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ガイドポストは龍の調べ ~Last Guidance,~ 最終話

2013/07/11

正直、ショックだった。
あの時も、さっきだって……私はただ龍属性に拒否反応を起こしていただけだったのだ。
そんなこと、すぐに気付いてもおかしくなかったのに。

……単に認めたくなかっただけのかもしれない。
あの時の悪夢がまだ終わっていなかったなんて。
もしかしたら何かの拍子にまた―――。


「ふざけるな! アクアを利用なんかさせてたまるか!」

「――!?」

鋭い一喝が響いた。

「そうよ! 絶対に思い通りになんかさせないんだから! バルス、分かってるわね!」

「勿論。ふふふ……、ようやく本職を全う出来そうだ」


続いて放たれた二人の言葉。
皆の声で我に帰る。
そうだ、こんな所で戸惑ってる場合じゃない。
その覚悟はしてきたんだ。

「アクア、大丈夫だよ。前も言ったでしょ? 私がついてる。だから、安心して戦いな」

「ハンマーさん……」

「アクアちゃん、君に何があったかは分からない。けど今は自分を信じるんだ。僕も、君を信じる」

「あいつの言葉なんか気にしちゃ駄目だわ!」

「皆……ありがとうございます」



以前この場所に立った時は、不安な気持ちを一人で必死で抑えていた。
あの時、私が取った手段は恐らく……一番危険なことだったのだろう。

でもあの時の決断が間違っていたとは思えないし、思わない。
結果として私は目的を達成させることが出来たのだから。


――だからその代償がこれだと言うのなら私は喜んで受け止めてやる。

「マリアン! これ以上貴女の好きには絶対にさせません!」

太刀を強く握り、大きく声を張る。

「おや、もっとショックを受けるものだと思っていましたが……」

「挑発はもう聞き飽きました!」

マリアンの言葉を遮るように叫ぶ。
そう、全部受け止めた上で私を貫き通してやるんだ。

「これが最後の忠告です。大人しく武器を置いて投降してください」

「そんな馬鹿馬鹿しいこと言わないでくれませんか。貴女達はこれから蹂躙されるだけなんですよ?」

不敵に笑うマリアン。
片手に持った大剣に力が込められるが分かる。

「そうですか……」

言うだけのことは言った。
もう交渉の余地は無い。

「さぁ、茶番はもう終わらせましょう」

一歩、マリアンの足が前へと動いた。


「アクア、シャワ! 私とバルスが攻めるから二人は後援をお願い! ルシャを食い止めて!」

一番早く行動を起こしたのはハンマーさんだった。
バルスさんがすぐそれに反応し、私達が頷くのを合図に二人は勢いよく地面を蹴った。

「頼むよ、バルス」

「ああ、ケリを着けよう」

ハンマーさんは溜めのモーションに、バルスさんはランスを両手に持って中段横に構える。

それを見たマリアンは更に笑みを歪ませた。

「おやおや、わざわざ向かって来てくれるなんて……。ルシャ、貴女はアクアの確保を」

「……」

ルシャちゃんは無言で小さく頷くと、二本の双剣を取り出した。
霊峰で私たちを一瞬で行動不能にさせた猛毒の双剣。

今、どんな毒が塗られているかは検討もつかない。

「させないわよ!」

「――っ!」

ルシャちゃんが足を踏み出そうとした瞬間、一発の麻痺弾が彼女のすぐ横を通り抜けた。

――シャワちゃんだ。
この機を逃す訳にはいかない。

「やぁぁぁぁぁ!」

掛け声と共に飛び出し、九十九牙丸を袈裟懸けに振るう。

「うわっ!?」

まさか狙う相手が自ら向かって来るとは思わなかったのだろう。
虚を突かれた彼女は確実に反応が遅れていた。
太刀は彼女の首筋を的確に捉える。

「―――くっ!」

にもかかわらずルシャちゃんは強引に体を捻って紙一重でそれを避けたのだ。

(……やっぱり少し遅れた。でもこのタイミングでも外すなんて……)

心の中で舌打ちした後で、身体ごと素早く刀身を引く。

刀の向きは普段とは逆の峰打ちだった。








目的は『敵の無力化』。
これはここへ来るまでにハンマーさんが決めたことだ。

――殺す気で迫る相手にそんな甘いことを言ってると僕らが死ぬことになるよ?

それを聞いたバルスさんは歩みを止めて厳しい口調で言ったが、そんな彼にハンマーさんはニヤリと笑ってみせた。

――私達は戦場に兵士として行く訳じゃない。『ハンター』としていくんだ。そんなクエストは今まで何度もクリアしてきたでしょ?

