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-金獅子、降臨-



ネコタクに乗り、船での航海を終えたアクアとハンマーは予定より早く火山のベースキャンプへと辿り着いていた。

「ふぅ、ようやく着いたね」

「やっと体を動かせる」と背伸びをしながら言ったハンマーは手慣れた様子で荷物をほどき、拠点であるベースキャンプの設立に手をつけ始める。

――その傍ら

「うぅ……気持ちわるい……」

アクアは呻きながら船の桟橋でうずくまっていた。

「大丈夫? はい、薬草」

ありがとうございます……、とアクアはよろよろと薬草を受け取り、口に放り込む。
爽やかな香りとほのかな苦味が広がり、土気色だった顔に少し明るみが戻る。

「力のコントロールは出来るようになったけど、遂に乗り物酔いは治らなかったねぇ」

ハンマーは気遣うような顔でアクアを話しかけるが、口元はしっかりとニヤけている。

「うぅ……私だって結構馴れたつもりでしたよ……。でもですね……でもですよ? 船上であんなに揺さぶられたら誰だって酔いますって………!」

ジト目でハンマーを睨むアクア。

「えぇー? 私は平気だったよ?」

ハンマーの口はまだニヤけたままだ。

「ハンマーさんはどうかしてるんですよ!」

アクアはガバッと飛び起きて抗議する。

「お、元気になった」

「はぁ……怒ったら大分楽になりましたよ。 さぁ、途中だったクシャルダオラ対策をまとめてしまいましょう。本当は船で終わらせるはずだったのに……」

「あはは、ごめんごめん。でも早く着いたでしょ? クシャルダオラもまだみたいだしね」

ハンマーが古龍観測所の気球を確認しながら言う。
今回はギルドの全面協力を得て、気球からの偵察を常時行っているのだ。

「じゃあまずは早めに火山の奥地まで足を進めて……」

二人は現地の細かな情報も合わせて作戦を練っていった。

     
  

「狙うは『頭』……ですか?」

アクアは確認するように呟く。

「狙うのは正確に言えば『角』だね。古龍の不思議な力はさ、角を破壊すると効力をほとんど失うんだ。何でかは分からないけどね~。クシャルダオラの纏う暴風はかなり厄介だから、まずは角の破壊を優先させる。それに頭は弱点だから一石二鳥って訳だね」

「なるほど……」

アクアは神妙に頷いた。

ハンマーの説明はとても分かりやすいもので、まだ標的を見ていないアクアでも敵の情報をすんなり知ることが出来た。G級ハンターというのは、やはり色々と格が違う(ただし性格は抜かす)。

「じゃあ早速火山内部の洞窟に行って、クシャルダオラを待ち伏せようか。ギルドの予測じゃまだ時間は余裕があるからね」

「分かりました!」

最終確認が終わり、二人は火山へと足を進めていった。


―火山内部―

ハンター達が『火山』と呼んでいるこのラティオ活火山では、留まることなく溶岩が流れ続けており、かなりの熱気や有毒なガスまで発生させている場所もある。
そんな生物を拒むかの様な過酷な環境だが、だからこそこの環境に適応した生物は強力な個体が多い。

