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シュレイドの夜 二話

2013/08/18

「おかしいな……誰もいねぇぞ」

「確かに……妙ね」

錆色の城門を通ってシュレイド城内に入ったフレア達。
黒龍との対峙も想定していた彼らだったが、中には不気味な程に広い空間が伸びるだけであった。

「中もやっぱり不気味だね……」

黒龍どころか、入っていったという部下の影さえ見当たらない。
明らかな異常事態を訴えていた。

「くそ……どうなってやがるんだ!」

部下の安否も分からない状態に思わず焦燥の声が漏れる。
これで冷静でいろというのが無理な話だと、フレアは片手で髪を乱暴にかいた。

「フレア、団長が落ち着かないでどうするんだよ」

するとチョモが気遣うような、それでいて厳しい一言を横からぶつけた。

「チョモ……!」

フレアはハッとして彼女の方を見る。
土壇場で開き直ったのか、チョモは何時になく真面目な顔をしていた。

「えっとね、ほら、ここと向こうの広間の間に小部屋があるみたい。もしかしたら、あそこにいるのかもしれないよ?」

彼女の指差す方向を見ると、暗がりに紛れるようにぽっかりと入り口のような穴が城壁に設けられている。

言われなければ気付けなかっただろう。
自慢の観察眼はこんな所でも、その力を発揮していた。

「……悪い、冷静じゃなかったな」

素直に謝ると、チョモはニッコリとした表情で両腕を腰に添え、平均サイズの胸を張った。

「もう、フレアがしっかりしないとさ、私が頼れないでしょー?」

「……」

当たり前のように言うギルドナイト補佐。
目を見れば分かる、これは大真面目に言っているのだ。


「……あぁ、そうだな。そういうことに関してはしっかり仕事やってるよ、お前は」

「えー? 誉めても何も出ないんだけどぉ?」

「誰が誉めてるか!」

キッパリと言い切ってから、フレアは改めて城内を観察する。
内部は瓢箪(ひょうたん)型の構造になっており、すべてが高い城壁に囲まれているようだ。
城壁の内側――チョモが先程見つけた入り口付近には、古いバリスタや滅竜砲と呼ばれる大砲が先程まで使われていたような形で錆び付いたままに放置されていた。

しかし、中でも目を引いたのが、瓢箪の中間にあたる位置に取り付けられた巨大な鉄柵だ。
恐らく両側から鎖のついた滑車を回して引き上げるタイプのものだろう、それが今は高らかに引き上げられている。

「……急に落ちたりしないよね、あれ」

チョモが不吉なことを口にするが、いくら何でもまだ古くはない城の設備だ。強度は問題ない、はずである。

「あら……流石、大国の城ね。あんなものまであるわよ」

そう感心したように言ってシェリーが指を指したのは鉄柵の奥のエリア――三人から見て対極の位置に見えた『巨大な槍』であった。

「おい、あれってまさか……」

フレアはあの装置を知っていた。
ギルドナイトだから、という話ではなく上位以上のハンターならば必ず見たことがあるだろう代物だった。
その名前は『龍撃槍』。
古龍の様に強大なモンスターを撃退するためだけに設置された、不動にして強大な機械槍だ。
蒸気の力で回転して飛び出す――確かそんな仕組みだったはずだったか、とフレアは朧気な知識を呼び起こす。

「ドンドルマみたいに大きな街を守るために設置するのは分かるけど……一つの城にこんなもの取り付けるなんて何かさ、変じゃない?」

「……確かにな」

チョモの疑問に、フレアは同意するように唸った。

ドンドルマの龍撃槍にしても、ラオシャンロンやシェンガオレンといった超巨大モンスターの進行を研究の末に予測、誘導出来て初めて使用できるものだ。
一国の城の、それも城内にわざわざ設置する意味が分からなかった。


「取り付けざるを得なかった……のかもね」

すると、シェリーがポツリとそう呟いた。

――どういうこと?

チョモがそう尋ねるよりも早くシェリーは続ける。

「『シュレイドに災厄が降臨する』……昔の古龍占い師達がある日、急に口を揃えてそう言ったらしいわ。国のお抱え占い師は勿論、国と一切交流のない者達まで次々に警告を促したらしいの」

