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ご無沙汰しておりますm(__)m

最終話の完成が間近に迫っている今日この頃ですが、今回は時系列の更新について報告したいと思います。

更新内容は登場人物が誰といつ、出会っているか、前後の話との時間軸がどうなっているかを新たに書き加えました。

これにより当作品を更に理解していただけたら幸いです(`・ω・´)

また、本編中にも時間軸を分かりやすくする為の記述を足していく予定ですので、どうか『ガイドポストは龍の調べ』をこれからもよろしくお願いしますm(__)m


          【ガイドポストは龍の調べ 時系列】

また、第一章の最終話にてクシャルダオラとの対決の描写を追加しました。

           【ガイドポストは龍の調べ -鋼龍-】
正直、ショックだった。
あの時も、さっきだって……私はただ龍属性に拒否反応を起こしていただけだったのだ。
そんなこと、すぐに気付いてもおかしくなかったのに。

……単に認めたくなかっただけのかもしれない。
あの時の悪夢がまだ終わっていなかったなんて。
もしかしたら何かの拍子にまた―――。


「ふざけるな! アクアを利用なんかさせてたまるか!」

「――!?」

鋭い一喝が響いた。

「そうよ! 絶対に思い通りになんかさせないんだから! バルス、分かってるわね!」

「勿論。ふふふ……、ようやく本職を全う出来そうだ」


続いて放たれた二人の言葉。
皆の声で我に帰る。
そうだ、こんな所で戸惑ってる場合じゃない。
その覚悟はしてきたんだ。

「アクア、大丈夫だよ。前も言ったでしょ? 私がついてる。だから、安心して戦いな」

「ハンマーさん……」

「アクアちゃん、君に何があったかは分からない。けど今は自分を信じるんだ。僕も、君を信じる」

「あいつの言葉なんか気にしちゃ駄目だわ!」

「皆……ありがとうございます」



以前この場所に立った時は、不安な気持ちを一人で必死で抑えていた。
あの時、私が取った手段は恐らく……一番危険なことだったのだろう。

でもあの時の決断が間違っていたとは思えないし、思わない。
結果として私は目的を達成させることが出来たのだから。


――だからその代償がこれだと言うのなら私は喜んで受け止めてやる。

「マリアン! これ以上貴女の好きには絶対にさせません!」

太刀を強く握り、大きく声を張る。

「おや、もっとショックを受けるものだと思っていましたが……」

「挑発はもう聞き飽きました!」

マリアンの言葉を遮るように叫ぶ。
そう、全部受け止めた上で私を貫き通してやるんだ。

「これが最後の忠告です。大人しく武器を置いて投降してください」

「そんな馬鹿馬鹿しいこと言わないでくれませんか。貴女達はこれから蹂躙されるだけなんですよ?」

不敵に笑うマリアン。
片手に持った大剣に力が込められるが分かる。

「そうですか……」

言うだけのことは言った。
もう交渉の余地は無い。

「さぁ、茶番はもう終わらせましょう」

一歩、マリアンの足が前へと動いた。


「アクア、シャワ! 私とバルスが攻めるから二人は後援をお願い! ルシャを食い止めて!」

一番早く行動を起こしたのはハンマーさんだった。
バルスさんがすぐそれに反応し、私達が頷くのを合図に二人は勢いよく地面を蹴った。

「頼むよ、バルス」

「ああ、ケリを着けよう」

ハンマーさんは溜めのモーションに、バルスさんはランスを両手に持って中段横に構える。

それを見たマリアンは更に笑みを歪ませた。

「おやおや、わざわざ向かって来てくれるなんて……。ルシャ、貴女はアクアの確保を」

「……」

ルシャちゃんは無言で小さく頷くと、二本の双剣を取り出した。
霊峰で私たちを一瞬で行動不能にさせた猛毒の双剣。

今、どんな毒が塗られているかは検討もつかない。

「させないわよ!」

「――っ!」

ルシャちゃんが足を踏み出そうとした瞬間、一発の麻痺弾が彼女のすぐ横を通り抜けた。

――シャワちゃんだ。
この機を逃す訳にはいかない。

「やぁぁぁぁぁ!」

掛け声と共に飛び出し、九十九牙丸を袈裟懸けに振るう。

「うわっ!?」

まさか狙う相手が自ら向かって来るとは思わなかったのだろう。
虚を突かれた彼女は確実に反応が遅れていた。
太刀は彼女の首筋を的確に捉える。

「―――くっ!」

にもかかわらずルシャちゃんは強引に体を捻って紙一重でそれを避けたのだ。

(……やっぱり少し遅れた。でもこのタイミングでも外すなんて……)

心の中で舌打ちした後で、身体ごと素早く刀身を引く。

刀の向きは普段とは逆の峰打ちだった。








目的は『敵の無力化』。
これはここへ来るまでにハンマーさんが決めたことだ。

――殺す気で迫る相手にそんな甘いことを言ってると僕らが死ぬことになるよ?

それを聞いたバルスさんは歩みを止めて厳しい口調で言ったが、そんな彼にハンマーさんはニヤリと笑ってみせた。

――私達は戦場に兵士として行く訳じゃない。『ハンター』としていくんだ。そんなクエストは今まで何度もクリアしてきたでしょ?

一瞬ポカンとしたバルスさんだったが、すぐにククと笑って「了解」と呟いて槍から出る毒を抑える為の安全装置を掛け直したのだった。




ハンマーさんの提案は確かに私達の中に燻っていたものを取り除いてくれたが、それが今回の闘いのハードルを跳ね上げるのは言うまでもない。
現に今も刃先を反転させる僅かな隙を突かれて躱されたのだ。

少し離れた場所からも武器と武器がぶつかり合う音が聞こえてくる。
様子を窺う余裕は無いが、あちらも苦戦しているようだった。

「……くっ!」

向こうに少し気を取られていると、太刀を躱しながら繰り出したルシャちゃんの一撃が鼻先を通り過ぎた。
僅かに掠りでもしたら終わりなだけに、背筋に冷たいものが走る。

「……動かないでよ!」

シャワちゃんのボウガンが休むことなく狙い続けているのにも関わらず、彼女はそれを僅かな動作でギリギリに避けながら双剣を振るってくる。

「……っ、貴女はどうしてマリアンに荷担してるの!? こんなこと間違ってるのは分かってるでしょう!?」

そんなルシャちゃんの猛攻を防ぎながら、私は思わずそう語りかけていた。

「……うるさい!」

明らかに彼女の動きが鈍る。
太刀で彼女の両剣を受けながら私は更に続ける。

「……ルシャちゃんが本当は優しいこと、私は知ってるよ。だってそうじゃないと――」



そんな顔――しないでしょう?