「暑くなってきたね……アクア、そろそろクーラー飲もうか?」

そう言いながら汗を拭うと、ハンマーはクーラードリンクを一気に飲み干した。

「くぅ~! この体の芯から冷やされる感じ! やっぱ火山で飲むクーラーは違うね!」

「もう……ハンマーさんったら飲み過ぎです。決戦が控えてるんですよ?」

後ろを歩くアクアの呆れた声が聞こえてくる。

「へへ、予備はあるから大丈夫! それにね、私のは特製ハチミツ&ミント味だから絶品なんだよ」

ハンマーは「いいでしょ!」と自慢するように振り返った。

――が

「……え?」

彼女が見たものはシャリシャリと爽快な音を立てながら、真っ赤なイチゴを摘まんでいるアクアの姿だった。

「ななななな!? ちょっとそれ氷結晶イチゴじゃん! どうしたの!?」

狩りの時でも見せないような驚愕の表情を浮かべるハンマーに、アクアはさらりと答えた。

「ああ、さっき灼熱イチゴを採取して調合したんですよ。ん~、冷たーい」

「…………ねぇ、 一個頂けないかな?」

「ん~、せっかくアイテム減らしてまで氷結晶を持ってきましたからねぇ。自慢のクーラーを飲めば……わっ!? ちょっと引っ張らないでくださいよ!」

「いいじゃん1つくらい―! 減るもんじゃないし!」

「確実に減りますから! これには今回のモチベーションが懸かってるんです!」

「決戦前にイチゴ一個でモチベーションが下がってたまるか!」

「ハンマーさんはイチゴの素晴らしさを分かってませんね!」

盛大にわめきながらイチゴを取り合う二人。
もはやG級どころか上位の威厳すら感じられない有り様であった。


――そんな時

「!?」
「!?」


洞窟の奥から地響きの様なものが聞こえたのだ。

「ハンマーさん! ……今のは一体?」

「……分からない。だけど少し慎重に………わっ!?」

様子を見てみよう とハンマーが言いかけた時である。
周りの地面から幾つもの青い鋏が突き出して来たのだ。

「なっ!? 何なんですか!?」

無数の鋏を避けながらアクアが叫ぶ。

「火山で地面から出る鋏といえば……」

「「ギチギチ……」」

百は軽く越えるだろう大量のガミザミが二人を取り囲んでいた。

ショウグンギザミの幼体であるガミザミだが、成体に負けないくらい凶暴であり、毒まで有している危険なモンスターである。

「こりゃあザザミソで一杯……なんて言ってらんないね」

「ホントにそんなこと言ってる場合じゃ無いですよ! ……どうします? このままじゃ囲まれますよ!?」

ガミザミ達に距離を詰められながらも二人は素早く相談を交わす。

「……よし、このまま奥まで突っ切ろう!」

「さっきの物音の方にですか!?」

「帰り道は奴等の数が特に多い……、進むのは一番手薄なこの道しかない」

ハンマーは冷静に状況を分析していた。

「分かりました……なら蹴散らして進みましょう!」

アクアが覚悟を決めて武器を構えようとすると、

「いや、もっといい方法がある」

「え?」

そう言うとハンマーは、武器を構えもせずにガミザミの群れに突っ込んでいった。

「ハンマーさん!?」

アクアは咄嗟に呼び止めるが、ハンマーはこっちを見てニヤリとした後、ガミザミ達に向かって跳び上がった。

「イヤッフゥ!」

「うわぁ……」

ハンマーはなんと、ガミザミを踏み台にして奥の通路へと渡り切ったのだ。

「アクア―! 早く!」

向こうからはハンマーの呼ぶ声が聞こえる。

「うぅ…………仕方ないっ!」

アクアはごめんなさい! と謝りながらガミザミを上を踏んで渡った。
踏み付ける度に聞こえる鳴き声が夢に出そうで怖い。

「うまいうまい」

何とか渡りきると、ハンマーが腕組みをして頷いていた。

「ハンマーさんの発想には毎回驚かされてばかりですよ……」

「誉めない誉めない! 避けれる戦いはなるべく避けないとね。さぁ、奴等が追って来るから奥に急ごう」

「はい……」

二人は走り、不気味な雰囲気を醸し出す洞窟の奥へと向かっていった。



―火山最深部―

「これは………」

「……どうやら待ち伏せされてたのは私たちだったみたいだね」


洞窟の奥には、大量のガブラスが飛び交っていた。


「グルルルルゥ……」


そして、物音の正体であろう、巨大な獅子が鎮座していたのだ。

金獅子――ラージャン。
牙獣種でありながら、一時期は古龍として扱われていた程の力を持つモンスター。
並みのハンターなら姿を見ただけで逃げ出すほどの超危険生物。

そんなモンスターが二人を待ち構えていたのである。

しかも、恐らくは古龍化というおまけ付きで。

通常のラージャンより倍は長く凶悪にねじれた角。それは先端が二股に分かれており、ガウシカの角にも似ていた。
そして異常なまでに発達した筋肉、高質化した皮膚は従来の弱点である防御の低さを見事に克服している。