一瞬ポカンとしたバルスさんだったが、すぐにククと笑って「了解」と呟いて槍から出る毒を抑える為の安全装置を掛け直したのだった。




ハンマーさんの提案は確かに私達の中に燻っていたものを取り除いてくれたが、それが今回の闘いのハードルを跳ね上げるのは言うまでもない。
現に今も刃先を反転させる僅かな隙を突かれて躱されたのだ。

少し離れた場所からも武器と武器がぶつかり合う音が聞こえてくる。
様子を窺う余裕は無いが、あちらも苦戦しているようだった。

「……くっ!」

向こうに少し気を取られていると、太刀を躱しながら繰り出したルシャちゃんの一撃が鼻先を通り過ぎた。
僅かに掠りでもしたら終わりなだけに、背筋に冷たいものが走る。

「……動かないでよ!」

シャワちゃんのボウガンが休むことなく狙い続けているのにも関わらず、彼女はそれを僅かな動作でギリギリに避けながら双剣を振るってくる。

「……っ、貴女はどうしてマリアンに荷担してるの!? こんなこと間違ってるのは分かってるでしょう!?」

そんなルシャちゃんの猛攻を防ぎながら、私は思わずそう語りかけていた。

「……うるさい!」

明らかに彼女の動きが鈍る。
太刀で彼女の両剣を受けながら私は更に続ける。

「……ルシャちゃんが本当は優しいこと、私は知ってるよ。だってそうじゃないと――」



そんな顔――しないでしょう?



「うるさいうるさいうるさい!!」

「うっ――!?」

怒声と共に少女とは思えないような力で太刀が押し込まれた。

「貴女に何が分かるって言うの!? 私もマリさんも、もう後が無いんだ!」

「後が無いってどういう―――」










「ルシャ、まだ遊んでいたんですか?」








背後から聞こえた凍るような声。

援護射撃はいつの間にか止んでいた。

「――っ!?」

ぞくりと首筋に悪寒が走る。
私は反射的に双剣を払い除け、後ろへと振り向いた。


しかし――


「遅いですよ」

「うっ――ぐぁっ!?」

すでに真横には勢いよく振られた大剣が迫っていたのだ。
構えた太刀が間に入ったお陰で直撃は免れたものの、衝撃で軽く十メートル以上は吹き飛ばされてしまった。
地面に勢いよく叩きつけられる。

「う……げほっ……っ!」

ディアブロスの尾槌でも喰らったのかと戸惑う程の威力だった。

起き上がることはおろか、呼吸すらまともに出来ない……体に力が入らない。
次第に全身に鈍い痛みが広がり始め、口の中に鉄の味が広がってくる。

遠くからそれを嘲笑うようにマリアンの声が聞こえてきた。

「おや、防ぎましたか……意外と粘りますね。でも、すぐに他の三人のようにしてあげますよ」

「!?」

言われて目を疑った。
霞む視界に映ったのは、マリアンの奥で武器を手放して倒れている人達。
それは紛れもなく頼りにしていた仲間達だった。

「威勢のいいことを言っていた割に、軽く撫でてあげたらあの様ですよ。残念なことに、まだ息はあるようですが」


――息はある。

しかしその言葉に安心などしている暇は無かった。
残り三メートルまでマリアンが迫っているのに、体は意に反して立ち上がる素振りさえすることが出来ないのだ。

「あの三人は貴女を楽にしてから……ゆっくりと弄んであげますよ」





あと二メートル。





「絶対……させない……!」

「その割には動こうともしませんね。いいんですか? 早く起きないと皆仲良く旅立つことになりますよ?」





あと一メートル。
それでも、身体は動かない。





「……っ…!」


悔しさと絶望に涙が込み上げてくる。
私たちが目指した結末はこんなものだったのか?
この日のために努力してきたことが無惨にも踏みしめられる……圧倒的な絶望がそこにはあった。
『勝利』が、思い描けない。

