

じんわりと暖かな日の光が二人を優しく包む。

収容所を出たフレアが向かった先は竜車(アプトノスの引車)に乗って小一時間の場所にある小高い丘の上だった。

足首を隠す程度に生えた草のクッションに座り込むと、まばらに伸びた木々の向こうに広がる緑の海を見ることが出来た。
その広大な森の奥には小さな湖があり、まだ高い太陽の光を力強く反射させている。

「ここは俺の故郷の近くなんだ。この景色を守るために、俺は戦うことを決めた」

「…………」

「もう一つあるが、ここでは言えん」

「…………」

「…………」

(今のは要らなかったな……)

「…………」


不意に、そんな息苦しい沈黙を破るような心地よい風がサァッと流れた。

あちらこちらに咲いた、色とりどりの花がそれに誘われて軽やかに踊る。




「………意識が戻った時、白い光が自分を包んでいた気がする」

くぐもった、それでもはっきりと聞こえる声が髑髏の仮面からこぼれた。

「!」

それは確かに、ここに来るまで終始黙っていた男の声。
落ち着きを取り戻したのか、幾分か感情のある声だった。

「何も覚えてない……気がついたら兵士に囲まれていて……訳も分からず戦った」

「…………」

フレアは何も言わず男の話を聞く。

「また暗闇に閉じ込められた時は、このまま死んでもいいと思っていたけれど……」

ここはずいぶんと良い風が吹くね、そう言った髑髏の顔は微かに緩んでいる気がした。

漆黒の地下室で発狂寸前まで追い詰められていた男は、輝く太陽と穏やかな風の下。
死に物狂いで。
己の理性を自らの力で。
闇から掬い上げた。

フレアは奇跡的にも手遅れになる、そのギリギリの分岐点で彼を救い出すことに成功したのだ。

「なぁ!」

フレアは決心したように立ち上がり、男の方を向く。

「お前これからどうする? もし当てがないんだったらよ……ギルドナイトにならないか?」

「ギルドナイト……?」

訝しげに男は首を捻る。

「そうか、記憶が無……」

「ギルドに所属する組織の一つ、だよね?」

少し驚いた。

「お前……忘れたのはお前に関する事だけでそういう知識は残ってるのか?」

「……いや、それは分からない。けど突然、フッと頭に浮かんだんだ」

困惑した様子で男は額を片手で押さえる。

「……もし知識があるなら俺が教える手間は省けるな。よし! なら後は俺が何とかする」

「…………勝手に話が進んでないかい?」

「大丈夫だ、問題ない」

「そんな馬鹿な……」

「記憶、取り戻したいだろ?」

思いもしなかった一言にポカンとして、空っぽの死神はフレアを見上げた。

「いや、それはそうだけど……それとギルドナイトになることに何の関係が?」

「異論は認めないぜ。ギルドナイトになりゃ行動にかなりの自由が利く。お前の記憶を戻すきっかけを探し回るのも楽に出来るはずだ。手続きは俺がやってやる」

「………どうしてそこまでする?」

髑髏の眼にはっきりと警戒色が浮かぶ。いきなり現れて牢屋から解放し、こんな話を持ちかけるのだ。
手をあげて飛びつくほうがおかしい。

「あー……そう取られたら、まぁそうなっちまうんだが……」 

フレアは頭をガシガシと掻いた。
言葉に詰まると頭を掻くのが彼の癖のようだ。

「確かに頼みたいことはある」

「僕に拒否権はないよ。内容は?」

先程より低いトーンで男が返す。


「……俺に協力してくれないか?」

「協力? 身分もない囚人にずいぶんと畏まった言い方だね」

驚きと皮肉を合わせたように言う。

「お前はもう自由だ。解放したのは俺の独断。だから今お前がどこかに走り去ろうと俺は止めないし止められない」