「あ………」

そんな金獅子にアクアが圧倒されていると、ハンマーの声が響いた。

「アクア! ラージャンの後ろ!」

ハンマーが指差す方向を見ると、目を疑った。

「!!!」

ラージャンの後ろには、巨大な翼をはためかせ、今にも飛び立とうとしているクシャルダオラの姿があったのだ。


「うわっ!?」


一瞬、目が眩むような光が辺りを包んだ。

ズキリ、と一瞬アクアの頭に痛みが走る。

鋼色ではなく光輝く純白。
全てを洗い流すような白色の甲殻を、かの古龍は纏っていたのだ。

「待て! ……うわっ!?」

ハンマーがクシャルダオラを追おうとした時、ラージャンがハンマーに向かって光の束を撃ち放った。

「くそっ!」

辛うじて避けたハンマーだったが、すでにクシャルダオラは飛び立った後であった。

「ハンマーさん! 大丈夫ですか!?」

アクアが駆け寄るとハンマーは大丈夫だと言って立ち上がる。

「……こりゃいよいよ不味いね……アクア、体に違和感は無い?」

「……ええ、今のとこ平気みたいです」

しかし上空のガブラスの群れ、前方のラージャン、後ろから大量のガミザミが迫るこの状況。

ハンマーも流石に余裕の表情は出来ず、冷や汗を流す。

「さて……どうしたものかね……」

「まだ何か……策はあるはずです! 私は諦めません!」

しかし二人は徐々に追い詰められていった。

ここまでか……? そう思った時、遠くから近づいてくる地響きに気が付いた。

「何か来る!?」

モンスター達も地響きの方向に顔を向ける。

そして、地響きはますます大きくなり、

そして……


「ギャオォォォォォォォォ!!」

「きゃあぁぁ!?」

アクアが驚きの声をあげた。

洞窟の壁が豪快に破壊されると共にディアブロスが突っ込んできたのである。

「何で火山にディアブロスが!?」

「し、しかも角が三本ありますよ!?」

二人が困惑してる間にも、土煙と共にディアブロスはガブラスやガミザミを次々と蹴散らしていった。

………そして、そのまま走り去っていった。



「………え?」

何だったんですか……? と声を漏らすアクア。

「…………さぁ?」

ハンマーも訳が分からないという顔をしている。

しかし、今の騒動でガブラスとガミザミの群れ逃げ出してほぼ壊滅。

残るはラージャンだけとなり、そのラージャンも舞い上がった土煙で身動きが取れないでいた。

「何か運が向いてきたかな?」

「……ん? ハンマーさん!」

するとアクアが突然土煙の中を指差した。

「え? ………人……影?」

土煙の中に見えたのは二つの人影。

「いやぁ……やっと降りれたね」

そう言って出て来たのは、全身黒ずくめの怪しい男。

「って言うか振り落とされたのよ……最悪! ていうか……ここって火山じゃない!? どうやって帰るのよ!?」

二人目は、ツインテールに纏めた金髪を振りながら怒る女の子。

現れたのは、二人のハンター。
バルスとシャワの両名だった。

「何ですか!? あの黒いのは!?」

アクアが何度目か分からない驚きを声に出す。」
彼はやはり、誰が見てもそう思えるような男だった。

「分かんない………だけど1つだけ分かることがある」

ハンマーがいつになく真剣な声で言った。

「な……なんですか?」

アクアも真剣な顔つきになって聞く。



「あのザザミっ子は絶対いい子」


「あぁ……同感です」


あくまで真剣な顔である。

「ん? そこにいる二人はハンターさん?」

「良かった! これで帰れる!」

二人がこちらに気付き、駆け寄って来た。

「あの、すみませんが……」

「ちょっ……! 待って静かに!」

ハンマーがこちらに近づくラージャンを指差した。

「……!!?」

「な――!? むぐ……!」

バルスは咄嗟に叫ぼうとしたシャワの口を塞ぐと、岩影に隠れようと提案し、四人はゆっくりとその場を離れることに成功した。

「ラージャンが火山にいるなんて情報……ギルドには無かったはずだけど?」

岩場について第一声、バルスがそう尋ねた。
ラージャンなどの危険生物はギルドが厳重に注視しているため、火山などに現れた場合、直ちに警報がギルドに伝わるのだが今回は全くの無情報である。
しかし、そもそも生態も解っていないモンスターの居場所を把握することが困難である為、情報を鵜呑みにすること自体が間違いなのであるともいえる。

「私たちも今、鉢合わせばかりだからね……」

「取り敢えずどうするのか決めましょう。気付かれるのはきっと時間の問題ですよ……」

土煙は徐々に薄くなっており、ラージャンもしきりに辺りを見渡している。

「でもこの状況でラージャンから逃げるなんて無謀よ! このまま隠れてやり過ごした方が……」

「確かにそうですね……」

「みんな落ち着いて! ここは冷静になって行動しないと……」

バルスガそう言った刹那、ガラガラと彼が背をつけた岩が大きな音を立てて崩れて落ちた。

「ブォオオオオ!!!」

瞬間、獲物を見つけたラージャンが体の底から震えるような咆哮を上げる。

「バルス!? あんた何てことしてくれたのよ!?」

「冷静になろうとした結果がこれだよ!」

「黄色いの黒いのも! 言い合いしてる暇は無いよ!」

「黄色いのじゃなくてシャワよ!」

「あ、同じくバルスね」

「こんなときに自己紹介してる場合ですか!」

「アクアも突っ込んでる暇無いって!!」

そうしている間にもラージャンはこちらに近づいていた。

グルル、という唸り声が恐怖心を耳から体の芯まで直に送り込む。

「……これはもう戦うしかないでしょ」

ハンマーが決心したように言う。

「戦うって……ハンマーさんラージャンと戦ったことあるんですか!?」


「無い!」

自信満々に言い放つ。

「敵の情報がほとんどないんですよ!? 危険です!」

「そんなの戦いながら覚えればいいんだっ!」

「ちょっと!? あなた正気!?」

「ここで引いたら絶対に誰かが犠牲になる!」

ハンマーは大鎚を担いでラージャンに向かって行った。

するとそれを追うように黒い影が続く。

「僕もそういうの、嫌いじゃないよ」

バルスがハンマーと並んで走り出していた。

「そう! じゃあよろしくお願…………って黒いの、あんた武器は?」



「…………あ゙」





(砂漠に忘れてきたぁぁぁぁぁぁぁ!!)




