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シュレイドの夜 7話

2013/12/17

「───畜生が! やってやろうじゃねぇか!」

気合いを入れ直し、シェリーと共に黒龍の元へと向かうフレア。

──障害は全て、後ろの相方が知らせてくれる。

それだけで彼の足は再び力強く大地を蹴ることが出来た。

「シェリー。目的を達成するにゃ、もう一度奴の脚に攻撃を入れなきゃならねぇ訳だが……どうする? もう一度試すか?」

走りながら問い掛ける。
昔から頭で悩むよりも、行動しながら流れと共に勝機を掴んでいく方が彼は得意だ。
それは、彼に特訓を施したシェリーも同様であった。

「……そうね。また同じ手が通じるとも思えないけど、今はそれよりいい案は思いつかないわ」

退路を絶たれている時点で、元々悪かった分は更に低くなっている。そんな状況で名案が沸くように閃くなどと、フレアもシェリーも考えてはいない。


「でも彼女の演奏が終わるまでの足止め位にはなるでしょう。もう一度、二手に分かれるわよ」


考えるのはその先──。


「よし、了解だ」

フレアがそう短く言った後、二人はミラボレアスに向かい左右に別れて接近を図った。
前回とは少しでも違いを作る為か、フレアがミラボレアスの注意を引き始める。

「おいおい、どこ向いてんだ? さっきテメェをぶった切ったのはこの俺だぜ?」

『ヴヴヴ……』

果たしてモンスター相手に挑発が効いたのかは定かではないが、ミラボレアスはシェリーから眼を離してゆっくりとフレアの方を向き直った。
重く、金色に光る水晶の双眼が唸り声と共に自身の足元へと向けられる。

「へっ、殺る気満々って面してんなぁ……上等だ」

フレアはいつでも抜刀出来るよう、柄に手を掛けて近づいていた。
まずは怯ませるような攻撃を叩き込まなくては何も始まらないのだ。

「狙うは胸から脚にかけてのライン……だな」

背の大剣をどう振り抜くかをイメージしながら、一瞬のタイミングを図る。


ハンターを長くやっていると、少し対峙すれば初見の敵でもある程度の肉質が見えてくる。
尻尾の異常な硬さからは、背部の硬さが。
脚の柔らかさで、近くの腹部まで刃は通るであろうこと。
勿論、そんな情報だけではそんなことは分からない。
しかし実際に刃を交えたハンターには分かるのだ。

武器を振るった時の感覚や手に伝わって来る振動。
膨大な経験と研ぎ澄まされた勘で相手を判断する、チョモのものとはまた別の観察眼。
それが最善の一手を教えてくれるのだ。



そこを狙うなら相手が棒立ちしている今が最大の機会……。


──だからこそ、フレアにはある疑問が浮かび上がっていた。


(あいつ……何で柔らかい部位をそのままにしてるんだ? あの位知能と能力が高けりゃ、余すとこなく硬い甲殻で覆っても良さそうなもんだがな……。正面からなら迎え打てるっていう強者の余裕ならいいんだが……もし──)



「──フレア危ない!」

「!!」

チョモが叫んだのとフレアが大剣を盾にして防いだのは、ほぼ同時だった。

防いだ──というよりは、その急激な出来事から逃げることが出来ず、『防ぐことしか出来なかった』というのが近い。
フレアに襲い掛かったのは、黒い巨影。
全体重を掛けてフレアを押し潰そうとする、黒龍の巨体そのものであった。

「──っ畜生が!!」

ガリガリと嫌な音を立てて削られる大剣を犠牲に龍の下から弾かれるように抜け出したフレアだったが、彼は防御の姿勢を解くことは出来なかった。

「お前等! 黒龍の直線上に立つな!」

叫んで、ギリリと歯を食いしばる。
今になってフレアは先程の疑問の答えを見つけていた。


(コイツ……このまま動き回るつもりだ!)


