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狩人クライシス ~絶海の雷鳴~【前編】

2012/11/14

プォォ、と到着を知らす角笛が鳴り響くと同時にとたた、と桟橋を駆け渡る。
足から伝わる木の感触が固いものへ変わり、嗅ぎ慣れた潮の香りに魚介のものが加わったような、港特有の匂いが鼻孔一杯に満たされた。


「到着ぅ~~!」

久々に地面を踏みしめると喜びと期待が一気に込み上げてきて、思わず叫んでしまった。

「バルスー! やっぱり揺れない地面は素晴らしいわぁ!」

珍しいほどの上機嫌で手を振っている。そんな彼女に遅れて船を降りた全身黒づくめの怪しい男――バルスは酔っているのか、こめかみを押さえながら桟橋を渡って来た。

「シャワ……頭に響く。そんなに大声出さなくても聞こえるからね?」

「早く早く! 出店とかあるわよー!」

シャワと呼ばれた少女はバルスの呻きなど全く聞こえていない様子でピョンピョンと跳ねている。
肩下まで下ろされた眩しいほどの金髪が上下に、ブナハSの赤いフリルが横にふわりと広がり、舞う。
赤と黄のその彩りは青一面に広がる港町の風景に見事に溶け込んでいた。

おぉ、と思わず声をこぼしてしまう。

出発を待ち切れなかった彼女が『せっかく新大陸に行くんだから装備も一新しないと!』と、素材をわざわざこちらの大陸から取り寄せた時のことは未だにトラウマである。
届けられた箱を何気なく覗いたら虫の素材がぎっしりと詰まっていた……なんて事はそうそう経験出来ることじゃない。

こんな面(スカルフェイスだが)の割に虫が苦手だったバルスは、その一件で更にダメになったという。

(あの時は昆虫展覧会でも開くつもりかと思ったけど……こんなに綺麗に化けるとはね……)

着色を薄めの赤にしたのは、向こうに置いてきたザザミ装備への感謝の気持ちなのだそうだ。

(虫素材を着色……ねぇ)

改めて加工屋の凄さを認識していると、不意に腕をぐいと引っ張られた。

「何、ぼーっとしてるのよ! バルスと違って私はこの大陸初めてなんだから、しっかり案内しなさいよね?」

「え」

普段は吊り上がりがちな(大体がバルスのせいだが)眼を綻ばせてジッと見上げられたら、もはや船酔いしたから休みたいなどとは言えない。

うん、紳士だから。
仕方ない。

「……分かったよ。にしてもシャワは元気だね」

「だいたい船酔いするってハンターとしてどうなのよ?」

「あはは……まぁね」

ばれてた。
知り合いの少女は更に酷い乗り物酔いをするのだが、そんなことを引き合いに出しても仕方ないので笑って誤魔化す。

「ま、そのうち慣れるわよ」

「だといいんだけど……」

彼女をシャワと呼ぶようになったのはつい先月のことだ。
『いつまでも子供扱いしないで!』と怒られたので彼女の指示通りに呼ぶと、片手で顔を隠した彼女にいきなり殴り飛ばされたのは今でも謎である。

