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フレアさんは私に気付く余裕も無かったようだ。

「………」

その様子に急な不安に襲われて、私は反射的に彼を追いかけていた。


「はぁ……はぁ……足はや……」

ダッシュするフレアを猛ダッシュで追いかけ、辿り着いたのは村の広場。
広場には何かを話すフレアさんとシャワちゃんの姿があった。

(いつもならこんなことしないんだけど……)

私は二人の死角になるようにして近くまで移動し、聞き耳を立てた。
何故か聞かなきゃいけない気がしたのだ。

「――これは俺の勝手な憶測だが、恐らく間違っちゃいないはずだ。バルスと……ハンマーの過去についてのな」

バルスさんとハンマーさんの過去……?
バルスさんとはつい最近出会ったばかりのはずじゃ……?

そんな疑問が後を立たなかったが、私は気持ちを落ち着かせて続きに耳を傾けた。














聞かなければ良かったのかもしれない。
……最近後悔ばかりだ。



フレアさんの仮説が正しければ。
本当に正しいのなら。
ハンマーさんの命はとても細い糸で繋がれているようなものだ。

人の記憶なんて、何時ふと思い出されるか分からない、とても不安定なものだ。怪我とは違って、するのは一瞬、治りは遅い。
なんてことは限らない。

「そんな……」

口を手で押さえ、大きく目を見開く。

私は目眩にも似た気持ち悪さを感じ、その場にへたり込んだ。

だってあの人の笑顔が失われるなんてこと、今まで考えもしなかったのだ。

どこまでも元気で。
明るくて。
活発で。
そんな彼女の存在がそんなに儚いものだったなんて。

「人」の「夢」と書いて、『儚い』。

昔誰かから聞いた言葉だったが、今ようやくその意味が分かった気がした。


――チャプリ。

「っ!」

近くで水の音が聞こえた。気の動転していた私はビクリとその方向へと顔を向ける。


慌てていて気付かなかったけど、私の側には池があった。
岩で囲まれた、風流のある小さめの池。

「あ……」

そこに水滴を溢しながら男が、黒い男が――バルスが立ち尽くしていたのだ。

「………」

バルスは池に写った自分の姿を黙って眺めた後、――恐らくだが私に向けて――こう言ったのだ。

「彼女をよろしく頼むよ?」

「バルスさんっ!?」

彼が盛大に頭を岩に打ち付けたのは、その後すぐのことだった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






その後のことはよく覚えていません。

シャワちゃんはバルスさんをどうしたのか。
フレアさんもチョモさんもいつも通りで。
ハンマーさんも元気になった今、大事なことはみんな上手く胸の奥に仕舞い込めたみたいです。
上手く、深く。


「アクアどうしたの? 元気ないぞー? あ、私がいなくて寂しかったんでしょー!」

「ちっ、違いますよ! 私ずっと温泉でぬくんでましたからね!」

「聞いたよー? 必死で探してくれたんでしょ? ありがとね。そしてごめん……もうあんなことしないから」

「……本当にですか?」

「うん。本当」

「……なら許しましょう」

「許して貰えたー! ありがとアクア!」

「わっ!? ちょっと抱き付かないでくださいよ!?」

「おーおー仲睦まじいことで」

「お前ら、式には呼べよ?」

「フレアさん! チョモさん! 見てないでこれ剥がしてくださいよ!」

「ふむ………」

「何? 羨ましいのバルス? だったら丁度良いクエストがあるわよ。ハチミツ塗ってアオアシラに行ってきなさいな」

「そんなハードなのは求めてないよ!?」


――そんな訳で、短い間でしたが私の語りはこれで終わりです。



願うならこの後は、大変な出来事が続いてしまったので少し休みが欲しいなぁ……。

「ハンターさん達! 大変だ!」

運命の女神様がいるなら、随分とひねくれているに違いないです。

アマツマガツチの時とはまた違った顔で村人――説明し忘れてましたが同一人物です。更にいうなら村の『自称』鬼門番さんです――はこう続けたのだ。

「今、村に『イーゼンブルグ家』の当主、ダイガス=イーゼンブルグ様が来てるんだ! 何でも娘を連れに来たとかで、それを探して欲しいんだと……でもこの村にそんなお嬢様がいるってのかよ?」

イーゼンブルグ家といえばドンドルマでも有数の上流貴族の家柄だ。
どれだけ凄いかというと……私でも知ってる位と言えば伝わるでしょうか?