「あー………先、行くよ?」


立ち尽くすバルスを尻目に走り出すハンマー。

「バルスさん! これを!」

狼狽えてるバルスの元に走って来たアクアが一本の小太刀を手渡した。

「これは……!」

「父の形見です! 大事に使ってくださいね!」

「ありがとう、いい刀だ。 ……じゃあ行こう!」

「はい! ハンマーさんを援護しましょう!」

二人はハンマーに続いて走り出す。それを見て残された一人はため息をついた。

「あーもう……! どうしてこうハンターって皆無茶が好きなのかしら……まぁ私も人の事言えた立場じゃないけどさ」

そう言うとシャワはライトボウガンを構え、ラージャンに向かって氷結弾を撃ち放った。

「ブォォォォ!!」

唸りを上げて降り下ろされるラージャンの豪腕。

岩をも容易に砕くその一撃を喰らえばハンターといえどもひとたまりもないだろう。

ハンマーはそれを見切り、紙一重の間を置いて避ける。
吹き過ぎていく拳から生みだされる烈風を肌に感じながらながらも、ハンマーの目には闘志がみなぎっていた。

「だぁぁぁ!」

狙いは済ましたハンマーの一撃がラージャンの脳天に直撃、その直後にシャワの放った氷の礫が降り注ぐ。

「はぁぁ!」
「せい!」

怯んだその隙にバルスとアクアはラージャンの両側に回り込み、二振りの刀がラージャンの屈強な体を鋭く切り裂いていた。

「ブォォォ……!」

完璧なコンビネーションが決まり、金獅子はうなり声を上げながら後退した……、



――アクアの目にはそのように見えたのだ
ー鋼龍ー

「よし! 押してます!」

アクアが目に期待を浮かべる。

「いや! あれは後退したんじゃない!」

「え……?」

ハンマーが叫んだ瞬間、目の前が金色の光に包まれた……

「一体何なの!!??」

「――黒獅子の怒りが頂点に至る時、獅子は黄金の光に包まれ、金色(こんじき)の獅子へと姿を変える――か。……文献の通りだね」


「バルス……それどういうことよ?」

「ピンチ……ってことかな」

「なんて輝き………」

ハンター達はその姿に圧倒され、目を見張る。

ラージャンの毛は黒色から輝くような金色に変化し、黄金の見に見える程の強烈なオーラがにじみ出ていた。

これこそがラージャンが金獅子と呼ばれる理由。

古龍も恐れるといわれる牙獣の王の真の姿であった。


あまりの迫力と美しさに三人は動けない。

「皆しっかりしろ! ここからが本番だぞ!」

「「「!!」」」

ハンマーの一括。それに皆が気を持ち直し武器を構え直す。

「はい! ハンマーさん! 行きましょう!」

「シャワちゃん、怯んだら負けだよ!」

「解ってるわよっ! あんたこそもうバカしないでよ?」


「ブォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

――四人は、咆哮を合図に輝く金獅子に向い、走り出す



――古龍観測隊はこの戦いを記録していた。

これは正確に記録に残された初のラージャンの討伐であり、後に『金獅炎山の狩猟』と呼ばれ、ハンター達の間で語り継がれることとなる。



「……終わったね」

倒れたラージャンを見て、ハンマーは肩で息をしながら皆に笑いかけた。

「死ぬかと思いました……」

「同じく……」

「もうくたくた………」

全員ボロボロである。

「それじゃ帰ろっか。ラージャンの報告とクシャルダオラの情報もしなきゃならないしね」

「そうですね……早く帰って休みたいです」

「何言ってるの! 帰ったら夜通しで勝利を祝うの!」

「えぇ―――!? 何でそんなに元気なんですか!?」

「……若いから?」

「私の方が若いですよ!! ですよね!?」

一方、それだけ騒げるアクアも充分元気だろうと、残された二人は呆れていた。

「僕達はどうしようか?」

「あー……取り敢えずギルドに戻ってディアブロスの討伐失敗の報告……よね。まぁラージャン討伐を伝えればギルドも何も言わないでしょ」

「確かに」

予定が決まればすぐに行動に移すのがハンター。
四人は連絡先を教え合うと、途中で別れて帰路についたのであった。





「しっかし……疲れたねぇ……」

先程とはうって変わり、ハンマーは大分疲れた声で言った。

「ラージャン丸々一匹村まで運ぼうなんてするからですよ! 途中でギルドにお願いして正解でしたよ……」

「だってせっかくの貴重な素材だしさ、沢山欲しいじゃん?」

残念そうにハンマーがぼやく。

「それじゃ密猟と変わりませんからっ! それにギルドから素材はたんまり貰えるって話ですよ?」

「ホント!? ならいいや! じゃあ早く帰って祝勝会だ!」

「休みたいですってば………!」


二人はそんな会話をしながら村へと足を進める。




「…………」

その二人が帰っていく様子を見ていた人影がいた。

「あのラージャンが倒されるとは思いませんでしたが、計画には支障ありませんね。さぁ後は………ふふ、面白くなってきました」

リノプロヘルムをつけた赤衣の女はそう言いながら洞窟の奥に消えていった。



―ギルド―

酒場ではいつもよりも騒がしくなっていた。

ラージャン討伐の話が広まり、多くのハンター達がポッケに集ってお祭り騒ぎが始まったのだ。
その喧騒中、一際大きな声が酒場に響いた。

「乾杯ーー!!」

杯から飛沫が盛大に飛び散る。

「もう……何回目の乾杯ですか」

「えぇーもうギブアップ?」

すでに何十杯もの空杯が転がっていたが、ハンマーはまだまだ余裕そうである。

「うぅ……お祝いなんですから、私を気にしないで好きなだけ飲んでください」