「うるさいうるさいうるさい!!」

「うっ――!?」

怒声と共に少女とは思えないような力で太刀が押し込まれた。

「貴女に何が分かるって言うの!? 私もマリさんも、もう後が無いんだ!」

「後が無いってどういう―――」










「ルシャ、まだ遊んでいたんですか?」








背後から聞こえた凍るような声。

援護射撃はいつの間にか止んでいた。

「――っ!?」

ぞくりと首筋に悪寒が走る。
私は反射的に双剣を払い除け、後ろへと振り向いた。


しかし――


「遅いですよ」

「うっ――ぐぁっ!?」

すでに真横には勢いよく振られた大剣が迫っていたのだ。
構えた太刀が間に入ったお陰で直撃は免れたものの、衝撃で軽く十メートル以上は吹き飛ばされてしまった。
地面に勢いよく叩きつけられる。

「う……げほっ……っ!」

ディアブロスの尾槌でも喰らったのかと戸惑う程の威力だった。

起き上がることはおろか、呼吸すらまともに出来ない……体に力が入らない。
次第に全身に鈍い痛みが広がり始め、口の中に鉄の味が広がってくる。

遠くからそれを嘲笑うようにマリアンの声が聞こえてきた。

「おや、防ぎましたか……意外と粘りますね。でも、すぐに他の三人のようにしてあげますよ」

「!?」

言われて目を疑った。
霞む視界に映ったのは、マリアンの奥で武器を手放して倒れている人達。
それは紛れもなく頼りにしていた仲間達だった。

「威勢のいいことを言っていた割に、軽く撫でてあげたらあの様ですよ。残念なことに、まだ息はあるようですが」


――息はある。

しかしその言葉に安心などしている暇は無かった。
残り三メートルまでマリアンが迫っているのに、体は意に反して立ち上がる素振りさえすることが出来ないのだ。

「あの三人は貴女を楽にしてから……ゆっくりと弄んであげますよ」





あと二メートル。





「絶対……させない……!」

「その割には動こうともしませんね。いいんですか? 早く起きないと皆仲良く旅立つことになりますよ?」





あと一メートル。
それでも、身体は動かない。





「……っ…!」


悔しさと絶望に涙が込み上げてくる。
私たちが目指した結末はこんなものだったのか?
この日のために努力してきたことが無惨にも踏みしめられる……圧倒的な絶望がそこにはあった。
『勝利』が、思い描けない。

「さぁ、私の為に糧となりなさい」


「―――……っ!」








あと一歩。








「もう止めてよマリさん!!!」




悲痛な叫びが目の前で響いた。



「……ルシャ? 邪魔です。退きなさい」

「ルシャ……ちゃん?」


私の前に立ちはだかっていたのは、先程まで私と戦っていたはずの少女だった。

                                      ・・・・・
「……何で? 血は少しの量でもいいはずでしょ!? どうしてそんなに大剣を振り上げてるの!?」

ルシャちゃんの体は小さく震えていた。
それが怒りなのか恐怖なのかは分からない。

「貴女には関係無いことでしょう。一緒に切られたくなければ、すぐに退きなさい」

「おかしいよ、マリさん……! 二年前から……それよりも前から! その剣を持ってから、マリさん段々おかしくなってるよ!?」

「……私は昔から変わりませんよ。ただ目的の為に行動してきただけです」

「じゃあこれは!? 何で前みたいに使おうとしないの!?」

ルシャちゃんが背中から外して見せたのは年期の入ったリノプロヘルム。
あちこち何度も修復した跡が見られ、どこか懐古な雰囲気を思い起こされるものだった。




「何を言ってるんです?」


しかしマリアンはそれを一蹴し、訝しげに首を捻った。


「前にも言ったと思いますが、何故そんなものをまだ持っているんです? 邪魔なだけでしょう?」

「あっ!?」

そう言ってリノプロヘルムをルシャちゃんから取り上げ、遠くへと投げ捨てる。

瞬間、ルシャちゃんの表情が変わった。

「うあぁぁぁぁ!!」

叫び声と共に双剣をマリアンに向かって突きつけたのだ。

「!? 何をするんですルシャ!」

それを大剣で防ぎながらマリアンが叫んだ。
彼女には理由がまるで分かっていないようだった。

「お前はもうマリさんじゃない! 昔のマリさんを返せ!」

「――っ、馬鹿なこと言ってるんじゃありませんよ!」

「きゃ――っ!?」

ルシャちゃんが私の後ろまで吹き飛ばされた。
マリアンが双剣を大剣で振り払った後、彼女を強く蹴り上げたのだ。

「っ……マリ……さ……」

ルシャちゃんは一度呻いた後、糸が切れたように意識を失った。

「……全く、手間をかけさせます。さて、では今度こそ……――っ!?」

大剣を構え直そうとしたマリアンが突然顔色を変えて膝をついた。

「ルシャ……よくも……っ!!」

怒りの形相を私の向こうに向ける。
蹴りを食らう直前に双剣を掠らせたのだろう、マリアンの足には小さな切り傷がついていた。

「………くっ……あと……少し……で……」

塗られていたのは強烈な睡眠毒だったようだ。しばらく膝をついて耐えていたマリアンだったが、やがて力尽きたようにその場に倒れ込んだ。



「アクア! 大丈夫!?」

――その時である。
遠くからハンマーさんの声と足音が近づいてきたのだ。

「ハンマー……さん? どうして? 怪我は……?」

「今はアクアの方がよっぽど重傷だよ……。まずはこれを飲んで」

息を切らして駆け付けた彼女は、そう言ってポーチから回復薬を取り出し蓋を開けて飲ませてくれた。
私がゆっくりと飲み干すのを手伝いながら、悔しそうに顔を俯かせる。


「シャワが最後、私に回復弾を撃ってくれたんだ。……守れなくてごめん」

「大丈夫……ですよ、血は流してませんし。それに、ちゃんと……来てくれたんですから」

「結局、ルシャの助けを借りちゃったみたいだし……格好はつかないけどね」

ハンマーさんは少し困ったように笑う。

「そうだ……ハンマーさん、私はもう大丈夫ですからルシャちゃんの様子を見てくれませんか? 気を失ってるみたいなんです」

「うん、色々聞きたいこともあるし、ちょっと見て――」


「――危ないっ!!」



「……えっ!?」

気付いたら突き飛ばしていた。

立ち上がったハンマーさんの後ろに見えたのは、投げナイフを構えて起き上がっていたマリアンの姿。

「うぐっ……!」

ハンマーさんの急所を狙って放たれたそれは、私の肩に深々と突き刺さっていた。

「アクアっ!? な、何で庇ったりなんか……!」

「っ……ごめんなさい……思わず、体が動いて……」

肩が焼けるように痛む。
思わず意識を失いそうになったが、不気味な高笑いが私の意識を引き留めた。

「ふふ、ふふふ……あはははははは! 私が! この私が! 解毒剤を用意していないとでも思ったのですか!?」

「マリ……アン……!」


マリアンはまだ完全には回復していないようで、ガクガクと震えながら無理矢理に身体を起こしていた。
しかし眼だけがギラギラと怪しげに見開かれており、その様子はまさに狂気そのものだ。

「少し手間取りましたが、目的は達成されました」

「……っ!」


ハッと我に帰って肩の様子を見る。
私の肩から溢れ出た液体は、既に腕を伝って流れ始めていた。

止血しようと試みたが、すでに止められる量ではない。


「私が……油断したばっかりに……」

ハンマーさんが歯を食い縛って言う。

「私こそごめんなさい……。よく考えたら、ハンマーさんならあれくらい避けれましたよね……」

「馬鹿……買い被りすぎだよ」


少し潤んだ瞳で彼女は私を優しくたしなめた。






そして血はやがて指先へと届き、一滴の赤い雫が作られる――






――地面が、少し濡れた。







その瞬間。
私の血が落ちた地面から白い雷のような光が勢いよく溢れ出したのだ。


「地面が揺れてるっ……!?」

「ふふふ……あはははははっ!」

それはマリアンの高笑いと共鳴するかのように広がり、やがて塔全体に広がっていった。

「アクア……何が起こるか分からない! 応急処置だけでもしておこう」

「は、はい。お願いします!」

あまりの光景に呆気に取られていたが、ハンマーさんに促され私は慌てて肩の治療を彼女に託した。


「一体何が起きるっていうんですか……?」

「分からない……。でもまだ、終わった訳じゃ、ないはずだ。いや、終わらせちゃいけない!」

手当てを受けている間も光は広がっていく。
それは古塔だけに留まらず、やがて樹海を越えて更に遠くへと拡散し始めた。


「あははは! マリディア! 私が二年前何故アマツマガツチを討伐したか分かりますか?」

「……何だって?」

先程まで狂ったように笑っていたマリアンが唐突に語り始めた。
ハンマーさんは咄嗟に身構えたが、マリアンは眼に狂気を宿したまま話し続ける。

「まぁ、分かりませんよねぇ。仕方ありません、もっと前の話から教えてあげましょうか……私の属していた組織の名前は『赤衣』。赤衣は数十年以上前からこの日のための準備をしていました」

