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ルナティック・バンブス 第二話

2012/12/09

「……これが依頼の品です」

「素晴らしい……よくやってくれたハンター殿。流石、ギルドからの斡旋だけある。そしてこれが報酬だが……本当に『これ』でいいのかね?」

「……はい、問題ありません」

「ふむ、なかなかいい趣味をしている」

翌日、客間にはハンターが訪れていた。
イガスとハンターがそれぞれの品物を丁重に受けとった時、ギィ、と客間の扉が少し開く。


――恐る恐る、顔を出したのは、言うまでもなく私。

それを見逃すダイガスではない。直ぐ様怒声が響く。

「シャルワナ! 部屋で待っていろと言っただろう!」

「ごめ……す、すみません!」

――いてもたってもいられなかったのだけど、流石に私が悪いわよね。


「全く……ん?」

しかし再び響くであろう叱責の直前、『彼女』が動いた。
気付けば、先程まで椅子に座っていたはずのハンターが、音も立てずにシャワの目の前に移動していたのだ。

「っ!」

「……構いませんよ。私はアン。あなたはシャルワナね? お父様から聞いているわ、……初めまして」

アンと名乗って手を差し出したハンターは、どこかミステリアスな雰囲気を持つ美しい女性で、シャワの想像してハンター像とはまるきりかけ離れていた。
滑らかな若葉色をしたポニーテールに、鼻から下を隠すようにつけられた逆三角形の不思議な柄をした布。

それら全てが美しく圧倒的で、シャワは先程の驚きと合わせて頭が真っ白になってしまった。

「あぇっ……うっ……ふぁ、ふぁい!」

――……緊張した私は酷い有り様だったわ。

「……ふふっ、顔が真っ赤よ?」

「うぇっ!?」

「シャルワナ……後で話がある」

――今思えば、このせいで私は人見知りにかかったようなものよ……。
怒りに震えるお父様の声もあの時は全然聞こなくて、後でたっぷり怒られたっけ。

「……よろしくね?」

「よ、よよよろしくお願いします!」


よよよ、と握手を交わす二人。
この時、彼女は手袋をしていた。

――しっとりと冷たい、革の感触を今でも覚えてる。
そしてこれが、私とアンさん……師匠との最初の出会いだった。



     

span style="font-size:x-large;">◆



「リオレイアを見たいんです!」


アンと出会って三日。父の計らいで、様々な話を彼女から聞く内にすっかり打ち解けたシャワは、ずっと心に秘めていた願望を打ち明けていた。


「……いいわよ」

「でも私、諦める気はありま……えっ?」

「……?」

「い、いいってことですか? でもでも危険だったりお父様が許さなかったりしませんか!?」



「……貴方は何を思って私に頼んだの? 何らかの覚悟は、貴方の目から見て取れる。貴方の父親からは『少しの間、面倒を見てくれ』なんて厚かましいことも、頼まれている。……なら特に拒否する理由がないわ」

アンさんは眠そうにも見える細目で私をまじまじと見ながら、小首を傾げた。

不思議がっている、のだと思う。
元々無表情な上、口元を隠す三角巾のせいで更に表情が読み取れないが、恐らくそうだ。

(やっぱり外と私とじゃ色々とずれてるのかな……?)

と不安になる。

「……シャル」

そんな戸惑いを見据えてか、静かな声でアンが口を開いた。

――師匠は癖なのか(その言い方もおかしいけど)喋り始めにまず沈黙が入る。
だから寡黙だと誤解されることもよくある。
……けれど大の喋り好き(自称でなく本当に)な彼女にしてみれば面白くないらしく、初めは無口を演じ、機会を見計い急に饒舌になって、相手の驚く様を楽しむことにしたと言うのだから笑えない。

――……私も驚かされたし。


「……話が決まったなら早く出発しましょう。侍女達はしっかり言いくるめて、そうね……勉強にでも精を出してることにでもしておきなさいな。……口煩い貴方の父親に、バレないためにもね」

