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――別にいいんじゃない? 行かせても。




人々を守り、ハンター達の安全と秩序を守るのがギルドナイトの役目。
そのシェリーがはっきりと口にしたのだ。



二人の人間を捨て駒にしろ、と。



「……おい、何ふざけたこと言って……――っ!」


怒鳴ろうとして、フレアは思わず後ずさってしまった。



「………」


じっと二人を見据えるシェリー。
口に嘲笑を浮かべてはいたが、彼女の目にはそれほどの殺気が込められていた。

そしてシェリーは、ゆっくりとフレアに向き直る。


「少しでも黒龍の動きを把握したいのよ。どうせ早死にする種類の輩なんだし、折角なら役立てないと……ねぇ?」

「お前っ……!」


――本気で言ってるのか?


フレアはそう怒声を吐くつもりであったが、それよりも早くシェリーの雰囲気はいつもの穏やかさを取り戻していた。

「ふふ……冗談よ。ちゃんと死なれる前に助けてあげるわ」

「……本当か?」

「ええ」

微笑を浮かべてニッコリと頷く彼女。
そう言われてしまうとフレアにはもう先の話を蒸し返すことは出来ない。
シェリーは黙る彼を通り越すと、睨み合っているチョモの横に行きやんわりと肩に手を掛けた。

「チョモ、ありがとう。もう大丈夫よ」

「え? でも……」

戸惑うチョモを尻目にシェリーは、男達に向かって先程とはかけ離れた、可愛らしい声色で話しかけた。

「――それじゃあ、ここは頼もしい貴方達にお願いしちゃおうかしら?」

「お、そっちの姉ちゃんは物分かりがいいなぁ!」

「へへ。なら早く後ろに下がってろ、じっくりと見物でもしてな!」

男達は自信に溢れた顔でそう言うと、足取りも大きく黒龍が降りて来るであろう場所へ歩き出してしまった。


「ええ……そうさせてもらうわ」

「……」

ポツリとそう呟くシェリーの後ろでフレアはじっと空と、遠ざかる男達を見つめていた。





「くっ……くくく……」

ダノンは笑いを堪えきれずにいた。


(今日はついてやがる! まさかこんなに早く最強のハンターに名を連ねるチャンスが来るなんてよぉ!)


笑みを堪えて思わず横を歩くライザーに目をやる。
すると彼も同じ顔をしていたので、ダノンの感情は更に高ぶった。

「くく……おぅ、ライザー! 抜かりはねぇな!?」

「へへ……あぁ、ダノン! 回復薬に薬草、それに奮発して回復薬グレートだって持ってきた!」

「完璧だな! リオレウスやグラビモスだって俺らの敵じゃなかった! 黒龍なんて名前ばかりの張りぼて野郎、目じゃねぇぜ!」

「だな!」

実際には、リオレウスやグラビモスを無事に討伐出来たのは彼等を手伝った他のハンター達の活躍が大半だった。
ここまで五体満足でいられるのは本当に運のいいことでしかない。
しかし、そんなことにも気付けない実力のままにここまで来てしまった二人。

古龍に挑むというのに舐めきり、補助の道具は一切持ち込まず、用意したのは先程言った回復系統と僅かな砥石のみ。

二人の実力はフレアの見込み通り、上位のイャンクックを二人でようやく討伐出来る程度のレベル。


経験不足の上に無駄な自信を着飾った彼らには、近付いて来る黒龍の圧倒的な気配にも気付くことが出来ないでいたのだ。




――そしてその時が来る。


「……うお」


「で……でけえな……」


彼等の上空を覆い尽くすのは漆黒の闇にも劣らない黒一色。
間もなく降り立とうとする黒龍を見て、二人は本能的に生唾を飲み込んだ。


――今まで見てきた相手とは、何かが違う。


臆病風に吹かれそうになった二人だったが、そこでダノンが負けじと啖呵を切った。


「はっ! こんなやつ図体だけだろ! ライザー、とっとと終わらせようぜ!」

「お、おう!」


「しゃあ! なら先手必――」


二人が武器を取り出そうとした瞬間――彼等は五メートル近く吹き飛ばされた。



「……ぐっ………ぁ……?」


「な、なん……だ……?」


黒龍は只、地面に降り立っただけのこと。
その際の強烈な風圧に押されただけなのだが、二人は何が起こったのか分かっていない。

「やってくれたな! こんな攻撃痛くも痒くもねえよ! ライザー、いつまで寝てんだ!」

「お、おう。へへ、この程度なら余裕だな。おい! 今度はこっちからいかせてもらうぞ!」


『………』


二人が再び武器を構えると、黒龍はようやくその存在に気付いたように二人を見つめた。


「何だ? 何見てやがるんだ! お前は今から俺様達に殺られるんだよ!」


しかしミラボレアスの視線は吠える二人をすぐに通り越し、その後ろで自分を射るように睨んでいる三つの目線と交差した。
そして始めて敵意の色を水晶の瞳に浮かべる。

「あいつ……見ただけでハンターの実力が分かるっていうのかよ」

「そのようね」

フレアは改めて敵のレベルを痛感するが、今はまだシェリーの指示で動くことは出来ない。

そんなとき、横にいたチョモが大きな声を出した。


「何か来るっ!」


チョモがそう言った時には、すでに黒龍は長い首を後ろへと引っ込ませ始めていた。

「あの動作、まるで反動をつけてるみたい……でもあの距離じゃ何も……まさかっ!」

チョモが目を見開いたのと同じ時、ダノンも奇跡的に何か本能的な危機を察知していた。


「……ライザー……た、盾だ」

ぽつり、呟く。

「え?」

「……盾だ」

「だから盾がどうし――」

「いいから早く盾を構えろライザァァァァ!!」


「――!?」


ダノンの絶叫。
ライザーが盾を構えるのと、ミラボレアスが巨大な火球を放ったのはほぼ同時であった。


激しい爆発音と黒い煙が上がり、一瞬で二人の姿が消え失せる。


(なんて威力だ……っ!)

フレアは思わず息を飲んだ。
リオレウスの火球が可愛いものに見える、そんな光景だった。



「はぁ……はぁ……助かったぜダノン……」


そんな中、徐々に晴れる煙の中から声が聞こえた。

「あ、ああ……俺に任せりゃどうってことねぇよ」


現れたのは肩で息をしながら盾にしがみつくように立っている二人。

「あいつら……よく無事だったな」

「元々あの火球は私たちを狙ったものだからよ。真芯なら消し炭だったんじゃないかしら。ミラボレアスはあの二人なんて初めから見てやしないわ」

「………」

フレア達がそんな会話をしている時、ダノン達にはある異変が起きていた。

「それにしてもよく防い――っ!? おいライザー、盾っ!」

「え? うわっ!?」

二人は慌てて盾から飛び退いた。
溶岩の温度にも耐えるはずの鎧竜の甲殻で作られた盾が、水飴のように溶け始めたのだ。

「う、嘘だろ……こんなんまともに喰らったらお陀仏じゃねえか……!」

「お、おいダノン! 『黒龍は伝説だって持て囃されてるだけで大したことない』なんて言ったのはお前だろ!? どうなってんだ!?」

ライザーが発狂したようにダノンに掴みかかるが、ダノンも顔面を蒼白にさせている。

「お、俺だって知らねえよ! 俺はただ――ひぃっ!?」

ズシリと、黒龍の巨体が一歩二人へと近付いた。
自分の攻撃を邪魔した二人に、先程には無かった殺意が向けられているのは間抜けな二人でも分かった。

「あ……あぁ………」

「た……助け……」

ここに来て二人はようやく自分たちがとんでもない勘違いをしていたことに気が付いたのだ。

「うわぁぁぁぁぁ! 助けてぐれぇぇぇぇ!!」

「お、おい待てよライザー! 俺を置いていくなぁぁぁ!!」

情けない、悲鳴にもならない声を上げながら武器を捨てて一目散に城の出口へと走る二人。

そんな二人に向けて、黒龍はすぐに追撃の火球を放っていた。

「危ない!!」

思わずチョモが叫ぶも、盛大にわめき声を上げながら走る彼らにはまるで聞こえていない。
無防備な背中には灼熱の火球が凄まじい速度で迫っていく。

「シェリー! どうしよう!?」

「………」

シェリーはじっと彼等を睨んだまま動こうとしない。

「ふ、フレ――うわっ!?」

ならばフレアにと振り返そうとしたチョモ。
しかしその瞬間、巨大な爆発音と同時に赤い爆炎が舞い上がり、二人の姿はまたも炎に包まれて見えなくなった。

「もう……駄目だ。やっぱり殴ってでも止めるべきだったんだ……」

どんな人間でも、目の前で死なれるのは辛い。


(……むしろ死なれる前にとりあえず殴りたかった)

チョモは後悔でギリリと拳を握っていたが、次の瞬間思わず耳を疑った。
なんと「ひぃぃぃぃぃ!」と言う耳障りな声が煙の中から聞こえてきたのだ。

「嘘っ!? 何で!?」

煙から出てきたのはすす汚れたダノンとライザー。

今のは確実に真芯だったし、武器を捨てた彼等に防げるものは何もないはず。

「一体何が……――えっ!?」

そう言いかけてチョモはあることに気が付いた。

「嘘……いつから……じゃ、じゃあ……!」


慌ててチョモは爆煙の中を見る。
隣にいたはずのフレアの姿は、いつの間にか消えていた。







「ぐっ………何とか持ってくれたか……」

苦しげにそう言って煙の中から現れたのは、輝剣リオレウスを地面に突き刺して押さえているフレア。
膨大な熱量を受け止めたであろう白銀の大剣からは、白い煙と陽炎がゆらゆらと立ち上っている。