「準備……?」

痛みを堪えながら私は聞いた。
目的が達成できて満足しているのか、マリアンにしては異常に口が軽くなっている。
こうなってしまっては現状手遅れなのかもしれないけれど、もしかしたら彼女の話から突破口が見つかるかもしれない。

「ええ、彼らは大きな野望を持っていました。その準備として、古塔を中心とした大陸を血で染めようとしたのです」

大陸を血に……?
気球船から見た悲惨な景色がフラッシュバックする。


ふと、恐ろしい想像が頭を過った。



マリアンが口元に歪んだ笑みを浮かべて私たちに問いかける。

「ふふ……おかしいとは思いませんでしたか? 何故この大陸では両者に利益の無い紛争が長年続いていたのかを」

それを聞いたハンマーさんの髪が逆立つのが分かった。
自分の人生を滅茶苦茶にした紛争が意図して起こされたものだった……それを聞いて落ち着いていられるわけがない。

だけど、それを見て私は一つ引っ掛かったことがあった。

「マリアン……貴女だって赤衣のせいで紛争の被害にあっているはずです。何故、わざわざそんな組織に……?」

「おやおや、言わなくては分かりませんか? 私は―――」



「あの紛争が、本当にわざと引き起こされたものだって……言うのかい?」

その時、マリアンの言葉を遮るようにくぐもった声が響いた。

「おや、もう起き上がってきたのですか」

「バルスさん……シャワちゃん……」

バルスさんはシャワちゃんに肩を貸す形で立っていた。
ダメージはまだ残っているようで彼も槍を杖代わりとして使っている。

「そうですよ、バルス。それに貴方達が躍起になって終わらせた紛争はどのみち潮時でしたからね、むしろ手間が省けました」

「……フレア達には言えそうにないな。『それ』は」

恐ろしく低い声。
握られた槍に強い力が加わるのが分かる。

「ふざけないでよ……バルス達がどんな思いで争いを止めたと思って――……あっ!」

横にいたシャワちゃんが感情を露に声を上げたが、途中で脇腹を抑えて体を折り曲げた。

「シャワ……無理して話さなくていい」

「っ……だって……!」

状態は分からないが、かなり辛そうだ……今の状態ではボウガンの反動にも耐えられないだろう。

「我慢せずともすぐに楽にしてあげますよ。もう、他の血を流さないように手加減する必要もないのですからね」

「……やっぱり手加減してたのか。でもそう簡単にいくかな?」

「ええ。もうじき毒は完璧に中和されます」

そう言うとマリアンは体をゆっくりと起こし、大剣を持ち上げる。
言う通り、回復は間近に迫っていた。

「バルス! 二人で今の内にマリアンを……」

「もう遅いですよ、マリディア」

「――っ!?」


ハンマーさんがマリアンに攻撃を仕掛けようと踏み出した瞬間、彼女の喉元には大剣がピタリと突き立てれていた。

「いま殺しても構いません。が、それでは少し面白味がありませんね。貴女には折角のメインイベントを体験させたいんですよ」

「――そんなの体験して、たまるかっ!」

ハンマーさんは怒声と共に素早く大剣を蹴り上げ、再び黒鎚を振り被ろうとした。

「………あ」

が、一瞬上を見上げたかと思うとその動きをピタリと止めてしまったのだ。


「ハンマーさん一体どうし……!?」

続いて上を見上げて私も固まってしまった。

「おや、肝心の話をする前に始まってしまったようですね」



異変が起きていたのは先程まで黒い雷雲で満たされていた空。

「何ですか……あれ」

「あんなの見たこと無いわ……」

真っ黒に染まった空の中心に、更なる深淵を覗かせる巨大な穴がポッカリと開いていたのだ。

白い雷を激しく走らせながら、天に向かって渦巻く大穴。
それは今にも何かが現れそうで……絶望感と恐怖心を体の芯から込み上げさせるのに十分な光景だった。

「では始めましょうか」

あまりの光景に四人が言葉を失っている中、マリアンは両手を挙げて大声で叫び始める。

「各地で集めた多種多様の古龍の血液を振り撒き、最後に龍の加護を受けた娘の血をもって完成させたのは、偉大なる龍の祖の完全なる復活の狼煙! 今ここに破滅と想像を司る白き龍! 祖龍『ミラアンセス』の降臨を導く!」

「ミラアンセスだって!? 今だ誰も見たことのない……ギルドで隠蔽されていた黒龍と違って、完全にお伽噺に出てくる龍の名前だぞ……!」

バルスさんが信じられないといった様子で叫ぶ。

「で、でも……アンさんは言ってました。『龍は全部で三匹いる』って……『白龍』がここに現れるって!」

「ふん、い、今さら驚かないわよ……! 龍が一匹や二匹増えただけじゃない!」

「威勢がいいのもここまでです。さぁ、間もなく貴方達を絶望が襲うことなるでしょう」

「マリアン……お前、そんな龍を呼んで、自分だけは助かる見込みがあるっていうのか?」

「おや? 妹はこの姉が心配だとでも?」

「そんな訳ないだろ! 方法があるならそれを聞き出して切り抜けてやるって言ってるんだ!」

「残念ですが方法はありませんよ。私もろとも祖龍に世界を破壊してもらいます。それに、もしここから逃れられたとしても死期が少し伸びるだけですよ」

「ハンターを……舐めるなよ」

ハンマーさんの力強い眼差しがマリアンを射抜いていた。

「いくら祖龍が強くたってこの世にハンターはごまんといるんだ! 絶対にハンターが勝ってみせる!」

「……貴方は祖龍の力を知らないからそんなことを言えるのですよ。存在すら不安定な状態の祖龍が今まで一体この世にどれだけのことをもたらしてきたかが分かってるのですか?」



