スポンサーサイト

--/--/--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

狩人クライシス ~月下の雷鳴~【後編】

2012/11/16

穏やかな海に浮かぶ自然豊かな離島。
その温暖で喉かな狩り場に今、凄まじい緊張感が交錯していた。

「ウルルルルゥ……」

低く唸り声を上げる巨大な影。

碧色の鱗を覆うようにできた黄色の甲殻。その合間には純白に輝く体毛が生え揃っている。
狼を思わせる頭部には、鋭く尖った角が二本。
鋭い爪を持つ四肢は逞しく、無数の甲殻に覆われた尻尾が地面をえぐる。

この特徴を聞けば子供だって理解して悲鳴を上げるだろう。

無双の狩人、雷狼竜……数々の異名を誇る牙竜種――ジンオウガが悠々と立ち塞がっていた。

「何だよ……これ……下位の奴の比じゃねーぞ……」

「…………」

絶句するヨルヴァの隣で、バルスは不意に巷で言われていたモンスターのサイズの計り方を思い出した。


・「大きい」と思う奴は大体通常サイズ


・「大きすぎる……これは金冠だ」と直感する奴はまず銀冠サイズ


・「冗談だろ………」と一瞬呆け、死を直感してしまうのが金冠サイズ

だという。


ハンターよりも一回りも大きなクルペッコを、丸々隠してしまえる巨大な前脚の持ち主。
一体どれ程の年月を生きてきたのだろうか……この雷狼竜は間違いなく選択肢の最後に該当していた。

「何食べたらこんなになるんだよ……」

「まぁパンやパスタじゃないことは確かだね……」

軽口を叩いてる場合ではない。ーーが、そうでもしないとプレッシャーに押し潰されそうだった。

「どうしよう……兄ちゃん……」

「バルス……」

「……動いたらダメだ。目を逸らさないで」

バルスは二人にそう促すと、自分もすぐに武器を出せるように身構えながら、ジンオウガを真っ直ぐに見据える。

「グルルゥ…………」

ジンオウガはまだこちらを睨んだ動かない。

(このまま立ち去ってくれればいいんだけど、ね……)

しかしそんな願いも虚しく、雷狼竜は四肢に力を入れて体を大きく伸ばし、頭を空に傾けた。

「ォォオオオオン!!」

先程とは明らかに違う“敵意”を持った咆哮。
ビリビリと耳から体の芯まで震わせるバインドボイスに答えるように、三人は武器を取り出した。


開戦の合図である。


「おぉぉぉ!」

一番近くにいたバルスが、クルペッコを捕らえたままの前脚にトキシックジャベリンを勢いよく突き立てる。

「っ!?」

しかしガキンッという拒絶音と共にランスは大きく弾かれた。

「固い……!」

「なら頭よ!」

シャワが装填し直した氷結弾を撃ち込む、しかしジンオウガは全く怯んだ様子を見せない。

「嘘!? 氷が弱点なはずでしょ……!」

「なら効くまで攻撃するだけだよっ!」

そう言ってヨルヴァが弾かれにくい剣形態でジンオウガに切りかかるも、ひらりとバックステップで躱されてしまう。

「あの図体であんな身軽なんてありかよ!」

ヨルヴァが舌打ちをするも、直ぐ様バルスが警告の声を発した。

「何か来る!」

ジンオウガは背中を青白く光らせたかと思うと、軽く跳脚して光を振り払うように体をこちらに捻らせる。
すると、背から二つの光る球体が飛び出し、曲線を描いてこちらに向かってきた。

「雷の球!?」

バルスは叫ぶと同時に球体をガードする。
すると雷球は激しい音と共に電撃を放出した後、チラチラと光る粒になって四散した。

ほのかな光を発して飛び去るそれはーーよく見知ったもの。

「これは……雷光虫?」

「ジンオウガは雷光虫から電気エネルギーを吸収してるみたいなんだ!」

もう一つの雷球を躱したヨルヴァがバルスの元に駆け寄る。

「大雷光虫とは少し違うみたいだね……ヨルヴァ、僕もシャワもジンオウガとは戦ったことがない。簡単でいいから奴の情報を教えてくれないか」

「オイラも下位の奴を一度倒したっきりだから、上位にどこまで通じるかは分かんないけど……」

「それでもいいわ。……無いよりは全然マシよ」

シャワが遅れて二人の元にやって来た。それを見計らって、バルスはジンオウガに向けて閃光玉を投げ付ける。
パン! と音を立てて中から眩い光が放出された。

「ウォォン!?」

「今のうちに!」

視界を奪われたジンオウガが遠くで暴れ始めたのを見届け、三人は情報の共有を急いだ。



     



