スポンサーサイト

--/--/--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ルナティック・バンブス 最終話

2013/01/25

「………ぁ…………」

声が出ない。

頭の中で警笛が鳴り響く。

シャワは、深緑の鋭い眼孔に全身を貫かれていた。

後ろからは、火竜の足音が震動と共に近付いている。


絶体絶命。

そんな中、初めて間近で見たリオレイアの姿。


危険を冒してまで見たかった、その姿は――





美しいなどと思う余地もない程に――






どこまでも恐ろしかったのだ



「う……うぅ」


恐怖が全身を打ち震わせ、意識が遠退きそうになる。

しかしそれを堪えながら少女は視線を合わせ続けた。


今ここで死ぬとしても、絶対に目を逸らしてはなるものかと、必死に見据えた。


時間にすれば5秒にも満たない僅かな時であったが、シャワにはそれが何十分にも何時間にも感じられた。

(あ……駄目……意識が………)


ハンターでも精神を削られかねない飛竜のプレッシャー。
それを浴び続けた彼女の気力は既に限界を越していた。

徐々に視界がぼやけて、霞む。

(ごめんなさい………アンさん……私……)


そして響いた咆哮の中、シャワは崩れるように倒れ込み、そのまま意識を手放した。

(ごめんなさい………お母様………お父様………)







その後に起きる閃光を、叫びを、爆音を、風を切って走る音を、少女が知ることはない。




         


目を覚ますと、私は見覚えのある背中に背負われていた。

「アン………さん?」


彼女は黙々とベースキャンプに続く道を歩いている。


(助けられた……の?)


「……私はとても心配したのよ?」

静かなトーンでアンさんは、唐突に背中の私に語りかけた。

「………怒らないんですか?」

まだ夢か現実かの区別もつかないまま、思わずそう聞いてしまう。

自殺行為と呼んでおかしくない行為をした挙げ句、最悪の事態を引き起こしたこんな私を助けるために危険を冒したのだ。

「……勿論怒っているわ。けれどそれは私の役目ではないの」

「え………?」

どんな叱咤にも耐える覚悟だったシャワはその答えに疑問を覚えたが、自分がどれ程に幼稚で愚かな考えであったかをすぐに知ることになった。


「シャルワナ……!!」

ベースキャンプに着いた時、いや、着く前にキャンプから誰かが飛び出して来た。



それは紛れもない母、シエラ=イーゼンブルグの姿だった。




「お母様……!?」

信じられない。

まずはそう思ってしまった。

本来、あまり体の強くなく大人しい人なのだ。
そんな彼女が肩で息を切らし、ボロボロに破けたドレスと土だらけの素足でいることがまず信じられなかった。

「お母様どうして……っ!?」


乾いた音が辺りに響いた。


「あ………」


母から平手を受けたのは、生涯でもこの時ただ一度だけだった。

「モンスターを見てみたいという強い気持ちも、それを実行する勇気も蔑ろにはしません。でもね、無謀なことだけはしないで! それだけは……見極めれる人間になりなさい」


ふらふらとしながら、シエラはきつく唇を噛んで私にそう言った。
私と同じ金色の髪がそれに合わせて揺れる。


(あ…………)

私はある一つの事実に気付き、愕然とした。

(お母様は今日『体調が良くなくて病院に行っていた』はずなのに………なんで、どうしてこんな所に…………)

初めて受けた母の叱咤。


そして彼女は涙を流して私を強く抱き締めた。

「ごめんね……あなたの気も知らずに縛り付けてしまって……出掛けたかったよね……遊びに行きたかったよね……色々なものを見たかったよね…………」

「お母様……違うの……私何てこと……ごめんなさい……ごめんなさい……!」

「………」

アンさんは無言でキャンプを離れ、暫くしてから促すようにネコタクを引き連れて来た。



帰り道、二人は何かを話していたようだが、私はまた眠りについてしまった。

気がついたら自室のベッドの中だった。

「………」

ぼんやりとした頭で私は母の言葉を思い返す。

『無謀なことだけはしないで!』


その言葉が彼女の遺言に変わったのはそれから二日後のことだった。



        



