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ガイドポストは龍の調べ~Black Contract~ 第三話

2012/10/28

  ー去り人ー

「どうだ? 結構良い眺めだろ?」

「…………」

じんわりと暖かな日の光が二人を優しく包む。

収容所を出たフレアが向かった先は竜車(アプトノスの引車)に乗って小一時間の場所にある小高い丘の上だった。

足首を隠す程度に生えた草のクッションに座り込むと、まばらに伸びた木々の向こうに広がる緑の海を見ることが出来た。
その広大な森の奥には小さな湖があり、まだ高い太陽の光を力強く反射させている。

「ここは俺の故郷の近くなんだ。この景色を守るために、俺は戦うことを決めた」

「…………」

「もう一つあるが、ここでは言えん」

「…………」

「…………」

(今のは要らなかったな……)

「…………」


不意に、そんな息苦しい沈黙を破るような心地よい風がサァッと流れた。

あちらこちらに咲いた、色とりどりの花がそれに誘われて軽やかに踊る。




「………意識が戻った時、白い光が自分を包んでいた気がする」

くぐもった、それでもはっきりと聞こえる声が髑髏の仮面からこぼれた。

「!」

それは確かに、ここに来るまで終始黙っていた男の声。
落ち着きを取り戻したのか、幾分か感情のある声だった。

「何も覚えてない……気がついたら兵士に囲まれていて……訳も分からず戦った」

「…………」

フレアは何も言わず男の話を聞く。

「また暗闇に閉じ込められた時は、このまま死んでもいいと思っていたけれど……」

ここはずいぶんと良い風が吹くね、そう言った髑髏の顔は微かに緩んでいる気がした。

漆黒の地下室で発狂寸前まで追い詰められていた男は、輝く太陽と穏やかな風の下。
死に物狂いで。
己の理性を自らの力で。
闇から掬い上げた。

フレアは奇跡的にも手遅れになる、そのギリギリの分岐点で彼を救い出すことに成功したのだ。

「なぁ!」

フレアは決心したように立ち上がり、男の方を向く。

「お前これからどうする? もし当てがないんだったらよ……ギルドナイトにならないか?」

「ギルドナイト……?」

訝しげに男は首を捻る。

「そうか、記憶が無……」

「ギルドに所属する組織の一つ、だよね?」

少し驚いた。

「お前……忘れたのはお前に関する事だけでそういう知識は残ってるのか?」

「……いや、それは分からない。けど突然、フッと頭に浮かんだんだ」

困惑した様子で男は額を片手で押さえる。

「……もし知識があるなら俺が教える手間は省けるな。よし! なら後は俺が何とかする」

「…………勝手に話が進んでないかい?」

「大丈夫だ、問題ない」

「そんな馬鹿な……」

「記憶、取り戻したいだろ?」

思いもしなかった一言にポカンとして、空っぽの死神はフレアを見上げた。

「いや、それはそうだけど……それとギルドナイトになることに何の関係が?」

「異論は認めないぜ。ギルドナイトになりゃ行動にかなりの自由が利く。お前の記憶を戻すきっかけを探し回るのも楽に出来るはずだ。手続きは俺がやってやる」

「………どうしてそこまでする?」

髑髏の眼にはっきりと警戒色が浮かぶ。いきなり現れて牢屋から解放し、こんな話を持ちかけるのだ。
手をあげて飛びつくほうがおかしい。

「あー……そう取られたら、まぁそうなっちまうんだが……」 

フレアは頭をガシガシと掻いた。
言葉に詰まると頭を掻くのが彼の癖のようだ。

「確かに頼みたいことはある」

「僕に拒否権はないよ。内容は?」

先程より低いトーンで男が返す。


「……俺に協力してくれないか?」

「協力? 身分もない囚人にずいぶんと畏まった言い方だね」