「娘さんの名前は? それ位分かんなきゃ探しようがないよ」

鬼門番はよほど慌てていたのだろう、言われてからハッとした表情になった。

「あぁ、確かにハンマーさんの言う通りだ。御令嬢の名前はシャルワナ。シャルワナ=イーゼンブルグだ」

「んー聞かない名前だね」

しかし。
私にはその名前が出た瞬間彼女が、シャワちゃんがピクリと体を震わせたように見えたのだ。







ともかく、私のお話は本当にこれでお終い。
次はきっと、もっとふさわしい人が話してくれると思うから。

 
                          【次章へ】
昔、一人の少女がいた。

少女の名は、シャルワナ=イーゼンブルグ。

ドンドルマで一、二を争う上流貴族『イーゼンブルグ家』に生まれた娘。
その長女にして、
期待の次期家長であった。


――幼い頃からの過酷ともいえる教育により、文武両道、才色兼備にして類い稀なるカリスマ性を持っていた少女。

そんな彼女は。
世代交代まであと一年半、というところでその姿を消した。

消えたといっても忽然と消えたわけではない。
ちゃんと父親から了解を取って。
断固として、生まれてから一度も、外出の許可でさえ出さなかった父親から。
文字通り、言葉と力でその許可を『奪って』姿を消したのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



――そして現在。少女とその父親は、ユクモのギルドにて一年半振りの再開を果たしていた。
しかしそこには当然、感動的なムードは存在しない。

「シャルワナ、約束の時は来た。これ以上の我が儘には付き合えん」

「………」

現イーゼンブルグ家の長、ダイガス=イーゼンブルグの重く低い声が静まり返ったギルドに響かせる。
黒々とした髭を生やしたその風格は威厳に満ち、決して大柄ではないその体格を見かけ以上に大きく見せていた。

「黙りか……。シャルワナ、シャル。こっちを見なさい」

「その呼び方で呼ばないで」

冷たく、棘のある言葉。

そんな彼女に対して、ダイガスは――内心穏やかではないだろうが――おどけるように言ってみせた。

「父に向かって随分な口ぶりじゃないか、シャル。あの時、私が後を追わせなかったのはお前の決意に対しての手向けのつもりだったのだぞ?」

「……後からならいくらでも言えるわ」

その言葉にダイガスの目がギッと険しくなる。

「お前は折角の、お前が自由でいられる最後の時間を棒に振ったようだな。お前なら立派にイーゼンブルク家を継げると思っていたが……どうやら私の見込み違いだったようだ」

「勝手に決めないで! いつまでも家柄にこだわり続けて……その為に一体どれだけの犠牲が払われたと思ってるの!?」

「…………」

空気が不穏に変わる。
しかし少女は続けた。

「家を出てから街で暮らして、旅をして、色々調べたわ。……やっぱり私の家はおかしかった。意固地なプライドなんか張らずに、下らない伝統なんか捨てて、手を取り合えば……皆幸せに……出来たはずなのに……本当に大切なものを守れたはずだった!」


――お母様だって……


シャルワナは――シャワは憎しみの籠った目で実の父親を睨んだ。


「下らん。……もはや口で言っても無駄なようだな」

ダイガスはその視線を一蹴し、腕を振り上げる。

「……っ!」

咄嗟に目を瞑るシャワ。

しかしその腕が降り下ろされることは無かった。


「……何の真似だ」

「貴方は少し冷静になるべきだ。生憎ここはハンターズギルドの中……ギルド内での争いは僕たちギルドナイトが取り持たせて貰うことになっているんでね」

ダイガスの腕を掴んだバルスの姿が、そこにはあった。

「バ…バルス……」

いつになく弱々しく名前を呼ぶシャワ。

「ごめんよ、見てられなかった」

バルスがダイガスの前に立ちはだかる理由はそれで十分だった。

「実の娘に手を上げるなんて、よくないですね」

「素顔も見せない奴の戯れ言など聞かん。不気味な奴め……そこをどけ」

バルスの腕を振り払い、なおも傲慢に押し退けようとするダイガス。

しかし、

「なら素顔の見えるギルドナイト二名追加で文句無いでしょうか?」

「改めて言う、ここは俺たちギルドナイトが取り持つ」

「次から次へと……」

チョモとフレアがずい、とバルスに並んでいた。

「二人とも……!」

「おい金髪、狩りん時の凄みはどこいったんだよ? 親父の前だからってビビってんのか? ……そんなたまじゃねぇだろ」

「同感だね」

フレアがにっと笑うと、チョモが同感だとウインクを送った。

「シャワがいつも何か考えてたのは知ってたよ――何かを決意してたのも。僕らが後押しするからさ……安心していい」

バルスが力強い言葉をかける後ろでは、アクアとハンマーがいつでも出れるように用意してくれている。

こんな、誰もが呆けるような急展開でも味方してくれる人達が、本当に心強かった。

「ふふっ……そうよね。何を怖がっていたのかしら」

どこかにまだ、昔からの父への畏怖が残っていた。
しかし、その最後の枷は――今外れた。

――もう大丈夫、ありがとう。

その言葉に三人はスッと後ろに下がる。
再び父親と合間見えたシャワの目にはいつもの、いつも以上に強い光が宿っていた。

「お父様。時期が来たら私から出向こうと思ってたのに、わざわざ出向いて下さってありがとうございます」

「ふん、やっとまともな口を開いたかと思えば……その目付き、気に入らんな」

ダイガスが低く唸る。

シャワの周りには、今やダイガス以上の威厳が漂っていた。

「約束通り、一年の自由を終えた私はイーゼンブルク家を継ぎます」

「分かればいい、なら早速……」

「――しかし」

シャワの話は終わりではなかった。
一年間考えてきたことを。バルスと共に行動して気付いたことを。

――今、父親にぶつけようとしていた。

「私が継ぐのはイーゼンブルク家のみ。お父様の、イーゼンブルク家の下らない伝統を引き継ぐ気はさらさらないわ……我が家が我が家であるために犠牲が必要なら、そんな家はいらない」

