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シュレイドの夜 第四話

2013/10/10

――別にいいんじゃない? 行かせても。




人々を守り、ハンター達の安全と秩序を守るのがギルドナイトの役目。
そのシェリーがはっきりと口にしたのだ。



二人の人間を捨て駒にしろ、と。



「……おい、何ふざけたこと言って……――っ!」


怒鳴ろうとして、フレアは思わず後ずさってしまった。



「………」


じっと二人を見据えるシェリー。
口に嘲笑を浮かべてはいたが、彼女の目にはそれほどの殺気が込められていた。

そしてシェリーは、ゆっくりとフレアに向き直る。


「少しでも黒龍の動きを把握したいのよ。どうせ早死にする種類の輩なんだし、折角なら役立てないと……ねぇ?」

「お前っ……!」


――本気で言ってるのか?


フレアはそう怒声を吐くつもりであったが、それよりも早くシェリーの雰囲気はいつもの穏やかさを取り戻していた。

「ふふ……冗談よ。ちゃんと死なれる前に助けてあげるわ」

「……本当か?」

「ええ」

微笑を浮かべてニッコリと頷く彼女。
そう言われてしまうとフレアにはもう先の話を蒸し返すことは出来ない。
シェリーは黙る彼を通り越すと、睨み合っているチョモの横に行きやんわりと肩に手を掛けた。

「チョモ、ありがとう。もう大丈夫よ」

「え? でも……」

戸惑うチョモを尻目にシェリーは、男達に向かって先程とはかけ離れた、可愛らしい声色で話しかけた。

「――それじゃあ、ここは頼もしい貴方達にお願いしちゃおうかしら?」

「お、そっちの姉ちゃんは物分かりがいいなぁ!」

「へへ。なら早く後ろに下がってろ、じっくりと見物でもしてな!」

男達は自信に溢れた顔でそう言うと、足取りも大きく黒龍が降りて来るであろう場所へ歩き出してしまった。


「ええ……そうさせてもらうわ」

「……」

ポツリとそう呟くシェリーの後ろでフレアはじっと空と、遠ざかる男達を見つめていた。





「くっ……くくく……」

ダノンは笑いを堪えきれずにいた。


(今日はついてやがる! まさかこんなに早く最強のハンターに名を連ねるチャンスが来るなんてよぉ!)


笑みを堪えて思わず横を歩くライザーに目をやる。
すると彼も同じ顔をしていたので、ダノンの感情は更に高ぶった。

「くく……おぅ、ライザー! 抜かりはねぇな!?」

「へへ……あぁ、ダノン! 回復薬に薬草、それに奮発して回復薬グレートだって持ってきた!」

「完璧だな! リオレウスやグラビモスだって俺らの敵じゃなかった! 黒龍なんて名前ばかりの張りぼて野郎、目じゃねぇぜ!」

「だな!」

実際には、リオレウスやグラビモスを無事に討伐出来たのは彼等を手伝った他のハンター達の活躍が大半だった。
ここまで五体満足でいられるのは本当に運のいいことでしかない。
しかし、そんなことにも気付けない実力のままにここまで来てしまった二人。