母の葬儀から二日が経った。
未だに頭が上手く動かない。

あの騒動から二日目の朝、出掛けの父を男の凶刃が狙った。
それを母は咄嗟に身を呈することで守ったのだそうだ。

逆恨みによる犯行らしく、男は間も無く取り押さえられ、捕まった。
母は致命傷こそ免れたものの、病院での治療中に息を引き取ったそうだ。

体力の低下が原因だったらしい。



体調の悪化が。





そして父は娘が行方不明になった時も母の葬儀の時も、一人で商談を進めていたそうだ。


それも、私は後に知った。



何も、知らなかった。


あの後、私は精神的な疲労からの高熱で寝込んでおり、一度も母と会う機会がなかったのだ。


何も知らないうちに全てが終わっていた。


全てがあの雌火竜を見てから起きた。
そんな言い訳まがいの恨みをあの飛竜にぶつけたいと思ったが、それこそただ自由でいただけの『彼女』にとっては何の関わりも無いことで、私の我が儘に過ぎない。

全て自分が招いた。
私が無知だったから。
非力だったから招いたことだから。




「アンさん……私を弟子にしてください」


私が最後の我が儘を言ったのは、それからすぐのことだった。



「……なら今から私のことを『師匠』と、呼びなさいな」

私の気持ちを知ってか知らずか、アンさん……師匠は淡と言った後、元から細い眼を更に細めた。

「……ただ私の教え方は少し厳しいわよ」




『最も選びたくない死に方百選』というハンター御用達の冊子に『彼女への弟子入り』という項目が記されていることをシャワが知る由もなかった。









……そして一年の歳月が経った時


日の照りつける砂漠に銃声が一つ響いていた。



「……右。左へ。そこでリロード、速射……そう」

「はぁ……はぁ……やった……」

アロイ装備に銀のボウガンを掲げた私の目の前には、力無く倒れるダイミョウザザミの姿があった。

「……初戦でそれだけ動ければ上出来ね」

「あ、ありがとうございます! 師匠!」

アンさんに弟子入りしてから約一年。
地獄の方がマシでは無いかという訓練を文字通り死に物狂いで乗り越えた私は、ついに念願のハンター登録をしたのも束の間、いの一番で盾蟹の狩猟に連れて来られたところであった。

父には外の環境を学ぶ研修だとごまかしての強行だ。
バレたら止められるどころではなかっただろうが、そこはアンさんが上手く取り計らってくれた。

「ふぅ……何とかなったわね」

帰りの分のクーラードリンクを飲み干して軽く息をつく。
始めは少し苦戦したが、ダイミョウザザミのプレッシャーも攻撃も師匠に比べれば大したことなかったように思えた。

「……勝てたからといって油断を生んではダメよ? それは貴女が一番嫌うことに近いものよ」

「はい。分かっています」


「……ならもう、……あら、気球が何か反応してるわね」

普段動きを見せない気球が信号を慌ただしく発していた。

「本当ですね……一体何が……っ!?」

その瞬間、気球すれすれに何か巨大な影が飛び去って行った。
姿は逆光で分からなかったが、見たことのない容姿をしていたように思える。

それに――

「師匠! あの方向には街が……!」

慌ててそう言ったが、アンは何故か含み笑いを浮かべ、自前のボウガンに手をかけていた。

「……丁度いいわね。行くわよ、『シャワ』」

「はい!」

シャワという名前はギルドに登録した際につけた偽名だ。
初めは違和感があったが、呼びやすいのかアンは普段でもそう呼んでいて、私もすっかり偽名のほうに慣れてしまった――なんて今はそんなことを思ってる暇ではない。
素材の剥ぎ取りもそこそこに、急いで私たちはドンドルマへと向かった。





「何よ………これ」


「……やっぱり大物ね」

私たちが辿り着いたとき、そこでは燃え盛る街と炎王龍『テオ・テスカトル』が、盛大に爆炎を散らして盛大に咆哮をあげていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ドンドルマに炎王龍……あの時か」