「グルルルル……」

ジンオウガが首を振って視界を取り戻す。決して長い時間ではなかったが、三人は既に武器を構え終えていた。

「情報通り、帯電をさせないように立ち回るんだ!」

「了解!」
「了解よ!」

バルスの号令と共に行動を開始する三人。

ジンオウガの左右に展開した二人が同時に腹部を攻撃を仕掛け、シャワの弾丸は弱点である頭に標準を絞る。

「ウォォォ!!」

「「!?」」


綺麗な陣形が決まり、必ずダメージを与えられると思った刹那、近接の二人が大きく吹き飛ばされた。

「バルス! ヨルヴァ!」

「う……」

「今何が……」

何が起こったか理解出来ていない二人にシャワが叫ぶ。

「尻尾よ……!」

シャワは目撃していた。
ジンオウガが尋常でない速さで尻尾を、体ごと強引に振り回したのを。

「OK。大体は分かった……もう喰らわないぞ」

「オイラも……あー、何となく」

当たり所が良かったのか、二人はすぐに立ち上がって回復薬を飲み干すと、滋養効果を身体中に行き渡らせるためにぐいと体を伸ばす。
隙だらけでただ危険で無駄な行為に見えるが、これをしないと効果が半減……最悪回復したい部位に行き渡らず、傷を癒せない場合だってある重要な動作だ。
若手のハンターほどこの行為を疎かにし、窮地に陥ってから重要性を再確認するのだ、

