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「マリアンさん。今でも、ギルドからハンマーさん宛に沢山の手紙が届くんです。ある村から、街から、家族から……文字で手紙が真っ黒になるほどの内容で。マリアンさんが言った疑問を持ったこともありました。でも手紙を一つ一つ読んでみて『あぁ、もうこの人達は大丈夫だ』って思えたんです。ハンマーさんが関わった人たちは、悪人だろうが何だろうが全員が最後には笑っていました」

そして私も……、とその言葉は心の中で呟く。

「……何だか白けました。ルシャ、何時まで寝てるんですか? 帰りますよ」

「うぅ? ……あい」

ルシャはアマツマガツチの中からよじよじと這い出ると、空高く音爆弾を投げつけた。普通のものよりも若干低い音が山に木霊する。

「さて、ギルドの狗さん。正義の名をかざすなら、是非とも世界を救って貰いたいですねぇ」

「それを言うためにわざわざ呼んだって訳じゃねぇだろ……何が目的だ」

と、睨むフレアにマリアンは冷笑を向けて言う。

「別に理由を言おうが言うまいが、貴方達は備えるしかない……そうでしょう?」

「アンタねぇ! あんまギルド舐めてるとただじゃおかないよ!」

「寝たまま言われたんじゃ脅しになりませんよ」

「ぐっ……」

それを言われるとチョモも流石に押し黙ってしまう。毒を受けて10分は経つはずなのに、まだ体はピクリとも動かない。ブナハブラの麻痺とは比較にならない程強力で、部分調整の利く毒。医療を専攻しているチョモにはこれがどれだけ有り得ないものかを分かっていた。

「あ、お姉ちゃん達。その毒はもう少しで抜けるからご心配なく! ……あ、マリさん来たよ!」

バサリ、重たい音が山脈の奥から聞こえてきた。

「バルス! 後ろから何か来るわよ!」

「羽音……それも大きなものだね」

山々の間から、赤い点が近付いて来るのが分かった。

「リオレウス!? みんな気を付けて!」

「バルス……また刺々しいのが突っ込んで来たんだけど……」

「どうにもこうにも……」



「うわっ!」
「きゃ!」

赤い羽音の主はバルスとシャワの上すれすれを通過し、ルシャの前へと降り立った。

(良かったね……)
(良かったわ……)

「ありがとうねクク。もうひとっ飛びお願い!」

「コココココ」

そう声を漏らしてルシャに撫でられているのは、巨大なイャンクックであった。

「でか……」

「間違いなく金冠サイズだね……立派な個体だ」

マリアンは慣れた手つきでイャンクックの背に飛び乗ると、六人に向かってと不思議な言葉を口にした。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

数多の龍を駆遂せし時
伝説はよみがえらん
数多の肉を裂き 骨を砕き 血を啜った時
彼の者はあらわれん
土を焼く者
鉄【くろがね】を溶かす者
水を煮立たす者
風を起こす者
木を薙ぐ者
炎を生み出す者
その者の名は ミラボレアス
その者の名は 宿命の戦い
その者の名は 避けられぬ死
喉あらば叫べ
耳あらば聞け
心あらば祈れ
ミラボレアス
天と地とを覆い尽くす
彼の者の名を
天と地とを覆い尽くす
彼の者の名を
彼の者の名を

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


それは古い、古い伝承。

「マリディア、そしてアクアさん。世界を守りたいと言うなら抗いなさい。舞台が揃うのは二年後の今。その時、世界の何処かで破滅の産声が上がるでしょう」

マリアンはそれだけ言うとルシャに出発を促した。

「あい。じゃ、お姉ちゃん達! 騙して御免ねー」

ルシャはニッコリと笑うとククと呼んだイャンクックの背中を叩く。

「クエェー!」

バサリ、と巨大な羽音と風圧を巻き起こしながら大怪鳥は空へと舞い上がり始める。
その時、上から再び冷たい声が聞こえてきた。

「あと一つ、言い忘れたことがありました。バルス と言いましたね? 貴方の過去は『あること』の代償として失われています。それを無理に掘り返せば、出てくるのは契約の不履行……記憶の代償に得たものは泡となる。そのことを覚えておいてください」

