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※会話はアクア→ハンマーの順で進んでいきます


――アクア&ハンマーの自室 inポッケ


「ハンマーさんハンマーさん」

「ん? どうしたのアクア? あー、もしや私と同じで炬燵から出れなくなったな!」

「ちがっ……いや確かにそうなんですけど……。ほら、世間じゃ新年じゃないですか、挨拶とかしたほうが良いんじゃないかなと」

「今言うのもだいーぶ遅いと思うけどね……。ま、確かにそうだね。はい、あけおめ」

「軽っ! もっとこう今年も宜しく……とか無いんですか!?」

「えーそういう形式ばったのってユクモしかやんないんじゃないのぉ?」

「ちょっとそんな面倒臭そう顔しないでくださいよ! ていうか今軽くユクモのこと馬鹿にしてましたよね?」

「あ、そういえばユクモだよユクモ」

「またこの人はすぐに話を……ユクモがどうかしたんですか?」

「そろそろ行かなきゃなんないじゃん。ほら、あれあれ」

「……そうだ! 皆と餅つき大会やるって言ってましたね。何時でしたっけ?」

「えっと確か明日」

「明日ぁ!? ちょっとそれ間に合うんですかっ!?」

「普通じゃまず無理でしょ」

「ですよね! 大陸違いますもん! えー……皆と餅つきしたかったなぁ……私も悪いけど……」

「ふふふっ……アクア。私は『普通』ならって言ったんだよ?」

「……と言いますと?」

「借りておきました『古龍観測用気球』!!」

「そんなものどうやって借りたんですか!?」

「ふふん、ちょいと『権力』という奴を……ね」

「そんなのあったんですか!!?」

「なんで気球よりも驚いてるの!? ………まぁ私のじゃないけど」

「? 今何か言いました?」

「いや別に」



――かくして二人は急遽空の旅を楽しむこととなった。


「たっか―――――い!」

「凄いでしょう凄いでしょう! ほら初日の出!」

「ハンマーさん、もう元旦じゃないし昼ですよ」

「……しっかし見事に海だね」

「そうですねぇ。方角確認する以外はすることもないですし……あ、ラギアクルス」

「ホントだ。あ、あそこにガノトトス。じゃあ何か話でもして時間潰そっか?」

「それがいいですね。そういえば私、ハンマーさんに聞きたいことあったんですよ。あ、ナバルデウス」

「おぁーでっか。……で聞きたいことって?」

「ハンマーさんて、基本的にどの装備にも回避性能つけてるじゃないですか。あれってそんなに便利なんですか?」

「ん、回避性能は使い方によっちゃかなり幅が効くスキルなんだよ?」

「確かに尻尾は避けやすくなる気がしますけど……他に何か使いますか?」

「アクア、まずは回避性能が『攻撃を回避する防御スキルである』という認識を外そうか。回避性能は『攻撃スキル』だっ!」

「……攻撃スキル?」

「回避性能で回避出来るのは尻尾や爪だけじゃない。火球や咆哮、震動といったありとあらゆる動作を避けることが出来る。普段なら間合いを取ったりガードを強いられる攻撃の最中でも気にせずに突っ込むことが出来るんだよ。それだけ手数が増えることに繋がるのさ」

「な、なるほど」

「そしてそれらを回避出来るってことは耳栓や耐震なんてスキルを付ける必要が無くなる……つまりその分を他の攻撃スキルにまわすことが可能になる!」

「おぉ……!」

「たった一つのスキルが様々なスキルの代わりになる……私やアクアみたいにガードが出来ない武器を使うハンターにとってはそれがどんなに有効かは言うまでもないよね? 更に言えば、ランスやスラッシュアックスみたいに回避動作が短い武器ならそれがそのまま隙の無い立ち回りに繋がっちゃうのさ!」

「す……凄い」

「更に更に! 回避を極めれば防御なんて不要! ガチガチに装備を固めなくたっていいのさ。つまりその分を好きな格好……お洒落に回すことが出来る素敵な特典が待っている!」