古龍に挑むというのに舐めきり、補助の道具は一切持ち込まず、用意したのは先程言った回復系統と僅かな砥石のみ。

二人の実力はフレアの見込み通り、上位のイャンクックを二人でようやく討伐出来る程度のレベル。


経験不足の上に無駄な自信を着飾った彼らには、近付いて来る黒龍の圧倒的な気配にも気付くことが出来ないでいたのだ。




――そしてその時が来る。


「……うお」


「で……でけえな……」


彼等の上空を覆い尽くすのは漆黒の闇にも劣らない黒一色。
間もなく降り立とうとする黒龍を見て、二人は本能的に生唾を飲み込んだ。


――今まで見てきた相手とは、何かが違う。


臆病風に吹かれそうになった二人だったが、そこでダノンが負けじと啖呵を切った。


「はっ! こんなやつ図体だけだろ! ライザー、とっとと終わらせようぜ!」

「お、おう!」


「しゃあ! なら先手必――」


二人が武器を取り出そうとした瞬間――彼等は五メートル近く吹き飛ばされた。



「……ぐっ………ぁ……?」


「な、なん……だ……?」


黒龍は只、地面に降り立っただけのこと。
その際の強烈な風圧に押されただけなのだが、二人は何が起こったのか分かっていない。

「やってくれたな! こんな攻撃痛くも痒くもねえよ! ライザー、いつまで寝てんだ!」

「お、おう。へへ、この程度なら余裕だな。おい! 今度はこっちからいかせてもらうぞ!」


『………』


二人が再び武器を構えると、黒龍はようやくその存在に気付いたように二人を見つめた。


「何だ? 何見てやがるんだ! お前は今から俺様達に殺られるんだよ!」


しかしミラボレアスの視線は吠える二人をすぐに通り越し、その後ろで自分を射るように睨んでいる三つの目線と交差した。
そして始めて敵意の色を水晶の瞳に浮かべる。

「あいつ……見ただけでハンターの実力が分かるっていうのかよ」

「そのようね」

フレアは改めて敵のレベルを痛感するが、今はまだシェリーの指示で動くことは出来ない。

そんなとき、横にいたチョモが大きな声を出した。


「何か来るっ!」


チョモがそう言った時には、すでに黒龍は長い首を後ろへと引っ込ませ始めていた。

「あの動作、まるで反動をつけてるみたい……でもあの距離じゃ何も……まさかっ!」

チョモが目を見開いたのと同じ時、ダノンも奇跡的に何か本能的な危機を察知していた。


「……ライザー……た、盾だ」

ぽつり、呟く。

「え?」

「……盾だ」

「だから盾がどうし――」

「いいから早く盾を構えろライザァァァァ!!」


「――!?」


ダノンの絶叫。
ライザーが盾を構えるのと、ミラボレアスが巨大な火球を放ったのはほぼ同時であった。


激しい爆発音と黒い煙が上がり、一瞬で二人の姿が消え失せる。


(なんて威力だ……っ!)

フレアは思わず息を飲んだ。
リオレウスの火球が可愛いものに見える、そんな光景だった。



「はぁ……はぁ……助かったぜダノン……」


そんな中、徐々に晴れる煙の中から声が聞こえた。

「あ、ああ……俺に任せりゃどうってことねぇよ」


現れたのは肩で息をしながら盾にしがみつくように立っている二人。

「あいつら……よく無事だったな」

「元々あの火球は私たちを狙ったものだからよ。真芯なら消し炭だったんじゃないかしら。ミラボレアスはあの二人なんて初めから見てやしないわ」

「………」

フレア達がそんな会話をしている時、ダノン達にはある異変が起きていた。

「それにしてもよく防い――っ!? おいライザー、盾っ!」

「え? うわっ!?」

二人は慌てて盾から飛び退いた。
溶岩の温度にも耐えるはずの鎧竜の甲殻で作られた盾が、水飴のように溶け始めたのだ。

「う、嘘だろ……こんなんまともに喰らったらお陀仏じゃねえか……!」

「お、おいダノン! 『黒龍は伝説だって持て囃されてるだけで大したことない』なんて言ったのはお前だろ!? どうなってんだ!?」

ライザーが発狂したようにダノンに掴みかかるが、ダノンも顔面を蒼白にさせている。

「お、俺だって知らねえよ! 俺はただ――ひぃっ!?」

ズシリと、黒龍の巨体が一歩二人へと近付いた。
自分の攻撃を邪魔した二人に、先程には無かった殺意が向けられているのは間抜けな二人でも分かった。

「あ……あぁ………」

「た……助け……」

ここに来て二人はようやく自分たちがとんでもない勘違いをしていたことに気が付いたのだ。

「うわぁぁぁぁぁ! 助けてぐれぇぇぇぇ!!」

「お、おい待てよライザー! 俺を置いていくなぁぁぁ!!」

情けない、悲鳴にもならない声を上げながら武器を捨てて一目散に城の出口へと走る二人。

そんな二人に向けて、黒龍はすぐに追撃の火球を放っていた。

「危ない!!」

思わずチョモが叫ぶも、盛大にわめき声を上げながら走る彼らにはまるで聞こえていない。
無防備な背中には灼熱の火球が凄まじい速度で迫っていく。

「シェリー! どうしよう!?」

「………」

シェリーはじっと彼等を睨んだまま動こうとしない。

「ふ、フレ――うわっ!?」

ならばフレアにと振り返そうとしたチョモ。
しかしその瞬間、巨大な爆発音と同時に赤い爆炎が舞い上がり、二人の姿はまたも炎に包まれて見えなくなった。

「もう……駄目だ。やっぱり殴ってでも止めるべきだったんだ……」

どんな人間でも、目の前で死なれるのは辛い。


(……むしろ死なれる前にとりあえず殴りたかった)