アクアはぐったりとしながら、まだまだ飲み足りなそうにしているハンマーにそう言うと、机に突っ伏した。

「そう? じゃあ、お代わりお願いしま―す!」

アクアはハンマーの元気な声を聞きながら、ぼんやりとした頭で村に帰ってきてからのことを思い返した。


――数時間前

二人は帰ってすぐに火山でのことをギルドに向かい、ラージャンの出現とクシャルダオラがモンスターの変貌の元凶でほぼ間違いないことを報告した。

「そうだったの、よく無事に帰ってこれたわね~。私、これでも心配してたのよ~」

口調はのんびりしていたが、彼女の顔を見ると、本当に心配していたようである。

まぁ通常運転ですね……、と思いながらアクアは話の核心について触れた。

「それでクシャルダオラがどこに行ったのかは分かったんですか?」

するとギルドマネージャーはニコリと笑って答えた。

「ふふ~ギルドもちゃんと働いてるのよ~。今さっき、古龍観測所から報告が入ったの~。どうやら目標は今、古塔に住み着いているみたいね」

「古塔……ですか?」

「古塔か……あそこに行くの大変なんだよね。ネコタクの手配に時間掛かるし、樹海を突っ切るから最低でも3日はかかる」

「そんな辺鄙(へんぴ)なところにあるんですか……」

「準備もあるし今日明日は動けそうにないな」

ハンマーはポリポリと頭をかく。

「とりあえずシャワちゃん達に連絡をしときましょうよ」

火山で出会った怪しい(約1名)二人組にクシャルダオラの話をしたところ、協力したいから討伐に出るときには連絡をして欲しいと言ってくれたのだ。

――ああやって、他にやらせといて自分は高みの見物する奴って嫌いなのよ。

盛大に顔をしかめてシャワが言っていたのを思い出す。

――古龍の血を分けて配下に置くなんてとても興味深いじやないか。是非とも対峙してみたいね!

バルスは逆に顔を輝かせて(輝やいても黒だったが)協力を申し出ていたが……。

ん?

「あぁーーーー!」

「どうしたのアクア?」

「バルスさんに小太刀貸しっぱなしだったぁ!!」

しまった……大事な物なのに、しれっと腰に差されて持っていかれた……!

「じゃあ尚更連絡しないとね。ネコタクの手配と一緒にしておくよ。その間にアクアはあれの準備をよろしく!」

「ん? あれって言うと?」

「宴会に決まってるじゃない! 他のハンターも誘って盛大にやろう! 報酬はたっぷり入ったしね!」

「えぇ!? ……やっぱりやるんですか? しかも規模が広がってるじゃないですか!」

「勝利のお祝いと、クシャルダオラ討伐の前祝いだよ!」

「そんな暇は……私の小太刀とクシャルダオラが!」

アクアが慌てて抗議する。

「慌てない慌てない。ネコタクの手配だってまだ数日かかるし、黒いの達とも連絡取らなきゃならないから、どのみちまだ時間はあるんだ。だから出発前にパーっとやっとこうよ! ね?」

「う―ん……ならそうしましょうか」

ニコッと笑うハンマーにそこまで言われたら、休みたいとは言えないアクアであった。

            
         ◇

「アクア―! 起きろ―! 帰るよ?」

「んん……? あ、私寝ちゃって……」

ハンマーに揺すり起こされると、宴会はとっくに終わっていて、辺りはすっかり暗くなっていた。

「出発の支度は明日から始めるから、今日はもう寝よう」

「そうですね………うわっととと!?」

「おっと! 大丈夫?」

足元がふらつく……まだ酔いが抜けてないようだ。
ハンマーに支えられながら少し歩いていると、彼女の姿がふいに見えなくなった。

「ハンマーさん? うわっ!?」

ハンマーはひょいっとアクアを背負ったのだ。

「だ……大丈夫ですよっ! 歩けますって!」

アクアが足をバタバタさせる。

「無理しないの。しっかり掴まってなよ?」

「……はい」




「………アクア?」

「……………」

少しすると、アクアは背負われながら眠りについてしまった。

その夜、アクアは久しぶりに笑っている母の夢を見た。

―次の日の朝―

「ほら起きろーー!」

ぷすっ、軽めの音が部屋に響く。

「っ!!? いったぁーーー!!!」

飛び起きたアクアの横でハンマーは眩しい笑顔を向けていた。

「おはよう! どう? 私の特別モーニングコー……ぶっ!?」

ハンマーの顔でペイントボールが盛大にはじける。

「サボテンハンマーで刺さないでって何度言ったら分かるんですか!? しかもそれ、一応毒ありますからね!?」

「ごめんごめん! 謝るからこやし玉構えるのはやめて!」

朝から騒がしい家である。

「……それで連絡は来たんですか?」

アクアが雪山草で淹れたお茶を啜りながらハンマーに訪ねた。

「うん、さっき届いた。さすがポストアイルーは優秀だね」

ポストアイルーというのは各地に手紙を配達してくれるアイルーのことである。
ユクモでクエスト中のアイテム配達をしているニャン次郎も、本来はポストアイルーが本職である。

「それで出発はいつですか?」

「出発は明日。運良くネコタクも確保出来たし、黒いの達とは古塔で合流することになったよ」

「分かりました! そうと決まればすぐに明日の準備しましょう!」

「そうだね!」

二人は黙々と荷物の準備をし、武器の手入れを始めた。

アクアは自分の太刀をチェックしていた。

【霊刀ユクモ・真打】

ユクモから持ってきた太刀を何度も強化し、これ以上ない程研ぎ澄まされた相棒がユクモでそう呼ばれているのをアクアは知らない。
いつも身に付けている【ユクモシリーズ】も先日討伐したラージャンの毛皮を加えてもらい、前よりも遥かに頑丈な作りとなっていた。