───四足歩行。


通常のトカゲなどの爬虫類を見ても、この態勢が自然の形だと考えるのが妥当だ。
最大の弱点である頭部こそ下がる姿勢であるが、同様にこの態勢では最大の武器となり得るため迂闊には近付く事は出来ない。


しかし、予想以上の出来事がフレアを襲うこととなる。


『ヴォォォォォォ!』


「……! ……っ! ……がっ!?」


地響きのような足音。
それと同時にフレアの大剣とミラボレアスの身体が激しくぶつかり合う音がけたたましく鳴り響く。
新たに大地へと着いた細くも強靭な前脚と、この態勢によって本来の筋力を発揮した後ろ足。
咆哮を上げた黒龍は、それらを駆使して凄まじい突進を繰り出してきたのだ。

「………が……はっ……っ!」

まさに全身が凶器と化したミラボレアスの突進は、瞬く間にフレアのガードを突き破った。

「フレアっ!!」

チョモが悲痛な叫びを上げる。
フレアが物理法則を無視したような飛ばされ方───つまりほぼ地面と平行に吹き飛ばされて壁へと叩きつけられるのを、彼女はただ見てるだけしか出来なかった。

だらりと崩れ落ちるフレア。
そこへ迫ろうとする黒龍。
すぐさま演奏を中断して駆け寄ろうとしたチョモだったが──。



「大丈……夫だ! お前はお前の……仕事をしてろっ!!」



「──っ!?」

怒声にも近いその声量に、チョモは驚いて足を止めてしまった。

「嘘……だってあんなに壁めり込んで……」

絶対に普通の人間ならば動くどころか意識すら保てないレベルの衝撃であったことは壁の凹み具合で容易に分かる。
しかし、フレアは装甲の剥がれ始めた銀色の大剣を支えにしてガクガクと起き上がって見せたのだ。

「へっ……こんなの、ちょっとキツめのマッサージ……だぜ」

フレアは倒れないように懸命に体を支えながらも懐から厳重に封をされた小袋を取り出すと、封を強引に破いて中にあった赤色の丸薬を一気に噛み砕いた。


──それは『いにしえの秘薬』と呼ばれる調合薬。

失った体力とスタミナを瞬時に回復させる強力な薬であるが、その効果は同時に身体に大きな負担を掛けるためにギルドから持ち運びに厳重な制限が掛かっている。

「……くっ! はぁぁぁぁ……」

軽い呻きを上げながらフレアはゆっくりと息を吐いた。
自分の細胞が、フルスピードで身体の回復に働きかけているのが分かる。
普段よりも激しく鼓動する心臓が、再び熱い血液を身体中に巡らせ始めたのが分かる。

その凄まじい回復の速度に思わず意識を手放しそうになるが、フレアはそんな状況でニタリと笑って見せた。


「──つまり、完全回復って訳だ」


ここで倒れる程ぬるい鍛え方はしていない。


──俺は、な。


「……俺と、『アイツ』にそこまでさせた代償はでけぇぞ」

大剣を担ぎ直すと、フレアは『自分に背を向けている』黒龍の元へと駆け急いで行った。







正直、あそこにいたのが彼でなかったら確実に死んでいただろう。

「それ以上あの子に手を出したら承知しないわ!」

黒龍の真横に近付き、双剣を強く握り直したシェリーはそう思いながら声を張り上げた。
飛竜種の物とは比べ物にならないほど硬い漆黒の鱗は、黒龍が這いずっている今なら触れただけで喰らうように肉を削り取るだろうが、それよりも強靭な武器を当てればその力を利用して敵の肉を裂くことも出来る。

そしてシェリーの双剣は、極めればどんな鉱物でも切り裂ける高水圧の刃で作られている。
だから、たとえ黒龍の甲殻が貴重な鉱物から精製されたハンターの防具を溶かし、纏ったものであっても刃は必ず通る。
その点だけはシェリーも確信していた。