「立ち話も何だし、とりあえず何か食べない?」

「そうだね……って、あ」

頷きかけたバルスが何かに気付いた様に動きを止めた。

「? どうしたのよ?」

不意に固まったバルスはポーチに手を突っ込み、硬貨を入れる袋を取り出した。

「今回の船賃で所持金全部飛んだんだった……」

かつては裂けんばかりに膨れていた袋は無惨に萎んでおり、哀愁をも漂わせている。

「え!? ……私も無いわよ」

潮風がそんな二人を笑うかのように吹き過ぎていった。

「調子に乗って防具を揃えなければ良かった……」

シャワは先程までのテンションを恥じるように肩を落としている。

「いやいや、似合ってるからいいと思うよ?」

「ちょっ! い、今はそんなこと言ってる暇じゃ無いでしょ!? このままじゃ宿も取れないわよ……」

「確かに……」

ほぼ無一文の二人が船降り場から動けずに棒立ちしていると、その様子を見かねたのか一人の少年が歩み寄って来た。

ふわりとした癖っ毛の銀髪に尖った耳。子供好きじゃなくても思わず撫でなくなるような無邪気な顔。

そんな少年が怪訝そうな目でこちらを見つめる。

「なぁ、姉ちゃん達ハンターだろ? 金ねーならさ……クエストこなせばいいだけじゃないの?」

新大陸でもやはり怪しまれるのか、少年はバルスに分かりやすく顔を背けてシャワに問いかけた。

「あ」
「あ」

長い船旅のせいか、あろうことか本業を忘れていた。
揃って間の抜けた声を上げる二人に少年は呆れ顔を見せるも、尖った犬歯を見せてすぐにニシシと笑う。

「ならさ、ちょっとクエスト手伝ってくんねーかな?」

少年はジャギィSシリーズという装備を身に付けており、へルムを抱えた彼が上位ハンターであると雄弁に物語っていた。



  ◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆


飛竜の唸り声のような音と共に、大きな波飛沫が岩場を濡らしていく。

場所は孤島と呼ばれる狩り場。
その島から浅く、海水の滴る浜辺へ細く伸びている岩場の一つ。そこで二人はベースキャンプを組み立てていた。
向かいの岩場には人の手によって加工されアーチ状になった岩が複数見られ、過去に人が暮らしていた様子が垣間見られた。

「よし、大体完成ね。バルス! そっちはどう?」

「こっちもOKだ」

「あ、向こうも丁度来たみたい」

「うわ、あれは危なそうだな」

骨組みを建てて天幕を張り終えた二人は、身の程もある桶一杯の水をヨタヨタと運んで来る少年を見つけると、すぐにそちらに足を向けた。

「お疲れ様、ヨルヴァ。後は僕が運ぶよ」

ヨルヴァと呼ばれた少年はそれに対しむすっとした表情を見せる。

「黒い兄ちゃんもオイラをガキ扱いすんのか? こう見えても……」

「『もう20代の龍人族』なんでしょ? でもそう言われても……ねぇ?」

「うん、やっぱり心が……ねぇ?」

大体にして龍人族の20代が人間にしてどの程度なのかも分からないが。

「優しさの押し売りは御免だい! クエストに誘ったのはオイラ! 一番孤島に詳しいのもオイラなの! だからこのくらい……!」

「まぁまぁ……ここは『お兄さん』に任・せ・て……ね?」

強情なヨルヴァにバルスは腰を下ろしてずいと顔を近づける。
黒塗りのスカルフェイスは昼間でも怖い。

かつて屈強な兵士達をも恐れさせた『それ』を間近で見せつけられた少年は短い悲鳴を上げてしまった。

「ひっ! わ……分かったからその顔を近づけるのはや、やめてくれよ………」

カタカタと震えるヨルヴァから桶を受け取ると、バルスはニッコリと笑いかけた。

『ありがとう』

「ひぃっ!? 髑髏が歪んだ!?」

重低音で響く声と若干口角が吊り上がった髑髏に、ヨルヴァは涙目になって後ずさる。

『クックックッ……』

「怖がらせるんじゃないわよ!!」

「あだ!?」

不気味に笑っていたバルスは、後頭部を殴り付けられ地面へ勢いよくめり込む。

「っ!!?」

「あ……」

シャワはしまったと言いたげにぷいっと目を逸らした。

「うぐ……シャワだって人のこと言えないじゃないか。見て、こんなに腫れちゃったよ……」

「う、うるさいわよ!」

腫れ上がるスカルフェイス、そして防具越しに人を殴り飛ばす豪腕のガンナー。

「……兄ちゃん達何者?」

ギャーギャーと騒ぐ二人をヨルヴァは恐ろしいものでも見るような目で見つめていた。


     