「…………」

再び頭をガシガシする。

「なんつーかよ、お前とはうまくやっていけるような気がする……そんな直感がしたんだ」

「……直感だけで囚われの犯罪者を連れ出したっていうのかい?」

男はあきれたように言う。

「ああ。俺は直感を信じてきたからこそ今、ここに立ってる」

その燃えるような紅眼は真っ直ぐに男を見据えていた。

「その眼をみれば信じざるを得ない、のかもね。また牢屋に戻されるのも御免だし……ここは協力するというしかないか」

それを聞いたフレアは よっしゃ! と拳を握ってガッツポーズをとる。

「決まりだ! よろしくな『バルス』!」

「バル………ス?」

聞き慣れない単語が自分に向けられ、本日何度目かの困惑した表情――といっても髑髏なのだが――をする男。

「ずっと考えてたんだよ。お前思い出すまで名前無いだろ? でも呼び名は必ず要るようになる。だからお前にコードネームをつける」

「コードネーム……何それ格好良いね」

髑髏に空いた二つの虚が ――気のせいだろうか、輝いて見えた。

「異国の言葉で意味は『終わらせる』。世界中廻ってでも過去の記憶にケリをつけろ……そんな意味でつけた」

「それでバルス……バルス……うん、悪くないね。よろしく、……えっと」

「あぁ、名前まだ言ってなかったな、フレアだ。これからよろしく頼む、バルス」

「フレア……ぴったりの名だね。こちらこそ、よろしくフレア」

バルスは心なしか笑っているように見えた。

「それで何を協力すればいいんだい?」

その質問にフレアはシンプルに、それでいてあまりに大それた答えを告げた。



「国をさ、救いたいわけよ」






三ヶ月後、二国間の戦争を両軍の制圧という力技で終結に導くことになるギルドナイトの戦闘集団『赤鷲』。歴史に名を刻んだこの騎士団を指揮したのは、深紅の騎士団長と漆黒のギルドナイトだったと伝えられている。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――





――パキリ、焚き火の中で小枝が跳ねた。


「………」

シャワはバルスが話終わるまで一度も口を挟まなかった。
いや、挟めなかったのだ。

「ごめん。長々と話しといてなんだけど、結局僕がこうなった理由は分からず終いなんだよね」

「そんなこといいわよ……バルス、あんたギルドナイトだったの?」

「ま、肩書きだけみたいなものだけどね」

「それに五年前のあれに関わってたなんて……」

信じられない、と言いかけたシャワだったがバルスの言葉に嘘は感じられなかった。

「英雄の一人がまさかこんな近くにいたなんてね……」

よしてよ、とバルスは少し困ったように言い、それに……と低い声で続けた。

「当時は英雄扱いも受けたけど、今じゃ『あいつらは勝てた戦いをむざむざ凍結させた逆賊だ』なんて両国から恨みを買うことがもっぱらさ」

「なっ………!」

シャワはその言葉に全身の毛が逆立つのを感じた。

「そんな……! あの戦いは結局意地の張り合い……どちらからも止めれずにいただけで、あのまま続けていればどちらも損するだけってことは明白だったじゃない!」

感謝されこそすれ、彼らを責めるなんてあり得ないはずなのだ。

「彼ら、僕達のことを感謝するってことは、向こうの国に『このまま戦っていたら負けていました』って言うことと同じだってことに気付いたんだろうね」

「それが一体なんだって言うの……!!」

シャワの色が白くなる程拳を握り締める。

だから『国』や『貴族』なんて嫌いなんだ!
体面だけを取り繕って、本当に守らなければいけない人達のことなど考えもしない……!