「そんな素敵な特典が回避性能を付けるだけで……っ!?」

「その通り! そんな夢の性能が詰まった回避性能をすぐに発動できちゃう光避珠がこちらです!」

「わぁ、綺麗な珠……でもお高いんでしょう?」

「そんなことはございません! この光避珠、普段なら500zのところ、今ならなんとたったの100z!!」

「えぇっ!? そんなに安くなるんですか!?」

「それだけじゃありません! 今回限定で、こちらをお買い求めた方には何と光避珠をもう一つプレゼント!」

「えぇぇぇ!?」

「更に更に! こちらの回避珠も一つお付けします! これらを全部付けるだけで何と回避性能が+1もついてしまうんです!」

「ぷ……+1も!? 凄い……凄すぎます!」

「さぁ! 今から100名限定で販売開始です! おやおや、もう受注の手紙が沢山!」

「わ、私にもください!」

「はい、ありがとうございま……あぁ! これが最後のセットだったのですが、もう一人の方が一足早く受注にされてしまいました」

「そ……そんな!」

「おや……先程のスカルフェイスの方が貴女がどうしても欲しいなら300zでお譲りするとおっしゃっています……がどうしますか? 300zでも十分にお得だとは思いますが」

「か、買います!」

「毎度ありがとうございます!」

「わ、私ユクモに着いたらすぐに回避性能つけますね!」

「そうですか。なら貴女も今日から回避ハンターですね! さぁ、レッツ?」

「狩猟生活!!」

――こうして私、アクアは回避ハンターとしての道を踏み出しました。毎日が薔薇色の(血液的な意味で)狩猟生活で、とても満足しています!





「………これってどう考えても最後のは詐欺じゃないですか」

「バレた? しっかしアクアのノリが思ったより良かったつい……、でもおかげで大分時間が潰れたねぇ。あ、ナバルデウス」

「まったく、いきなり何が始まったのかと思いましたよ……まぁ楽しかったし勉強にもなりましたからですけど。あ、あそこにもいますね」

「うわ沢山いるねー。確かあの辺モガの村じゃない? 大丈夫かね?」

「上手い具合に村の下に海底遺跡なんかがあって、そこに突進なんてして地震とか起こさない限り大丈夫でしょう。あ、ハンマーさん! ユクモの煙が見えていましたよ!」

「ホントだ! さぁ、皆待ってるだろうし、杵(きね)を思う存分振るうぞー!」

「それもハンマーの部類に入るんですね……」

「私がめっちゃ叩くから、アクアはお餅を混ぜてねー」

「それとっても危ないんじゃないですか……?」

「ふふ……そこで使うんじゃないのさ」

「何を………あ」



「「回避性能!」」













「ってそんな上手くまとまってませんから!!」








                                           PS:ユクモでの餅つきはまた別のお話……
「………ぁ…………」

声が出ない。

頭の中で警笛が鳴り響く。

シャワは、深緑の鋭い眼孔に全身を貫かれていた。

後ろからは、火竜の足音が震動と共に近付いている。


絶体絶命。

そんな中、初めて間近で見たリオレイアの姿。


危険を冒してまで見たかった、その姿は――





美しいなどと思う余地もない程に――






どこまでも恐ろしかったのだ



「う……うぅ」


恐怖が全身を打ち震わせ、意識が遠退きそうになる。

しかしそれを堪えながら少女は視線を合わせ続けた。


今ここで死ぬとしても、絶対に目を逸らしてはなるものかと、必死に見据えた。


時間にすれば5秒にも満たない僅かな時であったが、シャワにはそれが何十分にも何時間にも感じられた。

(あ……駄目……意識が………)


ハンターでも精神を削られかねない飛竜のプレッシャー。
それを浴び続けた彼女の気力は既に限界を越していた。

徐々に視界がぼやけて、霞む。

(ごめんなさい………アンさん……私……)


そして響いた咆哮の中、シャワは崩れるように倒れ込み、そのまま意識を手放した。

(ごめんなさい………お母様………お父様………)







その後に起きる閃光を、叫びを、爆音を、風を切って走る音を、少女が知ることはない。




         


目を覚ますと、私は見覚えのある背中に背負われていた。

「アン………さん?」


彼女は黙々とベースキャンプに続く道を歩いている。


(助けられた……の?)