「なんだとっ!? 正気で言っているのか!」

シャワは、怒りに体を震わせるダイガスと、その後ろに控える従者にも聞こえるように、大きく胸を張り、高らかに声を張った。

「聞きなさい! イーゼンブルク家の当主となることを、今ここに宣言するわ。それにあたって、土地や医療における権利を街に明け渡す。土地なんか、あんなに沢山あっても意味がないもの」

「何を勝手な……」

ダイガスが憤慨を露にする。
しかしここからが本当の隠し玉だった。

「そして裏で取り扱っている禁止薬物やモンスターの違法取引の撤廃」

「!?」

ざわり、周りで様子を窺っていた村人にもどよめきが広がる。

「……こんなことまでして家の威厳を取り持ちたいなんて、正直知ったときは驚いたわよ。全部が全部ギリギリ法の穴を抜けていたから気付くのに時間がかかったけど、今はもう違犯よ。証拠はギルドへ提出するので、しかるべき罰を受けてください……お父様」

「……そんなところによく気付いたな」

「私を誰だと思ってるのよ。むしろ喜んで欲しいわ、お父様の教育のお陰で娘がここまで優秀になれたんだってね。……何も知らないで、私が人形みたいに表面上の家長を継ぐと思った?」


「……流石は我が娘といったところか」




心配するように駆けつけた従者を振り払いながら、ダイガスは尚も威厳を崩さずにシャワを見た。

「私が手を汚してまで守りたかったもの、守らなくてはならなかったものが何なのか……いずれ分かる。その時にどういう決断をするか、今の内に考えておくんだな」

「私は私のやり方で我が家を守っていくつもり。心配は要らないわ」

心配か……お前にそんな気遣いはせんよ、とダイガスはカカと笑い、そのまま後ろを向いてギルドを出ていった。
その後、彼はしかるべき場所へと連れていかれたという。



     


「……皆ごめんなさい! 何て言っていいか分かんないけど、本当に驚かせてごめんなさい。そしてありがとう……もう大丈夫だから」

開口一番、シャワが両手を胸の前で合わせて口にしたのは、そんな謝罪の言葉だった。

「いやぁ気にしないで! 私たちも余りの急展開にノリで動いちゃったって言うか……ねぇ?」

「あ、あぁ。俺もつい反射的に……なぁ?」

「ハンマーさん! 私たち何もしてない!」

「違う! カットされただけだから! 私は!」

「私は!?」

「アクアは前回のせいでしょ!」

「ぜ、前回って何の事ですか!」

皆が皆、シャワの問題が解決したであろう事に喜び、彼女を囲んで盛り上がった。
何より、有名貴族の内でそんなことが起こっていた事への驚きも相まって大騒ぎとなった。


「………」

ただ、そんな喧騒の中で一人、バルスはじっとシャワのことを見つめていた。





――夜、皆が騒ぎ疲れて寝静まった頃。村の広間で焚き火で暖を取る人影が二つ。

別段、焚き火をつけるほどの寒さは無かったのだが、何となくそうするべきだと感じたのだ。



「じゃあ……帰るんだね?」


バルスが、確認するようにゆっくりと言った。


「えぇ。今の家は大分ごたついてると思うし、私が行かないとやっぱりダメね」

シャワは少し寂しそうにクスリと笑う。


「私の旅は一旦終わり。貴方のこと散々聞いておいて、私は結局……最後まで言えないままだったわね。……本当にごめんなさい」

「レディの秘め事を詮索する紳士が何処にいるのさ? ……大丈夫。何となくだけど、分かってた」

「そっか……ありがとう」
そう言って、しばらく揺れる炎を眺めていたシャワだったが、「やっぱり……」と顔を上げた。

「我が儘かもしれないけど。そうやって私の重みを背負わせようとする、ずるいことなのかもしれないけど……バルスには知ってて貰いたいの。
私が旅に出た理由。
世間知らずだった幼い私の、笑えないくらい稚拙な話なんだけど……」


不安げにバルスの方を覗くシャワ。
すると勿論、そう一つ返事で返す彼の真っ黒な横顔が見えた。
炎に照らされたその仮面下で、彼が優しく微笑んでるのが――今の私には分かった。



「……三年前、彼女がイーゼンブルグ家を訪れたことから私の物語は始まったの」

シャワは思い返すように語り始めた――



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「お父様! この家にハンターが来るって本当ですか?」


――当時14だった私はその話を聞いた時、大興奮でお父様のもとに駆けつけたんだっけ。

「そうだ。少しの依頼と、お前に外にどれだけ危険があるかを聞かせておきたくてな」

「うわぁ凄い! 一体いつ来るの?」

――当時の私は箱入り娘もいいところで、外の世界のことなんて勉強でしか知ることが出来なったの。
――お父様はハンターに憧れていたらしく、家にはハンターの冒険談や英雄の伝記が沢山あった。だから私も、ハンターっていう職業に強い尊敬と憧れを持っていたのよね。