「よし、完璧ですね」

そう言って太刀を鞘に納めると、隣にいるハンマーが目に止まった。

「ん? 何?」

ハンマーの手元では、出会った時からずっと持ち歩いていた彼女の愛鎚『石拳【愚】』が磨かれていた。

「改めて見ると、そのハンマーすごい見かけしてますよね」

「いいでしょ? このいかにも『殴ってます』って感じのフォルム。一目見掛けてからずっとこれ使ってるんだよねー!」

ハンマーは愛しそうに愛鎚を磨く。

「よくそんな重いのを軽々と扱えますね……」

一度ハンマーに貸して貰ったことがあったが、持ち上げるのがやっとだった。 大剣だって問題なく扱えるアクアでも、である。

「ま、これは特別製だからね。愛があれば重さなんて関係ないよ!」

いや、それは多分関係ありますよ…… と思ったが、ちょっと納得させられそうになる程のドヤ顔であった。

「さて、準備は完了したから、少し出掛けるよ」

「え? どこに行くんですか?」

「情報収集。実は私もクシャルダオラとは戦ったって言えるほどの経験が無いんだよね。ほとんどの知識はある人からの受け売りなんだ」

「そうだったんですか!?」

「うん。やっぱりもう少し情報が欲しいと思ってさ。クシャルダオラと何度も戦ったことがある人に会いに行こうかなって」

「この村にそんなハンターがいたんですか」

てっきり村のハンターはハンマーさんだけだと思ってました。アクアがそう言おうとした矢先、心を読まれたのかハンマーが先に口を開いた。

「いや、もうすっかり引退してるんだ。そっか、アクアはまだ会ってなかったね」


「一体誰なんですか?」

アクアが興味津々に聞くと、ハンマーがニヤリと笑って答えた。


「教官だよ」


―訓練所―

アクアはハンマーに連れられ、訓練所の前までやって来た。

「ここが訓練所ですかぁ……初めて来ましたけど結構大きいんですね」

訓練所を眺めながらアクアは言う。

すると上から野太い声が響いてきた。

「ヌハハハハ!」

屋根の上に黒い影が一つ。

「あれは一体!? 鳥!? モンスター!?」

「いやっ! 教官だっ!」

「トゥッ!」

屋根の上にいた教官は高らかに飛ぶと、体を丸め高速で回転しながら降りてきた。

「ヌォォォォ!!」

「あ」

「ほぁぁぁぁ!?」

リアルに何かが折れるような音と共に教官は地面へと着地し、足を押さえて転がり回った。

「うーん………うーん…… 」

「………」

「………」

冷ややかな視線が二つ。


「……はっ!」

「わ、私が訓練所の教官だっ!! クシャルダオラの倒し方だと!? そんなもん気合いだぁぁぁぁぁ!!」

教官は強引に起き上がると、片足をぐにゃぐにゃとさせながらアクアに向かってケンケンしながら全力で向かって来た。

「きゃぁぁぁぁ!?」

―自宅―

「――という夢を見たんですよ」

出発の日の朝、アクアはコーヒーを啜っているハンマーに今日見た夢の内容を話すと、彼女は盛大にコーヒーを吹き出した。


「えぇ!? 教官がクシャルダオラを!? この村の教官はね、モスに轢かれてとっくに他界してるよ?」

「そうなんですか!? しかもモスに……」

それはあまりに浮かばれない……

アクアは顔についたコーヒーを拭きながら、天井を仰いで合掌する。

「ていうかどこからが夢?」

「武器を研いだ後からですね。……半分正夢って訳です」

「縁起がいいのか悪いのか分からない夢だね……さて、そろそろ出発しないとネコタクの時間に間に合わないよ」

「そうですね……ん?」

外からこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。

「ハンマーさん! 大変です!」

バン! と扉を壊す勢いで受付嬢は飛び込んで来た。

「どうしたの?」

ハンマーの問いに受付嬢は肩で息をしながら答える。

「各地の『古龍化』したモンスターがさらに凶暴化し、数も爆発的に増えてるんです……このままだと古塔に行くことも困難になります! 急いで出発してください!」

「何だって!?」

「シャワさんやバルスさんは!?」

それだけの騒ぎになっているとすれば、二人と合流するのは難しくなるかもしれない。

「お二人は増えたモンスターの討伐に駆り出されたようです。……合流するのはかなり厳しいと思われます」

「そっか……アクア! 待ってる時間は無い、二人で行くよ!」

「はいっ!」

二人は村人が慌てている中をくぐり抜け、大急ぎでギルドが用意してくれた臨時ネコタクへと乗り込んだ。


―古塔―

樹海の奥地にそびえ立つ、誰が建てたのかも分からないその巨大な建造物は重苦しい空気を漂わせながら、二人を待ち構えているようだった。

「これが古塔ですか………なんて大きい……」

「……それに凄い威圧感が上から来てるね」

「キシャーー!」

空には大量のガブラスが舞っていた。

「クシャルダオラの気配を感じ取ったのか……戦ってたらキリがない! 一気に走って中に入るよ!」