「……私はとても心配したのよ?」

静かなトーンでアンさんは、唐突に背中の私に語りかけた。

「………怒らないんですか?」

まだ夢か現実かの区別もつかないまま、思わずそう聞いてしまう。

自殺行為と呼んでおかしくない行為をした挙げ句、最悪の事態を引き起こしたこんな私を助けるために危険を冒したのだ。

「……勿論怒っているわ。けれどそれは私の役目ではないの」

「え………?」

どんな叱咤にも耐える覚悟だったシャワはその答えに疑問を覚えたが、自分がどれ程に幼稚で愚かな考えであったかをすぐに知ることになった。


「シャルワナ……!!」

ベースキャンプに着いた時、いや、着く前にキャンプから誰かが飛び出して来た。



それは紛れもない母、シエラ=イーゼンブルグの姿だった。




「お母様……!?」

信じられない。

まずはそう思ってしまった。

本来、あまり体の強くなく大人しい人なのだ。
そんな彼女が肩で息を切らし、ボロボロに破けたドレスと土だらけの素足でいることがまず信じられなかった。

「お母様どうして……っ!?」


乾いた音が辺りに響いた。


「あ………」


母から平手を受けたのは、生涯でもこの時ただ一度だけだった。

「モンスターを見てみたいという強い気持ちも、それを実行する勇気も蔑ろにはしません。でもね、無謀なことだけはしないで! それだけは……見極めれる人間になりなさい」


ふらふらとしながら、シエラはきつく唇を噛んで私にそう言った。
私と同じ金色の髪がそれに合わせて揺れる。


(あ…………)

私はある一つの事実に気付き、愕然とした。

(お母様は今日『体調が良くなくて病院に行っていた』はずなのに………なんで、どうしてこんな所に…………)

初めて受けた母の叱咤。


そして彼女は涙を流して私を強く抱き締めた。

「ごめんね……あなたの気も知らずに縛り付けてしまって……出掛けたかったよね……遊びに行きたかったよね……色々なものを見たかったよね…………」

「お母様……違うの……私何てこと……ごめんなさい……ごめんなさい……!」

「………」

アンさんは無言でキャンプを離れ、暫くしてから促すようにネコタクを引き連れて来た。



帰り道、二人は何かを話していたようだが、私はまた眠りについてしまった。

気がついたら自室のベッドの中だった。

「………」

ぼんやりとした頭で私は母の言葉を思い返す。

『無謀なことだけはしないで!』


その言葉が彼女の遺言に変わったのはそれから二日後のことだった。



        



母の葬儀から二日が経った。
未だに頭が上手く動かない。

あの騒動から二日目の朝、出掛けの父を男の凶刃が狙った。
それを母は咄嗟に身を呈することで守ったのだそうだ。

逆恨みによる犯行らしく、男は間も無く取り押さえられ、捕まった。
母は致命傷こそ免れたものの、病院での治療中に息を引き取ったそうだ。

体力の低下が原因だったらしい。



体調の悪化が。





そして父は娘が行方不明になった時も母の葬儀の時も、一人で商談を進めていたそうだ。


それも、私は後に知った。



何も、知らなかった。


あの後、私は精神的な疲労からの高熱で寝込んでおり、一度も母と会う機会がなかったのだ。


何も知らないうちに全てが終わっていた。


全てがあの雌火竜を見てから起きた。
そんな言い訳まがいの恨みをあの飛竜にぶつけたいと思ったが、それこそただ自由でいただけの『彼女』にとっては何の関わりも無いことで、私の我が儘に過ぎない。

全て自分が招いた。
私が無知だったから。
非力だったから招いたことだから。




「アンさん……私を弟子にしてください」


私が最後の我が儘を言ったのは、それからすぐのことだった。



「……なら今から私のことを『師匠』と、呼びなさいな」

私の気持ちを知ってか知らずか、アンさん……師匠は淡と言った後、元から細い眼を更に細めた。

「……ただ私の教え方は少し厳しいわよ」




『最も選びたくない死に方百選』というハンター御用達の冊子に『彼女への弟子入り』という項目が記されていることをシャワが知る由もなかった。









……そして一年の歳月が経った時


日の照りつける砂漠に銃声が一つ響いていた。



「……右。左へ。そこでリロード、速射……そう」

「はぁ……はぁ……やった……」

アロイ装備に銀のボウガンを掲げた私の目の前には、力無く倒れるダイミョウザザミの姿があった。

「……初戦でそれだけ動ければ上出来ね」

「あ、ありがとうございます! 師匠!」

アンさんに弟子入りしてから約一年。
地獄の方がマシでは無いかという訓練を文字通り死に物狂いで乗り越えた私は、ついに念願のハンター登録をしたのも束の間、いの一番で盾蟹の狩猟に連れて来られたところであった。

