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シュレイドの夜 三話

2013/08/31

――数多の飛竜を駆逐せし時、『伝説』は蘇らん



――数多の肉を裂き、骨を砕き、地を啜った時



――浮き世が深紅の血に染まりし時



――彼の者は現れん



――土を焼く者

――鉄を溶かす者

――水を煮立たす者

――風を起こす者

――木を薙ぐ者

――炎を生み出す者



――その者の名は『ミラボレアス』!



――その者の名は、『宿命の戦い』!



――その者の名は、『避けられぬ死』!



――さぁ!




――喉あらば叫べ!  



――耳あらば聞け!



――心あらば、祈れ



――ミラボレアス!



――天と地とを覆い尽くす、彼の者の名を!



――天と地とを覆い尽くす、彼の者の名を



――彼の者の名を……





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「――ちっ……リノプロ女の『唄』が頭から離れやしねぇ」


フレアがそう忌々しげに呟いたのは、城壁内の小部屋から出た直後。

上空から響き伝わってくる重苦しい羽音が。

まるで数百匹の飛竜でも現れたのかと勘違いするような――生物の闘争本能を根本から掻き立てる異音が聞こえてきた瞬間のことであった。

「貴方の言う『それ』は、シュレイド王国崩壊時に謎の赤衣の男が歌ったと言われる唄でしょ?」

その遥か上空から聞こえる巨大な羽音を、待ち遠しそうな顔で聞きながらシェリーが言った。

「あぁ……てか何で知ってんだよ」

フレアが疑心に満ちた瞳で睨む。
マリアンの言葉を聞いた時間違い無くシェリーはいなかったし、フレアが隠密にギルド本部の書庫を漁って同じような文献を見つけた時も、誰にも気付かれていなかったはずだった。

しかし、シェリーは事も無げに笑うのだ。

「うふふ、貴方のする事なんて全部お見通しなのよ?」

「……さいですか」

小首を傾げてそう言われてしまっては、フレアは閉口せざるを得ない。

黒龍の降臨を前にして、フレアは彼女を上司に持ったことを先に呪ったのだった。


「さて……伝説の黒龍相手に俺等の武器は通用するのかね?」

間も無く対峙するであろう強敵の気配をひしひしと感じながら、フレアは自分の愛剣である『輝剣リオレウス』に目をやった。

二年前は『焔剣』の名を掲げて真っ赤に染まっていたそれは、今は冷たく美しい銀色をしている。

ギルドナイトの任務の中に偶然現れた幻の銀火竜。
フレアは死闘の末に討伐を果たし、更なる業火を銀色の甲殻によって大剣へ封じ込めることに成功したのだ。
凝縮された銀の炎が灼熱の巨刃となって敵を焼き切る、フレアの相棒が生まれ変わった瞬間であった。


「いや、フレアはそれしか持ってないんだから迷う余地なんてなかったでしょ」

何でも火属性でごり押しするのは卒業したら? そう飽きれ顔で言うチョモが持っているのは狩猟笛『アヴニルオルゲール』。

火山より発掘された太古の塊を研磨加工した末に蘇った古代文明の産物。
機械的な外見と金色に輝く巨大な円盤が特徴のこのオルゴールに似た楽器はギルドの調査の一環で発見されたものだったのだが、当初は今一つ使い方が分からずに研究員達は頭を抱えていた。

その時、話を聞き付けたチョモがほぼ強奪する形で持っていったのだ。

『どうせよく分かってないんだから私が試しに使ってあげるよ!』

彼女に救われたギルドナイトは数知れず、もはや頭の上がらない存在になっていた彼女に研究員たちは、顔に引き釣った笑みを浮かべながら快く提供したのだった。

試しにフレアを引き摺ってクエストに行った所、二人はその能力に舌を巻いた。
息を吹き込むと円盤が回転し音を奏でるという不思議な構造のそれは、吹けば一時的に筋力が増す旋律を得意とした上に、強力な龍属性を持つ優秀な武器であったのだ。

