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女神と呼ばれたハンター 番外編 【外伝】

2012/11/05

M237――このたった四文字の羅列が、彼女を彼女たらしめる唯一の言葉だった。


砂漠と樹海の間にある険しい岩場の、一歩踏み間違えればそのまま奈落へと消えてしまうであろう切り立った崖。
今、彼女は一人そこに佇んでいる。

あぁ、また戻って来ちゃった……、その一言は崖下の暗がりから吹き抜ける風の音にかき消された。
しかしその風も、彼女の頭に未だ響く声までは消してくれない。

強風の吹き荒れるこの場所は昔から危険地帯とされ、近付く者は皆無。
だが、だからこそ『施設』はここに存在していた。

国によってひた隠しにされるこの施設は、戦場で駒にされる兵士の育成を主としている。
『義勇軍』……そんな風に言えば聞こえは悪くないのかもしれない。
戦場に唐突に現れて犠牲も構わずに勝利への道を切り開く彼らは、戦場では英雄扱いを受ける。
しかし幼い頃から休む暇なく一般教養や世界情勢、戦闘に戦略……ただ勝つ為だけの情報のみを教わってきた彼等にとって、周りからの風評など本当に意味の無いものであった。

そんな生活の中、彼女が特に嫌ったのは毎朝に行われる意味の無い整列だった。

いや、意味はあるのだろう。
それでも、と彼女は思う。これに意味を見出だすのは馬鹿げている、と。

戦争があれば『国の為』と戦地に駆り出され、終われば再び息苦しいこの場所へと戻される。

すると大抵、番号順に並んだ彼女の前後には見知った友人は消え、番号の繰り上げられた知らない人間になっているのだ。


今回もまた、いなくなった。

戦場で響き渡る悲痛な叫びは暫く頭から離れることはない。施設での洗脳まがいの教育を受けながら10年……彼女は楽になろうと、しようと促す心に逆らい、永遠とも思える時間を戦ってきた。

――私達はただ在るべき所に戻るだけなんだよ。
前回まで彼女の前にいた女性はそう語っていた。

戦場で拾われた私達は、やはり戦場に還るのが自然なんだ――そう言った友人が最後、どのように還っていったのかは知らない。

そうなのかもしれない、それでも私が私でなくなるのは……きっと凄く恐ろしいことだと思うから。だから彼女は今まで生き残り続けた。

人一倍頑丈だと思っていた心が、静かに壊れ続けていたことには気付かずに。



「やぁ、また会ったね」

崩れ去る寸前の心を救い上げたのは、ある日を境に彼女の前に居座り続けた一人の男だった。

「……あんたはまだ死なないんだね」

「いきなり失礼だな、君は」

始めての会話はこんなものだった。

「私の前後は特によく死ぬ」

彼女は淡々とした口調で目の前の男を見る。

「でも僕は随分と長く君の前にいるよね」

男はそれに飄々と返す。

「……だから久々に興味が沸いたんだ」

「それはありがたいことで」

――実は僕の前後もよく死んでたんだ、後で男は相変わらずの軽い口ぶりでそんなことを言っていた。



          ◇



日差しが執拗に身を焦がす炎天下、砂漠の近くにあるこの場所にとって夏場は地獄である。

「あんたのお陰かな? ここに帰ってきても声にうなされなくなった」

「……それはこちらこそ、と言わなきゃならないね」

涼しい日陰を陣取って座っていた彼女の謝礼に、男は多少驚きながらも礼を返す。

それよりもそこを譲って欲しいんだけど……、と汗を拭きながら懇願するが、いやだ、と一蹴されて男はがっくりと肩を落とした。


戦場での毎回の活躍により優遇された二人は、訓練さえこなせば比較的自由な時間が与えられている。

だから初めて会話したあの日から、互いに興味を持った二人は時間を見つけてはなんということのない会話を交わしてきた。

戦友……外の平凡な世界でなら親友と呼ばれてもおかしくない仲になるのに時間はそれほど掛からなかっただろう。

「なぁ、124」

いちにいよん、そんな間抜けた呼び方で彼女は話しかける。

「何だい?」

「名前……ってあるでしょ? 欲しいと思わない?」

「これのことじゃなくて?」

男は胸に付けられた『M124』のプレートを指差す。

「いや……何というかもっと意味のある言葉……かな?」

二人が初めて言葉を交わしてから数ヶ月、彼女の顔には生気が戻っていた。

「……でもこんなところじゃ必要ないんじゃないかな?」

首を傾げる男もそれは同じだった。
会話をする、心を通わせる……それだけのことが出来ないだけで心は簡単に壊れてしまう。
それに気付いてから、二人は話す時間を特に大事にしていた。