「シャワちゃん……これは僕等の問題だ。優しい君が怒るような事じゃない」

「ふざけないで! そんな理不尽な連中……! これに怒らないで何をしろって言うのよ!」

虫の声も搔き消え、あたりに静寂が響く。
更に続けようとしたシャワだったが、次の瞬間彼女は黙り込むこととなる。

「シャワちゃん」




静かで、とても低い声。
初めて聞く、バルスの怒りの声だった。

「僕達はこうなることを予期していて戦争を止めたんだ。その覚悟をただ単に『理不尽だ』の一言で蔑ろにしないで欲しい」

「ごめんなさい……そういうつもりじゃ」

ハッとしたように謝るシャワの頭にバルスはポンと手を置いた。

「僕のために怒ってくれてありがとう。大丈夫、いずれケリを着けるさ」

「バルス……」

シャワはバルスをジッと見つめ……そして







――それセクハラだから、と頭上の手を払い除けた。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





早朝、朝靄のかかる集落を二人は後にした。

「だいぶ疲れが取れたわね。誰かさんのせいで少し寝不足だけど」

「切っ掛けは君じゃなかったっけ……?」

「こういうときは女性に花を持たせるのが紳士でしょう?」

「いつも変態変態いう癖に……」

「ギルドナイトなんでしょう? なら正真正銘の変態紳士……もとい変態騎士じゃない」

「流石にあんまりだよ!!?」

朝から相変わらずの喧騒である。

「でもま、村に着けば後はネコタクで帰るだけね」

「シャワちゃん、あのさ」

「ん?」

やっと帰れる! とややご機嫌のシャワにバルスはあるお願いを申し出た。

「……なるほどね。確かにどこで狙われるか分かったものじゃないものね」

「余計な争い事は御免だからね」

バルスの申し出は、自分がギルドナイトであることをこの先他言しないこと。

「任せといて。私、口は固いわよ」

「拳も固いけどね……」

ボソリ呟いた一言は幸運なことに彼女の耳には届かなかった。

その後、特に問題なく村へ辿り着いた二人は事情を話し無事に街へと帰ることが出来た。

「ずいぶんと長いクエストだったわね……」

ギルドに着いて開口一番、シャワは深々とため息をついた。

「ため息をつくと幸せが逃げるよ?」

「なら私の周りは幸せが一杯よ……受け取りなさい」

「いや……遠慮しとくよ」

当然といえば当然だが、クエストの目的を達成できなかった上、一時的な消息不明。
報酬を貰えないどころか捜索にかかったお金を払わせられる羽目になった。

「散々だ………今日はもう休んでゆっくりしたいね。今後どうするかは明日にでも決めようか」

「そうね……取り敢えず休みたいわ。それじゃ、また昼にここで落ち合いましょ」

「了解。……今回はありがとう、だいぶ助けられた」

「なによ改まって……こっちこそお礼を言わせてもらうわ」

シャワは突然のお礼に驚いたが、フッと眉を緩め『ありがと』と笑いかけた。

それじゃ明日。そう言って二人は別れ、それぞれの帰路につく。
月の無い、静かな夜。シャワは部屋のベッドに潜り込むと、帰って来れた安心感からか、すぐに眠りの世界へと落ちていった。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





「いけない!『あれ』 防具に差しっぱなしだった!」

早朝、早起きな街の賑わいでボンヤリと眼を覚ましたシャワだったが、視界の端に映った剥ぎ取りナイフを見つけ、ガバリと跳ね起きる。

ギルドから借り受ける支給品の中でも特に貴重な剥ぎ取りナイフ。
特殊な鉱石を使用しているため非常に良い切れ味を誇るが、その分値段も目の眩むほどである。

「急いで返しにいかないと……! 弁償なんて言われたら終わりだわ」

シェリーなら言いかねない。
非常に精密な作りをしている為、剥ぎ取りナイフは戦闘で使うことは許されない。ハンターになる際真っ先に教わることの一つである。

「ナイフというか、包丁みたいな扱いなのよね」

剥ぎ取りナイフを手に取りまじまじと刃先を見つめる。
研ぎ澄まされた刀身に波打つ波紋。銀色に輝くそれはシャワの金色の瞳を鮮明に映し込んでいた。

「……ってこんなことしてる場合じゃないわ!」

我に帰ったシャワは慌てて宿舎を飛び出すと、ギルドへ向かって走り出した。



「ちぃっ! ……あぁ良かったわー! 丁度連絡を入れようと思ってたのよ」

「今軽く舌打ちしたわよね?」

肩で息をしながらシャワは剥ぎ取りナイフを手渡す。
起き立てでダッシュはやはりきつい。

「気を付けなきゃだめよ? そして無くすならしっかり無くして頂戴」

「もう断固として忘れないわよ!」

「ならいいんだけど、とりあえず朝早くからお疲れさま。昨日の今日だし、後はまたゆっくり休んでなさいな」

無事にナイフを届け終えたシャワはあることを思い立った。

(バルス……どうせ寝てるわよね。何か朝食になるものでも持っていってあげようかしら)