──その点だけは。



「はぁぁぁぁぁぁ!!」

シェリーは気合いと共に黒龍の進行方向とは真逆の方向に身体を回転させて、双剣を渾身の力で振り抜いた。



──しばらく観察していれば今の黒龍が左右の動きに弱いことは分かる。先述の戦法はそれを踏まえてようやく導き出せるものだ。しかしシェリーはフレアが吹き飛ばされたと分かった瞬間、そんな情報も無いままに飛び出していた。
有効とは言っても、少しでも距離を間違えればあっという間に黒龍の動きに巻き込まれてしまう──本当に危険な
、無鉄砲と言ってもいい手段。
ましてやそれをぶっつけ本番で行うなど……。



───正気の沙汰ではない。



もしも、実際に黒龍と戦ったハンターがいるならば、誰もがそう思うはずである。



──だがシェリーは、シェリーだけは違った。



「させないって言ってるでしょう!!」


『…………!!』

双刃が、何かを切り裂く音が確かに響いた。
同時に響いた嫌な音と共に。


黒龍が動きを止め、再び立ち上がって後ろを振り返る。


「───ふふっ……そうそう、そんな顔が見たかったのよ」

ミラボレアスが驚きと殺意に満ちた眼で睨むのに対し、シェリーは悠々とそれを見返す。
彼女は、フレアを狙う黒龍の動きを見事に抑えて見せたのだった。


──だが。

「……でも私の出番はもう終わりね。もう少し遊びたかったのに残念だわぁ」

そう、嘲笑気味に言ったシェリーの両手には──双剣は握られていなかった。

両腕はだらりと力無く下がり、ピクリとも動かない。
シェリーの両肩は先程の衝撃で完全な脱臼を引き起こしていたのだ。

だがシェリーは笑みを崩さない。

「ふふ、別に再起不能って訳じゃないのよ? ここには優秀なお医者さんもいるし、その気になればこんなのは一人で治せるの。なら、どうしてやらないのかって?」

激痛で冷や汗が流れる中、視界の端に映る赤い人影を捉えたシェリーはニッコリと小首を傾げてみせた。

「もう流れ、掴んじゃったのよ。ざまみろこのトカゲ野郎」


「───だぁぁぁぁらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


狩猟笛の旋律によって強化されたフレアの渾身の一撃が、始めよりも深く、そして大きく黒龍を切り裂いたのは、そのすぐ後のことであった。






『ギィィィィヤァァァァァァァ!!』

黒龍のつんざくような咆哮がシュレイド城中に響き渡る。

だが、黒龍が再び倒れることは無かった。
脚を踏み出して耐えているのか、姿勢は低くなったものの転倒する気配は無い。

「なっ……!? 完璧に入ったはずだってのに……何でだ!?」

「──多分、アイツも分かってるんだろうね。次倒れたら、自分がやばいってことがさ」

「チョモ!?」

いつの間にか、フレアの後ろにはチョモが笛を構えて立っていた。

「お前何で武器構えて……つかそれってハンマーの溜めじゃ……」

自分の体から冷や汗が吹き出ている事に気付いた時には、もう遅かった。

「嘘だろおいやめ───」

「てな訳で行ってこい、相棒!」

ニタリと笑うチョモ。
みしり。と背骨が優しく、それでいて無理矢理な力で剃らされるのが分かった。

「うぉぉぉぉ!? 」

フレアは黒龍に向かって、狩猟笛で高々とかち上げられたのであった。

「ふざっけんな……っ!」

中和された重力が再び掛かる不快感に襲われながらも、フレアは見事に黒龍の真上──頭部へと降下していた。

「まさか、伝説の龍を見下ろす日が来るなんてな……」

チョモの破茶滅茶には慣れているのでパニックはすでに収まっていたが、不安定なこの状況で果たして上手く攻撃を当てられるかどうか──その点を危惧してフレアは集中を高める。

