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ルナティック・バンブス 第一話

2012/12/05

昔、一人の少女がいた。

少女の名は、シャルワナ=イーゼンブルグ。

ドンドルマで一、二を争う上流貴族『イーゼンブルグ家』に生まれた娘。
その長女にして、
期待の次期家長であった。


――幼い頃からの過酷ともいえる教育により、文武両道、才色兼備にして類い稀なるカリスマ性を持っていた少女。

そんな彼女は。
世代交代まであと一年半、というところでその姿を消した。

消えたといっても忽然と消えたわけではない。
ちゃんと父親から了解を取って。
断固として、生まれてから一度も、外出の許可でさえ出さなかった父親から。
文字通り、言葉と力でその許可を『奪って』姿を消したのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



――そして現在。少女とその父親は、ユクモのギルドにて一年半振りの再開を果たしていた。
しかしそこには当然、感動的なムードは存在しない。

「シャルワナ、約束の時は来た。これ以上の我が儘には付き合えん」

「………」

現イーゼンブルグ家の長、ダイガス=イーゼンブルグの重く低い声が静まり返ったギルドに響かせる。
黒々とした髭を生やしたその風格は威厳に満ち、決して大柄ではないその体格を見かけ以上に大きく見せていた。

「黙りか……。シャルワナ、シャル。こっちを見なさい」

「その呼び方で呼ばないで」

冷たく、棘のある言葉。

そんな彼女に対して、ダイガスは――内心穏やかではないだろうが――おどけるように言ってみせた。

「父に向かって随分な口ぶりじゃないか、シャル。あの時、私が後を追わせなかったのはお前の決意に対しての手向けのつもりだったのだぞ?」

「……後からならいくらでも言えるわ」

その言葉にダイガスの目がギッと険しくなる。

「お前は折角の、お前が自由でいられる最後の時間を棒に振ったようだな。お前なら立派にイーゼンブルク家を継げると思っていたが……どうやら私の見込み違いだったようだ」

「勝手に決めないで! いつまでも家柄にこだわり続けて……その為に一体どれだけの犠牲が払われたと思ってるの!?」

「…………」

空気が不穏に変わる。
しかし少女は続けた。

「家を出てから街で暮らして、旅をして、色々調べたわ。……やっぱり私の家はおかしかった。意固地なプライドなんか張らずに、下らない伝統なんか捨てて、手を取り合えば……皆幸せに……出来たはずなのに……本当に大切なものを守れたはずだった!」