「あることの……代償? それは一体………っ!」

しかしバルスの問いはイャンクックの風圧に掻き消され、気が付くと二人は飛び去った後であった。




沈黙。



アマツマガツチが討伐され、晴れ渡る空の下では麻痺が解けて動けるようになった六人が押し黙っていた。


突然知らされた、自分の謎。

破滅までのカウントダウン。

仲間の過去。


ルシャ、マリアンのこと。

それらが交差し、誰もが言葉を出せなかった。



「一つ……謝らなければいけないことがあるわ」

初めに口を開いたのはシャワだった。

「私、会った時からルシャに違和感を感じてたの。自尊に聞こえるかもしれないけど、私より年下のハンターの話なんてギルドで聞いたこと無かったの。いるとしたら不正規のハンター……でも確証が無くて……ごめんなさい」

「大丈夫だよシャワちゃん。結果的に怪我人は一人も出なかったんだ。それにあの状況じゃ私やフレアが絶対に飛び出したし、返り討ちにあったと思う。痺れてて良かったよ!」

落ち込んでいるシャワにアハハ! と笑いかける。

「チョモ……無理すんな。お前もあんまし余裕ねぇだろ」

「だって……」

チョモは傍らで座ったまま俯く友人を見る。

「皆、聞いてくれ。さっきの話のショックに狩猟の疲れもある。ひとまず村に帰ろう」

フレアの言葉に促され、皆が帰還の準備を始めた。

「………っ」

ハンマーもおもむろに立ち上がるが、足がふらつくのかバランスを崩してしまう。

「ハンマーさん! 大丈夫……ですか?」

心配そうな顔を浮かべるアクアにハンマーはニコリと微笑んで言った。

「さっきはありがとうね、アクア。ごめん……でも頭ん中ぐるぐるしちゃって。……先に帰っててくれないかな? ちょっとしたら村に戻るから、さ」

「ハンマーさ……」

「アクアちゃん。……今は一人にさせてやって」

「そう……ですね」

一人で歩いて行ってしまうハンマーの背中をアクアとチョモは不安気に見続けた。







後になって彼女達は後悔することになる。
この時、無理にでもハンマーを連れて帰るべきだったと。




――霊峰での一件から二日



「ハンマーさんはまだ見つかっていないんですかっ!?」

アクアはギルドに押し掛け、もう何度目になるか分からない問答を繰り返していた。

服は泥にまみれており、腕や足には擦り傷だらけで、ぶっきらぼうな友人に会った瞬間「一体何があったんだ!?」と目を見開かれるような有り様のアクア。

ハンマーを探すため、嵐の後で地盤の緩い山々を駆け巡り、村に帰っては情報収集、そしてまた村を出る……一晩経ってもハンマーが帰らないことに気付いてから、アクアはひたすらにそれを繰り返していた。

