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ガイドポストは龍の調べ 最終話 

2012/10/22

ー鋼龍ー

「よし! 押してます!」

アクアが目に期待を浮かべる。

「いや! あれは後退したんじゃない!」

「え……?」

ハンマーが叫んだ瞬間、目の前が金色の光に包まれた……

「一体何なの!!??」

「――黒獅子の怒りが頂点に至る時、獅子は黄金の光に包まれ、金色(こんじき)の獅子へと姿を変える――か。……文献の通りだね」


「バルス……それどういうことよ?」

「ピンチ……ってことかな」

「なんて輝き………」

ハンター達はその姿に圧倒され、目を見張る。

ラージャンの毛は黒色から輝くような金色に変化し、黄金の見に見える程の強烈なオーラがにじみ出ていた。

これこそがラージャンが金獅子と呼ばれる理由。

古龍も恐れるといわれる牙獣の王の真の姿であった。


あまりの迫力と美しさに三人は動けない。

「皆しっかりしろ! ここからが本番だぞ!」

「「「!!」」」

ハンマーの一括。それに皆が気を持ち直し武器を構え直す。

「はい! ハンマーさん! 行きましょう!」

「シャワちゃん、怯んだら負けだよ!」

「解ってるわよっ! あんたこそもうバカしないでよ?」


「ブォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

――四人は、咆哮を合図に輝く金獅子に向い、走り出す



――古龍観測隊はこの戦いを記録していた。

これは正確に記録に残された初のラージャンの討伐であり、後に『金獅炎山の狩猟』と呼ばれ、ハンター達の間で語り継がれることとなる。



「……終わったね」

倒れたラージャンを見て、ハンマーは肩で息をしながら皆に笑いかけた。

「死ぬかと思いました……」

「同じく……」

「もうくたくた………」

全員ボロボロである。

「それじゃ帰ろっか。ラージャンの報告とクシャルダオラの情報もしなきゃならないしね」

「そうですね……早く帰って休みたいです」

「何言ってるの! 帰ったら夜通しで勝利を祝うの!」

「えぇ―――!? 何でそんなに元気なんですか!?」

「……若いから?」

「私の方が若いですよ!! ですよね!?」

一方、それだけ騒げるアクアも充分元気だろうと、残された二人は呆れていた。

「僕達はどうしようか?」

「あー……取り敢えずギルドに戻ってディアブロスの討伐失敗の報告……よね。まぁラージャン討伐を伝えればギルドも何も言わないでしょ」

「確かに」

予定が決まればすぐに行動に移すのがハンター。
四人は連絡先を教え合うと、途中で別れて帰路についたのであった。





「しっかし……疲れたねぇ……」

先程とはうって変わり、ハンマーは大分疲れた声で言った。

「ラージャン丸々一匹村まで運ぼうなんてするからですよ! 途中でギルドにお願いして正解でしたよ……」

「だってせっかくの貴重な素材だしさ、沢山欲しいじゃん?」

残念そうにハンマーがぼやく。

「それじゃ密猟と変わりませんからっ! それにギルドから素材はたんまり貰えるって話ですよ?」

「ホント!? ならいいや! じゃあ早く帰って祝勝会だ!」

「休みたいですってば………!」


二人はそんな会話をしながら村へと足を進める。




「…………」

その二人が帰っていく様子を見ていた人影がいた。

「あのラージャンが倒されるとは思いませんでしたが、計画には支障ありませんね。さぁ後は………ふふ、面白くなってきました」