二人はガブラスの群れをいなしながら塔の内部へと入り込んだ。

その瞬間、

ブォン! という空気を割るような音と共に、何かがアクアに向かって叩きつけられた。

「!?」

「アクア危ない! ……ぐあっ!?」

ハンマーはアクアを突き飛ばし、その一撃を喰らって塔の奥へと吹き飛んだ。

「ハンマーさん!!」

アクアが急いで駆け寄ると、彼女は頭部から血を流し、意識を失っているのかピクリとも動かない。

「何で私を庇って………しっかりしてください!!」

「ギャォォオオ!!」

その後ろに、先程の攻撃を繰り出したであろうモンスター『蕀竜』エスピナスが迫って来ていた。

その体は黒く、体に生える棘は通常種よりも鋭利で血のように赤かい。

「…………っ!!」

武器を構えるアクアに横から声が聞こえた。

「……アクア、先に……行って」

なんとハンマーがよろめきながら立ち上がったのだ。

「そんな……っ! そんなの出来るわけ無いじゃないですか!!」

その時、辺りを白い閃光が包んだ。

「グォォ……!」

エスピナスが目を眩ましている。

(これは閃光玉!? 一体どこから……?)

すると塔の入り口からエスピナスに弾丸が降り注ぐ。

エスピナスは後頭部に弾丸の雨を受け、攻撃された方向へと顔を向ける。

「あ……!」

その入り口には見知った二人が立っていた。

「シャワさん! バルスさん!」

シャワはジェスチャーで静かにするように、そして先に行けと言っているようだった。

そして、今度はしっかりランスを装備しているバルスから何かを投げられた。

投げられたのは応急措置用の薬箱、そしてその中には

「あ! 小太刀!」

アクアは小太刀と道具を受けとると二人に感謝を込めた礼をし、意識を朦朧とさせているハンマーを担いで塔の上へと登っていった。


ハンマーが握ったままだった石槌も、この時は不思議と重さを感じなかったという。

―頂上入り口―

「これでよし……と。ハンマーさん、ゆっくり休んでくださいね」

「………ごめん」

応急措置はしたものも、ハンマーの受けたダメージは深く、動けるだけの回復はしばらくは見込めなかった。

「すみません……私のせいで」

「気にしないで……。アクア、私はアクアの力を信じてる。一人で……やれる?」

「もちろんです! ぶっ倒してやりますよ!」


いつもでは考えられないほど弱々しく問いかけたハンマーは、それを聞くと安心したように意識を手放した。

階段を上がればクシャルダオラが待ち構えているだろう。
アクアはハンマーを隅に寝かせると彼女の顔をじっと見つめ、それから勢いよく階段を駆け上がった。



ある決意を固めて。

――頂上

古塔の頂上、そこにはこの騒動の原因が静かに佇んでいた。

その他には何も無い。

龍と人、双方だけが頂上に立っている。
静かな静寂だけが一人と一匹を包んでいた。

「…………………」

静かに狩人を見つめる白い鋼龍に向けてアクアは刀を構える。

「……容赦はしません。全力で倒します!」

アクアは太刀を引き抜き勢いよく足を踏み出すと、太刀を振りかぶって全力の一撃を叩き込んだ。

「はぁ!! ……っ!?」

瞬間、ガチン! という金属音と共に、ユクモノ太刀が大きく弾かれた。

「嘘……!?」



その隙を逃すこと無く、クシャルダオラの鞭のようにしなる尻尾がアクアの腹部に叩き込まれる。

「早っ――くぅっ!」

咄嗟に後ろに下がり衝撃を吸収したが、それでもかなりのダメージを受けた。

クシャルダオラは何故か追ってはこず、様子を窺うように初めの位置を動かない。

アクアは素早く回復薬を口に含むと、再度鋼龍へと突っ込んだ。

「やぁぁぁぁ!」

待ち構えるクシャルダオラが振りかぶった腕を掻い潜り、腕と腹を連続で切りかかる。
が、やはり金属音が響くだけで鋼のような甲殻には傷一つ付けることが出来ない。

「ぐ……!」

攻撃の手が緩んだ隙に頭突きを喰らってしまった。
しかし今度は予測できていた為にダメージは浅い。

(何て固さ……しかもこの強さ……このままじゃ勝てない!)

しかし、頭突きを喰らう瞬間アクアはあることに気が付いていた。


アクアは太刀を地面と平行に構える。
奴の首には一か所だけ甲殻が剥がれている部分があったのだ。

(あそこなら太刀が通るはず……! きっとお父さんが付けた傷だ!)

「はぁぁぁ!!」

気合いと共に重心を落として走り出す。
余裕を見せている今がチャンスなのだ。
アクアは渾身の突きをクシャルダオラに向けて繰り出した。

――が。


バキン、と一回り大きな金属音を響かせて、アクアの相棒は真っ二つに折れてしまったのだ。


「そんな……!? ――うぁっ!!?」


再び振われた重い前足がアクアを襲った。
大きく吹き飛ばされ、背中から勢いよく地面に落とされた。

「うぐ……あ……っ!」


防具を強化していなかったら今の一撃で意識を失っていたに違いない。
次、もう一撃でも受ければ確実に死んでしまう。



(やっぱり……もう『あれ』しかない!)