そして熱を持ったままの大剣を引き抜き、今度はミラボレアスに向けて突き立てると、フレアは不敵に言ってニヤリと笑って見せた。

「おい、お前の相手は俺等だろ? メインディッシュ前にしてつまみ食いなんてしてんじゃねぇよ!」


『…………』


彼の言葉を理解してかしないでか、黒龍はただ形容しがたい唸り声を上げてじっとフレアを睨んだ。




「シェリー……訳は後でたっぷり聞き絞ってやる! だから今はこっちに集中しろ!」

睨み合った状態でフレアは、後ろのシェリーに向かって声を張った。

「………!」

シェリーの目が軽く見開かれる。

「アンタが考えてることは分からない。だけどな――」

フレアは話す。

シェリーは二人が死に直面しても動こうとしなかったこと。
あの時、微笑みながら小首を傾げなかったこと。
それはフレアが唯一の知ってる彼女が嘘をつく時の癖だったこと。


だからこそ、フレアはすぐに飛び出すことができたのだ。

「後で、ちゃんと話してくれよ。何で俺に『こんな真似させたのか』をよ」

「……ええ、分かってるわ」

シェリーは伏し目がちにそう言って、再び目に力を宿した。
そして黒龍と向き合っているフレアの元に駆け出した瞬間、チョモに向かって一言呟く。

「――ちょっとここ、お願いね」

「もちろん」

チョモはシェリーの言葉を瞬時に理解して武器を構えた。


――自分だってむしゃくしゃしているのだ。


そしてチョモは、走り去るシェリーと代わるようにこちらに走ってきた二人に向け、勢いよくアヴニルオルゲールを叩き付けた。

「ひぃっ!?」

「うわぁっ!?」

二人の鼻先を掠めて地面にクレーターを作った狩猟笛を見て、再び尻餅をつく二人。

「何すんだ! は、早くどけっ! 今はそれどころじゃ……――ッ!?」

慌てて文句を言おうとしたダノンだったが彼女の表情を見た瞬間、固まったように動けなくなってしまった。

――それに、分からないことだらけのあの二人の会話。それもかなりムカツク。

――でもまずは『コイツら』だ。


「おい、今は――なんだって?」


お伽噺の中にしかいないはずの般若が、そこにはいた。

「あ……いや、その……」

それを見て、冷や汗をどっと吹き出したダノン。
ライザーに至っては顔面蒼白で体をガタガタと震わせている。

流石の二人もチョモの形相を見て、吹き出ている殺気が致死量に達している事には気付けたらしい。



「アンタ等、あんだけでかい口叩いておいてさぁ……すぐに尻尾巻いてとんずらこいて……挙げ句の果てに命まで助けて貰ったってのにさ、何? その態度」

「い……いや……」

口調は静かなものだが重さが違う、目などもはや直視出来ない。

(こ、このままじゃどっちに行っても間違いなく殺されちまう……どうしたら……)

ダノンの頭の中はこの状況をどう逃れるかだけで一杯だったが、次の瞬間そんな思いは掻き消された。

「おい! 話聞いてんのか!!!」

「――ッ!?」

慌てて顔を上げると、狩猟笛を今にも叩きつけそうなチョモの姿があった。

「き、聞いてる! 聞いてるよ!」

あたふたと手と首を振って必死に否定したが、それは彼女の表情は更に厳しくさせるだけであった。

「いいや、あんたのさっきの顔はここからどう逃げようかってだけを考えてる顔だったよ。あんまりアタシの眼、舐めんなよ」

「ぐ……だ、だけど……もう俺達には何も……」

苦し紛れにライザーそう言った瞬間、チョモはニコリと笑った。

「あんた達さ、回復薬沢山持ってるんだよね?」

「あ、あぁ」

「そうだ、が……」

意味が分からないと言うように頷く二人。

「ならさ、『広域化』のスキルはついてる?」

広域化――支援スキルの一つで、自分が飲んだ回復薬や解毒薬などの効果を周りのハンターにもリンクさせるという不思議な効果をもたせるスキルだ。
身に付ければサポート力を大幅に上げることが出来るがその反面、スキルを得るのは容易ではない。
もちろん二人もそんなスキルなど持っているはずなく首を振ったが、チョモはうんうんと笑顔で頷いてみせるのだった。

「大丈夫大丈夫、アンタ等どうせ装備のスロットなんて使ってないでしょ? 見て。ここに私が趣味で持ってきた大量の友愛珠がありまーす!」

そう言ってポーチから取り出したのは、桃色に光る広域化の力を秘めた珠の山。

「そ、それを一体……」

とても嫌な予感がしたダノンだったが、聞かずにはいられなかった。
チョモの貼り付いたような笑顔が、今は無性に恐ろしい。

「勿論、アンタ等につけて支援してもらうんだよ。たださぁ、その装備のスロット一杯に取り付けても全然足りないだろうし、私も素人だから規定量取り付けても効果は薄いと思うんだよねー。だ か ら ぁ……」

ダノン達が息を飲む中、チョモの笑顔はゆっくりと般若に戻っていった。

「お前等の穴っちゅう穴に珠詰め込んでやるよ!! 広域化+2……いや+3になるまでつけてやっから黙って後ろで支援しやがれ!!」

「んなっ!? +3なんて聞いたことな……――い゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」








「おい……後ろから汚ねぇ悲鳴が二重で聞こえるんだが、アイツ何してんだ?」

黒龍と向き合っている最中のフレアは、隣へやって来たシェリーを見るなりそう呟いた。

「さぁ? でももう彼女もこっちへ来るみたいだし、『いろいろ』と楽になりそうね」


そう言いながらも視線は外さず。

「はぁ……アイツやっと昔の面影が戻ってきたと思ってたのにここに来てまた振り出しかよ……」

「あら、一概にそうとは言えないんじゃない? 貴方だって分かってるでしょう?」

そう言いながらも構えた武器は一切ぶれず。

「まぁ……な。おい、雑談はこれくらいにしとかねぇと、奴さんも待つ気は無いみたいだぜ」




『イ゛ィア゛ァァ゛ァァァァァァァ゛ァァァ゛ァァァァ゛ァァァ゛ァァァァ゛ァァァァァァァァァ!!』



敵意を交差させた相手は遂に戦いの合図を轟かせた。


それは、その叫びはどこか、悲痛な人間の叫びにも似て。
何千、何万もの悲痛な大合唱となってフレア達の耳に襲いかかる。


「うおぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「はぁぁぁぁぁ!!」

そんな咆哮に二人は怯むどころか真っ向から向かっていった。


片や、肩に背負った大剣の柄をあらん限りの力で握り締め。

片や、両手に持った双剣の切っ先を目先の黒塊に向け。

龍とハンター。
その二種しか存在いないこのシュレイド城の大広間で今、各々の存亡を賭けた戦争が始まろうとしていた。
駆ける狩人が二人。

目の前に君臨するのは、伝説の古龍――ミラボレアス。

「はぁぁぁぁぁぁ!」


フレアはそんな古龍に向かい、輝剣リオレウスを勢いに乗せて振りかぶった。

相手は巨体で、大剣の巨大さをもってしても攻撃が届くのは両足と腹部のみ。
加えて相手は未知の敵、並みのハンターなら咄嗟の判断に迷うだろう。

「おらぁぁっ!」

彼は迷わず片足を切りつけていた。
裟懸けに切った剣先から、小さな爆炎が舞い上がる。
切り口を焼くことで敵の回復力を押し止める火属性武器の、最大火力を誇る輝剣リオレウスの一撃。

『…………』

しかしミラボレアスはまるで効いていないかのように微動だにしなかった。


「痛―――ってぇ!?」


まるで鉄の塊に切りかかったような感触。
炎こそ舞い上がったものの、フレアの大剣は大きく弾かれていた。

「くそっ……足は固い部位だったのか!」

「違うわ、よく見なさい!」

痺れる腕を抑えながら悪態をつくフレアだったが、横から声にもう一度敵の足元を確認する。

「……あの野郎っ!」

フレアの狙った場所にゆらゆらと漂っていたのは、身の丈と同じ程に伸びた尻尾の先。

「固いのはあの尻尾って訳か」

「巨大な敵と戦う際に有効なのは足を狙って転倒を誘うこと。確かに定石だけど、向こうも対策済みだったみたいね」

「シェリー。さっきもそうだったが、こいつ並の頭じゃねぇぞ!」

自分の弱点を知って隠す生物は多々いるが、敵の動きを読んで的確に防ぐなど聞いたことがない。

しようとすれば、それこそ人間並みの知能が必要になる。

「そうね。でもそれは足が弱いって教えてくれてるようなもの……よっ!」

言いながら今度はシェリーが弾丸のような早さで黒龍に向かっていく。

しかし双剣の切っ先を足に突き立てようとした瞬間、その間に細長いものが差し込まれた。

「シェリー! 尻尾だ!」

「予測済みよ!」

言って彼女は大きく片足を踏み出して地面を強く蹴りつける。

「はぁぁぁぁ!」

そして90度横に飛ぶと、その勢いのまま回転して逆の足を斬りつけた。

『!』

どす黒く赤い血が、黒龍の足から勢いよく吹き出る。


『オォォォォォ!』



黒龍が、呻き声を上げて仰け反った。

「よし! いいぞ!」


――攻撃が通じる。


――なら倒せない相手では……ない!