「行ったわよ!」

「むっ」

「うわっ!」

シャワの声に二人はハッとする。
回復薬で隙を逃さず、ジンオウガ攻撃を仕掛けてきたのだ。
二人が横に跳んだ瞬間、ジンオウガの巨体がそこを埋め尽くす。

ヨルヴァはわずかに避けきれず、軽い裂傷を負うもすぐに武器を振るった。

「はぁぁぁ!」

厄介な尻尾に麻痺毒を塗り込んだ刃で切り込むも、ダメージの通りが良くないと腕の感覚が訴えていた。

「こいつ滅茶苦茶かてぇ!」

「尻尾が持ち上がった瞬間に裏側を狙うんだ! ほとんどのモンスターはそこが柔らかい!」

バルスは固い甲殻を避けながら的確に猛毒を注入していく。

「オォォゥ!」

そんな二人を鬱陶しそうにしてジンオウガは前脚を振り上げ、踏みつけを仕掛ける。

「くっ!」

ガードしたバルスだったが、全体重を乗せたその威力に大きく仰け反る。
完璧には防ぎ切れず、ダメージがビリビリと体に残ってしまう。

「なんて重い攻撃だ……!」

踏み締められた地面は盛大に陥没していた。
まともに当たれば即スクラップだろう。

「グルルルァァ!!」

一発防いだだけでも限界のバルスに向けて、更にジンオウガは脚を振り上げる。

「……っ!」

「させるかぁぁぁ!」

「ウウォゥ!?」

ヨルヴァの重い斧の一撃が頭部に直撃し、雷狼竜はたまらず怯む。

「助かった!」

「へへっ! 借りは返したかんね!」

猛攻を抜け出したバルスは一旦距離を取る。

「シャワ、もうすぐヨルヴァの麻痺と僕の毒が効いてくるはずだ! 『あれ』を使ってくれないか?」

その言葉にシャワが驚いたように口を開いた。

「あれを……この修羅場で? ……上手く出来るか分からないわよ?」

「大丈夫、信じてる! あいつがまだ本気じゃないうちにダメージを蓄積させたい」

「っ! 分かったわよ!」

それを聞いたバルスは親指をビッと立てると(古い)、ヨルヴァの加勢に走っていった。

「こんなことなら師匠にちゃんと教わっとくんだったわ……」

ボソリと呟いていると、交代するようにヨルヴァが下がって来た。
回復薬を一口に飲み干すと、一人で相手はきつすぎるよ……とぼやいた。

「ところでシャワの姉ちゃん、『あれ』って何やるの?」

竜人族の尖った耳は伊達ではないのか、先程の会話を聞いていたようだ。

「あなたの麻痺がネックなんだから早く戻りなさいよね……こうするのよ」

シャワがシルバースパルタカスに手をかける。
するとバラバラと三つに分解してしまった。

「こ、壊れた!?」

「違うわよ! パーツの付け替えをするの」

そう言いながらシャワは荷袋から白いパーツを取り出した。

「ボウガンのパーツ?」

「ええ。これは『テイルカタパルト』っていうライトボウガンの一部よ」

テイルカタパルトは雪獅子の剛毛に包まれた耐寒性を持つライトボウガンで、氷結弾を連続して撃てる『速射』という機能を持っている。

「シルバースパルタカスのバレルをこっちに付け替えて………これで氷結弾の速射が出来るの」

「すげぇ! 複雑すぎて何やってたか分からなかったけど……」

「師匠はもっと上手く……ってヨルヴァ! さっさとバルスの加勢に行きなさい!」

「は、はいっ!」

ビクリと肩をすくませて走り去るヨルヴァを見てから、二人に背中を任せて最後の調整に取りかかる。

「本当、どこ行っちゃったのよ……」

そう呟くと、いつものキリッとした目に一瞬哀愁の色が浮かぶ。

「シャワの姉ちゃん! 麻痺ったよー!」

「毒もかかった!」

「! OK、いくわよ!」

シャワは頭に浮かんだ雑念を振り払うと、ジンオウガに向けて引き金を引いた。






「はぁ……はぁ……」

「………遊ばれてるのかな?」

「考えたくもないわね……」

戦闘開始から二時間が経とうとしていた。

未だに帯電のモーションすら見せないジンオウガに振り回され、三人はベースキャンプで三度目の休息をはかっている最中である。

「回復薬は二人でシャワの分まで使ってしまったし……これが最後の回復手段だね」

バルスは先程届いた応急薬を分配した。

「私は一つでいいわ。被弾しやすいあなた達が……」

「いや、恐らくあっちもダメージは溜まってるはずだ。次で必ず帯電を図ってくると思うから、シャワも用心して持っててくれ」

「……分かった」

「あれだけやって角を一本折っただけだもんなぁ……体力的にそろそろやばいよ」

くたっとベッドに座り込んでいたヨルヴァが「んん」と立ち上がる。

それは他の二人も同じ。
リタイヤも考えたくなる状況だった。

士気を上げなくては……と考えたバルスがあることを思い立った。

「ねぇ、ヨルヴァ。ジンオウガって雷属性でしょ?」

「ん? そりゃ見たら分かるよ」

「あいつの武器作ればさ、楽に雷属性のが出来るんじゃない?」

「!!!!」

ヨルヴァの顔色が目に見えて変わった。

「さぁ! 二人とも! 早くジンオウガをぶっ倒しに行こうよ!!」

「仕方ないわね……ケリをつけに行きましょうか」

ムードメーカーのヨルヴァが復活したお陰でシャワにも気力が戻る。

「よし、次で最後だ! 決着をつけよう!」

三人は掛け声と共に武器を拾い上げた。




     
――――――――――――


いつからここに棲んでいたのかは思い出せない。

だが『ハンター』と呼ばれる人間がやって来るようになる前からいたことは確かだ。

奴等は何度も私に挑んできた。
私は何度も奴等を蹴散らした。

回数を重ねる毎に小賢しい手段を使ってくる奴等に対し、私の体はより敵を倒す為に特化していった。

何時しか私はその競争に勝ち、手錬れのハンター達は限界を悟ったのか手を引いた。
残った馬鹿な連中は私利私欲のままにぶつかって来るだけ。

だから私は次第に本気を出すことをやめていった。


そんなつまらない日々が続いた今日、面白い連中がやって来た。

何度蹴散らそうとしても立ち上がり、あの手この手で私を倒そうと向かってくる。

昔の連中が帰ってきたような、そんな懐しい気持ちが込み上げた。

連中の孫だろうか?
曾孫だろうか?