「……それは警戒せざるを得ないな」

「でも災厄に関しての資料は、どこを探してもここまでしか残っていなかった」

それは、最終的に災厄はここに降臨したのか、ここで一体何があったのか――憶測にまみれたその真実を確認する術が、今はもう存在しないということであった。

深い沈黙が三人の間に流れる。
聞こえるのは上からか下からかも分からない場所から響く、呻き声にも似た地鳴りだけ。


何かしていないと気が狂いそうだった。


「……ここで考え込んでもらちが明かねぇな。取り敢えず、チョモの言う通り辺りを散策してみようぜ」

「……そうね」

耐えきれずに言った言葉にシェリーが頷く。
それは意見に同意したというよりは、フレアと同じく反射的なものであった。



「ちょっと二人とも、元気無いよ! 皆が一斉に消えちゃうなんてあり得ないって! きっとすぐに見つかるよ!」

「!」

チョモの言葉に、フレアとシェリーは思わず苦笑してしまった。

「お前さっきまであんなに怖がってたくせに、どんだけ立ち直り早ぇんだよ! ……けど今回はその元気、少し分けさせて貰うぜ」

「そうね、まだ諦めるのはまだ早かったわ。ありがとね、チョモ。ここの陰湿な空気のせいで、ちょっと気が滅入っちゃってたみたい」

「へへん、どういたしまして! じゃ、改めて探索開始だぁ!」


チョモの号令で探索を始めた三人。
だが、彼らの期待はすぐに破られてしまった。




「…………」

三人は鉄柵の両側にある小部屋を調べたが、古びた武器や休憩施設があるのみで人がいた痕跡すら見つけられなかった。

それどころか、部屋の広さ的にフレアとシェリーの部下全員を収容すること事態が不可能だったのだ。

「……他に人が隠れられそうな場所はもうないわ」

「隠し部屋なんか……ある訳ねぇよなぁ」

フレアがくたびれたようにそう言う。
三人はしばらくの探索を終えて、小部屋の簡易ベッドに腰かけて休憩している最中だった。

「……あったら私がすぐに気が付くはずだよ。昔、遺跡探索とかやってたし」

「お前、そんなことまでやってたのか……」

フレアが軽く引いたように仰け反るので、チョモは慌てて両手を横に振った。

「あ、あくまでも昔の話だよ! 今考えたらあんな暗くて怖いとこ、よく一人で行けたよねぇ……」

あの時のお前より怖いもんなんてねぇよ!

「………」

そう叫びたいフレアだったが、気力が尽きかけていたこともあり、唇を噛むことで何とか押し留めることが出来た。

『口は災いの元』。

彼の座右の銘である。


「フレア……これからどうしようか?」

「そうだな……。今知りたいのは部下達の行方だが……門の前で出会ったギルドナイトの情報は間違っていたとしか思えねぇな」

「精神状態も安定してなかったみたいだしね。元々の情報に何か間違いがあった、というのも考えられるけど」

「あ! そうだよ、さっきのギルドナイトの様子を見に行かないと! 容態が悪化してたら大変!」

チョモが思い出したように慌てて立ち上がった。

「だな。黒龍もいねぇ、部下もいねぇ……なら一旦あいつを連れて本部に戻るしか―――」



――ねぇだろ。


そう言おうとした時だった。





































「――っはぁ……! はぁっ……!」

フレアは咄嗟に背中の大剣を抜き放っていた。

それは横にいたチョモも、シェリーも同じであった。

「何だ!? 『今の』何だよっ!?」


髪は逆立ち、動機も荒く、フレアは半狂乱になって叫んでいた。

身体中から冷や汗が大量に流れて止まない。





後ろから、巨大な『何か』に握り潰されるような――否、握り潰されたはずの体が何故か残っているような感覚。


絶対的な死の感覚がストレートに彼らに襲い掛かったのだ。

G級ハンターとして、幾つもの死線を潜ってきたからこそ辛うじて耐えれたようなもので、常人ならば瞬く間に精神が壊れてしまっただろう。

「これ……外から……だよね?」

チョモが震える声で言う。

「あ、あぁ……」


そうポカンとして言いながら、フレアは無意識に考える。



――確認しにいかなくては


――アレの正体を?



――危なイ



――危険ダ



――ニゲロ



――ハヤクシナイト




―― コ ロ レ テ シ マ ウ






「フレア! 気をしっかり持ちなさいっ!『持っていかれる』わよっ!」


「――はっ!?」


シェリーの一喝でフレアは正気に戻された。

「フレア! 大丈夫!?」

いつの間にか膝をついていたフレアの横でチョモが心配そうに見つめている。

「あぁ……もう大丈夫だ」

そう言って立ち上がると、フレアは気付けに頬を腫れるほど強く叩いた。
一瞬出来た心の隙間に、深く入り込まれしまったのだ。



「……もうすぐ、広間に降りてくるわ」



――迫り来る、ドス黒い怨念の様に暗い、負の感情。



少しでも気を抜けば、先程の様に心を蝕まれてしまうだろう。





なら、『気を抜かなければ』問題ない。









「チョモ、シェリー! やられっぱなしなんて我慢できねぇ! 来るってんなら向かい撃ってやろうぜ! 『災厄』をよぉ!」


――燃えるような深紅の瞳。

それは強い光を湛えたハンターの眼差し。こうなったら邪龍であろうと彼の心を揺さぶることは出来ない。




「ええ、勿論、……久々に本気の出せる相手みたいだわぁ」


――恍惚する様に浮かべた不敵な笑み。


小首を傾げて魅せたそれは、百戦錬磨の彼女が本気の牙を剥いた証。
見た者は皆無と言っていいほどの、彼女の『戦闘体制』。



「二人とも、くれぐれも無茶だけはしないでね。そうしたら――絶対に守ってあげるから」


――透き通るような白の長髪。

先程まで小刻みに震えるだけだった毛先が、今は誰もが見惚れるほど軽やかに舞っている。
それは天山の女神と称される彼女が与える、揺るぎ無い安心感と勇気――そして希望の神風。



足取りは勇ましく、一切のぶれはない。

今の彼らに恐れる相手はいない。




「――んじゃあ、ひと仕事といくか!」




まだ見ぬ敵への、反撃の狼煙が今、


――上がろうとしていた。


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