フレアはその事実に俄然、気力が沸き始めた。



力を合わせれば絶対に倒せる、そう確信した。



――吹き飛ばされたシェリーが自分の横を通り過ぎるまでは。


そして自分の視界が一瞬、赤に染まる。


「―――っ!?」


慌てて目を拭うと、鼻先に刺すような痛みが走った。
確認してみるとフレアの鼻先には、浅くではあるが鋭い切り傷がつけられていたのだ。

(何……だ? 何が起こった? そういえばミラボレアスが身体を回したと思った瞬間、何かが俺の横を……)


「――シェリー!? しっかりして!」

「!?」

背後から響いた、悲鳴のようなチョモの声を聞いてフレアは跳ねるように後ろを振り返った。

「……大丈夫よ。半分は自分で跳んだの」

そこには腹部を押さえて上半身を起こしたシェリーがいた。
それを見て、フレアは何が起こったのかがやっと理解出来た。


――奴が尻尾を振り払ったのだ。

(嘘だろ? まるで見えなかった……)

チョモの手を借りて立ち上がったシェリー。
ダメージはそれほど深くないようだが、それでもすぐに動けはしないだろう。


(ここは俺一人でやるしかねぇ!)

「――とか思ってるんじゃないでしょうね?」

「そうだよ、今日のフレアは突っ走り過ぎ」

「なっ!?」

両側から聞こえた声にフレアは驚く。

「シェリー! お前なんでそんな早く……チョモの治療が必要なんじゃ?」

「大丈夫よ、あれを見なさい」

「あ? 何を――何だあれ!?」

『あれ』と言って伸ばした指の先を見てフレアはまたも驚いた。

ここからかなり離れたエリアの端で、桃色に輝く男達が回復薬をせっせと呷っていたのだ。

「『いろいろ楽に』ってそういう意味かよ……」


道理で腕の治りが早いはずだ。

「さぁフレア、もう目も慣れてきたでしょう? ナルガよりも少し早い程度よ」

「……」

それは今までの敵の中で一番早いということじゃないだろうか?

しかしそんなことは戦いの妨げにはならない。

「あぁ、もう少しで慣れるぜ」

「一対一じゃ勝負にならないわ、三人で上手く牽制していきましょう」

「了解。私はちょっと旋律吹くから、出初めは二人でお願い出来る?」

「任せろ! シェリー、いけるな?」

「勿論。さっき付けた傷を狙っていくわよ!」

「おう!」

チョモが笛の旋律を奏で始める中、フレアとシェリーはゆっくりと近付く黒龍へ向かい左右に別れて特攻を仕掛けていった。






(………)

走りながらフレアはある一点を注視する。

問題はどちらに振り向くか。


――俺の予想なら……


『…………』


黒龍はシェリーの方を振り向き、鋭い爪が生え揃った前足を振りかぶった。
同時に鞭のようにしなった尻尾がフレアに向かい襲い掛かる。

「予測済みだぁ!」

脅威的な威力を誇る尻尾の一撃だが、一つだけ弱点がある。

それは打点が低いこと。

フレアは両足を屈めて前方へ一気に飛び出した。
そして飛び前転の要領で尻尾を躱そうと試みたのだ。
「………!」

思ったよりも武器の重さが足を引っ張りあまり高く跳べなかったが、それでも尻尾はフレアの遥か下を通り過ぎていく。

「……っと!」

転がるように地面に着地したフレアはそのままミラボレアスの背後から足を狙いに走る。

黒龍はまだシェリーに攻撃を仕掛けている途中で、敵はこちらなど気に掛けていない。


「もらったぁぁぁぁ!」


振りかぶったフレアの一撃が、今度こそ黒龍の足に直撃した。



『グォォァァァ――!!』

不意を突かれた足への一撃に、黒龍はバランスを失い地面に倒れる。

――今ならいつもは届かない頭が狙える!

しかしフレアは武器を振るった反動でまだ動けず、シェリーも攻撃を避けたことによって距離が離れている。

(二人なら無理だ。だが……)

フレアは確信していた。



「――頭、いっただきぃ!」


昔と変わらない、白銀の長髪が舞う。

思わず、ニヤリと微笑んでしまった。



そう、俺はあの時から信じてたんだ。
自分が出来ないことは相方【アイツ】が必ずやってくれると。







「さて、と」

二人がミラボレアスへ向かった直後、チョモはすでに吹き終わった自分強化の旋律を、改心率UPへと切り替えていた。

それは人間の内なる集中力を高め、武器を振るった一撃の鋭さを増加させる旋律。
聴覚保護【大】は黒龍が降り立つ前に吹き終えていたので、これがチョモの狩猟笛で吹ける最後の旋律だった。

『あの』二人には怪力の種と忍耐の種も渡してあるので、それの効果も合わさりフレアの一撃は相当な威力を持つだろう。

「もしダウンを取れれば頭を狙うことが出来そうだけど、今のままいっちゃうとフレア達はそこまで辿り着けないだろうなぁ」


――それくらいのことは『観てれば』分かる。


「そうなればそこは私の役目になる訳だけど……」


だけど、とチョモは思う。

その為には先程シェリーが避けられなかった一撃をフレアが躱さなくてはならない。

――何故そこまで見込めている自分がいるのだろうか?

「……へへっ」

自分で疑問に思い、すぐに自分で答えが出た。


「だって、信じちゃってますから!」


自分の真正面に落ちてきた頭に向かい、ニヤリとしたままチョモはアヴニルオルゲールを力一杯降り下ろした。






「………おかしい」


シェリーは思う。


不意討ちも決まって、ダウン時に頭に一撃も決められてここまで順調なはずなのに。

――なのに、何故違和感を覚えるのだろうか?


『…………』

一撃を加えたチョモがその場を離脱するのと同時にミラボレアスはその身体をゆっくりと持ち上げ始めた。

――本当にあの子は敵をよく見てるわね

彼女にこの違和感を話せばすぐに何かを見つけてくれるかもしれないが、ここまでの違和感だ。
恐らくは目に着くところにその正体は隠れているはず。

「―――っ!?」

そしてシェリーはすぐに『それ』に気がつくことが出来た。


(私たちが足に付けた傷が……無くなっている!?)

シェリーとフレアの攻撃は確実に敵の鱗を切り裂いたはず。
なのに今、その傷は一切見当たらない。


「それがあなたの『伝説』、そして『強さ』の一部だと言うのね……」

命を掛けて付けた傷が一分も経たない内に完治されてしまった。


「これは……ちょっと皆と話さなきゃならないかしらね」


――私達だけでも勝てないかもしれない、と。







「なっ……傷が回復!?」

「………」


シュレイド城の小さな休息所でフレアの大声が響いた。



ダノンとライザーに指示を出した後、三人は一つずつ持ち込んでいた非常用の『モドリ玉』で一時的な退却を図ったのはつい先程の事。
シェリーが発見した事実を伝えるためであったが、黒龍が何をするか分からない以上そこまで時間を取るわけにはいかない。
そんな緊迫した状況の中で話し合いは行われた。

「俺の渾身の一撃を叩き込んでも治っちまうとなると確かに……厳しいかもしれない。だけどよ! ここでアイツを野放しにしたらどうなるか分かんねぇぞ!」

「でも何も対策出来ずに死ぬまで攻め続けたとしても、結果は同じことよ」

「そ、そうだぜ! 勝てねえなら逃げた方がいいって!」

「それがいいぜ! な?」

「……貴方達は黙ってくれないかしら。全身桃色で気持ち悪いのよ」

「で、でもこれは姐さんが……」

言われてチョモがギョッとした顔をした。

「ちょっ、姐さんとか呼ばないでよ!」

「俺等、分かったんです。姐さんの下で働くのが幸せだって!」

ライザーが声高々に叫び、ダノンもしきりに頷いていたが、次の瞬間二人は仰向けに卒倒してしまった。

「悪いけど本当に時間が無いの。そこで静かに寝てなさい」

シェリーは彼らの額に刺さっている眠り投げナイフをポーチにしまうと、再び二人に向き直った。

「私は黒龍の回復力を上回る攻撃力が必要だと思うんだけど、何か他に気付いたことはないかしら?」

「――あのさ」

チョモが小さく手を挙げた。

「もう一度エリアに行かなきゃハッキリとは分からないんだけど、私が頭を殴ったときに出来た傷……あれも治ってるのかな?」

「チョモ……どういうことだ?」

フレアが身を乗り出して訊ねた。

「私の武器には、龍属性がついてるんだよね。フレア達が付けた傷が元に戻っていってたのは気が付いてたけど、私の付けた傷は治る気配が無いように思えたんだ」

「なるほど……確かに古龍には龍属性がないと破壊できない部位がある。ミラボレアスは全身がそうなのかもしれないわね。なら私とフレアが援護に回ってチョモを攻撃の主軸にすれば……可能性が見えてくるかもしれないわ」

「試してみる価値はあるよね!」

まだ出来ることは残っている。
この事実に彼女達は再び希望を目に宿したが、そんな中でもう一本手が挙がった。

「あのよ、これは討伐の話とは余り関係が無いんだか……」

「何でもいいわ、続けて?」


フレアは自分の中でも思考を巡らせるように目をつぶって一拍置いた後、誰もが予想し得なかったことを呟いた。



「バルスのスカルフェイス……あれってよ、もしかして黒龍の力が関係してるんじゃねぇか?」
―月――日 晴れ

お母さんがお姉さんとしてしっかりやりなさいと口を酸っぱくして言うので、今日から日記を書くことにしました。
最近お父さんもお母さんも忙しそうにしているので、悪戯ばかりするマリディアの面倒はお姉さんの私がしっかり見ないと。





―月―日 晴れ

マリディアの悪戯にはもううんざり!
釣りカエルなんか私に投げてきて、怒った私がマリディアを木の枝につるし上げたら私がお母さんに怒られました。
加減というものが大切みたい。



―月――日 雨

マリディアが珍しく大人しく働いてると思ったら、家の壁に穴を開けていました。
お母さん達は忙しいから私達で直しなさいと言われたけど、今日は雨なので明日村に二人で木の板を貰いに行くことにしました。
久々のお出掛けなのに、こんな用事でなんて……マリディアの馬鹿!