そう思ってシェリーにバルスの宿舎の場所を訪ねたのだ。
ギルドがハンターに提供している宿舎は数多く、低ランクから高ランクまで合わせると場所を聞かなければ個人を見つけるのは困難である。


場所を教えてもらったら行って驚かせてやろう、そんな軽い気持ちで訪ねたのだが、受付嬢の答えは思いもよらないものだった。


「え? バルスさんなら昨日のうちに朝までの支払いを終えてたから、もう街を出たと思うけど?」

「街を……出た!?」

昨日の今日でもうクエストに出たのだろうか?
そうであって欲しかった。
しかしその期待も次の言葉によってバラバラに粉砕された。

「それにバルスさんはこの前、このギルドとの契約も切ってたからもう帰らないと思うわよ?」

聞いてなかったの? とシェリーは不思議そうな顔を浮かべてる。




ずしり、と。
石でも飲み込んだような感覚が胸に広がった。


一足先に、再びお願いして描いていただいた『シャワ』を紹介します!
作中よりも恰好いいんじゃないかという出来栄えです!
今回はライフルなどを持たせたミリタリーなイメージでーー

もう映画とか出れそうです( ゚Д゚ )八(゚Д゚ )ノイエーイ!!!

シャワ「わ、私がこんなにグラマスだったなんて……」

バルス「まずは鏡を見よう。話はそれからd……痛い痛い! ちょっ!? そんな大きな銃底で殴ったらしゃれにならないから!」
―道標―


「そんな……どうして?」

激しい衝撃を受けながらも、頭の中で必死でその理由を考える。


ギルドの契約を切った!? どうして何も言わずに……?
約束だって………まだ……


「あ………!」

そこで気付いた。


そして走り出していた。


(私はバカだ………バルスはあの夜からそう決めていたんだ)

なぜあんなに素直に自分の素性を話したのか。
私が怒ると知っていただろうに、なぜあんな話をしたのか。
別れの時、普段言いもしないお礼なんかを言ったのか。



何でいきなり消えたのか。

全部が全部私から離れるためだったんだ。

「あいつといることが危険だってこと……そんなことは分かってたわよ!」

どこまでが彼の考えか分からない……けれどまだ追い付けるはず! まだ間に合うはず!

「はぁ……はぁ……」

シャワは街の入り口までひたすらに走り続けた。

しかし辿り着いた城門に。
そこから伸びる道にあの見慣れた黒い背中は見えない。

「……流石にこんな別れは……あんまりじゃない」

ぺたりと地面に座り込む。


彼のことだ。
きっと他のハンターと狩りをした時は事情なんて話はしなかっただろう。
したところで信じてもらえる確率なんか知れている。
そして素顔を決して見せない髑髏のハンターは訝しがられ、疎まれ、怖がられてきたのだ。

