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ルナティック・バンブス 第三話

2012/12/12

「よし……誰もいない」

早朝、まだ暗い街の中。
少女は小さな足音を響かせていた。
昼間は人々で賑わう大通りも今はがらんとしていて、普段より広く見える。


「確かこっちのはず……」

身を包み込むように纏った、黒色のローブが暗闇に溶け込む。
目立たない為の配慮なのだが、ハンターの装備独特の造形がその下からでも、その存在を強調している。

レザー装備を身に付けて。キッチンから持ってきた果物ナイフを腰に差して。

少女……シャワはギルドを目指していた。

「もう一度リオレイアを……もっと近くで見るんだ」

高ぶる気持ちを抑えられずに震えた声で呟く。
頭は、そのことで一杯だった。

双眼鏡の小さなレンズに映った、自由のままに生きる雌火竜。

彼女は、シャワが欲しいものを全て持っていた。

束縛され、決められた日常を強いられてきたシャワにとって、それがどんなに魅力的に見えただろうか。


シャワは――私はそんな『彼女』の全てに、魅せられていたのだと思う。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ちょちょ、ちょっと待って!」

「……何よ?」

話を遮ったバルスに、私は若干不満げに答える。

「ってことは一人で、繁殖期のリオレイアの所に行って来たってことだよね? よく生きて帰れたね……」

「それについてはこれから話すとこでしょうが! てか何で成功したって決めつけてるのよ!」

「いやいや、シャワなら成功させちゃうでしょ? 小さくてもシャワちゃんだった訳だし」

「……あのねぇ」

私はため息を吐いてからギロリとバルスを睨み付ける。

「私だって初めからこんな、えーと……美しくて優雅で、さ、才色兼備だった訳じゃないのよ?」

「……そこまでは言ってないよ。何で無理してまで言うのさ」

「………。あの時は本当にたまたま、成功しただけなの。誰かが外に放置してた竜車に、たまたま乗り込めただけなんだから」

「いやいや、それも才能の内だって」

「誉め言葉は可憐でキュートから受けとるわ」

「………。まぁ……それが『良かったのかどうか』は別だろうけど、ね」

先程の軽口とは打って変わっての、重みのある言葉だった。

そうね…… と私は頷く。
言わなくても、彼には全てが分かっているのかもしれない。

「さ、ここからは一気に話しちゃうわ……あまり、話していて気分の良いものでもないしね」

いよいよ、話の本題に入る……のか。

「……大丈夫かい?」

少し気後れしていると、バルスが私の頭を撫でた。



……撫でた?


撫でた!!?



「ななな、何するのよ!」

背骨が痛む程のけ反り、慌ててその手から逃れた私。
危なく椅子から落ちるところだった。

「ごめんごめん、なんかついね……」

しかし本人は飄々と、悪びれた様子はない。
それじゃ私だけ馬鹿みたいじゃない。

「もう……ちゃんと話すわよ。次は口挟まないでよね! 私も、もう余計なことは挟まないから」

気が付いたら不思議と、気持ちが軽くなっていた。



……………。



とにかく、と私は再び過去を語り始める。



焚き火の炎が少しだけ、熱く感じた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「つ……ついた」

見知ったベースキャンプへの入り口に、シャワは無事に辿り着いていた。

「アプトノスがちゃんと進んでくれて本当に良かった……」

人の足なら何倍もかかっていただろう。
竜車の扱い方を本で読んでおいて本当に良かった。


しかしここからは自分の足で歩かなければならない。まぁ、竜車が無ければ始めから歩くつもりではあったのだけど。


「持っていくのは必要なものだけにしないとね……」

双眼鏡や家から持ってきた森丘の地図、水筒、そして一束の薬草をポーチに詰め込む。

この薬草はアンから貰ったものだった。

彼女は前回の森丘に向かう際、こう言って薬草を手渡した。

『……傷を癒す道具は武器よりも重要なものよ。ひのきのぼうよりも薬草のほうが高価でしょう……?』

『ひのき……? 何でちょいちょい変なネタ挟んでくるんですか!?』

『……とにかく、薬草は大事になさいね』


………。

とにかく薬草は大事なものなのだ。
飲めば体調の回復、傷に刷り込めば回復力を強めてくれる薬草は、ハンターに留まらず街でも頻繁に使われている。
もっとも、ハンターが使用するものは市販品よりも効果と味が強力だという。
この薬草は後者のものらしいから、出来れば使いたくはないけど……。