――月―日 晴れ

マリディアが私にプレゼントをくれた。
ピンクのくまちゃんのぬいぐるみ。
何かまた悪いことをしたんじゃないかと言ったら、怒ってしまい顔を合わせてくれなかった。
勝手なんだから。
私は悪くない。




さっき気づいた、今日は私の誕生日……帰ってきたお父さん達に言われるまですっかり忘れていた。
急いで謝りに言ったら笑顔で「いいよ」って。
明日はマリディアのために木苺のジャムを作ることにしました。
ごめんね、マリー。
くまちゃんの名前はルーシャにしました。





――月――日 雨

マリディアが風邪気味になった。
お母さんも仕事でいなかったので、私がおかゆを作ってあげた。
初めて作ったおかゆだったけど、マリディアが「おいしい」って言ってくれたので嬉しくなっちゃった。
また作ってあげるために、お母さんにもっとおいしいおかゆを教わっておこう。





――月―日 くもり

今日は何か村の皆の様子がおかしかった。
村長さんが家まで来て怖い顔でお父さん達と何か話をしていた。
聞いても何も教えてくれなくて……なんか怖い。






――月―日 晴れ

お父さんとお母さんに私一人呼ばれて話をされた。
『紛争』という大きな喧嘩が広まっていて、それが私達の村にまで来るかもしれないって。
これからお父さんもお母さんももっと忙しくなるから、マリディアを頼むって。
怖い。
でも私がしっかりしないと。
いいお姉さんに、ならないと。





――月―日 くもり

マリディアと喧嘩をした。私たちのお手伝いが増えるのを嫌だと言うので、つい怒ってしまった。
村が大変なんだから、ちゃんとマリディアを説得しないと。






――月―日 くもり

マリディアが怪我をした。仲直りした後、二人で薪を運んでる時に足を滑らした私を庇って。
私が謝ると、「しっかり者のお姉ちゃんが怪我するより何倍もいいよ」なんて。こんな時だからこそ、二人で力を合わせなきゃいけないのに私が一方的に言ってしまったから喧嘩になったのに。
いつもそう。
何だかんだ文句を言っても最後にはちゃんと働くマリディアのこと、本当は誉めなきゃいけないのに私は悪いところを見てばっかり。もう一度ちゃんと謝って、痛み止めの薬草を買いに行ってあげないと。






――月――日 くもり

薬草がどこにもない。
ついに紛争がこの近くまで来てしまったみたいで、お店の物はみんな持っていかれてしまった。
お父さんも村を守るために出掛けてしまって、残ったのは私とお母さんと足を痛めているマリディア。
村の皆は逃げる準備をしていたけど、怪我したマリディアを背負ってこの山道を降りるのは無理だから三人で家に隠れることにした。大丈夫。
皆慌ててるけど、お父さんが守ってくれるから。






――月――日

向こうから大きな音が近づいてくる。
もう日記は書けないかもしれな






















――月―日 晴れ

マリディアが連れていかれた。
お父さんもお母さんもいなくなって、残ったのは私とこの日記とマリディアのくまちゃんだけ。
でも、このくまちゃんもほとんど綿くずになっちゃったから、やっぱり残ったのは私と日記だけ。






――月――日

まだ無事な村を転々として、あてもなく歩いているけど、もうそろそろ限界。
書いてる鉛筆も無くなりそうだし、もう日記は書







































――月―日 晴れ

久々に見つけたこの日記。懐かしさに負けて久々に書き込んでいます。
この紛争を引き起こした主格の組織を掴んだので、これからハンターとして潜入するつもりです。

絶対に潰してみせる。
お父さんとお母さんの敵のためにも。

連れていかれたマリディアの行方はまだ分からない。せめて生きているかどうかさえ分かれば……。






――月――日 晴れ

ある街の加工屋で『リノプロヘルム』なるものを衝動買いしてしまった。
何故だろう……何か懐かしい気がする。
それはともかく、被り心地が良い……もとい、顔を隠すのにも丁度いいのでこのまま装備していくことにします。






――月―日 晴れ

とある村を立ち寄ると、村人に襲われている少女を目撃したのでつい助けてしまった。
やけになついてしまいついて来るのですが、どこかマリディアに似ているせいで追い払うに払えない……。どうしたものでしょうか?






―月――日 晴れ

少女がついて来るのにもいい加減慣れてきてしまった。
そろそろ名前を付けてあげないと呼びづらい。
何かいい名前……ルーシャ?
……何でしたっけこの名前。


そうだ、少女の名前はルシャにしましょう。






――月――日 晴れ

ルシャに何気なく武器を持たせてみたら驚くほどの才能を見せました。
特に双剣がお気に入りのようでアイルーのぬいぐるみを双剣に改良してプレゼントしてあげると、昔覚えたという妙な調合をして強力な状態異常を付属してしまったのです。
マリディアにもこんな器用な所があったなと、ふと思い出してしまいました。






――月―日 晴れ

ルシャが初めて料理を作ってきました。
あの意識の遠くなるような味を料理と呼べるかは定かではありませんが、それでも昔を思い出すようで嬉しかった。
明日からは、少しスパルタな料理の特訓でも始めましょうか。






――月――日 雨

ルシャが熱を出した。
だからあれほどお腹を出して寝るなと言ったのに……久々に作ったお粥、出来は微妙でしたが「おいしい」と言ってくれたので良かった。
全く心配をかけて……治ったら、いつもの三倍は働かせてやりましょう。






――月――日 雷

明日、赤衣の依頼で火山の奥地に出現したという煌黒龍『アルバトリオン』の討伐に向かう。
強力な古龍のようだけれど、きっとルシャと一緒なら大丈夫だろう。






――月――日 晴れ

見事にアルバトリオンを討伐した報酬として、内密に作られた煌黒龍の大剣を貰えることになりました。
力があれば、いずれこの組織を潰せるのですから、快く申し出を受けました。
これも手伝ってくれたルシャのお陰……少し照れ臭いですが、何かご馳走でも用意してあげますか。























月 日

憎い。
憎い憎い憎い。

全てが憎い。

何故今まで気付かなかったのだろうか?
思えばこんな運命を辿る羽目になったのは全てマリディアのせいなのだ。
どんな理由はだったかなんて覚えていないが、あの時あいつが怪我さえしなければ、アイツさえいなければ全てが上手くいっていたのだ。

この世の全ては悪だ。

希望の光などない。

マリディアへの復讐、そしてこんな腐った世界など……私が終わらせてやる。




月 日

ついにマリディアを見つけた。
マリディアが絶望していく様を私はひたすら喜んで……違う……いや、違わない。
私はじっくりとアイツが弱るのを見ていこうと思う。





月 日

何なんだ、あの男は。
幾度と無くマリディアの命をそれとなく救っている。
……邪魔ですね。
奴だけでも消してしまおうか。






月 日

マリディア……どうして庇った。
お前はそんな男、簡単に見捨てるはずじゃなかったのですか。

だが奴は祖龍の魂を、その力を呼び寄せた。
やはり祖龍は存在したのだ。
助かったのなら、もうマリディアに構っている暇はない。
早く祖龍復活の段取りをすませないと。





……さっきどうして、私は『助かったなら』などと書いたのでしょう?

時々、自分が分からなくなる。
マリディアは、妹はただ憎むべき存在のはずなのに……。

私は何かを忘れている……?

そんなはずはない。
思い出すのは憎い思い出だけだ。

きっと日記にもそんなことが書かれているに違いない。

だけど何故でしょう……私は日記を読み返すことが出来ない。


手が、一人でにそれを拒むのだ。


そうだ。
きっと、読むに足らない内容だからに違いない。






月 日

最近、ルシャと会話が合わない事がある。

私が変わった……?
私は私のはずなのに、何を言っているんでしょうか。

そうだ……これも世界が絶望に溢れているから。

世界が憎い、マリディアが憎い、憎くて憎くて、全てが憎くておかしくなってしまいそうだ……



何故こうなった?
何がいけなかった?


はやく


なんとかしなければ



わたしは――


























――月――日 はれ


れいざんのいっけんのあと、マリさんはひにひにわたしとおはなししなくなっていった。
もうマリさんがなにをかんがえているのか、わたしにはわからない。

でもあのマリさんはやさしくて、こわくて、すこしてれやなマリさんだから。

わたしがついてあげないとだめだから。

わたしにはまりさんしかいないから、ついていきます。

いつかまた、もどってくれるよね?

わたしとのたのしかったいちにちを、このにっきにかいてくれるよね?