元気のいい奴等だ。
悪くない。


恐らく最後になるだろう戦いに備え、私は久しぶりに雷光虫に呼び掛けた。


――――――――――――



「……向こうも準備万端ってわけだ」

「……あれがジンオウガの本気なのね」

「二人共! しっかり!」

バチバチと強力な雷光を身に纏う雷狼竜に一瞬圧倒される二人にヨルヴァが声をかける。

「勿論、大丈夫だよ」

「同じくいけるわ!」

「ウォォォォォォォ!!」

ジンオウガが空に向かい雷鳴のような音量で吠える。

それを合図にバルスとヨルヴァは武器に手をかけて走り出す。
シャワはすでに撃ち終えた氷結弾の代わりに通常弾Lv2を装填、先制攻撃を仕掛けた。

「はぁぁぁぁ!」

走った勢いのままにトキシックジャベリンを突き立てる。
その傷口には猛毒が注ぎ込まれるも、耐性が出来つつあるのだろう、序盤のような効果はもう望めない。

「麻痺ももう無理っぽいっ!」

ヨルヴァもジンオウガの間を縫いながら剣形態のバンカーバスターで切り込んでいるが、同じような手応えを感じているようだ。

「でもダメージは通ってる! このまま一気にいこう!」

「おっしゃ!」

強化ビンが切れたヨルヴァは流れるように形態を斧に戻し、そのまま横凪ぎに打ち付ける。

「グルルァァ!」

「ふっ……ふっ……!」

ジンオウガの三連続で打ち込まれる踏みつけをステップで躱し、最後の一撃にカウンターを試みた。

「せいやぁぁぁ!」

耐えに耐えた力を返すようにして放った一突きは、ジンオウガの胸部に大きな傷をつけることに成功した。

「ウォォォォォ……」

今の一撃が効いているのか、ジンオウガは普段とは違う静かな咆哮を上げ始めた。

「んっ!?」

チャンスだと攻め込んでいたバルスの足元が光り始める。

「うわぁぁぁっ!!?」

突如バルスが地面から現れた一本の雷の柱に包まれ、吹き飛んだ。

「バルス!?」

シャワの位置からは、ジンオウガの周りに次から次へと雷の柱が現れるのが見てとれた。

「止んだ……今だ!」

雷の柱が止み、隙が出来たと感じたヨルヴァが一気に間合いを詰めて切りかかる。

「待って! まだ……!」

何か嫌な予感がして叫んだシャワだったが、その瞬間ジンオウガから特大の雷光が吹き出し、ヨルヴァはそれをまともにそれを喰らってしまった。

「がっ……!?」

「ヨルヴァ!!」

吹き飛んだバルスとヨルヴァはダメージが大きく、電撃の痺れも相まって立ち上がることが出来ない。

「今粉塵を………!」

シャワが生命の粉塵を使おうと急いでポーチに手を伸ばすが、そこに信じられない光景が飛び込んできた。

「バルス!!! 避けて!!!」

ジンオウガが巨体を奮わせ、まだ起き上がれないバルスに向かって突進していたのだ。

「……っ!!」

バルスは何とか盾を構えるが、不意にジンオウガの姿が目の前から消えた。

「……えっ?」

「上ぇぇぇぇぇぇ!!」

「―――っ!?」

上を見上げた時には既に遅かった。

ーージンオウガはバルスの手前で大きく跳脚。
そして鋭く尖った背中を下にしてバルスへと落下していたのだ。




落雷が落ちたかのような轟音が響く。