『僕が怖くないのかい? みんな不気味がって近寄らないっていうのに』

『変態を怖がるほど繊細じゃないわ』

『…………なんか嬉しいな』

『その言動がもはや変態じゃない!!』

『それは違うよ!?』

砂漠でそんな会話をしたこともあった。

「バカ……これじゃまた一人じゃない……」

もう手の届かない所にいるだろう彼にそう呟く。

もう少し上手くできれば、理解者だって出来るはずなのに。
でもこんな風にしか出来ない。
どこまでも不器用なんだ……と彼女は思った。





「やぁすいません! 急にお腹が痛くなったもんで……」

「いいよいいよ。それじゃお気をつけて」

「守衛さん、じゃあ行ってきます」

「はいよ」


「…………ん?」

聞き慣れたくぐもり声が後ろから聞こえたような気がした。

「………え!? シャワちゃん?」

「……………バルス?」

街門の守衛小屋から出てきたバルスは黒いギルドスーツを身に纏っていた。

「何でここに……」

「ふざけんじゃないわよ!!!」

まずは怒りが噴き出した。

「シャワちゃ……」

「あんた私をそんなにやわだと思ってるの? あんたの背負ってるものなんて関係ないわ! そんなことで何も言わずに去ろうなんて偽善もいいとこよ!!」

何故か知らないが、次はボロボロと涙が零れ落ちた。

「……私も一緒に旅に出る!」

「えぇ!?」

突然泣き出したシャワにそんなことを言われ、目に見えてバルスが慌てているのが分かる。

「待って! それって………」

「分かってるわ」

「そういうことじゃ……」

「私は前から旅に出ようと思ってて、目的もある!」

「だから………」

「だからお願い! 連れてきなさい!」

「ちょっ待って! 最後まで喋らせて!」

バルスが両手を突き出してシャワを制した。

「…………」

「……何か勘違いしてないかい?」

「……え?」

赤い目を擦りながらシャワは頭にクエスチョンマークを浮かべる。



「確かに僕は近々この街を離れるつもりだけど、今はギルドナイトとしての仕事に行くだけで昼には帰る予定なんだよ?」








「は……?」

カァと頬が熱くなるのがわかった。

「そっそれじゃ、ギルドの契約を切ったってのはどういうことよ?」

「え? 確かに街を出るときに備えて今度、契約を切るって話はしたけど……」

顔がますます赤くなる。

「シェリーのやつ……!」

思わずまた名前を名前を呟く。
つまりは、計られたのだ。

うつむいて押し黙るシャワをバルスがおずおずと覗き込む。

「シャワちゃん……何かごめん……。とりあえず僕は仕事にいかないと……話は昼に……」

「うっさい早く行け!!」

「ごふっ!?」

ブンと振るわれた腕がバルスの顎を捉える。

もう怒ってるのか恥ずかしいのかも分からない。
シャワは倒れ込むバルスをそのままに、足音を荒げながら宿舎に帰っていった。



――――――――――――

「支度は出来たかい?」

「ええ」

二日後の街門に、荷物を背負った二人が今度はしっかりと並んでいた。

「気を付けてね、シャワ」

見送りに来たシェリーがニコリと笑う。
そんな彼女が顔を真っ赤にしたシャワに胸ぐらを捕まれて揺さぶられたのは昨日の話だ(ちなみに彼女はその時もニコニコとしていた)。

「私が気を付けなきゃならないのは貴方だってよく分かったわ……」

むっすりとするシャワにシェリーはくすりとして訂正した。

「そうね、言い直すわ。上手くやりなさいね、シャワ」

「何をっ!?」

またもや赤面したシャワが投げたペイントボールをシェリーはひょい、と可愛らしく小首を傾げて避けた。

余談であるが、後に巷で広がることになる『受付嬢、最強のハンター説』はこれを間近で見たハンター達が発端である。

「……? じゃあそろそろ行こうか」

「うぅ……」

何が起こってるのか分からない様子のバルスが、今だに唸っているシャワを促す。

「ええ、早く行くわよっ!」

もう泣かせちゃダメですよー、などと言っている受付嬢から退散するため、シャワはバルスの背中をどつく。

「はぁ……当分ここには戻りたくないわね」

「え? いい街だったじゃないか?」

「…………」

やっとのことで街門を出ると、いくつもの道がのびているのが目に入った。

「ねぇ、どの道を行くの?」

気持ちを切り替えたのか、シャワは期待を込めて軽やかに言った。

「僕らの目的は地道に探すしかないからね……いつも通り自由に」

「気ままに?」

「うん。あ、でもあの二人から手紙が来ていたか」

バルスが思い出したように手を叩く。


「そうだったわね。それじゃ最終目的地はそこにして……とりあえずはゆっくり行きましょうか?」

「悪くないね」

「それじゃあ」

「うん」

一人で旅立つのは不安だった。
だから私は待っていたのかもしれない。
心の開けるパートナーが現れるのを。
始まりはただ踏ん切りのつかない自分への甘えだったのだが。
それでも素晴らしい巡り合わせは起きた。
なら、少しは感謝しないといけないのかしらね。