マリさんのにっきのじはむずかしくてよめないけど、きもちはつたわってくる。

まだ、マリさんはここにいるんだ。


あれからいちねんとはんぶん……たぶんのこりはんぶん……そこできっとなにかがはじまる。



だれか……とめてください。


おねがいです、やさしかったマリさんを、とりもどしてください。



こんなこと、ぜったいにまちがってるから。






だれか、わたしといっしょにたたかってくれるひとへ……このいのりがとどきますように。


「───畜生が! やってやろうじゃねぇか!」

気合いを入れ直し、シェリーと共に黒龍の元へと向かうフレア。

──障害は全て、後ろの相方が知らせてくれる。

それだけで彼の足は再び力強く大地を蹴ることが出来た。

「シェリー。目的を達成するにゃ、もう一度奴の脚に攻撃を入れなきゃならねぇ訳だが……どうする? もう一度試すか?」

走りながら問い掛ける。
昔から頭で悩むよりも、行動しながら流れと共に勝機を掴んでいく方が彼は得意だ。
それは、彼に特訓を施したシェリーも同様であった。

「……そうね。また同じ手が通じるとも思えないけど、今はそれよりいい案は思いつかないわ」

退路を絶たれている時点で、元々悪かった分は更に低くなっている。そんな状況で名案が沸くように閃くなどと、フレアもシェリーも考えてはいない。


「でも彼女の演奏が終わるまでの足止め位にはなるでしょう。もう一度、二手に分かれるわよ」


考えるのはその先──。


「よし、了解だ」

フレアがそう短く言った後、二人はミラボレアスに向かい左右に別れて接近を図った。
前回とは少しでも違いを作る為か、フレアがミラボレアスの注意を引き始める。

「おいおい、どこ向いてんだ? さっきテメェをぶった切ったのはこの俺だぜ?」

『ヴヴヴ……』

果たしてモンスター相手に挑発が効いたのかは定かではないが、ミラボレアスはシェリーから眼を離してゆっくりとフレアの方を向き直った。
重く、金色に光る水晶の双眼が唸り声と共に自身の足元へと向けられる。

「へっ、殺る気満々って面してんなぁ……上等だ」

フレアはいつでも抜刀出来るよう、柄に手を掛けて近づいていた。
まずは怯ませるような攻撃を叩き込まなくては何も始まらないのだ。

「狙うは胸から脚にかけてのライン……だな」

背の大剣をどう振り抜くかをイメージしながら、一瞬のタイミングを図る。


ハンターを長くやっていると、少し対峙すれば初見の敵でもある程度の肉質が見えてくる。
尻尾の異常な硬さからは、背部の硬さが。
脚の柔らかさで、近くの腹部まで刃は通るであろうこと。
勿論、そんな情報だけではそんなことは分からない。
しかし実際に刃を交えたハンターには分かるのだ。

武器を振るった時の感覚や手に伝わって来る振動。
膨大な経験と研ぎ澄まされた勘で相手を判断する、チョモのものとはまた別の観察眼。
それが最善の一手を教えてくれるのだ。



そこを狙うなら相手が棒立ちしている今が最大の機会……。


──だからこそ、フレアにはある疑問が浮かび上がっていた。


(あいつ……何で柔らかい部位をそのままにしてるんだ? あの位知能と能力が高けりゃ、余すとこなく硬い甲殻で覆っても良さそうなもんだがな……。正面からなら迎え打てるっていう強者の余裕ならいいんだが……もし──)



「──フレア危ない!」

「!!」

チョモが叫んだのとフレアが大剣を盾にして防いだのは、ほぼ同時だった。

防いだ──というよりは、その急激な出来事から逃げることが出来ず、『防ぐことしか出来なかった』というのが近い。
フレアに襲い掛かったのは、黒い巨影。
全体重を掛けてフレアを押し潰そうとする、黒龍の巨体そのものであった。

「──っ畜生が!!」

ガリガリと嫌な音を立てて削られる大剣を犠牲に龍の下から弾かれるように抜け出したフレアだったが、彼は防御の姿勢を解くことは出来なかった。

「お前等! 黒龍の直線上に立つな!」

叫んで、ギリリと歯を食いしばる。
今になってフレアは先程の疑問の答えを見つけていた。


(コイツ……このまま動き回るつもりだ!)


───四足歩行。


通常のトカゲなどの爬虫類を見ても、この態勢が自然の形だと考えるのが妥当だ。
最大の弱点である頭部こそ下がる姿勢であるが、同様にこの態勢では最大の武器となり得るため迂闊には近付く事は出来ない。


しかし、予想以上の出来事がフレアを襲うこととなる。


『ヴォォォォォォ!』


「……! ……っ! ……がっ!?」


地響きのような足音。
それと同時にフレアの大剣とミラボレアスの身体が激しくぶつかり合う音がけたたましく鳴り響く。
新たに大地へと着いた細くも強靭な前脚と、この態勢によって本来の筋力を発揮した後ろ足。
咆哮を上げた黒龍は、それらを駆使して凄まじい突進を繰り出してきたのだ。

「………が……はっ……っ!」

まさに全身が凶器と化したミラボレアスの突進は、瞬く間にフレアのガードを突き破った。

「フレアっ!!」

チョモが悲痛な叫びを上げる。
フレアが物理法則を無視したような飛ばされ方───つまりほぼ地面と平行に吹き飛ばされて壁へと叩きつけられるのを、彼女はただ見てるだけしか出来なかった。

だらりと崩れ落ちるフレア。
そこへ迫ろうとする黒龍。
すぐさま演奏を中断して駆け寄ろうとしたチョモだったが──。



「大丈……夫だ! お前はお前の……仕事をしてろっ!!」



「──っ!?」

怒声にも近いその声量に、チョモは驚いて足を止めてしまった。

「嘘……だってあんなに壁めり込んで……」

絶対に普通の人間ならば動くどころか意識すら保てないレベルの衝撃であったことは壁の凹み具合で容易に分かる。
しかし、フレアは装甲の剥がれ始めた銀色の大剣を支えにしてガクガクと起き上がって見せたのだ。

「へっ……こんなの、ちょっとキツめのマッサージ……だぜ」

フレアは倒れないように懸命に体を支えながらも懐から厳重に封をされた小袋を取り出すと、封を強引に破いて中にあった赤色の丸薬を一気に噛み砕いた。


──それは『いにしえの秘薬』と呼ばれる調合薬。

失った体力とスタミナを瞬時に回復させる強力な薬であるが、その効果は同時に身体に大きな負担を掛けるためにギルドから持ち運びに厳重な制限が掛かっている。

「……くっ! はぁぁぁぁ……」

軽い呻きを上げながらフレアはゆっくりと息を吐いた。
自分の細胞が、フルスピードで身体の回復に働きかけているのが分かる。
普段よりも激しく鼓動する心臓が、再び熱い血液を身体中に巡らせ始めたのが分かる。

その凄まじい回復の速度に思わず意識を手放しそうになるが、フレアはそんな状況でニタリと笑って見せた。


「──つまり、完全回復って訳だ」


ここで倒れる程ぬるい鍛え方はしていない。


──俺は、な。


「……俺と、『アイツ』にそこまでさせた代償はでけぇぞ」

大剣を担ぎ直すと、フレアは『自分に背を向けている』黒龍の元へと駆け急いで行った。







正直、あそこにいたのが彼でなかったら確実に死んでいただろう。

「それ以上あの子に手を出したら承知しないわ!」

黒龍の真横に近付き、双剣を強く握り直したシェリーはそう思いながら声を張り上げた。
飛竜種の物とは比べ物にならないほど硬い漆黒の鱗は、黒龍が這いずっている今なら触れただけで喰らうように肉を削り取るだろうが、それよりも強靭な武器を当てればその力を利用して敵の肉を裂くことも出来る。

そしてシェリーの双剣は、極めればどんな鉱物でも切り裂ける高水圧の刃で作られている。
だから、たとえ黒龍の甲殻が貴重な鉱物から精製されたハンターの防具を溶かし、纏ったものであっても刃は必ず通る。
その点だけはシェリーも確信していた。


──その点だけは。



「はぁぁぁぁぁぁ!!」

シェリーは気合いと共に黒龍の進行方向とは真逆の方向に身体を回転させて、双剣を渾身の力で振り抜いた。



──しばらく観察していれば今の黒龍が左右の動きに弱いことは分かる。先述の戦法はそれを踏まえてようやく導き出せるものだ。しかしシェリーはフレアが吹き飛ばされたと分かった瞬間、そんな情報も無いままに飛び出していた。
有効とは言っても、少しでも距離を間違えればあっという間に黒龍の動きに巻き込まれてしまう──本当に危険な
、無鉄砲と言ってもいい手段。
ましてやそれをぶっつけ本番で行うなど……。