「さぁ、私の為に糧となりなさい」


「―――……っ!」








あと一歩。








「もう止めてよマリさん!!!」




悲痛な叫びが目の前で響いた。



「……ルシャ? 邪魔です。退きなさい」

「ルシャ……ちゃん?」


私の前に立ちはだかっていたのは、先程まで私と戦っていたはずの少女だった。

                                      ・・・・・
「……何で? 血は少しの量でもいいはずでしょ!? どうしてそんなに大剣を振り上げてるの!?」

ルシャちゃんの体は小さく震えていた。
それが怒りなのか恐怖なのかは分からない。

「貴女には関係無いことでしょう。一緒に切られたくなければ、すぐに退きなさい」

「おかしいよ、マリさん……! 二年前から……それよりも前から! その剣を持ってから、マリさん段々おかしくなってるよ!?」

「……私は昔から変わりませんよ。ただ目的の為に行動してきただけです」

「じゃあこれは!? 何で前みたいに使おうとしないの!?」

ルシャちゃんが背中から外して見せたのは年期の入ったリノプロヘルム。
あちこち何度も修復した跡が見られ、どこか懐古な雰囲気を思い起こされるものだった。




「何を言ってるんです?」


しかしマリアンはそれを一蹴し、訝しげに首を捻った。


「前にも言ったと思いますが、何故そんなものをまだ持っているんです? 邪魔なだけでしょう?」

「あっ!?」

そう言ってリノプロヘルムをルシャちゃんから取り上げ、遠くへと投げ捨てる。

瞬間、ルシャちゃんの表情が変わった。

「うあぁぁぁぁ!!」

叫び声と共に双剣をマリアンに向かって突きつけたのだ。

「!? 何をするんですルシャ!」

それを大剣で防ぎながらマリアンが叫んだ。
彼女には理由がまるで分かっていないようだった。

「お前はもうマリさんじゃない! 昔のマリさんを返せ!」

「――っ、馬鹿なこと言ってるんじゃありませんよ!」

「きゃ――っ!?」

ルシャちゃんが私の後ろまで吹き飛ばされた。
マリアンが双剣を大剣で振り払った後、彼女を強く蹴り上げたのだ。

「っ……マリ……さ……」

ルシャちゃんは一度呻いた後、糸が切れたように意識を失った。

「……全く、手間をかけさせます。さて、では今度こそ……――っ!?」

大剣を構え直そうとしたマリアンが突然顔色を変えて膝をついた。

「ルシャ……よくも……っ!!」

怒りの形相を私の向こうに向ける。
蹴りを食らう直前に双剣を掠らせたのだろう、マリアンの足には小さな切り傷がついていた。

「………くっ……あと……少し……で……」

塗られていたのは強烈な睡眠毒だったようだ。しばらく膝をついて耐えていたマリアンだったが、やがて力尽きたようにその場に倒れ込んだ。



「アクア! 大丈夫!?」

――その時である。
遠くからハンマーさんの声と足音が近づいてきたのだ。

「ハンマー……さん? どうして? 怪我は……?」

「今はアクアの方がよっぽど重傷だよ……。まずはこれを飲んで」

息を切らして駆け付けた彼女は、そう言ってポーチから回復薬を取り出し蓋を開けて飲ませてくれた。
私がゆっくりと飲み干すのを手伝いながら、悔しそうに顔を俯かせる。


「シャワが最後、私に回復弾を撃ってくれたんだ。……守れなくてごめん」

「大丈夫……ですよ、血は流してませんし。それに、ちゃんと……来てくれたんですから」

「結局、ルシャの助けを借りちゃったみたいだし……格好はつかないけどね」

ハンマーさんは少し困ったように笑う。

「そうだ……ハンマーさん、私はもう大丈夫ですからルシャちゃんの様子を見てくれませんか? 気を失ってるみたいなんです」

「うん、色々聞きたいこともあるし、ちょっと見て――」


「――危ないっ!!」



「……えっ!?」

気付いたら突き飛ばしていた。

立ち上がったハンマーさんの後ろに見えたのは、投げナイフを構えて起き上がっていたマリアンの姿。

「うぐっ……!」

ハンマーさんの急所を狙って放たれたそれは、私の肩に深々と突き刺さっていた。

「アクアっ!? な、何で庇ったりなんか……!」

「っ……ごめんなさい……思わず、体が動いて……」

肩が焼けるように痛む。
思わず意識を失いそうになったが、不気味な高笑いが私の意識を引き留めた。

「ふふ、ふふふ……あはははははは! 私が! この私が! 解毒剤を用意していないとでも思ったのですか!?」

「マリ……アン……!」


マリアンはまだ完全には回復していないようで、ガクガクと震えながら無理矢理に身体を起こしていた。
しかし眼だけがギラギラと怪しげに見開かれており、その様子はまさに狂気そのものだ。

「少し手間取りましたが、目的は達成されました」

「……っ!」


ハッと我に帰って肩の様子を見る。
私の肩から溢れ出た液体は、既に腕を伝って流れ始めていた。

止血しようと試みたが、すでに止められる量ではない。


「私が……油断したばっかりに……」

ハンマーさんが歯を食い縛って言う。

「私こそごめんなさい……。よく考えたら、ハンマーさんならあれくらい避けれましたよね……」

「馬鹿……買い被りすぎだよ」


少し潤んだ瞳で彼女は私を優しくたしなめた。






そして血はやがて指先へと届き、一滴の赤い雫が作られる――






――地面が、少し濡れた。







その瞬間。
私の血が落ちた地面から白い雷のような光が勢いよく溢れ出したのだ。


「地面が揺れてるっ……!?」

「ふふふ……あはははははっ!」

それはマリアンの高笑いと共鳴するかのように広がり、やがて塔全体に広がっていった。

「アクア……何が起こるか分からない! 応急処置だけでもしておこう」

「は、はい。お願いします!」

あまりの光景に呆気に取られていたが、ハンマーさんに促され私は慌てて肩の治療を彼女に託した。


「一体何が起きるっていうんですか……?」

「分からない……。でもまだ、終わった訳じゃ、ないはずだ。いや、終わらせちゃいけない!」

手当てを受けている間も光は広がっていく。
それは古塔だけに留まらず、やがて樹海を越えて更に遠くへと拡散し始めた。


「あははは! マリディア! 私が二年前何故アマツマガツチを討伐したか分かりますか?」

「……何だって?」

先程まで狂ったように笑っていたマリアンが唐突に語り始めた。
ハンマーさんは咄嗟に身構えたが、マリアンは眼に狂気を宿したまま話し続ける。

「まぁ、分かりませんよねぇ。仕方ありません、もっと前の話から教えてあげましょうか……私の属していた組織の名前は『赤衣』。赤衣は数十年以上前からこの日のための準備をしていました」