リノプロヘルムをつけた赤衣の女はそう言いながら洞窟の奥に消えていった。



―ギルド―

酒場ではいつもよりも騒がしくなっていた。

ラージャン討伐の話が広まり、多くのハンター達がポッケに集ってお祭り騒ぎが始まったのだ。
その喧騒中、一際大きな声が酒場に響いた。

「乾杯ーー!!」

杯から飛沫が盛大に飛び散る。

「もう……何回目の乾杯ですか」

「えぇーもうギブアップ?」

すでに何十杯もの空杯が転がっていたが、ハンマーはまだまだ余裕そうである。

「うぅ……お祝いなんですから、私を気にしないで好きなだけ飲んでください」

アクアはぐったりとしながら、まだまだ飲み足りなそうにしているハンマーにそう言うと、机に突っ伏した。

「そう? じゃあ、お代わりお願いしま―す!」

アクアはハンマーの元気な声を聞きながら、ぼんやりとした頭で村に帰ってきてからのことを思い返した。


――数時間前

二人は帰ってすぐに火山でのことをギルドに向かい、ラージャンの出現とクシャルダオラがモンスターの変貌の元凶でほぼ間違いないことを報告した。

「そうだったの、よく無事に帰ってこれたわね~。私、これでも心配してたのよ~」

口調はのんびりしていたが、彼女の顔を見ると、本当に心配していたようである。

まぁ通常運転ですね……、と思いながらアクアは話の核心について触れた。

「それでクシャルダオラがどこに行ったのかは分かったんですか?」

するとギルドマネージャーはニコリと笑って答えた。

「ふふ~ギルドもちゃんと働いてるのよ~。今さっき、古龍観測所から報告が入ったの~。どうやら目標は今、古塔に住み着いているみたいね」

「古塔……ですか?」

「古塔か……あそこに行くの大変なんだよね。ネコタクの手配に時間掛かるし、樹海を突っ切るから最低でも3日はかかる」

「そんな辺鄙(へんぴ)なところにあるんですか……」

「準備もあるし今日明日は動けそうにないな」

ハンマーはポリポリと頭をかく。

「とりあえずシャワちゃん達に連絡をしときましょうよ」

火山で出会った怪しい(約1名)二人組にクシャルダオラの話をしたところ、協力したいから討伐に出るときには連絡をして欲しいと言ってくれたのだ。

――ああやって、他にやらせといて自分は高みの見物する奴って嫌いなのよ。

盛大に顔をしかめてシャワが言っていたのを思い出す。

――古龍の血を分けて配下に置くなんてとても興味深いじやないか。是非とも対峙してみたいね!

バルスは逆に顔を輝かせて(輝やいても黒だったが)協力を申し出ていたが……。

ん?

「あぁーーーー!」

「どうしたのアクア?」

「バルスさんに小太刀貸しっぱなしだったぁ!!」

しまった……大事な物なのに、しれっと腰に差されて持っていかれた……!

「じゃあ尚更連絡しないとね。ネコタクの手配と一緒にしておくよ。その間にアクアはあれの準備をよろしく!」

「ん? あれって言うと?」

「宴会に決まってるじゃない! 他のハンターも誘って盛大にやろう! 報酬はたっぷり入ったしね!」

「えぇ!? ……やっぱりやるんですか? しかも規模が広がってるじゃないですか!」

「勝利のお祝いと、クシャルダオラ討伐の前祝いだよ!」

「そんな暇は……私の小太刀とクシャルダオラが!」

アクアが慌てて抗議する。

「慌てない慌てない。ネコタクの手配だってまだ数日かかるし、黒いの達とも連絡取らなきゃならないから、どのみちまだ時間はあるんだ。だから出発前にパーっとやっとこうよ! ね?」