───正気の沙汰ではない。



もしも、実際に黒龍と戦ったハンターがいるならば、誰もがそう思うはずである。



──だがシェリーは、シェリーだけは違った。



「させないって言ってるでしょう!!」


『…………!!』

双刃が、何かを切り裂く音が確かに響いた。
同時に響いた嫌な音と共に。


黒龍が動きを止め、再び立ち上がって後ろを振り返る。


「───ふふっ……そうそう、そんな顔が見たかったのよ」

ミラボレアスが驚きと殺意に満ちた眼で睨むのに対し、シェリーは悠々とそれを見返す。
彼女は、フレアを狙う黒龍の動きを見事に抑えて見せたのだった。


──だが。

「……でも私の出番はもう終わりね。もう少し遊びたかったのに残念だわぁ」

そう、嘲笑気味に言ったシェリーの両手には──双剣は握られていなかった。

両腕はだらりと力無く下がり、ピクリとも動かない。
シェリーの両肩は先程の衝撃で完全な脱臼を引き起こしていたのだ。

だがシェリーは笑みを崩さない。

「ふふ、別に再起不能って訳じゃないのよ? ここには優秀なお医者さんもいるし、その気になればこんなのは一人で治せるの。なら、どうしてやらないのかって?」

激痛で冷や汗が流れる中、視界の端に映る赤い人影を捉えたシェリーはニッコリと小首を傾げてみせた。

「もう流れ、掴んじゃったのよ。ざまみろこのトカゲ野郎」


「───だぁぁぁぁらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


狩猟笛の旋律によって強化されたフレアの渾身の一撃が、始めよりも深く、そして大きく黒龍を切り裂いたのは、そのすぐ後のことであった。






『ギィィィィヤァァァァァァァ!!』

黒龍のつんざくような咆哮がシュレイド城中に響き渡る。

だが、黒龍が再び倒れることは無かった。
脚を踏み出して耐えているのか、姿勢は低くなったものの転倒する気配は無い。

「なっ……!? 完璧に入ったはずだってのに……何でだ!?」

「──多分、アイツも分かってるんだろうね。次倒れたら、自分がやばいってことがさ」

「チョモ!?」

いつの間にか、フレアの後ろにはチョモが笛を構えて立っていた。

「お前何で武器構えて……つかそれってハンマーの溜めじゃ……」

自分の体から冷や汗が吹き出ている事に気付いた時には、もう遅かった。

「嘘だろおいやめ───」

「てな訳で行ってこい、相棒!」

ニタリと笑うチョモ。
みしり。と背骨が優しく、それでいて無理矢理な力で剃らされるのが分かった。

「うぉぉぉぉ!? 」

フレアは黒龍に向かって、狩猟笛で高々とかち上げられたのであった。

「ふざっけんな……っ!」

中和された重力が再び掛かる不快感に襲われながらも、フレアは見事に黒龍の真上──頭部へと降下していた。

「まさか、伝説の龍を見下ろす日が来るなんてな……」

チョモの破茶滅茶には慣れているのでパニックはすでに収まっていたが、不安定なこの状況で果たして上手く攻撃を当てられるかどうか──その点を危惧してフレアは集中を高める。

チャンスは一度切り。
この好機を逃してはならない。

「頼むよフレア!」

チョモの声援が遥か下から聞こえてくる。

「おう!」

気合いは十分。

「おっらぁぁぁ!」

空中でバランスを取りながらフレアは大剣をミラボレアスの頭に叩きつけた。

──が。

「あぁ!?」

あまりの出来事にフレアは素っ頓狂な声を出した。
自慢の大剣『輝剣リオレウス』の柄がメシリという音と共にひしゃげてしまったのだ。

「くっそ……!」

やはり幾度となく黒龍の攻撃を受けたことが祟ったのだろう。
お陰で攻撃は中途半端になり、黒龍に倒れる程のダメージを与えられないだけでなく、フレアもバランスを崩してしまう。

「っ! フレ──……あれ?」

落下を危惧して叫んだチョモだったが、フレアが地面に叩き落とされることはなかった。

「……あ? 何だここ……地面じゃねぇな、妙にゴツゴツして……なっ!?」

状況を理解したフレアは、珍しく引き吊った表情を漏らした。

「ふ、フレアがミラボレアスの頭に乗ってる……!」

恐らくは一番乗ってはいけないものに間違いはない。
そんなとんでもない光景にチョモも目を白黒させている。

「ど、どうすんだよこれ!?」

「わ、私もそこまでは考えてなかったよ!」

『…………っ!』

「うおっ!? こいつ……っ……急に暴れ出しやがった……っ!」

ミラボレアスは頭のフレアを振り落とそうと暴れまわるが、生え揃った角を滑り止めにしてフレアは必死にしがみついていた。

「そりゃ、黒龍だってそんな暑苦しいアクセは付けたくないって」

「──んだと!」

「うわ、聞こえてたよ」

「それ……より、ここから……どうすりゃ……!」

身体をこれでもかとしならせて暴れまわる黒龍に精一杯張り付きながらも、次第に体力の限界が近づいていく。
しかし、フレアの体力が切れる前に黒龍の動きが収まった。
下で聞こえる黒龍の呼吸が荒いのが伝わって来る。

「……へっ、お前も大分消耗してんだな」

「──フレア、今のうちよ! 攻撃しなさい!」

その時、そんなシェリーの声が耳に届いた。

「攻撃っつってももう武器が……」

「剥ぎ取りナイフよ、その位安定してるなら使えるはずだわ!」

ハッとして腰に付けた剥ぎ取りナイフを抜き出す。
繊細で扱い辛いと思っていたそれが、今は妙に頼もしく感じた。

「成る程ね……ならこっちの番だ!」

頭上まで振り上げて突き立てたフレアだったが、直後に襲って来た手の痺れに思わずナイフを取り落としそうになってしまった。

痺れの原因は、ほぼ無傷の黒龍の頭殻がはっきりと物語っている。

「硬──ってぇぞおい!」

「ただ刺すだけじゃ効果は薄いに決まってるわ! 何度も同じ場所に突き立てて、柔らかい箇所まで切り込んでから一気に突き立てなさい」

「…………了解」

先に言え──とは助けて貰った手前、流石に言うことは出来ない。
文句の前に、まずは目の前の仕事だ。

「さぁ──覚悟しやがれ」

フレアが狙ったのは角の付け根。

「おらおらおらぁっ!」

危険を察知して暴れる黒龍の合間を狙って、着実に切り込んでいった。
すぐ塞がり始める傷口を根気よくナイフで突き立て続けるフレア。
慣れてきたのか、途中からはスペアの剥ぎ取りナイフを取り出し両手で交互に切り結んでいく。

「あと……少しっ!」

『ギィヤォォォォォォォォ!!』

時に咆哮、時に狂ったように身を捩る黒龍に必死で食らいつき───ついに硬く身を護っていた甲殻に僅かな隙間が生じたのを、フレアは見逃さなかった。

「そこだぁぁぉぁ!!」

『…………ッ!!』

渾身の力で突き立てた剥ぎ取りナイフはミラボレアスの頭殻を破り、頭に深々と突き刺さる。
ミラボレアスは身体に電流が走ったかのようにビクリと全身を痙攣させ、ゆっくりと地面へ倒れていった。
同時にフレアも地上へと投げ出される。

「……痛っ! おい今───はははっ! んな女帝エビみたいに反らなくてもいいだろうがよ!」

痛みも忘れて思わず噴き出してしまう。

「このアヴニルオルゲールの重ったい一撃を……喰らえ──そんでハマちゃんとバルスを解放しろっ!」

チョモの二度目の一撃は、一度目とは比べ物にならない威力だった。
加わったのは、想いの強さ。

「せいりゃぁぁぁぁぁぁああ!!!」

金色のオルゴールはギュルギュルと音盤を回転させ、龍殺しの稲妻を纏って黒龍の四本ある角を全て叩き折った。



「へへっ。ギルドナイトを舐めるなってんだ!」



───それは奇しくも、古塔でハンマーがバルスに祖龍の角を突き立てたのと同刻のことであったという。








「……で、角を折ったのはいいけどよ。この後どうするんだ?」

ダウンした黒龍を背にドヤ顔でこちらに帰って来たチョモにフレアは苦い顔つきで尋ねた。

「……へ?」

「目的は達成できたが、俺らのピンチは一層濃くなってんだぜ?」

ミラボレアスは怒り心頭といった様子ですでに起き上がり始めている。
弱らせたといっても黒龍にはまだまだ余力があり、未だ自分達の出口を塞いでいる現状は変わりないのだ。

「そうね。問題はここからどえするか、よ」

シェリーはいつの間に整復したのか、しっかり頬杖こそついているものの流石に戦える状態ではなく、フレアだって強制的な働かせている肉体がいつまで持つか分からない。
フレアはいにしえの秘薬の効果で体力を強制的に引き上げているが、いつ再び限界が訪れるか分からない上に武器を破損している。

五体満足に動けるのは最早チョモ一人だけであった。

「あー……ちょっとヤバイかも?」

「ちょっと……じゃねぇなぁ、女神様」

「こんな所に援助なんて来やしないでしょうし……何とか『あそこ』から抜け出すのを試みるしか、手段は無いのかしらね」

「……本気でそれが出来ると思ってんのか?」

「まさか。私が言ったのは手段が限定されてるって話であって、助かる見込みがあるなんて言ってないわよ?」

「だよな……アンタは昔からそうだったわ」

「何よ、元から私は『こう』なの。私が私じゃないことなんて、しないわ」

「あぁ……そりゃそうだ」

「ま、私だって諦めたくはないけどね」

シェリーはニコリと笑ってみせる。


「フレア……黒龍の隙をみて駆け抜けるとして──まだ動ける?」

二人の会話を不安そうに見つめながら、チョモがおずおずと聞いてきた。

「いや……正直俺にも分からねぇ。いつバッタリいくかなんて、それこそお天道様の匙加減ってとこだろうな。あの状態の黒龍が隙を見せるとも思えないしよ」

フレアは普段よら荒く髪を掻いた。
それに加えてこの閉ざされた『檻』の中、いつ黒龍の気が変わって火球を吐いて来るかも分からないのだ。
状況は、絶望的だった。

「お天道様……か」

チョモは真上の禍々しく渦巻く暗雲を眺めた。
あの上にはちゃんと太陽が照っているのだろうか……?


「……ん?」

その時、チョモの目に妙なものが映った。



「今何か光って───フレア! あれ見て!!」

「あ? 今はそれどころじゃ……って何だ!?」

二人の目に映ったのは、暗雲に輝く白銀の光。
遠すぎて正体は分からないが、城の遥か上空をまるで旋回しているようにも見える。

シェリーは驚いたように目を開いた。

「あれは……ということは───」

「二人とも見て! 黒龍が!」

「──っ!?」


(しまった! 目を離してるうちに襲って来たのか!?)