――お母様だって……


シャルワナは――シャワは憎しみの籠った目で実の父親を睨んだ。


「下らん。……もはや口で言っても無駄なようだな」

ダイガスはその視線を一蹴し、腕を振り上げる。

「……っ!」

咄嗟に目を瞑るシャワ。

しかしその腕が降り下ろされることは無かった。


「……何の真似だ」

「貴方は少し冷静になるべきだ。生憎ここはハンターズギルドの中……ギルド内での争いは僕たちギルドナイトが取り持たせて貰うことになっているんでね」

ダイガスの腕を掴んだバルスの姿が、そこにはあった。

「バ…バルス……」

いつになく弱々しく名前を呼ぶシャワ。

「ごめんよ、見てられなかった」

バルスがダイガスの前に立ちはだかる理由はそれで十分だった。

「実の娘に手を上げるなんて、よくないですね」

「素顔も見せない奴の戯れ言など聞かん。不気味な奴め……そこをどけ」

バルスの腕を振り払い、なおも傲慢に押し退けようとするダイガス。

しかし、

「なら素顔の見えるギルドナイト二名追加で文句無いでしょうか?」

「改めて言う、ここは俺たちギルドナイトが取り持つ」

「次から次へと……」

チョモとフレアがずい、とバルスに並んでいた。

「二人とも……!」

「おい金髪、狩りん時の凄みはどこいったんだよ? 親父の前だからってビビってんのか? ……そんなたまじゃねぇだろ」

「同感だね」

フレアがにっと笑うと、チョモが同感だとウインクを送った。

「シャワがいつも何か考えてたのは知ってたよ――何かを決意してたのも。僕らが後押しするからさ……安心していい」

バルスが力強い言葉をかける後ろでは、アクアとハンマーがいつでも出れるように用意してくれている。

こんな、誰もが呆けるような急展開でも味方してくれる人達が、本当に心強かった。

「ふふっ……そうよね。何を怖がっていたのかしら」

どこかにまだ、昔からの父への畏怖が残っていた。
しかし、その最後の枷は――今外れた。

――もう大丈夫、ありがとう。

その言葉に三人はスッと後ろに下がる。
再び父親と合間見えたシャワの目にはいつもの、いつも以上に強い光が宿っていた。

「お父様。時期が来たら私から出向こうと思ってたのに、わざわざ出向いて下さってありがとうございます」

「ふん、やっとまともな口を開いたかと思えば……その目付き、気に入らんな」

ダイガスが低く唸る。

シャワの周りには、今やダイガス以上の威厳が漂っていた。

「約束通り、一年の自由を終えた私はイーゼンブルク家を継ぎます」

「分かればいい、なら早速……」

「――しかし」

シャワの話は終わりではなかった。
一年間考えてきたことを。バルスと共に行動して気付いたことを。

――今、父親にぶつけようとしていた。

「私が継ぐのはイーゼンブルク家のみ。お父様の、イーゼンブルク家の下らない伝統を引き継ぐ気はさらさらないわ……我が家が我が家であるために犠牲が必要なら、そんな家はいらない」

「なんだとっ!? 正気で言っているのか!」

シャワは、怒りに体を震わせるダイガスと、その後ろに控える従者にも聞こえるように、大きく胸を張り、高らかに声を張った。

「聞きなさい! イーゼンブルク家の当主となることを、今ここに宣言するわ。それにあたって、土地や医療における権利を街に明け渡す。土地なんか、あんなに沢山あっても意味がないもの」

「何を勝手な……」

ダイガスが憤慨を露にする。
しかしここからが本当の隠し玉だった。

「そして裏で取り扱っている禁止薬物やモンスターの違法取引の撤廃」

「!?」

ざわり、周りで様子を窺っていた村人にもどよめきが広がる。

「……こんなことまでして家の威厳を取り持ちたいなんて、正直知ったときは驚いたわよ。全部が全部ギリギリ法の穴を抜けていたから気付くのに時間がかかったけど、今はもう違犯よ。証拠はギルドへ提出するので、しかるべき罰を受けてください……お父様」

「……そんなところによく気付いたな」

「私を誰だと思ってるのよ。むしろ喜んで欲しいわ、お父様の教育のお陰で娘がここまで優秀になれたんだってね。……何も知らないで、私が人形みたいに表面上の家長を継ぐと思った?」


「……流石は我が娘といったところか」




心配するように駆けつけた従者を振り払いながら、ダイガスは尚も威厳を崩さずにシャワを見た。

「私が手を汚してまで守りたかったもの、守らなくてはならなかったものが何なのか……いずれ分かる。その時にどういう決断をするか、今の内に考えておくんだな」

「私は私のやり方で我が家を守っていくつもり。心配は要らないわ」

心配か……お前にそんな気遣いはせんよ、とダイガスはカカと笑い、そのまま後ろを向いてギルドを出ていった。
その後、彼はしかるべき場所へと連れていかれたという。



     


