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シュレイドの夜 一話

2013/08/18

――フレアは走っていた。

街頭に沿って焚かれた篝火が街の道や家に反射し、幻想的な光が街をオレンジ色に染め上げる。
そんな夜のドンドルマには今、慌ただしい足音だけが響き渡っていた。

フレアは街道をかなりの速度で走り回り、部下達を見かける度に同じ内容を口にする。

「各隊員に告ぐ! シュレイド城に黒龍が襲来した! 至急本部へ戻り、戦闘準備を整え、直ちにシュレイドへ向かえ!」

「……っ! はっ!」

長期の勤務に加え夜間ということもあり、疲れを顔に浮かべていた兵士達だったが、フレアの命令を聞いた瞬間に表情を強張らせ、緊迫した様子で走り出した。

「はぁ……、ひとまずはこれで完了か」

街中に足音が響くのを見届けて、フレアは肩で息をしながら額の汗を拭う。

夜中の街道だが辺りはかなり明るい。
普段の三倍以上に灯された炎が、街を昼間の様に照らしていた。

――闇は人々の心に恐怖と狂気を流し込む。

篝火は街民の暴走を抑え込む為の策の一つだった。

「ねぇ……何でフレアが走り回る必要があったのさ? 部下達に任した方が効率良かったんじゃないの?」
フレアが呼吸を整えようとしていると、後ろから不満げな声が聞こえた。
振り返ると、同じく息を切らしながらチョモが頬を膨らませている。
理由も分からずに連れ回されたことをかなり怒っている。

――いや。

とフレアは思う。

何故『騎士団長補佐』のはずなのに話を聞いていないのだ。
彼女の役目は別にあるとは言え、最低限の知識位は頭に入れておいて欲しい。

「悪いが……それは無理だ。いくら戦力が欲しいからってドンドルマにいるギルドナイト全員を動かす訳にはいかない。だから最低限の人数は残さなきゃならねぇ。その人数や配置位置を把握してるのは俺だから、その場で指揮の出来る俺が動く方が効率がいいんだ」

一通り説明を終えたフレアは、酸欠気味になった頭を治すために大きく肺に空気を取り込む。

「……ふーん。ま、とにかくお疲れさま」

「……おい、理解する気が無いなら初めから聞くな。そして怒るな」

「分かりやすく言わないフレアが悪いし」

「これ以上どう噛み砕けって言うんだよ……というかな、問題はここからなんだ」

「……どういうこと?」

チョモが首を傾げる。
基本的に指揮統制的なことはフレアに一任しているため、こういった事には本当に無頓着である。
いい意味でフレアを信頼しており、悪い意味で勉強嫌いで理解が悪い上に面倒臭がりでマイペースな為、重要なことは再三言い重ねる必要がある。

「人数が全然足りねぇんだ。いくらギルドナイトだからって俺やお前みたいにG級モンスターを相手に出来る奴等は限られてる……。下位や上位ランクの連中は必然的に援護に回るから、そっちの数は足りてるんだが、直接的な戦力がな……」