慌てた様に言うチョモに促されて、フレアは急いで黒龍に視線を戻した。

「なっ!?」

しかしフレアは全く別の意味で驚きの声を上げた。
ミラボレアスは上空を一瞥した後、巨大な翼を広げ始めたのだ。



──先程までの殺意は、既に薄れていた。


『…………』

黒龍は不服そうに三人を睨むと、翼を思い切り羽ばたかせた。

「きゃあ!?」

「うおっ!?」

爆風のような風圧に視界を一瞬遮られる。
再び目を開いた時、既に黒龍の姿は目の前から消え失せていた。

「……何だってんだ?」

空を見上げても暗雲ばかりで、もう白い光も黒龍も見当たらない。

「どうやら向こうも終わったみたいね。私達の仕事も、これにて一件落着ね」

「……お前、さてはまだ何か知ってやがるな?」

「さぁ?」

「……はぁ」

もはや隠そうともしない様子でただニコリと微笑むシェリーに、フレアは呆れるように肩を落とした。

「私達……助かったんだよね?」

その横でチョモがぺたりと座り込み、シェリーに確認するように言った。

「そう。でもね、運が良かったっていうのは確かな事なのよ?」

ホッと胸を撫で下ろしたチョモに、シェリーは噛み締めるように言った。

「様々な奇跡に加えて───簡単に言えば人の心……なのかしらね。それが積み重なったからこそ、私達はおろか世界は今、無事で済んでいるのよ」

「……?」

「あー……チョモはもちろんだが、俺も今一ピンとこないな」

首を傾げる二人にシェリーはクスリと笑う。

「ま、帰ったらゆっくり話してあげるわ。ひとまずはドンドルマに帰りましょう」

「そうだね! 私もクタクタだよ」

「いや、お前は一番無傷だろうが」

「何言ってんの? サポートがどんだけ気を遣うか、アンタ分かってないでしょ」

「いや、それよりも黒龍の頭にぶっ飛ばされた時の気持ちを理解出来るのかよ!」

「私の苦労も労って欲しいんだけどねぇ。貴方たち、減給するわよ?」

「シェリーさん、肩を揉みましょうか?」

「嫌よ。さっきまで外れてたのよ?」

「シェリーさん、粉塵を使いましょうか?」

「さっきまで気持ちの悪い粉塵ばっかり使われてたんだから、もう沢山よ」

帰れると分かって気が抜けたのか、雑談しながら城門を潜る三人。

「そんなこと言わずに───」




「止まって!」

一歩外に出た瞬間。
突然、チョモの声が響いた。



──暗がりの中で、大量の『何か』に囲まれている。



二人もすぐにそれに気が付き、表情を瞬時に強張らせた。



「……お前等、一体何者だ」

チョモ達二人を後ろに下げ、フレアが警戒心を強めて口にした。
暗闇でも、足音や衣擦れの音でそれがモンスターではなく人間だということは分かる。

「──おいっ!」

すると向こう側から合図を出すような男の声が聞こえてきた。
声色は、フレアと同じように警戒したものである。

「……ん? ──うおっ!?」

次の瞬間、フレアは思わず腕で目を隠した。

周りに広がったのは、眩しい位に暖かいオレンジ色の光。
消えていたはずの松明に一気に火が灯ったのだ。

「──ふ、フレア団長?」

先程と同じ、聞き慣れた声が自分の名を呼んだ。

「お前等……っ!」

灯りで照らされた城門の前にいたのは、あれだけ探しても見つからなかったギルドナイト猟団『赤鷲』と、シェリーの率いる騎士団員達であった。

「一体今まで──!」

何をしてたんだ、と聞こうとしたフレアだったが、それよりも先に団員を率いていた兵長がとんでもないことを口にしたのだ。

「……何故、我々より後に出たはずの団長達が先に着いておられるのですか?」

「……は?」

首を傾げ続ける兵長の話によると、ギルドナイト達はドンドルマからここまでの一本を飛ばして来たようで、後から出たフレア達が抜けるはずがないと言うのである。

「いや、おかしいだろ……それどころか俺らは何時間もここに……!」

自分で口にしてフレアはハッとした。
そもそもフレア達は朝に着けるようにと深夜に出発していたのだ。
なのに加えてあれだけの時間──ゆうに三時間以上も城内に居たはずなのに、夜が明けることはなかったである。

「私達が閉じ込められていたのは単に城の中だけ……という訳では無かったようね」

アワアワしているチョモの横でジッと様子を見ていたシェリーが面白そうに言った。

「とにかくだ、黒龍はもうここにはいない」

「ま、まさか討伐したのですか!?」

「いや……撃退に近いが、三人じゃとても倒せる相手じゃ無かった。──運が良かったんだ」

撃退、と聞いて団員達の間で大きなどよめきが広がった。
中には命を捨ててでも足止めしようと考えていた団員もいたのだ。そんな相手を自分達が移動している間に撤退させたと言うのだから。どよめきの中にはそんな驚きや喜びも含まれていた。
後ろの方では「あのシェリー様が倒し切れない相手がいるなんて……」と別の意味で驚愕しているギルドナイトもいたが、それがどこの所属かは明白である。

「無駄働きをさせちまったが、作戦は終了だ。直ちにドンドルマへ帰還して報告するぞ。あと、城の中に規約違反のハンターが二名転がってるから連れて行け!」

「はっ!」

団員達の反応は素早かった。
到着して間も無かったこともあり、あっという間に帰還の準備を済ませた。
そしてフレアとシェリーは救護用の竜車に乗せらせ、チョモによる本格的な治療を受けることが出来た。

「痛てて……! おい、ちょっとは加減しろよ!」

消毒液をぶちまけられたフレアが少し
涙目になって怒鳴る。

「何言ってんの! よく見たらあちこち火傷してるし、擦り傷だらけだし、化膿したらどうすんの馬鹿!」

「────っ!?」

包帯を巻き終わった腕をバシンと叩き、のたうち回るフレアを残念な顔で眺めていたチョモだったが、ふと竜車の外を眺めるとパアッと表情を明るめた。

「見て! 朝だよ!」

「あら、なんだか久し振りね」

「……あぁ、目の前がチカチカしてんのはそれ……か?」

暗雲の隙間から何本もの光の柱が降り始め、永遠にも思えた夜が終わりを告げたのを三人はようやく実感することが出来た。

「これでドンドルマも落ち着けるかな?」

「だな……」

「不思議な体験だったね。でも私達は伝説の黒龍と戦って、無事に帰ってこれた──これは自慢してもいいんじゃない?」

「あぁ、そのオルゴールを奪われた学者達にも土産話を聞かせてやろうぜ。……しばらくは引っ張り凧になるだろうな」

「ふふ、当分は軟禁状態でしょうね」

今更ながら黒龍と対峙していたという実感が湧いてきた三人は、ようやく腰を落ち着かせて話し合うことが出来た。

竜車はゆっくりとシュレイド城を後にし、次第にその禍々しい建造物は見えなくなっていく。

「あ、そういやあん時の理由、話すって言ってたよな? 折角だ、今教えろよ」

「この状況で聞くの? ……貴方意外とデリカシーがないのね」

「ううん、フレアはいつもデリカシー無いよ。バルスと一緒になってからは特に顕著だね」

「んだと!? あいつと一緒にするんじゃねぇ!」









『…………助けてくれ』



ガヤガヤと騒がしく進む竜車の後ろで、シュレイド城の重々しい扉が独りでに閉まったのを───誰も知ることはない。





誰も、色褪せたギルドナイトスーツの男の事を───思い出すことはない。




彼は今も、誰かが仇を撃ってくれる時を──永遠に待ち続けている。
「やぁ。今度はバルバレに行くんだって?」

ここは砂漠の街『ロックラック』。
砂の味がする懐かしい風を感じながら、私は彼にそう尋ねた。
格好は何故か黒のインナーのみで、他の人達から白い目を向けられていたがこの男のセンスを指摘するのも今更な気がしてやめにした。

ドンドルマからモガの村まで船、そこからタンジアの港へ行って飛行船に乗──らず、料金の安いネコタクエクスプレスへ乗ってガタガタとここへ辿り着き、ようやくバルバレ行きの砂上船へ乗り込もうとしている黒髪の男はピタリとその足を止めた。


「……!?」

そして驚いたように後ろを振り返った。

「久し振り」

私はニヤリとして言うと、男は更に驚いた顔をした。
何せ誰も素顔を知らないはずの自分が声を掛けられた上に、その声を掛けた人物がもういないはずの人間だったのだから驚くのも無理はない。

「でもそんなに驚くことはないんじゃない? バルス」

「ハンマー……」

口をポカンと開けていた彼だったが、その点は流石ですぐに表情を整えて涼しい口調で話し始めた。

「どうして──いや、君のことだ、理由は聞かないよ、お帰り。アクアちゃんにはもう会ったのかい? 彼女、随分と元気を無くしていたよ」

くぐもっていない彼の声は本当に久々に聞いたが、飄々とした感じは相変わらずだ。
アクアを元気づけに行ってくれたのは感謝しなければいけないが、大方嫌がらせになったのではないかと思うと素直にお礼は言えない。

「いや。アクアに会っちゃったらもう当分離れられないと思ったから、先にここに来た」

落ち込んでいるアクアの顔なんて見てしまったら本当に離れられない気がする。
というかその前にどんな顔して会いに行けばいいかも分からない。
だからこそ、まずこの男に『ある』けじめをつけなければいけないと思った。