そんなことを考えながら黙々と進んでいくシャワ。
時間はまだ朝が明けた頃なので、活動している生物は少ないのが幸いした。

そして見覚えのある丘まで辿り着く。

「ふぅ……やっと着いた。リオレイアは……まだ寝てるのかな?」

洞窟を双眼鏡で覗いてみるが、奥にいるのか姿は確認出来ない。

「……よし、行ってみよう」

場所はこの崖から伸びる坂道を通っていけば迷わず行けそうだ。

「結構急だけど、ゆっくり行けば大丈……わわっ!」

しかし足を踏み出した瞬間、脆くなった地面が崩れて片足が崖へと落ちかけた。

「………っ!」

崖下からは落ちた岩の音は聞こえない。
何とかバランスを取れたものの、これ以上進むことは出来ないだろう。
自分を助けてくれる人は今はいないのだ。


「下の森を通るしかないかぁ……」

鬱蒼と覆い繁る崖下の森を見下ろし、不安の入り交じった溜め息をつく。
でも目的のためには手段は選んでられない。
シャワは丘を降り、大きく迂回する形で森の中へと入っていった。


    

     



「うわぁ……不気味」

巨大な脱け殻や毒々しいキノコ、不気味な顔が刻まれたカボチャなどが転がる森を、シャワはナイフ片手に進んでいた。

戦闘では全く使えないであろう薄刃のナイフも、覆い繁る草や蔓を切るには役に立つ。
降りる途中で森から洞窟まで続く小道を見つけていたので、迷うことなく進むことが出来た。

「ハンターが使ってる道なのかなぁ。今日はついてるな」

そう言った時である。
身体の芯まで響くような重低音が、背後から聞こえてきたのは。

「っ!?」

反射的に振り返る、すると。



そこには先程の脱け殻の主であろう、蚊とも蜂ともつかない巨大な昆虫が迫っていた。

「ひっ……!」

『ランゴスタ』と呼ばれるモンスターだ。

尾にある鋭い針にはハンターをも麻痺させる強力な麻痺毒が仕込まれており、まだ幼い彼女が受ければショックで命まで止まることもあり得る。

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

そんな知識はまだ持ち合わせていなかった彼女だったが、相手が危険だというくらいは感じ取れた。
シャワは悲鳴と共に森の奥へ全力で逃げ出した。

途中、奇妙な面をつけた小人や髑髏の頭をした変人などが現れたが彼女は無我夢中で走り続けた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「………ねぇ」

「あれ? もう注釈はしないんじゃ?」

「挟まずにいられないわよ! 何でバルスがいるのよ!?」

「三年前っていうと、もうあっちで色々と活動を始めた頃……そうか、あの時すれ違ったのは君だったのか」

「あぁもう……! 話してて思い出したわよ……私、あの時あなたを見てたのね……パニックでそれどころじゃなかったけど……」

そこではたと思い出す。

「バルス! あなたギルドで会ったときに初対面だって言ってたじゃない!」

「いやいや、本当に記憶に無かったんだよ! 僕があの時見たのは金色の何か……今考えれば茂みから見えた君の頭だったんだろうけど、と大量のランゴスタでさ、そいつらが急に方向を変えて僕目掛けて襲って来たから、確認するどころじゃなかったんだよ……」

「……蜂が黒いものを襲うってのは本当だった訳ね。てか後ろのランゴスタそんなに増えてたんだ……」

(そっか……一瞬とはいえ私会ってたんだ。だから気を許せたのかしら? 結果的にそのお陰で助かったわけだし……)

「うん、一つすっきりしたわ。過去を話すのも悪いことばかりじゃないわね」

「僕は虫嫌いになったトラウマを思い出して鬱だけどね……」

「そ、それ私のせいだったのね……」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「はぁ……はぁ……追ってきてない……良かった」