「明日には着くだろう。それよりもシャルワナ、何度も言うが私と話すときは……」

「け、敬語でしたね。すみません……」

――これは私が十になった時に言われたこと。
でも今まで普通に接していた父親にいきなり敬語を使えと言われて戸惑っていたのは確かよね。
……思えばあの頃からお父様は変わってしまっていたのだと思う。

「……まあいい。ともかく、明日は我が家の長女として名を汚すこと無いよう心掛けなさい」

「はい!」

憧れのハンターが家に来る。
その事で夢中になっていたシャワは怒られたことなどもう忘れて、無邪気な返事をしていた。

「ダイガス様。もうそろそろ……後は私がしておきます」

―― ……。

「うむ、そうするか」

「さぁ、シャルも明日の為に早く寝ておきなさいな」

――本当に優しい声だった。今でも鮮明に思い出せる……お母様の笑顔。

「はい、お母様。おやすみなさい!」

――少なくとも、あの頃の私は。何も知らなかったあの頃の私は幸せだったのだろう。
小さな小さな、箱の中で。あの時の私は、街が戦火に包まれようとも呑気に明日の朝食のことを考えていれたのだと思う。


「……これが依頼の品です」

「素晴らしい……よくやってくれたハンター殿。流石、ギルドからの斡旋だけある。そしてこれが報酬だが……本当に『これ』でいいのかね?」

「……はい、問題ありません」

「ふむ、なかなかいい趣味をしている」

翌日、客間にはハンターが訪れていた。
イガスとハンターがそれぞれの品物を丁重に受けとった時、ギィ、と客間の扉が少し開く。


――恐る恐る、顔を出したのは、言うまでもなく私。

それを見逃すダイガスではない。直ぐ様怒声が響く。

「シャルワナ! 部屋で待っていろと言っただろう!」

「ごめ……す、すみません!」

――いてもたってもいられなかったのだけど、流石に私が悪いわよね。


「全く……ん?」

しかし再び響くであろう叱責の直前、『彼女』が動いた。
気付けば、先程まで椅子に座っていたはずのハンターが、音も立てずにシャワの目の前に移動していたのだ。

「っ!」

「……構いませんよ。私はアン。あなたはシャルワナね? お父様から聞いているわ、……初めまして」

アンと名乗って手を差し出したハンターは、どこかミステリアスな雰囲気を持つ美しい女性で、シャワの想像してハンター像とはまるきりかけ離れていた。
滑らかな若葉色をしたポニーテールに、鼻から下を隠すようにつけられた逆三角形の不思議な柄をした布。

それら全てが美しく圧倒的で、シャワは先程の驚きと合わせて頭が真っ白になってしまった。

「あぇっ……うっ……ふぁ、ふぁい!」

――……緊張した私は酷い有り様だったわ。

「……ふふっ、顔が真っ赤よ?」

「うぇっ!?」

「シャルワナ……後で話がある」

――今思えば、このせいで私は人見知りにかかったようなものよ……。
怒りに震えるお父様の声もあの時は全然聞こなくて、後でたっぷり怒られたっけ。

「……よろしくね?」

「よ、よよよろしくお願いします!」


よよよ、と握手を交わす二人。
この時、彼女は手袋をしていた。

――しっとりと冷たい、革の感触を今でも覚えてる。
そしてこれが、私とアンさん……師匠との最初の出会いだった。



     

span style="font-size:x-large;">◆



「リオレイアを見たいんです!」


アンと出会って三日。父の計らいで、様々な話を彼女から聞く内にすっかり打ち解けたシャワは、ずっと心に秘めていた願望を打ち明けていた。


「……いいわよ」

「でも私、諦める気はありま……えっ?」

「……?」

「い、いいってことですか? でもでも危険だったりお父様が許さなかったりしませんか!?」



「……貴方は何を思って私に頼んだの? 何らかの覚悟は、貴方の目から見て取れる。貴方の父親からは『少しの間、面倒を見てくれ』なんて厚かましいことも、頼まれている。……なら特に拒否する理由がないわ」

アンさんは眠そうにも見える細目で私をまじまじと見ながら、小首を傾げた。

不思議がっている、のだと思う。
元々無表情な上、口元を隠す三角巾のせいで更に表情が読み取れないが、恐らくそうだ。

(やっぱり外と私とじゃ色々とずれてるのかな……?)