「う―ん……ならそうしましょうか」

ニコッと笑うハンマーにそこまで言われたら、休みたいとは言えないアクアであった。

            
         ◇

「アクア―! 起きろ―! 帰るよ?」

「んん……? あ、私寝ちゃって……」

ハンマーに揺すり起こされると、宴会はとっくに終わっていて、辺りはすっかり暗くなっていた。

「出発の支度は明日から始めるから、今日はもう寝よう」

「そうですね………うわっととと!?」

「おっと! 大丈夫?」

足元がふらつく……まだ酔いが抜けてないようだ。
ハンマーに支えられながら少し歩いていると、彼女の姿がふいに見えなくなった。

「ハンマーさん? うわっ!?」

ハンマーはひょいっとアクアを背負ったのだ。

「だ……大丈夫ですよっ! 歩けますって!」

アクアが足をバタバタさせる。

「無理しないの。しっかり掴まってなよ?」

「……はい」




「………アクア?」

「……………」

少しすると、アクアは背負われながら眠りについてしまった。

その夜、アクアは久しぶりに笑っている母の夢を見た。

―次の日の朝―

「ほら起きろーー!」

ぷすっ、軽めの音が部屋に響く。

「っ!!? いったぁーーー!!!」

飛び起きたアクアの横でハンマーは眩しい笑顔を向けていた。

「おはよう! どう? 私の特別モーニングコー……ぶっ!?」

ハンマーの顔でペイントボールが盛大にはじける。

「サボテンハンマーで刺さないでって何度言ったら分かるんですか!? しかもそれ、一応毒ありますからね!?」

「ごめんごめん! 謝るからこやし玉構えるのはやめて!」

朝から騒がしい家である。

「……それで連絡は来たんですか?」

アクアが雪山草で淹れたお茶を啜りながらハンマーに訪ねた。

「うん、さっき届いた。さすがポストアイルーは優秀だね」

ポストアイルーというのは各地に手紙を配達してくれるアイルーのことである。
ユクモでクエスト中のアイテム配達をしているニャン次郎も、本来はポストアイルーが本職である。

「それで出発はいつですか?」

「出発は明日。運良くネコタクも確保出来たし、黒いの達とは古塔で合流することになったよ」

「分かりました! そうと決まればすぐに明日の準備しましょう!」

「そうだね!」

二人は黙々と荷物の準備をし、武器の手入れを始めた。

アクアは自分の太刀をチェックしていた。

【霊刀ユクモ・真打】

ユクモから持ってきた太刀を何度も強化し、これ以上ない程研ぎ澄まされた相棒がユクモでそう呼ばれているのをアクアは知らない。
いつも身に付けている【ユクモシリーズ】も先日討伐したラージャンの毛皮を加えてもらい、前よりも遥かに頑丈な作りとなっていた。