チャンスは一度切り。
この好機を逃してはならない。

「頼むよフレア!」

チョモの声援が遥か下から聞こえてくる。

「おう!」

気合いは十分。

「おっらぁぁぁ!」

空中でバランスを取りながらフレアは大剣をミラボレアスの頭に叩きつけた。

──が。

「あぁ!?」

あまりの出来事にフレアは素っ頓狂な声を出した。
自慢の大剣『輝剣リオレウス』の柄がメシリという音と共にひしゃげてしまったのだ。

「くっそ……!」

やはり幾度となく黒龍の攻撃を受けたことが祟ったのだろう。
お陰で攻撃は中途半端になり、黒龍に倒れる程のダメージを与えられないだけでなく、フレアもバランスを崩してしまう。

「っ! フレ──……あれ?」

落下を危惧して叫んだチョモだったが、フレアが地面に叩き落とされることはなかった。

「……あ? 何だここ……地面じゃねぇな、妙にゴツゴツして……なっ!?」

状況を理解したフレアは、珍しく引き吊った表情を漏らした。

「ふ、フレアがミラボレアスの頭に乗ってる……!」

恐らくは一番乗ってはいけないものに間違いはない。
そんなとんでもない光景にチョモも目を白黒させている。

「ど、どうすんだよこれ!?」

「わ、私もそこまでは考えてなかったよ!」

『…………っ!』

「うおっ!? こいつ……っ……急に暴れ出しやがった……っ!」

ミラボレアスは頭のフレアを振り落とそうと暴れまわるが、生え揃った角を滑り止めにしてフレアは必死にしがみついていた。

「そりゃ、黒龍だってそんな暑苦しいアクセは付けたくないって」

「──んだと!」

「うわ、聞こえてたよ」

「それ……より、ここから……どうすりゃ……!」

身体をこれでもかとしならせて暴れまわる黒龍に精一杯張り付きながらも、次第に体力の限界が近づいていく。
しかし、フレアの体力が切れる前に黒龍の動きが収まった。
下で聞こえる黒龍の呼吸が荒いのが伝わって来る。

「……へっ、お前も大分消耗してんだな」

「──フレア、今のうちよ! 攻撃しなさい!」

その時、そんなシェリーの声が耳に届いた。

「攻撃っつってももう武器が……」

「剥ぎ取りナイフよ、その位安定してるなら使えるはずだわ!」

ハッとして腰に付けた剥ぎ取りナイフを抜き出す。
繊細で扱い辛いと思っていたそれが、今は妙に頼もしく感じた。

「成る程ね……ならこっちの番だ!」

頭上まで振り上げて突き立てたフレアだったが、直後に襲って来た手の痺れに思わずナイフを取り落としそうになってしまった。

痺れの原因は、ほぼ無傷の黒龍の頭殻がはっきりと物語っている。

「硬──ってぇぞおい!」

「ただ刺すだけじゃ効果は薄いに決まってるわ! 何度も同じ場所に突き立てて、柔らかい箇所まで切り込んでから一気に突き立てなさい」

「…………了解」

先に言え──とは助けて貰った手前、流石に言うことは出来ない。
文句の前に、まずは目の前の仕事だ。

「さぁ──覚悟しやがれ」

フレアが狙ったのは角の付け根。

「おらおらおらぁっ!」

危険を察知して暴れる黒龍の合間を狙って、着実に切り込んでいった。
すぐ塞がり始める傷口を根気よくナイフで突き立て続けるフレア。
慣れてきたのか、途中からはスペアの剥ぎ取りナイフを取り出し両手で交互に切り結んでいく。

「あと……少しっ!」

『ギィヤォォォォォォォォ!!』

時に咆哮、時に狂ったように身を捩る黒龍に必死で食らいつき───ついに硬く身を護っていた甲殻に僅かな隙間が生じたのを、フレアは見逃さなかった。

「そこだぁぁぉぁ!!」

『…………ッ!!』

渾身の力で突き立てた剥ぎ取りナイフはミラボレアスの頭殻を破り、頭に深々と突き刺さる。
ミラボレアスは身体に電流が走ったかのようにビクリと全身を痙攣させ、ゆっくりと地面へ倒れていった。
同時にフレアも地上へと投げ出される。