その時、上空から『何か』の気配が現れた。



「ハンマーさん! 来ます!!」

「!」




初めに見えたのは白く輝く二本の後足だった。
次に見えたのは長い蛇のような尻尾。



「え………?」


私は目を疑った。



だって続いて現れた引き締まった輝く胴体も、その上方から伸びた短めの前足も、私は『知っていた』から。


「そんな……なぜ……?」

マリアンの表情が青ざめていく。

「アクア……あれって……」

「……はい」


力強く羽ばたく両翼も、多数の角が連なって出来た白い角も『知っている』。
誰が忘れるものか――。



「……クシャルダオラ!!」



渦から降りてきたのは私が討伐したはずの両親の仇だった。
喉元に見える傷跡……間違いない。



「ギャォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」



クシャルダオラはあの時と同じ白い金属光沢を放ちながら、空中で高らかに咆哮を上げた。











「また……邪魔をするのですか!」

空中で咆哮する鋼龍を見るなり、マリアンが憎らしげに怒声を響かせた。

「邪魔……? あのクシャルダオラは貴女達に協力してたんじゃないの?」

シャワちゃんが私が思った事を先に口にしていた。

「協力? 逆ですよ……! 赤衣は私が入る前からあのクシャルダオラに計画の妨害を受けていたのです」

「じゃ、じゃあ古龍化事件は何のために起こしたって言うんですか! 古龍の血が必要だったからクシャルダオラにやらせたんじゃ!?」

私の言葉にマリアンは舌打ちをした。

「……それが逆だと言うんです。赤衣が必要としたのは『本物の古龍』から採れる古龍の血……奴はそれに気付いて紛い物を溢れさせたのです」

「そんな……」

「まぁ、もっとも……あのクシャルダオラもその力をコントロールするにはかなりの時間を要したみたいですがね。最初の頃は自らを制御出来ずに暴れまわっていたと当時の組織の記述に書かれていましたね。そしてある村に襲撃し、ハンターを死傷させた後に姿を眩ませた、と」

「まさか……その村って……ハンターって……」




聞きたくない、反射的にそう思ってしまった。
しかしマリアンは躊躇いもなく口を開く。




「そう、ユクモ村の貴女の両親ですよ。貴女は暴走していたクシャルダオラの力に当てられた唯一の人間なのです。そして、クシャルダオラはその一件の後、古龍化事件――恐らく自分の力を制御出来るまでの間、その姿を隠した……そう当時の組織の記述に書かれていました」


クシャルダオラは好きで暴れていた訳ではなかった。赤衣と、マリアンの野望と戦うために取った行動による事故だったのだ。


「………」

その真相を知らされても、両親が殺されたことは事実。
私はまだ割り切れないでいた。


当のクシャルダオラを見上げると、私たちの様子を窺うように空中で羽ばたいているままだ。


「そして私は、その当時の記録、古龍化事件の最中のクシャルダオラの様子を観察している内にあることに気付いたのです」

マリアンが上空の鋼龍を見据えながら言った。




「クシャルダオラは貴女に罪滅ぼしをしたがっていたのだとね」





「え………?」


でもクシャルダオラは私を襲って……


信じられないといった顔を私が浮かべている中、マリアンは私とクシャルダオラを交互に睨みながら話を続けた。

「アクア、貴女は危険な目に逢いながらも奇跡的に助かってきましたよね? でもよく考えてください、あり得ますか? ラージャンに襲われた時、あのタイミングで『古龍化したディアブロスが突っ込んで来る』なんて。エスピナスが『貴女以外のハンターだけを排除したこと』を不思議に思いませんでしたか?」

「それ……は……」

上手く言葉が出せない。

そんな……それって……まさか……

「どうやら気付いたようですね。アクア、クシャルダオラは『貴女に殺されるため』に、古龍化したモンスターを操り、貴女を誘導していたのですよ」

古龍化事件という赤衣への妨害の中に紛れ込ませてね、そう言ってマリアンは憎々しげにクシャルダオラを再び睨む。

「私からすれば茶番のようでしたが、厄介なクシャルダオラを確実に倒せるチャンスだったので敢えて行動を起こさずに結末を見届けたのです――おや、喋らせるだけ喋らせたらもう用済みですか?」

マリアンの口から次々と出てくる衝撃の事実に頭の整理が出来ないでいると、いつの間にかクシャルダオラがマリアンの目の前に降り立っていた。

鋼龍は私に背を向けるように立っており、敵意は完全にマリアンに向かっている。

「………ヴゥゥゥ」

クシャルダオラがマリアンに向かって唸り声を上げた。

「きゃっ!?」

途端、嵐の様な雨風が吹き始め、クシャルダオラの周りを風の鎧が纏い始める。

「クシャルダオラ……あなた……」

私はマリアンの話が本当だったのだと確信した。




だって私と戦った時、クシャルダオラは風の鎧どころか嵐さえ呼んでいなかったのだから。





あまりの緊張にそんな余裕は無かったのかもしれないが、鋼龍とハンターが対峙した時に静寂が訪れることなんて有り得ないのだ。
そんなことにも気付かないで私は敵討ちのことばかり考えて、復讐を果たした後でも恨み続けていたなんて………。