「でもさ、皆同じような呼び名じゃん? 個性は必要だと思うんだ」

「ははっ、個性か……教官が聞いたら鞭が飛ぶだろうね」

『傭兵たるもの個人より集団を重んじるべき』とは彼等を『熱心』に教育している教官の口癖である。

「茶化さないで。でもさ、昔は私たちにだってあったはずだよね?」

「……全然覚えてないけどね」

戦場で拾われた彼等に施設が施すのは、彼等に番号を付け、記憶と一緒に名前を忘れさせること。
個々の感情を消すには、それが一番効果的だった。

「ならやっぱりもう一回欲しいよ」

「付けたとしても、ここで使ってもらえる訳じゃないし……最悪、処罰が下るかもしれない」

突発的なことを彼女が言うのはいつもの事だったので、男はたしなめるように言った。

「ねぇ、試しに二人で名前を付け合ってみようよ! 私達だけで使う内緒の名前! それにもしさ、世界に出たときに名前がなかったら大変だよ?」

もし世界に出たら。
これは最近の彼女の口癖だった。
血生臭いこの世界を一歩越えた所にある広大な世界。しかし逃げることの許されない彼女らにとっては途方もない一歩。

それは彼女も分かっているはず。
それでも彼女は諦めない。

「さぁさぁ!」

わくわく、といった言葉が溢れるように彼女は彼を捲し立てる。

「君も大概話を聞かないね……でもまぁ、ちょっと面白そうかな」

ここまで彼女が促すことは珍い。男はやれやれ、と押し負けた。

「でしょ! じゃ、お互いにお互いのを考えようよ。あ、ちゃんと意味も考えてね!」

「はいはい……」

二人はしばし考え、悩んだ。

「決まった?」

「まだ。そっちは?」

「もうちょい」

「「うーん……」」

いつの間にか男も名前を考えることに夢中になっていた。


「決まった! そっちは決まった?」

「今しがたね」

「じゃあこの紙に書いて発表しよう!」

「無駄に用意がいいね……」

「書けた? じゃあせーので発表しよう!」

「分かった分かった」


「「せーの……」」


二人は同時に紙を見せ合った。



          ◇



彼等のイニシャルはそれぞれの役割で決められている。

A~なら単純な戦闘部隊。
I~なら情報戦略部隊。



M~なら対モンスター部隊。


戦場には血の臭いを嗅ぎ付けたモンスターが頻繁に現れる。
そのモンスターを討伐、撃退するのがMのイニシャルを持つ者の任務である。

ギルドのハンターと同じような働きをするが、こちらは登録されない非合法なハンター。ギルドではやらせないようなことも平気でやらされていた。

特に優秀な人材がこれに当てられるが、一番に危険も多い。

それでも人を殺すのより何倍もいい、とはあの男が言った言葉である。



その男が

「おい! 目を醒ませ! 『―――』!」

戦火の真っ只中、飄々としてる普段の様子からは想像出来ない程の声を張り上げていた。

激しく燃え上がる家々。
倒れた人の上を逃げ惑う人々。
それに襲いかかる小型の鳥竜種。

そして、

二人の目の前、死屍累々の光景の上に事切れていたのは巨大な一匹の轟竜であった。

「ごめん……『―――』。今度は……私が還る……番みたい」


男の腕の中で、かすれた小さな声で彼の名前を呼んだのは、あの日『名』を与え合った相棒。

彼女の背中には巨大な爪痕が残っており、何が起きたかを明白に物語っていた。止まらない血は、まるで二人を呪うかのように辺りを紅く染め上げる。

いつかはこんな日が来ると分かっていたつもりだった。
だけどその時は自分が死ぬと思っていた。

「君はもっと広い世界を見たかったんだろ! ……その為に戦ってきたんだろ!?」

段々と息が弱まっていく彼女に男は必死で話しかける。

「私は……あんたに凄く感謝してる。私が……最後まで私でいられたんだから」

弱々しくも彼女はそういって笑いかける。
いつも爛漫とした彼女からはかけ離れた姿だった。

かけ離れ過ぎていた。

過酷な環境に敷かれながらも懸命に生きようとした。潰されそうな心を奮い立たせて『自分』を貫き通してきた。

