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BRAVERY PROOF 〜その名の行方〜

2013/12/17

「やぁ。今度はバルバレに行くんだって?」

ここは砂漠の街『ロックラック』。
砂の味がする懐かしい風を感じながら、私は彼にそう尋ねた。
格好は何故か黒のインナーのみで、他の人達から白い目を向けられていたがこの男のセンスを指摘するのも今更な気がしてやめにした。

ドンドルマからモガの村まで船、そこからタンジアの港へ行って飛行船に乗──らず、料金の安いネコタクエクスプレスへ乗ってガタガタとここへ辿り着き、ようやくバルバレ行きの砂上船へ乗り込もうとしている黒髪の男はピタリとその足を止めた。


「……!?」

そして驚いたように後ろを振り返った。

「久し振り」

私はニヤリとして言うと、男は更に驚いた顔をした。
何せ誰も素顔を知らないはずの自分が声を掛けられた上に、その声を掛けた人物がもういないはずの人間だったのだから驚くのも無理はない。

「でもそんなに驚くことはないんじゃない? バルス」

「ハンマー……」

口をポカンと開けていた彼だったが、その点は流石ですぐに表情を整えて涼しい口調で話し始めた。

「どうして──いや、君のことだ、理由は聞かないよ、お帰り。アクアちゃんにはもう会ったのかい? 彼女、随分と元気を無くしていたよ」

くぐもっていない彼の声は本当に久々に聞いたが、飄々とした感じは相変わらずだ。
アクアを元気づけに行ってくれたのは感謝しなければいけないが、大方嫌がらせになったのではないかと思うと素直にお礼は言えない。

「いや。アクアに会っちゃったらもう当分離れられないと思ったから、先にここに来た」

落ち込んでいるアクアの顔なんて見てしまったら本当に離れられない気がする。
というかその前にどんな顔して会いに行けばいいかも分からない。
だからこそ、まずこの男に『ある』けじめをつけなければいけないと思った。

そしてその男が間も無く旅立つと、古塔で優しい姉が教えてくれたからこそ、私は急いでここに来たのだった。






「──もう使わないなら返してもらおうかなと思ってさ」




「……怒ってるかい?」



──何を?
とも言わず、本題を切り出した私にバルスはそう尋ねた。

「そんな訳ないさ」

そう言ってから思う。

──来て正解だった。

この男は、記憶が戻ってからずっと気にしていたのだろう。

「お互い自分を救ってくれた名前がさ、一番いいに決まってる」

「………」

そう。
バルスが気にしていたのは『バルス』という名前そのもの。
あの時私が送った名前を忘れ、使っていなかったことを、無駄に律儀なこの男はズルズルと引き摺っているのだ。

「でも……」

「でももデルクスも無いって。だから返して貰いに来たんだ」

その位しないとこの男はいつまでも気にするに違いない。
その気持ちは嬉しくもあるが、そのせいでバルスを苦しめるのはごめんだ。

「……分かったよ」

「よろしい。んじゃ改めて紹介しよう──出ておいで!」

私が後ろの荷台に呼び掛けると、小さな黒い影が勢いよく飛び出した。

「よ、呼ばれて飛び出て、ニャ!」

うん。
少し噛んだけど打ち合わせ通り。

「……アイ……ルー……だって?」

バルスが珍しく困惑した表情を浮かべた。
いや、珍しくはないか。
もともと顔に出るタイプだったし、ずっとスカルフェイスを付けていたから表情を隠すことも忘れていて、非常に分かりやすくなっているのだ。

