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ガイドポストは龍の調べ ~Lost memory´s~ 第七話

2012/11/30

――霊峰での一件から二日



「ハンマーさんはまだ見つかっていないんですかっ!?」

アクアはギルドに押し掛け、もう何度目になるか分からない問答を繰り返していた。

服は泥にまみれており、腕や足には擦り傷だらけで、ぶっきらぼうな友人に会った瞬間「一体何があったんだ!?」と目を見開かれるような有り様のアクア。

ハンマーを探すため、嵐の後で地盤の緩い山々を駆け巡り、村に帰っては情報収集、そしてまた村を出る……一晩経ってもハンマーが帰らないことに気付いてから、アクアはひたすらにそれを繰り返していた。

「霊峰から渓流エリアまで捜索をしていますが未だに……」

「あの人……あんな体で何処に………」

「アクア様……申し訳ありませんが、探索を始めて明日で三日。明日以内に見つけられなければ探索は規定により打ち切りとなります」

頭を下げたままそう言った受付嬢の言葉に、アクアは思わずカウンターに乗り出した。

「そんなっ!? あの人は必ず何処かにいるはずです! 私たちの助けを待ってるに違いありません!」

だが受付嬢は申し訳なさそうに、しかし頑なに首を振った。

「……いいです。私は探し続けますから!」

疲労なんて感じてる暇はない。アクアが再び渓流に赴こうとした時、よく通る声がギルドに響いた。

「見つけた! おい! ハンマーを見つけたぞ!!」

肩まで荒く伸ばされた、見慣れた赤髪が視線に飛び入む。
事情を聞いた瞬間、仕事を放り出して捜索を手伝ってくれた友人の一人。

「フレアさん!? 本当ですかっ!!?」

「あぁ、やっぱり霊峰だった。あいつ気付きにくい場所に倒れてやがって……ま、俺にかかれば楽勝よ」

ぶっきらぼうに言うフレアの姿はボロボロで。
傷だらけで。
泥だらけで。
彼がどれだけ必死で探し回っていたかを物語っていた。

「今ハンマーさんは……?」

「チョモが医療室で治療してる。安心しろ、特に外傷は無かったから秘薬の反動と心的ダメージが原因だろうとよ。……命に別状はねーよ」

「よかった……本当によかったで……す」

「おいっ! 大丈夫か?」

安心したからか、今までの疲労が一気に吹き出たのだろう。
糸が切れたようにペタリと座り込んだアクアは、そのまま眠り込んでしまった。

「ったく、こんなになるまで無茶しやがって……」

と、悪態をつきながら集会場の長椅子までアクアを運んで寝かした時、医療室の方から部下の一人が駆けつけてきた。

「フレア様! チョモ様がお呼びです。大至急、と」

「何だと!? 今行く!」

チョモが大至急などと言って呼び出すのは初めてのことだった。
嫌な予感で渦巻く心を押さえ込みながら、フレアは医療室へ足早に向かっていった。







「フレア……これ見て」


チョモはいつになく真剣な顔でフレアを招き入れた。

俯きがちなチョモの表情、そして『それ』をみた瞬間、予感は確信に変わった。

「おい……『これ』はもう治ったはずだろ!?」

フレアは驚愕を隠せなかった。
彼が見たのは診療台でうつ伏せに寝かされているハンマーの背中。
汗ばみ、顔色の悪い彼女の背中には白い包帯が、否、『白かった』包帯が巻かれていた。
アマツマガツチと戦った時には無傷だったはずの場所。それどころか、ここへ運び込む時すら無かった場所に―――赤い三本線が色濃く滲んでいた。

「原因は分からない。それでも……それでも五年前にハマちゃんを瀕死に追い込んだ『あの傷』が開き始めてるんだ」

「何で今更……秘薬飲んだってこうはならねぇだろ?」

「勿論……秘薬は酷使しない限り強い倦怠感ぐらいで済むよ」

「だったらなんで……変だろうが! 必ず原因があるはずだろ!」

その言葉にチョモはふと思い出したように顔を上げた。

「……思えばさ、あの時だって変だったんだよね。フレアが運んで来た時のハマちゃんの傷……今だから言えることだけど完全に致命傷だったんだよ。そのはずなのに……何で治癒しかけてた。てっきり私は誰かが古の秘薬級の薬を使ってくれたのかと思ってたけど……」