「……痛っ! おい今───はははっ! んな女帝エビみたいに反らなくてもいいだろうがよ!」

痛みも忘れて思わず噴き出してしまう。

「このアヴニルオルゲールの重ったい一撃を……喰らえ──そんでハマちゃんとバルスを解放しろっ!」

チョモの二度目の一撃は、一度目とは比べ物にならない威力だった。
加わったのは、想いの強さ。

「せいりゃぁぁぁぁぁぁああ!!!」

金色のオルゴールはギュルギュルと音盤を回転させ、龍殺しの稲妻を纏って黒龍の四本ある角を全て叩き折った。



「へへっ。ギルドナイトを舐めるなってんだ!」



───それは奇しくも、古塔でハンマーがバルスに祖龍の角を突き立てたのと同刻のことであったという。








「……で、角を折ったのはいいけどよ。この後どうするんだ?」

ダウンした黒龍を背にドヤ顔でこちらに帰って来たチョモにフレアは苦い顔つきで尋ねた。

「……へ?」

「目的は達成できたが、俺らのピンチは一層濃くなってんだぜ?」

ミラボレアスは怒り心頭といった様子ですでに起き上がり始めている。
弱らせたといっても黒龍にはまだまだ余力があり、未だ自分達の出口を塞いでいる現状は変わりないのだ。

「そうね。問題はここからどえするか、よ」

シェリーはいつの間に整復したのか、しっかり頬杖こそついているものの流石に戦える状態ではなく、フレアだって強制的な働かせている肉体がいつまで持つか分からない。
フレアはいにしえの秘薬の効果で体力を強制的に引き上げているが、いつ再び限界が訪れるか分からない上に武器を破損している。

五体満足に動けるのは最早チョモ一人だけであった。

「あー……ちょっとヤバイかも?」

「ちょっと……じゃねぇなぁ、女神様」

「こんな所に援助なんて来やしないでしょうし……何とか『あそこ』から抜け出すのを試みるしか、手段は無いのかしらね」

「……本気でそれが出来ると思ってんのか?」

「まさか。私が言ったのは手段が限定されてるって話であって、助かる見込みがあるなんて言ってないわよ?」

「だよな……アンタは昔からそうだったわ」

「何よ、元から私は『こう』なの。私が私じゃないことなんて、しないわ」

「あぁ……そりゃそうだ」

「ま、私だって諦めたくはないけどね」

シェリーはニコリと笑ってみせる。


「フレア……黒龍の隙をみて駆け抜けるとして──まだ動ける?」

二人の会話を不安そうに見つめながら、チョモがおずおずと聞いてきた。

「いや……正直俺にも分からねぇ。いつバッタリいくかなんて、それこそお天道様の匙加減ってとこだろうな。あの状態の黒龍が隙を見せるとも思えないしよ」

フレアは普段よら荒く髪を掻いた。
それに加えてこの閉ざされた『檻』の中、いつ黒龍の気が変わって火球を吐いて来るかも分からないのだ。
状況は、絶望的だった。

「お天道様……か」

チョモは真上の禍々しく渦巻く暗雲を眺めた。
あの上にはちゃんと太陽が照っているのだろうか……?


「……ん?」

その時、チョモの目に妙なものが映った。



「今何か光って───フレア! あれ見て!!」

「あ? 今はそれどころじゃ……って何だ!?」

二人の目に映ったのは、暗雲に輝く白銀の光。
遠すぎて正体は分からないが、城の遥か上空をまるで旋回しているようにも見える。

シェリーは驚いたように目を開いた。

「あれは……ということは───」

「二人とも見て! 黒龍が!」

「──っ!?」


(しまった! 目を離してるうちに襲って来たのか!?)