「まさか……」

「そう、そのまさか」

私は新しく雇った漆黒色のアイルーの両脇を抱えて高らかに持ち上げた。

「この子がバルスの旧名を授かることになった私のオトモアイルーです!」

「……………」

バルスは何と言っていいか分からず絶句していた。
まさか自分の思い出の名前をアイルーに付けられるとは思っていなかったようである。

ふふん。
これ以上無いって位の嫌がらせだ。

でも、これ位しないと彼は納得しないのだから仕方ない。

「だ、旦那さん、高いニャ」

「おっと、ごめんごめん」

毛を逆立てて震えるアイルーをゆっくりと胸元まで降ろして抱え直す。
名前と違い臆病な性格だったのをすっかり忘れていた。

「どうしたの? そんな変な顔して」

「いや……それは……ちょっと……」

「何さ、私の家族に文句つける気?」

「でもそれは流石に複雑な……やっぱり怒ってるんじゃないのかい?」

「バルス」

嫌がらせはここまで。
わたしはしっかりと、その名で呼んでやる。

「私にだって分かる。あんたは『バルス』だ」

「………」

言ってやらなければ、どちらも前へは進めないから。


砂上船の出発を告げる鐘が鳴る。
もう時間はあまり残されていない。
私はアイルーを撫でながら続けた。

「お前が私を、私がお前を『この』名前で呼んでたあの時、確かに私達は救われてたさ。その時間は確かに大切なものだったよ……でもさ、私達が世界を知って、本当の意味で救われたのは『あそこ』を出てからだろう? 私が本当の名前を知ってからもハンマーを名乗ってるのは、どの名前が一番『自分自身』に相応しいかを考えた末なんだ。確かに変な名前だって言われたり、ややこしかったりするよ。両親から貰ったマリディアのほうがいいんじゃないかって悩んだりもした」