そこまで説明されてようやくチョモにも焦りの表情が浮かんだ。

「ちょ、ちょっと! あんなに大口叩いちゃったのに街を守れませんでしたなんて許されないよ!?」

「いや、主に任せろって言ってたのはお前じゃ……まぁいい。実はな、まだ当てが無い訳じゃないんだが……あいつは――」

「――あらあら、お困りのようね?」

突然、二人の後ろから若い女性の声が聞こえた。

「……噂をすれば……ってか」

背後に立たれたことにまるで気が付けなかった。

「あら……どうしたのそんなに嫌そうな顔して? 私に何か頼みたいことがあるんじゃないの?」

そう言って含みのある笑みを浮かべた女性は、よく見知った受付嬢の格好をしていた。

「フレア……この女、誰?」

その底知れない雰囲気にチョモの表情が少し険しくなる。

「こいつはシェリー……ギルドの裏で暗躍してるギルドナイトの一人だ。お前も何度か会ったことはあるはずだけどな」

「え? 嘘!?」

その言葉にチョモが驚いていると、シェリーは可笑しそうにクスリと笑う。

「『それ』に気付けって言うもの可哀想なことじゃないかしら。それと、一言足りないんじゃない?」

シェリーの射抜くような視線を受けて、フレアは苦々しい表情で口を開いた。


「………俺の上司だよ」

「そうそう、それが大事なのよ」

「じょ、上司!? ってことは普段フレアに指示出してる、いつも深めに帽子被ってた変なギルドナイトって……!」

「そう、私。でも変なってあんまりじゃない?」

「あ……ごめんなさい」

「おい、シェリー。それより、ここに来たってことは協力してくれるんだな?」

「あら、貴方の団員だけで勝てると言うならそれでもいいのよ? 私にも色々予定があるんだからね」

「……あぁ、分かったよ。頼む、協力してくれ」

「そうそう。素直が一番よ」

シェリーはそう言って微笑んだ後、少し声を落として語りかけた。

「……そう言えば、彼は元気?」

ピクリ、とフレアの眉が動いた。

「……元気だよ。あんた、一体どこまで知ってるんだ?」

「あら、私はちょっとした知り合いっていうだけよ?」

――ほんの少し、ね。

フレアの訝しむ表情に対してシェリーはそう言って微笑み、小首を傾げた。
その仕種にフレアは思わずゾクリとしてしまう。


村を旅だった後、ギルドの訓練兵になった時代のことだ。
少年だったフレアは何故か通りすがりのシェリーに気に入られ、戦闘においてのイロハを叩き込まれたのだった。

その数多く受けた訓練の一つに、「シェリーに攻撃を一発入れる」という単純なものがあった。
武器も持たない彼女に何度木剣を夢中で振ったフレアだったが、小首を傾げるだけで全て避けられてしまったのだ。

その訓練はシェリーが任務でそのギルドを離れるまで続けられたが、ついにフレアの剣は彼女に掠ることさえ出来なかった。

その時のフレアの戦闘技術はかなりのものになっていたのが、そのことだけは今でも無念に思っていた。

「あんた……あの頃からほとんど変わらねぇよな」

ポツリとフレアが呟く。
彼女がギルドの上官であると知ったのはそれから大分経った頃。丁度バルスと紛争を止めるために奮起している時であった。

彼女は自分より遥かに年上の上官に敬語を遣われていて、その上にてきぱきと指示を下していたのが記憶に鮮明だ。

「あら、当たり前よ。まだまだ若いんだから」

そう微笑んではぐらかす彼女の実態は、全くの不明である。

「さぁ、俺らも話してばかりいられねぇよ。チョモ、俺らも急いでシュレイドに向かうぞ」

「ん、了解」

「シェリーも来てくれるな?」

「貴方に土下座までされたんだから、行くしかないじゃない」

「そこまではしてねぇ!」

シェリーの指揮するギルドナイトはもうとっくシュレイドに派遣されており、それを知ったフレアが「やられた!」と悪態をつくのは少し後のことである。







「ようやく見えてきたか……」

ドンドルマから急ぎの竜車を走らせて数時間――時刻は真夜中を廻った頃、ようやくフレア達の目にもシュレイド城の輪郭がぼんやりと見えてきていた。
廃墟となったシュレイド城の周りには、見るだけで重苦しくなるような暗雲が雷を轟かせながら渦巻いており、否応なく不安感を掻き立てる外見をしていた。

「あれが竜も逃げ出すっていうお化け城か……確かに、かなりの雰囲気だな」

「何て言うか……本能的にすぐに逃げ出したい感じ」

チョモが少し青い顔をして言う。
それはフレアも十分過ぎる程に感じているものだった。
しかし、騎士団長たるもの何事にも動じるわけにはいかない。

「かつてのミラボレアスが起こしたとさせる災厄をきっかけにシュレイド王国は滅び、東西に分割されてしまったのよね……」

現にシェリーは涼しい顔をして蘊蓄(うんちく)を披露しているのだ。

(まぁ、この程度の知識ならチョモの頭にだって……)

「へ、へぇ……そうなんだ」

しかしシェリーの解説にチョモは興味を惹かれたように耳を傾けている。

(こいつ……帰ったら座学を一から叩き込んでやる!)