驚きと皮肉を合わせたように言う。

「お前はもう自由だ。解放したのは俺の独断。だから今お前がどこかに走り去ろうと俺は止めないし止められない」

「…………」

再び頭をガシガシする。

「なんつーかよ、お前とはうまくやっていけるような気がする……そんな直感がしたんだ」

「……直感だけで囚われの犯罪者を連れ出したっていうのかい?」

男はあきれたように言う。

「ああ。俺は直感を信じてきたからこそ今、ここに立ってる」

その燃えるような紅眼は真っ直ぐに男を見据えていた。

「その眼をみれば信じざるを得ない、のかもね。また牢屋に戻されるのも御免だし……ここは協力するというしかないか」

それを聞いたフレアは よっしゃ! と拳を握ってガッツポーズをとる。

「決まりだ! よろしくな『バルス』!」

「バル………ス?」

聞き慣れない単語が自分に向けられ、本日何度目かの困惑した表情――といっても髑髏なのだが――をする男。

「ずっと考えてたんだよ。お前思い出すまで名前無いだろ? でも呼び名は必ず要るようになる。だからお前にコードネームをつける」

「コードネーム……何それ格好良いね」

髑髏に空いた二つの虚が ――気のせいだろうか、輝いて見えた。

「異国の言葉で意味は『終わらせる』。世界中廻ってでも過去の記憶にケリをつけろ……そんな意味でつけた」

「それでバルス……バルス……うん、悪くないね。よろしく、……えっと」

「あぁ、名前まだ言ってなかったな、フレアだ。これからよろしく頼む、バルス」

「フレア……ぴったりの名だね。こちらこそ、よろしくフレア」

バルスは心なしか笑っているように見えた。

「それで何を協力すればいいんだい?」

その質問にフレアはシンプルに、それでいてあまりに大それた答えを告げた。



「国をさ、救いたいわけよ」






三ヶ月後、二国間の戦争を両軍の制圧という力技で終結に導くことになるギルドナイトの戦闘集団『赤鷲』。歴史に名を刻んだこの騎士団を指揮したのは、深紅の騎士団長と漆黒のギルドナイトだったと伝えられている。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――





――パキリ、焚き火の中で小枝が跳ねた。


「………」

シャワはバルスが話終わるまで一度も口を挟まなかった。
いや、挟めなかったのだ。

「ごめん。長々と話しといてなんだけど、結局僕がこうなった理由は分からず終いなんだよね」

「そんなこといいわよ……バルス、あんたギルドナイトだったの?」

「ま、肩書きだけみたいなものだけどね」

「それに五年前のあれに関わってたなんて……」

信じられない、と言いかけたシャワだったがバルスの言葉に嘘は感じられなかった。

「英雄の一人がまさかこんな近くにいたなんてね……」

よしてよ、とバルスは少し困ったように言い、それに……と低い声で続けた。

「当時は英雄扱いも受けたけど、今じゃ『あいつらは勝てた戦いをむざむざ凍結させた逆賊だ』なんて両国から恨みを買うことがもっぱらさ」

「なっ………!」

シャワはその言葉に全身の毛が逆立つのを感じた。

「そんな……! あの戦いは結局意地の張り合い……どちらからも止めれずにいただけで、あのまま続けていればどちらも損するだけってことは明白だったじゃない!」

感謝されこそすれ、彼らを責めるなんてあり得ないはずなのだ。

「彼ら、僕達のことを感謝するってことは、向こうの国に『このまま戦っていたら負けていました』って言うことと同じだってことに気付いたんだろうね」

「それが一体なんだって言うの……!!」

シャワの色が白くなる程拳を握り締める。

だから『国』や『貴族』なんて嫌いなんだ!
体面だけを取り繕って、本当に守らなければいけない人達のことなど考えもしない……!