どれくらい走っただろうか。
気が付くとシャワは森を抜けることに成功していた。
ランゴスタがいなくなった原因を彼女はまだ知るよしもない。

「よし……。もう少し」

目的の洞窟は森から少し山を登ったところにある。
夢中で走ったせいで枝や棘に引っ掛かり、ローブはもうボロボロ。
仕方無しに脱ぎ捨てたが、下にあるレザー装備のお陰で身体には大した傷は付いていなかった。

「ハンターの装備って凄いなぁ……」

一般の衣服だったら、あのローブと同じくボロボロになり、身体が生傷がだらけになっていたはずである。

初級の防具と呼ばれてるなんて思えない丈夫さ。
それに加えて軽く、動きやすい無駄の無い作り。
これらは全て、戦いの最前線に身を置く彼らの歴史が生み出したことは間違いない。

ハンターの技術に改めて感心しつつ山を登っていると、いつしか目の前には巨大な洞窟が口を開いていた。

「………」

実際に来てみると、予想以上に大きい。
縦幅だけでも十メートルはあるだろうか。加えて中からは唸り声のような音が響いている。

怖い。

でもここで怖じ気づいても仕方がない。

(こんなチャンス……もう二度と無いかもしれないんだから!)

今まで漠然と過ごしてきた、そんな毎日に何かを見出だせるかもしれない。

自由とは何かを、知りたい。

シャワはリオレイアの棲まう洞窟へ、ゆっくりと足を踏み出していった。



    


「少し……寒いな」

一本道の洞窟を恐る恐る進んでいく。
中は思ったより暗くなく、明かりがなくとも歩くことが出来た。

しかし、雌火竜の寝息だろうか、唸り声のようなものは進むごとに大きくなっていた。

「…………」

冷たい岩肌を片手でなぞりながら前進していくと、奥に開けた場所が見えてきた。

「あそこに……リオレイアが?」



恐怖心よりも好奇心が勝った彼女は、思わず広間へと走り出したのだ。

この瞬間、彼女に火球が飛んで来ても決しておかしくはなかった。


「うわっ……!?」



「眩しい……」


しかし、代わりに降り注いだのは暖かな光。
洞窟の奥は天井が崩れたせいで大きく穴が開いており、このエリアを日の光が照らしていたのだ。
ここにリオレイアの姿は見えない。

「あれ……って」

シャワがエリアの中央に何かを見つけ、近づく。

そこにあったのは両手でも抱えきれない大きさの白い岩のようなもの。

――飛竜の卵だった。


「凄い……」

リオレイアがこの時期、洞窟を根城にするのはこのためだったのだ。



卵を守るために……。





「あ…………」



そこで気付いた。



何故リオレイアは、
『ここに居ないのだ』



何故、大切な卵に
 『ここまで他者の接近を許しているのか』

もしリオレイアの姿があったなら、彼女は最低でもここまでの巣に近付くことは無かっただろう。

いや、ちらりと目にしただけでもすぐに洞窟から逃げ出していたはずだ。

そこまでに卵を守る、子を守る飛竜の気迫は凄まじいのだ。


「あ……うぁ………」

ここで何故、雌火竜がいなかったかの話に戻る。
考えればすぐに分かることなのだが、今、足が竦んでいる彼女は自分でそれに気付いた訳ではない。

気付かされたのだ、『彼』に。

ハンター達は繁殖期のリオレイアが凶暴だからという理由だけで、この時期の狩りを避けている訳ではない。




卵を守っているのが母親だけではないからだ。




力強く羽ばたく音が上からゆっくりと降りてくる。
交互にする見張り、そのほんの僅かな交代の時間。
そんな刹那の一時に彼女は『運良く』入り込んでしまったのだ。

「ギャオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

入り口から聞こえた風鳴りなんて比較にならない。
天井から現れた、空の王者の激昂は洞窟中に響き渡った。
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楽太郎

Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
楽しんで読んでもらえたら幸いですね
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