「よし、完璧ですね」

そう言って太刀を鞘に納めると、隣にいるハンマーが目に止まった。

「ん? 何?」

ハンマーの手元では、出会った時からずっと持ち歩いていた彼女の愛鎚『石拳【愚】』が磨かれていた。

「改めて見ると、そのハンマーすごい見かけしてますよね」

「いいでしょ? このいかにも『殴ってます』って感じのフォルム。一目見掛けてからずっとこれ使ってるんだよねー!」

ハンマーは愛しそうに愛鎚を磨く。

「よくそんな重いのを軽々と扱えますね……」

一度ハンマーに貸して貰ったことがあったが、持ち上げるのがやっとだった。 大剣だって問題なく扱えるアクアでも、である。

「ま、これは特別製だからね。愛があれば重さなんて関係ないよ!」

いや、それは多分関係ありますよ…… と思ったが、ちょっと納得させられそうになる程のドヤ顔であった。

「さて、準備は完了したから、少し出掛けるよ」

「え? どこに行くんですか?」

「情報収集。実は私もクシャルダオラとは戦ったって言えるほどの経験が無いんだよね。ほとんどの知識はある人からの受け売りなんだ」

「そうだったんですか!?」

「うん。やっぱりもう少し情報が欲しいと思ってさ。クシャルダオラと何度も戦ったことがある人に会いに行こうかなって」

「この村にそんなハンターがいたんですか」

てっきり村のハンターはハンマーさんだけだと思ってました。アクアがそう言おうとした矢先、心を読まれたのかハンマーが先に口を開いた。

「いや、もうすっかり引退してるんだ。そっか、アクアはまだ会ってなかったね」


「一体誰なんですか?」

アクアが興味津々に聞くと、ハンマーがニヤリと笑って答えた。


「教官だよ」


―訓練所―

アクアはハンマーに連れられ、訓練所の前までやって来た。

「ここが訓練所ですかぁ……初めて来ましたけど結構大きいんですね」

訓練所を眺めながらアクアは言う。

すると上から野太い声が響いてきた。

「ヌハハハハ!」

屋根の上に黒い影が一つ。

「あれは一体!? 鳥!? モンスター!?」

「いやっ! 教官だっ!」

「トゥッ!」

屋根の上にいた教官は高らかに飛ぶと、体を丸め高速で回転しながら降りてきた。

「ヌォォォォ!!」

「あ」

「ほぁぁぁぁ!?」

リアルに何かが折れるような音と共に教官は地面へと着地し、足を押さえて転がり回った。

「うーん………うーん…… 」

「………」

「………」

冷ややかな視線が二つ。


「……はっ!」

「わ、私が訓練所の教官だっ!! クシャルダオラの倒し方だと!? そんなもん気合いだぁぁぁぁぁ!!」

教官は強引に起き上がると、片足をぐにゃぐにゃとさせながらアクアに向かってケンケンしながら全力で向かって来た。

「きゃぁぁぁぁ!?」

―自宅―

「――という夢を見たんですよ」

出発の日の朝、アクアはコーヒーを啜っているハンマーに今日見た夢の内容を話すと、彼女は盛大にコーヒーを吹き出した。


「えぇ!? 教官がクシャルダオラを!? この村の教官はね、モスに轢かれてとっくに他界してるよ?」

「そうなんですか!? しかもモスに……」

それはあまりに浮かばれない……

アクアは顔についたコーヒーを拭きながら、天井を仰いで合掌する。

「ていうかどこからが夢?」

「武器を研いだ後からですね。……半分正夢って訳です」

「縁起がいいのか悪いのか分からない夢だね……さて、そろそろ出発しないとネコタクの時間に間に合わないよ」

「そうですね……ん?」

外からこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。

「ハンマーさん! 大変です!」

バン! と扉を壊す勢いで受付嬢は飛び込んで来た。

「どうしたの?」

ハンマーの問いに受付嬢は肩で息をしながら答える。

「各地の『古龍化』したモンスターがさらに凶暴化し、数も爆発的に増えてるんです……このままだと古塔に行くことも困難になります! 急いで出発してください!」

「何だって!?」

「シャワさんやバルスさんは!?」

それだけの騒ぎになっているとすれば、二人と合流するのは難しくなるかもしれない。

「お二人は増えたモンスターの討伐に駆り出されたようです。……合流するのはかなり厳しいと思われます」

「そっか……アクア! 待ってる時間は無い、二人で行くよ!」

「はいっ!」

二人は村人が慌てている中をくぐり抜け、大急ぎでギルドが用意してくれた臨時ネコタクへと乗り込んだ。


―古塔―

樹海の奥地にそびえ立つ、誰が建てたのかも分からないその巨大な建造物は重苦しい空気を漂わせながら、二人を待ち構えているようだった。

「これが古塔ですか………なんて大きい……」

「……それに凄い威圧感が上から来てるね」

「キシャーー!」

空には大量のガブラスが舞っていた。

「クシャルダオラの気配を感じ取ったのか……戦ってたらキリがない! 一気に走って中に入るよ!」

二人はガブラスの群れをいなしながら塔の内部へと入り込んだ。

その瞬間、

ブォン! という空気を割るような音と共に、何かがアクアに向かって叩きつけられた。

「!?」

「アクア危ない! ……ぐあっ!?」

ハンマーはアクアを突き飛ばし、その一撃を喰らって塔の奥へと吹き飛んだ。

「ハンマーさん!!」

アクアが急いで駆け寄ると、彼女は頭部から血を流し、意識を失っているのかピクリとも動かない。

「何で私を庇って………しっかりしてください!!」

「ギャォォオオ!!」

その後ろに、先程の攻撃を繰り出したであろうモンスター『蕀竜』エスピナスが迫って来ていた。

その体は黒く、体に生える棘は通常種よりも鋭利で血のように赤かい。

「…………っ!!」

武器を構えるアクアに横から声が聞こえた。

「……アクア、先に……行って」

なんとハンマーがよろめきながら立ち上がったのだ。

「そんな……っ! そんなの出来るわけ無いじゃないですか!!」

その時、辺りを白い閃光が包んだ。

「グォォ……!」

エスピナスが目を眩ましている。

(これは閃光玉!? 一体どこから……?)