と不安になる。

「……シャル」

そんな戸惑いを見据えてか、静かな声でアンが口を開いた。

――師匠は癖なのか(その言い方もおかしいけど)喋り始めにまず沈黙が入る。
だから寡黙だと誤解されることもよくある。
……けれど大の喋り好き(自称でなく本当に)な彼女にしてみれば面白くないらしく、初めは無口を演じ、機会を見計い急に饒舌になって、相手の驚く様を楽しむことにしたと言うのだから笑えない。

――……私も驚かされたし。


「……話が決まったなら早く出発しましょう。侍女達はしっかり言いくるめて、そうね……勉強にでも精を出してることにでもしておきなさいな。……口煩い貴方の父親に、バレないためにもね」

「は、はい! ありがとうございます!」

「……感謝するのはまだ早いわ。仕事柄、守ってはあげるけれど、死んでしまったらそれはそれで仕方ないと覚悟しておきなさい。外ではちっぽけな貴方の我が儘なんて……一切、通らないのだから」

「っ!? も、もちろん分かってます!」

ぞくりとするほど、眼に凄惨な微笑みを浮かべるアン。

――そう、師匠はそういう性格だった。

――えぇ、そうね……。これが私にも多少なりとも影響を与えなかったとは言えないわ……。

――ん? いいじゃない、師弟は似るものよ。




「うふふふふっ!」

いくら脅しをかけられたとはいえ、生まれて初めて外に出られるのだ。
思わずニヨニヨとしてしまう。

この日、お父様は用事があると外出中。お母様もそれに付き添っているので、屋敷の中には今、シャワと侍女達――住み込みのお手伝いさん達。十人以上はいる――しかいない。
シャワは手早く侍女達に話をつけた。

『優秀なハンターと一緒に少し散歩に出掛けたい』

――説明はこれで十分だったわね。
元より外に出れない私を気に病んでいた彼女達だったから、快く協力してくれたわ。
ちゃんと自分達に責任がいかないよう、私の部屋の窓に縄を垂らしておく徹底ぶりでね。



「……準備は出来たようね」

「はい。しっかり着替えました!」

そう言ったシャワの格好はいつものドレス姿ではなく、アンの用意した『レザー装備』と呼ばれる初心者ハンター御用達の防具。

初心者用とはいっても本格的なハンターの装備だから、安全度はドレスと比べると雲泥の差である。

「……布の服と皮のよろいと言えば分かりやすいかしら」

「え? 何ですアンさん?」

「……こちらの話よ」

――外に出てからギルドへと向かうのは楽だった。
レザー装備を頭まで被ってしまえば誰にも私とは………いえ、違うわね。
『普通の格好』をしていても誰も私のことなんか分かりっこなかったんだわ。
社会に、街に出られるのは家長を継いでから……それが我が家の掟だったから。……本当に下らない掟。

――だから皆が皆、私に気付くんじゃないかなんて、あの時の私はまぁ馬鹿なことを考えてたものだわ。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「うわぁぁぁぁぁぁぁ! すっっごい!!」

シャワの興奮した声が野山に響く。

「……あまり遠くに行かないで頂戴。シャル、ここが森丘と呼ばれる狩り場よ」

ネコタクに揺られて数時間。
アンとシャワは森丘のベースキャンプに来ていた。
クエストは何のことはない、ネコタクチケット納品の素材ツアーである。

「リオレイアはどこにいるんですか?」

「……そう遠くない所にいるわ。その前にいくつか忠告をさせて頂戴」

「? はい」

「……一つに、私の言うことを必ず遵守すること……『それがどんなことでも』」

「は、はい!」

アンの表情には有無を言わせないものがあった。

「……二つに、ここまでの道のりを必ず覚えておきなさい。私に何があっても必ず戻れるように」

「! そ、それは……」

「……違うわ。場合によってはあなたを先に逃がす場面がくるかもしれないということよ」

安心なさい、とアンはシャワの頭をくしゃくしゃと撫でた。

撫で方は存外雑である。

「……あと、今回はリオレイアを近くで見るわけじゃ無いわ。繁殖期のレイアはとても凶暴で手に負えないから、遠くから視るだけよ。……いいわね?」

「はい。……近くでは見れないんですか」

少し肩透かしを喰らった気になる。


「……死にたいなら止めないけれど。……まぁ、そう落胆する暇はないと思うわ」

「どういうことですか?」

「……文字通り『行けば分かる』、よ」

不思議がるシャワにアンはニッコリと笑いかけた。

「……!」

何故だろう……ぞくっとする。

――ま、当然よね。どうすればあんなに爽やかに、かつ残酷に笑えるのかなんて今でも分からないもの。





ベースキャンプを出発してから30分が経過した頃、二人は傾斜の激しい道をひたすら進んでいた。

「はぁ……はぁ……」

「……もう少しよ」

「……うん」

息も絶え絶えのシャワの横で、汗一つかいていないアンが呟く。

(やっぱりハンターって凄い……)

そう思いながらもシャワは黙々と進み続けた。

自分で頼んだことだから。
夢中で、半ば意地で。
弱音なんて吐いてられない。

「……あの上よ。まだ歩けるかしら?」

アンが少し先の丘の上を指差す。
何なら手を引いてあげましょうか? そう言うような口ぶりだった。

(私はまだ頑張れる!)