慌てた様に言うチョモに促されて、フレアは急いで黒龍に視線を戻した。

「なっ!?」

しかしフレアは全く別の意味で驚きの声を上げた。
ミラボレアスは上空を一瞥した後、巨大な翼を広げ始めたのだ。



──先程までの殺意は、既に薄れていた。


『…………』

黒龍は不服そうに三人を睨むと、翼を思い切り羽ばたかせた。

「きゃあ!?」

「うおっ!?」

爆風のような風圧に視界を一瞬遮られる。
再び目を開いた時、既に黒龍の姿は目の前から消え失せていた。

「……何だってんだ?」

空を見上げても暗雲ばかりで、もう白い光も黒龍も見当たらない。

「どうやら向こうも終わったみたいね。私達の仕事も、これにて一件落着ね」

「……お前、さてはまだ何か知ってやがるな?」

「さぁ?」

「……はぁ」

もはや隠そうともしない様子でただニコリと微笑むシェリーに、フレアは呆れるように肩を落とした。

「私達……助かったんだよね?」

その横でチョモがぺたりと座り込み、シェリーに確認するように言った。

「そう。でもね、運が良かったっていうのは確かな事なのよ?」

ホッと胸を撫で下ろしたチョモに、シェリーは噛み締めるように言った。

「様々な奇跡に加えて───簡単に言えば人の心……なのかしらね。それが積み重なったからこそ、私達はおろか世界は今、無事で済んでいるのよ」

「……?」

「あー……チョモはもちろんだが、俺も今一ピンとこないな」

首を傾げる二人にシェリーはクスリと笑う。

「ま、帰ったらゆっくり話してあげるわ。ひとまずはドンドルマに帰りましょう」

「そうだね! 私もクタクタだよ」

「いや、お前は一番無傷だろうが」

「何言ってんの? サポートがどんだけ気を遣うか、アンタ分かってないでしょ」

「いや、それよりも黒龍の頭にぶっ飛ばされた時の気持ちを理解出来るのかよ!」

「私の苦労も労って欲しいんだけどねぇ。貴方たち、減給するわよ?」

「シェリーさん、肩を揉みましょうか?」

「嫌よ。さっきまで外れてたのよ?」

「シェリーさん、粉塵を使いましょうか?」

「さっきまで気持ちの悪い粉塵ばっかり使われてたんだから、もう沢山よ」

帰れると分かって気が抜けたのか、雑談しながら城門を潜る三人。

「そんなこと言わずに───」




「止まって!」

一歩外に出た瞬間。
突然、チョモの声が響いた。



──暗がりの中で、大量の『何か』に囲まれている。



二人もすぐにそれに気が付き、表情を瞬時に強張らせた。



「……お前等、一体何者だ」

チョモ達二人を後ろに下げ、フレアが警戒心を強めて口にした。
暗闇でも、足音や衣擦れの音でそれがモンスターではなく人間だということは分かる。

「──おいっ!」

すると向こう側から合図を出すような男の声が聞こえてきた。
声色は、フレアと同じように警戒したものである。

「……ん? ──うおっ!?」

次の瞬間、フレアは思わず腕で目を隠した。

周りに広がったのは、眩しい位に暖かいオレンジ色の光。
消えていたはずの松明に一気に火が灯ったのだ。

「──ふ、フレア団長?」

先程と同じ、聞き慣れた声が自分の名を呼んだ。

「お前等……っ!」

灯りで照らされた城門の前にいたのは、あれだけ探しても見つからなかったギルドナイト猟団『赤鷲』と、シェリーの率いる騎士団員達であった。

「一体今まで──!」

何をしてたんだ、と聞こうとしたフレアだったが、それよりも先に団員を率いていた兵長がとんでもないことを口にしたのだ。

「……何故、我々より後に出たはずの団長達が先に着いておられるのですか?」

「……は?」

首を傾げ続ける兵長の話によると、ギルドナイト達はドンドルマからここまでの一本を飛ばして来たようで、後から出たフレア達が抜けるはずがないと言うのである。

「いや、おかしいだろ……それどころか俺らは何時間もここに……!」

自分で口にしてフレアはハッとした。
そもそもフレア達は朝に着けるようにと深夜に出発していたのだ。
なのに加えてあれだけの時間──ゆうに三時間以上も城内に居たはずなのに、夜が明けることはなかったである。