粉々に砕けたトキシックジャベリンの盾の破片がこちらまで飛んでくる。



「あ…………」

バルスはエリア端の岩に叩き付けられていた。



「――――っ!!!」

シャワは持っていた持っていた粉塵全てを一度に振り撒いた。

白い粉は輝きながら周囲に広がり、三人を癒す。
しかしバルスはピクリとも動こうとしない。


「兄ちゃんっ! ……何寝てんだ! 起きろよぉっ!!」

粉塵で回復したヨルヴァもその光景に唖然とし、叫ぶ。

ジンオウガはそんなことは意に介さずといった様子でこちらに向き直った。
仕留めた相手には興味がない、とでも言いたげに。


「……うぁぁぁぁぁぁぁ!」

頭が真っ白になったシャワが通常弾を乱発する。
乱雑に飛んだそれは辺りにばら撒かれ、無数の穴を作った。


「うわっ! 姉ちゃん落ち着け! まずは兄ちゃんをキャンプまで運ばないと……!」

何とか冷静を保っていたヨルヴァが、ジンオウガの動きを止めようと閃光玉を投げつけた。

しかし、

「嘘だろっ……!?」

ジンオウガはふいと顔をそむけて閃光を回避してみせたのだ。

「……なら倒すしかねぇじゃねぇかぁぁぁぁ!!」

そのあり得ない光景と現状にぷつり、頭に血を昇らせたヨルヴァが弾丸の嵐の中を走る。

中心となる人物が崩れると、どれ程パーティーは脆くなってしまうのか。
そんなことを思わせる壮絶な光景がそこには広がっていた。

冷静さを欠いたハンターの先にば死゙があるのみ。

初めに叩き込まれた重要な教え。
しかし今の二人には思い出す余裕すら無かった。


――――――――――――

もはや狩人とは言えない無様な姿だな。
たった一人殺しただけでこの有り様……やはりこいつらも奴らと同じか。

無謀に走り、近付いてくる少年に向けてジンオウガは脚を大きく振り上げた。

これで終わり、か……。
少しは楽しめたが、残念だ。

さあ降り下ろそう、そう思った時である。

ゾクリ、とジンオウガの長年の勘が危険を告げた。

何だ……?

ジンオウガは降り下ろそうとした脚を止めて後ろを振り返る。



死神を見た気がした。


――――――――――――

「嘘………」

「兄ちゃん……!」


その異様な光景に二人はハッと意識を取り戻した。

ふらりと立ち上がったのは一人の、一匹の黒い死神。

それは砕けて機能しない盾を投げ捨てて両腕で槍を掴むと、人間とは考えられないような速さで駆け出していた。

「グァァァァ!」

ジンオウガがそんな『死神』を迎え撃とうと尻尾を円を描くように振り回す。

『死神』はそれをジャンプして躱してみせると、その勢いで槍をジンオウガの背中に突き刺した。

「―――ッ!?」

あまりの痛みにジンオウガがのけ反って暴れまわる。
槍を引き抜きながら再び跳脚すると、『死神』はシャワの近くへと降りたった。
ジンオウガは背の痛みに地面を転げ回り始める。


「ば、バルス……?」

槍を片手にふらふらと立っている男に恐る恐る声をかけた。
普段は何となく読める表情が全く読めない。
そんな『死神』が反応するかのようにシャワに向き合った。

「…………」

虚ろに空いた双方の眼孔からは、怪しげな紅い光が溢れている。

(正気……じゃない!?)