「……嘘だろ? あの時、周りには人間とティガの死体以外何も無かった。それにあの戦場にはそんな薬持ってる大層な身分の奴いねぇよ」

「んじゃ奇跡でも起きたって言うわけ?」

「そんなこと言って……いや待てよ……っ!」

フレアの頭の中で、バラバラだった記憶がパズルのように組み立てられていく。

そして最後の1ピース。
霊峰での一件、マリアンの言葉を組み込んだ時、フレアは戦慄した。

「マジかよ……でもそんなことある訳……っ! チョモ、ここは頼んだぞ!」

「えっ!? 何か分かったの?」

「あぁ! だから早く止めねぇと!」

「ちょっ! 止めるって何をさ!?」

(急がないと取り返しのつかないことになる……!)

走ったフレアがたどり着いたのは村の小さな広場。
その木陰で雑談をしていたのは黒金コンビ。

「ねぇ……やっぱり思い出すのはよしなさいって」

「いや、僕だってそんな危なっかしいことまだしたくないけどさ。あれからどうも頭が意識しちゃって……」


「その記憶飛びやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



思わず飛び蹴りをした。


ぶべらっ! と蛙が潰れた様な声を上げてバルスが池に水柱を立てる。

「ひゃ!? ば、バルス!? ちょっと何すんのよっ!」

「それはこっちの台詞だ! てめぇら、命懸けの雑談してたんだぞ!」

「は!? それってどういう………まさか記憶の話?」

勘のいいシャワは直ぐ様表情を引き締めた。

「あぁ、だからお前にだけは話しておく。これは俺の勝手な憶測だが、恐らくほとんど間違っちゃいないはずだ。バルスとあいつ……ハンマーの過去についてのな――」






フレアの話はシャワに衝撃を与えるには充分なものだった。





「バルスとハンマーさんが……同じ施設に、ね。確かに時期も全て一致するってわけね」

「あぁ。だからハンマーがティガに襲われたときも二人は一緒だったんじゃないかってな」

「それであの赤衣の話と繋がるって訳ね……。ま、あのバカのことだから……そんな状況なら確かに悪魔にでも魂を売るでしょうね」

少し目を伏せてため息混じりにシャワは呟いた。

「その悪魔ってのが何なのかはまだ分かんねえが、恐らくマリアンの計画はそれと関係してるんじゃないかと思う」

「……そっちは貴方達に任せることにするわ。ギルドナイトの情報網って凄いんでしょう?」

「まぁな。こんな話も本来なら機密にしなきゃならねぇんだが、場合が場合だからな。シャワ、だから悪いがこの話は……」

「誰にも口外するな……でしょ? 特にバルスでしょ? 分かってるわ」

「話が早くて助かる。バルスの記憶はハンマーの命と確実にリンクしている。あいつには悪いが、もし解決法が解るる前に……」

「それも言わなくていいわ。……いざとなれば殴ればいいのよ」

「……全く、俺の周りの女性陣は本当に心強いな。なら話はこれで終わりだ……俺はハンマーの様子を見に戻る。バルスのこと、すまんがよろしく頼む」

「分かったから早く行きなさいよ公務員」

「……辛辣な応援ありがとよ」





「…………!」

フレアが髪を掻きながらギルドへ戻っていくのを見届けてから、シャワはバルスの落ちた池を覗いた。

「…………本当、お人好しな男だわ」

そこにいたのは仰向けに浮かぶ髑髏男。
自ら頭を岩に打ち付けたのだろう、頭部は池に落ちたときよりも明らかに腫れ上がっていた。

「……やだ、私ったら……こんなにひねくれてたかしら」

ずるずるとバルスを引き上げ、三発のビンタを見舞う。

「おはようバルス。行水した感想はどう?」

「……取り敢えず、一発目で目覚めた僕に放った残りの二発について聞きたいんだけど……ていうか何で僕は池に?」

「……あんたが暑い暑い煩いから池に突っ込んであげたのよ。感謝なさい!」

「突っ込むなら方向を考えて欲しかったかな! 見て凄いタンコブ!」

「……あとで薬草塗ってあげるわよ」

「……あれ? 何かいつもより優しいね? どうかしたの?」

「文句あるなら火薬草でもいいのよ?」

「シャワはいつも優しいよね! 知ってた知ってた!」

「………」



―――ねぇバルス。あなたは冷たい池の中で何を聞いて、何を考えたの?