「準備……?」

痛みを堪えながら私は聞いた。
目的が達成できて満足しているのか、マリアンにしては異常に口が軽くなっている。
こうなってしまっては現状手遅れなのかもしれないけれど、もしかしたら彼女の話から突破口が見つかるかもしれない。

「ええ、彼らは大きな野望を持っていました。その準備として、古塔を中心とした大陸を血で染めようとしたのです」

大陸を血に……?
気球船から見た悲惨な景色がフラッシュバックする。


ふと、恐ろしい想像が頭を過った。



マリアンが口元に歪んだ笑みを浮かべて私たちに問いかける。

「ふふ……おかしいとは思いませんでしたか? 何故この大陸では両者に利益の無い紛争が長年続いていたのかを」

それを聞いたハンマーさんの髪が逆立つのが分かった。
自分の人生を滅茶苦茶にした紛争が意図して起こされたものだった……それを聞いて落ち着いていられるわけがない。

だけど、それを見て私は一つ引っ掛かったことがあった。

「マリアン……貴女だって赤衣のせいで紛争の被害にあっているはずです。何故、わざわざそんな組織に……?」

「おやおや、言わなくては分かりませんか? 私は―――」



「あの紛争が、本当にわざと引き起こされたものだって……言うのかい?」

その時、マリアンの言葉を遮るようにくぐもった声が響いた。

「おや、もう起き上がってきたのですか」

「バルスさん……シャワちゃん……」

バルスさんはシャワちゃんに肩を貸す形で立っていた。
ダメージはまだ残っているようで彼も槍を杖代わりとして使っている。

「そうですよ、バルス。それに貴方達が躍起になって終わらせた紛争はどのみち潮時でしたからね、むしろ手間が省けました」

「……フレア達には言えそうにないな。『それ』は」

恐ろしく低い声。
握られた槍に強い力が加わるのが分かる。

「ふざけないでよ……バルス達がどんな思いで争いを止めたと思って――……あっ!」

横にいたシャワちゃんが感情を露に声を上げたが、途中で脇腹を抑えて体を折り曲げた。

「シャワ……無理して話さなくていい」

「っ……だって……!」

状態は分からないが、かなり辛そうだ……今の状態ではボウガンの反動にも耐えられないだろう。

「我慢せずともすぐに楽にしてあげますよ。もう、他の血を流さないように手加減する必要もないのですからね」

「……やっぱり手加減してたのか。でもそう簡単にいくかな?」

「ええ。もうじき毒は完璧に中和されます」

そう言うとマリアンは体をゆっくりと起こし、大剣を持ち上げる。
言う通り、回復は間近に迫っていた。

「バルス! 二人で今の内にマリアンを……」

「もう遅いですよ、マリディア」

「――っ!?」


ハンマーさんがマリアンに攻撃を仕掛けようと踏み出した瞬間、彼女の喉元には大剣がピタリと突き立てれていた。

「いま殺しても構いません。が、それでは少し面白味がありませんね。貴女には折角のメインイベントを体験させたいんですよ」

「――そんなの体験して、たまるかっ!」

ハンマーさんは怒声と共に素早く大剣を蹴り上げ、再び黒鎚を振り被ろうとした。

「………あ」

が、一瞬上を見上げたかと思うとその動きをピタリと止めてしまったのだ。


「ハンマーさん一体どうし……!?」

続いて上を見上げて私も固まってしまった。

「おや、肝心の話をする前に始まってしまったようですね」



異変が起きていたのは先程まで黒い雷雲で満たされていた空。

「何ですか……あれ」

「あんなの見たこと無いわ……」

真っ黒に染まった空の中心に、更なる深淵を覗かせる巨大な穴がポッカリと開いていたのだ。

白い雷を激しく走らせながら、天に向かって渦巻く大穴。
それは今にも何かが現れそうで……絶望感と恐怖心を体の芯から込み上げさせるのに十分な光景だった。

「では始めましょうか」

あまりの光景に四人が言葉を失っている中、マリアンは両手を挙げて大声で叫び始める。

「各地で集めた多種多様の古龍の血液を振り撒き、最後に龍の加護を受けた娘の血をもって完成させたのは、偉大なる龍の祖の完全なる復活の狼煙! 今ここに破滅と想像を司る白き龍! 祖龍『ミラアンセス』の降臨を導く!」