そう感じたシャワの行動は早かった。

「……このっ! しっかりしなさいよ!!」

鋭い平手が髑髏に響く。

「――っ!??」

ふうっ、と光が消えて眼孔は元の漆黒に戻った。

「あれ? ……ん? シャワ?」

「……心配かけさせるんじゃないわよ!!」

ぼけっとしているバルスにシャワが怒鳴る。

「いやぁ、ごめん……あいつの一撃を受けてから記憶が無くてさ……。粉塵使ってくれたの? ダメージが抜けてるね」

「無意識であんな動きをしたっていうの……?」

「あんな動き……? あれ!? 盾が無い!」

空いた片手を見て驚いた声を上げる。
本当に意識が無かったようだ。

「さっきの攻撃で砕けたのよ!」

「あ、そっか………ん?」

バルスがトキシックジャベリンを両手でくるくると振り回しながら首を傾げた。

「どうしたの?」

「このスタイル……何故かな? しっくり来るんだ」

「しっくり?」

「うん。昔……こうやって戦ってたみたいな……」

「! それって記憶が……!」

「それはさっぱり。ん、取り敢えず話は後だ! あいつを倒す!」

話している間にジンオウガが起き上がり、距離の離れていたヨルヴァを狙おうとしていた。

ごくりと応急薬を飲み干すと、再び片手に槍だけを持った状態でジンオウガへ向かおうとしたが、ピタリと足を止めてシャワを振り向く。

「あとさ、シャワ」

「何……?」

「今凄く言いたい台詞があるんだけど……」

「………言いなさいよ」

くだらない事を言う予感がしたが、ダメだと言っても言うだろうから了承する。


「盾なんか飾りなんだよ!!」

「…………今の状況でそれはないわ」


そう言ったバルスの姿は素晴らしいほど晴々しかったという。




「兄ちゃん! 無事で良かった……ってなら早く援護してくれよ!」

バルスが到着してみると、汗だくのヨルヴァがジンオウガの攻撃をギリギリで、半泣きで避けてながら応戦していた。

「ごめんごめん!」

そう言いながらバルスはトキシックジャベリンを振り上げる。

「だぁぁぁぁぁ!」

斜め上から袈裟懸けに降り下ろし、その軌跡をなぞるように切り上げる。

そして頭上で槍をヒュンヒュンと回しながら跳び、遠心力と重量を乗せた一撃を頭に叩きつける。
トキシックジャベリンの柄が大きくしなり、ジンオウガは弾かれたように仰け反った。

「グォォォ!!?」

そんなトリッキーな動きと攻撃にジンオウガは対応しきれず苛立たしげに呻く。

「あんな動き見たことねぇよ……」

限界……っ! と一度戦線を離脱していたヨルヴァがあんぐりと口を空ける。


重く堅牢な盾を無くすことで身軽になり、リーチが長く素早い攻撃を繰り出すことが可能になったバルスの新しいランスの型。

その変化は片手剣から双剣に派生した事象によく似ていた。

「はぁぁぁ!」

疾風のごとき突進を可能にする強靭な脚力と、突き立てた槍の反発力で飛び上がり、空中からの襲撃も可能にする。

それは巨体の欠点である大きな死角を、最大限に活かした戦法でもあった。

「あぁぁぁぁぁ!!」


バルスは切り裂こうと振り回した凶爪をひらりと回避し、その腕を踏み台にして一気に駆け上がった。
無防備な背中を槍で執拗に攻撃していく。

「ウォォォォォ!!」

痛みに悶えながらも雷狼竜は体を振るってバルスを振り払うが、既にバルスは地面へ降り立った後であった。

「グルルルル………」

深手を負いながらも、激しい敵意を剥き出しに唸るジンオウガ。

果てが無いと思われた戦いの終焉が今、確実に近づいていた。

「バルスばかり活躍されちゃたまらないわ! 私達も加勢するわよ!」

「ラジャ!」

ヨルヴァの斬撃が後ろから、シャワの弾丸が横からジンオウガを襲い、バルスに向けられていた意識を散乱させた。

「ありがとう! 一気に攻め立てるよ!」

援護をうけ、バルスも武器を強く握り直す。

「だぁぁぁぁぁ!」

その間もヨルヴァのバンカーバスターはジンオウガへ麻痺の刃を食い込ませていく。

「……ッダメだ! やっぱ麻痺は止めて斧モードで……」

「ヨルヴァ、そのまま攻撃を続けて! 私がチャンスを作るわ!」

「――っ! 了解! 頼んだぜ、シャワの姉ちゃん!」

「ほらほら! こっちだよ!」

シャワとヨルヴァがチャンスを作ろうとしている間、バルスは上下左右へとジンオウガの周りを駆け回り、翻弄していく。

「ウォウゥゥゥ………!」

何とか仕留めようと食らいついていたジンオウガだったが遂に動きが鈍り、涎を垂らし始めた。
疲労状態に陥ったというサインである。

「今よ! これを喰らいなさい!」

シャワは大きな反動を受けながら特殊な弾丸を撃ち放った。
カラ骨にゲネポスの牙から抽出した麻痺毒をふんだんに詰めた、麻痺弾Lv2である。

「おー! 麻痺った! ……ってことはぁ」

ヨルヴァがニヤリとし、バンカーバスターを引き戻す。

「再びこいつをぶつけるチャンス到来だぁぁぁぁぁぁ!!」

バンカーバスターから強力なエネルギーが溢れ出て、ジンオウガへと流れ込む。

「はぁぁぁぁぁ!」

それに合わせ、バルスが重心を落としトキシックジャベリンを高速で何度も突き出した。
暴風のような突きの嵐はジンオウガの固い甲殻をお大きく削り取っていく。

(必殺! 五月雨突き! ………なんてね)

(バルス……攻撃しながらにやけてる気がする……気味が悪いわ!)