五分程経過しただろうか、落ち着いた二人はヨルヴァと共に今回の狩りについて話し合っていた。
その為に(あくまでも話し合いの為)時間は余裕をもって調整している。

「相手が相手だからね、油断は出来ないよ」

パニックから回復したヨルヴァが人差し指を立てて話始めた。

「そのクルペッコっていう鳥竜種はそんなに厄介なの?」

シャワの知っている鳥竜種と言えばランポスやイャンクック。イャンガルルガという強敵もいたが、あれは例外だろう。

「んーとね、クルペッコ自体は飛竜に比べたら確かに劣るんだけど、面倒なのはその習性…っていうか能力なんだ」

「能力?」

ヨルヴァの説明をシャワは念入りに確認していく。
敵を知らないということはそれだけで命に関わる。
それはこれまでの経験で嫌になるほど学んできている。

「狩猟笛ってあるでしょ? クルペッコはそんな感じのモンスターなんだよね」

「確かに。周りのモンスターを回復させたり硬化の効果……ちがう、駄洒落じゃないよ……を持つ旋律を奏でたりするんだ」

バルスが細かな情報をつけ加える。

「……でも何より問題なのは、『モンスターを呼ぶ』ことだよ」

「モンスターを呼び寄せる? それって鳥竜にはよく見られる特徴じゃない?」

シャワのいた大陸でもドスランポスなどの鳥竜種が手下のランポスを呼ぶ習性はよく知られている。
しかしバルスは「ちょっと違うんだ」と声を落とした。

「クルペッコが呼ぶのは小型のモンスターの場合もあるけど、大概は大型のモンスター……最悪、火竜まで呼び出す」

「リオレウスまで!?」

シャワは驚きの声を上げる。最悪二体同時に相手をしなければならない……この能力は予想以上に危険だ。

「ま、それは最悪の場合だけどね」

策はあるから任せてよ、とヨルヴァは先程とは打って変わって真面目な顔をして呟いた。

「そう、なら任せるわ」

そう返した後、シャワは妙にそわそわとして「ちょっといいかしら?」とヨルヴァの方にずい、と近づく。

「あなたのその装備、向こうじゃ見たことなくて。どんなものか……少し教えてくれないかしら?」

「ん、これはスラッシュアックスって武器さ!」

ヨルヴァがその背に背負っていたバンカーバスターに手をかける。
シャワのいた大陸には生息しない『ボルボロス』という獣竜種の素材を紅蓮石を溶かし込んで強化した猟斧で、使い勝手のよい作りになっている。

「この武器はすげーんだぜ? まずはこれ!」

ヨルヴァはバンカーバスターを、グリップを握って正面に構える。すると真ん中にあった板のようなパーツが上下にスライドし、アックスという名の通りの巨大な斧が姿を現わした。
斧の切っ先には刃は無く、代わりに土砂竜の頭部を思わせるパイプ状の突起が連なって重々しい雰囲気を発している。

「普通のスラッシュアックスならここにも刃が付いてんだけど、これは叩き潰す感じになってるんだ。そしてここからが更にすげーんだよ!」

すげーすげーと連発するヨルヴァはいうなりバンカーバスターの柄のグリップをまた捻る。
すると機械音と共に斧の部分が手元まで下がり、その上にもう一つのパーツがスライド、回転しカシン! と小気味のいい音を立てて接続したのだ。
ひと繋ぎになったプレートの先端には刃が取り付けられており、先程の形とは別の大剣に似た片刃の武器へと姿を変えていた。

「…凄い! 変形するのね」

ギミックのある武器はいくつか見たことがあったがここまでの物は見たことがなく、シャワは思わず目を丸くしてしまう。

「すごいだろ? この刃はボルボロスの堅殻を削って作られてて、鋼を越す強度を持ってんだぜ! あ、ちなみに変形は内部機構のエンジンで動いてて………あと剣モードには………」

延々と続くスラッシュアックスの説明を、シャワは「ふんふん」と真面目に話を聞いていた。




     