すると塔の入り口からエスピナスに弾丸が降り注ぐ。

エスピナスは後頭部に弾丸の雨を受け、攻撃された方向へと顔を向ける。

「あ……!」

その入り口には見知った二人が立っていた。

「シャワさん! バルスさん!」

シャワはジェスチャーで静かにするように、そして先に行けと言っているようだった。

そして、今度はしっかりランスを装備しているバルスから何かを投げられた。

投げられたのは応急措置用の薬箱、そしてその中には

「あ! 小太刀!」

アクアは小太刀と道具を受けとると二人に感謝を込めた礼をし、意識を朦朧とさせているハンマーを担いで塔の上へと登っていった。


ハンマーが握ったままだった石槌も、この時は不思議と重さを感じなかったという。

―頂上入り口―

「これでよし……と。ハンマーさん、ゆっくり休んでくださいね」

「………ごめん」

応急措置はしたものも、ハンマーの受けたダメージは深く、動けるだけの回復はしばらくは見込めなかった。

「すみません……私のせいで」

「気にしないで……。アクア、私はアクアの力を信じてる。一人で……やれる?」

「もちろんです! ぶっ倒してやりますよ!」


いつもでは考えられないほど弱々しく問いかけたハンマーは、それを聞くと安心したように意識を手放した。

階段を上がればクシャルダオラが待ち構えているだろう。
アクアはハンマーを隅に寝かせると彼女の顔をじっと見つめ、それから勢いよく階段を駆け上がった。



ある決意を固めて。

――頂上

古塔の頂上、そこにはこの騒動の原因が静かに佇んでいた。

その他には何も無い。

龍と人、双方だけが頂上に立っている。
静かな静寂だけが一人と一匹を包んでいた。

「…………………」

静かに狩人を見つめる白い鋼龍に向けてアクアは刀を構える。

「……容赦はしません。全力で倒します!」

アクアは太刀を引き抜き勢いよく足を踏み出すと、太刀を振りかぶって全力の一撃を叩き込んだ。

「はぁ!! ……っ!?」

瞬間、ガチン! という金属音と共に、ユクモノ太刀が大きく弾かれた。

「嘘……!?」



その隙を逃すこと無く、クシャルダオラの鞭のようにしなる尻尾がアクアの腹部に叩き込まれる。

「早っ――くぅっ!」

咄嗟に後ろに下がり衝撃を吸収したが、それでもかなりのダメージを受けた。

クシャルダオラは何故か追ってはこず、様子を窺うように初めの位置を動かない。

アクアは素早く回復薬を口に含むと、再度鋼龍へと突っ込んだ。

「やぁぁぁぁ!」

待ち構えるクシャルダオラが振りかぶった腕を掻い潜り、腕と腹を連続で切りかかる。
が、やはり金属音が響くだけで鋼のような甲殻には傷一つ付けることが出来ない。

「ぐ……!」

攻撃の手が緩んだ隙に頭突きを喰らってしまった。
しかし今度は予測できていた為にダメージは浅い。

(何て固さ……しかもこの強さ……このままじゃ勝てない!)

しかし、頭突きを喰らう瞬間アクアはあることに気が付いていた。


アクアは太刀を地面と平行に構える。
奴の首には一か所だけ甲殻が剥がれている部分があったのだ。

(あそこなら太刀が通るはず……! きっとお父さんが付けた傷だ!)

「はぁぁぁ!!」

気合いと共に重心を落として走り出す。
余裕を見せている今がチャンスなのだ。
アクアは渾身の突きをクシャルダオラに向けて繰り出した。

――が。


バキン、と一回り大きな金属音を響かせて、アクアの相棒は真っ二つに折れてしまったのだ。


「そんな……!? ――うぁっ!!?」


再び振われた重い前足がアクアを襲った。
大きく吹き飛ばされ、背中から勢いよく地面に落とされた。

「うぐ……あ……っ!」


防具を強化していなかったら今の一撃で意識を失っていたに違いない。
次、もう一撃でも受ければ確実に死んでしまう。



(やっぱり……もう『あれ』しかない!)


そうと決めたアクアの行動は早かった。


腰の小太刀を抜き、構えると息をゆっくりと吐き出して意識を集中させる。

(ハンマーさん……折角特訓してもらったのに、すみません)

アクアは体に眠っている力――コントロールで抑えていた『それ』を逆に全開したのだ。



「!? ……うぁぁ!!」

途端、意識が飛びそうになる。

すると、

『気合いだぁぁぁ!!!』

心の中で何故かあの教官の声が響いた。

「教官!?」

その熱い言葉を受けたアクアは暴れまわる力を120%まで引き出し、無理矢理に押さえ付け、そしてその全てを小太刀に込めた。


――この一撃で必ず勝負を付ける!


地面にヒビが入るほどの力でアクアは強く足を蹴り出した。
体中で風を切る。
クシャルダオラの素早い動きも今なら捉えられた。


「だぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ギャォォォオオ!!!!」






アクアとクシャルダオラのが体が、疾風の如く交錯した。








―数時間後―


「はぁ、はぁ……」

ハンマーは壁に手を付けながら、ふらつく体に鞭を打って頂上へと登っていた。

(大分意識を失ってたみたい……アクア……無事でいて!)