「霊峰から渓流エリアまで捜索をしていますが未だに……」

「あの人……あんな体で何処に………」

「アクア様……申し訳ありませんが、探索を始めて明日で三日。明日以内に見つけられなければ探索は規定により打ち切りとなります」

頭を下げたままそう言った受付嬢の言葉に、アクアは思わずカウンターに乗り出した。

「そんなっ!? あの人は必ず何処かにいるはずです! 私たちの助けを待ってるに違いありません!」

だが受付嬢は申し訳なさそうに、しかし頑なに首を振った。

「……いいです。私は探し続けますから!」

疲労なんて感じてる暇はない。アクアが再び渓流に赴こうとした時、よく通る声がギルドに響いた。

「見つけた! おい! ハンマーを見つけたぞ!!」

肩まで荒く伸ばされた、見慣れた赤髪が視線に飛び入む。
事情を聞いた瞬間、仕事を放り出して捜索を手伝ってくれた友人の一人。

「フレアさん!? 本当ですかっ!!?」

「あぁ、やっぱり霊峰だった。あいつ気付きにくい場所に倒れてやがって……ま、俺にかかれば楽勝よ」

ぶっきらぼうに言うフレアの姿はボロボロで。
傷だらけで。
泥だらけで。
彼がどれだけ必死で探し回っていたかを物語っていた。

「今ハンマーさんは……?」

「チョモが医療室で治療してる。安心しろ、特に外傷は無かったから秘薬の反動と心的ダメージが原因だろうとよ。……命に別状はねーよ」

「よかった……本当によかったで……す」

「おいっ! 大丈夫か?」

安心したからか、今までの疲労が一気に吹き出たのだろう。
糸が切れたようにペタリと座り込んだアクアは、そのまま眠り込んでしまった。

「ったく、こんなになるまで無茶しやがって……」

と、悪態をつきながら集会場の長椅子までアクアを運んで寝かした時、医療室の方から部下の一人が駆けつけてきた。

「フレア様! チョモ様がお呼びです。大至急、と」

「何だと!? 今行く!」

チョモが大至急などと言って呼び出すのは初めてのことだった。
嫌な予感で渦巻く心を押さえ込みながら、フレアは医療室へ足早に向かっていった。







「フレア……これ見て」


チョモはいつになく真剣な顔でフレアを招き入れた。

俯きがちなチョモの表情、そして『それ』をみた瞬間、予感は確信に変わった。

「おい……『これ』はもう治ったはずだろ!?」

フレアは驚愕を隠せなかった。
彼が見たのは診療台でうつ伏せに寝かされているハンマーの背中。
汗ばみ、顔色の悪い彼女の背中には白い包帯が、否、『白かった』包帯が巻かれていた。
アマツマガツチと戦った時には無傷だったはずの場所。それどころか、ここへ運び込む時すら無かった場所に―――赤い三本線が色濃く滲んでいた。

「原因は分からない。それでも……それでも五年前にハマちゃんを瀕死に追い込んだ『あの傷』が開き始めてるんだ」

「何で今更……秘薬飲んだってこうはならねぇだろ?」

「勿論……秘薬は酷使しない限り強い倦怠感ぐらいで済むよ」

「だったらなんで……変だろうが! 必ず原因があるはずだろ!」

その言葉にチョモはふと思い出したように顔を上げた。

「……思えばさ、あの時だって変だったんだよね。フレアが運んで来た時のハマちゃんの傷……今だから言えることだけど完全に致命傷だったんだよ。そのはずなのに……何で治癒しかけてた。てっきり私は誰かが古の秘薬級の薬を使ってくれたのかと思ってたけど……」

「……嘘だろ? あの時、周りには人間とティガの死体以外何も無かった。それにあの戦場にはそんな薬持ってる大層な身分の奴いねぇよ」

「んじゃ奇跡でも起きたって言うわけ?」

「そんなこと言って……いや待てよ……っ!」

フレアの頭の中で、バラバラだった記憶がパズルのように組み立てられていく。

そして最後の1ピース。
霊峰での一件、マリアンの言葉を組み込んだ時、フレアは戦慄した。

「マジかよ……でもそんなことある訳……っ! チョモ、ここは頼んだぞ!」

「えっ!? 何か分かったの?」

「あぁ! だから早く止めねぇと!」

「ちょっ! 止めるって何をさ!?」

(急がないと取り返しのつかないことになる……!)