「私達が閉じ込められていたのは単に城の中だけ……という訳では無かったようね」

アワアワしているチョモの横でジッと様子を見ていたシェリーが面白そうに言った。

「とにかくだ、黒龍はもうここにはいない」

「ま、まさか討伐したのですか!?」

「いや……撃退に近いが、三人じゃとても倒せる相手じゃ無かった。──運が良かったんだ」

撃退、と聞いて団員達の間で大きなどよめきが広がった。
中には命を捨ててでも足止めしようと考えていた団員もいたのだ。そんな相手を自分達が移動している間に撤退させたと言うのだから。どよめきの中にはそんな驚きや喜びも含まれていた。
後ろの方では「あのシェリー様が倒し切れない相手がいるなんて……」と別の意味で驚愕しているギルドナイトもいたが、それがどこの所属かは明白である。

「無駄働きをさせちまったが、作戦は終了だ。直ちにドンドルマへ帰還して報告するぞ。あと、城の中に規約違反のハンターが二名転がってるから連れて行け!」

「はっ!」

団員達の反応は素早かった。
到着して間も無かったこともあり、あっという間に帰還の準備を済ませた。
そしてフレアとシェリーは救護用の竜車に乗せらせ、チョモによる本格的な治療を受けることが出来た。

「痛てて……! おい、ちょっとは加減しろよ!」

消毒液をぶちまけられたフレアが少し
涙目になって怒鳴る。

「何言ってんの! よく見たらあちこち火傷してるし、擦り傷だらけだし、化膿したらどうすんの馬鹿!」

「────っ!?」

包帯を巻き終わった腕をバシンと叩き、のたうち回るフレアを残念な顔で眺めていたチョモだったが、ふと竜車の外を眺めるとパアッと表情を明るめた。

「見て! 朝だよ!」

「あら、なんだか久し振りね」

「……あぁ、目の前がチカチカしてんのはそれ……か?」

暗雲の隙間から何本もの光の柱が降り始め、永遠にも思えた夜が終わりを告げたのを三人はようやく実感することが出来た。

「これでドンドルマも落ち着けるかな?」

「だな……」

「不思議な体験だったね。でも私達は伝説の黒龍と戦って、無事に帰ってこれた──これは自慢してもいいんじゃない?」

「あぁ、そのオルゴールを奪われた学者達にも土産話を聞かせてやろうぜ。……しばらくは引っ張り凧になるだろうな」

「ふふ、当分は軟禁状態でしょうね」

今更ながら黒龍と対峙していたという実感が湧いてきた三人は、ようやく腰を落ち着かせて話し合うことが出来た。

竜車はゆっくりとシュレイド城を後にし、次第にその禍々しい建造物は見えなくなっていく。

「あ、そういやあん時の理由、話すって言ってたよな? 折角だ、今教えろよ」

「この状況で聞くの? ……貴方意外とデリカシーがないのね」

「ううん、フレアはいつもデリカシー無いよ。バルスと一緒になってからは特に顕著だね」

「んだと!? あいつと一緒にするんじゃねぇ!」









『…………助けてくれ』



ガヤガヤと騒がしく進む竜車の後ろで、シュレイド城の重々しい扉が独りでに閉まったのを───誰も知ることはない。





誰も、色褪せたギルドナイトスーツの男の事を───思い出すことはない。




彼は今も、誰かが仇を撃ってくれる時を──永遠に待ち続けている。
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楽太郎

Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
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