シャワの話を聞いたバルスが、顎に指を添えながら呟いた。

「……もしかしてあの場にいたの?」

この男もギルドナイトの端くれだ。
また出会っていたかもしれないと思い訪ねてみたが、バルスは「いや」と首を振った。

「僕はその時別の場所で仕事をしていたよ。話は後から聞いたんだけど……炎王龍、君が倒したのかい?」

「……違うわよ」

やけにブスッとした返事になってしまった。

「イャンクックなんかで浮かれてた私は役立たずだったわ……私は師匠の後ろで援護していただけ」

ガンナーの後ろから援護よ、と皮肉めいた口調で言う。

「テオ・テスカトルをほぼ一人で倒しちゃったのは師匠……アンさんよ。そして手柄を私に全部譲って姿を消したの」

「手柄を全部……? じゃあシャワのHRが急に上がったのって……」

「そう、テオ・テスカトルを討伐したってことで上がった訳。お陰で出来たことがあってね……本当にあの人はどこまで考えてたんだか」

「! 出来たことってもしかして……」

バルスが最後まで言う前に、私は人差し指を立ててそれを止めた。

「それは私に言わせて。……これが最後の話だから」

焚き火の火は大分小さくなっていた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




炎王龍の襲来から数ヶ月が経った夜、ちらほらと灯った松明の間を縫って一つの影が街を駆けていた。


ザザミ装備とアンさんから譲り受けた銀色のボウガン―シルバースパルタカス―が背中で軽くぶつかり、乾いた音が小刻みに鳴る。

向かっている先は我が家であるイーゼンブルグ家の屋敷だ。

父は母の死後、何かに憑かれたように家を空けることが多くなった。
私のことも気にかけず、それどころか炎王龍の襲撃の後は私を家から追い出し私兵を雇って身を固め、近づくことさえ難しくなっていた。

しかし私はどうしても父と話がしたかったのだ。
アンさんがいなくなってから一人でクエストをこなし続け、ある程度の信用も会得した今が行動の時期だった。

「何者だお前は!」

「ちょっと通らせて貰うわよ?」

私は、堂々と屋敷の真ん前から突入した。

父の私兵を薙ぎ倒して奥へ進む。
私の家でもあるんだから遠慮はしない。




「お父様、こんばんは」

ダイガスは大広間に一人、椅子に腰かけていた。

「よく来たなシャル。今はシャワと呼んだ方がいいのか?」

しばらくぶりにはっきりと見た父の顔は少し痩せているように見えたが、威厳のある態度は変わりない。

「……全部知ってて、やってたのね」

「さぁ、どうだろうな」

ボウガンを片手に持ったシャワに対してまるで動揺することなく接するダイガスに、シャワは憤然と言い放った。

「お母様の事……何だと思ってるの!? 葬儀にも来ないで……商談がそんなに大事?」

「随分と口が悪くなったな、シャル。きちんとした言葉遣いを教えたはずだが」

確かに私の性格はあの一年で大きく変わっていた。
あんな淑やか(しとやか)な性格では乗り越えられる訳がない。

「お父様には関係ないことよ。今夜は一つ言いたいことがあって来たの……私、この街を出ることにしたわ。ハンターとして、旅をしながら知識を得るの」

「ほぅ……」

その言葉に初めてダイガスは驚いたような顔を浮かべた。

「なら我が家を継がぬと、そう言いたい訳だな?」

「……そうよ」

その瞬間、ダイガスが勝ち誇ったような顔を浮かべたのが分かった。

「……なら『あの子』に継がせてもいいと、そういうことだな?」

「なっ……!!」

シャワの顔が青く変わる。

「あの子には関係ないでしょ!?」

「そうだろう、そうだろう。何も知らぬ妹に重い責を被せようなどと、姉が思うはずがないな?」

額から嫌な汗が流れ落ちる。
やはり引き合いに出された。
考えてはいたがそんなことを言うはずがないとどこかで願っていたのに。

私には妹がいる。
歳は5つ程下だ。
しかし妹は、イーゼンブルグ家の『跡継ぎ候補は一人のみ』という仕来たりによって生まれてすぐに隣街の修道院に預けられたのだ。

男の跡継ぎを願っての第二子だったが、生まれたのはまたもや娘。
体の弱い母、シエラに考慮して第三子は断念。
長女シャルワナを正式に跡継ぎ候補としたのだ。

妹と会ったのは、五年以上前のとある式典での一度きり。
離れ離れの姉妹を嘆いた侍女達がこっそりと会わせてくれたのが最後だ。
自分の分まで自由に生きて欲しいと、そう願うことで今までの束縛に耐えてこれた。