「ミラアンセスだって!? 今だ誰も見たことのない……ギルドで隠蔽されていた黒龍と違って、完全にお伽噺に出てくる龍の名前だぞ……!」

バルスさんが信じられないといった様子で叫ぶ。

「で、でも……アンさんは言ってました。『龍は全部で三匹いる』って……『白龍』がここに現れるって!」

「ふん、い、今さら驚かないわよ……! 龍が一匹や二匹増えただけじゃない!」

「威勢がいいのもここまでです。さぁ、間もなく貴方達を絶望が襲うことなるでしょう」

「マリアン……お前、そんな龍を呼んで、自分だけは助かる見込みがあるっていうのか?」

「おや? 妹はこの姉が心配だとでも?」

「そんな訳ないだろ! 方法があるならそれを聞き出して切り抜けてやるって言ってるんだ!」

「残念ですが方法はありませんよ。私もろとも祖龍に世界を破壊してもらいます。それに、もしここから逃れられたとしても死期が少し伸びるだけですよ」

「ハンターを……舐めるなよ」

ハンマーさんの力強い眼差しがマリアンを射抜いていた。

「いくら祖龍が強くたってこの世にハンターはごまんといるんだ! 絶対にハンターが勝ってみせる!」

「……貴方は祖龍の力を知らないからそんなことを言えるのですよ。存在すら不安定な状態の祖龍が今まで一体この世にどれだけのことをもたらしてきたかが分かってるのですか?」



その時、上空から『何か』の気配が現れた。



「ハンマーさん! 来ます!!」

「!」




初めに見えたのは白く輝く二本の後足だった。
次に見えたのは長い蛇のような尻尾。



「え………?」


私は目を疑った。



だって続いて現れた引き締まった輝く胴体も、その上方から伸びた短めの前足も、私は『知っていた』から。


「そんな……なぜ……?」

マリアンの表情が青ざめていく。

「アクア……あれって……」

「……はい」


力強く羽ばたく両翼も、多数の角が連なって出来た白い角も『知っている』。
誰が忘れるものか――。



「……クシャルダオラ!!」



渦から降りてきたのは私が討伐したはずの両親の仇だった。
喉元に見える傷跡……間違いない。



「ギャォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」



クシャルダオラはあの時と同じ白い金属光沢を放ちながら、空中で高らかに咆哮を上げた。











「また……邪魔をするのですか!」

空中で咆哮する鋼龍を見るなり、マリアンが憎らしげに怒声を響かせた。

「邪魔……? あのクシャルダオラは貴女達に協力してたんじゃないの?」

シャワちゃんが私が思った事を先に口にしていた。

「協力? 逆ですよ……! 赤衣は私が入る前からあのクシャルダオラに計画の妨害を受けていたのです」

「じゃ、じゃあ古龍化事件は何のために起こしたって言うんですか! 古龍の血が必要だったからクシャルダオラにやらせたんじゃ!?」

私の言葉にマリアンは舌打ちをした。

「……それが逆だと言うんです。赤衣が必要としたのは『本物の古龍』から採れる古龍の血……奴はそれに気付いて紛い物を溢れさせたのです」

「そんな……」

「まぁ、もっとも……あのクシャルダオラもその力をコントロールするにはかなりの時間を要したみたいですがね。最初の頃は自らを制御出来ずに暴れまわっていたと当時の組織の記述に書かれていましたね。そしてある村に襲撃し、ハンターを死傷させた後に姿を眩ませた、と」

「まさか……その村って……ハンターって……」




聞きたくない、反射的にそう思ってしまった。
しかしマリアンは躊躇いもなく口を開く。




「そう、ユクモ村の貴女の両親ですよ。貴女は暴走していたクシャルダオラの力に当てられた唯一の人間なのです。そして、クシャルダオラはその一件の後、古龍化事件――恐らく自分の力を制御出来るまでの間、その姿を隠した……そう当時の組織の記述に書かれていました」


クシャルダオラは好きで暴れていた訳ではなかった。赤衣と、マリアンの野望と戦うために取った行動による事故だったのだ。


「………」

その真相を知らされても、両親が殺されたことは事実。
私はまだ割り切れないでいた。


当のクシャルダオラを見上げると、私たちの様子を窺うように空中で羽ばたいているままだ。


「そして私は、その当時の記録、古龍化事件の最中のクシャルダオラの様子を観察している内にあることに気付いたのです」

マリアンが上空の鋼龍を見据えながら言った。




「クシャルダオラは貴女に罪滅ぼしをしたがっていたのだとね」





「え………?」


でもクシャルダオラは私を襲って……


信じられないといった顔を私が浮かべている中、マリアンは私とクシャルダオラを交互に睨みながら話を続けた。

「アクア、貴女は危険な目に逢いながらも奇跡的に助かってきましたよね? でもよく考えてください、あり得ますか? ラージャンに襲われた時、あのタイミングで『古龍化したディアブロスが突っ込んで来る』なんて。エスピナスが『貴女以外のハンターだけを排除したこと』を不思議に思いませんでしたか?」