チョモは後悔でギリリと拳を握っていたが、次の瞬間思わず耳を疑った。
なんと「ひぃぃぃぃぃ!」と言う耳障りな声が煙の中から聞こえてきたのだ。

「嘘っ!? 何で!?」

煙から出てきたのはすす汚れたダノンとライザー。

今のは確実に真芯だったし、武器を捨てた彼等に防げるものは何もないはず。

「一体何が……――えっ!?」

そう言いかけてチョモはあることに気が付いた。

「嘘……いつから……じゃ、じゃあ……!」


慌ててチョモは爆煙の中を見る。
隣にいたはずのフレアの姿は、いつの間にか消えていた。







「ぐっ………何とか持ってくれたか……」

苦しげにそう言って煙の中から現れたのは、輝剣リオレウスを地面に突き刺して押さえているフレア。
膨大な熱量を受け止めたであろう白銀の大剣からは、白い煙と陽炎がゆらゆらと立ち上っている。

そして熱を持ったままの大剣を引き抜き、今度はミラボレアスに向けて突き立てると、フレアは不敵に言ってニヤリと笑って見せた。

「おい、お前の相手は俺等だろ? メインディッシュ前にしてつまみ食いなんてしてんじゃねぇよ!」


『…………』


彼の言葉を理解してかしないでか、黒龍はただ形容しがたい唸り声を上げてじっとフレアを睨んだ。




「シェリー……訳は後でたっぷり聞き絞ってやる! だから今はこっちに集中しろ!」

睨み合った状態でフレアは、後ろのシェリーに向かって声を張った。

「………!」

シェリーの目が軽く見開かれる。

「アンタが考えてることは分からない。だけどな――」

フレアは話す。

シェリーは二人が死に直面しても動こうとしなかったこと。
あの時、微笑みながら小首を傾げなかったこと。
それはフレアが唯一の知ってる彼女が嘘をつく時の癖だったこと。


だからこそ、フレアはすぐに飛び出すことができたのだ。

「後で、ちゃんと話してくれよ。何で俺に『こんな真似させたのか』をよ」

「……ええ、分かってるわ」

シェリーは伏し目がちにそう言って、再び目に力を宿した。
そして黒龍と向き合っているフレアの元に駆け出した瞬間、チョモに向かって一言呟く。

「――ちょっとここ、お願いね」

「もちろん」

チョモはシェリーの言葉を瞬時に理解して武器を構えた。


――自分だってむしゃくしゃしているのだ。


そしてチョモは、走り去るシェリーと代わるようにこちらに走ってきた二人に向け、勢いよくアヴニルオルゲールを叩き付けた。

「ひぃっ!?」

「うわぁっ!?」

二人の鼻先を掠めて地面にクレーターを作った狩猟笛を見て、再び尻餅をつく二人。

「何すんだ! は、早くどけっ! 今はそれどころじゃ……――ッ!?」

慌てて文句を言おうとしたダノンだったが彼女の表情を見た瞬間、固まったように動けなくなってしまった。

――それに、分からないことだらけのあの二人の会話。それもかなりムカツク。

――でもまずは『コイツら』だ。


「おい、今は――なんだって?」


お伽噺の中にしかいないはずの般若が、そこにはいた。

「あ……いや、その……」

それを見て、冷や汗をどっと吹き出したダノン。
ライザーに至っては顔面蒼白で体をガタガタと震わせている。

流石の二人もチョモの形相を見て、吹き出ている殺気が致死量に達している事には気付けたらしい。



「アンタ等、あんだけでかい口叩いておいてさぁ……すぐに尻尾巻いてとんずらこいて……挙げ句の果てに命まで助けて貰ったってのにさ、何? その態度」

「い……いや……」

口調は静かなものだが重さが違う、目などもはや直視出来ない。

(こ、このままじゃどっちに行っても間違いなく殺されちまう……どうしたら……)