「ーーなるほどね。大体分かったわ! ありがと」

「へへっ! どういたしまして! 実はさ、もっと凄い『とっておき』があるんだけど、これは狩りでな!」

「なら楽しみにしてるわ」

シャワの反応が嬉しかったのか、ヨルヴァは鼻を擦りながらニカッと微笑んだ。

「あ、話終わったの?」

バルスは隅でこんがり肉の調理を勤しんでいた。
異国の言葉を聞いてるようで途中で逃げ出していたのだ。

「……あら、ずいぶん沢山焼いたのね」

「返すようで悪いけど、ずいぶん沢山喋ってたね」

バルスの後ろには、数えるだけで20は越えるだろう大量の肉の山が出来上がっていた。

「か、狩りには必要な知識なのよっ!」

流石に喋りすぎたと思ったのか、少々苦しそうに言い訳をする。

「ま、勉強熱心なのを責めるのもあれだしね。ところで」

バルスはヨルヴァの方に顔を向けた。

「それは上位のボルボロスから作った武器だよね? 一人で狩るなんて大したもんだ」

「へへっ、結構やるだろ?、オイラ基本ソロでやってんだ……って、ん? 何で一人で狩ってるって分かったの?」

「いや、クエストを三人で受注した時にギルドの受付嬢が君を珍しそうに見てたから、もしかしたらってね」

「うへぇ…よく見てんなぁ。オイラさ、あんまり大勢で狩るのって好きじゃないんだ……なんか窮屈でさ」

ま、協調性がないって言われたらそれまでなんだけどさぁ、とまるで自分に言うようにヨルヴァは呟いた。

「でもクルペッコは予想外の奴を呼ぶ時があるから、今回だけは用心ってことで仲間を探してたんだ。……でもなかなか見つかんなくてなー」

「だから港に新しく来るハンターを探してたのね」

「そゆこと。んん、やっぱ人脈って大事なのなぁ」

ヨルヴァは腕を組んでうんうん、と頷いてみせる。
大人ぶった態度をとっているが、どうみてもシャワよりもちんまい少年だ。
これでシャワよりも歳上とはやはり見えない。

(仲間が見つからなかったのはこの容姿のせいも……というか半分以上そうだろうな)

そう思いつつ、バルスは今の話で気になった部分を訊くため、再び質問を口にした。

「ヨルヴァ、嫌いなことまでしてどうしてクルペッコを狩ろうとしてるんだい? 防具の新調? ……でもボルボロスを狩れるならそっちの防具のがいいか」

その質問に、ヨルヴァはチャームポイントだというつぶらな瞳を険しくさせ、苦虫を噛み潰したような顔になる。

「うーん……ちょっと面倒い話になるんだけど、いい?」

「もちろん」

「聞きたいわ」

出会って間もないが、元気印が特徴であろうヨルヴァがこんな顔になる理由に興味をそそられないはずがない。

ヨルヴァは『わかったよ……』と言うと、すぅっと息を吸い込んだ。


「オイラはいつか幻のリオレウス希少種を狩りたい。だからその為に弱点の雷属性の武器が欲しいんだけど、その雷属性の武器を作るためのクルペッコ亜種の素材が足りない。んでもってクルペッコ亜種の弱点である氷属性も無いからベリオロスを倒さなきゃならなくて、そのベリオロスを倒すための火属性のスラッシュアックスを強化するにはクルペッコを討伐しなきゃならないんだぁ!」


「なるほど……」

「その気持ちはよく分かるわ……」


とても親近感の沸く理由だった。
ハンターなら誰しもがこの無限に続くようなループに直面する。


「はぁ、はぁ……そう言って貰えると嬉しい……よ」

肺の空気を出しきるようにまくし立てたヨルヴァは、息を切らしながら苦笑いする。
が、次の瞬間仰天したように目を見開いた。


「ってあれ!? よく見たらシャワの姉ちゃんの持ってるボウガン……もしかしてリオレウス希少種のやつ!!? 初めて見た! すげぇ……羨ましいなぁ……」


ヨルヴァは目をキラキラとさせてシャワをまじっと見つめる。

「あぁ、これは恩師から譲り受けたものよ……ちょっと癪だけど、これ以上に使えるボウガンに私はまだ出会ってないわね」

シャワは愛用しているボウガン――『シルバースパルタカス』を肩から外し、「好きに見ていいわよ」とヨルヴァに渡した。

火竜の延髄と骨を基盤に組み立てられた銃身を銀火竜の堅殻と上麟で覆い、その接続をノヴァクリスタルで施されたこのボウガンは、射撃の衝撃に全て吸収し強力かつ様々な弾丸を撃ち出せる非常に高性能な武器だ。