走ったフレアがたどり着いたのは村の小さな広場。
その木陰で雑談をしていたのは黒金コンビ。

「ねぇ……やっぱり思い出すのはよしなさいって」

「いや、僕だってそんな危なっかしいことまだしたくないけどさ。あれからどうも頭が意識しちゃって……」


「その記憶飛びやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



思わず飛び蹴りをした。


ぶべらっ! と蛙が潰れた様な声を上げてバルスが池に水柱を立てる。

「ひゃ!? ば、バルス!? ちょっと何すんのよっ!」

「それはこっちの台詞だ! てめぇら、命懸けの雑談してたんだぞ!」

「は!? それってどういう………まさか記憶の話?」

勘のいいシャワは直ぐ様表情を引き締めた。

「あぁ、だからお前にだけは話しておく。これは俺の勝手な憶測だが、恐らくほとんど間違っちゃいないはずだ。バルスとあいつ……ハンマーの過去についてのな――」






フレアの話はシャワに衝撃を与えるには充分なものだった。





「バルスとハンマーさんが……同じ施設に、ね。確かに時期も全て一致するってわけね」

「あぁ。だからハンマーがティガに襲われたときも二人は一緒だったんじゃないかってな」

「それであの赤衣の話と繋がるって訳ね……。ま、あのバカのことだから……そんな状況なら確かに悪魔にでも魂を売るでしょうね」

少し目を伏せてため息混じりにシャワは呟いた。

「その悪魔ってのが何なのかはまだ分かんねえが、恐らくマリアンの計画はそれと関係してるんじゃないかと思う」

「……そっちは貴方達に任せることにするわ。ギルドナイトの情報網って凄いんでしょう?」

「まぁな。こんな話も本来なら機密にしなきゃならねぇんだが、場合が場合だからな。シャワ、だから悪いがこの話は……」

「誰にも口外するな……でしょ? 特にバルスでしょ? 分かってるわ」

「話が早くて助かる。バルスの記憶はハンマーの命と確実にリンクしている。あいつには悪いが、もし解決法が解るる前に……」

「それも言わなくていいわ。……いざとなれば殴ればいいのよ」

「……全く、俺の周りの女性陣は本当に心強いな。なら話はこれで終わりだ……俺はハンマーの様子を見に戻る。バルスのこと、すまんがよろしく頼む」

「分かったから早く行きなさいよ公務員」

「……辛辣な応援ありがとよ」





「…………!」

フレアが髪を掻きながらギルドへ戻っていくのを見届けてから、シャワはバルスの落ちた池を覗いた。

「…………本当、お人好しな男だわ」

そこにいたのは仰向けに浮かぶ髑髏男。
自ら頭を岩に打ち付けたのだろう、頭部は池に落ちたときよりも明らかに腫れ上がっていた。

「……やだ、私ったら……こんなにひねくれてたかしら」

ずるずるとバルスを引き上げ、三発のビンタを見舞う。

「おはようバルス。行水した感想はどう?」

「……取り敢えず、一発目で目覚めた僕に放った残りの二発について聞きたいんだけど……ていうか何で僕は池に?」

「……あんたが暑い暑い煩いから池に突っ込んであげたのよ。感謝なさい!」

「突っ込むなら方向を考えて欲しかったかな! 見て凄いタンコブ!」

「……あとで薬草塗ってあげるわよ」

「……あれ? 何かいつもより優しいね? どうかしたの?」

「文句あるなら火薬草でもいいのよ?」

「シャワはいつも優しいよね! 知ってた知ってた!」

「………」



―――ねぇバルス。あなたは冷たい池の中で何を聞いて、何を考えたの?


     





「チョモ! ハンマーの様態はどうだ!?」

一人医務室にいたチョモは待ってたとばかりに立ち上がった。

「それが聞いてよフレア! あの後ハマちゃんの傷がどんどん悪化していって……もうダメだって思った瞬間、すぅって煙みたいに傷が消えちゃったんだよ! アンタ一体何したのさ? ちゃんと説明……ってフレア聞いてる?」

早口で捲し立てるチョモだったが、フレアの表情は次第に険しく変わっていった。

「ちょっと待てよ……ってことはあの馬鹿野郎……悪い、もう一回行ってくる!」

「ちょっと! もう! 待ってってばぁ!」

フレアは走った。

あいつは間違いなく。
正しいことをしたのだろう。
本来ならよくやったと言わなければならないのだろう。
だがそれでも、それでもフレアは戦友を一発殴らずにはいられなかった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




――まずいなぁ、と思うんです。

第一話から主人公としてやってきたはずの。
みんなの先頭にいなければならないはずの。
そんな私の最近の脇役感に……。

だからこそ、こうやってしゃしゃり出て来たのです。(もうこれが主人公の表現ではないですけど)