「ごめんなさい……ごめんなさい……!」


自然と涙が零れ落ちる。

当の古龍はそれを知ってか知らずか、マリアンと戦い続けていた。

「折角の祖龍復活の力を利用して……! すぐにその首を叩き切って再び祖龍を復活させる!」

マリアンが怒りのままにアルレボを振るうが、クシャルダオラはそれを軽々と躱しながら風のブレスを吐き、彼女に主導権を握らせない。

「何故避けられる……! 私は古龍も凌駕する龍殺しの力を得たはずなのに!」

凄まじい気迫の中、ぶつかり合う二者を私たちは見ることしか出来なかった。
出来ることなら手助けしたかったが、体に力が入らない。

「アクア……今はクシャルダオラに託すんだ」

「ハンターさん……」

「あいつはきっと自分一匹分の命じゃ自分の罪を償えないって、ずっと思ってたんだ。じゃなきゃこのタイミングで私たちを助けに来ないって」

「そんな……もう十分なのに……!」

「本当に後悔した時、本当に償いたいって思った時ってさ……どこまでやってもまだ足りないって感じるんだよね。それが取り返しのつかないものであるほど……さ」

ハンマーさんは少し寂しそうな顔をしていた。

「……私には分からないです、その気持ち」

「分からない方が幸せだよ。……でもいつか分からなきゃいけない時が来るかもしれない――その時はもう後悔しないように全力で向かうしかないんだ」

「……ハンマーさんは一体何を後悔したんですか?」

思わずそう聞いてしまった。

「うん? 私が後悔なんかするはずないでしょ。これは受け売り、受け売り」



しかしハンマーさんはおどけたように笑って見せる。



「……嘘つき」



「――アクアちゃん! クシャルダオラが!」

バルスさんの声にハッとして視線を戻すと、クシャルダオラの周りに白い稲妻が落ち始めていた。

「雷……?」

「師匠が言ってたわ……あの白い雷は――祖龍の雷よ」

シャワちゃんが何時もより弱々しい声で言った。

「私も聞いたことあるな。白い稲妻には昔から不思議な力があるって言い伝え」

「白い稲妻……か」

バルスさんがそう呟く最中、まばらに落ちていた雷に変化が起きた。

「くっ……! 何です……これはっ!!」

白い稲妻がまるで生き物のようにマリアンの周りに纏わり始めている。



やがて白い稲妻は集まり、大きさを増していき――



「ぐ……あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




激しい音と叫びの中。
一本の巨大な雷が禍々しい紫の大剣を真っ二つに砕き割った。




「あ……あぁ……」

力の抜けたようにマリアンはガックリと膝を着く。

クシャルダオラはそんなマリアンをじっと見据え動こうとしない。
先程まで痛いほどに吹き荒れていた嵐は、もう止んでいた。


「あ、あれ!」

私は驚いたように声を上げた。
割れた大剣から、マリアンの身に付けている鎧から紫色の煙が立ち上ったのだ。


「………!」


そのまま上空に昇っていこうとする禍々しい煙に向かってクシャルダオラが風のブレスを見舞う。
すると煙はすうっと色を無くし、やがて消えて見えなくなった。


「――マリさん!!!」


その途端、私の横を赤いものが通り過ぎた。

「マリさん、マリさん! 大丈夫!?」

「ル……シャ………?」

「良かった……マリさん、もう大丈夫だよね?」

マリアンは呆けたようにルシャの顔を見上げている。
身に付けている鎧や大剣からは禍々しい紫色は消えており、灰のような白色に変わっていた。
『戦い』は終わったのだ。

「あ……あぁ……私……とんでもないことを………!」

マリアンは顔色を蒼白にして項垂れる。
どうやら今までの記憶は残っているようだ。

クシャルダオラはそれを見届けると勢いよく空へと飛び上がった。
そして火山の方角へと飛び立っていった。

「一体何をしに……」

「……」

その時、横にいたハンマーさんがマリアンに向かって歩き始めた。

「ハンマーさ……」

まさかと思って止めようとした私だったが、ハンマーさんの横顔を見て止めた。

「マリアン……」

ハンマーさんがマリアンの前で立ち止まる。

「マリディア……私は人間として、侵してはならない罪をしました。……好きにしなさい」

「だ、ダメだよマリさん! せっかく大剣の変な力が無くなったのに! ……絶対にさせるか!」

「いいんです、ルシャ」

ルシャが立ち塞がろうとするのをマリアンが止めた。

「だって……そしたら……!」

「ルシャは私が仕出かした事を許してくれるのかもしれませんが……殺されかけたマリディアが許す訳がありません」

「マリアン……私は憎んでなんかない」

「え……?」

マリアンが驚いたように瞳を広げた。

「大剣の事もあるけど……元々、あの時私たちが逃げ遅れたのは私のせいだったんでしょ? それに、私とマリアン……どっちがどっちの道に進んでもおかしくなかったんだ。きっと私が同じ立場になったら同じようなことをしたと思う」

「マリディア……」

「でも私はこっちの道に進めたことを感謝してる。沢山の仲間に出会えて素敵な体験が出来たことを、感謝してる。こっちの道に進ませてくれたマリアンに、姉貴に感謝してる」


――だから、とハンマーさんは思いがけない行動に出た。

「私も最後のけじめってやつを着けないとね」

そう言ってマリアンの横へ手を伸ばし、あるものを拾い上げた。

「これが祖龍を呼び出すために使った媒介だよね? ……アンさんの言ってた通りだ」

それは古く風化した、白い一本の角。

「貴女何を……まさか!」

マリアンの顔に見る見る焦りが浮かぶ。

ニヤリと笑ってくるりと踵を返すと、ハンマーさんは私たちの元へと走り出した。

「やめなさい! マリディア――!!!」

マリアンの必死な声が響くが、それでも彼女は足を止めない。

そして驚いてる私の横を通り過ぎる時、ハンマーさんが申し訳なさそうに小さく呟いた。

「……アクア、ごめんね」

「………!!」


ハンマーさんが何をしようとしてるのか、私は今やっと理解した。


だがその時には既に、ハンマーさんはバルスさんの頭に祖龍の角を突き立てた後であった。

「ば、バル……きゃっ!?」

白く眩しい光と共に、どんなに叩いても壊れなかったスカルフェイスにヒビが入り崩れ始める。

突然の行動に驚いて頭を抑えたバルスさんだったが、やがて全てを理解したように呟いた。





「僕は……そうか。ハンマー……君ってやつは……本当に……」


「……悪いね、またさよならだ」



同じように白い光に包まれ始めたハンマーさんは照れ臭そうに笑った後、皆に聞こえるように大きな声で言った。









「皆、楽しかったよ!」







光が消えると同時に、ズシンという重量感のある音を立てて、大鎚だけが地面へと落ちる。



「あ…………」



それ以外に何も残っていなかった。
まるで初めから存在していなかったように。










「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!」









声にならない私の叫びが、塔に木霊した。































◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇












「寒……もう朝かぁ」




――あれからどれくらいの月日が経ったでしょうか。

あの後、クシャルダオラは火山とシュレイドにいた黒龍達を連れて空へと消えていきました。



「お茶でも淹れようかな」


私はポッケ村に正式に移住し、専属ハンターとして村を守る日々を続けています。


他の皆もバラバラになり、それぞれの道を歩んでいますが、手紙が毎月送られてくるので退屈はしていません。




シャワちゃんは家の規模を着実に拡大中。
昔のように反感を買うどころか、イーゼンブルグ家が率先して交易の輪を広げているお陰でドンドルマの発展が急速に進んでいるくらいです。
次は旅のキャラバンにバルスさんを派遣し、他の街と交流させて更に進出させるんだと意気込んでいました。




バルスさんはギルドナイトを辞めて、本格的にフリーのハンターに。
旅を続けながら今まで培った人脈を広め、シャワちゃんの交易の助けをしているそうです。
相変わらず皆には素顔は見せませんが、その話をした時にシャワちゃんが一瞬得意気な顔をしていたのが少し、いやかなり気になります。
前に会った時、シャワちゃんの頼みで旅のキャラバンに同行し新たな地へと旅立つことになって、皆(特にシャワちゃん)に会えなくなるのが寂しいとのろけていたので思わず太刀の柄で叩いたら……何故か喜んでいました。
私を慰めに来てくれたことは分かっていますが、もう少しマシなことは出来なかったのかとちょっと残念な気持ちになったことを覚えています。




チョモさんとフレアさんは今も騒がしくギルドナイトの仕事をこなしています。一月前にチョモさんから『本人の了解無しでも籍を入れることが出来ないだろうか』と言う相談の手紙を貰ったまま放置していますが、多分問題無いでしょう。



ヨルヴァ君とモモさん、そしてハルクさんは今も三人で元気一杯に狩りを続けているようで、噂は遠く離れたここまで聞こえてきます。
……何やら様々な問題も起こしているようですが、それを含めても彼らの活躍には元気を貰っています。
モモさんからの相談の手紙も最近はかなり落ち着いてきたので、リーダーとしてしっかりと二人をまとめているのだと思います。




アンさんは現在消息不明。イズさんが言うには「またどこかに放浪中」だそうで。
そういうイズさんもなかなか連絡が取れませんが、今もきっと寒冷地を探索してるに違いありません。




マリアンとルシャちゃんはあの後の混乱の最中、いつの間にか姿を消していました。
大きなイャンクックが飛び去るのを見たとシャワちゃんが言っていたので、恐らくは空に。




「……皆満喫してるなぁ」

雪山草のお茶を啜りながら私は少しため息をつく。
お茶で暖められた白い吐息は部屋の上まで立ち上ぼり、やがて消えた。

別に今の生活に不満がある訳じゃない。
ただ少し、「私達」の家が広く感じるだけ。
ユクモに行く際、ここのアイルー達にはしばらくの休暇をあげたままなので、本当に今ここに住んでいるのは私だけだ。


「うわ、またこんなに積もってる……これはお昼までかかるかなぁ?」


それでも寒冷期が近付く雪山には毎晩のように大雪が降るため、毎朝の雪降ろしや道作りで寂しがる暇なんかは無いのだ。



「………」



何時か、扉を開けてあの人が元気に帰って来るんじゃないかと期待していた時期も、とっくに過ぎて。
それでも広すぎる家の掃除を欠かせない、未練がましい心が私をこの場所に繋ぎ止めている。



「いっそまたユクモに戻って私の家に住みなおそうかな……ってどっちの村長さんにも『落ち着きがないっ!』って怒られちゃうか」

あはは、と一人で軽く笑ってお茶を一口啜る。
いつもは優しく感じる雪村の静けさも、今日は何故か冷たい。


「……さてと、まずはこの家の雪を降ろしちゃうか。無駄に大きい分積もる量も半端じゃないし」

もし家が潰れたりしたら怒られちゃうならなぁ、そう言って私は苦笑する。


誰に?