すげえすげえ! とまたもや連発する少年を見て、バルスはズイッとヨルヴァに近付いた。

「僕の武器はどう?」

バルスも負けじと、得意気に愛用の『トキシックジャベリン』を見せつける。
ギギネブラの不気味な皮で巻かれた赤色のグリップと三ツ又に別れた先端が特徴的な、猛毒を持つ優秀な武器であったのが……ヨルヴァには「それは見たことあるからいいよ」と軽く一蹴されてしまった。



「……さぁ! 下準備も出来たことだし、そろそろ出発しましょうか」

がっくりと膝をついてうなだれるバルスを尻目に、シャワが手を叩いて空気を切り替えをする。

「そうだね。ん? バルスの兄ちゃんどうしたの?」

「いいんだ……ランサーの良さは分かる人にしか分からない……」

「ほ……ほら、頑張りなさいよ」

(バカね……タイミングが悪すぎたのよ)

「うい………」

ブツブツと呪詛のような独り言を呟きながらもシャワに促され、バルスはのそりと立ち上がる。

「大丈夫かな……?」

自分のせいとは露知らず、若干の不安を覚えるヨルヴァだった。


    


孤島と言えば「海だ!」というハンターが多いが、深い森や野原、洞窟など幾つもの自然が集まってこの絶海の離島は成り立っている。
様々なモンスターが訪れるのもこの多彩な環境によるものだ。


「うわ……随分高いとこまで登ったのね……」

そう言ったシャワの口元は若干ひきつっている。

拠点を発ち、大型のモンスターが入り込めないような細い道を登り続けた三人は、孤島の中腹付近までやってきていた。

岩山を基盤に出来たこの島にも草木は力強く根付いており緑豊かな風景を作り上げている。
崖下を眺めてみると遥か下には青くきらめく海が延々と広がっているのが窺え、空中には鳥達が遊ぶように飛び交っていた。

「でも綺麗な眺めだろ?」

ヨルヴァが得意気に笑うも、下を覗き込んだシャワはお腹の辺りがキュッとなり、青ざめながら身を引いた。

「ごめん、無理……」

「高いとこが苦手ってハンターとしてどうなのかな?」

「……っ!」

ここぞとばかりにバルスがからかうも、涙目でギロリと睨まれ口をつぐむ。
やばい、これは落とされるかもしれない、と直感が死を告げる。

「あー、クルペッコは下の水辺にいることが多いからさ、とりあえずここを降りようよ、ね?」

バルスの危険を察知してか、ヨルヴァはシャワにそう促し下へと続く道を指差した。

「そうね……馬鹿は放っておいて早く降りましょ」

そう言うとシャワはそそくさと道を下っていく。
その馬鹿を見て、ヨルヴァは「バルスの兄ちゃんって絶対に尻に敷かれるタイプだよね」と言い残し、シャワをちょこちょこと追いかけて行った。

「…………」

残されたバルスの頭上では鳥達が「あほーあほー」とやかましく鳴いていた。



     


「滝から小川が伸びてるのね」

二人が道を下った先は岩の合間を小川が通る、縦長に開けたエリアであった。

「そう。この先に広い水辺が……ん? どうしたの?」

先を歩いていたシャワが片手でヨルヴァを制する。



「あそこに何かいるわ」

「あ……! まだ距離があるのによく気がついたね。ジャギィだよ」

シャワが発見したジャギィと呼ばれるモンスターはランポスよりも一回り小さな鳥竜種で、紅い体と背を通る紫の一本すじが特徴である。顔の周りにはエリマキがあり、大きいほど強さの証明になっていると、ヨルヴァは手早く、簡潔に説明した。