「「ユクモへ!」」



ここまで私を導いてくれた沢山の小さな道標(みちしるべ)。



――それは、これから先も続いている気がする。


                          【次章へ】
【クエストが終了しました】

「あぁ疲れた……」

「お疲れ様ー」

太陽が散々と照りつける真夏の孤島。
男女のハンターは木が重なり合う天然のトンネルの中、静かに倒れるリオレウスを眺めていた。

「それにしても……」

「うん……」

目標は無事達成したようだが、それに似合わず何故か顔は不満そうである。


すると、

「二人ともお疲れさまー!」

背中に花を背負った娘が、何処からかこちらに走ってきたのだ。

緑色のフードを深く被っており、顔はよく見えない。

彼女に気付いた男のハンターは、怒りをあらわにして怒鳴る。

「おい! お前今まで何処にいたん……ぐぁっ!?」

フードの娘の口元はニヤリと笑っていた。
途端、男が宙を舞う。

「ちょっと!? あなた何して……きゃあ!?」

続いて、女のハンターも同じように飛んだ。

「へへっ」

何とその娘は、二人をハンマーでかち上げたのだ。

「いただきぃ!」

その隙に二人が討伐したリオレウスから剥ぎ取りを始める。

「やったっ! 紅玉ゲットぉ!」

「いてて……おい! 一人じゃ不安だからって言って着いてきたくせに何て事しやがる!」

「うぅ……そうよ! 全然手伝いもしないでこんなことっ……!」

それを聞いた娘はフードを取り払い、舌を突き出した。

ふわり と肩に触る位の長さで揃えられた白い髪が風に流れる。

日光に照らされて銀色に煌めく髪に、二人は一瞬怒りを忘れて見惚れてしまう。

「あははっ! 騙される方が悪いんだよ! 私の為にどうもありがとねー!」

「っ……てめぇ!!」
「待ちなさい!」


じゃあね! そう言って笑いながら逃げ出す彼女の名前はチョモ(chomo)。
両親から貰った、古い伝説にある気高き山からつけられた名前だが、これはその名を地に落とすかのような振る舞いをしている彼女が更正し、後に「天山の女神」とまで呼ばれる伝説のハンターになるまでの、そんな話である。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


小さな村の酒場に一際響く声が一つ。

「いっただっきまーす!」


豪華絢爛。


嬉々としてフォークとナイフを構えるチョモの前には、女帝エビのソテーやキングターキーの丸焼き、ピンクキャビアなど、貴族でも宴でしか食べない程の高級料理が並べられている。