『お前、それが狩猟笛だって知ってて手に入れたのか?』

フレアは驚いてそう聞いたものだったが、チョモはポカンして言うのだ。

『へ? これピザカッターみたいで格好いいハンマーだなって思っただけだけど?』

『いや……でもお前ちゃんと旋律吹いて……』

『ん? 何か吹けそうな場所があったから吹いたら音が出て楽しいなぁって思ってたけど……これ、狩猟笛なの?』

『………』

結局ギルドに報告はしたものの、何故かこの狩猟笛を吹けるのは彼女だけだったので本当にそのまま貰い受けることになったのだった。

「ていうかお前も持ってるのそれ一本だけじゃねぇか!」

「わ、私のは万能な龍属性だからいいの!」

「二人とも、喧嘩は少し後にしなさい」

シェリーが見かねて割って入る。
彼女の武器は『マスターセーバー』と呼ばれる双剣。ピュアクリスタルを軸に作られた透き通るような二振りの洋剣は、ギルドナイトでも最上位の人間にのみ持つことを許された強者の証。
切りつけると強烈な水流が流れ切れ味を何倍にも跳ね上げる仕組みを備えたこの双剣は、歯こぼれもせずに堅固な甲殻をも両断する。

「私たちの武器はG級でも問題なく通用する威力がある。けれど……黒龍に通じるかどうかは正直、分からないわ」

「……そうか、あの伝承の通りなら……」

「ええ……」

「ちょ、ちょっとちょっと! 二人だけで会話しないでよ! どういう事!?」

羽音が増々大きくなる中、意味深げに黙る二人にチョモが焦ったように詰め寄った。

「あぁ、悪い悪い。つっても、その伝承も憶測レベルなんだがな」

「あまり気分のいい話でも無いしね……」

どうにも歯切れが悪い。
チョモはそんなフレアの鼻先まで、ずいっと顔を近付けた。

「それでも構わないよ! 私だけ知らないなんて嫌だもん! ……あ、それに情報は少しでもあったほうが安心でしょ?」

「安心……できるかね?」
間近で捲し立てるチョモに顔を逸らしながら、フレアは助けを求めるようにシェリーに言う。

「ふふ、いいわ。なら教えてあげる」

「おい」

先程、怪談話を遮られたのを余程気にしていたのだろう。
目は爛々と輝き、舌なめずりさえしそうな表情の彼女。

「ありがと! じゃあ早く早く!」

シェリーは怖がらせる気満々の顔なのだが、チョモは何故か気付いていない。

(つーか、よくこんな状況でそんな話したがるよな……。聞く方にも問題はあるが)

フレアは呆れ顔でそんな二人を見るが、迫り来る黒龍の羽音が気になって気が気ではない。

(チョモだってソワソワしてんのに、何でシェリーは――いや……そうか、そうなんだよな)

そこでフレアは先程の考えを取り消した。

何故なら、シェリーは黒龍が間もなく降り立つというこの状況を『こんな状況』などとは考えていないのだから。

ハンターズギルドから『非常事態宣言』が発令されているこの状況をむしろ――楽しんでさえいるのだから。

「――だからミラボレアスはね、挑んでくるハンターの装備を持ち帰って、身体の熱で溶かして自分の甲殻に付け加えちゃうの」

「えぇ!?」

「でもモンスターが装備だけ持ち帰るなんて器用な真似、出来ると思う?」

「あ、無理! ってことは……嘘?」

「そう思うでしょ?」


フレアは彼女のことを師であること、また上司であることしか知らない。

(何聞いてもはぐらかされるし、調べても何も分かんねぇし……あんた一体何者なんだよ)

「――手っ取り早い方法があるじゃない。何もわざわざ防具を取らなくったって、そのまま……ね?」

「え? それってどういう……――っ!!」

思っても口には出せない。彼女が何者かなんて今は関係が無いし、これからもきっとそうだろう。

――シェリーはシェリーだ、それは変わらないのだから。

フレアは何度目かの同じ答えを出して無理矢理に頭の隅へ押しやると、 愛剣を構えて声を張り上げた。


「さぁ! そろそろお見えになる頃だぜ! ……っておいチョモ、何で固まってるんだ?」

「へ? ……ひゃ、ひゃんでもにゃいよっ!?」

「呂律回ってないじゃねぇか。カタカタ震えてるし……シェリー?」

「うーん、ちょっと張り切りすぎちゃったかしらね?」

「お前なぁ……」

可愛らしく舌を出してウインクしてみせる彼女に嘆息するが、本当にこんなことをしている場合ではないのだ。

「おいチョモ、ちょっと耳貸せ」

「へ?」

そう言って、未だ挙動のおかしい彼女の耳元にフレアは口を近付けた。

「お前よぉ、もしここでやられたりしたら……の……にある……が……だぞ?」

「………っ!」

途端、チョモの顔が真っ赤に染まった。

「な、何でフレアがそれを知ってるんだよ!?」

「さぁーねぇ? でも早く戻らないと……な?」

「コイツ、どさくさに紛れて殺ってしまおうか……!」

「待て待て! それは勘弁! な?」

今にも襲い掛かりそうなチョモの様子を見て、フレアは内心ホッと一息をついていた。

彼女の働きが無いと、勝てる見込みすら無くなってしまう。


(代わりに俺の寿命は減ったかもしれないが……)