「私、先に行きます!」

ムッとしたシャワはアンを越して一気に丘を登りきった。

すると、


「わぁ………」


気が付くと、目の前が青空で埋まっていた。

綺麗……、そう思って足をもう一歩進める。

その瞬間、

「……っわぁぁぁ!?」


右足が宙を踏み抜いていた。
慌てて下を見た時、シャワは全身の血が物凄い勢いで引くの感じた。


崖。

下で見た見上げる程の木々が、豆粒に見えるほどの高さの崖の上に彼女はいたのだ。

止めようにも、踏み出した足は止められない。

「……―っ……!」

落ちる……! そう思ったが余りの恐怖に喉が詰まり悲鳴すら上げられない。


地上に残った左足の踵が浮き上がった時、

「……危ないわよ?」

アンが後ろ襟を掴んでくれていた。
そしてそのままの状態で、つまり半身以上崖に乗り出した格好のままにして彼女は話続ける。

「……何時いかなる場面でも危険は降りかかるってことは解ったかしら? これからは常に平常心を心がけながら行動しなさいな」

そう言い終わるとようやくシャワは地上に戻された。

「……わかった?」

「……はい゙」


――そりゃ涙声にもなるわよ! てか今考えたら師匠はわざと私を先に行かせたのよね……。お陰でハンターとして大事なことは刻み込まれたけど……ええそう。私が高い所苦手なのはこれが原因よ。


「……ほら、あそこが見えるかしら」

未だカタカタと震えているシャワに声をかけながら、アンは一点を指差した。

「向かいの山の中腹辺りに洞窟……ですか?」

「……そう、あれが巣。リオレイアが中で卵を守っているわ」

これを、とアンが筒のようなものを差し出した。

「これは?」

「……双眼鏡よ。細い方を目に当てて、あの洞窟を覗いてごらんなさい」

言われた通りにシャワが双眼鏡を覗き込むと、目の前に巨大な竜の顔が現れた。

「きゃ!?」

思わず双眼鏡を取り落としそうになった。

「か……顔が見えました」

「……倍率が強かったかしら? ちょっと貸して頂戴」

アンはシャワから双眼鏡を受けとると、何やら操作をして再び手渡した。

「……これでもう一度」

シャワは恐る恐る双眼鏡を覗いた。

「あれが……リオレイア」

全身を覆う緑の艶やかな鱗。
折り畳まれた巨大な翼。
長く刺々しい尾。
睨んだだけで獲物を殺してしまえそうな瞳。
それらすべてが女王の風格を体現したような出で立ちであった。

「怖い……でも綺麗」

「……良い感想ね。そう、あれは恐ろしい生物よ。決して興味本意で近づいてはダメ」

「……」

もっと近くで見てみたい。そんな気持ちを見透かしたようにアンは言った。

「……さぁ、日の暮れる前に帰りましょう」

「……はい」

シャワは道を踏みしめながら無事にアンと帰った。

装備は記念だとプレゼントして貰ったので、自室に大事に隠しておいた。



そして。




――あの時の私は大馬鹿者よ。それに関しては弁解の余地なんてないわ……。
当時だって分かってた。
けど、それでも、あの時の私は……。



アンが仕事でいない日を見計らって。




シャワは初めて家を抜け出した。
「よし……誰もいない」

早朝、まだ暗い街の中。
少女は小さな足音を響かせていた。
昼間は人々で賑わう大通りも今はがらんとしていて、普段より広く見える。


「確かこっちのはず……」

身を包み込むように纏った、黒色のローブが暗闇に溶け込む。
目立たない為の配慮なのだが、ハンターの装備独特の造形がその下からでも、その存在を強調している。

レザー装備を身に付けて。キッチンから持ってきた果物ナイフを腰に差して。

少女……シャワはギルドを目指していた。

「もう一度リオレイアを……もっと近くで見るんだ」

高ぶる気持ちを抑えられずに震えた声で呟く。
頭は、そのことで一杯だった。

双眼鏡の小さなレンズに映った、自由のままに生きる雌火竜。

彼女は、シャワが欲しいものを全て持っていた。

束縛され、決められた日常を強いられてきたシャワにとって、それがどんなに魅力的に見えただろうか。


シャワは――私はそんな『彼女』の全てに、魅せられていたのだと思う。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ちょちょ、ちょっと待って!」

「……何よ?」

話を遮ったバルスに、私は若干不満げに答える。

「ってことは一人で、繁殖期のリオレイアの所に行って来たってことだよね? よく生きて帰れたね……」

「それについてはこれから話すとこでしょうが! てか何で成功したって決めつけてるのよ!」

「いやいや、シャワなら成功させちゃうでしょ? 小さくてもシャワちゃんだった訳だし」

「……あのねぇ」

私はため息を吐いてからギロリとバルスを睨み付ける。

「私だって初めからこんな、えーと……美しくて優雅で、さ、才色兼備だった訳じゃないのよ?」

「……そこまでは言ってないよ。何で無理してまで言うのさ」

「………。あの時は本当にたまたま、成功しただけなの。誰かが外に放置してた竜車に、たまたま乗り込めただけなんだから」

「いやいや、それも才能の内だって」

「誉め言葉は可憐でキュートから受けとるわ」

「………。まぁ……それが『良かったのかどうか』は別だろうけど、ね」

先程の軽口とは打って変わっての、重みのある言葉だった。

そうね…… と私は頷く。
言わなくても、彼には全てが分かっているのかもしれない。

「さ、ここからは一気に話しちゃうわ……あまり、話していて気分の良いものでもないしね」

いよいよ、話の本題に入る……のか。

「……大丈夫かい?」

少し気後れしていると、バルスが私の頭を撫でた。



……撫でた?