「いやぁ、こう毎度楽に稼げるなんて……みんなチョロいよね~」

彼女が料理に舌鼓を打っていると、バンッ! と大きな音を立てて酒場の扉が開かれた。

「おい! チョモ! お前またやらかしやがったな!」

「……フレア」

チョモは即座に顔をしかめる。

入ってきたのは、燃えるような赤い長髪に、紅く整ったベストを着た青年――名はフレア(Flare)。
現役のギルドナイトであった。

「ギルドへのハンターからの苦情……これで何十件目だと思ってやがる!」

酒場に響く声に客の注目は二人に集まる。

「そんな苦情だなんて……だいたい悪い事なんかしてないし! アタシが『ちょっと』道に迷ってる内に『たまたま』討伐が終わっちゃってただけだよ!」

「ほう……何時間もベースキャンプで寝てんのが迷うって言うのか?」

「う、何で知って……違うっ! その時は体調が急に悪くなったの!」

「毎回毎回か? そ・れ・がそうだって言ってんだよ!」

そんなやり取りを続けていると、フレアは「ハァ」と深いため息をつく。

「お前なぁ……こんなことばっかしてると、いつか絶対後悔するぞ?」

その言葉に彼女はキッ! とフレアを睨む。

「ふん! あんな狩りの腕に自惚れて周りも見れない奴らをカモにして何が悪いってのさ?」

「開き直りやがった……手癖ばっかり悪くしてねぇで、狩りの腕を少しでも上げたほうが絶対お前の為に……」

「うっさいなぁ! アンタは父親のコネだか何だか知らないけど、一人で勝手にギルドナイトなんかになって偉そうにさ!」

チョモはフレアの言葉を遮ると、おもむろに立ち上がった。

「なっ! 親父は関係ねぇだろ! 俺はちゃんと勉強して……っておい! 待てっ!」

「フレア……アンタやっぱり昔と変わったよ」

そう言い残したチョモは、すでに酒場を扉を抜けた後であった。

「あいつ……それはこっちの台詞だろうが……」

会話が終わり一瞬の静けさが訪れるが、二人のやり取りを見物していた客も次第にフレアから視線を外し、酒場はすぐに賑わいを取り戻した。


「フレア君も大変だねぇ。幼馴染みがあんなに元気だと」

扉を睨んでいるフレアの肩を酒場の料理長がポンと叩く。

「おばちゃん……別に俺はただ任務として……」

料理長はそう言うフレアに対して、ニコリと笑いかけると、

「フレア君、チョモちゃんの代わりにここのお勘定、貰ってもいいかな?」

「は?」

バッと机を見ると、そこにはキチンと領収書が置かれていた。

「あの野郎………っ!」

酒場に二度目の怒声が響き渡ったのは言うまでもない。


        ◇


「皿洗いって本当にやらされるんだな……」

げっそりとしたフレアは、沈みかけの太陽を見て更に愕然とする。

「チョモのやつ……今度会ったらタダじゃ済まさねぇ……!」

そう毒づきながらフレアは夕暮れの村道を歩く。


「………」

『一人で勝手にギルドナイトなんかになってさ!』

『フレア……アンタやっぱり昔と変わったよ』


頭の中にチョモの声が響く。

「でもあいつがああなっちまったのは……やっぱり俺のせい……だよな」

そう呟くと、途端に過去の記憶がフラッシュバックする。

村の中でも裕福な家の子供だったフレア。

彼は幼少期の頃から活気溢れる少年で、毎日のように探検と称して様々な所に出掛けていた。

そんなフレアはある日、村外れにある小さな森へと迷い込んだ。

「忘れるはずねぇ……そん時だ……あいつと初めて会ったのは」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「すげぇ! お城みてーだ!」

少年時代のフレアが森の中で発見したのは、小さく切られた岩で組み立てられた古い建物だった。

これは凄いものを発見したぞ! と中へ入る場所を探したフレアだったが、

「ちぇっ……柵があって入れないや」

建物の周りには庭が広がっており、鍵のかかった入り口から庭を囲むように高い木の柵が立てられていたのだ。

「うーん……どっかに……」

何とか入ろうと、穴でも無いかと柵の周りをぐるぐると回っていると、

「あ!」

柵が痛み、何とか抜けれそうな穴が出来ているのを見つけたのだ。

「よし潜入ー!」

そこへ入ろうと身を屈めた時、

「………誰?」

急に上から声が聞こえた。

「え?」

ふと顔を上げると、柵の向こう側には一人の少女がいた。

フレアは一瞬にして目を奪われてしまった。

風になびく、腰まで伸びた純白の髪。

純銀に輝くそれは、自分のまだ短い人生の中で最も美しい光景だった。

「……あなたは何処から来たの?」

「えっ……あ、俺は村から来たんだけど」

フレアは我に返ると、少女と互いの事について話し合った。


           ◇


「ふーん、外ってそんなところなんだ」

柵越しに話す彼女はチョモといい、この『こじいん』という建物で『しすたー』なる人と暮らしているのだそうだ。

「あ、他にも友達はいたんだよ?」

皆、外へ出ていっちゃったけどね…… と彼女は顔を寂しげにうつ向かせた。


「じゃあさ! 一緒に遊びに行こうよ!」

フレアの口は考える間も無くそう言っていた。

「え? でもシスターが外へ出ちゃダメだって……鍵もかかってるし」

「ほら、ここから出れるんだ。村を見に行こうよ! すぐに戻れば平気だよ!」

その提案にチョモは少し考えるように、また少しうつ向いたが、

「……うん! わたしも村を見てみたい! 案内お願いね? フレア」

「うん! 任せて!」

そして二人は森を抜け、村へとやって来た。

「凄い! 家が沢山あるよフレア!」

酒場や雑貨屋……村の建物は少なかったが、チョモを喜ばせるには十分だった。

二人はその後、森の中を散策して夢中で遊びまわった。

そして、充分に遊んだ二人は再び柵の前まで帰ってきていた。

「今日はすっごく楽しかった! ありがとうフレア!」

にぱっ と笑う彼女の笑顔はとても嬉しそうで、

「だったら明日も明後日も一緒に遊びに行こうよ!」

そう言わずにはいられなかった。

「ホント!?」

チョモの顔がさらに輝く。

「もちろん!」

それからフレアは毎日のようにチョモを連れ出しては村へ行き、森で遊んで過ごした。

酒場の料理長などと顔馴染みになったチョモは、次第に村人にフレアの幼馴染みだと認識されるようになった。
しかし孤児院から勝手にチョモを連れ出して手前、フレアは父親に怒られるかもしれない。だから村人には秘密にしてくれるように頼んでいた。