どうして?


そんなことを聞いてくる相手も、ここにはいない。

「よいしょ……」

少し錆び付いたスコップを片手に家のドアを開ける。

上に登るための梯子、埋まってなければいいけど……。



外に出た時、私の目に映ったのは晴れ渡る青い晴天と、一面に広がる雪の二色のみ。


「……やっぱり埋まってたか。屋根の雪は凄い盛り上がってるし……つついたら屋根から落ちてきそう」

そんなことを言いながらも何とか梯子を掘り出して屋根へと架ける。
屋根からの景色は白と青に、冬越えする木々の緑色が加わっていた。

「私が初め来たときもこの位降ってたなぁ……」

思い出して少し楽しくなり、少し辛くなる。
ついこの間まではポッケ村に来たばかり新人だった気がする。
だけど、もうあれは何年も前の話なのだ。

「ここから始まって、また帰ってきて……次はどうなるのかなぁ」

頭の中でささやかなイメージを膨らませながら暇を潰し、黙々と雪を下に落としていく。
落とす分には気持ちがいいけど、落とした分後で片付けなければならないので気分は重くなる一方だ。






「足音……?」



そんなこんなで30分は作業をしていただろうか。
遠くから新雪を踏みしめる音が聞こえてきた。

「また村長さんが差し入れでも持ってきたのかな?」

そう思い、私は屋根の上からひょいと下を覗いたのだ。



















――嘘。














「やっほー! ……そこにいるのはもしかして、最近暗いって噂のハンターさんかい?」







あの時と位置は逆だけど、変わらない台詞、声が私の耳に届いた。







「あ………」










眩しい位に明るく悪戯っぽい笑顔。
私の心を一瞬で晴らしてくれる透き通った声。
桃色のふんわりした髪に、少し色の変わった見慣れた防具。
そして背中に背負っているのは大きな―――







「……ハンマー………さん……?」







「……ただいま!」






懐かしい彼女の姿。
冷えてしまっていた心に再び温もりが戻っていく。



真っ白な景色の中、桃色に咲いた一輪の花を。
その光景を私は一生忘れはしないだろう。













「お帰りなさいっ!!!」












私は屋根からスコップを片手に、手を振るあの人の元へ勢いよく飛び降りていた。



「ちょっと! 危ないよっ!」


「これくらいでいいんですよっ!」



お互いにちょっと涙ぐんだ顔で笑い合う。


また、新しい旅が始まるんだ。



私はその笑顔を見てそう思った。



――今度は目的も道標のない、気ままで自由な本当の旅が。






【ガイドポストは龍の調べ】 END,
………◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





赤い大きな『友達』の背に乗りながら、私は迷っていた。


「……ねぇ、マリさん」

そして、決心して私は帰ってきた『親友』に声をかける。

「何です? ルシャ」


返ってきたのは前のように冷たい声ではなく、昔のように柔らかな物腰で声。
それは懐かしく、嬉しく思う。


――だからこそ、なのだけど。

「あのさ、これ……なんだけど」

正直、少し緊張した。
ゆっくりと背中から『例のもの』を手に取り、彼女へと見せる。


「それ……拾ってきてくれたんですね」

先程より少し低い声。
そこから彼女の心意を窺うことは、少し難しい。

「マリさん……またこれ、つけてくれる?」

おずおずとした声で、勇気を振り絞って訊ねる。
声がちゃんと出ているか、自信はなかった。


――何を言ってるんですか。

「!」

そんな声が返って来たので思わず目を瞑ってしまった。

怒られる……?

しかしマリさんは私の手から優しく『それ』を受け取って、不思議そうな顔でニッコリと微笑んだのだ。

「クマちゃん、可愛いじゃありませんか」

「あ……」

――あの時と同じ台詞に、もっと優しい笑顔。

色々な感情が混ざり合って、目頭がかぁっと一気に熱くなる。

「マリさぁぁぁん! うわぁぁぁぁぁぁん!」

「おやおや、そんな泣き虫に育てた覚えはありませんよ?」

呆れたように微笑むと、泣きじゃくる私をマリさんは優しく抱き寄せてくれた。







「心配かけてご免なさいね。でもね、ルシャ……私はこれから償いのために生きなくてはなりません。まずはこの貰った命で、あの優しい妹を助けるために」

そのままの格好でしばらく経った頃、マリさんは私の顔をじっと見ながら真面目な顔でそう言った。

「……うん」


そして伏し目がちにこう続けた。

「……また手伝ってくれますか?」

「うん!」

当たり前だよ、と私はとびっきりの笑顔で答えて見せた。



「マリディア……私もこの道でこの子を得たことを、誇りに思いますよ」

マリさんは私に聞こえない声で呟くと、リノプロヘルムを深々と被る。

「うん、やっぱり似合ってるね。でもどうして今被るの?」


マリさんはしばらく黙った後、くぐもった声で言った。

「……風が少し、目にしみるからですよ」

「……?」


首を傾げた私の頭に付けられた、クックファーの髪飾りが風でふわりと揺れる。


「クエェェェェェェェ!」

二人を乗せたイャンクックは鳴き声を響かせながら雲の中へと吸い込まれていった。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





一年?
いや、二年だろうか?

少なくとも私には何十年にも感じた日々の末、あの人は帰ってきた。
あの時と同じ年齢のまま、まるで時が止まっていたかのように。



「――ということはマリアン……さんがハンマーさんを助けてくれたんですか?」

「どうやらそうみたい。気が付いたら塔の最上階にいてね、マリアンがルシャと一緒に私の前にいたんだ」

泣いたり怒ったり笑ったり、待たされた分の感情を思いっきりぶつけた後で。
私はハンマーさんを質問攻めにしていた。


「また何か難しいことをしたみたいなんだけど、何も言わずにそっぽ向いて帰っちゃってさ。……何かルシャが途中ニヤニヤしながらマリアンに叩かれてたけども」

あの人がそんなことを……今回ばかりは彼女に感謝しないといけないな。

「装備の色も変わってますけど……それは?」

「あぁ、これはね」

ハンマーさんが悪戯っぽい色を瞳に浮かばせる。
彼女のナルガX装備は以前の黒色ではなく、あのクシャルダオラのような純白に変わっていた。

「二人が帰った後、私も流石に混乱しててね。一人で状況を整理をしてたんだけど、その途中で色が白くて時々消える変なナルガクルガに襲われたんだよ――まぁ、返り討ちにしたんだけど。それで倒したナルガの素材を立ち寄った街で丸ごと加工して貰ったってわけ」

「そんなナルガクルガがいたんですか……」

ていうか遂に丸ごと持ち帰っちゃったんだ。
加工屋さんもさぞかし驚いただろう。

「その辺で私が知らない内に二年も経ってるって知ってさ、慌ててアクアを探しに行ったの」

「そうだったんですか……」

考えれば、分からないことだらけだ。
ハンマーさんがまた戻って来れた訳や祖龍の事……あのクシャルダオラの事だって、はっきりとしたことは分からないのだから。

「……世界はまだまだ広いってことですね」

ポツリ、そう呟いた。

「そう、私もそう思ったんだ!」

するとハンマーさんはその言葉に反応するかのように興奮したように身を乗り出した。

「思えばさ、アクアと出会ってからだよ。毎日があんなに楽しくなったのはさ。アクアの不思議な力にビックリして、一緒に古龍化事件や黒龍騒動やら不思議な事にも一杯出会って、それに仲間も沢山出来た。そりゃあ、しんどい時もあったけどそれ以上に私はこれ以上無いって位楽しかった」