父には外の環境を学ぶ研修だとごまかしての強行だ。
バレたら止められるどころではなかっただろうが、そこはアンさんが上手く取り計らってくれた。

「ふぅ……何とかなったわね」

帰りの分のクーラードリンクを飲み干して軽く息をつく。
始めは少し苦戦したが、ダイミョウザザミのプレッシャーも攻撃も師匠に比べれば大したことなかったように思えた。

「……勝てたからといって油断を生んではダメよ? それは貴女が一番嫌うことに近いものよ」

「はい。分かっています」


「……ならもう、……あら、気球が何か反応してるわね」

普段動きを見せない気球が信号を慌ただしく発していた。

「本当ですね……一体何が……っ!?」

その瞬間、気球すれすれに何か巨大な影が飛び去って行った。
姿は逆光で分からなかったが、見たことのない容姿をしていたように思える。

それに――

「師匠! あの方向には街が……!」

慌ててそう言ったが、アンは何故か含み笑いを浮かべ、自前のボウガンに手をかけていた。

「……丁度いいわね。行くわよ、『シャワ』」

「はい!」

シャワという名前はギルドに登録した際につけた偽名だ。
初めは違和感があったが、呼びやすいのかアンは普段でもそう呼んでいて、私もすっかり偽名のほうに慣れてしまった――なんて今はそんなことを思ってる暇ではない。
素材の剥ぎ取りもそこそこに、急いで私たちはドンドルマへと向かった。





「何よ………これ」


「……やっぱり大物ね」

私たちが辿り着いたとき、そこでは燃え盛る街と炎王龍『テオ・テスカトル』が、盛大に爆炎を散らして盛大に咆哮をあげていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ドンドルマに炎王龍……あの時か」

シャワの話を聞いたバルスが、顎に指を添えながら呟いた。

「……もしかしてあの場にいたの?」

この男もギルドナイトの端くれだ。
また出会っていたかもしれないと思い訪ねてみたが、バルスは「いや」と首を振った。

「僕はその時別の場所で仕事をしていたよ。話は後から聞いたんだけど……炎王龍、君が倒したのかい?」

「……違うわよ」

やけにブスッとした返事になってしまった。

「イャンクックなんかで浮かれてた私は役立たずだったわ……私は師匠の後ろで援護していただけ」

ガンナーの後ろから援護よ、と皮肉めいた口調で言う。

「テオ・テスカトルをほぼ一人で倒しちゃったのは師匠……アンさんよ。そして手柄を私に全部譲って姿を消したの」

「手柄を全部……? じゃあシャワのHRが急に上がったのって……」

「そう、テオ・テスカトルを討伐したってことで上がった訳。お陰で出来たことがあってね……本当にあの人はどこまで考えてたんだか」

「! 出来たことってもしかして……」

バルスが最後まで言う前に、私は人差し指を立ててそれを止めた。

「それは私に言わせて。……これが最後の話だから」

焚き火の火は大分小さくなっていた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




炎王龍の襲来から数ヶ月が経った夜、ちらほらと灯った松明の間を縫って一つの影が街を駆けていた。


ザザミ装備とアンさんから譲り受けた銀色のボウガン―シルバースパルタカス―が背中で軽くぶつかり、乾いた音が小刻みに鳴る。

向かっている先は我が家であるイーゼンブルグ家の屋敷だ。

父は母の死後、何かに憑かれたように家を空けることが多くなった。
私のことも気にかけず、それどころか炎王龍の襲撃の後は私を家から追い出し私兵を雇って身を固め、近づくことさえ難しくなっていた。