撫でた!!?



「ななな、何するのよ!」

背骨が痛む程のけ反り、慌ててその手から逃れた私。
危なく椅子から落ちるところだった。

「ごめんごめん、なんかついね……」

しかし本人は飄々と、悪びれた様子はない。
それじゃ私だけ馬鹿みたいじゃない。

「もう……ちゃんと話すわよ。次は口挟まないでよね! 私も、もう余計なことは挟まないから」

気が付いたら不思議と、気持ちが軽くなっていた。



……………。



とにかく、と私は再び過去を語り始める。



焚き火の炎が少しだけ、熱く感じた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「つ……ついた」

見知ったベースキャンプへの入り口に、シャワは無事に辿り着いていた。

「アプトノスがちゃんと進んでくれて本当に良かった……」

人の足なら何倍もかかっていただろう。
竜車の扱い方を本で読んでおいて本当に良かった。


しかしここからは自分の足で歩かなければならない。まぁ、竜車が無ければ始めから歩くつもりではあったのだけど。


「持っていくのは必要なものだけにしないとね……」

双眼鏡や家から持ってきた森丘の地図、水筒、そして一束の薬草をポーチに詰め込む。

この薬草はアンから貰ったものだった。

彼女は前回の森丘に向かう際、こう言って薬草を手渡した。

『……傷を癒す道具は武器よりも重要なものよ。ひのきのぼうよりも薬草のほうが高価でしょう……?』

『ひのき……? 何でちょいちょい変なネタ挟んでくるんですか!?』

『……とにかく、薬草は大事になさいね』


………。

とにかく薬草は大事なものなのだ。
飲めば体調の回復、傷に刷り込めば回復力を強めてくれる薬草は、ハンターに留まらず街でも頻繁に使われている。
もっとも、ハンターが使用するものは市販品よりも効果と味が強力だという。
この薬草は後者のものらしいから、出来れば使いたくはないけど……。

そんなことを考えながら黙々と進んでいくシャワ。
時間はまだ朝が明けた頃なので、活動している生物は少ないのが幸いした。

そして見覚えのある丘まで辿り着く。

「ふぅ……やっと着いた。リオレイアは……まだ寝てるのかな?」

洞窟を双眼鏡で覗いてみるが、奥にいるのか姿は確認出来ない。

「……よし、行ってみよう」

場所はこの崖から伸びる坂道を通っていけば迷わず行けそうだ。

「結構急だけど、ゆっくり行けば大丈……わわっ!」

しかし足を踏み出した瞬間、脆くなった地面が崩れて片足が崖へと落ちかけた。

「………っ!」

崖下からは落ちた岩の音は聞こえない。
何とかバランスを取れたものの、これ以上進むことは出来ないだろう。
自分を助けてくれる人は今はいないのだ。


「下の森を通るしかないかぁ……」

鬱蒼と覆い繁る崖下の森を見下ろし、不安の入り交じった溜め息をつく。
でも目的のためには手段は選んでられない。
シャワは丘を降り、大きく迂回する形で森の中へと入っていった。


    

     



「うわぁ……不気味」

巨大な脱け殻や毒々しいキノコ、不気味な顔が刻まれたカボチャなどが転がる森を、シャワはナイフ片手に進んでいた。

戦闘では全く使えないであろう薄刃のナイフも、覆い繁る草や蔓を切るには役に立つ。
降りる途中で森から洞窟まで続く小道を見つけていたので、迷うことなく進むことが出来た。

「ハンターが使ってる道なのかなぁ。今日はついてるな」

そう言った時である。
身体の芯まで響くような重低音が、背後から聞こえてきたのは。

「っ!?」

反射的に振り返る、すると。



そこには先程の脱け殻の主であろう、蚊とも蜂ともつかない巨大な昆虫が迫っていた。

「ひっ……!」

『ランゴスタ』と呼ばれるモンスターだ。

尾にある鋭い針にはハンターをも麻痺させる強力な麻痺毒が仕込まれており、まだ幼い彼女が受ければショックで命まで止まることもあり得る。

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

そんな知識はまだ持ち合わせていなかった彼女だったが、相手が危険だというくらいは感じ取れた。
シャワは悲鳴と共に森の奥へ全力で逃げ出した。

途中、奇妙な面をつけた小人や髑髏の頭をした変人などが現れたが彼女は無我夢中で走り続けた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「………ねぇ」

「あれ? もう注釈はしないんじゃ?」

「挟まずにいられないわよ! 何でバルスがいるのよ!?」

「三年前っていうと、もうあっちで色々と活動を始めた頃……そうか、あの時すれ違ったのは君だったのか」

「あぁもう……! 話してて思い出したわよ……私、あの時あなたを見てたのね……パニックでそれどころじゃなかったけど……」

そこではたと思い出す。

「バルス! あなたギルドで会ったときに初対面だって言ってたじゃない!」

「いやいや、本当に記憶に無かったんだよ! 僕があの時見たのは金色の何か……今考えれば茂みから見えた君の頭だったんだろうけど、と大量のランゴスタでさ、そいつらが急に方向を変えて僕目掛けて襲って来たから、確認するどころじゃなかったんだよ……」