「………」

「でも、私達は誰より名前の大切さを知ってるからこそ悩むことが出来るんだ。そんな私達が悩んで決めた名前を誰だって──私だって否定することは出来ないんだ」

「ハンマー……」

バルスの顔にはもう迷いは無かった。
それを見て私もようやく笑うことが出来た。

「ちゃんとさ、胸張って行っておいでよ。もう出発しちゃうよ?」

「……ありがとう」

バルスはそう言って、ゆっくりと私に背を向けた。




「じゃあね」

遠ざかっていく黒い背中に、密かに別れを告げる。
もう当分、話すことは無いだろう。




「あ」


そう思った矢先。
桟橋に足を掛けたバルスが思い出し
たように振り返った。

「一応言っておくけど、僕は別に君のネーミングセンスが悪かったからとかそんな理由で───」

「台無しだよ! もう帰ってくんな!」

「痛い!? ってこれ──」

言って私は、渡たしそびれていた黒い破片を投げつけた。
それは粉々に砕けた中で、唯一形を保っていた「バルス」の冒険の証。


「………」


バルスは無言でそれを拾って大事そうに懐へと仕舞い込むと、ニッと笑った。


久方ぶりに見た、彼の素の笑顔。


「じゃ、行ってくるよ。皆によろしく」

「ん、お土産忘れないでね。あと、あの子には頻繁に手紙出してやんなよ?」

「僕の近状よりも仕事の進み具合を知りたがってると思うけどね……」

バルスはそれでも楽しそうに笑ってから、私に軽く手を振ってみせた。

「それじゃ」

「うん」


最後は淡白な挨拶で、私達は暫く振りの再開と、別れの挨拶を終えた。


「さて、と」

「……ニャ?」

「──行かなきゃ」

「!?」

徐々に遠ざかる砂上船を見ながら、私は隣のアイルーを抱えて勢いよく走り出した。





──こうしちゃいられない。

私の帰りを信じてずっと待ってる人がいるんだから。

私は飛行船乗り場に着くと突っ込むように受付に噛り付いた。


「すいません!」


速攻でここからドンドルマに帰り、ポッケ村に行こうとすれば普通は最低で三日はかかる。



一日で行こう。

やれるかどうかじゃない。
やるんだ。

こんなゆっくりしている場合じゃなかったかもしれない。
二年も待たせてアクアがグレていたらどうしよう。




「ねぇ! この中で一番速い飛行船はどれ!?」

「──こちらでございますが、少しお値段の方が……お支払いはどのように?」





「あー……ドンドルマのイーゼンブルグ家。そこのバルスって男につけで」

「かしこまりました。料金はこちらになりますが、よろしいでしょうか?」



「…………うん」



私は予想よりも一桁多い額から目を逸らして、飛行船へと急いだ。




「……ま、このくらいはいいよね?」



バルバレについたバルスの元へ届いた手紙に、シャワの怒声が殴り書きされていたのは言うまでもない。




飛行船の搭乗口に着いた私は、抱えたままだったアイルーをゆっくりと地面に降ろした。




「じゃ、またね。ディーン」

私は『先程助けたばかり』の野良アイルーにそう別れを告げる。

「……本当にこの名前、貰ってもいいのかニャ? 大事なものじゃないのかニャ?」

黒いアイルーはおずおずと上目遣いで尋ねる。
そんなディーンを撫でながら、私は優しく言った。

「その名前には『勇気』が入ってる。自分も同じ位ボロボロなのに、それでも他人を守れるくらいの覚悟を持てる勇気が。私が無い頭を捻って考えた、そりゃ大事な名前だよ」

「ニャ……それじゃやっぱり……」


でもさ──と私は少し照れ臭そうに笑った。

「そんな名前を使わずに持っておくのも勿体無くて、だけども身近に置くのはちょっと恥ずかしいんだ。だから必要だと思う奴にあげようって決めてたの」

それがアイルーになるとは私も思ってなかったけどね、とクスリと笑う。

「アイルー族の名前の付け方は大陸や部族によって決めるって聞いてたけど、ディーンの所は『一人前』だと自分で決めたら、でしょ?」

「そうニャ……でも僕はまだまだ未熟者ニャ。だからさっきも虐めらてたのニャ……」

私が見た時、ディーンは天然柄のアイルー達に毛並みを馬鹿にされていた。
自信の無い性格はそうやって虐げられてきたのにも原因があるのだろう。

「こんな色のアイルーなんて、僕だけなんだニャ……」

俯いてそう言うディーンの頭を私はポンと叩いてやる。
そして、ビクリとして涙目で私を見上げる小さな猫をニヤリと見返した。

「ディーン、お前もまだ世界の広さを知らないんだ。お前より派手な、赤虎がらや紫色のアイルーだって自信満々に生きてるだよ?」

「ほ、本当ですかニャ? 嘘じゃないですニャ?」

「勿論。信じられないなら、自分の足で確かめてみたらいいよ」

「僕が……ニャ?」

「お前の優しさは一人前だよ。その心さえ忘れなけりゃ、きっとやっていけるさ」

「でも僕……優しいだけじゃなくて、旦那さんや旦那さんの友達みたいに強くなりたいのニャ。それにはどうすればいいのニャ?」

「その答えも旅の途中で見つけていけばいいさ──さぁ、私はもう行くよ。何処かで私の知り合いに会ったらよろしくね!」

「ありがとうニャ、旦那さん。僕、いつか一人前になって……この名前に負けない位の勇気を持って旦那さんに会いに行くニャ!」

「その時を楽しみにしてるよ。バイバイ、ディーン!」

「さよならニャ! 僕、頑張るニャー!」



私は、そんなアイルーの声を背に飛行船に乗り込んだ。

ディーンのことは心配だが、更に心配なことを考えながら。

「アクアに……なんて言って会えばいいんだろう……」

いきなり全部説明しようったって無理だろうし、そもそも私にそんな余裕があるかも分からない。

「そう言えば……初めてアクアに会った時、私は何て言ったんだっけ……?」

今の時期は丁度アクアがポッケ村にやって来た時期だ。
雪を多い頃だし、私のように雪かきに駆り出されているに違いない。

「ああ……そうだった。ふふ、懐かしいなぁ」

私はあっという間に過ぎたあの日々を頭に思い描きながら、飛行船の一室でくすぐったい笑みを浮かべていた。
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Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
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