しかし私はどうしても父と話がしたかったのだ。
アンさんがいなくなってから一人でクエストをこなし続け、ある程度の信用も会得した今が行動の時期だった。

「何者だお前は!」

「ちょっと通らせて貰うわよ?」

私は、堂々と屋敷の真ん前から突入した。

父の私兵を薙ぎ倒して奥へ進む。
私の家でもあるんだから遠慮はしない。




「お父様、こんばんは」

ダイガスは大広間に一人、椅子に腰かけていた。

「よく来たなシャル。今はシャワと呼んだ方がいいのか?」

しばらくぶりにはっきりと見た父の顔は少し痩せているように見えたが、威厳のある態度は変わりない。

「……全部知ってて、やってたのね」

「さぁ、どうだろうな」

ボウガンを片手に持ったシャワに対してまるで動揺することなく接するダイガスに、シャワは憤然と言い放った。

「お母様の事……何だと思ってるの!? 葬儀にも来ないで……商談がそんなに大事?」

「随分と口が悪くなったな、シャル。きちんとした言葉遣いを教えたはずだが」

確かに私の性格はあの一年で大きく変わっていた。
あんな淑やか(しとやか)な性格では乗り越えられる訳がない。

「お父様には関係ないことよ。今夜は一つ言いたいことがあって来たの……私、この街を出ることにしたわ。ハンターとして、旅をしながら知識を得るの」

「ほぅ……」

その言葉に初めてダイガスは驚いたような顔を浮かべた。

「なら我が家を継がぬと、そう言いたい訳だな?」

「……そうよ」

その瞬間、ダイガスが勝ち誇ったような顔を浮かべたのが分かった。

「……なら『あの子』に継がせてもいいと、そういうことだな?」

「なっ……!!」

シャワの顔が青く変わる。

「あの子には関係ないでしょ!?」

「そうだろう、そうだろう。何も知らぬ妹に重い責を被せようなどと、姉が思うはずがないな?」

額から嫌な汗が流れ落ちる。
やはり引き合いに出された。
考えてはいたがそんなことを言うはずがないとどこかで願っていたのに。

私には妹がいる。
歳は5つ程下だ。
しかし妹は、イーゼンブルグ家の『跡継ぎ候補は一人のみ』という仕来たりによって生まれてすぐに隣街の修道院に預けられたのだ。

男の跡継ぎを願っての第二子だったが、生まれたのはまたもや娘。
体の弱い母、シエラに考慮して第三子は断念。
長女シャルワナを正式に跡継ぎ候補としたのだ。

妹と会ったのは、五年以上前のとある式典での一度きり。
離れ離れの姉妹を嘆いた侍女達がこっそりと会わせてくれたのが最後だ。
自分の分まで自由に生きて欲しいと、そう願うことで今までの束縛に耐えてこれた。

「……分かったわ、家は継ぎます」

「うむ、それでこそ姉だ」

大事な妹に責任を負わせるわけにはいかない。
でも負ける訳にもいかない。

「でも条件があるわ」

ここからが勝負だった。





「――……成る程。家を継ぐ時期までの自由か。いいだろう、ここまで辿り着く実力があるなら、野垂れ死ぬ心配もあるまい……最後の自由時間を有意義に使うといい」

「……契約は成立ね」

やはりこの家を一代で築き上げただけはある。
ハンターである私がボウガンを突きつけた状態で、ここまで譲歩せざるを得なかったのだから。

私はそのまま黙って父に背を向けると、屋敷を出て隣街のギルドへと向かった。
目的は当面の資金集めと、情報収集。
アンさんを探しながら世界を見るために旅にも出たかったが、一人だとまだ不安だ。

(頼りにできる仲間……か。そんな人に会えたらいいな)

期待と不安を背負ってドンドルマの街門を抜ける。
三年後の対決に向けての準備の始まりだった。


ダイガスがユクモに現れるまでの一年半。
シャワが自分の人見知りさに絶望したり、怪しい男に出会うのは、もう少し先の話である。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「…私、父を信じていたかったの」