「流石リーダー、助かったわ」

「次やったら承知しねぇからな!」

悪びれもせずに言うシェリーをギロリと睨んでから、フレアは空を見上げた。

チョモも。

シェリーも、同時にそれを見た。



黒い、見たこともないほど長く禍々しい邪龍の尻尾を。


雲を割って現れたそれを。



――災厄の降臨の瞬間を目の当たりにしたのだった。






「あれが……黒龍」

徐々にその全容を現す『それ』を固まったように見上げながら、フレアは呟いた。

蛇竜ガブラスを超巨大かつ凶悪にしたような、正にドラゴンと呼ぶべき圧倒的な姿がそこにはあった。


光を吸収してしまいそうな、禍々しい漆黒の色の鱗や甲殻で覆われた全身。

全長はラオシャンロンに及ばないが、グラビモスと同等かそれ以上の巨大さ。

そして長い首の上には四本の角の生えた小さめの頭部があり、背中ではその巨体を包み込めるほどの巨大な一対の翼が、先程から聞こえているおぞましい羽音を響かせている。

「もうすぐ降りてくるわよ、用意はいい?」

「ああ、何時でもOKだ。なぁ、チョモ?」

「うん、私は早く倒して帰りたい!」

「なら戦闘準備を――」




『ちょ~~っと待ったぁ!』


シェリーが号令を出そうとした時である。
後ろで、騒がしい男の声が響いたのだ。


「……何なの貴方達」

号令を阻害され、不機嫌そうに後方を見るシェリー。

後ろにはハンターであろう、二人の男がふんぞり返っていた。

一人はランスを担いだ大柄の男。
もう一人は片手剣を腰に指した小柄な男で、明らかにフレア達を見下した顔をしていた。

「ギルドが騒がしいと思ったらまさかの黒龍騒動! 急にギルドナイトが飛び出したから怪しいと思い着いてきたら案の定のビンゴォ!」

「優男とお嬢ちゃん達じゃ死ぬのがオチだ。ここは俺らに任せて帰りな」

「フレア、この人達……誰?」

「あぁん!? 狩猟笛のお嬢ちゃん、もしかして俺たちを知らないのぉ!?」

小柄な男がバカにしたように言って、自分の片手剣を自慢気に振りかざした。

「俺は一つの町をこの『デッドリィタバルジン』で救った西の英雄! ダノン!」

それを合図にして、大柄の男もランスを高らかに掲げた。

「俺はこの『激槍グラビモス』で村を救った東の英雄! ライザー!」

『二人合わせて【DOUBLE HERO’s】(ダブルヒーローズ)!! 黒龍なんてすぐに片付けてやるぜ!』

「だの……らい……だぶ……?」

「おい、悪いこと言わねぇからすぐに帰れ」

G級ハンターを前に上位武器を自慢気に見せつけ、挙げ句に黒龍の力量も把握出来ていない。

完全に上位へ上がったばかりの、名を売ることに夢中な連中の類いだった。



「大丈夫だって! ちゃんとあんた等にも少しは報酬やっから! な?」

「おう、だから安心してここは任せろ!」

「違うって! 本当にあんた達レベルじゃ死んじゃうんだって!」

「心配すんなってお嬢ちゃん! 終わったら後で一緒にお茶しようぜ?」

「おいダノン! 抜け駆けは無しだぞ!」

「あっひゃっひゃ! 悪い悪い!」

「いや、だからさ――!」

(こいつら……)

この手の連中はいくら説得しても無駄なことをフレアはよく知っていた。

こうなったら武力行使してでも追い払おうと、フレアが一歩踏み出した時である。



「――別にいいんじゃないの? 行かせても」


「……は?」


――冷たい目をしたシェリーの腕が、行く手を遮ったのは。
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Author:楽太郎
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