「……分かったわ、家は継ぎます」

「うむ、それでこそ姉だ」

大事な妹に責任を負わせるわけにはいかない。
でも負ける訳にもいかない。

「でも条件があるわ」

ここからが勝負だった。





「――……成る程。家を継ぐ時期までの自由か。いいだろう、ここまで辿り着く実力があるなら、野垂れ死ぬ心配もあるまい……最後の自由時間を有意義に使うといい」

「……契約は成立ね」

やはりこの家を一代で築き上げただけはある。
ハンターである私がボウガンを突きつけた状態で、ここまで譲歩せざるを得なかったのだから。

私はそのまま黙って父に背を向けると、屋敷を出て隣街のギルドへと向かった。
目的は当面の資金集めと、情報収集。
アンさんを探しながら世界を見るために旅にも出たかったが、一人だとまだ不安だ。

(頼りにできる仲間……か。そんな人に会えたらいいな)

期待と不安を背負ってドンドルマの街門を抜ける。
三年後の対決に向けての準備の始まりだった。


ダイガスがユクモに現れるまでの一年半。
シャワが自分の人見知りさに絶望したり、怪しい男に出会うのは、もう少し先の話である。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「…私、父を信じていたかったの」

話が終わり、焚き火も消えた頃、黙っていたシャワがポツリと口を開いた。

「でも調べても調べても悪い噂ばかり……会って話せば何かが変わるかもって期待していたけど、それもダメだった」

話ながら、自分に諦めをつけているのが分かる。
しかしそんな中、バルスがふと思いたったように顔を上げた。

「……何かを隠してるんじゃないかな?」

いつの間にかバルスは真っ直ぐにこちらを見ていた。

「え?」

「実際に会ってみて思ったんだけど、シャワのお父さんはとても優秀な人だ。一代で富を築くなんてことは並大抵の事じゃない」

「でもそれは裏で色々と……」

「それに、シャワが行方不明になっと時もお母さんの葬儀の時も、お父さんは商談なんかには行っていなかったと思う」

その言葉にシャワは目を見開いた。

「なんで……そんなことが?」

「お父さんを狙っていたのは恐らく個人じゃない」

「!?」

「お父さんみたいな人は周りに敵が出来るのが必然なんだ。その危険が周りに降り掛かるのを抑える必要が彼にはあった」

「じゃあ家に立て籠ったのも……」

「炎王龍の騒動に紛れての行動を予測してたんだろうね。シャワがハンターになるのを止めなかったのも護身が出来るようにしてほしかったからだろう。アンさんも一枚噛んでるかもしれない。君が行方不明になった時は、人質目当ての誘拐じゃないかと情報戦を繰り広げてたんじゃないかな」

「な………」

言葉が出せない。
そんなこと、考えも出来なかった……ただ噂に振り回されて……。

「そして一年半の歳月をかけて君に自ら会いに来たってことは、その問題を解決したってことだと思う」

「それじゃあ今まで……!」

「君に安全な家を継いで欲しいっていう親心と、プライドなんじゃないかな?」

何てことだろう……私は言い様のない気持ちを抑えて空を仰いだ。

お父様に何て顔向けすればいいのか分からない。

「でもシャワがしっかりと行動してくれたからこそ、だと僕は思うね」

「……あんまりフォローになってないわ。結局お父様の手のひらの上だったんだし」

「素直じゃないなぁ。それって信用の裏返しじゃない」

「いいのっ! お父様のことだからどうせすぐ帰ってくるでしょうけど、しばらくは私が切り盛りしないといけないんだから、早く帰らないといけないわね」

「あ、それなんだけど」

「ん?」

バルスがやや視線を外しながら呟く。
バルスにしては珍しい仕草だ。

「まだ敵がいるかも分からないし、んん……ここは一つ騎士のレンタルはいかがかな?」

頼りになる、私の相棒は立ち上がってすっと手を差し伸べた。

「……ふふっ、長期契約ってことで一つ頼もうかしら?」

私はゆっくりと、しっかりとその手を取って立ち上がる。

「じゃあ出発は早朝! 着いたらバリバリ働いて貰うわよ!」

「えぇっ! もう空が明るんできてるけど!?」

「なら急いで準備しなさい! 寝れるなんて思わないでよね!」

二年後に何が起こるかは分からないけど、私には私でしなければいけないことがある。
理想の家を目指して、今度はモンスターより聞き分けの悪い敵を相手にしていくのだ。



彼女がドンドルマに着いてから数ヶ月。

愛銃だったシルバースパルタカスは、念入りに手入れされながら自室に飾られている。

  
                           【次章へ】
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

楽太郎

Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
楽しんで読んでもらえたら幸いですね
(・◇・@)

お客様カウンター
こんなお時間ですニャ
検索フォーム
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
最新トラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。