話が終わり、焚き火も消えた頃、黙っていたシャワがポツリと口を開いた。

「でも調べても調べても悪い噂ばかり……会って話せば何かが変わるかもって期待していたけど、それもダメだった」

話ながら、自分に諦めをつけているのが分かる。
しかしそんな中、バルスがふと思いたったように顔を上げた。

「……何かを隠してるんじゃないかな?」

いつの間にかバルスは真っ直ぐにこちらを見ていた。

「え?」

「実際に会ってみて思ったんだけど、シャワのお父さんはとても優秀な人だ。一代で富を築くなんてことは並大抵の事じゃない」

「でもそれは裏で色々と……」

「それに、シャワが行方不明になっと時もお母さんの葬儀の時も、お父さんは商談なんかには行っていなかったと思う」

その言葉にシャワは目を見開いた。

「なんで……そんなことが?」

「お父さんを狙っていたのは恐らく個人じゃない」

「!?」

「お父さんみたいな人は周りに敵が出来るのが必然なんだ。その危険が周りに降り掛かるのを抑える必要が彼にはあった」

「じゃあ家に立て籠ったのも……」

「炎王龍の騒動に紛れての行動を予測してたんだろうね。シャワがハンターになるのを止めなかったのも護身が出来るようにしてほしかったからだろう。アンさんも一枚噛んでるかもしれない。君が行方不明になった時は、人質目当ての誘拐じゃないかと情報戦を繰り広げてたんじゃないかな」

「な………」

言葉が出せない。
そんなこと、考えも出来なかった……ただ噂に振り回されて……。

「そして一年半の歳月をかけて君に自ら会いに来たってことは、その問題を解決したってことだと思う」

「それじゃあ今まで……!」

「君に安全な家を継いで欲しいっていう親心と、プライドなんじゃないかな?」

何てことだろう……私は言い様のない気持ちを抑えて空を仰いだ。

お父様に何て顔向けすればいいのか分からない。

「でもシャワがしっかりと行動してくれたからこそ、だと僕は思うね」

「……あんまりフォローになってないわ。結局お父様の手のひらの上だったんだし」

「素直じゃないなぁ。それって信用の裏返しじゃない」

「いいのっ! お父様のことだからどうせすぐ帰ってくるでしょうけど、しばらくは私が切り盛りしないといけないんだから、早く帰らないといけないわね」

「あ、それなんだけど」

「ん?」

バルスがやや視線を外しながら呟く。
バルスにしては珍しい仕草だ。

「まだ敵がいるかも分からないし、んん……ここは一つ騎士のレンタルはいかがかな?」

頼りになる、私の相棒は立ち上がってすっと手を差し伸べた。

「……ふふっ、長期契約ってことで一つ頼もうかしら?」

私はゆっくりと、しっかりとその手を取って立ち上がる。

「じゃあ出発は早朝! 着いたらバリバリ働いて貰うわよ!」

「えぇっ! もう空が明るんできてるけど!?」

「なら急いで準備しなさい! 寝れるなんて思わないでよね!」

二年後に何が起こるかは分からないけど、私には私でしなければいけないことがある。
理想の家を目指して、今度はモンスターより聞き分けの悪い敵を相手にしていくのだ。



彼女がドンドルマに着いてから数ヶ月。

愛銃だったシルバースパルタカスは、念入りに手入れされながら自室に飾られている。

  
                           【次章へ】

氷ノ皇子

2013/01/30

「いやぁ、アイスさんマジでカッコイイですわ!」

「…………」

悪天候な凍土の夜。
普段なら透き通った空に満天の星と光の幕が絶景なのだが、今夜は一メートル先もまともに見えない猛吹雪に見舞われていた。

「うっひゃー! マジ寒い! アイスさんは何で平気なんスか?」

「…………」

ハンターどころか氷の世界の生き物でさえ滅多に出歩かない吹雪の夜。

そんな中でハンターは言葉を交わしながらたった二人の行軍を続けていた。

「なるほど! しゃべらずに無駄な体力を使わないことが大事なんスね! 流石ッス!」

「…………」

言葉を交わすと言ったが、先程から喋っているのは後方の男で、前方の男はそれに一切答えずに先を歩いている。


「ちょちょ! 速いですって! 待ってくださいよぉ!」

「……………」

例えるなら陰と陽、氷と炎。
この物語はそんな二人の会話をただ聞くだけの話だ。


「いやしかしホントすげえっス! 氷属性の片手剣しか使わなくて、防具も氷属性限定! こだわりがもうすげぇ!」

先程からひたすらに喋っている男の名前は『ショウコウ』。
変わった杖をつき、黒い『着物』と呼ばれる衣服を纏っているハゲ。
それ以外は知らない……というのも、コイツは凍土の探索中に出会った『ただの他人』だからだ。