――だからね、と言いながらハンマーさんは私から少し目を逸らした。

「帰ってきて早々なんだけど……また一緒に旅に出たいなって思っちゃったんだ」

ダメかな?
ハンマーさんが少し申し訳なさそうな顔をする。

「何言ってるんですか。ハンマーさんが一ヶ所に留まってられる人じゃないこと位分かってますよ」

「うぐ……」

「全くもう! 何のために今まで待ってたと思ってるんですか! 本当に昔から変なとこで遠慮しますよね、ハンマーさんは!」

怒ったふりをして私はそっぽを向く。
また少し泣きそうだった。

「ありがとね」

「代わりに、次どっか行ったら承知しませんからね! はぐれたらすぐ置いてくんですから!」

「ぜ、善処します……」

初めて会ったときから五年。
また同じ場所に立って。


「改めて、また宜しくね! アクア!」

「こちらこそ。宜しくお願いします、ハンマーさん!」

二人は再び強く握手を交わした。





「じゃあ今度は何処に行こうか?」

「もう旅の話ですか? ハンマーさんったら本当にせっかちなんだから……そうですねぇ―――――」



これから先に、一体どんな世界が待っているんだろうか。
日々広がっていく世界に向けて、私たちは何処までも足を進めていこう。


どんな人達が。
どんなモンスターが。
どんな土地が。


どんな冒険が。


一杯のワクワクがこの先に待っているんだ。




そんなことを考えながら。

後ろを追っかけてばかりだった人の横に並んで、私は歩んでいく。




END.
――この物語はアクアがまだポッケに旅立つ前、古龍の力に抗わず、受け入れてしまった場合の、あくまでも仮定の物語である。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「それ」は生まれた時から孤独だった



白い龍は我が子を見るように言った



一人は寂しいか



「それ」は頷かず、ゆっくりと龍の眼を見る



――龍達は静かに眠った





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



フラヒヤ山脈近くにある雪山の懐に抱かれた村――ポッケ村は、穏やかで美しい村の雰囲気と雪山の気候の過酷さを兼ね揃えており、温泉まで存在する。
そんな村に魅了されてやって来るハンターの数は少なくない。

「……ここがポッケ村、か」

そう言って、短めの青いポニーテールを左右に揺らした彼女――アクアもまた、その噂を聞き付けてやって来たハンターの一人だった。

容姿は女性と呼ぶには少し幼さが残っており、ユクモノ一式と、ユクモノ太刀という装備からユクモ村の出身だということが窺える。
しかしその瞳には年に合わない冷たく無機質な色が浮かんでいた。

「……」

吐く息が白い。
登山中から感じていたが、麓よりも気温が大分下がっていた。
そして昨晩から大量の雪が降ったのだろう、村に続く道は足跡以外にそれを示すものが無い程の積り具合だ。
足元を踏みしめるだけでギリリ、と雪が固められる独特の音が静かに響く。

「……まずは村長に挨拶しないといけないか」

少し気だるそうに呟いた後、アクアは村人に案内をさせて大きなマカライトの岩へと向って行った。



「貴女が村長ですか?」

「…………」

岩の前で焚き火にあたっていた小柄な老人に声を掛けるも、なぜか反応が無い。


「……ねぇ、声掛けてるんですけど」

苛立たしげにもう一度言う。

「んん? おぉ、すまぬすまぬ、最近耳が遠くてのぉ」

そういうと老人――村長はゆっくりとこちらに顔を向けた。
傍から見ればただの老人だが、しわだらけの顔の奥には聡明な瞳が凛と光っている。

「……で誰じゃったかの? 雑貨屋の娘じゃったか?」

どうやら気のせいだったようだ。

「……新しくハンターとして村に来たアクアといいます。一応、挨拶に」

「おぉおぉ、そうじゃったそうじゃった。ギルドからの手紙を受け取っておったわ。確かユクモの子だったの? 向こうの温泉はまぁずいぶんと体にいいと聞くに……」

「すみません、急いでいるので話はまた今度」

「そうか。あい、悪かったのぅ。何かわしに聞きたいことがあったらまた声をかけとくれ」

素っ気なく会話を切ったのだが、気にした様子もなくにこやかに笑いかけてくる。
食えない老人だ、そう思って立ち去ろうとしたアクアだったが、あることを思い出して再び振り返った。

「そういえば、この村にはもう一人専属のハンターがいると聞いてましたが、その人は何処に?」





村長との話を済ませた後、アクアは村の中を一人歩いていた。
ユクモとは違い、昼間でもずいぶんと冷え込む。

「……この辺りのはずだけど」


――そう呟いた時である。



「やっほー! そこのキミ! もしかして新しく来たって噂の……うわぁぁっ!?」

急に頭上から声を掛けられ、驚いたアクアは咄嗟に忍ばせていた投げナイフを繰り出していた。

「……あっぶなぁ!? 何してくれんのさ!?」

またも頭上から怒りの声が聞こえてきたが、無視してアクアは身構える。

避けられた……?
さっきも気配を感じることが出来なかった。
あいつ……強い。

「もう怒った! ちょっとそこで待ってろ!」

言うなり屋根上の人物は「とぅっ!」という掛け声と共に飛び降りて来た。
アクアは背中の太刀に手を掛け、素早く抜き放つ。

「よいしょ……ってうわぁぁぁ!?」

降りてきたのは女だった。
ズシン、という見かけに合わない、重量感のある着地音を立てて着地したところを間髪入れずに斬りかかる。
しかし、彼女は素早い身のこなしで手に持っていたスコップを突き出してアクアの攻撃を防いでみせた。

「なっ……!?」

「ちょっとちょっと! 村の中で人に向かって武器振り回すって何考えてるのさ!?」

スコップの女は呆れたように言う。
確かに、驚いたとは言え流石にやり過ぎたか。

「……ごめんなさい、つい」

「まぁ、私だったから良かったけどさ……」

アクアから殺気が消えたのを見て、彼女はふぅ、とため息をついてから雪下ろし用に使っていたのであろうスコップを地面に差した。

アクアよりも少し年上に見える彼女の髪型は桃色のブナハスレイヤー。急に斬り掛かられて気分を害したのか、むすっとした表情を浮かべている。

「その武器や防具を見れば間違いないみたいだね。アンタが新しく来たハンターか」

「そう言う貴女がこの村の専属ハンターですか」

「そう、名前はハンマー」

「……変な名前」

思わず口にしていた。

というのも着地音の原因が彼女の背負う巨大なハンマーであり、名前も同じハンマーだったからだ。

「まぁ、そう思われてもしょうがないよね。……でも、私の大事な名前なの」

少し凄みの混じった声だった。どうやら名前に関してはとやかく言わない方が良さそうだ。

「私はアクア。この村の二人目の専属ハンターになるけど、馴れ合うつもりはありませんから」

「……でもこれは一応仕事だからね。普段はどうこう言うつもりはないけど、協力すべき所はしてもらうよ」

「……何故貴女は私が来ることを許可したんですか?」

本来、一つの村に専属ハンターは一人しか要らない。要らないし、入れないのだ。

小さな村には二人のハンターを受け入れる余裕も無いし、ギルドだって殆ど認めない。
専属ハンターだってよっぽどのことがない限り仕事を減らされることを快くは思わないはずだ。