「これでフィニッシュだぁぁぁぁぁぁ!」

本日二回目のエネルギーの収束。
それは運良くか、ジンオウガの急所で解放された。

「オォ………ォォ」

爆炎が晴れると、もはや瀕死の状態のジンオウガそこに立っていた。
そしてゆっくりと地面に倒れ始める。

「……クエスト完了っ!」

疲労困憊のヨルヴァが叫びながらどさり、と腰を下ろした時。

「ウォォォォォ!!」

「……えっ?」

ジンオウガは倒れかけた体を前足を突き出して支え、シャワに向けて走り始めたのだ。

「ひっ……!!」

安心した瞬間に起きた出来事に固まって動けないシャワ。

「姉ちゃん! ……くそっ! 動けよっ!」

すぐに起き上がろうとしたヨルヴァだったが、足はすでに疲労の限界を越していたらしく、全く動こうとしない。

(避けなきゃ………避けなきゃ……っ!)

そう必死に念じるものの、完全に体が竦み上がってしまっているシャワは、迫り来る猛威をただ見ることしか出来なかった。

後5メートル。
ジンオウガにとってはたったの一歩だ。

(もう……ダメ……)

目をつぶろうとした瞬間、黒い壁が目の前に立ちはだかった。

「大事な相棒に手を出さないでくれるかな?」

「!?」

ハンターにとって命そのものである武器――トキシックジャベリンをも投げ捨てて走ったバルスが今、シャワの前で仁王立ちしていた。

「ば、バルス………」

勿論、人ひとりが壁になったところでこの巨体を止めることは出来はしない。

だがバルスが前に立った瞬間の、言いようの無い安心感は今でも忘れられないと、後にシャワはそっぽを向きながら語ることになる。



「う、嘘………」

「これは一体……」

ジンオウガを前に二人は唖然とした声を漏らした。

「ウォルルゥ……」

バルスが壁となって立ちはだかった瞬間、ジンオウガはピタリと突進をやめた。
そしてまるで我が子にかけるような、そんな優しい声で鳴いた後、ゆっくりと地面へ伏したのだ。

パァッとジンオウガから雷光虫が一斉に飛び去る。

ーーそれは宿主の完全な死を物語っていた。

「なんか……『ありがとう』って言ってた気がしたわ」

シャワがぼそりとバルスに呟く。

「奇遇だね、僕もだ。……ねぇ、どういう意味だったんだい?」

そう言ってバルスは傍らで眠るジンオウガに語りかけるも、その口が再び開くことは無かった。


「二人ともー! 大丈夫!?」

バンカーバスターを杖にして、ヨロヨロとヨルヴァが歩み寄ってきた。

「平気よ! 今度こそクエスト完了ね」

「よかったぁ! あ、へへっ……実は二人に見せたいものがあるんだ!」

身体中傷だらけのヨルヴァがニシシと笑う。
どこで拾ってきたのか、ふらふらと振っている手には碧色の玉がしっかりと握られていた。



◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆



あれから二年。
オイラは修行の旅を終えてこの港町に帰ってきた。


身長は全然伸びなかったけど、実力は大分ついたと思う。

あの二人は無事に仲間と会えてるのかな?
オイラもそんな仲間が早く欲しいなー……。



……うん! ここならすげー出会いが出来そうな気がする!

あの二人に負けないくらい、最高にいい仲間を見つけてやる!


「こんちわー!! おぉ、すげぇ人数だ……なんかいいクエスト、黒ティガとか貼ってないかなぁ?」


そう言って酒場の門を開いたヨルヴァの背中には、黄と碧のスラッシュアックス――王牙剣斧【裂雷】が堂々と背負われていた。


                        【次章へ】
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

楽太郎

Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
楽しんで読んでもらえたら幸いですね
(・◇・@)

お客様カウンター
こんなお時間ですニャ
検索フォーム
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
最新トラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。