頂上に着くと、遠くでアクアが地面に倒れているのをすぐに発見した。

「アクア!!!」

アクアの元へと急ぐハンマーだったが、突然彼女の目に驚くべきものが映った。


「………………」


「!? クシャルダオラっ!!?」


鋼龍はその美しい甲殻に光を反射させ、こちらを睨む。

「………っ!」

武器を構えたハンマーだったか、クシャルダオラは一向に動こうとしない。

「……?」

「あ!」

よく見ると、喉元にアクアの小太刀が突き刺さっていたのだ。

「死んでる……のか」

その一撃で絶命したのだろう。
他には一切傷が見当たらず、まるで生きているかのように立ちながら、クシャルダオラは事切れていた。

「……そうだっ! アクア!」

ハンマーは倒れてるアクアを揺する。

「アクア! アクア! しっかり!」

「ん……は、ハンマーさん?」

アクアがゆっくりと目を醒ました。

「アクア! よかったぁ……」

それを見てハンマーはホッと胸を撫で下ろす。

「ハンマーさん……私やりましたよ……ね?」

えへへ、と憑き物が落ちたように笑うアクア。

「うん……本当にお疲れさん!」

「わっ!? ハンマーさん!?」

ハンマーは思わずギュッとアクアを抱き寄せた。


(それにしても……どうしてアクアは古龍化の影響が少なかったんだろう?)

明らかに他とは様子が違うのだ。何か理由があるはず……。

「……あ!」

「? どうしました? 何か付いてます?」

「アクア、そのピアスちょっと見せて?」

アクアの耳には綺麗な蒼色をしたピアスが付けられていた。

「これは小さい頃にお母さんがプレゼントしてくれた物なんです」

なるほど、と彼女は思った。

「いいピアスだね! 大事にしなよ?」

「もちろんです!」

アクアはニッコリと笑ってみせる。
アクアの着けていたピアスは「三眼のピアス」と呼ばれる貴重な装備品。弱めだが龍耐性を持つ特別な装備だった。

(母の力は偉大……か。ちょっと羨ましいかも)

二人は肩を支え合い、たわいもない話をしながら帰路につこうとした。


――その時である。


巨大な落雷音が二人の後ろ――丁度クシャルダオラのいた場所に響いたのだ。


「!?」


二人が振り返った時にはクシャルダオラの姿は跡形もなく無くなっていた。
一振りの小太刀だけを残して。

「一体……!?」

「さぁ……? でも、もう大丈夫ってことじゃないかな」







帰った後で、アクアは不思議な夢を見た。

それは白い巨大な龍がクシャルダオラを乗せて飛び去っていく……それはそんな光景だった。


        


     ◇


『――という訳で、私がクシャルダオラを倒した後、『古龍化』していたモンスターは元に戻り、凶暴性も失われていったみたいです。

ギルドの見解だと、モンスター達は古龍の血の力に耐えられず、それが理由で突然変異するに至ったらしいですが、なぜ古龍の血がモンスターに入り、また消えてしまったのかは分からずじまいで、クシャルダオラの目的は何だったのか、ギルドは同時に目撃された赤い衣の人物の正体と一緒に、今も調査が続いています。

あの後、私の古龍の力は無くなってしまったようで、力自体は弱くなってしまいましたが、ハンマーさんに鍛えられていたお陰でそれほど不便ではありません。

シャワちゃんもバルスさんも無事で頻繁に連絡をとっています。

ハンマーさんは………』

「アクア! ユクモには嵐を呼ぶ古龍の伝説があるんだってさ! 里帰りと温泉ついでに行ってみない?」

「ユクモに……そうですね。久々に帰るとしますか! 温泉も入りたいですし」

「じゃあ決まりだね! バルスとシャワにも声をかけよう!」


『いつも通り元気です。今の私なら、もう逃げ出すようなことはしません。帰るきっかけを作ってくれた素敵な相方も出来ましたしね。 では、近い内に謝りに帰ります。 ――親愛なるユクモの村長へ。 ――アクアより』


ふぅ、とアクアは羽ペンを置き、伸びをしてから元気一杯に立ち上がった。


「さぁ! 早速、支度を始めますか!」



――二人の物語はまだ始まったばかり。








『ユクモへ!!』




END?


                            【次章へ】
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楽太郎

Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
楽しんで読んでもらえたら幸いですね
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