「は、はい! ありがとうございます!」

「……感謝するのはまだ早いわ。仕事柄、守ってはあげるけれど、死んでしまったらそれはそれで仕方ないと覚悟しておきなさい。外ではちっぽけな貴方の我が儘なんて……一切、通らないのだから」

「っ!? も、もちろん分かってます!」

ぞくりとするほど、眼に凄惨な微笑みを浮かべるアン。

――そう、師匠はそういう性格だった。

――えぇ、そうね……。これが私にも多少なりとも影響を与えなかったとは言えないわ……。

――ん? いいじゃない、師弟は似るものよ。




「うふふふふっ!」

いくら脅しをかけられたとはいえ、生まれて初めて外に出られるのだ。
思わずニヨニヨとしてしまう。

この日、お父様は用事があると外出中。お母様もそれに付き添っているので、屋敷の中には今、シャワと侍女達――住み込みのお手伝いさん達。十人以上はいる――しかいない。
シャワは手早く侍女達に話をつけた。

『優秀なハンターと一緒に少し散歩に出掛けたい』

――説明はこれで十分だったわね。
元より外に出れない私を気に病んでいた彼女達だったから、快く協力してくれたわ。
ちゃんと自分達に責任がいかないよう、私の部屋の窓に縄を垂らしておく徹底ぶりでね。



「……準備は出来たようね」

「はい。しっかり着替えました!」

そう言ったシャワの格好はいつものドレス姿ではなく、アンの用意した『レザー装備』と呼ばれる初心者ハンター御用達の防具。

初心者用とはいっても本格的なハンターの装備だから、安全度はドレスと比べると雲泥の差である。

「……布の服と皮のよろいと言えば分かりやすいかしら」

「え? 何ですアンさん?」

「……こちらの話よ」

――外に出てからギルドへと向かうのは楽だった。
レザー装備を頭まで被ってしまえば誰にも私とは………いえ、違うわね。
『普通の格好』をしていても誰も私のことなんか分かりっこなかったんだわ。
社会に、街に出られるのは家長を継いでから……それが我が家の掟だったから。……本当に下らない掟。

――だから皆が皆、私に気付くんじゃないかなんて、あの時の私はまぁ馬鹿なことを考えてたものだわ。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「うわぁぁぁぁぁぁぁ! すっっごい!!」

シャワの興奮した声が野山に響く。

「……あまり遠くに行かないで頂戴。シャル、ここが森丘と呼ばれる狩り場よ」

ネコタクに揺られて数時間。
アンとシャワは森丘のベースキャンプに来ていた。
クエストは何のことはない、ネコタクチケット納品の素材ツアーである。

「リオレイアはどこにいるんですか?」

「……そう遠くない所にいるわ。その前にいくつか忠告をさせて頂戴」

「? はい」

「……一つに、私の言うことを必ず遵守すること……『それがどんなことでも』」

「は、はい!」

アンの表情には有無を言わせないものがあった。

「……二つに、ここまでの道のりを必ず覚えておきなさい。私に何があっても必ず戻れるように」

「! そ、それは……」

「……違うわ。場合によってはあなたを先に逃がす場面がくるかもしれないということよ」

安心なさい、とアンはシャワの頭をくしゃくしゃと撫でた。

撫で方は存外雑である。

「……あと、今回はリオレイアを近くで見るわけじゃ無いわ。繁殖期のレイアはとても凶暴で手に負えないから、遠くから視るだけよ。……いいわね?」

「はい。……近くでは見れないんですか」

少し肩透かしを喰らった気になる。


「……死にたいなら止めないけれど。……まぁ、そう落胆する暇はないと思うわ」

「どういうことですか?」

「……文字通り『行けば分かる』、よ」

不思議がるシャワにアンはニッコリと笑いかけた。

「……!」

何故だろう……ぞくっとする。

――ま、当然よね。どうすればあんなに爽やかに、かつ残酷に笑えるのかなんて今でも分からないもの。





ベースキャンプを出発してから30分が経過した頃、二人は傾斜の激しい道をひたすら進んでいた。

「はぁ……はぁ……」

「……もう少しよ」

「……うん」

息も絶え絶えのシャワの横で、汗一つかいていないアンが呟く。

(やっぱりハンターって凄い……)