「それ……は……」

上手く言葉が出せない。

そんな……それって……まさか……

「どうやら気付いたようですね。アクア、クシャルダオラは『貴女に殺されるため』に、古龍化したモンスターを操り、貴女を誘導していたのですよ」

古龍化事件という赤衣への妨害の中に紛れ込ませてね、そう言ってマリアンは憎々しげにクシャルダオラを再び睨む。

「私からすれば茶番のようでしたが、厄介なクシャルダオラを確実に倒せるチャンスだったので敢えて行動を起こさずに結末を見届けたのです――おや、喋らせるだけ喋らせたらもう用済みですか?」

マリアンの口から次々と出てくる衝撃の事実に頭の整理が出来ないでいると、いつの間にかクシャルダオラがマリアンの目の前に降り立っていた。

鋼龍は私に背を向けるように立っており、敵意は完全にマリアンに向かっている。

「………ヴゥゥゥ」

クシャルダオラがマリアンに向かって唸り声を上げた。

「きゃっ!?」

途端、嵐の様な雨風が吹き始め、クシャルダオラの周りを風の鎧が纏い始める。

「クシャルダオラ……あなた……」

私はマリアンの話が本当だったのだと確信した。




だって私と戦った時、クシャルダオラは風の鎧どころか嵐さえ呼んでいなかったのだから。





あまりの緊張にそんな余裕は無かったのかもしれないが、鋼龍とハンターが対峙した時に静寂が訪れることなんて有り得ないのだ。
そんなことにも気付かないで私は敵討ちのことばかり考えて、復讐を果たした後でも恨み続けていたなんて………。