「ふぅん、肩慣らしには丁度いいわね」

言うがいなや、シャワは肩のシルバースパルタカスを手に取り、通常弾Lv2を装填し始める。

「ちょこまか動くから気を付けてね」

「了解よ」

バンカーバスターに手をかけながらジャギィへとゆっくり歩み寄る少年に続いて、シャワもしっかりと標準を定める。

「二匹か……オイラとシャワ姉ちゃんで一匹ずつだね」

二匹のジャギィはまだこちらに気付いていないものの、気配を感じているのか体を伸ばし、しきりに辺りを見渡している。

「油断しちゃダメよ?」

「もちろん!」

ヨルヴァは静かに、かつ素早くジャギィの元に駆け始めた。

「だぁぁぁぁ!」

十分に距離を詰めると、掛け声と共に斧モードのバンカーバスターをジャギィの腹部に全力で叩きつける。

「ギャウ!?」

不意討ちを受けたジャギィは弓なりにのけ反り、大きく吹き飛んだ。

「よしゃ!」

「ギャオ!!」

仲間がやられたことに気付いた、もう一匹がすぐさまヨルヴァに鋭い牙を剥いて飛びかかる。

「っ!?」

武器を振り切っていたヨルヴァは反動でまだ動くことが出来ない。
アプトノスの丈夫な鱗に守られた皮膚を軽く噛み裂く、強靭な顎が大きく開かれる。
ずらりと並んだ牙がヨルヴァの目の前まで迫っていた。

「ギャン!?」

ところが目前のジャギィは空中で大きく軌道を変えて吹き飛び、ドサリと地面に体を打ち付けて動かなくなる。

「ありがと!」

ヨルヴァが後ろに向かって礼を飛ばす。
シャワの放った弾丸が的確にジャギィを捉えていたのだ。

「もう、油断しちゃダメっていったじゃない……ま、標準はばっちりね。腕は落ちてないみたい」

愛銃を肩に背負い直すと、ヨルヴァが興奮したように走り寄ってきた。

「オイラも絶好調だった! そっかガンナーと組めば……んー、シャワの姉ちゃんだからかな?」

「たったこれだけで何言ってるのよ。そんな訳……」

「いや、そうかもしれないね」

二人が剥ぎ取りをしながら話していると、後ろから予期せぬ返事が返ってきた。

「バルス! そういえば何処行ってたのよ?」

「バルスの兄ちゃん、そういえば居なかったね」

「ちょっと心を空に解き放って……ね」

「……それは放心っていうんじゃないの?」

急いで走ってきたのだろう、肩で息をしながら存在感の薄い不審者はよく分からない言い訳を口にする。

「まぁいいわ。それよりヨルヴァ、この先にクルペッコがいるのね?」

「可能性は高いよ。下位のクルペッコに何度か行ったことがあるけど、ほぼ毎回この先で見かけてるんだ」

「恐らくクルペッコにとって好ましい環境なんだろうね」

足首まで浸かる小川を下っていくと、浜辺のような広間に出た。
岩に囲まれるようにして出来たこのエリアの奥に、一つだけ浮いたように鮮やかな点が動いている。

「いたわ!」

「よし、僕とヨルヴァで奇襲をかける。シャワはその間にペイント弾を撃ってくれ」

小声でのバルスの指示にシャワは黙って頷くと、弾の切り替えに取りかかる。

「兄ちゃんいける?」

「問題ないよ」

二人はなるべく水音を立てないように、足場を選んで走り出した。

(こいつと戦るのも久々だなぁ)

極彩色の、まるで道化師のような姿の巨鳥に気付かれないように二人は敵の背後へと回り込む。

バルスがこちらの大陸を離れたのは、ドンドルマを訪れる三年ほど前。ギルドナイトの仕事の一環であった。
自分の過去を探すうちに、各地で仕事をしながら調査するスタイルが染み込んでいたバルスは、転機だとあちらの仕事を積極的に受けていたのだが、手詰まり状態であった。

ーーそこで出逢ったのがシャワだ。
彼女はバルスの重荷を黙って支えてくれた。
再びバルスに希望を与えてくれた。

(……っと思考が脱線したな)

「兄ちゃん?」

ヨルヴァが下から覗き込むように見つめていた。
心配させるほど呆けていたのか……。

「ん、大丈夫だよ」

頭を降って自分に渇を入れる。この奇襲が成功するかしないかでこの後の流れが随分と変わってしまう。
失敗は許されない。

「クルル……」

クルペッコは小川の魚に気を取られているのか、川面を覗き込んで動かない。

「今しかないね」

「よし……行こう!」

合図の声と共にダン! と足を踏み出し大胆に距離を詰める。

足音にクルペッコが反応するも二人はすでに間合いに飛び込んでいた。

「だりゃぁぁぁ!」

ヨルヴァが背中のバンカーバスターを剣に変化させながら切り込む。変形切りと呼ばれる攻撃方法で、麻痺ビンによって神経毒を塗り込まれた刃がクルペッコの黄緑色の胴体に斜めに通る。