そう思いながらもシャワは黙々と進み続けた。

自分で頼んだことだから。
夢中で、半ば意地で。
弱音なんて吐いてられない。

「……あの上よ。まだ歩けるかしら?」

アンが少し先の丘の上を指差す。
何なら手を引いてあげましょうか? そう言うような口ぶりだった。

(私はまだ頑張れる!)

「私、先に行きます!」

ムッとしたシャワはアンを越して一気に丘を登りきった。

すると、


「わぁ………」


気が付くと、目の前が青空で埋まっていた。

綺麗……、そう思って足をもう一歩進める。

その瞬間、

「……っわぁぁぁ!?」


右足が宙を踏み抜いていた。
慌てて下を見た時、シャワは全身の血が物凄い勢いで引くの感じた。


崖。

下で見た見上げる程の木々が、豆粒に見えるほどの高さの崖の上に彼女はいたのだ。

止めようにも、踏み出した足は止められない。

「……―っ……!」

落ちる……! そう思ったが余りの恐怖に喉が詰まり悲鳴すら上げられない。


地上に残った左足の踵が浮き上がった時、

「……危ないわよ?」

アンが後ろ襟を掴んでくれていた。
そしてそのままの状態で、つまり半身以上崖に乗り出した格好のままにして彼女は話続ける。

「……何時いかなる場面でも危険は降りかかるってことは解ったかしら? これからは常に平常心を心がけながら行動しなさいな」

そう言い終わるとようやくシャワは地上に戻された。

「……わかった?」

「……はい゙」


――そりゃ涙声にもなるわよ! てか今考えたら師匠はわざと私を先に行かせたのよね……。お陰でハンターとして大事なことは刻み込まれたけど……ええそう。私が高い所苦手なのはこれが原因よ。


「……ほら、あそこが見えるかしら」

未だカタカタと震えているシャワに声をかけながら、アンは一点を指差した。

「向かいの山の中腹辺りに洞窟……ですか?」

「……そう、あれが巣。リオレイアが中で卵を守っているわ」

これを、とアンが筒のようなものを差し出した。

「これは?」

「……双眼鏡よ。細い方を目に当てて、あの洞窟を覗いてごらんなさい」

言われた通りにシャワが双眼鏡を覗き込むと、目の前に巨大な竜の顔が現れた。

「きゃ!?」

思わず双眼鏡を取り落としそうになった。

「か……顔が見えました」

「……倍率が強かったかしら? ちょっと貸して頂戴」

アンはシャワから双眼鏡を受けとると、何やら操作をして再び手渡した。

「……これでもう一度」

シャワは恐る恐る双眼鏡を覗いた。

「あれが……リオレイア」

全身を覆う緑の艶やかな鱗。
折り畳まれた巨大な翼。
長く刺々しい尾。
睨んだだけで獲物を殺してしまえそうな瞳。
それらすべてが女王の風格を体現したような出で立ちであった。

「怖い……でも綺麗」

「……良い感想ね。そう、あれは恐ろしい生物よ。決して興味本意で近づいてはダメ」

「……」

もっと近くで見てみたい。そんな気持ちを見透かしたようにアンは言った。

「……さぁ、日の暮れる前に帰りましょう」

「……はい」

シャワは道を踏みしめながら無事にアンと帰った。

装備は記念だとプレゼントして貰ったので、自室に大事に隠しておいた。



そして。




――あの時の私は大馬鹿者よ。それに関しては弁解の余地なんてないわ……。
当時だって分かってた。
けど、それでも、あの時の私は……。



アンが仕事でいない日を見計らって。




シャワは初めて家を抜け出した。
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Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
楽しんで読んでもらえたら幸いですね
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