「シャワちゃん……これは僕等の問題だ。優しい君が怒るような事じゃない」

「ふざけないで! そんな理不尽な連中……! これに怒らないで何をしろって言うのよ!」

虫の声も搔き消え、あたりに静寂が響く。
更に続けようとしたシャワだったが、次の瞬間彼女は黙り込むこととなる。

「シャワちゃん」




静かで、とても低い声。
初めて聞く、バルスの怒りの声だった。

「僕達はこうなることを予期していて戦争を止めたんだ。その覚悟をただ単に『理不尽だ』の一言で蔑ろにしないで欲しい」

「ごめんなさい……そういうつもりじゃ」

ハッとしたように謝るシャワの頭にバルスはポンと手を置いた。

「僕のために怒ってくれてありがとう。大丈夫、いずれケリを着けるさ」

「バルス……」

シャワはバルスをジッと見つめ……そして







――それセクハラだから、と頭上の手を払い除けた。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





早朝、朝靄のかかる集落を二人は後にした。

「だいぶ疲れが取れたわね。誰かさんのせいで少し寝不足だけど」

「切っ掛けは君じゃなかったっけ……?」

「こういうときは女性に花を持たせるのが紳士でしょう?」

「いつも変態変態いう癖に……」

「ギルドナイトなんでしょう? なら正真正銘の変態紳士……もとい変態騎士じゃない」

「流石にあんまりだよ!!?」

朝から相変わらずの喧騒である。

「でもま、村に着けば後はネコタクで帰るだけね」

「シャワちゃん、あのさ」

「ん?」

やっと帰れる! とややご機嫌のシャワにバルスはあるお願いを申し出た。

「……なるほどね。確かにどこで狙われるか分かったものじゃないものね」

「余計な争い事は御免だからね」

バルスの申し出は、自分がギルドナイトであることをこの先他言しないこと。

「任せといて。私、口は固いわよ」

「拳も固いけどね……」

ボソリ呟いた一言は幸運なことに彼女の耳には届かなかった。

その後、特に問題なく村へ辿り着いた二人は事情を話し無事に街へと帰ることが出来た。

「ずいぶんと長いクエストだったわね……」

ギルドに着いて開口一番、シャワは深々とため息をついた。

「ため息をつくと幸せが逃げるよ?」

「なら私の周りは幸せが一杯よ……受け取りなさい」

「いや……遠慮しとくよ」

当然といえば当然だが、クエストの目的を達成できなかった上、一時的な消息不明。
報酬を貰えないどころか捜索にかかったお金を払わせられる羽目になった。

「散々だ………今日はもう休んでゆっくりしたいね。今後どうするかは明日にでも決めようか」

「そうね……取り敢えず休みたいわ。それじゃ、また昼にここで落ち合いましょ」

「了解。……今回はありがとう、だいぶ助けられた」

「なによ改まって……こっちこそお礼を言わせてもらうわ」

シャワは突然のお礼に驚いたが、フッと眉を緩め『ありがと』と笑いかけた。

それじゃ明日。そう言って二人は別れ、それぞれの帰路につく。
月の無い、静かな夜。シャワは部屋のベッドに潜り込むと、帰って来れた安心感からか、すぐに眠りの世界へと落ちていった。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





「いけない!『あれ』 防具に差しっぱなしだった!」

早朝、早起きな街の賑わいでボンヤリと眼を覚ましたシャワだったが、視界の端に映った剥ぎ取りナイフを見つけ、ガバリと跳ね起きる。

ギルドから借り受ける支給品の中でも特に貴重な剥ぎ取りナイフ。
特殊な鉱石を使用しているため非常に良い切れ味を誇るが、その分値段も目の眩むほどである。

「急いで返しにいかないと……! 弁償なんて言われたら終わりだわ」

シェリーなら言いかねない。
非常に精密な作りをしている為、剥ぎ取りナイフは戦闘で使うことは許されない。ハンターになる際真っ先に教わることの一つである。

「ナイフというか、包丁みたいな扱いなのよね」

剥ぎ取りナイフを手に取りまじまじと刃先を見つめる。
研ぎ澄まされた刀身に波打つ波紋。銀色に輝くそれはシャワの金色の瞳を鮮明に映し込んでいた。

「……ってこんなことしてる場合じゃないわ!」

我に帰ったシャワは慌てて宿舎を飛び出すと、ギルドへ向かって走り出した。



「ちぃっ! ……あぁ良かったわー! 丁度連絡を入れようと思ってたのよ」

「今軽く舌打ちしたわよね?」

肩で息をしながらシャワは剥ぎ取りナイフを手渡す。
起き立てでダッシュはやはりきつい。

「気を付けなきゃだめよ? そして無くすならしっかり無くして頂戴」

「もう断固として忘れないわよ!」

「ならいいんだけど、とりあえず朝早くからお疲れさま。昨日の今日だし、後はまたゆっくり休んでなさいな」

無事にナイフを届け終えたシャワはあることを思い立った。

(バルス……どうせ寝てるわよね。何か朝食になるものでも持っていってあげようかしら)

そう思ってシェリーにバルスの宿舎の場所を訪ねたのだ。
ギルドがハンターに提供している宿舎は数多く、低ランクから高ランクまで合わせると場所を聞かなければ個人を見つけるのは困難である。


場所を教えてもらったら行って驚かせてやろう、そんな軽い気持ちで訪ねたのだが、受付嬢の答えは思いもよらないものだった。


「え? バルスさんなら昨日のうちに朝までの支払いを終えてたから、もう街を出たと思うけど?」

「街を……出た!?」

昨日の今日でもうクエストに出たのだろうか?
そうであって欲しかった。
しかしその期待も次の言葉によってバラバラに粉砕された。

「それにバルスさんはこの前、このギルドとの契約も切ってたからもう帰らないと思うわよ?」

聞いてなかったの? とシェリーは不思議そうな顔を浮かべてる。




ずしり、と。
石でも飲み込んだような感覚が胸に広がった。
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Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
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