「ごめんなさい……ごめんなさい……!」


自然と涙が零れ落ちる。

当の古龍はそれを知ってか知らずか、マリアンと戦い続けていた。

「折角の祖龍復活の力を利用して……! すぐにその首を叩き切って再び祖龍を復活させる!」

マリアンが怒りのままにアルレボを振るうが、クシャルダオラはそれを軽々と躱しながら風のブレスを吐き、彼女に主導権を握らせない。

「何故避けられる……! 私は古龍も凌駕する龍殺しの力を得たはずなのに!」

凄まじい気迫の中、ぶつかり合う二者を私たちは見ることしか出来なかった。
出来ることなら手助けしたかったが、体に力が入らない。

「アクア……今はクシャルダオラに託すんだ」

「ハンターさん……」

「あいつはきっと自分一匹分の命じゃ自分の罪を償えないって、ずっと思ってたんだ。じゃなきゃこのタイミングで私たちを助けに来ないって」

「そんな……もう十分なのに……!」

「本当に後悔した時、本当に償いたいって思った時ってさ……どこまでやってもまだ足りないって感じるんだよね。それが取り返しのつかないものであるほど……さ」

ハンマーさんは少し寂しそうな顔をしていた。

「……私には分からないです、その気持ち」

「分からない方が幸せだよ。……でもいつか分からなきゃいけない時が来るかもしれない――その時はもう後悔しないように全力で向かうしかないんだ」

「……ハンマーさんは一体何を後悔したんですか?」

思わずそう聞いてしまった。

「うん? 私が後悔なんかするはずないでしょ。これは受け売り、受け売り」



しかしハンマーさんはおどけたように笑って見せる。



「……嘘つき」



「――アクアちゃん! クシャルダオラが!」

バルスさんの声にハッとして視線を戻すと、クシャルダオラの周りに白い稲妻が落ち始めていた。

「雷……?」

「師匠が言ってたわ……あの白い雷は――祖龍の雷よ」

シャワちゃんが何時もより弱々しい声で言った。

「私も聞いたことあるな。白い稲妻には昔から不思議な力があるって言い伝え」

「白い稲妻……か」

バルスさんがそう呟く最中、まばらに落ちていた雷に変化が起きた。

「くっ……! 何です……これはっ!!」

白い稲妻がまるで生き物のようにマリアンの周りに纏わり始めている。



やがて白い稲妻は集まり、大きさを増していき――



「ぐ……あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




激しい音と叫びの中。
一本の巨大な雷が禍々しい紫の大剣を真っ二つに砕き割った。




「あ……あぁ……」

力の抜けたようにマリアンはガックリと膝を着く。

クシャルダオラはそんなマリアンをじっと見据え動こうとしない。
先程まで痛いほどに吹き荒れていた嵐は、もう止んでいた。


「あ、あれ!」

私は驚いたように声を上げた。
割れた大剣から、マリアンの身に付けている鎧から紫色の煙が立ち上ったのだ。


「………!」


そのまま上空に昇っていこうとする禍々しい煙に向かってクシャルダオラが風のブレスを見舞う。
すると煙はすうっと色を無くし、やがて消えて見えなくなった。


「――マリさん!!!」


その途端、私の横を赤いものが通り過ぎた。

「マリさん、マリさん! 大丈夫!?」

「ル……シャ………?」

「良かった……マリさん、もう大丈夫だよね?」

マリアンは呆けたようにルシャの顔を見上げている。
身に付けている鎧や大剣からは禍々しい紫色は消えており、灰のような白色に変わっていた。
『戦い』は終わったのだ。

「あ……あぁ……私……とんでもないことを………!」

マリアンは顔色を蒼白にして項垂れる。
どうやら今までの記憶は残っているようだ。

クシャルダオラはそれを見届けると勢いよく空へと飛び上がった。
そして火山の方角へと飛び立っていった。

「一体何をしに……」

「……」

その時、横にいたハンマーさんがマリアンに向かって歩き始めた。

「ハンマーさ……」

まさかと思って止めようとした私だったが、ハンマーさんの横顔を見て止めた。

「マリアン……」

ハンマーさんがマリアンの前で立ち止まる。

「マリディア……私は人間として、侵してはならない罪をしました。……好きにしなさい」

「だ、ダメだよマリさん! せっかく大剣の変な力が無くなったのに! ……絶対にさせるか!」

「いいんです、ルシャ」

ルシャが立ち塞がろうとするのをマリアンが止めた。

「だって……そしたら……!」

「ルシャは私が仕出かした事を許してくれるのかもしれませんが……殺されかけたマリディアが許す訳がありません」

「マリアン……私は憎んでなんかない」

「え……?」

マリアンが驚いたように瞳を広げた。

「大剣の事もあるけど……元々、あの時私たちが逃げ遅れたのは私のせいだったんでしょ? それに、私とマリアン……どっちがどっちの道に進んでもおかしくなかったんだ。きっと私が同じ立場になったら同じようなことをしたと思う」

「マリディア……」

「でも私はこっちの道に進めたことを感謝してる。沢山の仲間に出会えて素敵な体験が出来たことを、感謝してる。こっちの道に進ませてくれたマリアンに、姉貴に感謝してる」


――だから、とハンマーさんは思いがけない行動に出た。

「私も最後のけじめってやつを着けないとね」

そう言ってマリアンの横へ手を伸ばし、あるものを拾い上げた。

「これが祖龍を呼び出すために使った媒介だよね? ……アンさんの言ってた通りだ」

それは古く風化した、白い一本の角。

「貴女何を……まさか!」

マリアンの顔に見る見る焦りが浮かぶ。

ニヤリと笑ってくるりと踵を返すと、ハンマーさんは私たちの元へと走り出した。

「やめなさい! マリディア――!!!」

マリアンの必死な声が響くが、それでも彼女は足を止めない。

そして驚いてる私の横を通り過ぎる時、ハンマーさんが申し訳なさそうに小さく呟いた。

「……アクア、ごめんね」

「………!!」


ハンマーさんが何をしようとしてるのか、私は今やっと理解した。


だがその時には既に、ハンマーさんはバルスさんの頭に祖龍の角を突き立てた後であった。

「ば、バル……きゃっ!?」

白く眩しい光と共に、どんなに叩いても壊れなかったスカルフェイスにヒビが入り崩れ始める。

突然の行動に驚いて頭を抑えたバルスさんだったが、やがて全てを理解したように呟いた。





「僕は……そうか。ハンマー……君ってやつは……本当に……」


「……悪いね、またさよならだ」



同じように白い光に包まれ始めたハンマーさんは照れ臭そうに笑った後、皆に聞こえるように大きな声で言った。









「皆、楽しかったよ!」







光が消えると同時に、ズシンという重量感のある音を立てて、大鎚だけが地面へと落ちる。



「あ…………」



それ以外に何も残っていなかった。
まるで初めから存在していなかったように。










「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!」









声にならない私の叫びが、塔に木霊した。































◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇












「寒……もう朝かぁ」




――あれからどれくらいの月日が経ったでしょうか。

あの後、クシャルダオラは火山とシュレイドにいた黒龍達を連れて空へと消えていきました。



「お茶でも淹れようかな」


私はポッケ村に正式に移住し、専属ハンターとして村を守る日々を続けています。


他の皆もバラバラになり、それぞれの道を歩んでいますが、手紙が毎月送られてくるので退屈はしていません。




シャワちゃんは家の規模を着実に拡大中。
昔のように反感を買うどころか、イーゼンブルグ家が率先して交易の輪を広げているお陰でドンドルマの発展が急速に進んでいるくらいです。
次は旅のキャラバンにバルスさんを派遣し、他の街と交流させて更に進出させるんだと意気込んでいました。




バルスさんはギルドナイトを辞めて、本格的にフリーのハンターに。
旅を続けながら今まで培った人脈を広め、シャワちゃんの交易の助けをしているそうです。
相変わらず皆には素顔は見せませんが、その話をした時にシャワちゃんが一瞬得意気な顔をしていたのが少し、いやかなり気になります。
前に会った時、シャワちゃんの頼みで旅のキャラバンに同行し新たな地へと旅立つことになって、皆(特にシャワちゃん)に会えなくなるのが寂しいとのろけていたので思わず太刀の柄で叩いたら……何故か喜んでいました。
私を慰めに来てくれたことは分かっていますが、もう少しマシなことは出来なかったのかとちょっと残念な気持ちになったことを覚えています。




チョモさんとフレアさんは今も騒がしくギルドナイトの仕事をこなしています。一月前にチョモさんから『本人の了解無しでも籍を入れることが出来ないだろうか』と言う相談の手紙を貰ったまま放置していますが、多分問題無いでしょう。