「……皆ごめんなさい! 何て言っていいか分かんないけど、本当に驚かせてごめんなさい。そしてありがとう……もう大丈夫だから」

開口一番、シャワが両手を胸の前で合わせて口にしたのは、そんな謝罪の言葉だった。

「いやぁ気にしないで! 私たちも余りの急展開にノリで動いちゃったって言うか……ねぇ?」

「あ、あぁ。俺もつい反射的に……なぁ?」

「ハンマーさん! 私たち何もしてない!」

「違う! カットされただけだから! 私は!」

「私は!?」

「アクアは前回のせいでしょ!」

「ぜ、前回って何の事ですか!」

皆が皆、シャワの問題が解決したであろう事に喜び、彼女を囲んで盛り上がった。
何より、有名貴族の内でそんなことが起こっていた事への驚きも相まって大騒ぎとなった。


「………」

ただ、そんな喧騒の中で一人、バルスはじっとシャワのことを見つめていた。





――夜、皆が騒ぎ疲れて寝静まった頃。村の広間で焚き火で暖を取る人影が二つ。

別段、焚き火をつけるほどの寒さは無かったのだが、何となくそうするべきだと感じたのだ。



「じゃあ……帰るんだね?」


バルスが、確認するようにゆっくりと言った。


「えぇ。今の家は大分ごたついてると思うし、私が行かないとやっぱりダメね」

シャワは少し寂しそうにクスリと笑う。


「私の旅は一旦終わり。貴方のこと散々聞いておいて、私は結局……最後まで言えないままだったわね。……本当にごめんなさい」

「レディの秘め事を詮索する紳士が何処にいるのさ? ……大丈夫。何となくだけど、分かってた」

「そっか……ありがとう」
そう言って、しばらく揺れる炎を眺めていたシャワだったが、「やっぱり……」と顔を上げた。

「我が儘かもしれないけど。そうやって私の重みを背負わせようとする、ずるいことなのかもしれないけど……バルスには知ってて貰いたいの。
私が旅に出た理由。
世間知らずだった幼い私の、笑えないくらい稚拙な話なんだけど……」


不安げにバルスの方を覗くシャワ。
すると勿論、そう一つ返事で返す彼の真っ黒な横顔が見えた。
炎に照らされたその仮面下で、彼が優しく微笑んでるのが――今の私には分かった。



「……三年前、彼女がイーゼンブルグ家を訪れたことから私の物語は始まったの」

シャワは思い返すように語り始めた――



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「お父様! この家にハンターが来るって本当ですか?」


――当時14だった私はその話を聞いた時、大興奮でお父様のもとに駆けつけたんだっけ。

「そうだ。少しの依頼と、お前に外にどれだけ危険があるかを聞かせておきたくてな」

「うわぁ凄い! 一体いつ来るの?」

――当時の私は箱入り娘もいいところで、外の世界のことなんて勉強でしか知ることが出来なったの。
――お父様はハンターに憧れていたらしく、家にはハンターの冒険談や英雄の伝記が沢山あった。だから私も、ハンターっていう職業に強い尊敬と憧れを持っていたのよね。

「明日には着くだろう。それよりもシャルワナ、何度も言うが私と話すときは……」

「け、敬語でしたね。すみません……」

――これは私が十になった時に言われたこと。
でも今まで普通に接していた父親にいきなり敬語を使えと言われて戸惑っていたのは確かよね。
……思えばあの頃からお父様は変わってしまっていたのだと思う。

「……まあいい。ともかく、明日は我が家の長女として名を汚すこと無いよう心掛けなさい」

「はい!」

憧れのハンターが家に来る。
その事で夢中になっていたシャワは怒られたことなどもう忘れて、無邪気な返事をしていた。

「ダイガス様。もうそろそろ……後は私がしておきます」

―― ……。

「うむ、そうするか」

「さぁ、シャルも明日の為に早く寝ておきなさいな」

――本当に優しい声だった。今でも鮮明に思い出せる……お母様の笑顔。

「はい、お母様。おやすみなさい!」

――少なくとも、あの頃の私は。何も知らなかったあの頃の私は幸せだったのだろう。
小さな小さな、箱の中で。あの時の私は、街が戦火に包まれようとも呑気に明日の朝食のことを考えていれたのだと思う。


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Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
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