今この物語は私だけの目線。
――私の中心の、世界。


……うーん、何かとっても自己中心な発言に聞こえちゃいますね。

ともかく。

「うーん………」

そんな主人公の私は今、全身泥だらけでギルドの床に転がされています。

いえ、フレアさんが悪いんじゃないんです。
私はちゃんと長椅子に寝かされていました。

けれど。
私、実は寝相が少々悪いんですよね。

フレアさんが駆け足で集会浴場を出た五秒後には見事に転げ落ちていました。

仰向けに寝かされてましたから、半回転寝返りをうって落下。
鼻を強打したわけです。

「いったぁ………」

疲れよりも痛みが勝ったようで、私は涙目になって鼻を押さえる――それで痛みが引くわけではないですが、何となく楽になりますよね?

「うわ……改めて見ると酷い格好。ハンマーさんのお見舞いの前に一回洗って着替えないとなぁ」

服には乾燥した泥がこれでもかと付着していて、動かす度にポロポロと土が落ちる。
成る程……さっきから受付嬢さん達の視線が痛いのはこのせいか。

立ち上がった私の足元には、軽く砂遊びが出来るんじゃないかという量の土が広がっていた。

「か、顔もかさついてるし……サッと温泉に入ろうかなぁ~」

はい。逃げました私。
明日からも毎日顔を合わせるのにどうしよう。

ひとまず。

心が汚くなってしまったのは体が汚れているからだと言い聞かせて。

「ふぅ~……疲れが取れる」

流石、我が地元の名物温泉。(ここから逃げ出してたことは今は忘れます)

「さてと、早く上がってあの土を片付けないと……」

温泉で心も体も綺麗になった私は替えの服(またいつものユクモ服ですが)に着替え、清々しい顔で外へ繋がる暖簾(のれん)をくぐりました。



……うわぁ。

うわぁうわぁ。

そこにあったのは。
いえ、そこに無かったのはさっきまであったはずの土。

ど、どどどどうしよう!
私が少しの間……少しの間温泉に浸かってる間に片付けられちゃった!?

二人いた受付嬢の一人がいなくなってる(残りの上位担当の方――ササユさんはにっこりと私に笑いかけてます。とても怖い)ということは……。

「………温泉ではくつろげましたか?」

「……あ……は、はい」

箒と塵取りを持ち、直前まで土を外に捨てに行っていただろう下位担当――コノハさ――コノハ様。
にっこりと冷たい笑いを私なんかに振り撒いて下さいます。
さっきまで私の文句を黙って聞いていてくれていたのに……。

あぁ、ここでも年功序列が……ってそんなことより、また村から逃げ出したい……。



――そんなことを考えていた時。







フレアさんが血相を変えて集会浴場の外へと走っていったのです。


フレアさんは私に気付く余裕も無かったようだ。

「………」

その様子に急な不安に襲われて、私は反射的に彼を追いかけていた。


「はぁ……はぁ……足はや……」

ダッシュするフレアを猛ダッシュで追いかけ、辿り着いたのは村の広場。
広場には何かを話すフレアさんとシャワちゃんの姿があった。

(いつもならこんなことしないんだけど……)

私は二人の死角になるようにして近くまで移動し、聞き耳を立てた。
何故か聞かなきゃいけない気がしたのだ。

「――これは俺の勝手な憶測だが、恐らく間違っちゃいないはずだ。バルスと……ハンマーの過去についてのな」

バルスさんとハンマーさんの過去……?
バルスさんとはつい最近出会ったばかりのはずじゃ……?