そしてその男が間も無く旅立つと、古塔で優しい姉が教えてくれたからこそ、私は急いでここに来たのだった。






「──もう使わないなら返してもらおうかなと思ってさ」




「……怒ってるかい?」



──何を?
とも言わず、本題を切り出した私にバルスはそう尋ねた。

「そんな訳ないさ」

そう言ってから思う。

──来て正解だった。

この男は、記憶が戻ってからずっと気にしていたのだろう。

「お互い自分を救ってくれた名前がさ、一番いいに決まってる」

「………」

そう。
バルスが気にしていたのは『バルス』という名前そのもの。
あの時私が送った名前を忘れ、使っていなかったことを、無駄に律儀なこの男はズルズルと引き摺っているのだ。

「でも……」

「でももデルクスも無いって。だから返して貰いに来たんだ」

その位しないとこの男はいつまでも気にするに違いない。
その気持ちは嬉しくもあるが、そのせいでバルスを苦しめるのはごめんだ。

「……分かったよ」

「よろしい。んじゃ改めて紹介しよう──出ておいで!」

私が後ろの荷台に呼び掛けると、小さな黒い影が勢いよく飛び出した。

「よ、呼ばれて飛び出て、ニャ!」

うん。
少し噛んだけど打ち合わせ通り。

「……アイ……ルー……だって?」

バルスが珍しく困惑した表情を浮かべた。
いや、珍しくはないか。
もともと顔に出るタイプだったし、ずっとスカルフェイスを付けていたから表情を隠すことも忘れていて、非常に分かりやすくなっているのだ。

「まさか……」

「そう、そのまさか」

私は新しく雇った漆黒色のアイルーの両脇を抱えて高らかに持ち上げた。

「この子がバルスの旧名を授かることになった私のオトモアイルーです!」

「……………」

バルスは何と言っていいか分からず絶句していた。
まさか自分の思い出の名前をアイルーに付けられるとは思っていなかったようである。

ふふん。
これ以上無いって位の嫌がらせだ。

でも、これ位しないと彼は納得しないのだから仕方ない。

「だ、旦那さん、高いニャ」

「おっと、ごめんごめん」

毛を逆立てて震えるアイルーをゆっくりと胸元まで降ろして抱え直す。
名前と違い臆病な性格だったのをすっかり忘れていた。

「どうしたの? そんな変な顔して」

「いや……それは……ちょっと……」

「何さ、私の家族に文句つける気?」

「でもそれは流石に複雑な……やっぱり怒ってるんじゃないのかい?」

「バルス」

嫌がらせはここまで。
わたしはしっかりと、その名で呼んでやる。

「私にだって分かる。あんたは『バルス』だ」

「………」

言ってやらなければ、どちらも前へは進めないから。


砂上船の出発を告げる鐘が鳴る。
もう時間はあまり残されていない。
私はアイルーを撫でながら続けた。

「お前が私を、私がお前を『この』名前で呼んでたあの時、確かに私達は救われてたさ。その時間は確かに大切なものだったよ……でもさ、私達が世界を知って、本当の意味で救われたのは『あそこ』を出てからだろう? 私が本当の名前を知ってからもハンマーを名乗ってるのは、どの名前が一番『自分自身』に相応しいかを考えた末なんだ。確かに変な名前だって言われたり、ややこしかったりするよ。両親から貰ったマリディアのほうがいいんじゃないかって悩んだりもした」

「………」

「でも、私達は誰より名前の大切さを知ってるからこそ悩むことが出来るんだ。そんな私達が悩んで決めた名前を誰だって──私だって否定することは出来ないんだ」

「ハンマー……」

バルスの顔にはもう迷いは無かった。
それを見て私もようやく笑うことが出来た。

「ちゃんとさ、胸張って行っておいでよ。もう出発しちゃうよ?」

「……ありがとう」

バルスはそう言って、ゆっくりと私に背を向けた。




「じゃあね」

遠ざかっていく黒い背中に、密かに別れを告げる。
もう当分、話すことは無いだろう。




「あ」


そう思った矢先。
桟橋に足を掛けたバルスが思い出し
たように振り返った。

「一応言っておくけど、僕は別に君のネーミングセンスが悪かったからとかそんな理由で───」

「台無しだよ! もう帰ってくんな!」

「痛い!? ってこれ──」

言って私は、渡たしそびれていた黒い破片を投げつけた。
それは粉々に砕けた中で、唯一形を保っていた「バルス」の冒険の証。


「………」


バルスは無言でそれを拾って大事そうに懐へと仕舞い込むと、ニッと笑った。


久方ぶりに見た、彼の素の笑顔。


「じゃ、行ってくるよ。皆によろしく」

「ん、お土産忘れないでね。あと、あの子には頻繁に手紙出してやんなよ?」

「僕の近状よりも仕事の進み具合を知りたがってると思うけどね……」

バルスはそれでも楽しそうに笑ってから、私に軽く手を振ってみせた。

「それじゃ」

「うん」


最後は淡白な挨拶で、私達は暫く振りの再開と、別れの挨拶を終えた。


「さて、と」

「……ニャ?」

「──行かなきゃ」

「!?」

徐々に遠ざかる砂上船を見ながら、私は隣のアイルーを抱えて勢いよく走り出した。





──こうしちゃいられない。

私の帰りを信じてずっと待ってる人がいるんだから。

私は飛行船乗り場に着くと突っ込むように受付に噛り付いた。


「すいません!」


速攻でここからドンドルマに帰り、ポッケ村に行こうとすれば普通は最低で三日はかかる。



一日で行こう。

やれるかどうかじゃない。
やるんだ。

こんなゆっくりしている場合じゃなかったかもしれない。
二年も待たせてアクアがグレていたらどうしよう。




「ねぇ! この中で一番速い飛行船はどれ!?」

「──こちらでございますが、少しお値段の方が……お支払いはどのように?」





「あー……ドンドルマのイーゼンブルグ家。そこのバルスって男につけで」

「かしこまりました。料金はこちらになりますが、よろしいでしょうか?」



「…………うん」



私は予想よりも一桁多い額から目を逸らして、飛行船へと急いだ。




「……ま、このくらいはいいよね?」



バルバレについたバルスの元へ届いた手紙に、シャワの怒声が殴り書きされていたのは言うまでもない。




飛行船の搭乗口に着いた私は、抱えたままだったアイルーをゆっくりと地面に降ろした。




「じゃ、またね。ディーン」

私は『先程助けたばかり』の野良アイルーにそう別れを告げる。

「……本当にこの名前、貰ってもいいのかニャ? 大事なものじゃないのかニャ?」

黒いアイルーはおずおずと上目遣いで尋ねる。
そんなディーンを撫でながら、私は優しく言った。

「その名前には『勇気』が入ってる。自分も同じ位ボロボロなのに、それでも他人を守れるくらいの覚悟を持てる勇気が。私が無い頭を捻って考えた、そりゃ大事な名前だよ」

「ニャ……それじゃやっぱり……」


でもさ──と私は少し照れ臭そうに笑った。

「そんな名前を使わずに持っておくのも勿体無くて、だけども身近に置くのはちょっと恥ずかしいんだ。だから必要だと思う奴にあげようって決めてたの」

それがアイルーになるとは私も思ってなかったけどね、とクスリと笑う。

「アイルー族の名前の付け方は大陸や部族によって決めるって聞いてたけど、ディーンの所は『一人前』だと自分で決めたら、でしょ?」

「そうニャ……でも僕はまだまだ未熟者ニャ。だからさっきも虐めらてたのニャ……」

私が見た時、ディーンは天然柄のアイルー達に毛並みを馬鹿にされていた。
自信の無い性格はそうやって虐げられてきたのにも原因があるのだろう。

「こんな色のアイルーなんて、僕だけなんだニャ……」

俯いてそう言うディーンの頭を私はポンと叩いてやる。
そして、ビクリとして涙目で私を見上げる小さな猫をニヤリと見返した。

「ディーン、お前もまだ世界の広さを知らないんだ。お前より派手な、赤虎がらや紫色のアイルーだって自信満々に生きてるだよ?」

「ほ、本当ですかニャ? 嘘じゃないですニャ?」

「勿論。信じられないなら、自分の足で確かめてみたらいいよ」

「僕が……ニャ?」

「お前の優しさは一人前だよ。その心さえ忘れなけりゃ、きっとやっていけるさ」

「でも僕……優しいだけじゃなくて、旦那さんや旦那さんの友達みたいに強くなりたいのニャ。それにはどうすればいいのニャ?」

「その答えも旅の途中で見つけていけばいいさ──さぁ、私はもう行くよ。何処かで私の知り合いに会ったらよろしくね!」

「ありがとうニャ、旦那さん。僕、いつか一人前になって……この名前に負けない位の勇気を持って旦那さんに会いに行くニャ!」

「その時を楽しみにしてるよ。バイバイ、ディーン!」

「さよならニャ! 僕、頑張るニャー!」



私は、そんなアイルーの声を背に飛行船に乗り込んだ。

ディーンのことは心配だが、更に心配なことを考えながら。

「アクアに……なんて言って会えばいいんだろう……」

いきなり全部説明しようったって無理だろうし、そもそも私にそんな余裕があるかも分からない。

「そう言えば……初めてアクアに会った時、私は何て言ったんだっけ……?」

今の時期は丁度アクアがポッケ村にやって来た時期だ。
雪を多い頃だし、私のように雪かきに駆り出されているに違いない。

「ああ……そうだった。ふふ、懐かしいなぁ」

私はあっという間に過ぎたあの日々を頭に思い描きながら、飛行船の一室でくすぐったい笑みを浮かべていた。
プロフィール

楽太郎

Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
楽しんで読んでもらえたら幸いですね
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