同年代の子供が村にいなかったのでフレアは毎日がとても楽しくなり、このままずっとチョモと一緒に遊んでいたい――そんなことを考えていた。


あの日までは……




「フレアー! 待ってよー!」

「早く来いよチョモ!」

二人が出会って数ヶ月が過ぎたある日、二人はいつもの様に森で遊んでいた。

「待ってったらー!」

「あはは! ……っと……いてっ!」

後ろを向いて走っていたフレアは木の根に躓いて転んでしまった。

「大丈夫!? フレア!」

「うん。ちょっと擦りむいちゃったけど、ほら、全然平気!」

そう言って擦りむいた膝をチョモに見せる。

膝は少し血がにじんでる程度で、怪我としてはほとんど心配ないものだった。

だが、

「………チョモ?」

それを見たチョモは突然ガクガクと体を震わせ、

「ち……血……!! いや……いやぁぁぁぁぁ!!」

チョモは急に錯乱し、頭を押さえて倒れたのだ。

「チョモ!? どうしたんだよチョモ!」

「うぁぁぁ……ぁぁぁ!」

チョモの様子は尋常ではなかった。

「……!? い、医者につれてかなきゃ!」

フレアはすぐにチョモを背負うと、村の医者の所まで走った。

 
          ◇


「フレア! 何故『孤児院』にいたチョモを連れ出したりしたんだ!」

その日の夜、フレアは父親から激しい叱りを受けていた。

「ご……ごめんなさい!」


フレアの父親は厳格な人で、やんちゃなフレアが唯一恐れる存在だった。
その父が今までで見たこともないほど激怒している。


「でも……チョモはとても寂しそうで……だから……!」

「言い訳など聞きたくない! どんな理由があろうともお前のしたことはただの偽善でしかないんだ! それが彼女を危険に晒したんだぞ!」

「………!」

ビクリ とフレアの肩が震える。

「だが……この家の長男なら知らなくてはいけなかったことか……」

フレアの父親は少し考えるように黙り込むと、「いいかフレア……」と話始めた。



「あの子……チョモは私が拾ってきたのだ。戦場でな」

「戦……場……?」

普段では聞くことのない単語にフレアは戸惑う。

「この国と隣国が長年対立関係にあるのは知っているだろう?」

「それは……知ってるけど」

「うむ。それによって、大規模……とまではいかないが、それでも一つの村や町を巻き込むレベルの争いは絶えることがない」

モンスターによる被害も増えてきているしな…… と父は顔をしかめる。

「私はそんな争いを疎んでいる。出来ることならやめさせたい……そう躍起になったこともあった。だが、たかが地方の領主では出来ることは少なかったのだ」

「父さん……」

父親は悔しそうに歯を食いしばった後、懺悔をするように続けた。

「だから私は孤児院を建て、戦場で取り残された子供を拾っては孤児院へと預けてきたのだ」

「父さんがあれを……?」

フレアの父親は紛争が起きる度にその地へと赴いて子供を孤児院へと送ると、体と心の傷が癒えた頃に里親を探すという活動をフレアが生まれる前から続けていた。

チョモも四年ほど前に孤児院へと送られた一人だった。

「だがチョモだけは心の傷がいつまで経っても癒えることが無かった」

「なんで……チョモだけが?」

その問いに父親は少し躊躇った後、重い口を開いた。

「恐らくチョモは目の前で親を無くしたのだろう」


「!」

幼いながらもそれがどんなことかはフレアにも容易に検討がついた。
プロフィール

楽太郎

Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
楽しんで読んでもらえたら幸いですね
(・◇・@)

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