そんな疑問が後を立たなかったが、私は気持ちを落ち着かせて続きに耳を傾けた。














聞かなければ良かったのかもしれない。
……最近後悔ばかりだ。



フレアさんの仮説が正しければ。
本当に正しいのなら。
ハンマーさんの命はとても細い糸で繋がれているようなものだ。

人の記憶なんて、何時ふと思い出されるか分からない、とても不安定なものだ。怪我とは違って、するのは一瞬、治りは遅い。
なんてことは限らない。

「そんな……」

口を手で押さえ、大きく目を見開く。

私は目眩にも似た気持ち悪さを感じ、その場にへたり込んだ。

だってあの人の笑顔が失われるなんてこと、今まで考えもしなかったのだ。

どこまでも元気で。
明るくて。
活発で。
そんな彼女の存在がそんなに儚いものだったなんて。

「人」の「夢」と書いて、『儚い』。

昔誰かから聞いた言葉だったが、今ようやくその意味が分かった気がした。


――チャプリ。

「っ!」

近くで水の音が聞こえた。気の動転していた私はビクリとその方向へと顔を向ける。


慌てていて気付かなかったけど、私の側には池があった。
岩で囲まれた、風流のある小さめの池。

「あ……」

そこに水滴を溢しながら男が、黒い男が――バルスが立ち尽くしていたのだ。

「………」

バルスは池に写った自分の姿を黙って眺めた後、――恐らくだが私に向けて――こう言ったのだ。

「彼女をよろしく頼むよ?」

「バルスさんっ!?」

彼が盛大に頭を岩に打ち付けたのは、その後すぐのことだった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






その後のことはよく覚えていません。

シャワちゃんはバルスさんをどうしたのか。
フレアさんもチョモさんもいつも通りで。
ハンマーさんも元気になった今、大事なことはみんな上手く胸の奥に仕舞い込めたみたいです。
上手く、深く。


「アクアどうしたの? 元気ないぞー? あ、私がいなくて寂しかったんでしょー!」

「ちっ、違いますよ! 私ずっと温泉でぬくんでましたからね!」

「聞いたよー? 必死で探してくれたんでしょ? ありがとね。そしてごめん……もうあんなことしないから」

「……本当にですか?」

「うん。本当」

「……なら許しましょう」

「許して貰えたー! ありがとアクア!」

「わっ!? ちょっと抱き付かないでくださいよ!?」

「おーおー仲睦まじいことで」

「お前ら、式には呼べよ?」

「フレアさん! チョモさん! 見てないでこれ剥がしてくださいよ!」

「ふむ………」

「何? 羨ましいのバルス? だったら丁度良いクエストがあるわよ。ハチミツ塗ってアオアシラに行ってきなさいな」

「そんなハードなのは求めてないよ!?」


――そんな訳で、短い間でしたが私の語りはこれで終わりです。



願うならこの後は、大変な出来事が続いてしまったので少し休みが欲しいなぁ……。

「ハンターさん達! 大変だ!」

運命の女神様がいるなら、随分とひねくれているに違いないです。

アマツマガツチの時とはまた違った顔で村人――説明し忘れてましたが同一人物です。更にいうなら村の『自称』鬼門番さんです――はこう続けたのだ。

「今、村に『イーゼンブルグ家』の当主、ダイガス=イーゼンブルグ様が来てるんだ! 何でも娘を連れに来たとかで、それを探して欲しいんだと……でもこの村にそんなお嬢様がいるってのかよ?」

イーゼンブルグ家といえばドンドルマでも有数の上流貴族の家柄だ。
どれだけ凄いかというと……私でも知ってる位と言えば伝わるでしょうか?

「娘さんの名前は? それ位分かんなきゃ探しようがないよ」

鬼門番はよほど慌てていたのだろう、言われてからハッとした表情になった。

「あぁ、確かにハンマーさんの言う通りだ。御令嬢の名前はシャルワナ。シャルワナ=イーゼンブルグだ」

「んー聞かない名前だね」

しかし。
私にはその名前が出た瞬間彼女が、シャワちゃんがピクリと体を震わせたように見えたのだ。







ともかく、私のお話は本当にこれでお終い。
次はきっと、もっとふさわしい人が話してくれると思うから。

 
                          【次章へ】
プロフィール

楽太郎

Author:楽太郎
モンハン好きの誰しもが自分の『世界』を持っているはず。この話はそんな世界の一部分です。
楽しんで読んでもらえたら幸いですね
(・◇・@)

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