そうと決めたアクアの行動は早かった。


腰の小太刀を抜き、構えると息をゆっくりと吐き出して意識を集中させる。

(ハンマーさん……折角特訓してもらったのに、すみません)

アクアは体に眠っている力――コントロールで抑えていた『それ』を逆に全開したのだ。



「!? ……うぁぁ!!」

途端、意識が飛びそうになる。

すると、

『気合いだぁぁぁ!!!』

心の中で何故かあの教官の声が響いた。

「教官!?」

その熱い言葉を受けたアクアは暴れまわる力を120%まで引き出し、無理矢理に押さえ付け、そしてその全てを小太刀に込めた。


――この一撃で必ず勝負を付ける!


地面にヒビが入るほどの力でアクアは強く足を蹴り出した。
体中で風を切る。
クシャルダオラの素早い動きも今なら捉えられた。


「だぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ギャォォォオオ!!!!」






アクアとクシャルダオラのが体が、疾風の如く交錯した。








―数時間後―


「はぁ、はぁ……」

ハンマーは壁に手を付けながら、ふらつく体に鞭を打って頂上へと登っていた。

(大分意識を失ってたみたい……アクア……無事でいて!)

頂上に着くと、遠くでアクアが地面に倒れているのをすぐに発見した。

「アクア!!!」

アクアの元へと急ぐハンマーだったが、突然彼女の目に驚くべきものが映った。


「………………」


「!? クシャルダオラっ!!?」


鋼龍はその美しい甲殻に光を反射させ、こちらを睨む。

「………っ!」

武器を構えたハンマーだったか、クシャルダオラは一向に動こうとしない。

「……?」

「あ!」

よく見ると、喉元にアクアの小太刀が突き刺さっていたのだ。

「死んでる……のか」

その一撃で絶命したのだろう。
他には一切傷が見当たらず、まるで生きているかのように立ちながら、クシャルダオラは事切れていた。

「……そうだっ! アクア!」

ハンマーは倒れてるアクアを揺する。

「アクア! アクア! しっかり!」

「ん……は、ハンマーさん?」

アクアがゆっくりと目を醒ました。

「アクア! よかったぁ……」

それを見てハンマーはホッと胸を撫で下ろす。

「ハンマーさん……私やりましたよ……ね?」

えへへ、と憑き物が落ちたように笑うアクア。

「うん……本当にお疲れさん!」

「わっ!? ハンマーさん!?」

ハンマーは思わずギュッとアクアを抱き寄せた。


(それにしても……どうしてアクアは古龍化の影響が少なかったんだろう?)

明らかに他とは様子が違うのだ。何か理由があるはず……。

「……あ!」

「? どうしました? 何か付いてます?」

「アクア、そのピアスちょっと見せて?」

アクアの耳には綺麗な蒼色をしたピアスが付けられていた。

「これは小さい頃にお母さんがプレゼントしてくれた物なんです」

なるほど、と彼女は思った。

「いいピアスだね! 大事にしなよ?」

「もちろんです!」

アクアはニッコリと笑ってみせる。
アクアの着けていたピアスは「三眼のピアス」と呼ばれる貴重な装備品。弱めだが龍耐性を持つ特別な装備だった。

(母の力は偉大……か。ちょっと羨ましいかも)

二人は肩を支え合い、たわいもない話をしながら帰路につこうとした。


――その時である。


巨大な落雷音が二人の後ろ――丁度クシャルダオラのいた場所に響いたのだ。


「!?」


二人が振り返った時にはクシャルダオラの姿は跡形もなく無くなっていた。
一振りの小太刀だけを残して。

「一体……!?」

「さぁ……? でも、もう大丈夫ってことじゃないかな」







帰った後で、アクアは不思議な夢を見た。

それは白い巨大な龍がクシャルダオラを乗せて飛び去っていく……それはそんな光景だった。


        


     ◇


『――という訳で、私がクシャルダオラを倒した後、『古龍化』していたモンスターは元に戻り、凶暴性も失われていったみたいです。

ギルドの見解だと、モンスター達は古龍の血の力に耐えられず、それが理由で突然変異するに至ったらしいですが、なぜ古龍の血がモンスターに入り、また消えてしまったのかは分からずじまいで、クシャルダオラの目的は何だったのか、ギルドは同時に目撃された赤い衣の人物の正体と一緒に、今も調査が続いています。

あの後、私の古龍の力は無くなってしまったようで、力自体は弱くなってしまいましたが、ハンマーさんに鍛えられていたお陰でそれほど不便ではありません。

シャワちゃんもバルスさんも無事で頻繁に連絡をとっています。

ハンマーさんは………』

「アクア! ユクモには嵐を呼ぶ古龍の伝説があるんだってさ! 里帰りと温泉ついでに行ってみない?」

「ユクモに……そうですね。久々に帰るとしますか! 温泉も入りたいですし」

「じゃあ決まりだね! バルスとシャワにも声をかけよう!」


『いつも通り元気です。今の私なら、もう逃げ出すようなことはしません。帰るきっかけを作ってくれた素敵な相方も出来ましたしね。 では、近い内に謝りに帰ります。 ――親愛なるユクモの村長へ。 ――アクアより』


ふぅ、とアクアは羽ペンを置き、伸びをしてから元気一杯に立ち上がった。


「さぁ! 早速、支度を始めますか!」



――二人の物語はまだ始まったばかり。








『ユクモへ!!』




END?


                            【次章へ】
プロフィール

楽太郎

Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
楽しんで読んでもらえたら幸いですね
(・◇・@)

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