そんな彼女の最後がこんな呆気ないものなのか!?

動かない彼女を抱いたまま、気が付けば男は空に向けて叫んでいた。

「こんなのあんまりだろう!? 神様って奴がいるなら出てこい!!! どんな代償でも払うから! 払ってやるから! 『―――』に! 『―――』に世界を……広い世界を見せてやってくれよ!!」




――叫びは空に大きく木霊する。

















――白い稲妻が一つ、落ちた気がした







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




…………?

………ここは?

薬のツンとした臭いが鼻孔を刺激する。

辺りを確認するために身を起こそうとするが、

「痛っ!?」

突然走った背中の痛みに思わず声が出た。

「気がついた!? 良かった……」

声を聞き付けてやって来たのか、女性の声が私の元へ届いた。

「ここは……うっ……!?」

目覚めたばかりだからか目の前がボヤけてうまく見えない。

「今は起きない方がいい。アンタ、私が見つけなきゃ今頃……」

真剣な声。

私は相当危なかったらしい。

戻ってきた視力が捉えたのは、彼女の白い髪がふわりと揺れるところだった。

「……ありがとう」

痛みを堪えて何とかその一言を絞り出す。

「いいって。私がしたのは応急措置だけ。礼を言うならアンタを見つけた私の相棒と医者に言いな」

相棒に手出したらダメだぞ……って怪我人に何言ってるんだか、とからからと笑う彼女。

私が目を覚ましたのが随分と嬉しいらしい。

「あ、自己紹介しとかなくちゃね、私はチョモ。色々やってるけど、今は医者の卵みたいな感じ。アンタは?」

「私は…………っ!?」

え?


あれ?


あれ……?


記憶は……ある。

施設で傭兵やってて……戦場で……怪我……したん、だよね?

名前は……そっか初めから……ない………いや!

あった

あったはず………なのに……


何故か、思い出せない。


「大丈夫? やっぱりまだ休んでたほうが……」

焦りが顔に出ていたのだろう、チョモが心配そうにこちらを見る。

「私の……」

「ん?」

「私の荷物に何か……」

何かあるはず……

「えっと、アンタの荷物は……この小さな袋だけみたい」

私は彼女から引ったくるように袋を受けとった。
間違いない、私が身に付けていた小物入れだ。

急いで中を確認すると、施設の登録標が入っていた。

急いで名前を確認するも、そこには「M237」と書かれているだけ。

(違う……これじゃない!)

袋をひっくり返すように探していると、ひらり、小さく折り畳まれた紙切れが落ちた。

何だかとても懐かしい気がする。

素早く、しかし丁重に紙を開いていく。

書かれていたのは

【Hammer】

の一文字。

すとん、とその言葉は彼女――ハンマーの胸に収まった。

(あぁ……そうだ。これが私の名前……)

「思いだした。私の名前は……ハンマー」

「ハンマー……? えらく突飛な名前だね……由来は?」

思い出せない誰かがつけてくれた名前。

『君の好きな武器とかけてみたんだ』

誰とも分からない声がした気がした。

でも由来を聞いて、無理やりすぎだろう、と大笑いしたことだけは覚えている。


「『傭兵なんて肩書き、叩き潰せ』」

本当に……思い出せないのに、涙が止まらないくらい……可笑しい。



怪我も完治し、チョモに礼を言って別れた後、ハンマーはギルドへと向かった。


理由は二つ。

一つは慣れた仕事だから。

二つ目は、治療を受けているとき彼女に言われたのだ。

――世界を知りたいならハンターになればいいよ、と。


                          【次章へ】
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Author:楽太郎
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