「…静かにしろ」


「なのに狩り場は凍土限定! ……とかじゃなくて火山とかも行っちゃうとかアイスさん、まじヤバいっすよねー! いや良い意味でねっ!?」

なのにこっちの名前やら何やらを知っていて、怪しい事この上ない。


「…黙れ」



「アイスさんってば見かけも寒そうなのに言葉まで冷たいんだもんなぁ! あと氷属性の装備なのにマフラー常備! 寒いのか寒くないのか! 一体どっちなんだー! マジ噂通りっすよ! 流石『氷の皇子』! かっけぇス! ってわわっ!?」

……その呼び名は好きじゃない。

「…それ以上喋るなら、…その舌を落とすぞ」


「ごめんなさいごめんなさい! そんなつもりじゃなかったんスよ! だからそのナールドボッシュを下ろしてくださいってぅ! 俺はただアイスさんが気に入って……ってうぉぉっ!?」


「…躱した、か……」


「マジだ! マジに殺りにきた! すみません! もう黙ります!」

「…………」


「……ブファっ、だっはっはっはっはっ! ダメだ! 俺黙ってんの無理なんすよ! うひゃはははは! 」


「…地に還れ」


「うぉぉぉぉっ!? 頭かすった! 髪散ったよ! って俺ボンズスタイルだった! 髪無かった! セーフ! あはははは!」

「…っ!」

「危ない危ない危ないっ! すげぇ! 片手剣っていってもそんな速さ有り得ないですって! やばいやばい当たる当たるっ! 当たるから!」

「…………お前は一体何なんだ」

この一連のやり取りを見て、それ以外のことを思う人間はまずいないだろう。


「え? 俺? 俺っスか!? 俺はアイスさんに憧れて着いて来た、只のファンですよ! てかやったぁ! やっとアイスさんが俺に興味を! もう相棒でいいっすか? 相棒でいいっすか!? 相棒でいいですよね?」

「…帰れ」

「そぉんなこと言わないでくださいよぉ! 俺、アイスさんのサポート、バッチシしちゃいますんでぇ!」

「…この剣を躱せるなら実力は相当だろ。他を当たれ」

「いやいやいやへやん! やっべ噛んだ! あはは! 違いますよ! 俺はアイスさんの人柄に惚れこんだんス! あっ理由聞いちゃいます? 長くなりますよ? ……あれはまだ俺がこっちに来て間もない頃……あ、俺東の国出身で『ボーサン』って職業やってんすよ! そんでお師匠様に『お前は見聞を広めてこい!』なんて言われちゃって! それで別の大陸に島流しにあって、右も左も分かんないときにアイスさんが通りかかって、直感で『この人パネェ!』って………っあれ!? アイスさんちょっと待ってくださいよぉ!?」