「クォォォ!?」

突然の痛みに驚いたのかクルペッコはわずかに跳ね上がり、ヨルヴァに向き合う。

「さぁぁぁぁぁ!」

その隙に更に背後に回り込んだバルスが連続してトキシックジャベリンを突きつけた。
槍の先端からはギギネブラの毒線から取り出された猛毒が染みだし、徐々にクルペッコの体内に蓄積していく。

「クォォ!!」

挟み撃ちにあっていると理解したのか、クルペッコは体を捻り扇状に広がった尻尾を二人めがけて振り回し始めた。

「くっ!?」

咄嗟にバルスは盾でガードに成功したが、振り回された尻尾はそのまま風を切ってヨルヴァに向かう。

「うわっ!?」

(やば……反応が間に合わねぇっ!)

直撃する……そう思った刹那、クルペッコの頭部でパン、と乾いた音を立てて何かが弾けた。
ピンクの煙が頭上に立ち籠める。

「クア!?」

「あんまり暴れないでよね!」

シャワの放ったペイント弾がクルペッコを一瞬怯ませたのだ。
その隙にヨルヴァはクルペッコの間合いから抜け出す。

「また助けられちゃったなぁ。……にしても流石に上位だね、反応が早いや」

ヨルヴァは相手への警戒を強め、体を引き締める。

「やっぱりモンスターを呼ばれる前に何とか倒したいけど……っ!? ヨルヴァ避けろ!」

短く会話を交わす二人を睨み付け、クルペッコは両翼の先端をカカッと打ち付けて今にも襲いかからんとしていたのだ。

「っ!!」

ヨルヴァは声に反応して咄嗟に横へ飛ぶ。

その直後、細い脚からは考えられない程の脚力で飛び出したクルペッコは、ヨルヴァのいた場所に巨大な爆炎を作り出していた。

「あっぶなぁ……」

チリチリと舞い散る火の粉の熱を肌で感じながら、ヨルヴァは急いで体を起こす。
『アレ』をまともに浴びては、火に弱いこの装備はたちまちに黒こげになってしまうだろう。

「せぁぁっ!」

バルスはヨルヴァが起き上がる隙をつくるためにクルペッコの背を何度も突いて注意を逸らす。
加えてシャワの氷結弾が彩鳥の頭に降り注ぎ、クルペッコは煩わしげに首を振った。

「シャワの姉ちゃん! その調子でクチバシを狙って!」

態勢を立て直したヨルヴァがシャワに向かって叫ぶ。

クルペッコは独特の音色をラッパ状に変形したクチバシで作り出している。
それに傷をつけてしまえば、クルペッコは目的の音色を出すことが困難になり、普段より二倍ほど時間が掛かるようになる。
つまり絶好の攻撃チャンスへと変わるのだ。

シャワがこちらに手を挙げる――了解の合図だろう。
その間も、撃ち出す氷の弾丸は頭部を狙って揺るがない。

「すげ……ってオイラもやられっぱなしじゃないぜ!」

プシュ、という音と煙を立ててバンカーバスターが斧の形に変化する。
重心が一点に掛からない分、こちらの方が身軽に動けるのだ。

「はぁぁぁ!」

軽やかなステップを踏んでクルペッコの足元まで近づくと、大きく足を踏み込み斧の先端をクルペッコの胸部に突っ込んだ。

「ルルゥ……!」


「くっ!」

「うわっ!」

柔らかい部位を攻撃されたクルペッコは小さく呻くと翼を羽ばたかせ、大きく後ろにバックジャンプして距離を取った。風圧に押されて二人は止めること出来ない。

「くそっ! あんな遠くまで……」

「クオックオッー! クオックオッー!」

地上に降り立ったクルペッコは体を踊らせるようにくねらせ、胸部をプクゥと大きく膨らませる。

「仲間を呼ぶ気だ!」

ヨルヴァは舌打ちし、すぐに走り出す。
しかしこの距離では走ったところで間に合わない。

駄目か……そう思った瞬間、ヨルヴァの横を黒い影がとんでもないスピードで過ぎ去って行った。

「兄ちゃん!?」

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」

重量のあるランスを地面と水平に構え、重心を前のめりに倒しながら驚異的な脚力で突き進む。
『突進』というシンプルな技だが、疾風のような早さで突き進むランサーの一突きは飛竜の堅固な甲殻にも風穴を開ける。