「……蜂が黒いものを襲うってのは本当だった訳ね。てか後ろのランゴスタそんなに増えてたんだ……」

(そっか……一瞬とはいえ私会ってたんだ。だから気を許せたのかしら? 結果的にそのお陰で助かったわけだし……)

「うん、一つすっきりしたわ。過去を話すのも悪いことばかりじゃないわね」

「僕は虫嫌いになったトラウマを思い出して鬱だけどね……」

「そ、それ私のせいだったのね……」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「はぁ……はぁ……追ってきてない……良かった」

どれくらい走っただろうか。
気が付くとシャワは森を抜けることに成功していた。
ランゴスタがいなくなった原因を彼女はまだ知るよしもない。

「よし……。もう少し」

目的の洞窟は森から少し山を登ったところにある。
夢中で走ったせいで枝や棘に引っ掛かり、ローブはもうボロボロ。
仕方無しに脱ぎ捨てたが、下にあるレザー装備のお陰で身体には大した傷は付いていなかった。

「ハンターの装備って凄いなぁ……」

一般の衣服だったら、あのローブと同じくボロボロになり、身体が生傷がだらけになっていたはずである。

初級の防具と呼ばれてるなんて思えない丈夫さ。
それに加えて軽く、動きやすい無駄の無い作り。
これらは全て、戦いの最前線に身を置く彼らの歴史が生み出したことは間違いない。

ハンターの技術に改めて感心しつつ山を登っていると、いつしか目の前には巨大な洞窟が口を開いていた。

「………」

実際に来てみると、予想以上に大きい。
縦幅だけでも十メートルはあるだろうか。加えて中からは唸り声のような音が響いている。

怖い。

でもここで怖じ気づいても仕方がない。

(こんなチャンス……もう二度と無いかもしれないんだから!)

今まで漠然と過ごしてきた、そんな毎日に何かを見出だせるかもしれない。

自由とは何かを、知りたい。

シャワはリオレイアの棲まう洞窟へ、ゆっくりと足を踏み出していった。



    


「少し……寒いな」

一本道の洞窟を恐る恐る進んでいく。
中は思ったより暗くなく、明かりがなくとも歩くことが出来た。

しかし、雌火竜の寝息だろうか、唸り声のようなものは進むごとに大きくなっていた。

「…………」

冷たい岩肌を片手でなぞりながら前進していくと、奥に開けた場所が見えてきた。

「あそこに……リオレイアが?」



恐怖心よりも好奇心が勝った彼女は、思わず広間へと走り出したのだ。

この瞬間、彼女に火球が飛んで来ても決しておかしくはなかった。


「うわっ……!?」



「眩しい……」


しかし、代わりに降り注いだのは暖かな光。
洞窟の奥は天井が崩れたせいで大きく穴が開いており、このエリアを日の光が照らしていたのだ。
ここにリオレイアの姿は見えない。

「あれ……って」

シャワがエリアの中央に何かを見つけ、近づく。

そこにあったのは両手でも抱えきれない大きさの白い岩のようなもの。

――飛竜の卵だった。


「凄い……」

リオレイアがこの時期、洞窟を根城にするのはこのためだったのだ。



卵を守るために……。





「あ…………」



そこで気付いた。



何故リオレイアは、
『ここに居ないのだ』



何故、大切な卵に
 『ここまで他者の接近を許しているのか』

もしリオレイアの姿があったなら、彼女は最低でもここまでの巣に近付くことは無かっただろう。

いや、ちらりと目にしただけでもすぐに洞窟から逃げ出していたはずだ。

そこまでに卵を守る、子を守る飛竜の気迫は凄まじいのだ。


「あ……うぁ………」

ここで何故、雌火竜がいなかったかの話に戻る。
考えればすぐに分かることなのだが、今、足が竦んでいる彼女は自分でそれに気付いた訳ではない。

気付かされたのだ、『彼』に。

ハンター達は繁殖期のリオレイアが凶暴だからという理由だけで、この時期の狩りを避けている訳ではない。




卵を守っているのが母親だけではないからだ。




力強く羽ばたく音が上からゆっくりと降りてくる。
交互にする見張り、そのほんの僅かな交代の時間。
そんな刹那の一時に彼女は『運良く』入り込んでしまったのだ。

「ギャオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

入り口から聞こえた風鳴りなんて比較にならない。
天井から現れた、空の王者の激昂は洞窟中に響き渡った。
作品を読んでくださっている方には大変申し訳ないのですが、毎度の遅筆と年末の多忙により次回の更新は恐らく来年になります……(汗)


それでは皆様、皆さん良いお年を(`・ω・´)!

     カンパーイ
口―ζ( ゚Д゚ )八('ヮ'*) くHappy New Year!!!    Σ(゚Д゚;)§ くマダハヤイデスヨ!!?
↑Hammer   ↑Chomo                   ↑Aqua

                                                           く……
                                                          ↑varus
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楽太郎

Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
楽しんで読んでもらえたら幸いですね
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