「…興味がない」

「ここからがいい話なのにぃ! ん? どうしたんスか? 急に止まったりして」

コイツの大声に呼ばれたか……全く面倒な奴だ。

「…来た」

「来たって何がッスか? 別に何も見え……うおぉ!? なんスか!? 地震!?」

「…早くそこを退けろ」

喰われたくなかったら、だ。

「は、はいッス! これくらいでいいす……どわぁぁぁぁぁぁ!?」

「ギュオォォォォ!」

「何だこいつでけぇぇぇぇ! さっきの俺の足元から出てきた! なにそれこわいっ!」

「…下がってろ、俺の獲物だ」

アグナコトル亜種。
今此処等を縄張りにしてる奴だ。

「流石アイスさんカッケェ……って本当に大丈夫なんスか!? そいつ氷が友達って面してますよ!?」

「…黙ってろ」

「コココココ……」

「ヤバイ! アイスさん、あれなんかヤバイんじゃないすか!?」

「…ふっ!」

こいつのパターンは見飽きている。

「ギュオ……!?」

「すげぇ! ブレスをかわして柔らかい腹に剣を刺したぁ!? でもそれだけじゃ………あれ?」

「……ォォ」

「…………」

「うっそぉ!? たった一撃であの巨体が倒れた!? アイスさんどんな魔法使ったんですか!?」

「…どんな奴でも中身は生き物である以上体温がある。だからそれは奪えるし、凍る。俺は奴の急所を狙っただけだ」

「す……すっげぇ! 常人が出来ないことをそんな簡単に! どんだけサイコーなんすかアイスさん!」

「…御託はいい。いい加減本当の理由を話したらどうだ? …わざわざこんなところまで着いてきた訳があるだろう?」

これ以上付き纏われるのも面倒だしな。

「へ? や……やだなぁ! 何もないですよぉ! 俺は単に……」

「…まぁ『あの女についての情報を聞き出せ』。そんなとこだろう」

「げ」

「…どうせ依頼主はギルドの物好きなジジイ連中だろう」

「うはぁ……全部お見通しだったんすね」

ここまで隠すのが下手なやつも珍しいと思うが。

「…当たり前だ。そうでもなければ俺に着いてくる奴なんていない」

「でもでもっ! 俺がアイスさんに惚れ込んだのはマジですからっ! というかここに来てから正直依頼のこと忘れてました! やっべこれ怒られる! あははは!」

「…お前、相当のアホだな」

「よく言われるっス! よっしゃあ! 俺、このままアイスさんに着いていきまっす! 依頼主には怒られちゃいますけど!」

「…俺の知ったことではないが、奴等は腐るほどお前みたいな奴を雇ってる……もともと数撃てば当たるだろうっていう考えの連中だ」

「じゃあ一人二人消えても問題無いってことっすか!?」

「…まぁそれ以上に俺に付きまとう途中でおっ死ぬ連中が多いがな」

「……じゃ、じゃあやっぱさっきのはガチで殺りに来てたんスね……殺気だけに」

「…この環境についてこれなかった奴が多いだけだ」

「ってことは手を出したのは俺だけってことじゃないスか!! しかも突っ込みなしとか!!」

「…悪いがお前とはここまでだ」

「へ? いきなりどうしたんスか?」

「…これをやるから帰れ」

「これモドリ玉じゃないスか! ってもう煙出始めてるし!」

「…最後に一つだけ教えてやる。どこで知ったか知らないが、俺の名前は『Is(イズ)』だ」

「そうだったんスか!? てっきりアイスって読むもんだと……」

「…読み間違えるな」

「いやホントは俺あなたのこ…… 」

緑色の煙が立ち上ぼり、同時に男の姿も消え失せた。

「…行ったか」

「…ならこれを引き抜くとするか……」

そう言って足元にある一本の柄に手をかける。
かつて浮岳龍ヤマツカミを葬った片手剣『氷牙』。
奴を帰らせたのはこれを見られるわけにはいかなかったからだ。


「…またこれを使うような敵が出るってことか……まぁ姉さんの呼び出しなら仕方ないが」

「――ほほぅ! イズの兄貴はあの古龍ハンターの弟さんだった訳ッスね!」

「…っ!?」

頭上を見上げると、そこには一抱え程の大きさの昆虫に捕まって飛んでいるショウコウの姿があった。

「ニンポー身軽の術! なんてのは嘘で崖上から相棒に頑張ってもらって滑空しただけ……ボハァ!?」

重かったのだろう、昆虫に腕を離されてショウコウは雪に上半身を埋める形でめり込んでしまった。

「…………」

呆れて言葉も出ないが、
ベースキャンプからここまで再びやって来たこと徒労を認めて引き上げてやる。
するとショウコウは調子に乗った様子で騒ぎ始めた。

「助けてくれたってことはあれッスね? 噂のツンデレってやつだ! えっ? 違う? そんなぁ!」





「…その昆虫は何だ?」

見たことのない虫だ。
気になって訪ねてみると、ショウコウは「あ、コイツッスか?」と言ってから杖を引き抜いた。

「コイツはこの『操虫棍』で操ってる相棒っス!」

「…操虫棍……?」

「知らないッスか? イズの兄貴にも知らないことがあるんスね!」

杖だと思っていた先端には刃が取り付けられており、確かに奇妙な形をした武器であることが窺えた。

「さぁ! どこまでも着いていくッスよ!」

「…もう勝手にしろ」

騒がしいバカだが、慣れたのか不思議と悪い気はしない。

長い付き合いになりそうな予感がした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


パーティーを組んで数分後。


「…あぁ、ところで俺はこれからとある難関クエストに向かうが、お前のHRはいくつだ?」


「え? 1っスけど?」

「…………」

「い、いや、俺まだ登録したばっかりで……」

「…ランクを上げてから出直してこい」

「そんなぁ!?」

「……………」


パーティーは早速一時解散した。



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楽太郎

Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
楽しんで読んでもらえたら幸いですね
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