「りゃぁぁぁぁぁっ!!」


「グオォォ! ……ォォ!?」

鳥竜の声とは思えない、リオレイアによく似た咆哮を上げ始めたクルペッコ目掛け、バルスは突進の勢いをそのままに全体重をかけた一撃を放った。

「クォォォォ!!!」

胸部に深傷を負ってパニックを起こしたクルペッコは、クルリと反転してふらふらと走り出したかと思うと、地面に勢いよく倒れ込んだ。

「チャンスだ……ヨルヴァぁ!」

「あいよ!」

今の一撃で大半のスタミナを消耗したバルスは膝をつく。
ヨルヴァはバルスに変わるようにその横を通りすぎ、バタバタともがくクルペッコに向かって巨大な刃を振るった。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

上段から袈裟懸けに振り抜き、刃を切り返し上へと切り上げる。
そして足を踏み込み腰、肩へと力を込めて、頭上で小さな円を描くようにして斧剣を振り回し横に薙ぐ。

「クルルル……ッ!?」

流れるような連撃の中、何とか立ち上がろうとしていたクルペッコにある変化が起こった。

「ク……アァ……ァ!!」

体を小刻みに震わせ、動こうと試みるも自由が効かない様子のクルペッコ。
バンカーバスターに塗り込まれた麻痺毒が全身に回ったのだ。

「今しかねぇ!!」

ヨルヴァはそう叫ぶとバンカーバスターを一度引き込み、勢い良くグリップを捻りながら再び突き出す。
すると二つのパーツを縦に割るようにして内部構造が現れ、莫大なエネルギーが彩鳥へと流れ込んだ。

「クォォォォ!!!」

突然の苦痛に思わずクルペッコも悲痛な声を漏らす。

「りゃぁぁぁぁぁ!!」

『属性解放突き』と呼ばれるその技の反動は凄まじいようで、ヨルヴァの体は大きく震えていた。

「凄い……あれがヨルヴァの言ってた『とっておき』、ね」

シャワは思わず固唾を飲んでしまう。。
『変形』という特殊な技巧まで施されているあの武器に、まだあのような大技が隠されていたのかと。

「ラストいくぜぇぇぇ!!」

ヨルヴァがそう叫ぶと、放出されていたエネルギーが刃の一点に集中していくのが分かった。

(強力なのが来るっ!)

直感でシャワがそう思った瞬間、バンカーバスターの先端で大きな爆発が起き、ヨルヴァはその威力を体現するかのように大きく後ずさった。

「うっ……まだダメか!」

「ル……ルルゥ……」

瀕死のクルペッコが足を引きずり始める。

「逃がさないわっ!」

シャワが氷結弾を撃ちつけるも、逃げることに必死のクルペッコはそれを意に介さずに飛び立ち始めた。

「しまった……もう届かない」

「すぐ追おう!」

「ええ!」
「うん!」

このままでは回復を図られてしまう……三人はクルペッコの休息場であるエリアを目指そうと走り出した。



ーー次の瞬間



「クェェェェェェェ!」



遥か頭上でクルペッコの断末魔が聞こえたのだ。


「「「!!?」」」

三人が咄嗟に上を見上げると、クルペッコの死骸と共に『何か』が巨大な音を立てて地面に降り立った。




「クルペッコが……呼んだのかな?」

「いや……確かに呼び声は妨害したし、あの鳴き声はリオレイアのものだった。……つまり『乱入』ってやつだね。クルペッコが弱ったのを見て出て来たんだ」

「なんて狡猾……いえ、自然でそんなことを言うのは無粋ね。私も、こいつの話くらいは聞いてるわ……『無双の狩人』とは言ったものね」


「オォォォォォォン!!」

黒焦げになったクルペッコを巨大な脚で踏みつけながら、雷狼竜――ジンオウガは盛大に遠吠えをあげた。
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楽太郎

Author:楽太郎
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