ダノンの頭の中はこの状況をどう逃れるかだけで一杯だったが、次の瞬間そんな思いは掻き消された。

「おい! 話聞いてんのか!!!」

「――ッ!?」

慌てて顔を上げると、狩猟笛を今にも叩きつけそうなチョモの姿があった。

「き、聞いてる! 聞いてるよ!」

あたふたと手と首を振って必死に否定したが、それは彼女の表情は更に厳しくさせるだけであった。

「いいや、あんたのさっきの顔はここからどう逃げようかってだけを考えてる顔だったよ。あんまりアタシの眼、舐めんなよ」

「ぐ……だ、だけど……もう俺達には何も……」

苦し紛れにライザーそう言った瞬間、チョモはニコリと笑った。

「あんた達さ、回復薬沢山持ってるんだよね?」

「あ、あぁ」

「そうだ、が……」

意味が分からないと言うように頷く二人。

「ならさ、『広域化』のスキルはついてる?」

広域化――支援スキルの一つで、自分が飲んだ回復薬や解毒薬などの効果を周りのハンターにもリンクさせるという不思議な効果をもたせるスキルだ。
身に付ければサポート力を大幅に上げることが出来るがその反面、スキルを得るのは容易ではない。
もちろん二人もそんなスキルなど持っているはずなく首を振ったが、チョモはうんうんと笑顔で頷いてみせるのだった。

「大丈夫大丈夫、アンタ等どうせ装備のスロットなんて使ってないでしょ? 見て。ここに私が趣味で持ってきた大量の友愛珠がありまーす!」

そう言ってポーチから取り出したのは、桃色に光る広域化の力を秘めた珠の山。

「そ、それを一体……」

とても嫌な予感がしたダノンだったが、聞かずにはいられなかった。
チョモの貼り付いたような笑顔が、今は無性に恐ろしい。

「勿論、アンタ等につけて支援してもらうんだよ。たださぁ、その装備のスロット一杯に取り付けても全然足りないだろうし、私も素人だから規定量取り付けても効果は薄いと思うんだよねー。だ か ら ぁ……」

ダノン達が息を飲む中、チョモの笑顔はゆっくりと般若に戻っていった。

「お前等の穴っちゅう穴に珠詰め込んでやるよ!! 広域化+2……いや+3になるまでつけてやっから黙って後ろで支援しやがれ!!」

「んなっ!? +3なんて聞いたことな……――い゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」








「おい……後ろから汚ねぇ悲鳴が二重で聞こえるんだが、アイツ何してんだ?」

黒龍と向き合っている最中のフレアは、隣へやって来たシェリーを見るなりそう呟いた。

「さぁ? でももう彼女もこっちへ来るみたいだし、『いろいろ』と楽になりそうね」


そう言いながらも視線は外さず。

「はぁ……アイツやっと昔の面影が戻ってきたと思ってたのにここに来てまた振り出しかよ……」

「あら、一概にそうとは言えないんじゃない? 貴方だって分かってるでしょう?」

そう言いながらも構えた武器は一切ぶれず。

「まぁ……な。おい、雑談はこれくらいにしとかねぇと、奴さんも待つ気は無いみたいだぜ」




『イ゛ィア゛ァァ゛ァァァァァァァ゛ァァァ゛ァァァァ゛ァァァ゛ァァァァ゛ァァァァァァァァァ!!』



敵意を交差させた相手は遂に戦いの合図を轟かせた。


それは、その叫びはどこか、悲痛な人間の叫びにも似て。
何千、何万もの悲痛な大合唱となってフレア達の耳に襲いかかる。


「うおぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「はぁぁぁぁぁ!!」

そんな咆哮に二人は怯むどころか真っ向から向かっていった。


片や、肩に背負った大剣の柄をあらん限りの力で握り締め。

片や、両手に持った双剣の切っ先を目先の黒塊に向け。

龍とハンター。
その二種しか存在いないこのシュレイド城の大広間で今、各々の存亡を賭けた戦争が始まろうとしていた。
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楽太郎

Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
楽しんで読んでもらえたら幸いですね
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