ヨルヴァ君とモモさん、そしてハルクさんは今も三人で元気一杯に狩りを続けているようで、噂は遠く離れたここまで聞こえてきます。
……何やら様々な問題も起こしているようですが、それを含めても彼らの活躍には元気を貰っています。
モモさんからの相談の手紙も最近はかなり落ち着いてきたので、リーダーとしてしっかりと二人をまとめているのだと思います。




アンさんは現在消息不明。イズさんが言うには「またどこかに放浪中」だそうで。
そういうイズさんもなかなか連絡が取れませんが、今もきっと寒冷地を探索してるに違いありません。




マリアンとルシャちゃんはあの後の混乱の最中、いつの間にか姿を消していました。
大きなイャンクックが飛び去るのを見たとシャワちゃんが言っていたので、恐らくは空に。




「……皆満喫してるなぁ」

雪山草のお茶を啜りながら私は少しため息をつく。
お茶で暖められた白い吐息は部屋の上まで立ち上ぼり、やがて消えた。

別に今の生活に不満がある訳じゃない。
ただ少し、「私達」の家が広く感じるだけ。
ユクモに行く際、ここのアイルー達にはしばらくの休暇をあげたままなので、本当に今ここに住んでいるのは私だけだ。


「うわ、またこんなに積もってる……これはお昼までかかるかなぁ?」


それでも寒冷期が近付く雪山には毎晩のように大雪が降るため、毎朝の雪降ろしや道作りで寂しがる暇なんかは無いのだ。



「………」



何時か、扉を開けてあの人が元気に帰って来るんじゃないかと期待していた時期も、とっくに過ぎて。
それでも広すぎる家の掃除を欠かせない、未練がましい心が私をこの場所に繋ぎ止めている。



「いっそまたユクモに戻って私の家に住みなおそうかな……ってどっちの村長さんにも『落ち着きがないっ!』って怒られちゃうか」

あはは、と一人で軽く笑ってお茶を一口啜る。
いつもは優しく感じる雪村の静けさも、今日は何故か冷たい。


「……さてと、まずはこの家の雪を降ろしちゃうか。無駄に大きい分積もる量も半端じゃないし」

もし家が潰れたりしたら怒られちゃうならなぁ、そう言って私は苦笑する。


誰に?

どうして?


そんなことを聞いてくる相手も、ここにはいない。

「よいしょ……」

少し錆び付いたスコップを片手に家のドアを開ける。

上に登るための梯子、埋まってなければいいけど……。



外に出た時、私の目に映ったのは晴れ渡る青い晴天と、一面に広がる雪の二色のみ。


「……やっぱり埋まってたか。屋根の雪は凄い盛り上がってるし……つついたら屋根から落ちてきそう」

そんなことを言いながらも何とか梯子を掘り出して屋根へと架ける。
屋根からの景色は白と青に、冬越えする木々の緑色が加わっていた。

「私が初め来たときもこの位降ってたなぁ……」

思い出して少し楽しくなり、少し辛くなる。
ついこの間まではポッケ村に来たばかり新人だった気がする。
だけど、もうあれは何年も前の話なのだ。

「ここから始まって、また帰ってきて……次はどうなるのかなぁ」

頭の中でささやかなイメージを膨らませながら暇を潰し、黙々と雪を下に落としていく。
落とす分には気持ちがいいけど、落とした分後で片付けなければならないので気分は重くなる一方だ。






「足音……?」



そんなこんなで30分は作業をしていただろうか。
遠くから新雪を踏みしめる音が聞こえてきた。

「また村長さんが差し入れでも持ってきたのかな?」

そう思い、私は屋根の上からひょいと下を覗いたのだ。



















――嘘。














「やっほー! ……そこにいるのはもしかして、最近暗いって噂のハンターさんかい?」







あの時と位置は逆だけど、変わらない台詞、声が私の耳に届いた。







「あ………」










眩しい位に明るく悪戯っぽい笑顔。
私の心を一瞬で晴らしてくれる透き通った声。
桃色のふんわりした髪に、少し色の変わった見慣れた防具。
そして背中に背負っているのは大きな―――







「……ハンマー………さん……?」







「……ただいま!」






懐かしい彼女の姿。
冷えてしまっていた心に再び温もりが戻っていく。



真っ白な景色の中、桃色に咲いた一輪の花を。
その光景を私は一生忘れはしないだろう。













「お帰りなさいっ!!!」












私は屋根からスコップを片手に、手を振るあの人の元へ勢いよく飛び降りていた。



「ちょっと! 危ないよっ!」


「これくらいでいいんですよっ!」



お互いにちょっと涙ぐんだ顔で笑い合う。


また、新しい旅が始まるんだ。



私はその笑顔を見てそう思った。



――今度は目的も道標のない、気ままで自由な本当の旅が。






【ガイドポストは龍の調べ】 END,
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楽太郎

Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
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