     





「チョモ! ハンマーの様態はどうだ!?」

一人医務室にいたチョモは待ってたとばかりに立ち上がった。

「それが聞いてよフレア! あの後ハマちゃんの傷がどんどん悪化していって……もうダメだって思った瞬間、すぅって煙みたいに傷が消えちゃったんだよ! アンタ一体何したのさ? ちゃんと説明……ってフレア聞いてる?」

早口で捲し立てるチョモだったが、フレアの表情は次第に険しく変わっていった。

「ちょっと待てよ……ってことはあの馬鹿野郎……悪い、もう一回行ってくる!」

「ちょっと! もう! 待ってってばぁ!」

フレアは走った。

あいつは間違いなく。
正しいことをしたのだろう。
本来ならよくやったと言わなければならないのだろう。
だがそれでも、それでもフレアは戦友を一発殴らずにはいられなかった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




――まずいなぁ、と思うんです。

第一話から主人公としてやってきたはずの。
みんなの先頭にいなければならないはずの。
そんな私の最近の脇役感に……。

だからこそ、こうやってしゃしゃり出て来たのです。(もうこれが主人公の表現ではないですけど)

今この物語は私だけの目線。
――私の中心の、世界。


……うーん、何かとっても自己中心な発言に聞こえちゃいますね。

ともかく。

「うーん………」

そんな主人公の私は今、全身泥だらけでギルドの床に転がされています。

いえ、フレアさんが悪いんじゃないんです。
私はちゃんと長椅子に寝かされていました。

けれど。
私、実は寝相が少々悪いんですよね。

フレアさんが駆け足で集会浴場を出た五秒後には見事に転げ落ちていました。

仰向けに寝かされてましたから、半回転寝返りをうって落下。
鼻を強打したわけです。

「いったぁ………」

疲れよりも痛みが勝ったようで、私は涙目になって鼻を押さえる――それで痛みが引くわけではないですが、何となく楽になりますよね?

「うわ……改めて見ると酷い格好。ハンマーさんのお見舞いの前に一回洗って着替えないとなぁ」

服には乾燥した泥がこれでもかと付着していて、動かす度にポロポロと土が落ちる。
成る程……さっきから受付嬢さん達の視線が痛いのはこのせいか。

立ち上がった私の足元には、軽く砂遊びが出来るんじゃないかという量の土が広がっていた。

「か、顔もかさついてるし……サッと温泉に入ろうかなぁ~」

はい。逃げました私。
明日からも毎日顔を合わせるのにどうしよう。

ひとまず。

心が汚くなってしまったのは体が汚れているからだと言い聞かせて。

「ふぅ~……疲れが取れる」

流石、我が地元の名物温泉。(ここから逃げ出してたことは今は忘れます)

「さてと、早く上がってあの土を片付けないと……」

温泉で心も体も綺麗になった私は替えの服(またいつものユクモ服ですが)に着替え、清々しい顔で外へ繋がる暖簾(のれん)をくぐりました。



……うわぁ。

うわぁうわぁ。

そこにあったのは。
いえ、そこに無かったのはさっきまであったはずの土。

ど、どどどどうしよう!
私が少しの間……少しの間温泉に浸かってる間に片付けられちゃった!?

二人いた受付嬢の一人がいなくなってる(残りの上位担当の方――ササユさんはにっこりと私に笑いかけてます。とても怖い)ということは……。

「………温泉ではくつろげましたか?」

「……あ……は、はい」

箒と塵取りを持ち、直前まで土を外に捨てに行っていただろう下位担当――コノハさ――コノハ様。
にっこりと冷たい笑いを私なんかに振り撒いて下さいます。
さっきまで私の文句を黙って聞いていてくれていたのに……。

あぁ、ここでも年功序列が……ってそんなことより、また村から逃げ出したい……。



――そんなことを考えていた時。







フレアさんが血相を変えて集会浴場の外へと走っていったのです。


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Author:楽太郎
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