フレアが歯を喰い縛って頭を抱える隣で、シェリーは語りを淡々と進めていった。

「ええ。そして、旧王都は人の住めない地ということになっているから、今のところシュレイド城は東西シュレイド両国間の不可侵地帯となっているのよ」

「どうして人が住めないってことになってるの?」

「勿論政策的な意味もあるけど、シュレイド城にはあまりいい噂が流れていないからかしらねぇ……」

シェリーが含みのある笑みを浮かべる。

「おい、その話は――」

「ど、どんな噂?」

フレアが遮る前に、チョモが釣られて尋ねてしまった。

「ふふ、それはね――」

「んんっ――探索に向かった腕利きのハンターの多くが派遣されたきり何の音沙汰も無くなったり、どうにか生還した奴等も何か恐ろしい目に遭ったらしくてな。話を聞こうにも耳を塞いで断固として黙秘を貫いて、挙げ句の果てには……何て噂が昔、広まっていたらしい」

シェリーが答える前にフレアが簡潔に答えた。

「あらあら、私の言いたいこと全部言われちゃったわね。――それも随分淡泊に」

シェリーがお株を取られたとばかりに非難の表情を浮かべる。

「あんたに言わせたら同じ話でも数十倍恐ろしく語っちまうからな。戦いの前に怖がらせてどうすんだよ」

「こんなにいい語り時は滅多に無いのに……残念だわぁ」

シェリーがつまらなそうに頬杖をついた一方、その横ではチョモがカタカタと小刻みに震えていた。

「わ、私は十分にこ、怖いんだけど……うぅ、行きたく無くなってきた」

「大丈夫よ、昔の噂話ですもの。……でもそんな噂だけで国が――しかも両国が不可侵領域に定めるなんて、随分とおかしな話よねぇ?」

「いやぁぁ!? ふ、フレアぁぁぁ! やっぱりあんたに任せるぅぅぅ!!」

「おい! 今更何言ってんだ! 仮にもギルドナイトの一員だろ!?」

「補佐だからいいもん!」

「補佐だからこそなぁ! お前普段ろくに働かない高給取りなんだからよ! こういうときに働かないでいつ働くんだよ! おい、シェリー! 取り敢えずあんたは着くまで口を塞いどけ!」

「はーい」

「いやだぁぁぁ!」

フレアの怒鳴り声やチョモの悲鳴で騒がしく揺れる竜車は、それでも確実にシュレイド城へと近付いてく。





「うぅ……ホントに不気味じゃんか……。フレア、シェリー……もう帰ろうよ、ね?」

「……チョモ、ちょっと待て」

シュレイド城を目前にしてもチョモはまだごねていたが、フレアとシェリーは城の様子に妙な違和感を覚えていた。

「おい……兵士たちはどうした?」

「……変ね。私たちよりも先に向かったはずでしょう?」

「えっ? えっ? 何!? どうしたの!?」

シュレイド城の重苦しい城門の前に辿り着いたフレア達だったが、先に待機させていたはずのギルドナイト達が一人も見当たらないのだ。

篝火はちらほらと灯されており確かに人がいた痕跡はあるのに、だ。

「一体どうなってやがる……まさか、先に中へ向かっちまったって言うのか?」

夜間に黒龍に立ち向かうのは無謀だと判断しての指示だったのだが、何らかのアクシデントがあったのかもしれない――フレアの目はゆっくりと城門へと向けられた。

鉄格子のような城門が三人を誘い込むかのように引き上げられている。

「仕方ねぇ……行くしか――」

「ま、待ってフレア! 誰か来るみたい!」

「何?」

再度城門に目を向けると、ボロボロになったギルドスーツの男が一人、ふらふらとこちらに向けて歩いて来ているではないか。

「お、おい! 大丈夫か!? 一体何があった!?」

「あ、あぅぅ……」

フレアが慌てて駆け寄ると、ギルドスーツの男は憔悴しきった様子で虚ろな瞳をしながら話し始めた。

「皆……あの声を聴いておかしく……ふらふら、と城のなかに……もう……助……」

男は色褪せたスーツの袖を震える両手で握り、自分を抱き締めるかのようにその場でうずくまってしまった。



「……もう大丈夫だ。俺らが何とかする! チョモ、シェリー! 行くぞ!」

「原因も分からない内に城内に入るのは気が進まないけれど……そうも言っていられないみたいね。私の可愛い部下達を助けにいかないと」

「うぅ……私が皆を助けなきゃ……!」

「その粋だ。よろしく頼むぜ、チョモ!」

三人はそれぞれ武器を手に取り、赤黒く染まった雲の下、今にも落ちそうな城門を潜り抜けていった。
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Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
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