しかし、ハンマーはあっけらかんとした顔をして答えた。

「え、そりゃ村長の頼みだし、もし可愛い後輩が出来れば楽しいかなぁって思ってさ。……まぁいきなり襲われるとは思わなかったけど」

「甘い考えですね。それに、頭上に気配を消して立たれれば、誰だって驚きますよ」

「そんなもんかな?」

「私にとってはね」

「ふぅむ」

ハンマーは少しだけ頭を捻ったが、すぐに気を取り直した。

「とにかくさ、一回だけ簡単なクエストに行こう。適応調査だよ、これちゃんと出来なかったら家貸してあげないから」

それは困る、とアクアは唸った。
しかし、村長の話を聞く限りアクアの住居に関してはこのハンマーという女が全件を握っているらしい。

「……分かりました。要はクエストを達成すればいいんですよね」

クエスト。
ハンターがギルドを通して受ける依頼の通称。
これから行動を共にする、初対面のハンター同士ならまずは簡単なものに誘って相性を確かめるものだ。

なら――。

アクアの口元がニヤリと歪んだ。

「ん? どうしたの?」

「いえ。早く行きましょう」

「おっけー。ならギルドに向かおうか」

「はい……」

ハンマーの後ろを歩きながら、アクアは怪しげな笑みを終始浮かべていた。





「んんー! いつ見ても綺麗な浜辺!」

アクアとハンマーはクエストのために密林と呼ばれる狩り場に来ていた。
その入り口である浜辺の壮大さにアクアは少し関心を示す。

「……ふぅん、いいとこですね。さ、ハンマー。先を急ぎましょう」

「あ、待って! そっちは……」

すぐに隣のエリアへ向かい始めたアクア。
止めようとしたハンマーだったが、聞く様子がないので慌てて着いていく。


(ま、少し驚けば面白いかも)

密林の砂浜にはヤオザミという凶暴な甲殻種が潜んでいるのだ。
砂の中に潜んでおり、経験を積んだハンターだって奴等の奇襲を避けるのはかなり難しい。


―――しかし。

「……ふっ!」

ハンマーが駆けつけた時には、アクアは三匹いたヤオザミの最後の一匹を仕留める瞬間であった。

勿論、無傷。
汚れ一つ、付いていない。
太刀についた青い血を一振りで払うと、アクアはゆっくりと太刀を背に戻した。

「……さすが上位ハンターだけあるね。心配する必要なかったか」

「当たり前です。それにハンマー、貴女わざと教えませんでしたね? 」

「いや、アクアが聞く前に先に行くから……」

「G級ハンターが上位ハンターに言い訳ですか?」

「ぐぅ……ていうか何で知って……」

確かにやましい気持ちはあったかもしれないけれど、一方的に責められるのも納得いかない。

ここは一つ年上の威厳を示そうかと思った瞬間、アクアの手がハンマーの顔面に迫っていた。

「!?」

驚いて体を仰け反らせるが、アクアが手に何かを持っているのに気が付いた。

「ザザミソ、貴女も食べませんか?」

「いや……でもザザミソは精算アイテムだし」

「バレなきゃこの位、平気ですよ。ハンターの特権でしょ」

「確かにね……まぁ今回は貰っておこうか」

今、アクアとの友好関係を遮るようなことはしない方がいい。
そう考えてのことだったが、確かに新鮮なヤオザミの味はいつも酒場で頼むものよりも味が深い気がした。

「……うまい」

「でしょう。いきなり襲った分はこれでチャラですね」

「……」

貴女と貸し借りなんかしたくありませんから、と続けるアクア。
しまった、と思ったがまだ遅くはない。

「クエスト終わったらすぐに酒場に行こうか。酒場にはザザミソの他にも沢山美味しいものがあるし……奢るよ?」

「……本当ですか?」

食い付いた。
こういう所はまだ年相応のようだ。

「なら私が『あれ』仕留めますよ、それで酒場の分も貸し借り無しで」

そう言われてハンマーはハッと上空を見た。

「……丁度来ましたね。この地方のハンターの登竜門だという、雑魚が」

赤い体に黄色のくちばし。そして特徴である巨大な耳。

「クエェェェェ!」

【怪鳥】――イャンクックが土煙を上げながら二人の前に降り立った。

「コココココ……」

イャンクックは早くもこちらに気付いているようで、喉を鳴らして威嚇している。

「じゃあ、私に任せてください」

アクアがいきなりイャンクックに向かおうとするのでハンマーは慌てて止めた。

「ちょっと待ってよ! これはあくまでも適応調査なの! 一人でやっても意味ないんだよ」

「なら援護をお願いします。相手を観察するっていう援護を。それで『二人』でしょう? ていうか邪魔……しないでくれます?」

「……っ!」

あまりに冷たい言葉にハンマーは何も言い返せなかった。

「大丈夫ですよ――すぐに済みますから」

アクアがそう言って太刀に手を掛けた瞬間、時は凍りついた。


嗤っているのは、少女一人。




【クエストが完了しました】





「あ………」

「どうです? すぐに終わったでしょう?」

「!」

帰って来たアクアの返り血に染まって姿を見て、やっとハンマーは我に返った。

少女とは思えない動きと力。
イャンクックは断末魔さえ上げる間もなく事切れていた。
まさに雪の様に無音で。
そして半月のごとき斬撃の中にかろうじて見えたのは―――真っ赤に咲き乱れた花。


「…………」


もはや同じ人間のなせる技とは思えなかった。
再び太刀にこびり付いた血を振り払うアクアの様子に、異常な程の寒気さえ覚える。


「……!」


思わず、一歩下がってしまった。


「あれ? G級ハンターが何をそんなに驚いてるんです?」


動揺の隠せないハンマーに向かい、妖艶な笑みを浮かべながらアクアは更に驚くべき言葉を言い放った。

「――実は私、体に少し古龍の血が流れてるんです」

「なっ……」

今度こそハンマーは言葉を失った。

「ふふ……力が溢れて、とてもいい気分なんですよ? まぁ、信じるか信じないかなんてどうでもいいですけど、もしギルドに何か余計な事を喋ったら……分かりますよね?」

以前とは比べ物にならない程の殺気を前に、ハンマーは頷くことしか出来なかった。
まるで首筋にナイフを押し当てられたような感覚が彼女を襲う。
もう彼女を人間だと思うことも――ハンマーには出来なかった。

「ならギルドに戻って約束通り食事でもしましょうか?」

「……」

答えることが出来ない。
私は、私が震えているのか……?
今まで向い合ってきたどんなモンスターよりも、彼女は恐ろしかった。

「貴女も、結局は奴らと同じ様に口をつむぐんですね。まぁ、分かっていましたけど」


「…………」




二人は無言で密林を後にした。




……その後、二人の活躍を聞いた者はいない。



【BAD END】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


――彼女が傷付けてしまった猟団長の言った『お前には化物が住んでる』という言葉は、彼女を自責の念に捕らわれさせる重要な言葉だった。
猟団長が何気なしに呟いた言葉が彼女たちの物語において、非常に大きな意味を持っていたのである
プロフィール

楽太郎

Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
楽しんで読んでもらえたら幸いですね
(・◇・@)

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